四葉の龍騎士   作:ヌルゲーマー

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第03話

「さてと、あなたはどうしたいのかしら?ザン」

 

妖艶な笑みを浮かべる真夜に対して、ザンは頭を下げた。

 

「俺は、この世界を知りたい。何があるのかを。何ができるのかを。そのために力を貸してほしい」

 

「ずいぶんとざっくりとした願いね。仮にもあなたは異世界から来たのでしょう。言葉は通じるようだけど、文字は読めるのかしら?」

 

「俺は世界を2回移動しているが、最初の世界とこの世界は似ているようだ。言葉も文字も変わらないと思う。ただ、魔法は前の世界と違うようだ」

 

「へぇ。魔法の違いって、どんな感じなのかしら」

 

「前の世界では、俺は戦士だったから魔法は使えなかったんだ。ただ魔導士は『力ある言葉』を基に魔力を集め魔法を放っていた。昨日見る限りでは魔法師は何かの機械を媒体として魔法を使っていたように思う。あと、こっちの魔法は威力が段違いに弱いね」

 

「まったく、どんな世界にいたんだか」

 

真夜は嘆息しながら携帯端末型のCADをテーブルに置いた。

 

「あなたが見たのは、こういったものでしょう?これは『Casting Assistant Device』、CAD(シー・エー・ディー)と言って、簡単に言うと魔法の補助をする機械なの。あなたの世界は、話を聞いているとファンタジーなんだけど、その魔導士というのは魔法を使うときに何かものは持っていなかった?」

 

「ああ、使っていたね。杖やら指輪やらいろいろあった。魔力の増幅や属性強化などに使っていたようだけど」

 

「魔法を使ってはみたくはない?」

 

その問いにザンは首を振った。

 

「俺は戦士だ。魔法は使えない」

 

「それは前の世界の話でしょう。こちらには、その『魔力』と言うものは無いけれど、『想子(サイオン)』がある。まぁ、あなたのサイオン量がたいしたことが無ければ結局同じことだけれども。試す価値はあるんじゃないかしら?」

 

しばらく考え込んでいたザンだったが、うなずいた。

 

「わかった。で、そのサイオンっていうのは、どうやって調べるんだ?」

 

それに答えたのは、真夜の傍らにいた葉山だった。

 

「それは機械を使用して測定します。こちらにお越しください」

 

そう言って葉山はザンを連れて別室に向かった。

 

 

-○●○-

 

 

「この機械に手を添えてください」

 

「こうですか」

 

機械のところに行き、ザンは両手を置いた。

 

「はい。それでは、これからサイオンをザン殿に放射します。感じられたら教えてください」

 

「あのー、ひょっとして感じられなかったら、才能無し?」

 

「そうなりますね。では始めますよ」

 

機械が動き出すと両手が淡く光りだす。目を閉じ意識を集中していると、ザンは身体に流れる波長を感じていた。

 

―これって、まさか―

 

「はい、感じました。おそらくこれです。ピリピリしたものが身体に流れ込んできました」

 

「なるほど、あなたはそう感じるのですね」

 

「どういうことですか?他の人は違うんですか?」

 

ボタンを操作しながら、葉山は微笑を崩さずザンに答える。

 

「サイオン自身のイメージは人それぞれですよ。電流が流れたと言う人もいました。では、今度はサイオンを機械に流してください。体の中から手を通して流し込むイメージです」

 

「分かりました」

 

―先ほどのサイオンは『龍の気』に近いものがあった。それなら、逆もできるはず―

 

ザンは体全体を淡く光らせると、一気に流し込む。計器を見ていた葉山は慌てて停止を促した。

 

「ザン殿、やめてください!もう結構です」

 

何をあせっているのか分からないザンだったが、サイオンに関しては手ごたえを感じていた。

 

「どうですか、葉山さん。見込みなしってことは無かったんでしょう?」

 

「そうですね。結果は夕方にもでますから、まずは昼食でもいかがですか」

 

時計を見ると13時を回っていた。腹も空腹を訴えている。結構な時間がたっていたようだ。

 

 

-○●○-

 

 

「どうでした、葉山さん。彼は魔法を使えそう?」

 

ザンを食堂に案内した後に報告しに来た葉山に、真夜はワクワクしながら聞いてきた。

 

「はい。微細なサイオンを感じることもできましたし、何より彼自身の保有するサイオン量がすさまじい。計器が振り切れていましたので正確な量は不明ですが、まず問題ないと思われます」

 

「そう、ありがとう」

 

新しいおもちゃを手に入れたような、満面の笑みを浮かべる真夜を見て、心の中で祈る葉山だった。

 

 

-○●○-

 

 

「ザン、あなたには学校に通ってもらうわ」

 

「はぁ?」

 

ザンが疑問に思うのは尤もだ。突然決定事項として真夜が伝えたものは、今までの流れから離れている。

 

「測定結果から、あなたは魔法を使えるわ。ただ、あなたはこの世界の世界の常識を理解していない。世界の情勢、魔法、CAD、例を挙げればきりが無いほどに。あなたにとってこの世界とは何かを学んできなさい。大体あなた今10歳前後ぐらいなんだから、学校に行っていないとおかしいでしょう?」

 

「そんなことをしなくても、文献とか見せてくれればそれで事が足りるよ」

 

「百聞は一見にしかず、よ。知識だけの頭でっかちでは柔軟な思考の妨げになることもあるわ。大丈夫、中学に上がるころには専用のCADも用意してあげるし、ウチの仕事も手伝ってもらうわ」

 

額に手をあてながら、ザンは真夜に反論する。

 

「何が大丈夫なんだよ!俺は仕事を手伝うなんて一言も言っていないし、それ絶対『裏』の仕事だろ?」

 

笑みを絶やさない真夜は、一枚の紙を取り出すとひらひらと揺らす。

 

「…なんだよ、それ?」

 

「これはあなたの戸籍よ。今のところ、あなたは国籍不明の密入国者。これが無いとどこにもいけないわよ」

 

「てめぇ…!」

 

ザンの身体が湯気のようなものに覆われる。しかし真夜は気にせず笑みを浮かべたままだ。

 

「そんなに怒らなくてもいいじゃない。別に取って食おうというわけじゃないんだから。ギブアンドテイクでいきましょう。私達はあなたに衣食住と、あとあなたの望むものを用意するわ。代わりにあなたは私達にあなたの力を貸してほしいの」

 

「『悪』はやらんぞ」

 

「それは契約成立ってことで良いかしら?仕事内容は事前に伝えるし、仕事を請けるかはあなたの判断を尊重するわ。これは私の名にかけて」

 

力を抜いたザンは、降参の意思を示す両手を挙げた。

 

「わかった、それで行こう。御当主自らの宣言だ。それにしても『四葉』の名って、そんなに重いのか?」

 

一瞬呆気に取られる真夜だったが、腹を抱えて笑った。ひとしきり笑い終えると、ザンに向かって改めて笑みを浮かべた。

 

「そうね、まずはそこから始めましょう。『四葉』とは、『十師族』とは、ね」

 




サイオンなどは独自解釈です。違っていたらごめんなさい。
次はもう少し話が進むかな(希望)。

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