四葉の龍騎士   作:ヌルゲーマー

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第07話

ホテルの達也の部屋に幹比古は呼ばれていた。レオやエリカ、美月までいる。達也とザンの説明を聞き、幹比古はオロオロしていた。

 

「ちょっとミキ、少しは落ち着いたら?」

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

ふぅと一息つくと、ベッドに幹比古は座り込んだ。

 

「でもよ、幹比古は急に聞いた話だから、準備できていねーんじゃねえか?」

 

「そうだね。CADはおろか着るものも無いよ」

 

レオが心配し幹比古の準備不足を指摘すると、幹比古も頷いた。

 

「心配するな、俺も準備はできていない。ザンもクラウド・ボール用にしか用意していないしな、同じようなものだ」

 

「…全然駄目じゃねぇか」

 

フォローしているつもりなのかもしれないが、達也の言葉は説得力に欠けていた。

 

「いや、必要な機材は市原先輩と中条先輩が揃えてくれている。その間に作戦の打ち合わせをしておこう。ただ、残念ながら練習する時間が無い。大雑把な作戦を組んで出たとこ勝負なんて、俺としても不本意だよ」

 

「悪知恵が達也くんの持ち味だもんねぇ」

 

うんうん頷くエリカ。美月もフォローをしなければとオロオロしている。

 

「悪知恵だろうが何だろうが、今の達也はチームを率いる軍師様だ。勝率を上げるのに手段を選んでいられるか」

 

「ザン、フォローしているつもりかもしれんが、どう受け取っても俺が手段を選ばない人間にしか聞こえんぞ」

 

「あれ?違ったっけ?」

 

これ以上は話が進まないと踏んだ達也は、ザンの指摘をあえて受け入れた。

 

「…さてフォーメーションだがザンが守備(ディフェンス)で俺が攻撃(オフェンス)、幹比古には遊撃を頼みたい」

 

「あいよ」

 

「遊撃?」

 

「遊撃は攻撃と守備の両方を支援する役目だ。この前の雷撃魔法、あの種類の魔法は他にも持っているのだろう?」

 

幹比古は、もちろん遠距離攻撃魔法を持っている。しかし、術式に無駄があり自分が魔法をうまく使えていない事を、以前達也に指摘されていた。達也はその無駄をそぎ落とし、より少ない演算量で同じ効果が得られるように組みなおすと言うのだ。知覚外の奇襲であれば、古式魔法の隠密性が勝る。その奇襲性能の高さを買っていると幹比古に達也は説明していた。

 

「わかった。よろしく頼むよ、達也」

 

「ザンは、問題無いか?」

 

「ああ、コレを使うんだろう?」

 

ザンは以前試していたCADを取り出す。

 

「ああ。魔法で刃が浮いているから、それで攻撃してもルール上は問題ない。それに、硬化魔法でモノリスを固定してしまうのもアリだ」

 

「…それは立派な悪知恵じゃねえのか?」

 

「レオはエリカと同じことを言うんだな」

 

その言葉に、レオとエリカがほぼ同時に噛み付いた。

 

「ちょっと、よしてくれよ!」

 

「どういう意味よ、それ!」

 

にらみ合うレオとエリカを無視して、ザンは思った事を言った。

 

「その方法なら、俺じゃなくてレオが適任じゃないか?今から十文字会頭に言ってこようか?」

 

「やめてくれ!」

 

レオの綺麗な土下座に、流石に引くザンだった。せっかく押し付ける絶好の機会であったのだが、それは相手のほうが熟知していたようだ。

 

「わかったよ。…それにしてもコレを使っていると、盾は使えないぜ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、あの魔法は特別製でな。アレを使っているときは、他の魔法は一切使えない」

 

エリカの疑問にザンがさらっと重大情報を吐露する。

 

「そんなこと言っちゃっていいの?」

 

「別に?魔法だけが全てでは無いからな。工夫すれば良いんだよ」

 

「作戦だが…」

 

「達也、すまないが一戦目だけ、俺に攻撃をやらせてくれ」

 

達也の言葉を遮り、ザンが言い出したのは、先ほど決めた役割を代えることだった。

 

「…どういうことだ?」

 

「市外ステージ以外なら、俺にやらせて欲しいんだよ。絶対三高の一条と吉祥寺が見てくるはずだから、一戦目だけでも『俺が攻撃もする』と思い込ませたいのさ。あと、プレッシャーを全校に与えておきたい」

 

「十分、ザンくんも悪知恵の素質ありそうね」

 

「さっきも言ったろう?工夫ってヤツさ」

 

「分かった、良いだろう。それ以外だが…」

 

それから作戦についてお互いが意見を出し合い、気が付くと二十二時三十分を回っていた。時計を見たエリカですら慌てていた。

 

「うわ、こんな時間!皆のCADを調整していたら、明日の朝になっちゃうよ!」

 

「大丈夫だ。幹比古、ザン。CADの調整をするぞ。一人一時間でバッチリ仕上げてやる」

 

ザンのは比較的早く終わり、幹比古のCADに着手する。起動式の無駄を削除し効率化する、本格的な書き換え。これは最早修正やアレンジの段階ではなく、魔法そのものの改良の域に達していた。モノリス・コード用のヘルメットなどを持ってきていたあずさはあ、その作業工程を見て一つの疑問がわいていた。

 

-○●○-

 

 

九校戦八日目。新人戦モノリス・コード。勝利条件は、相手全員を戦闘続行不能にするか、相手のモノリスを割り、隠された五百十二文字のコードを打ち込む事である。モノリスを割るには、専用の無系統魔法を『鍵』として撃つ事。鍵の有効射程距離は十メートル。モノリスの魔法での接着は禁止されている。

一高対八高。会場はざわついていた。一高の出場が特例で認められており、また選手にはエンジニアと登録外選手までいる。さらには本戦もクラウド・ボールの優勝者まで含まれているときた。また、そのクラウド・ボールの選手だった者は、剣の形をしたCADを装備している。直接攻撃は禁止されているはずなのに、なぜ剣なのか。皆疑問が尽きなかった。会場には、一条と吉祥寺もいた。

 

「彼が出てきたね」

 

「天才エンジニア、司波達也。まさか選手として出てくるとはね。二丁拳銃にブレス型CAD、三つのCADか。その狙いを見せてもらおうか」

 

「…桐生については、コメントはないのかい?将輝」

 

「言うまでも無い。戦える事は願ってもないことなんだ。出会ったら叩き潰すだけだ」

 

好戦的な笑みを浮かべる将輝を見て、吉祥寺は肩をすくめ首を横に振った。

 

フィールド上では、いつも通り幹比古がオロオロしていた。

 

「なんか目立っている気がするんだけど…」

 

「フィールドに立つ選手なんだ。当たり前さ」

 

達也はすまし顔で言ってのけた。幹比古はそこまで肝が据わっておらず会場を見渡していた。その時、一際手を振り応援をしている人影を見つけた。

 

「あれは、確か明智さんだったかな」

 

「ああ、そうだな。そういえば、ザンは明智と仲が良いみたいだな」

 

「ん?仲が良いってほどじゃないと思うけど?

 

話が振られると思っていなかったザンは上の空だった。

 

「この間深雪や雫、ほのかの好成績を祝ったときに、お前が呼んだんじゃないか」

 

「そうなのかい、ザン?」

 

「だってよ、達也がその場に俺も出ろって言うんだぜ。絶対、あの三人は『達也』に祝って欲しかったと思うんだよ。それに、エイミィは色々と応援してくれたみたいだからさ、少しでもお返しが出来たらって思って、無理にお願いしたんだ。そんなことより、幹比古はどうなんだよ」

 

幹比古はまさか話が自分に来るとは思っていなかった。

 

「いや、僕にはまだそういう人は…」

 

「え~、そうか~?美月との仲は満更じゃないんだろう?」

 

口を手で押さえてニヤニヤ笑うザンだったが、話は急に終わりを迎えた。

 

『新人戦、モノリス・コード。第一高校対第八高校、開始します』

 

「ザンもいつまでも馬鹿な事を言っていないで、行って来い。お前の言うとおり、この一戦だけはお前が攻撃なんだからな」

 

「おう!」

 

 

-○●○-

 

 

一高本部テント内。三巨頭がモノリス・コードの試合が映っている画面を注視していた。

 

「八高相手に、森林ステージか」

 

「不利よね…。八高は野外実習に最も力を入れている学校。森林は彼らのホームグラウンドよ」

 

全治一週間の怪我をしている摩利が何故かテントにおり、真由美も諦めたのかとがめたりしない。十文字に至っては我関せず、だ。

 

「ああ、だがあの桐生が動いている」

 

双方のモノリスの距離は八百メートル。山道であることから、相手のモノリスまでは十分はかかると考えられた。八高のモノリス守備選手もそう考えていたのだろう。だが、例外は常に存在する。攻撃二人が走っていってすぐの頃、守備選手が左より音がすることに気が付いた瞬間、その身体は吹き飛ばされていた。

 

「ぐあっ」

 

ほぼ同時に三体の地面激突音がする。

 

『試合終了。勝者、第一高校』

 

一瞬の静寂の後、大声援が送られていた。

 

「…今の、何?」

 

真由美は自分が見た光景が信じられなかった。ザンが驚くべき速度で相手モノリス付近まで一直線に走り、CADを振りかぶったと思ったら、八高三選手が全員吹き飛ばされていた。吹き飛ばしたCADは、あの刃が浮く『小通連』だ。摩利は自信無さげに声を絞り出す。

 

「…恐らく、超高速の三連撃だ。私の目では追いきれる速度ではなかった。ちょうど八高選手それぞれとザンくんとの距離が同じとなった時に、三連撃を繰り出したんだ」

 

「あそこまで到着するのが異様に短いし、剣速は速すぎるし、なんと言えば良いのか分からないわ」

 

「何、桐生の身体能力が高い事は分かっていた事だろう。確かにあの速度は想定外ではあるがな」

 

十文字は当然と言った風だが、真由美は十文字の顔を流れる一筋の汗を見逃さなかった。

 

「ザンくんが『他高校にプレッシャー与えてきます』って言ってた意味、やっと分かったわ。これでは、対戦相手はザンくんを無視する事は出来なくなってしまう。戦術も狭まってくるわね」

 

真由美の言うとおり、対戦する者たちは戦慄していた。

 

「今の試合どう思う、将輝」

 

「あの男は、神足の魔法を使いこなすのか?」

 

「将輝も見ていただろう?見る限り魔法は使っていない」

 

「…正面から戦っては話にならないな。アイツをいかに止めるか、それとも仕事をさせないかだな」

 

「それ以外の、あの司波の力も見れなかったし、まだ分からない事が多すぎるね」

 

「他の試合の映像は取っておいてもらうしかないな」

 

ザンの戦い方と他のメンバーの力量が見えない苛立ちから、一条たちは早足で会場を去っていった。

一方応援席では、一高応援団が盛り上がっていた。

 

「勝った勝った」

 

「すごいすごい、完勝ですよ」

 

「えげつなかったわね、ザンくん」

 

「すごいことですよ。あの八高が森林ステージで手も足も出ないなんて」

 

「流石、ザンさん!」

 

思い思いの言葉を重ねる応援団たち。深雪も勝利を喜んでいたが、エイミィが喜んでいる様を見て、複雑な表情をしていた。

 

「深雪さん、どうしたんですか?」

 

「何でも無いのよ、美月」

 

深雪は画面に映るザンの顔を見て、ため息をついていた。

 

 

-○●○-

 

 

「やはりというべきかしら。こと戦闘に関して、右に出る者はいないわね」

 

VIP席では真夜一人で観戦していた。何かとうるさい九島がいないため、のびのび観戦できる。

 

「それにしても、モノリス・コードに出るのだったら、言ってくれれば良いのに。達也さんも出るのだったら、姉さんに連絡したほうが良かったかしら」

 

深夜といっていい時間になってしまったため、ザンは真夜に報告していなかった。その後、深夜の怒りを買ってしまうのだが。事実一戦目終了後にザンが深夜に連絡したところ、電話越しに凄い剣幕であったため思わず切ってしまった。

 

 

-○●○-

 

 

一高本部テント内では、やっぱり幹比古がオロオロしていた。いや、今回はウロウロしていたというべきだった。

 

「…幹比古、少しは落ち着いたらどうだい?」

 

「ザンはよく平気だね。…その、…普段接点の無い人たちばかりでさ」

 

深雪は達也の肩を揉みながら、幹比古の発言を面白がっていた。

 

「吉田君は意外と人見知りなんですね」

 

「幹比古のほうが普通なんだよ。少年はシャイなんだよ、深雪」

 

「まぁ!お兄様ったら。シャイなお兄様なんて、深雪は見せていただいたことはありませんよ?」

 

兄妹と思えない会話が恥ずかしいのか、幹比古は顔を赤くして背けていた。ザンはいつもの事かと耳をほじっている。

 

「そういえばシャイな姿というと、ザンさんのそういった姿も見た事はありませんね」

 

小指の指先をふっと吹いたときにザンは声をかけられた。

 

「シャイボーイは、そういったところも見せないんだよ。俺のシャイさはマスタークラスだからな」

 

「なんのことだか」

 

「入るわよ」

 

達也たちが入り口を振り返ると、真由美とあずさが入ってきた。達也と深雪の姿を確認した真由美たちは、なんともいえない表情をしていた。真由美は一旦わざとらしく咳をすると口を開いた。

 

「…ん!次の試合のステージがきまったの。…昨日あんな事故があったばかりなんだけど…。市街地ステージよ」

 

「大丈夫ですよ。何かあっても、今度は俺が守るから」

 

ザンの言葉に、真由美は思わず笑みがこぼれた。

 

 

-○●○-

 

 

新人戦モノリス・コード、市街地ステージ。一高対二高は、攻撃の達也が相手ビルに侵入するところから始まった。達也に貼り付けた精霊を喚起魔法で活性化させる。そこで幹比古が使うのは精霊魔法『視覚同調』。精霊を通じてリアルタイムに視覚情報を取得するものだ。達也たちは精霊にモノリスを発見させ攻略させる作戦だ。

ザンは一人モノリスに背を預けながら、さながら瞑想しているようだ。そう、腰に差している小通連すら抜かずに。二高の二人が迫ってきても気にも留めない。ザンを移動魔法で吹き飛ばそうと試みるが、何も発生しなかった。

 

「!?」

 

「ん?無理無理。お前たちの魔法では、俺は抜けないよ」

 

足元には小盾があった。二人は同時にドライアイスの弾丸をザン目掛け発射するが、小盾がそれらを防ぐ。モノリスに直接魔法を打ち込む事も試みるが、当然の様にまた小盾がその魔法すら防いでしまった。

 

「…無限の小盾」

 

「『鉄壁桐生』か…」

 

「え?何その呼び名。どこかの上級大将みたいなの、止めてくれよ。もともと、俺には別の呼び名もあるんだし」

 

そのような事は当然二高の選手が知っているわけは無い。二高選手が魔法を駆使し突破を試みたが全て跳ね返される。足止めをされている間に、あっさり試合は終了した。

 

『試合終了。勝者、第一高校』

 

達也がモノリスを開き、幹比古が精霊を通じモノリスを見てコードを打ち込んだのだ。幹比古の行動を把握しきれていない時点で、二高に勝ち目は無かった。

 


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