日中は学校、夜は魔法や裏の世界について学ぶというザンの生活が始まった。
学校に行っては常識が無く、社会科系統は致命的だった。だが、それも初めの頃だけで、ぐんぐん吸収していった。
第三次世界大戦、大漢崩壊、大越紛争などや魔法、サイオン、
学校の成績もマシになってきた、そんなある日のこと。
「
人を散々妄想癖とか言っていた人物が厨二かよ、と突っ込まんばかりのザンに対し、笑みを絶やさない真夜だった。
「そうよ。『大漢崩壊』は私達『四葉』を怒らせたから起きたことなの。あれは当時12歳だった私は、台湾で行われた少年少女魔法師交流会に出席していたわ。その会場でテロが発生して、私は何者かに誘拐されたのよ。私はその日中に救い出されたのだけれども、『四葉』は誇りが汚されたとして報復することを決めた。そして私の誘拐に関わった人物、施設を調べ上げて組織的な殺人および破壊活動を半年にわたって行ったのよ。これによって、大漢の閣僚や官僚および魔法師、研究者などおよそ4000人を殺害し、中華大陸における現代魔法の研究成果を全て破壊し尽したわ。参加した『四葉』の人間達は怪我をすることはあっても、死者は出さなかった。それからよ、『四葉』が『
「はぁ~。結局、一国相手に一家でそこまでできるものなのか。それも死者も出さないって、どれだけだよ」
「父は私の誘拐について激怒していたし、それに皆が感化されたとはいえ、『彼』がいなくては無理だったでしょうね」
「彼?」
目をキラキラとさせ、真夜は続けた。
「そう!誘拐された私を乗せた車を剣の一振りで切り裂いて私を助けてくれた、まるで白馬の王子様!」
なーにが白馬の王子様だ、とザンが突っ込む前に、真夜はまくしたてる。
「その後の報復戦にも前線に立ち、多くの魔法師達を打ち滅ぼしていったと聞いているわ。ああ、今はどこにいらっしゃるのかしら、ケルン・ジークフリード様!」
「ブフーーッ!!」
長くなりそうだなーと考え、紅茶を飲んで気を紛らわそうとしていたのが仇となった。ザンは盛大に噴出してしまった。
「ゲホッ、ゲホッ…。あっ…」
そおっと前を見ると、紅茶まみれの真夜の姿があった。長い黒髪からは、ピチョン、ピチョンと雫が垂れる。その背には『ゴゴゴゴゴ…』という文字が見えんばかり。小刻みに震えているのは、けっして寒いわけでは無いだろう。
「えーっと、真夜様?」
「正座…」
「あの、決してわざとというわけでは…」
「正座!」
「はいっ!」
そのまま真夜は着替えに行ってしまった。ザンは土下座の体制で一時間待つことになる。
-○●○-
「あなたねぇ、人の話を真面目に聞くつもりはあるの?」
シャワーを浴びてきたのだろう。ほんのり赤くなった顔をしている真夜は、ジト目でザンをねめつける。
「途中から脱線していたように感じたのですが…」
「うん?」
「何でもありません!」
壮絶な笑みを浮かべる真夜に、逆らえるザンではなかった。笑みは浮かべていたが、目は笑っていない。
「まったくもう。何に驚いていたのよ。まぁ、大体分かるけど」
頬をポリポリ掻きながら、ザンは遠慮がちに聞いた。
「その、ケルン・ジークフリードって人は、青い髪をしていて長身、目も髪と同じ色。そしてひょっとすると白いライトアーマーに身を包み白いマントをつけていた?」
「!?知っているの!?」
「あー、やっぱり。その人は間違いなく前の世界の住人ですよ…」
「それで、それで?その世界では何をやっている人だったの?」
身を乗り出して真夜がザンの話を促す。軽く引きながら、ザンは続けた。
「俺がこの世界に来る前の話ですが、彼はターレス王国騎士団所属の24歳。確か大将だったと思う。その姿から『白騎士』と言われた、いわゆる英雄ですよ。大将でありながらその身は常に最前線に置き、その身において負けを知らず常に不敗。最終戦の前線指揮者でもありました」
「私が会った時は、元帥だって言ってたわよ。歳も30歳前半といったところだったわ」
「知っているんじゃないですか。どうりで次元の狭間からやってきた俺が異様なほど受け入れられるはずだ。…あ、そうか。次元の狭間を通るときに時間軸が異なるということか。良かった。少なくともあちらは平和になったということか」
「そういえば、彼は『救世の英雄』を探しているって言っていたわ。何でも最後の戦いで勝利したものの、戦いの余波で次元と狭間が開いて、英雄は飲み込まれたって」
肩をすくめ、ため息を吐くザンだった。
「やっぱり、その『救世の英雄』って、あなたのことだったのね」
「俺は、英雄でも何でもありませんよ。人々が、いや世界がひとつとなったから勝てた戦いだったんだ。誰か一人が英雄というわけじゃない」
「戻りたいとは思わないの?あなたが英雄であることを否定しても、周りがあなたを放っておかない。希望は何でも叶う、言わば自由じゃないの。王様みたいなものじゃない」
ザンは首を横に振りながら否定した。
「俺の『力』は、ひとつの組織や国が所有して良いものではないんだ。結果的にそれが戦を呼び込んでは、何の意味も無い。俺はあの世界でやるべきことが終わったのであれば、いなくべき人間なんだ」
「それでも、あなたが突然いなくなる事に悲しんでいる人もいたでしょうに」
これ以上の話は終わりだといわんばかりに、ザンは口をつぐんでしまった。真夜はあえて問いただすことはしなかった。
歴史改変してしまいました。このことが後々どういった影響がでるか、私にも分かりません。賛否あるでしょうね。
つじつまが合わないことがでてきたときは、生暖かい目で見てやってください。
ちなみに今回名前が出てきたケルンですが、某刑事ドラマのかみさんと同じ立ち位置なので、出てくることはありません。どっかでちょくちょく伝説残しているかも…。