The 14 Days ~鎮守府合宿での14日間~【再凍結中】 作:M崎
それでは、24話、どうぞ。
8月4日、午前6時46分。
最上型重巡洋艦4番艦、熊野は、走っていた。
サイレンが空気を震わせる中、
無論、最悪のタイミングでやってきた深海棲艦襲撃に対する
(――――こんなときに襲撃だなんて!聞いてないですわよっ!)
苛立ちを隠そうともせずに、廊下を駆ける。
(全く、今日は厄日ですわ!)
心の中で、運命の女神に毒づく。
彼女は今日に限って、何故か運がとても悪い。
厄日にも程がある。ほんの12分前の希望に満ちた自分はどこへいったのだろうか。
今は、普段の淑やかな感じとは程遠い、憤怒の現神が降臨しているではないか。
自分が今まで積み立ててきたイメージが、ここに来て総崩れ。
これを災厄日と言わずして何というのだろうか。
―――ああもう、
本当に、普段の彼女からは全く想像もつかない姿となっていた。
そして彼女がそのまま、
「―――ただいまですわッ!!!」
「熊野?随分怒り心頭のようだけど、どうしたんだい?」
「なんでもありませんわよ!!」
「おー、怖い怖い」
「どうしたのですか、熊野。三隈でよければ、相談に乗りますよ?」
「大丈夫ですわ、お気遣いありがとうございますッ!!!」
彼女は乱暴に叫ぶと、質問にも満足に答えずに自らのベッドにダイブした。
鈴谷が呼びかけてみるが、応答なし。
「ちょ、熊野ー?………あちゃぁー…ありゃ駄目なやつだ。
「ん?―――どういうことだい、鈴谷」
「…んー、神城くん絡み」
「っ!!!――――――神城、さん、ですか………あぁ、神城さん、三隈はもう一度、あなたに会いたいです…❤」
「神城くんかぁ…。―――ボクも、もう一回、話してみたいかな…♪」
「あぁー…名前出したらこうなったしー…」
鈴谷は頭を抱える。
―――神城くんの名前を出すだけで、この2人は腑抜けになってしまう。
神城渓吾の名前は、この部屋では
姉2人が別世界にトリップしてしまったので、鈴谷は熊野に話の照準をあわせる。
枕に顔を突っ込んで現実逃避している彼女の元に、鈴谷は歩み寄り、尋ねる。
「―――それで?熊野は何をしてそうなったのカナー?」
「…別に、鈴谷には関係ありませんわ」
「まったまたすげない返答だねぇー。言うこと聞かない子には…こうしちゃうぞー?うりうりー☆」
そういうと、鈴谷は熊野の左頬を、人差し指でつつく。
むにむにむにむに。
「ああ、ちょっ…頬をつつくのはやめてくださいまし、鈴谷!」
「止めなーい」
ふにふにふにふに。
「ふぁふぁふぁふぁふぁ………」
「伸縮性抜群だねぇー、ここ」
みょんみょんみょんみょん。
「もう、いい加減に、してくださいなッ!」
「ぶぅー、けちー」
熊野の頬をめぐる攻防は、熊野が堪忍袋の緒を切ったことで終了した。
鈴谷としては、別にもうちょっとくらいいいじゃんかよー、と少し不満げだったが。
何はともあれ、ここにいると
ベッドから起き上がり、怒りのままに部屋を出ようとする。
まぁ、今までの行動からこの結論まですべてが、鈴谷の、
まぁそんなことに全く気づかなかった熊野は、お怒りモードのまま、怒鳴る。
「では
「いてらー」
「―――神城さんのことも、よろしくお願いいたしますね?」
「朝ごはんまでには帰ってきてよ」
「私は
だいぶ失礼なことを言い合いながら、
イライラは全く収まらなかったどころか、逆に悪化している。
帰らなければよかったですわ、と9割本気で思った彼女であった。
そんな中、ふと1つ、彼女は気づいたことが。
(―――――――あれ?サイレンに対する、指示はありましたっけ?)
★
2014年8月4日、午前6時49分。
おそらく自分史上、1番悩ましい事態に遭遇してしまったはずだ。
多分、昨日の大反乱よりも、1.5倍ほど面倒臭い。
猫の手でも借りれるならば、全力で借りたかった。
人手が出来る限り多く欲しかった。
しかし、頼れる人間が、自分以外に誰もいない今の状況。
まさしく、頭を抱えるしかないであろう。
ではなぜ、彼がここまで苦悩しているのか。
―――それは、この鎮守府はじまって以来の無理難題が、いっぺんに降りかかってきたからである。
問題はたくさんあるが、主立って面倒なのはこの、
1.
↑彼と昨日時点で仲良くなっている艦娘は多い。下手に発表などしたら、鎮守府がパニックになる可能性もあり得る。⇒しかし、早急な解決が必要。
2.今日行われる予定だった大元帥の視察。
↑前述の神城渓吾の死により、今日は中止にすべきである。が、視察の時間は今日しか取れていない。⇒これも、早急な解決が必要。
3.深海棲艦の、鎮守府への来訪。
↑昨日、神城渓吾が撃破した港湾棲姫と、北方棲姫の姉妹が、つい5分ほど前、我が鎮守府を訪れた。来賓としてもてなすべきか、追い返すべきか。⇒早急な解決が必要。
の3つ。
(―――全く、冗談もほどほどにして欲しいな…)
怒りや諦めを通り越して、笑えて来る。
何か吹っ切れたような感じが、彼の中に漂う。
それもそのはず、この鎮守府は昨日の段階で、十分
「鎮守府合宿」などというイベントを取り入れ、来た男が壁を壊し、大反乱に遭遇し、無断で夜戦を敢行され、あまつさえ合宿に来た男が、死んだ。
日常もへったくれもありゃしない、非日常しか見当たらない
それにこの無理難題である。
頭を抱えたくなる気持ちも、これなら分かるはずだ。
(はぁ…。よし、うかうかしてはいられない。まずは、港湾棲姫と北方棲姫を、司令官室に通すか)
彼はそんな気持ちを、1回の切り替えで追い払うと、寝不足の眼をこすって、椅子から立ち上がる。
―――この情景は、世間的には、「開き直る」という言葉を使うが。
そして、無理難題の中でも、一番楽そうな3番の問題にケリをつけるため、鎮守府の玄関へ向かった。
その途中、ものすごく眠そうな加賀が目に付いたが、今、彼はそれに構っていられるような気持ちではなく。
まっすぐ、寄り道せずに、玄関へ向かう。
約30秒後、彼が玄関につくと、そこには2人の、白い女性が彼を待っていた。
1人は港湾棲姫、もう1人は北方棲姫。
姉妹の、比較的おとなしい部類に入る深海棲艦である。
「―――キタカ、テイトク」
「ああ、遅れてすまなかった」
港湾棲姫が先に言葉を発する。
どこかイントネーションがおかしいが、日本語だとは分かる音声。
彼はそれに純粋に驚きながらも、警戒心を解かずに言葉を返す。
「それで、わざわざこんなところまで、何の用だ?余程大変な話でもあるのか?」
(見た限りでは、味方をつれてきているわけではない…。本当に、2人だけで来たようだ)
観察もしっかり忘れない。
彼女らは一応、この鎮守府の敵なのだ。あまり刺激させてはいけないが、警戒も怠ってはならない。
ポーカーフェイスを保ちつつ、彼女の次の言葉を待つ。
「ソノマサカダ。オマエニヒトツ、
しかしその次に彼女の口から出た言葉は、彼のポーカーフェイスをも一撃で打ち砕いた。
衝撃的すぎる一言。
頭を殴られたような、ぐわんぐわんという感じが頭をたゆたう。
(―――今、彼女はなんと言った?)
彼は自分に問い、そして答える。
―――
そう脳が認識すると同時、彼は彼女らに対する警戒レベルを1段階引き上げる。
もう一度ポーカーフェイスを形作り、彼女に問う。
「―――何の、話だ?」
「ソレハイマ、ココデハナスワダイデハナイ。ハナシハヘヤデキク」
その問いに、彼女はあくまでも事務的に、言葉を返してくる。
彼は、彼女らが言葉には出さないが、かすかな苛立ちを抱いているのを、聞き取った。
…これ以上の交渉は無理そうだ、彼女の逆鱗に触れてしまう。
一瞬で判断すると、それでもポーカーフェイスを崩さずに、彼は告げる。
「わかった、来賓室を用意する。こちらについてきてくれ」
「オキヅカイ、イタミイル」
彼女はこちらの歩み寄りに、さして興味なさげに告げて、さっさと歩き出す。
その姿はどこまでも事務的で、彼は少しイラッとくる。
しかし、彼はその
…これはこちらが根負けした形だが、これで有益な情報が得られるならば、必要経費だ。
仕方のないこと。
と、自分を納得させて、港湾棲姫と北方棲姫を鎮守府に招き入れた。
招き入れるしか、なかった。
★
2014年8月4日、午前6時51分。
「サテ、
「ああ、私も、それを把握しているが。…それが何か?」
「ワタシハ、ソレヲ
「ああ、そうか………――――――は?」
開始4回目のセリフで彼のポーカーフェイスは崩れることとなったが。
会話の流れがあまりにも突拍子過ぎる。
またも衝撃セリフをさらっと告げる港湾棲姫に、彼は目を
「いや…何故だ?私には、その意図が全く読めないのだが…」
「ソレハソウダ。ワタシハ、
「では、何故…」
「―――ソレハ、ホッポノノタメダ」
彼の当然の疑問に、彼女は今までの事務的な口調を消して、悲しげに答える。
ほっぽ…北方棲姫のことだろうか。妹といっているし、間違いではないだろうが…。
それでも何故、我々鎮守府は、神城渓吾の死という事実を、北方棲姫1人のために公表しなければならないのか。
「―――続きを話してくれ」
「…ホッポヤワタシハ、『オトコ』トイウモノヲ、ホトンドシラナイ。ユエニダマサレタリ、
彼が話の続きを促す。
すると彼女は、一度悲しげに下を向き、そして一言一言丁寧に、ぽつりぽつりと語り始めた。
彼女の状態から、口を挟んではいけない話だと直感が感じたので、彼は口を
「ソシテ
嘆くように、悔いるように、彼女は語る。
「ワタシハ、ベツニドウナッテモイイガ、ホッポハマダ、オサナイ。モウコレイジョウ、オトコ、トイウモノニチカヅケテハナラナイ、トチカイカケタ」
デモ、と彼女は言う。
「カレ…カミシロケイゴダケハ、チガッタ。ホッポヲタスケ、ワタシタチモタスケタ。ソシテ、エガオヲムケテクレタ。…カレハ、ワタシト、ホッポニトッテノキュウセイシュダッタ」
キュウセイシュ、という言葉が彼の中で救世主と変換されるのに、少し時間がかかった。
そう、彼は、深海棲艦に、「救世主」と言わしめるだけの働きをしたのだ。
深海棲艦に、敵対するのではなく、歩み寄る。
人類の中で、このような無謀なことを敢行した男が、かつて海軍にいただろうか。
そして彼女たちは、そのお礼に来た。彼に対して、感謝を告げようとした。
なのに自分は、その理由をよく知りもせずに、ここから追い返そうとした。
「安全性」という、言葉を笠に着て。
さらに、今考えれば、我ら鎮守府は長い間、艦娘を使って、彼女たちと殺し合いをしてきた、という事実にも行き着く。
今更ながら、自分が4年間、してきたことは何だったのかと、反省させられる。
そしてそれらを向こうにも、こちらにも気づかせてくれたのが、
だが、それを気づかせてくれた彼にお礼を言おうとしても、彼はもう、この世にはいない。
「デモ…―――カレハ、シンダ」
そう、死んだのである、
あまりにもあっけなく。
あまりにも一瞬で。
なのに、あまりにも悲しい。
それが、「死」。
その現実を直視して、彼の左目から、ツウッとしずくが零れ落ちる。
しかし、それを直視させた彼女の両目からも、涙があふれ出してきた。
そしてさめざめと泣き始める。
でも、彼女は、言葉を発するのを、やめない。
話し始めたときよりもさらにゆっくりと、語る。
「ワタシ、タチハッ…!……カレニ、モウイチド、オレイヲ、イイタイ…ッ。デモ、…イエナイ」
「カレヲ…カレガ、シンダコトヲ…カンムスタチニ、シッカリ、ツタエナケレバ、ナラナイ。ワタシタチハ、トウジシャダ。メイワクカモシレナイガ、スルシカナイ。ソレニ―――」
そして一言、付け加える。
彼女にとって、渾身の一言を。
涙をこらえながら。
「―――ソノ
その言葉は、頭の足りなかった場所に自然と入ってきて。
彼のパズルのピースを埋めて、答えを示す。
(―――ああ、…本当に、その通りだよ)
まさか敵から教えられる羽目になるとは、と心で付け加えて、彼は立ち上がる。
その行動を不思議そうにみる北方棲姫に、彼はふっと微笑みかけて、
「―――すまない、ここで待っていてくれ。…放送を、かける」
と、毅然として言い切った。
そしてくるりと背を向け、来賓室から退出する。
その後姿は、まさしく、鎮守府を任された男の風格。
威厳を保ち、皆を統べる、人の上に立つものの持つオーラ。
それらを一身に纏いながら、彼は通信司令室の扉を潜る。
―――そして放送のスイッチをオンにすると、息を吸って話し始めた。
『―――司令官の黒岩だ。今日、
言うと彼は本当に頭を下げる。
それは、サイレンのことに対する礼なのか、それとも、これから喋ることに対する、謝罪の礼なのか。
彼にはわからない。
『今日、司令官として言いたいことはひとつある。単なる事実確認だが、全員に聞いてもらいたい』
気持ち声が詰まってくるのを感じながらも、彼は喋り続ける。
彼女の意志を、ここで途絶えさせるわけにはいかない。
『すごく残念なお知らせだ』
そしてとうとう、彼は言う。
鎮守府を壊す、この一言を。
努めて、無感動を装って。
のどをいつもより震わせて、彼は声を出す。
『―――
通信が切れる。
―――
渓吾「…おい、これはどういうことだ」
作者「――――――――」
渓吾「お前、
作者「――――――はい」
渓吾「―――じゃあお前…」
渓吾「―――なんで最後になってようやく俺の死について触れたんだよぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおぉ!!!」
作者「―――いろいろあったんだってば!私だって頑張ったんだ!」
渓吾「問答無用」
作者「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!後は頼んだぞぉぉぉぉぉ――――――」
扶桑「ということで、何故か私たちがこの場を任されましたけど…何をすればいいんでしょう」
熊野「何か適当に喋っておけばいいんじゃないですの?…ん、あら?スタッフさん?これを言ってくれ?…面倒ですわね。―――え?次回予告だけでも?まぁ、それだけなら…」
扶桑「…うん、裏方の声が全部聞こえていますよ…?」
熊野「はいはい、そんなことは気にしたら負け。はい、ということで次回予告ですわ」
扶桑「―――次の25話は、神城さんの葬式になると思います…予定が大きく狂ってしまい、申し訳ありませんでした…」
熊野「…神城さんの葬式ですか…ちょっと、心に堪えそうですわね…」
扶桑「はい…」
扶&熊「…………………(無言)」
作者「ということでまた次の話」
渓吾「―――下手したら更新できないかもしれないっす…」