南蛮菓子のまほう使い【凍結】   作:simaAo.

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プロローグ
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①安土柊

 

遠月学園高等部ーとある一室。

 

安土柊(あづちしゅう)は北海道産の濃厚な搾りたてミルクをバター状にしていた。柊は、ミルクを混ぜながら思い出す。

 

「まさか、一週間も牧場の手伝いをさせられるとはなぁ…」

 

フライパンにイタリア産のオリーブオイルを熱し、ほぼバターとなった物を弱火で回す。濃厚そうだが、香りに重厚感が薄いと感じた柊は蜂蜜とシナモン、そしてバニラエッセンスをほんの少し入れる。

 

「うむ、これなら満足がいくだろう!」

 

予め、仕込んでおいた耳を切った食パンに餡子(漉餡)を置く。そして、焦がしたバターをボウルにあけ、まだ熱があるフライパンで食パンを表面を焼いていく。菜箸で、外を啄く。

 

「カリモフの出来上がりだな」

 

フライパンから食パンを皿にあけて、もう隣のフライパンで焼いていたもう一つの食パンをサンドしようとする。が、種を忘れていた事に気付き焦がしバターを餡子にとろりとかける。香りが鼻に柔らかくあたる。良い出来だ。

 

「さて、餡子サンドの出来上がりだが甘味を更に感じて貰う為に…」

 

そういって、水筒の中にお茶を淹れていく。少しだけ、渋味と雑味を残して。

 

「よし、今日も麗に美味しい物をプレゼントするぞー!」

 

時刻は始業からまだ2時間も前の事。然し、料理室の部屋を一人で使役、独占をしていた。それは、この遠月では彼が料理技術で他者を圧倒している事を指す。ただ、一人の為に学園は料理室を独占させない。だが、彼がいる料理室は彼の部屋同然である。それは、彼が学園独自のルール、”食戟”で勝ち取ったからである。そして、その部屋を勝ち取ろうと奪い取ろうとした者全てを退けて彼はこの部屋で調理しているのだった。

 

一人の、年が一つ下の少女の為にー

それが彼、川島麗のファン筆頭。

安土柊、二つ名を『南蛮菓子の魔法使い』とする者である。

 

 

②川島麗

 

中等部時代より、名を馳せていた人物はここ遠月では少なくない。然し、料理の力で有名となる者が圧倒的に多く、容姿や言動で人気を博す者は多くない。そもそも、料理技術がその人間の価値を決めるこの学園では至極当然の事である。

 

だが、特殊な人物はいるものだ。容姿と言動で人気を手に入れ、なお輝こうとする彼女は正にアイドルである。それが、川島麗(かわしまうらら)。彼女は、中等部のある時より、時には同世代で知らぬものはいないと称される程の好意を全方位から受けていた。そして、高等部へと入った彼女はその力を活かすように食戟運営側に入り、実況者としてステージで輝いていた。

 

そんな彼女も今日はオフである。然し、同委員の先輩が食戟の実況をする為、その会場にて座っていた。

 

「ちゃん研、潰れるんじゃない?これ。あーあ、フルーツ鍋は美味しかったのに残念♡」

 

まぁ、相手が悪い。悪すぎる。いかに、一年二年と年の差があろうと彼女は別格だ。高等部を一年満喫出来ただけの二年には到底敵う相手ではない。食戟のステージ、あの場に立っている彼女はそれだけ他者と差があるのだから。

 

神の舌(ゴッドタン)と称される、薙切(なきり)えりなはー

 

 

ーーーーー

ーーー

 

やはり、圧倒的だった。納得いかないと、顔を蒸気させながらちゃん研の主将が薙切の料理を喰らう。そして、その料理に魅せられた。呆気なく、肉の塊が踊り狂っている、狂喜乱舞。勝ち誇った顔に少々の苛立ちを覚えつつも、流石だなと感嘆せざるを得ない。

 

「だけど、人気では負けないんだから」

 

携帯端末にメッセージの報せが届く。どうやら、今日のデザートが届くらしい。今日のデザートは肌に優しいと嬉しいけれど。頬を緩ませながら、足を弾ませる。

 

そして、川島麗は華々しい食戟の会場を後にし、歩みて向かう。

私をお姫様だと信じて疑わない、料理人(かれ)のもとへと。

 

 

 

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