南蛮菓子のまほう使い【凍結】   作:simaAo.

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薙切えりなと小林竜胆。


プロローグⅡ

③薙切えりな編

 

おかしい。確かに、緋沙子と離れてしまいまい……。迷子にはなってないわ、緋沙子が迷子になったのよ、きっと、多分。えぇ、そのはずよ。然し、旧校舎の元グラウンドが菜園になっているから見にいこうと行ったのは私だ。軽い足取りで緋沙子を置いて行って、振り切ってしまったのは後で謝るとしましょう。でもー、

 

「僕と食戟をしようぜ?薙切えりなさん」

 

人気のない旧校舎の道すがらに立つこの男はなんだろう?待ってましたと、言わんばかりに仁王立ちしている男は。ふと、顔に視線をやると見覚えがある事に気づく。

 

「もしかしてですが、安土柊先輩ですか?」

 

「そうだよ」

 

あっけらかんと言う。私の記憶が正しければ、この人は日本料理屋「(みなと)」の次男坊の方で、もう一人の安土、遠月学園高等部の十傑である安土椋の弟だ。

 

「なぜ?私と食戟をする必要があるのですか?それに、そもそも中等部では食戟はありませんが」

 

食戟の規定が存在するのは高等部だけである、男子の中では所謂食戟ごっこが流行っているらしいけれど、昔から。

 

「だって君、頼み事されても素直に頷いてくれないタイプだって聞いたからさ」

 

「……誰ですか?とは言いませんが、内容にもよりますよ?」

 

「じゃあ、頼んでみるけど。僕の作った料理を頼んだ時に味見してもらえないかい?」

 

「丁重にお断りさせて頂きます」

 

ほらね、と口を尖らせて彼は言う。例え、先輩であろうと何のアポもコネもない状態で味見を頼まれても頷ける訳がない。私は神の舌の持ち主なのだから。

 

「食戟なら受けてくれるかい?」

 

腕に相当な自信があるのだろう、食戟を行えば勝てるからと言っているようなものだ。問題は、対価である。

 

「私が勝ったら、」

 

「学園に在籍する内は君の下僕となり、死ぬ寸前まで扱き使って貰って構わない。それでは、駄目だろうか?」

 

「ご自分が何を言っているのか、理解されてますか?」

 

「当然。ここまで言えば君も受けてくれるんじゃない、って話も聞いてさ。で、受けてくれるのかな」

 

心の中で嘆息する。恐らく、彼に知恵(?)を授けたのは底意地の悪い歳上だろう。そして、それは恐らくは女性であり力を持つ者だと推測される。ふと、何かを感じてる嫌な汗が背中を伝った。

 

「分かりました、非公式での食戟お受けします」

 

普通なら受ける義理も意味もない。けれど、私が薙切である以上はここまで煽られて受けない訳にはいかない。結果は勿論、私の勝ちで揺るがない筈なのだから、ね。

 

④小林竜胆編

 

十月学園高等部、カフェテリアで赤い髪の少女がマカロンを摘みながら紅茶を飲んでいる。思案顔をしているのは、恐らくは先日一人の少年に出会った事を思い出しているのだろう。ふむ、と。

 

『済みません、急いでいたもので』

 

校舎が朱色に染まる頃、料理室から勢いよく出てきた男と私は衝突してしまった。私の顔を見て、男は言った。

 

『うわ!済みません、綺麗な顔にカスタードがついちゃったみたいで』

 

そう言って、彼はポケットからハンケチを取り出し、私の顔を優しく拭いた。内心、びくっとしたが異性に何かをして貰う事が縁遠い私は心なしか嬉しくなった。いや、私はそこまで軽くはない、と思う。

 

『それじゃ、済みませんが急いでるので。いずれ、お詫びしますので』

 

また、勢いよく駆けていく彼の背中を見つめながら思う。今、頬が赤いかなぁと感じるのは夕焼けが窓から射し込んでいるからだろうか、それともー。

 

「ふふ、マカロンも良いけど。あの時、手に持ったカスタードをクッキーにつけて食べてみたいわね」

 

マカロンを食べながら、学園の魔女。現十傑第二席の小林竜胆は呟いた。想い出とお菓子に心を弾ませながら。

 

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