南蛮菓子のまほう使い【凍結】   作:simaAo.

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vs水戸郁魅編
高貴なる丼


徹夜明けの安土柊は一つの料理を持って、とある部室を訪れようとしていた。手に持っているのは、丼。然し、通常の丼ではなくデザートとしての丼である。柊は、この新しい丼デザートを丼研の主将であり、友人でもある小西に味見を頼もうとしていたのであった。

 

丼研の扉の前まで来たのだが、なにやら騒がしい。ただし、友人の声は聞こえて来ない。聞き耳でも、たてようとドアに顔を近づけた所でドアがスライドして、ドアに置こうとした手は空を切り、その勢いは重心を前に落としていき体制を崩す。然し、柊がその場で転ぶ事はなかった。どうやら、何者かにぶつかったようだ。

 

「あれ?柔らかい。この感触はマシュマロ?」

 

弾力のある良いものだ。と、気づく。不味い女性か。

 

「てめぇ!何してくれてんだよ!」

 

甲高い声とバチン!と柊の頬が平手打ちされる。そして、柊はもみじの跡が出来そうだ、と呟きながら衝突してしまった相手の顔を見る。何処かで見た事がある顔だった。

 

「どけよ!あたしはえりな様のもとに報告に行くんだ」

 

えりなというワードが出た事により、何処で見たかを思い出す。春、ちゃん研が薙切えりなとの食戟にて破れた時、彼女の周りにいた女の子の一人だ。そして、彼女自身も中等部では有名な子だ。肉を自由自在に扱うミートマスターこと、水戸郁魅は。

 

水戸が柊を押しのけて、部室を出て行く。柊が部室を見渡すと何故か拍手している左眉に傷がある少年と、オロオロと涙目の純朴そうな少女。そして、我が友、小西はなぜか灰のようにまっしろに燃え尽きて椅子に掛けていた。

 

「よぉ!小西、これ食べてくれないか?」

 

流れも何もあったものではないが、当初の目的だけはまず果たそうとする。呻き声を上げながら、小西は柊が持っていた丼をかきこみ、口へと運ぶ。そして、驚愕する。小西は柊がデザートしか作らない事を知ってはいるが、丼をデザートにするという発想は彼にはなかったのだ。

 

「これは米…そうか、ポン菓子か!それにきな粉をまぶし、飴細工の傘で見栄えを作り、パサパサですぐに飽きてしまいそうな為にシロップが三種類も用意さらている!……これは、てんさい糖シロップ。こっちは甘味噌か?最後のは……これはなんだ?」

 

「それは、抹茶ソースだよ。お手製のな」

 

「くぅっ!辛い時にこんな甘い物食っちまったら涙が出てくるじゃねーか。くそう…」

 

なんとなく察しはついてるけど、豪田林の件もあるし。ちゃん件同様にって事なんだろうな。最近の古参研究会潰しは酷いものがあるな、しっかし。

 

「丼研が潰されそうなんだが、食戟を受けたんだ。勝てば存続の上、部費アップと部員確保。負ければ……廃部で取り壊しだ」

 

「勝てば良いんすよ、勝てば」

 

赤髪の少年が割って入る。彼は何者だろうか?少なくとも、俺は知らない。水戸と争うレベルの調理人なら知らない事はないんだが。

 

「君は?」

 

「幸平創真っす。この前、編入してきました」

 

へらへらっと心内が読みにくそうな表情だ。何も、考えていないだけかもしれないが。

 

「ん、宜しく。僕は安土柊、そこにいる小西の友人だ」

 

名前を言った瞬間に、先程までオロオロとしてるだけの少女が素っ頓狂な声を上げた。流石に、二回目は耳がキーンとする。

 

「あ、あの安土柊先輩なんだべか」

 

お、方言女子。ポイント高いね、ポイント高いだけだけど。多分、こっちの少女は中等部にも在籍していたのだろうな。

 

「確実に君が知ってる安土柊で間違いないよ。そもそも、僕以外に安土って名字すらいないからね」

 

「なんだ田所、この人を知ってるのか?」

 

「この人はね、二年生でも物凄い実力者でね。得意料理をデザートとする異才、南蛮菓子の魔法使いって呼ばれてる人だよ」

 

「へぇ……。それなら、今度胸を借りたいっすね」

 

口元は笑っているが、眼は真剣に俺を見据えている。この子は、度胸があるのか無知なのかどっちだろうな。

 

「はは、僕で良ければ何時でも食戟は受け付けてあげるよ。最近はめっきり少なくなってしまってね」

 

「幸平!それより、水戸との食戟を考えてくれよ!テーマは丼だが、食材は水戸が得意の肉なんだぞ!」

 

「幸平君、そうだべ!何か考えがあるべさね?」

 

幸平少年は不敵に笑い、言い放つ。

 

「いや、これから考える」

 

二人の声にならない声が聞こえてくるようだ。そんなものは御構い無しに、幸

平は丼研のレシピノートに手を伸ばす。

 

「なるように、なりますよ」

 

「小西、面白い奴拾ったな。食戟に勝てれば丼研も賑やかになりそうじゃないか」

 

「違いねえが、勝てればな。あのA5ランクの溶ける肉に」

 

肉に当然、貴賎はある。そして、ミートマスターの水戸が使う肉は恐らくもなく最高級のA5ランクである、和牛だろうな。ただ、今回のテーマは肉料理じゃない、そこに気づけば。あるいは、つける隙もあるだろうな。

 

「安土先輩は何か良いアイディアないっすか?」

 

「食戟するのは君だろう。…まぁ、小西の丼研だし一言助言してやろう。昔、小西が僕に言った言葉だ」

 

『丼は一碗で完結する、そこに全ての旨味を注ぎ込むんだ』

 

主張しあう食材同士をいかに調和させ、更なる旨味へと飛躍させるかが重要だと、過去に小西は語った。そして、それは何も丼だけに限った話ではない。料理において重要なファクターの一つだ。

 

「なるほど?」

 

理解するのは難しいかもしれない。でも、勝つと決めたのならそれは最低条件だ。普通に美味しい料理では、極上の肉は超えられない。例え、その料理が肉だけ美味しくても。

 

「あ、小西。結局、持ってきた丼はどうだった?」

 

忘れていた、大事な事を小西に問う。

 

「あぁ、不味くはねえしインパクトもある。けど、丼って言われると味の薄さというか、ボリューム感が足りないようにも思える。だが、間違いなく美味かったよ、万人受けしないってだけで」

 

「そうか、ならお蔵入りかな。飴細工には苦労したんだけどなー」

 

丼研の主将だけに、丼には流石に厳しいな。まぁ、普通に美味しいだけの物を彼女に食べて貰う訳にもいかないしな。また、新しく作るとしよう。

 

「そうだ、幸平君」

 

「なんすか?」

 

「同じ一年だからって、川島麗に手を出したら許さないからな」

 

幸平創真と田所恵が急なプレッシャーで顔を引きつらせ、冷や汗をたらす。今まで、対峙していた愉快そうな先輩と同一人物とは思えない程だ。小西は腰掛けながら、溜息を吐いていた。きっと、何時もの事なのだろう。

 

「う、うす」

 

「うん、良い返事だ」

 

じゃあ、またね。と、柊は丼研の部室を後にしたのだった。

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