英雄伝説 魔の軌跡   作:閃の細道

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ケルディック編もラストスパートです。

ここからスレイン君の凄さが段々と現れていきます。


そして、戦闘描写がこの上なく苦手な様です。

修練に励みます、はい。

それでは、第10話、始まります。

※2015.08.10 修正


激闘の果てに掴む真相

 異形の力。

 

 何故こんな力を得たのか分からない。一時期ゼムリア大陸を放浪したが、こんな力を持っている人間には出会う事がなかった。

 普通であれば、時間を重ね鍛錬を積み、心技体を1つにするが武を身に付ける術。それが『武術』である。

 しかし、少年の場合は違ったのだ。『技』を1度見ただけで完璧に模倣(コピー)してしまう。それは多くの人間に嫌悪感を持たせる事だ。武を極めようと精進する者全てに、憎悪・羞恥・嫉妬の念を思わせる。だから誰よりも自分がこの異端の力に嫌悪感を抱いている。

 この力は基本的に封印している。昨日リィンには見せてしまったのだが、それはあくまで建前上である。二度と使う事はないだろう。

 だからこそ、我流とも言える自身の戦い方だけを磨いてきた。

 

 あの時……自分が遊撃士から去った二年前。死ぬはずだった自分が、意識を取り戻した時に自身の中にあった異端の力(・・・・)異常な知識(・・・・・)

 その異端の力は使い方から応用の方法まで全てを理解していた。アーツと呼ばれる導力魔法とは完全に違う、黒魔術とも言える異能の力でさえも理解し利用出来た。

 それまでも実年齢の割には博識だったが、その時得たものは博識なんて言葉では済まされない。今まで秘匿とされてきた戦術オーブメントでさえも理解している知識。

 

 この力を得ると同時に意識を取り戻す前に聞いた2人の女性の声。その場で交わした約束……否、宿命とも言えるであろう会話。

 

『力を与える代わりに対価を貰うわ。それは人として辛い対価よ。この呪いを断ち切る覚悟を持ちなさい』

 

『貴方に与えるその力で、私を倒して見せなさい。さすれば呪いは解けるでしょう』

 

 死を覚悟し意識が落ちた後に聞こえた凛々しい声と艶やかな声。

 今でも一言一句綺麗に再生されるその言葉は忘れるはずがない。

 自分が望みもしない異形の力の正体を知りたい。そしてこの呪いから開放されたい。

 

 そう、ただこの宿命を果たす為だけに生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 現在、トールズ士官学院特科クラスⅦ組A班は、ケルディックの大市内の休憩所で昼食を食べながら、今後の行動を決めている。

 

「……イン? スレイン?」

 

「……あぁ、わりぃ、聞いてなかった」

 

 自分の経歴上、一番の闇である後味の悪い回想をしていたスレインは、手を付けた食事がまだ残っている事。そして、物思いにふけっていた間に話題を振られていたらしく、リィンの言葉でやっと現実に回帰する。

 

「大丈夫か? 上の空だったみたいだけど……」

 

「あぁ、様になってたか?」

 

「あなたねぇ……」

 

 アリサがため息を付いて呆れ声でそう呟く。勿論、その後に「心配してたんだけど」と誰にも聞こえない声で言っていた事には、聞かないフリをしておこう。

 

「んで、何の話してたんだ?」

 

 全く持って話を聞いていなかった事は事実である。残っていた昼食を食べ終わらせながら、会話の全貌を共有しようと問いかける。

 

「あぁ、スレインの話を聞いて、やっぱり領邦軍が怪しいと思うんだ」

 

「というよりこれって……自作自演、だよね?」

 

「許しておけんな」

 

 リィン、エリオット、ラウラと続いて言葉を出す。その表情は、今回の黒幕が潜伏しているであろう場所に行くべきだ、と告げている。

 

「まぁ、間違いないだろうな。それに行けば分かるだろ」

 

 スレインがそう言った事で全員の意思が固まった。その場を立ち上がり、一行は身支度を整え、ルナリア自然公園へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、ここからは対人戦闘が始まるだろう。今までの対魔獣戦闘と違って、無力化するまでしか出来ないから力加減を間違えるなよ?」

 

 スレインは対人戦闘経験がまだない一行に向かって、そう解説している。

 場所はルナリア自然公園の最奥地手前。ちょっとした広場にもなっている様なポイントだったので、小休止も含めて今回の戦闘の段取りを説明する。

 

「うむ、承知した。しかし、銃を相手に戦う……か」

 

「あぁ、間違いなく武装は銃だ。だが、難しく考える必要はない。どんな武器を持っていても基本的な立ち回りは同じで、前衛組は自分の間合いで戦う。ただそれだけだ」

 

 緊張した顔つきで問いかけるラウラに、冷静に解説を加えていくスレイン。

 

「基本的に対人戦闘は奇襲がメインだ。それがダメなら、自分の間合いと相手が苦手な間合いが合致していればそのまま接近。間合いが合わないならヒットアンドアウェイ、もしくはターゲットの変更。まぁ、今回の相手は今までの仕事のこなし方を考えると練度が低いと思うし、奇襲しかければ問題ないだろ」

 

「私達は前衛の援護をすればいいのよね?」

 

 前衛組にひとしきりの復習をした後、こちらも緊張した面持ちで言葉を出す。

 

「あぁ、後衛組は前衛の援護。妨害メインの攻撃だな。まぁ、ぶっちゃけ広範囲アーツがあればゴリ押しでいいんだけど……それやると命の保証が出来兼ねるから今回はいっか」

 

 後衛用の解説を淡々と告げる。アリサ・エリオットの顔が若干引きつっているのだが、後半部分は自分がやろうと思った事なので、あえて付け足しはしないでおく。

 

「ま、覚えて欲しい事は、『完全な無力化』となるまで気を抜かない事。それが対人戦闘の心得でもあり、生き残る方法だ」

 

 最後にそう告げて全員の顔を見る。全員が頷くと同時に武器を構え、引き締まった顔つきに変わるのを確認して、一行は最奥地へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「皆なかなかやるな。まさかここまで忠実に再現するとは思わなかったぜ」

 

 この場にいた人間は4名。ルナリア自然公園の管理員に扮していたが、突撃前に様子見をしていた段階で、窃盗についての話していた事。そして雇い主が領邦軍である事を話していたので、実行犯である事は言わずもがなであった。

 

 その話をある程度聞いた段階で、一同は奇襲をしかけ、スレインが先程解説した通りの動きを行った。

 アリサとエリオットの援護を受けながら、リィン・ラウラが機動力を活かし、自身の間合いで戦う。

 言葉では簡単に言えるが、銃器を持った人間相手だと思い切りが付かない場合が多い。しかし、このA班一同は誰一人迷う事なく、スレインの解説通りに動き敵を無力化していった。

 しかし、実際の所、駆動操作も駆動時間も無し(ノーウェイト・ノーモーション)でアーツ繰り出すスレインを見て、相手が動揺して隙が生まれていた、というのも解説通りの勝利を得たポイントでもあった。

 

「ねぇ、あなたのアーツって反則じゃない? あんな速度でどうやって発動出来るのよ?」

 

 無力化した偽管理員を、木箱の近くにあった麻縄で拘束しているスレインをジト目で見ているアリサはそう言う。

 

「確かに、ARCUSを駆動してから時間差がなかったよね?」

 

 縛り上げるのに悪戦苦闘しているエリオットも合わせて問いかける。

 

「あぁ、あれが改造の結果だよ。今回のは最高傑作でな。中級アーツまでなら即発動が出来る。ちっとばかし苦労したけど、とあるお人好しさんが最高のアイテム寄越したんでな。後は駆動用の遠隔装置を武器に組み込めば、一瞬でドカンだ」

 

 実際の所はちょっと違う。昨夜のリィンとの仕合の様に、自身が精製した武器を手に持っていれば、ARCUSの遠隔操作出来るのである。どういう原理なのかは自分も分からないので、敢えてそれっぽく説明する事でオブラートに包んでおく。

 

「えぇ……どっから聞けばいいかわかんないね」

 

 何とか相手を縛り上げたエリオットは苦笑しながらそう言う。アリサは理解できないという感じで顔を下に向けてため息を付き、リィンとラウラはその内容を理解しきれていない様だ。

 

「ま、まぁ、でもさ、スレインのアドバイスのおかげでスムーズに対応できたよ。ありがとう」

 

 最後の1人を縛り上げたリィンがスレインに向かって話したその時だった。

 

 

――♪―――――♬――――♬―――――♪――――♪――――…………………

 

 

「「…………ん?」」

 

「? どうしたんだ? スレインもエリオットも」

 

 スレインとエリオットは一瞬感じた違和感に声を出す。そしてそれに気づいたリィンが問いかける。

 

「うん、今何だか笛の音色が聞こえたような気が……」

 

 エリオットがそう話すと同時に、公園全体に不穏な空気が流れるのをスレインは感じた。

 その直後だった。周囲に魔獣の咆哮が響く。空気を震わすほどのそれは、手配魔獣とも違う、言うなれば格が違う存在である事を告げる様な咆哮だ。

 そして、咆哮の後は地震の様な地響きを感じる。それは”何か”が近づいてくる事を告げる、一種の警告であった。

 

 

 ―――ヴォオオオオオオオォォォォッ!!

 

 

 進行方向の木々を力づくで薙ぎ倒して姿を現したのは、大型の狒々(ひひ)

 身体全体は茶色がかった剛毛に包まれ、両肩口から背中にかけてはしるヒレの様な鬣【たてがみ】。頭部には四本の角が生え、先程なぎ倒してきた木々と同程度の太さを持つ両腕。

 この魔獣は、この公園の主の様な存在なのだと、その姿を見た一瞬で悟る全員。

 

 グルノージャと呼ばれるその魔獣は、自らの縄張りを荒らした一行と偽局員たちに視線を向けると、敵意の籠った唸りを上げる。

 スレイン周りを確認すると、舌打ちをする。戦意喪失とまではいかないが、全員がその咆哮と敵意に、冷や汗を垂らしながら硬直している。

 その後グルノージャはおもむろに立ち上がると、咆哮を挙げながら両腕で自身の胸を叩きドラミングでを始める。

 その音を察知して周囲の木々の間から姿を見せたのは、同じ狒々型の魔獣、ゴーディオッサーの群れだった。

 

「武器を構えろ! やるしかねぇんだから、お前さん達の力を見せつけろ!」

 

 スレインがそう言うと、全員が我に返る。その刹那、決意の表情で武器を構える。

 

 「! あぁ、そうだな。 これくらいで負けてたまるか!」

 

 リィンがその場を鼓舞し、各々が返事をして士気を高める。「やっぱりリーダー気質だな」なんて事を考えるとスレインは敵集団を見据えてリィンに声をかける。

 

「リィン、お前さんが指揮を取ってデカブツを仕留めろ。雑魚は俺が引き受ける。戦法は昨日の手配魔獣と同じで構わない。隙を見て遊撃するから余計な事を考えるな」

 

「あぁ、分かった。こちらは任せてくれ」

 

 気をつけろ、と最後に繋げられたのだが、「そんな心配100年早い」とは言わなかった。後ろからも心配の声が聞こえたからである。

 

「な、あの数相手に大丈夫なの!?」

 

「いくらなんでも1人じゃ……」

 

 アリサとエリオットが順にそう言うが「とっておきを見せてやる」とだけ言い残して敵の数を改めて確認する。

 ゴーディオッサーが5体。位置はバラバラで前方150度の視野の中に全てがいる。この数であればアーツを使う必要はない。

 

「みんな、行くぞ!」

 

 リィンの声に全員がグルノージャ一点を見据えて動き始める。

 

「(数は5体。ゴーディオッサー1体当たりに10本……秒殺だな。オマケもやっておくか)」

 

『契約に従い我に従え。無蔵の剣戟。数多の英霊よ。森羅万象を現世に具現し、我の力となれ―――『アストラルダイト』!』

 

 本来は詠唱なんていらないのであるが、今回はパフォーマンスも兼ねて一息でそう詠唱する。すると、スレインの頭上に何処からともなく剣が現れる。

 その数50本以上。既にスレインが最後方にいるので、その姿を見る事は出来ないが、数多の剣を空中を漂わせるそれは最早人間技ではない。浮遊している武器たちが停滞したのは一瞬だった。

 

――――――!!

 

 数にして50本の剣が5体のゴーディオッサーに突き刺さる。スレインの読み通り、10本目の剣が突き刺さると同時にゴーディオッサーは全て赤黒い光と共に飛散した。

 

 その現象を横目で見る一同は、一瞬だけ驚愕の表情をしていたが、まだ目の前に存在するグルノージャに再び意識を向け、戦闘を続ける。

 

「これはオマケだ! さっきの音を確かめてくるから、この場は任せるぞ!」

 

 スレインが皆にそう告げると同時に、グルノージャの四肢に数々の剣が突き刺さる。大きな咆哮を上げ、立ち上がる大型の狒々はその同時攻撃にかなりのダメージを与えられたようだった。

 一同の了承の言葉を聞く前に飛び出したスレインは、グルノージャを追い越し、猛スピードで駆けていく。同時に風を呼び起こして、辺り一帯の気配を探る。笛の音が鳴った場所はある程度の距離があった様に聞こえたが、精霊のおかげでおおよその位置はすぐに分かった。

 

「待て!」

 

 フードを被り、ロングコートを着た影が一瞬見えた。叫ぶ様に声を上げたスレインだったが、待てと言われて待つヤツはそもそも逃げない。その姿はは止まる事なく走り続け、あと一歩の所でその人影を見失うのであった。

 

「……逃げ足は早いな。追いつければ、久々に本気でやりあえると思ったんだが……つまんねーの」

 

 スレインはポツリとそう言うと、自身の周りに吹いた風の知らせを受けてその場を後にし、あれを撃退しているであろう仲間の元へ戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「皆、スレインが作った隙をムダにするな! 一気に片を付けよう!」

 

「ええ!」「承知!」「うん!」

 

 リィンの一言によって更に士気が上がる一同。この場を締めくくるべく、それぞれが最大限の技を放つ。

 

「くらえ! ―――『鉄砕刃』」

 

「燃え尽きなさい! ―――『フランベルジュ』」

 

「いくよ! ―――『アクアブリード』」

 

 ラウラ・アリサ・エリオットと、先程スレインがダメージを与えたポイントを狙い、それぞれ迫撃を与えていく。3人の攻撃は同時にヒットし、防御する事が出来なかったグルノージャは後方に仰け反り、大きな隙が生まれる。

 

「(ここで使うしかない!)」

 

 リィンは一旦刀身を鞘にしまい、目を瞑り意識を集中していく。

 

「―――焔よ、わが剣に集え」

 

 その言霊と同時に、リィンの体内にから流れでた魔力が”焔”となり、刀身へと宿る。

 刀身を横に一振りして刀を構えたリィンは、火の粉を散らしながらグルノージャの懐へと飛び込む。

 

「はああああああ―――――ッ!!」

 

 力強く振り下ろされたその焔の太刀は、グルノージャの胴体の中心を捉え、炎傷と共に大きな斬傷を刻み付けた。

 そのダメージは大きく、最初とは違う弱い鳴き声、負けるまいと言ったようなその声と同時に両足から崩れ落ちる。しかし、それでもまだ地にひれ伏していないその巨体には、最早この地の主としての威厳とでも言える様だった。

 

「ちょ、あれでもまだ!?」

 

「あれだけの攻撃を受けて尚倒れぬか……」

 

 既に疲弊し始めている面々にとって、これ以上の長期戦闘は危険だ。一同が焦りを見せ始めたその時であった。

 グルノージャはリィンの姿を一瞥すると、徐に踵を返した。

 

「えっ?」

 

 エリオットから疑問の声が漏れる。立ち向かうでもなく、遁走するでもなく、ただ悠々と森の中へと帰っていくこの場の主。

 まるでリィンたちが追撃しない事を分かっているかのようなその行動に、一同は大きな息をつき、緊張の糸を緩める。

 どういう結果であれ、戦闘終了時に全員が地に足を付けている。これは間違いなく勝利であった。

 

「~~~はあぁぁぁ~」

 

「つ、疲れたぁぁっ」

 

 勝利を感じ取った瞬間、アリサとエリオットはその場に崩れ落ちて声を出す。リィンとラウラも剣を鞘に収めると同時に、足の力が抜けて膝立ちになる。

 

「ふぅ……危なかったな」

 

「全くだ。私もまだまだであったと思い知らされたぞ」

 

 一同はそれぞれの顔を見合わせる。仮に戦いが続いていたのなら、どちらが勝っていたのかは分からない。

 数分の沈黙の後、それぞれが目配せをして、今回の戦闘結果をしっかりと心身に受け止めるのであった。

 

「さて、スレインを待つ間にやる事をやろうか」

 

 皆にそう告げると、一同が一瞬だけ不安そうな顔付きをしたものの、戦闘開始直後の情景を思い浮かべてその思いを否定し、ゆっくりではあるが立ち上がった。

 もう1人のメンバーが帰ってくる前に、盗難品の確認などの最低限の事はしておこうと歩き始めた、正にその時であった。

 彼らの耳に再び笛の音が聞こえる。しかし、先程の音色とはまたどこか違う音である。というより、これは笛の中でも警笛の様な音と言った方が正しい。その音色の正体は、確認するまでもなく、既に一同の目前まで来ていた。

 

 

 

 

 

「居たぞ!!」

 

「逃がすな、取り押さえろ!!」

 

 最奥に駆けつけたのは、領邦軍一個小隊七名。小銃で武装した彼らは、迷う動きすら見せずにリィンたち(・・・・・)を取り囲んだ。

 

「……何故、我らを取り囲むのだ?」

 

「黙れ!!」

 

「学生だからと言って、容赦はせんぞ!!」

 

 ラウラの当然とも言える疑問に聞く耳を持たず、怒鳴り散らす領邦軍兵士たち。すると、後方から朝方大市に乱入してきた隊長格の男が、リィンたちの前に堂々と立ち塞がった。

 領邦軍と管理局員に扮した盗賊が繋がっている事。推測上では既に成立していた事である。

 しかし、リィンたちは、これ以上領邦軍が出張ってくると、さすがに表沙汰になる可能性が出てくる。なので、今回の一件にはこれ以上派手な動きはしてこないものだと思っていた。否、思い込んでいた。

 犯人はそこで気絶している連中だと伝えてはみるものの、男らはまともに取り合おうとはしない。

 そしてその後に続けた言葉に、リィンたちの感情は呆れから怒りに変わっていく。

 

「彼らがやったという証拠はなかろう。可能性で言うならば―――君たちも有り得るのではないかね?」

 

 クロイツェン州内で領邦軍の権限は確かに高い。彼らの言い分が嘘であっても、それが事実として通ってしまうくらいに、である。

 それは、それだけ領内での領邦軍という権力というのは絶大であるという事の象徴でもあった。

 とは言え、取り付く島もないこの状態はリィン達学生には格段と分が悪い。どうにかしてこの場を切り抜けようと思考を巡らせていると、先程の魔獣が去っていった方角から足音が聞こえる。

 それは領邦軍の兵士達も同じだった様で、目線だけをそちらに送る。

 

「……誰だ!?」

 

 隊長格の男は自然な動きで部下の後ろに交代して声を上げる。しかし、この場の学生が1人足りない事を知っていた男の顔には、明確な敵意の他に、何か非常に強い怨恨の様なもの感じられる。

 

「そんな怖い顔すんなよ。かの領邦軍が一般市民に殺意をむき出しにしてたら世話ねぇぜ?」

 

 事もあろうに少年は普段歩くスピードでその場に現れる。武装もなく、言葉を発した直後に欠伸をし、片手を口に当てながら一歩ずつこちらに歩を進める。

 

「貴様もおとなしくしろ! 盗難事件の犯人として拘束してやる!」

 

 隊長格の男がそう言った直後、小隊員の何名かが少年に銃を向ける。 

 

「あらあら、確定事項の如く言ってますけど、聞く耳保たない感じか?」

 

 少年は取り囲まれている一同に向かってそう問いかけると、リィンが短く頷く。

 

「お前ら見とけよー。こういう時はとりあえず無力化すれば黙るから」

 

 少年がそう呟くと同時に、今まで何も持っていなかったはずの両手に、何処からともなく現れた小型の導力銃が携わっており、銃口を領邦軍に向けてトリガーを引く。

 銃声は普通のそれとは異なり、機械的でアーツの駆動音の様な音だった。

 

「う、うわぁぁ!」

 

「ぐぁっ!」

 

「なっ!」

 

 領邦軍一同が悲鳴の様な驚きを上げてたじろぐ。その姿の方に顔を向けると、なんと全員が構えた小銃が1つ残らず鉄くずと化し地面にバラバラに落ちていた。

 

「『アナリスグラッジ』―――――任意の対象を分解するオリジナルアーツだ。 対象には武器だけでなく、人体にも合わせられるが……腕1本くらい潰しておくか?」

 

 彼は銃先をそのままに、隊長格の男に同様の敵意を込めた視線を向けてそう言い放つ。

 リィン達も目の前の現象と彼の言葉を脳内で変換する事で手一杯になっている様で、目を丸くしている。それは領邦軍の隊員たちも同じであった。今の現象を理解出来ず呆然としていて、敵意も戦意の喪失している様だった。

 

「な? 黙ってくれるだろ?」

 

 スレインはそう言ながら目線をリィン達に向けて微笑する。それに相槌の様な言葉で「あぁ……」と答えるのはリィンだけであった。

 

「き、貴様、我々に攻撃するなど……何をしたか分かっているのか!?」

 

 向けられた敵意にたじろぎながら、隊長格の男は必死に声を出す。この時点で部下の隊員達は、今の現象を理解出来ず呆然としていて敵意も戦意の喪失している様だった。

 

「一個小隊が学生相手に銃を向けている状態の方が問題だろうが」

 

「貴様は領邦軍に手を挙げたのだぞ!! この事が公爵家に伝われば―――」

 

「黙ってろよ、三下。たかだか駐屯部隊の小隊長に侯爵家自ら耳を傾けると思ってんのか?」

 

 男の言葉に耳を傾ける事なく、表情を作らず殺意を込めた目線を送りながらそう言い放つ。

 

「な、何だと!? 貴様、言わせておけば!」

 

「領邦軍も曲がりなりにも軍属。どういう命令が出てるのか知らんが、ここで俺たちを捕らえるとなると、どう頑張っても上が出てくる。そうしたらトールズと侯爵家がぶつかり合うってトコは考えているのか?」

 

 帝国における『トールズ士官学院』の名は大きい。帝国きっての士官学院であり、学院長を始めとして学院運営に関わる人物は、帝国内でも名のある者が多い。

 そんな学院の生徒を冤罪で拘束したとあっては、絶大な権力を持つ公爵家と言えど、多少の非難は免れない。

 その中でもⅦ組に関わる者は、学院内だけではなく外部にも多く存在する。それに理事長が皇族なのだ。それらの人物を相手にするのは、大貴族と言えどもそう簡単には出来ないだろう。

 

「ぐっ……」

 

「これ以上抵抗してもムダな事にはいい加減気づいてんだろ? ここで潔く引いてくれると助かるんだが……答えがノーであれば、実力行使に移らせてもらうぞ?」

 

 スレインは尚も無表情のまま男を見据えて、銃先を微かに傾ける。その目線は先程とは違い敵意ではなく、明確な殺意に変わっていた。

 対して男は、その愚弄するかのような言葉に強い音を立て歯軋りをする。その憤怒は既に臨界点を突破し、冷静な判断は望めなくなっているのが分かる。感情に身を任せ、腕を高く振り上げ荒々しく声を放つ。

 

「弁えろ、平民風情が!! 我らをとことんまで愚弄した事を後悔させてやる!!」

 

 その激昂に誰もが息を呑む。

 しかしスレインは、先程までの無表情から一変、口角を吊り上げ微笑を浮かばせ小声で「チェックメイト」と呟き、銃口を下げる。

 

 

 

 

 

 

「そこまでです」

 

 一触即発の事態に、凛とした声が聞こえる。

 この緊迫した事態には相応しくないとも言える、涼やかな声が響き渡ると同時に、幾人かの足音が聞こえてくるのであった。

 

 

 




軌跡シリーズにおいて、いつもCPを温存してしまう私が初めてSクラフトを乱発したのが閃の軌跡です。

Sクラフトの恩恵って凄いですね。
後半になれば成る程、有り難みが分かりました。

という訳で、次回はクレアの登場ですが、
このクレア、若干キャラが壊れるかもしれません。

ファンの皆さん、申し訳ございません。

では、今回もお読み頂き、ありがとうございました。
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