クレア大尉のキャラがちょっと女性らしい方向に変わってしまいました。
お気に召さなかったら申し訳ありません……
それでは第11話、始まります。
※2015.08.16 修正
「このタイミング、さすがですね。クレア大尉」
「タイミングを図ったのはスレインさんでしょう? あなたの風を感じましたよ?」
「あら、バレてたか。ま、おかげで無用な戦いが避けられそうだ」
自然公園の最奥部。
一触即発の空気の中に割り込んで来た涼やかな声に、スレインは当たり前かの様に反応する。更には互いに「久しぶり」という言葉も交わしていた。
透き通る様な薄水色の髪をサイドに纏め、灰色の軍服に身を包んだ若い女性。誰が見ても”美人”という概念から外れない彼女が見せた僅かな微笑みに、リィンとエリオットの視線は彼女に釘付けである。
その女性の名はクレア・リーヴェルト。
帝国正規軍の中でも精鋭が揃う
その可憐な容姿と、常人を遥かに凌ぐとされる圧倒的な処理能力を指して
そんな彼女は、最新鋭の導力小銃で武装した部下数名に指示をしながら、領邦軍への警戒と盗賊の身柄確保を行っていく。そして、同時に隊長格の男の方をやや鋭い目つきで見据えた。
「この場は今後、我々鉄道憲兵隊が取り仕切らせていただきます。領邦軍の方々はケルディックの詰所までお戻りください」
「……何のつもりだ?」
多少は冷静さを取り戻した男は、今だ怒気の籠った声で言葉を返す。
今まであれだけ言っても態度を変えない指揮官だ。この一言で首を縦に振るとは思えない。
「ここはアルバレア公爵の治めるクロイツェン州の一画。貴公らに邪魔立てされる謂れはない」
相手が学生でなくなったからか、それとも冷静さを取り戻したからなのか。
言葉は取り繕ってはいるが露骨なまでの拒絶な反応である。「いい加減現実を見ろ」とは言わないでおこう。
しかしその言葉を受けても、クレアの対応は冷静沈着そのものだった。
「お言葉ですが、ケルディックは帝国鉄道網の拠点の一つです。そのため、我々にも捜査介入権限がある。……ご存知ですね?」
「ぐっ……」
「加えて大市の商人の方々や元締めの方から事情を伺った結果、彼ら学生が盗難事件の犯人である可能性は極めて低いと判断した末での行動であり、正当性は高いと自負しております」
「…………」
「何か異議はおありでしょうか?」
物怖じせずに淡々と正論を述べる態度と、反論をする隙を与えない論理的推察。それは、
「……フン、特にない」
男は小さな舌打ちの後に、渋々口を開いて撤退を指示する。
その直後に憲兵隊は目を覚ました盗賊たちを手際良く連行し、盗難品の返却処理を行うため品物の確認を始めた。
そして、隊長格の男は去り際に、正に捨て台詞という様な言葉を残していった。
「……鉄血の狗が。今に痛い目を見ると覚悟しておけ」
「……………」
「はっ、それならお前さんは侯爵家の狗じゃねぇか」
去って行った男の影はもう見なかったが、その場の人間が聞こえる程の声で呟いてため息をつく。
「いやー、しかし助かったぜ。サンキュな」
「いえいえ、どういたしまして。スレインさんも相変わらずタイミングを合わせる事が上手ですね」
「あぁ、お膳立ては得意分野だからな」
2人が微笑みながらそんな会話をしていると、隊員の1人がクレア大尉に近づき、敬礼をしてから物品移送の報告をする。
それを横目にリィン達は驚いた様な表情で、スレインに言葉を交わす。
「スレイン、知り合いのか?」
「あぁ、ちょっとした縁があってね」
「ふむ、鉄道憲兵隊の精鋭との縁か。一体どんな縁なのだ?」
「まぁ、色々とな。企業秘密ってやつにしておいてくれ」
ケラケラ笑いながら話すスレインの表情が作り笑いであった事は、この場の誰も分からなかった。
「でも、とりあえずこれで一件落着……だよね?」
エリオットの発言で一同がそれに頷くと、クレアが一同に歩み寄り声をかける。
「そちらの方々には初めまして、ですね。帝国鉄道憲兵隊所属大尉、クレア・リーヴェルトと申します。今回はお疲れ様でした」
丁寧な自己紹介を行った後、労いの言葉をかけたクレアは更に言葉を続けた。
「調書を取りたいので、少しばかりお付き合いいただけますか?」
一同に「たいそれた事じゃないから大丈夫だ」とスレインが声をかけ、憲兵隊の後に付いてケルディックの地へ帰還するのであった。
―――*―――*―――
「調書」と言っても、スレインが言っていた様にそれほど大仰なものではなく、事件のあらましと経緯を簡単に説明するだけで終わった。
ケルディックには憲兵隊の詰め所などがない事と時刻が夕食時であったので、食事を摂りながら行われた。その配慮のおかげもあり、終始和やかな雰囲気で、一同は緊張する様子もなくスムーズに事が終わったである。
一連の作業が終わると、次の列車までまだ時間があったので、A班はここで自由行動を取る事になった。
そこでスレインは大市に出向き、トリスタでは買えない品々を幾つか見繕って購入し終えた所で、休憩所の席に腰を掛けてから何も考えずただ夜空を見上げていた。
「こちら、いいですか?」
突然かけられたその言葉で霧散していた意識を現実に回帰させる。「どうぞ」と一言だけ返すと、目の前の女性は律儀にお礼を言って腰を掛け、両手に持っていたジュースが入ったグラスの片方をこちらに差し出す。
「サンキュ。しかし、本当にすぐ会えるとはな。これ分かってたのか?」
目の前の女性がグラスに入ったジュースを一口飲む。それをを確認してから自身も口をつける。この行為に特に意味はないが、ただの礼節だ。
「まさか。そんな事はありませんよ。私も……もう少し先かと思ってました」
言葉の合間に照れ笑いとも言える様なほほ笑みをしながらクレアはそう返す。
「これで借りが増えちまったし、食事の件はちゃんとアポ取るよ。今回の件のお礼も含めてしっかりやるさ」
「あ、いえ、別にそういった訳では……。それはそうとトールズはどうですか? 私が通っていたのは6年前でしたが、卒業以来あまり関わってないので……」
女性は一瞬だけ頬を赤らめて、すぐさま話題転換をする。
「んー、悪くはない……かな。まぁ、学院としてはいい所だろ。自主性もあるしさ。ただ、俺がいていいもんかは分からんな」
自嘲気味にそう言葉を返すと、クレアは先程とは違い真面目な表情に戻り、それでいて悲しそうな目をこちらに向ける。
その目線に耐え切れなくなり、暗くなった今でも賑わいのある大市の方に目を向ける。その焦点をどこかに合わせる事もなく言葉を続ける。
「今を楽しみ未来を願う若き少年少女の中に俺という異物が混じったら―――」
「大丈夫ですよ、スレインさん。あなたは私を変えてくれました。あの頃の私を、です。そう言うのであれば、その若き少年少女をより良い方向に変えられるのではないですか?」
言葉を途中で遮られた事に多少驚き、彼女の方に目線を戻す。すると、今度は母性的な優しい笑みを浮かべていた。
こんなに百面相であっただろうか。なんて事を瞬時に考えてしまったが、直ぐ様その思考を停止させた。
「……それは買い被り過ぎってやつだろ。皆が皆、クレアみたいな素直さは持ってないと思うぜ?」
「でも、若さ故の無邪気な心というものは、スレインさん個人をしっかりと見てくれると思いますよ?」
一本取られた、というジェスチャーを見せて、「既に変人だと思われている」と伝えると微笑で返される。
「ふふっ、それはそれで困りましたね」
「……どうして俺の周りはこうも俺に期待をするのかね」
ため息交じりに呟くその声はどちらかと言うと、自分に対しての言葉であった。
「んで、何でクレア自ら出張ってきたんだ? この程度ならドミニク少尉でも問題なかったろ。むしろ俺はそうだろうと思ってたんだが……」
これ以上のこの話を続ける必要も皆無なので、一旦話題を変える。
「え、えぇ、それは……ケルディックにおける領邦軍の振る舞いが見過ごせなかったので、私が出向いた方が良いかと思ったんです」
本当は、自ら向かって助けになりたかったのだが、そんな恥ずかしい事は言えない。言葉をすり替えてもっともらしい言葉を紡いでいく。
「なるほどな。まぁ、あの感じだったら確かにクレアじゃないと一戦あったかもな。それはそうと、よくあの風に気づいたな? 緊急だったから出力変えられなかったのもあるが……」
「スレインさんの風はすぐに分かりますよ。どこか心地よくて温かいですし」
実際そんな事はない。精霊なんて異能を使える者は、このゼムリア大陸中でも自分だけである。
それに、風の精霊を使役したとしても、風が吹く現象を再現する様なものだ。
感知出来る様な準契約をしていたとしても、心地良いとか温かいとかそんな具体的なものではなく感覚的なものである。
「そんな事あるのか? 直感的にしか感知出来ないハズなんだが……」
「それでしたら、私の直感が鋭くなっているのかもしれませんね」
そう言ってクスっと笑うクレアは、残り僅かになったグラスを傾けて飲み干すと言葉を続ける。
「ARCUSを2つ繋げたから出力が上がったのかもしれませんよ?」
「あぁ、確かにそれはあるかもな。ARCUSの導力エンジンの直列回路化は素晴らしいよ。俺の計算を上回る出力だし、お礼は色を付けないとな」
「いえ、それには及びませんよ。それにスレインさん、今は学生ですよ?」
「バカヤロ、技術屋として結構な利益を得てる事も知ってんだろ? 気にするな」
実際の所、ENIGMAとARCUSの開発に携わった事で、莫大な利益がスレインの元に入ってくる。
分かりやすく例えるのであれば、貴族階級の「男爵家」程度の財産分は優にあるだろう。
「で、ですが……」
「好意ってもんは素直に受け取っておくもんだぜ。借りが溜まっていく一方なのは俺としても困るんだよ」
スレインはそう言って腕に付けた導力時計を見るとそろそろ列車の時間である事に気づく。
グラスを空にしてから席を立ち、女性に顔を近づけて小声で呟く。
「わり、そろそろ時間だわ。来週の予定、後で連絡しろよ」
「え! えぇ、分かりました。すぐお知らせしますね」
途端に頬を染めて動揺混じりの返答する彼女を横目に、「それじゃまた」と別れの言葉を告げて駅の方へ向かっていくのであった。
「(まったく……分かっていて言っているのでしょうか?)」
腕を組み熱を帯びた頬を片手で抑える彼女は、去っていく少年の背を目で追う。
どう考えてもこちらの気持ちを察しているかの様なその言動に、僅かながら疑問を覚えるのであった。
―――*―――*―――
「えー、言わないとダメ? アレだよアレ、謎って素晴らしいと思うんだよな、うん」
「あんたねぇ……あんな摩訶不思議ばっかり見せられたら気になるに決まってるでしょう!?」
「そ、そうだね。確かに気になるかな」
ケルディックからの帰り道。
列車内は、疲れよりも先に疑問解決が先の一同。ルナリア自然公園でスレインが見せた、見たこともない現象を言及している最中である。
「私も気になるぞ?
アリサ・エリオットと続いて、ラウラまでもが疑問、もとい尋問をぶつけていく。
勿論、言いたくない訳ではない。今回の様な特別実習が続くのであればいずれバレるもの。実際言った所で全く問題がないので、ただ勿体ぶっているだけなのだ。
「あー、分かった分かった。説明するって。但し、口出すのは質問タイムだけな?」
そう言った途端に、一同はワクワクした面持ちでスレインの言葉を待つ様に沈黙する。
「どっから話すかな……まずは、俺の特殊能力か。俺は、アーツと違って、魔術っつうのかな?そう言った普通じゃあり得ないアーツの様なものが使えるんだよ。これは俺自身、どういうもんかっては説明出来るけど、何で出来るのかは分からない。だから理由は聞くな。んで、それを使って武器を精製している。といっても、ちゃんとした武器ではなくて、数回打ち合えば粉々になる模造品。だからああいう使い方になるんだ」
ここで一端言葉を止めて一同を見ると、全員が同じ表情をしている。目を丸くして口を開ける、一般的に言うアホ面という表情だ。
しかし、それをお構いなしに更に言葉を続けていく。どのみち質問は後回しなので、発言権は自分しかない。
「んで、領邦軍に使った技は、あん時言った通りオリジナルのアーツ。今言った魔術的なやつを使える事の副産物的なものもあるんだが、ARCUSの改造をする事で俺のその力をアーツに変換する事が出来る。これも原理は一切不明。何故か出来た。とりあえずこんな感じかな」
求められた疑問に対しての回答が終わると、一同は先程の表情を数秒維持する。その後、まだ納得しきれていない表情で各々が疑問点を並べていく。
「それはつまり……己は武器が必要ないという事か?」
最初に質問したのは意外にもラウラだった。
ちなみにスレインが最初に質問すると思っていた少女は、疑問点を順に並べ替えている様な小難しい表情をしている。
「それはちょっと違うな。さっきも言った通り、数回打ち合えば消滅する。都度精製するって戦い方もアリなんだけど、それは乱戦や混戦の中であったり余程の強敵の場合だけだ。それにアーツと同じで魔力を使うからな。普段はちゃんと得物を使うぞ?」
スレインの言葉に納得出来なかったのか、「ふむ」と一言だけ呟いて再び沈黙に移るラウラ。
そのタイミングを逃さず、待ってましたと大本命が矢継ぎ早に質問をしていく。
「ちなみにARCUSの改造ってどの程度のものなの? 魔術?を変換出来るとなると構造自体も変わっているのかしら? アーツとどの程度違うものなの?」
「ARCUSの改造に関しては、正直言うと全部だ。フルカスタマイズと言ってもいい。導力エンジン・スロット部分・スロット数・クオーツラインシステム。言い出せば切りがないから後で見せてやるよ。んでもって、構造上は同じでも導力エンジンを
ちょっと専門的な内容を含んでいたので、他の三名は理解し難い表情を浮かべている。
それも無理はない。導力学に少し詳しいアリサでさえも理解していない表情なのだ。
「ちなみに、ARCUSの改造の効果ってその魔術を使える事以外にもあるの?」
次はエリオットが質問をぶつける。
「いや、それ以外なら殆どが駆動時間の短縮だよ。だからあんな使い方が出来る」
流石に他の戦術オーブメントとの比較をしても疑問を増やすだけなので、ありきたりな回答だけで済ませる。
「スレイン、君の得物って……その騎士剣なのか?」
気がかりがあるが、どう表現すべきか迷っている様な口調でリィンが問いかける。あの夜の事を知らない一同を前にして疑問点をすり替えたのだろう。
「ん? そうだな……俺の場合はラウラやリィンの様に、誰かから師事を受けた訳じゃない。我流なんだよ。だから、騎士剣が使いやすいっていうだけで、他の武器もある程度は扱えるぞ?」
そう言ってリィンの方を強い眼差しで見る。それは「黙っていろ」という言葉を込めた目線。
それに気づいたリィンも微かに頷く事で、そのアイコンタクトは終わるのであった。
「そうなのか。あれだけの剣捌きで我流となれば、どこかの流派を学べば高みへ目指せるのではないのか?」
今度はラウラが自身のアルゼイド流の話を交えながらそう質問をしていく。
しかし、到着を知らせる列車のアナウンスにかき消されてこの話題に終わりを告げるのであった。
「さて、あと数分でトリスタに着くし、タイムオーバーだな。続きはまた機会があれば、だな。今日はよく眠れそうだ」
大きな伸びをして列車を降りる準備をするスレイン。同じく下車準備をしている一同を横目に、罪悪感と嫌悪感を抱く。
自分が何者なのか。何故こうなったのか。それを隠して話した所で、それはただの自慢話だ。
「(……そんな優等生じゃねぇんだよ、俺は)」
そう小さく呟いた言葉は、ゆっくりと停止していく列車の揺れとブレーキの摩擦音にかき消されていくのであった。
スレイン君の能力が垣間見えたお話です。
こんな話をして黙っていられない方がⅦ組にはいるので、次回はその辺りも含めて書いていこうと思います。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました。