英雄伝説 魔の軌跡   作:閃の細道

13 / 34
やっと第二章が始まりました。

今回はサラ教官とスレイン君の過去が垣間見えます。

その為、事実上Ⅶ組メンバーは殆どお休みです。すみません……


それでは、第13話、始まります。


PS
なんと感想を頂きました!
見た途端、飛び跳ねました。ありがとうございます。
私の様な幼稚な文章でも感想等を書いて頂けると泣いて喜びます。
重ね重ね御礼申し上げます。

※2015.08.17 修正


第2章
知っている記憶と知らされない過去


 

「だから、やらねぇって言ってんだろ? もういい加減にしろよ」

 

 少年はそう言って、背けたままだった目線を目の前の少年たちに目を向ける。

 

 5月23日午前6時。今日は自由行動日。

 身体を鈍らせない為に行っている早朝トレーニングから帰宅してシャワーを浴び、リビングルームでコーヒーを飲んで優雅な一時を過ごしている……ハズだったのだが、ついにその時間にまで侵される事になった。

 先日から拒否しているこの会話を続ける犯人は、リィンとラウラ。

 

「手合わせくらい良いではないか。減るものではあるまい。それにリィンとはしているのに、何故私はダメなのだ?」

 

「あのな、あれは不可抗力。偶然。たまたまなんだよ。そういうのは二人でやればいいだろ? お互い切磋琢磨し合って剣技を磨く。それってお前らで完結出来る話じゃないか」

 

「でも、正直、俺ももう一度手合わせしたいんだ」

 

 リィンがうっかり口を滑らせて、ケルディックで手合わせをした事をラウラに話してから、毎日の様にこの状態なのである。

 真っ直ぐな性格のラウラだからこそ、一切引けをとらないこの対応がまた、正直言うと面倒なのである。

 

「そんなに手合わせしたいなら、サラにでも言って実技テストに織り込んでもらえばいいだろ? 俺個人は絶対にやらないからな」

 

 そう言ってコーヒーを飲み干すと、スレインは学院に行く準備を名目に部屋に戻っていくのであった。

 

「(手合わせやったら次は指導とか言いかねないからな……おいそれと合意出来るかっての)」

 

そう心で呟くのであったが、先程二人にかけた言葉が、いとも簡単に実現してしまうとは思ってもみなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「おい、サラ。これは一体どういう事だ?」

 

 時刻は少しばかり進んで同日、午前11時。場所は学院のグラウンド。

 数分前にⅦ組の担任教官のサラからの着信を取ると「今すぐグラウンドに集合」と一言だけ告げて電話が切れた。

 仕方なく指定の場所に向かったのであるが、そこにリィン・ラウラの二名がいた事で今朝方の会話を後悔した。まさか本当に打診して、そしてサラが許可するとは。

 

「いやね、この二人が手合わせしたいけど拒否されるっていうから。実技テストの補修じゃないけど、補講って感じ?」

 

 そう言ながらウィンクをする女性。決まりだ。サラは半分以上、否、9割は楽しんでいる。

 

「はぁ……サラの性格まで考えて発言すればよかった」

 

「ははっ、とにかくこれで手合わせしてくれるよな?」

 

 リィンはそう笑いながら告げると自身の得物を取り出す。ラウラも同様に「頼むぞ」と意気揚々に構えだす。

 

「まぁ、いいんじゃない? あたしも見てるし一応授業で通せるから。それに、私も久しぶりに見たいのよ、あんたの腕をね」

 

 もう逃げ場はなく、諦めた様にため息をついてから二人を見据える。

 

「分かったよ。やればいいんだろ。二人共戦術リンク使って全力で来い」

 

 騎士剣を左手に精製して構えると、目の前の二人は戦術リンクを繋げて臨戦態勢に入る。

 それと同時にサラが発した開始の声が、グラウンドに鳴り響いた。

 

「ああ!」「承知!」

 

 初撃がどう出るかは簡単に予想が出来る。両者とも前衛であるあの二人はリィンが遊撃、ラウラが本命ってところだろう。もしくはタイミングを合わせて突撃。そして、戦術リンクを駆使して迫撃しこちらからの反撃タイミングを奪う。手段としてはまずまずであるが、逆に言えば今のこの二人ではこれ以上の戦略的思考がない。

 

 

―――キィン―――キィン!!

 

 

「むっ!?」

 

「なに!?」

 

 スレインの予想通りの結果となった。

 こちらの行動を阻害する為にリィンが横から八葉一刀流『紅葉切り』を繰り出す。それと同時にラウラが正面からアルゼイド流『鉄砕刃』を放っていた。

 読みきっていた結果であった為にスレインは一歩も動かずそれぞれをいなして弾き返す。

 

「おいおい、それは安易な行動だな。あと二、三手は工夫しないと俺を動かす事すら出来ないぞ?」

 

 その言葉と同時に息を呑んだ二人は再び攻撃を再開し、剣戟の音がグラウンドに響いた。

 

 

 

 

 

 ―――10分程経過した頃には、片膝を地につき、得物に重心を任せて息を上げる二人の姿があった。

 

「はぁはぁ……これ程までに差があるのか……」

 

「これだけ打ち合っても動かす事も出来ない、か……流石だな」

 

「お前さん達は性格が良いから、良くも悪くも剣も素直なんだよ。だからこそ読みやすい。少しはひねくれた方がいいぜ?」

 

 スレインは未だにその場から動かず言葉を続ける。

 

「立てよ、邪道の戦い方を見せてやる」

 

 そう言って彼は腰を低くし、左手に持つ騎士剣を構え直した。ついに動く。そう察知した二人は立ち上がり剣を構え直し、目の前の少年を見据えた。

 

 すると突然、目の前から少年の姿が消えた。それと同時に二人は手に強い衝撃を感じ、視界は空を見ていたのだ。

 

「「え?」」

 

―――ドスン!

 

 二人はそのまま尻もちをついて着地。

 何が起こったかさえも分からない不可解な顔をして目の前にいる少年を見ると、体勢こそ先程の構えではなかったものの変わらず同じ位置に立っている。

 

「あんたね、流石にそれは反則じゃない? わたしも見えなかったし」

 

「仕方ねーだろ? あのまま続けてたら一日無駄になる」

 

 そう言った彼の左手に持っていた剣は消えていて、この手合わせが終わったのだと悟る二人が彼に問いかける。

 

「……何が起きたのだ?」

 

「スレイン、教えてくれないか?」

 

「んあ? 簡単な事だよ。剣をさばいて足払いしただけ。コンマ5秒ってとこか?」

 

「「「嘘でしょ……」」」

 

 その場にいたサラまでもが同じ言葉を口にする。

 

「ま、そういう事だから、手合わせは終了な。二人はもう少し戦略的に戦う事を覚えろ。アーツで自己強化をするなり攻撃するなり……真正面から突っ込むだけじゃないって事を理解すれば、もう少しマシになるだろーよ」

 

 そうして今回の手合わせの結果を評価していく。これで自身の生活に安寧がもたらさせると思い、ひと通り話し終わった所で二人は満足気に「またよろしく頼む」と言って去っていった。

 その説明の間中ずっとニヤついていた女性が一名いたのだが、二人の姿が見えなくなった後に口を開いた。

 

「あんたがあんな丁寧に教えるなんてねー。いいもの見たわ♪」

 

「ここで中途半端にしたら追求されるだろ。ただでさえ手合わせの次は、指導だ指南だ言ってきそうだしな」

 

 言葉の後にため息を付いて二人が去っていった方向を見る。というより、人数が増えるとかもありそうだ。なんだか面倒事に足を突っ込んでしまった様にも感じてしまう。

 

「あ、そうそう。あんたちょっと付き合いなさいよ。どうせ暇でしょ?」

 

 既に腕を掴まれている状態で同意を求める意味が分からない。

 しかし、暇である事は間違いないので掴まれた腕を解いて横を歩く。

 

「ちなみに何に付き合うんだ? 酒は勘弁しろよ? お前さんの相手は面倒だからな」

 

「あんなの見せられたら、あたしだって疼くのよ。手合わせよ♪ て・あ・わ・せ♪」

 

 こうなる予感はしていた。サラは元A級遊撃士である。更に言えば、最年少でA級になる程の腕前。

 1年以上も学院の教官をしていれば、その腕前と勘が鈍るかを危惧するのは当然と言えば当然の事だ。

 しかし、この学院、サラの手合わせ相手なら困らない程層が厚いと思うのだが、何故自分を選ぶのかが分からない。

 

「さて、この辺りでいいかしらね」

 

 歩みを止めた場所は、トリスタから出て街道を100アージュ程進んだ所にある、少し開けた広場の様な場所。

 

「これだけ離れるって事は、本気……出すのか」

 

 スレインはやれやれと言った表情でため息を1つ。

 最近ため息ばかりな気がするが致し方ない。それだけ面倒事が増えているのだと自分に言い聞かせてその思考を止めた。

 

「ええ、あんなの見せられたら特に、ね」

 

 ウィンクをして微笑んだ後、一瞬の間を置いて真剣な面持ちになるサラ。どうやら本気で打ち合うらしい。先程の動きが見えなかった事が気に食わなかったのか、彼女は闘気を纏いながら紫電を発生させていく。

 

「あらあら、久しぶりに見たけど、相変わらず華麗だな。ま、最近、消化不良気味なのは俺も同じなんだ。楽しませてくれよ、紫電の」

 

 言葉と同時に少年は青白い闘気を纏う。そしてその手には二振りの剣が握られている。

 二人の闘気に干渉されるかの如く、周囲には小嵐が吹き荒れる。風が吹く事数秒。ピタリと止んだタイミングで戦いの火花は切って落とされた。

 

「紫電のバレスタイン、参る!」

 

「スレイン・リーヴス、行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……あ……スレイン? て、あんた本気であたしを殺そうとしたでしょ!? あの角度でアーツなんて打つ普通!?」

 

「いや、サラだって『オメガエクレール』まで使ったじゃねぇか。お互い様だ」

 

 意識を戻した途端に暴言を吐くサラ。その傍らにはサラの怪我を治療するスレイン。回復早々これなら手当ももう十分だと思いながら暴言に言い返す。場所は第三学生寮、サラの自室である。

 

 先程の手合わせは三十分程続いた。一撃一撃は必殺の一撃。もし、Ⅶ組の者が見ていたら、その戦いの9割は目で追う事すら出来なかっただろう。そう、二人の戦いは達人級のそれであったのだ。

 結果はスレインの勝利。

 スレインの踏み込みから放たれた二連撃を交わしたサラ。その懐に高位アーツが放つも、雷のアシストと遊撃士で鍛えられた勘で回避し間合いを取られる。そこで必殺の戦技(クラフト)『オメガエクレール』を放たれた。しかし、連撃を全てガードされ、攻撃後の隙を付かれて後ろ首に剣の柄先で刺突されて意識を失ったのだ。

 言葉で説明するのは簡単だが、もはやスレインのそれは達人の域を越えている動きであった。

 

「いつ『アダマスガード』を使ったかも知らないってのに……ったく、あんた、どうなったらそこまでになるわけ?」

 

 ベッドに横たわってた上半身を起こし、椅子に腰をかけていた少年に目線に合わせて言葉をかける。

 自分が知っている少年は確かに強かった。しかし、先程打ち合ったそれは、明らかに自身の記憶を凌駕している。

 

「まぁ、あれから色々あったからな……よく言うだろ? 自分と向き合うと強くなれるってやつ?」

 

 少年はぶっきらぼうにそう答えて、目の前の女性から目をそらす。実際の所、それは間違っていない訳ではない。

 あてもなく放浪をしていた自分に、手を差し伸ばしてくれた人がいた。その人の元で行動するうちに明確な目標が見つかり、その異形の力に向き合う事を決めた。しかし、それだけが答えでもないのもまた事実としてある。

 

「自分と向き合うだけで結社相手に渡り合えるもんですか……あんたがいなくなったのが二年前。急に現れたのが一年前。そして、半年前にまた現れた。何をしてるかは教えてくれるけど、あの時も含めて何があったか(・・・・・・)は教えてくれないじゃない……こっちは心配してるのに」

 

「だから言ったろ、時が来たら教えるさ。心配してくれるのはありがたいが、言える事と言えない事ってあるんだよ」

 

「そういうのが心配なのよ! こっちの気持ちも知らないで、いつも飄々と現れて肝心な事は言わないでいなくなって……心配してる身にもなりなさいよ!!」

 

 あまり感情的になる事のないサラが、珍しく声を荒らげる。それに驚いて逸らしていた目線を戻すと、そこには瞳を潤ませて不安そうな表情をしていた。

 

「あんたはいつも無理し過ぎなのよ……。たまには頼っていいんだから。二度も命を救われてるのよ? あたしにもあんたの事を救いたい気持ちはあるのよ……」

 

 女性は優しく抱擁してからそう言葉を告げた。その声は震えている。

 普段こんな事をする女性ではないし、性格こそあれだが、見た目はそこいらの女性よりも数段美人である。いかにスレインといえども、流石に照れるし焦る状況である。

 

「わ、わかったから落ち着けって。いつも言ってるんだが、訳あって言えない部分もあるし俺にも分からない所があるんだ。だから全部片付いたらちゃんと話すさ」

 

 そう言って彼女の頭を撫でる。今の自分にはそれしか出来ない。

 知っている事すら言えない自分と、真実を知らず多くを語れない自分に、苛立ちと嫌悪感を抱いて強く歯軋りをしてしまう。

 

 一頻り自身の感情を言った事で落ち着きを取り戻したのか、少年の言った言葉に納得が出来なかったのか。この状況は数秒で終わりを告げた。

 自身から離れて窓の外を見つめる女性は、あれから口を閉ざしてしまった。流石にこの状態で居続ける程の朴念仁ではないので、その場を後にする。

 

「(もう遠くに行かないでよ……あたしも守れる力を付けるから……)」

 

 既に日没に迫り、オレンジ色に染まるトリスタの町並み。窓から見える景色はいつもより眩しく目に映る。

 その綺麗な夕焼けはどこか哀愁が漂っていて、陽が落ちるまではこの感情を持っていようと思わせるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 七曜暦 1202年 某日

 

協会(ギルド)が襲われている!? 一体だれが!?」

 

「分からん。とにかく他に行け。サラ達が帰ってくるまでは持ちこたえるが……今のお前さんにはまだ荷が重い連中だ。いいか、スレイン、とにかく帝都には戻るなよ」

 

 矢継ぎ早にそう告げて通話が切れる。一体何があったのだろう。遊撃士協会が襲われるなんて話は今まで聞いたことがない。

 そもそも、民間人の保護を第一とする遊撃士が狙われるなんて事自体があり得ない。政治家共から嫌われているのは分かるが、そんな表立って行う様な劣悪な関係ではないハズだ。

 少年はそこまで考えた途端、居ても立ってもいられない胸騒ぎがした。何かが起きている、否、これは何か大きな事件の前触れの様なそんな気がしたのだ。

 

 現在位置は帝都ヘイムダルから、北に200セルジュ行った先にある森林。時刻はもうすぐ日付が変わろうとしている。

 依頼の期限が明日であったが、その採取の難易度から誰もが手付かずだった『ドリアードティア』の採取。この依頼達成する為、近場の森林で片っ端から探して行ったらこんな時間になってしまった。

 

「くそっ、どうする……」

 

 電話口であんな事言われたが、依頼もあるし帝都を離れる訳にはいかない。

 そもそも、そんな状況なら手助けに行くのが筋だが、準遊撃士の自分が向かっても足手まといだと言うのは先程の会話ではっきりしている。身動き出来ずに思考を巡らせる事数分。その思考を遮るのは、聞き覚えのある一人の女性の声だった。

 

「あんたたち! そこで何してるの!? まさかとは思うけど、遊撃士協会を襲撃した連中……かしらね」

 

 遠くで聞こえた女性の声は、誰かと接触した様であった。その会話の流れで息を呑む。声は森林の外、遊歩道から聞こえるので、自分の存在は恐らく感づいてないだろう。とにかく状況を確かめるべく、足音を立てずに声の場所まで向かった。

 

「くっ、紫電(エクレール)か。情報にもあったがこいつは要注意人物だ。ここで潰すぞ」

 

「「「「「ja(ヤー)」」」」」

 

 紫電と呼ばれた女性、サラ・バレスタインはA級遊撃士であり帝国内でも屈指の遊撃士。

 その女性を要注意人物と表現した、全身黒尽くめで仮面を被っている者達。間違いなく協会を襲撃した犯人グループだろう。敵の数は五名。

 サラであれば問題がない数であったが、物陰に隠れて様子を伺っているスレインは、ふと違和感を覚えた。

 

「(サラを知っていて要注意と表現するのに、五人でやり合うっておかしくないか? でも伏兵がいればサラが気づくハズ……それだけ連中も凄腕って事なのか?)」

 

 自身への問いかけの解が出る前に、目の前で戦いが始まった。

 

 

―――キィン―――――ギィン−―キィン!!

 

 

 月夜の中に響き渡る剣戟の音。いくら五人掛かりといえども、紫電(エクレール)の異名を持つ腕前のサラを相手にして、致命傷を受けずに戦いを続けている。やはり相当の腕前の集団である。

 

「あんた達、猟兵ね? 見ない格好だけどどこの猟兵かしら?」

 

 間合いを取ったサラはそう告げる。戦い方が命を刈り取る明確なそれである事から、そう検討を付けていた様だ。

 

「ここで命を落とす者に名乗る義理はない。お前たち、プランBだ。いくぞ」

 

 リーダー格の者がそう告げた瞬間、五人の猟兵はそれぞれが赤黒い光を帯びて散開し、目にも留まらぬスピードでサラに迫る。

 先程は手を抜いていたのか、それとも必死の抵抗の現れなのか。とにかく今までのそれの倍以上のスピードである。

 

 

―――キィン―――バシュッ――ギィン−―――キィン――――!!

 

 

「はぁはぁ……何者だか知らないけど、まさかここまでやるとは……。早く戻りたい所だけど、今のはちょっと効いたわね……」

 

 目の前では五人の猟兵が横たわっている。どうやら気絶させたのだろう。しかし、相手を無力化させる事に成功したサラも、満身創痍の状態に近かった。

 自身の命を顧みぬ突撃を相手にするのは、いかにサラであっても苦戦を強いられる程だったのだ。流石に無傷という訳にもいかず致命傷はないものの、所々から出血をしている。直ぐに立ち上がるのも難しい様であった。

 

「(……ん? 今、何か光ったような……)」

 

 その時、自身と対角線上にある森林から、何かが光った様な気がした。

 視力には自信があるので余計にその光が気になり、目を凝らして自身が感じた光の出処を探っていく。

 

「(あれは……銃口? ……まさか!?)」

 

 夜目を凝らして見てみると、その銃口は恐らく、目の前で膝を付いて息をしている女性に向けられてる。猟兵共の狙いは元からこれであったのだ。

 五名が決死の覚悟で大きな隙を作り、気配を察知されない距離から狙撃。これなら間違いなく死角から標的を葬れる方法だ。

 しかし、そんな事を考えている場合ではない。自分が遊撃士になってからずっと世話になっている女性が目の前で狙撃されようとしている。

 声をかけても間に合わない。そう悟ったスレインはもう一度闇に光る銃口を見上げた途端、自分の思考が止まる間もなく駆け出していた。

 

「サラ! 伏せろ!」

 

「な、誰!? って、え、スレイン!?」

 

 声を上げたのは同時だった。加速アーツ『クロノドライブ』を詠唱しても間に合わない。かと言って、いきなり現れた自分に困惑している彼女は動作が数秒遅れている。

 サラから銃口がある森林に再び目を向けると、距離が少し近くなった影響か狙撃手をしっかりと確認する事が出来た。

 しかし、この状況で引き金を引かない狙撃手なんていない。自身が先か狙撃手が先か、そのどちらかである。

 

「(頼む、間に合ってくれよ……)」

 

 心でそう呟いて、女性と狙撃手の間に割って入る。正にその瞬間であった。

 下腹部に強い衝撃を受けた。位置からして後ろの女性の頭部を狙っていたそれは、自身の身体に穴を開けていた。

 

「ぐっ……うぁ……」

 

 消音器(サイレンサー)が付いていたのであろう。銃声は聞こえなかった。

 心臓に喰らった訳ではないから即死は免れたが、声にならない痛みで意識が飛びかかり崩れ落ちる。霞んでいく視界で狙撃手がいた場所を見ると、そこにはもう誰もいなかった。

 

「え、ちょ、スレイン!? 大丈夫!? スレイン!?」

 

 一瞬の間を起き、何が起こったかを悟る女性。自身を庇ってくれた少年を抱きかかえ必死に声をかける。

 視界どころか意識すら霞んでいく中で、口を開ける事は出来なかった。辺りに広がる鮮血を気にせず、こちらに声をかけているサラに「協会へ行ってくれ」と一言だけ告げる。

 自身が世話になった憧れの女性を守れた事で満足したのか、微かに微笑んだ後にそのまま暗闇へと誘われていった。

 

 

 

 後に『帝国遊撃士協会支部連続襲撃事件』と称されたこの事件は、この日を堺にエレボニア帝国内各地の遊撃士協会支部は相次いで襲撃され被害を受けていた。

 数日後に、帝国へ到着したS級遊撃士カシウス・ブライト指揮のもとに事態は終息、犯行はジェスター猟兵団によるものと判明した。

 しかし、サラ・バレスタインの証言のもとに行っていた、行方不明者(・・・・・)スレイン・リーヴスの捜索は実らず、失踪扱いのまま事件解決となったのであった。

 

 そう、この事件こそがスレイン・リーヴスの運命が激変した一日なのであった。

 

 

 




なんか終わり方に難ありな気がします。申し訳ありません……

スレイン君は二年前はそれほど強くないのですが、それども一般的なレベルを超える程度には強いです。
だからこそ、銃撃の前に立ち塞がれた訳ですが……その変の話も今後書いていく予定です。

では、今回もお読み頂きありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。