オーブメントの勉強の為にと思ってセプトアーカイブスを買ったら、導力関係が全く載っていなかった……
別の使い方でしっかり役立てようと思います!
それでは、第14話、始まります。
※2015.08.17 修正
5月26日。
現在、実技テスト真っ只中であるⅦ組一同は、解決出来るまでは否応無く立ち塞がる大きな確執に頭を悩まされている。
前回の実習を経て、溝を更に深いものとしているユーシスとマキアス。
それを知っているからこそ、担任教官はその二人を同じチームして実技テストを行った。それが前回よりも酷く、声をかけられる様なものにならない事は、誰が考えても予想出来る結果であった。
「はぁっ……はぁっ……」
「…………ぐっ」
ユーシスとマキアス。それにエリオット、フィー、エマのチーム編成であった。
前回と同じく戦術殻を用いて行われた実技テストは、結果だけ見れば今回も撃破には成功。
しかし、それはフィーの多種多様な抑揚のある攻撃と、エリオットとエマの多彩なアーツが尽く華麗に着弾した結果であり、
そもそも、前回同様に”戦術リンク”が繋げない事が一番の問題点である。
戦術リンクとは、繋いだ者同士の意識を共有し心情や思考などを受け入れる事である。つまり深層心理で理解する必要があるのだ。そこまで相手に入り込めない場合、リンクは容易く途切れてしまい戦線の崩壊を招く。事と場合によっては言葉通り死活問題に繋がっていく。
しかし、あの二人はリンクを“繋ごうとした途端”に途切れたのだ。前回の実技テストでは”繋いでから”途切れたので、今回はそれ以下という結果となっている。
「なぁ、ガイウス。そんなにヤバかったのか?」
前回の実習で共に過ごした長身の少年の方を向いて声をかけると、苦笑いと共に無言で頷く。
「(どうしたもんかねぇ……)」
そう呟きながら、自身のARCUSを取り出し見つめてみる。この行為自体に意味はない。
設計に携わった自分が言うのも何だが、そんなに難しい様に造った覚えはないし、活用してもらえないはちょっとばかり残念であるのは間違いない。
因みにこれより前で行ったリィン、アリサ、ラウラ、ガイウス、スレインのチームでのテストは、何の問題もなく終了している。
後衛に物足りなさがあったので、自身はアーツ役を担当した。旧校舎探索や特別実習で実戦経験をしっかりと積んでいる他の4名の連携は見事な結果となり、合格点より非常に高い水準の結果となっている。
「うーん、分かっていたけど、これは酷過ぎるわねぇ」
サラもの口からも同じ様な感想が出てくる。ため息を一つついて「特にそこの男子二人はしっかり反省しなさい」と告げるのであった。
納得がいかない様子の二人であったが、これ以上場の空気を濁す訳にはいかない事を察知したのか、互いに鋭い眼光を交し合いながら、元の位置へと戻っていった。
しかし、その沈黙はいとも簡単に破れるのである。原因は、前回と同様、特別実習の班分けであった。
【5月 特別実習】
A班:リィン、エマ、マキアス、フィー、ユーシス、スレイン
(実習地:公都バリアハート)
B班:ラウラ、アリサ、エリオット、ガイウス
(実習地:旧都セントアーク)
人数的に不釣合いな気もするが、今回はそれが問題ではない。ユーシスがA班なのも実習地からして分かる。
しかし、そこにマキアスを入れ込むとなると、二重の問題が発生する。ユーシスと同じ班というのはもちろん、貴族制度が一際目立つ街に送り込むとなると、正に獅子身中の虫。騒がない訳がない。
「じ、冗談じゃない!!」
「茶番だな。こんな班分けは認めない。再検討をしてもらおうか」
更にはユーシスも、当たり前かの様に不服の感情を露わにする。
正に犬猿の仲。どちらかが譲歩しない限り、歩み寄る事は決してできないこの二人。班分けを見たⅦ組一同、そしてサラもこうなる事は理解していたである。
しかし、この班分けを見る限り、それを解決する為の班分けである事は理解している。この状況が続けば、最悪のケースどちらかがⅦ組を去る危険性がある。それがどういう意味であれ、実現されるとⅦ組全体に波紋が広がり、存続も危うい状態に成り兼ねない。
そこで白羽の矢が立ったのが前回のA班のリーダーであるリィンだろう。
前回の実習では、出発前にアリサ、一日目夜のラウラとちょっとしたいざこざがあったのだが、問題の中心にいたにも関わらず解決している。その手腕にかけてみる。というのが担任教官殿の考えだろう。
そこに自分が一緒という事は些か不満はあるが、ある意味自分もそれに関係しているので、敢えて考えないようにしていた。
が、しかし、「とりあえずこの場は沈めないと話が進まない」という生暖かい目線が、目の前にいる担任教官から注がれている事に気付く。「自分でやれ」と心で呟きながらも、仕方ないから口を開く。
「とりあえず二人共落ち着け」
「この状況で落ち着いていられるものか! 俺は断じて認めんぞ!」
「君は黙っていてくれ! これは嫌がらせにも程がある!」
ユーシス、マキアスと続いて言葉を遮る。
こんな言葉で留まる事は考えていなかったが、周りも先程より不安な表情が強くなっている。少しばかり怒気を含ませる必要がある様だ。
「お前ら、ちょっと黙れ。ユーシス、お前が認めないのは結構だが、いつからそんな立場になったんだ? マキアスもそうだが、嫌がらせだからなんだって? 決定事項を覆せる程の嫌がらせだと誰が認めると思うんだ?」
今までと異なり冷酷な口調でそう言い放つスレインの目線は、二人が言葉を失う程の威圧感が含まれていた。
「お前らがどう思ってようが勝手だがな、士官学院がどういうものか考えてんのか? 組織行動を知らないヤツが上の命令を覆せると思うなよ?」
士官学院はその名の通り軍事機関である。組織行動を含めて、軍人としての規律や行動を学ぶべき場所。今はまだ学生として学ぶべき立場の為に意識が弱いのかもしれないが、軍に入れば組織行動は当たり前。個人の感情に関係なく命令は下される。更にそれを学ぶべき立場にいる以上は認めない行為など論外である。
「くっ……」
「そ、それは……」
「分かったならこの場は落ち着け。今後どうするかはお前ら次第だが、これ以上背くのであれば、Ⅶ組全員を敵に回す事を覚えておけ。それが組織行動ってやつだ」
その言葉の意味を理解できない程、この二人は落ちぶれていない。
だからこそ、わざと一番起きてはいけないケースを例えに使ってこの場を鎮めるスレイン。
「―――詭弁だ。それでも俺は貫かせてもらう。この班分けには反対だと」
そう言う事も予想済みである。
どれ程口が上手くても、どれ程それが本心から出た発言であっても、どれ程自身よりも幾分が大人びていても、“同じ立場”から言われるそれは、理解出来ていても認める事は出来ないものである。
それはマキアスも同じだろう。なまじ出自が良いこの二人であれば、それは間違いなく直ぐに認められない事なのだ。
だからこそここから先は何も言わなかった。こういった問題は本来、上の立場から圧倒的な理由で押し付けるしか解決の方法はない。力であれ言葉であれ、同じ目線ではない意見が必要である。
そう、この場合は担任教官の言葉である。
「……まぁ、私だって士官学院の教官とはいえ軍人でも何でもないし? 命令してるつもりでも何でもなかったから一応、君たちの言い分は聞いてあげてもいいかなって思ってたんだけど―――ちょーっと気が変わったわ」
ニッコリとした笑みをしながら言葉を告げるサラ。
表情こそ笑っているものの、その態度は謂わば臨戦態勢のそれであった。一同が強張り、身構えたその時、サラは言葉を続けていく。
「”意志を貫くのに必要な力”。アタシは”力が全て”なんて面と向かって叩き付けるほど、完全実力主義を気取ってるわけじゃないけれど、そこの生意気な子の言う事にも一理あるわ。アタシは君たちの担任教官として、その現実を教える義務がある。それでも異議があるって言うのなら―――それを貫けるだけの力を見せてみなさい」
表情は変わらずに笑顔。しかし最後の言葉に乗せられるそれは、紛れもない強者の重圧感そのものである。
プレッシャーで心臓を握られるその感覚。今までそれらとは無縁であった少年少女たちにとって、この状況こそ言葉通り、危機的状況であった。
「(ま、それが無難だわな)」
サラ曰く、実技テストの補修という名目となったこの仕合。そこにはなぜかリィンも混じっており、三名が得物を構えるのに合わせてサラも武器を構える。
導力銃と剣。その装備を見た途端、一同が息を呑むのが分かる。それはそうだ、こんなデタラメとも言える装備をする人間が弱い訳がない。
「ありがとうございます。一度肌で感じてみたかったというのもあります。―――サラ教官の強さを」
「―――上等」
紫色の闘気が、彼女の周りを包み込む。
その迫力に気圧されながらも、彼らの視線はただ、目の前の強者のみに注がれていた。
「さて―――始めましょうか」
当たり前であるが、結果は一方的であった。
既に立ち上がる事もままならない二人と、膝を付けて自身の太刀を支えに立ち上がろうとする少年。
その姿に相対するのは、息が上がる事もなくニッコリと微笑む女性。
「……ユーシスとマキアスの二人はまぁ予想通りだったけど、リィンは結構保ったわね。旧校舎探索の影響かしら」
「ええ、ですが、まだまだです。ありがとうございます、教官」
確かにリィンは動きこそ読めていない様に見えたが、勘が良かったのかある程度までは食らいついていた。ケルディックの時よりも、この前の手合わせの時ともまた違う、明らかな成長度合いを見せるものだった。
「(あいつ、化けるかもな)」
スレインは心の中でそう呟くと、こちらに視線が注がれいる事に気づく。しかも、悪意のあるそれである。
「(なぁ、フィー。あいつ、こっち見てないか?)」
「(だね。消化不良って顔に書いてある)」
そんな小言を隣の少女と言っていると、視線が明らかな凝視となりこちらに対して二人を前に出る様に告げていた。先程の三名が一同の中に入るのと入れ替わりに二人が前に出て行く。
しかし、指示されたポジションが違った。フィーはサラの横。対して前にはスレイン一人。
「あんた達、全員そうなんだけど、特にユーシスとマキアスはしっかり見といた方がいいわよ。上に歯向かう力を持っている者の戦いをね。フィー、久しぶりだけどリンク繋げるわよ」
「ん。久しぶりにスレインとやり合うから本気出す」
二人は楽しそうにそう言って、戦術リンクを繋げる。対して一同はフィーが付くべき場所が違う事に異を唱える事も忘れ、目の前の戦いに緊張が走る。
「なぁ、サラ。俺は歯向かうつもりがないんだが、何故そういう言い回しになる?」
「そんな事気にしないの♪ 負けっぱなしじゃ性に合わないし、仮にも教官だからね、今回は本当の全力で行くわよ!」
「ったく、んな事言って増援付けてりゃ世話ねぇな。お前さん達、あと1セルジュ程は離れないと巻き添えくらうぞ」
その言葉の意味を本質的に理解した一同は、そそくさと後退する。既に目の前の三人は、自分たちが放つ闘気と比べ物にならないそれを身に纏み始め、既に臨戦態勢となっている。
「じゃ、リィン。立会よろしく」
無言で頷きリィンは半歩だけ前に進み、一呼吸置いてから開始の合図を告げた。
両者は言葉が聞こえた瞬間に既に標的を目指して突進をしていた。
サラとフィーの銃撃の牽制を、身のこなしだけで交わしていく。自身の間合いに突入すると、フィーよりも数歩前にいたサラに斬りかかり剣戟の音が響く。
しかし、体重を乗せたサラの一撃が当たる瞬間に、ブレーキをかける様に身を引き勢いを殺してから左へいなす。そのいなした流れで身体を反転させてフィーに向き合い、たった一歩でフィーの目前まで到達し、そのまま斬撃を浴びせていく。
その時点で既にサラが挟み込む様にして背後から一撃を加えようとしたと所で、スレインは上空に高く飛び上がり、開始地点まで舞い戻ってくる。
「何よ、あの体捌き。いつの間に覚えたのよ」
「早いっていうか、柔らかい?」
距離を置いた事で会話の時間が生まれた様だ。サラとフィーがそれぞれ初撃の感想を述べている。
「別にこれくらいはいつでも。目で追ってる訳じゃないから」
スレインの言葉が合図になったのか、再び両者が激突する。
「はぁー! これはオマケよ!」
「せーのっと! 『スカッドリッパー』!」
サラが剣に雷を纏わせ飛び上がり、渾身の刺突を地面に打ち込み雷を這わせる。それを飛び上がって回避したスレインに銃による追撃を浴びせながら後方に飛ぶサラ。片手に持つ騎士剣で弾いていくスレインの剣戟は、最早目で追うことすら出来ない。
そのタイミングを見計らったかの様に、フィーが突進を仕掛けるが、事もあろうにスレインはフィーの背中に手をついて更に上空へと避ける。フィーが察知して振り返りながらも追撃するが、再び目の前に現れたスレインの蹴撃によって吹き飛ばされる。
「うそ、あれも防ぎきるの!?」
戦術リンクで結ぶ軌跡は絶大なまでの効果を得る。この二人のそれは、Ⅶ組一同のレベルを遥かに上回る卓越した“戦術”と呼べる素晴らしい連携である。
しかし、一同が目の当たりにしているのはその連携だけではない。否、そちらよりもスレインに目が奪われていた。
二人の猛攻を、顔色一つ変えずに完全に防ぎきるスレインの個の実力。それはもう自分達と同じ年齢であり、同じクラスに属している事が信じられない程であった。
「私達との手合わせは、全く持って実力を出していなかったのだな……」
「フィーちゃんの方も凄いですけど……それ以上ですね」
アリサ、ラウラ、エマと目の当たりにする光景を前に口々とそう呟く。男性陣もそれに頷く事しか出来ない。
「お前ら、マジで殺す気かよ!? フィーもそれ使うとかおかしいから!」
「あら、まだ本気出さないアンタに言われたくないわね〜」
「ん、リンクのおかげで使えてるけど、次は本気」
この二人は完全に本気である。即死性の高い暗殺術を使いはじめる辺り、どうやらリミッターが外れてしまったらしい。
久しぶりに強者同士でリンクを繋げた事で身体が疼き、目の前の敵に本気で向かい合う目をしている。
「たく……じゃぁ、期待通り見せてやるよ。
その言葉と共にスレインの周りには数多の剣が精製された。その数は目視で数える事が出来ない程の量。そして両手には双剣を構えていた。
「そうでなくっちゃ♪ いくわよ、フィー!」
サラの言葉にフィーが応じて、今までよりも濃密な闘気を身に纏う。サラは紫、フィーは緑白色のそれは、見とれてしまう程の鮮やかな闘気である。
「『オメガエクレール』!」
「『シルフィード・ダンス』!!」
それと同時に二人の必殺の
その夥しい程の剣戟の乱舞に対して、周囲に展開した剣で尽く封じていくスレイン。顔色一つ変えず全ての攻撃を弾いていくスレインのその姿は、言葉通り『悪魔』の様に見えた。
「いいねぇ〜。フィーも腕上がったんじゃないか? だけど……まだまだだな」
双方から襲いかかる剣戟を防ぎきった瞬間に、隙もなく切り替わった銃撃の嵐が襲いかかる。その中心にいるフィーとの間合いを捉えて、サラから放たれる雷撃を精製され続ける剣を盾に防ぎ続ける。
頃合いを見計らって、フィーに飛び込むと、自身の間合いに入る前にフィーから放たれる目の前の銃撃を自身の双剣で弾く。
この瞬間スレインが無防備になった。
一同がそう感じた正にその時。スレインの身体にアーツの光が輝き、フィーを中心に爆撃と疾風のアーツが合わせて放たれたのだ。
しかし、敵は一人ではない、銃撃と雷の
その刹那、猛スピードでスレインに突進を仕掛ける。スピードと体重が乗ったこの一撃を喰らうと、並の者でなくとも地にひれ伏す。「せめてこの一撃だけでも決めてみせる」と彼女の表情には現れており、既に教官と生徒の関係を忘れて、この戦いだけを見据えている様だ。
「まぁ、これも悪くない……な!」
サラの渾身の一撃に対して、スレインは目の前に10本の大剣を精製すると円状に展開し、一枚の盾の様に並べる。
――――――ギィィン――――――!!
サラの一撃が盾に直撃する。金属同士がぶつかり合う鈍い音がグラウンド内に響き渡る。その爆風に一同は、押し飛ばされない様に身体を構えるだけで精一杯。しかし、この戦いを見届けたい一心で、目線だけは二人をしっかりと捉える。
その時であった。先程と同様に、突如としてアーツの光と共にサラの周辺に爆撃と疾風、更には地割れが発生していた。
「くっ……はぁぁぁぁ!」
それでも勢いは相殺しきれない。サラの意地とも言えるこの一撃は、それほどまでの力が篭っている。正に捨て身の一撃の様である。
「これで最後だ」
スレインの言葉と同時に再びアーツの光が強く現れると、月光の様な無数の光線がサラに襲いかかる。
流石のサラもその連撃には耐え切れず、後方へ大きく吹き飛ばされるのであった。
「痛っ……イタタタっ。あんた、ちょっとは手加減しなさいよ!」
「スレイン、ひどい」
二人に対して回復アーツをかけた途端、これである。さっきと言っている事が真逆な事は、もう否定しないでおく事に決める。
「……なんだったんだ今のは」
「アーツ……だよね? でも予備動作がなかった様な…」
リィンとエリオットがそう呟くと同時に、一同から疑問点が多く出てくる。
どちらかと言うと、この状況の方が面倒である。我がクラスの教官殿に目を向けると、ジト目でこっちを見た後に目線を逸らされる。
「ねぇ、スレイン、あれは説明してもらえるかしら?」
「スレインさん、あれは前回言っていた魔術……ではないですよね?」
お次はアリサとエマが質問する。こうなっては逃げ場がないので、腹をくくって口を開くスレイン。
「あれは正真正銘アーツだ。俺が握っていた双剣にアーツの駆動術式を加えて精製したんだ。ま、端的に言うと、アーツの遠隔駆動を組み込んだだけだ。ARCUSに組み込まれたアーツなら任意で発動できる」
「なっ!? しかし、同時に複数のアーツを打ち込んでいたが、それは!?」
マキアスが声を荒らげているのだが、頭には先程の戦いの事しかないらしい。とりあえず一端、班分けの件は忘れている様だ。
「自分の術式処理が間に合えばいくらでも連射出来るぞ? 下位アーツだったら数十発は撃てる」
その言葉に驚愕する一同。アーツの詠唱時間がない時点で自身の範疇を越えているのに、それを幾重にも連発出来るなんて人外である。
「それにあれほどの攻撃を受けて尚、無傷というのも気になる……」
「あぁ、それは違うぞ、ラウラ。正確に言うと、ダメージを受けたタイミングで回復アーツを使ってただけだ。俺、ARCUS2個使ってるから」
「「「「「「「「「「はい!?」」」」」」」」」
全員が同時に声を上げる。グラウンドにはいい感じに響き渡り、山彦が聞こえてくる様な声量だった。
それもそのはず、入学時に支給されたのARCUSは一つ。そもそも戦術オーブメントを二個使う人物など大陸中探しても自分だけだ。
「えっと……ちなみに、どういう事?」
遠慮がちにアリサが問いかける。もはや一同は空いた口が塞がらない表情から変わらない様だ。
「入学時に支給されたARCUSがメインで、とある筋から貰ったARCUSに、エプスタイン財団からパクってきたENIGMAの機能を移植して擬似ARCUSにしてるんだよ。サブ機の導力エンジンはメインに移行したから、アーツだけ使える様にしてる」
「えっと……ごめん、僕もう限界」
「あぁ、理解し難い状況だ」
エリオットとガイウスが降参の言葉を告げる。確かにこれを理解しようとなると、正直言って時間がいくらあっても足りない。
「しかし、げせんな。戦術オーブメントとは一人で複数使えるものなのか?そんな話聞いた事ないぞ」
ユーシスが未だにあり得ないといった表情でそう呟く。その気持ちは分かるのだが、実際に目の前に例がいるのだ。受け入れてもいいだろうに。
「もちろん基本的には無理だ。そもそも、戦術オーブメントに全く同じものは存在しない。それぞれがオーダーメイドと言っていい。それに戦術オーブメントは、肉体にリンクする事で身体能力の向上やアーツの展開プロセスを代行出来る。だから複数の戦術オーブメントを利用しようとしても、お互いが干渉し合って動作はしない」
「ならばどうして貴様は使える?」
「戦術オーブメントを設計した身なんでな。肉体にリンクする際の導力波の形状と、術式の展開プロセスの処理速度を同じものにしてある。そうする事で、別々のARCUSが同一のものと認証されて両方を使用出来るって訳。これは、エプスタイン財団だろうがラインフォルトだろうが、絶対に真似できない戦術オーブメントの改造方法ってわけ」
そういう改造をする為に、自身の部屋にわざわざ端末を置いてあるのだ。これは個人的に秘匿情報にしたいし、依頼しても誰も出来ないので自身で全て行っているのである。
スレインは腕を組み直すと、この改造のデメリットも伝えていく。でないと「改造させろ」と言い兼ねないので先手を打つ事にしたのだ。
「しかし、これには弱点がある。最大のデメリットは、ARCUS利用時における自身への負荷。アーツを詠唱する時に、座標指定や対象指定は自身の脳内で構築していると思うんだが、駆動時間0って事はそれを瞬時に行う必要がある。単発ならまだしも、それを複数行使する場合、処理が追いつかなくなる可能性が出てくる。それは二重ARCUSでも同じ。いくら導力波や処理速度を同一にしても、それを行使する身体は一つ。ARCUSの出力に負けて自分の身体が壊れてく。最悪、死の危険性もある。だから良い子は真似しようとするなよ」
「あんた、そんなとんでもない事してたのね……」
サラが頭を抱えてそう嘆く。
ENIGMAや昔の戦術オーブメントでも出来たのだが、この使い方をすると、ハード面が追いつかず壊れてしまっていたのだ。ここまで大火力になったのは最近の事なので、サラが知らない事は当たり前なのである。
「そう、とんでもない事なんだよ。事実、俺は最前線でアーツを連発。ましてや回復アーツでさえ自由に行使出来る。そんな事を平然とやってのけるから、
なんて事を笑いながら話す目の前の少年。
その最後のまとめを聞くだけでも戦慄が走った一同は、自分たちとかけ離れすぎた少年のレベルに脱帽する一方で、「そんな人間が何故このクラスにいるのか」といった疑問も現れるのであった。
―――*―――*―――
「悪魔……ねぇ……」
時刻は丁度日付が変わった深夜。明日は特別実習という事もあり、クラスメイトの部屋に明かりはなく、皆寝静まっている。ベッドに入ってもなかなか寝付けず、寮のすぐそばにある近くの公園まで夜風を当たりにきていた。
いつからかそう呼ばれる様になっていた。リベールであったクーデター事件。リベール異変。赤い星座のいざこざ。カルバードでの猟兵とマフィアの抗争。闘神と猟兵王の決闘。更には各地で頻繁に起きた結社との対決や、各国の軍との共闘や対峙。様々な所に足を踏み入れたからこそ、そんな異名が何処から出てきたのかも分からない。
ただ言える事は、たかだか17年の人生しては、血生臭い人生であるという事。そして、これだけ戦いに身を投じても、自分自身の事は殆ど分かってなかった。
そんな状況で入学したこのクラス。あれだけのものを見せて、同じ年代の子はどう思うのだろう。別に蔑まれる事はないだろう。紛いなりにも二ヶ月近く一緒に過ごしている。そういう感情を抱く様な人間はいないと思う。それだけが救いであるが、それだからこそ今後の付き合いに問題が生じるかが不安であった。
「やっぱり、こんな所にいたのね」
月明かりが照らす公園に現れた女性は「横、座るわよ」と一言だけ添えて、両手に持った酒瓶の片方を自分によこす。
つい最近もこんなシチュエーションがあった様な気がするが、どうしてこうも考える事が一緒なのだ、この人物たちは。
「おいおい、担任が未成年の生徒に酒よこすか?ふつう」
そう言っていても、差し出されたものを受け取らないのは野暮であるし、何よりも少し飲みたい気分であった。
勿論、酒に関しては遊撃士の頃からこの女性に飲まされている。今更そんな事を言っても聞き入れないだろう。
「こんな時間じゃ誰も見てないからいいの! それじゃ、カンパイ」
こちらの表情か何かを察したのか、いつもと違い静かにコツンと酒瓶をぶつけて飲み始める。
「大丈夫よ、うちのクラスにあんたの事を変に思うヤツはいても、それ以上の感情を抱くヤツなんていないわ」
こちらが考えていた事が分かっていたかの様な発言に驚き、思わず彼女の方を見る。そこで初めて女性の姿を見たのだが、服装は普段と違いもっとラフで、寝間着に近い薄手のものを着ていて髪も下ろしている。
普段見慣れない姿を目の当たりにしたせいか、つい見惚れてしまった。
「なによ? そんなに凝視されても困るんだけど? て、ああ、あたしも眠れなくてね、外見たらいたから、そのまま来ちゃったんだけど。なに?照れてるの〜?」
こちらの意を汲み取ってしまったのか、急にニヤけ顔になってからかい始めるサラ。頬も赤いしココに来る前から寝酒をしていて饒舌になっているのだろう。
「あぁ、あまりにも不用心な格好に元遊撃士としてどうなのかと思ったけど、それと同時に普段見られない艶姿に正直言って見惚れてた」
皮肉半分・本音半分の双方を織り交ぜた発言を、目をしっかりと見つめて告げていく。勿論、真顔に切り替えて。
「な!? あんたねぇ! 毎回良くそういう事言えるわよね、まったく……」
お酒で出来上がった頬の紅潮が更に染まっていく女性は、瞬時に目線を逸らし俯いてしまった。
暫し訪れる沈黙。夜風に当たりながら飲む酒は、スレインの思考を溶かす様に見に染みていく。
10分程経った頃だろうか。酒瓶に再び口を付け二口程飲んでから一呼吸置く。
「サラ、サンキュな」
「ん。じゃぁ、たまにはこうやって付き合いなさいよ」
この少年はいつもそうだ。自分がどこまで気にかけても、どこまで心配しても、本当の事は言ってくれない。
自分を庇い、命を救ってくれたあの夜。あの後協会への襲撃もすぐ引き、救護の者と少年の元に向かうと、彼の姿は愚か血痕すら消えていた。その後、行方不明だった彼と再会したのは一年前。あの時も命を救ってくれた。彼の行方を調べながら仕事をしていて半ば自暴自棄であった自分を、再び彼は救ってくれた。
それなのに自身は彼の力になれない。それが歯がゆく、とても辛い事であった。彼曰く「出来る話と出来ない話がある」と言っているが、それがどういう意味なのかも知らない。
彼は決して隠し事をする様な素振りではなく、
どうして、まだ17歳の彼がそんな辛い人生を歩まなければならないのか。あの時、自分が離れた間に何があったのか。答えなんて出る訳がないのに、延々とこの問いが頭の中で漂い続ける。
しかし、彼が私の教え子になり二ヶ月。最後に会ってから半年経った彼を見ると、とても歳相応のそれとは思えない姿が私の目に映っていた。
彼は強い。それは純粋な力だけではなく、心の方。
私がどれだけ迷っていても、私がどれだけ心配していても、彼は一人で問題を抱える決意がある。そう感じ取れてしまった。
その彼がこんな所で哀愁に耽っている表情を見ると、それでも歳相応だなと感じてしまう。周囲に見せていないだけでやはりその年齢には変わりない。どれだけ強がっていても、どれだけのものを抱えていても、弱音を吐いてしまう時や弱気になってしまう時もある。
だから決心をした。
私に出来る事はきっと少ない。心配していても彼はまだ全てを打ち明けてくれない。なのであれば私は彼を支えたい。教官としてではなく……
「なぁ、サラ、何一人で笑ってんだ? 気持ちわりーな。酒、ささっと飲み終わせよ。今日は飲む事にしたからもっと酒くれ」
「ふーん、言ったわね? 明日の実習なんて忘れてトコトン付き合いなさいよ〜?」
自分の言った言葉を後悔している様な表情を漏らすスレインを横目に、手に持ったお酒を一気に飲み干す。
「(ふぅ……あたし、オジサマ好きだった気がしたんだけどなー)」
自身の好みがいつの間にか変わってしまった事につい心の中で呟いてしまう。
寮へと戻った二人の酒盛りは、気付くと明け方まで続いていたのは、勿論二人だけの秘密であった。
閃Ⅰ〜Ⅱまで、パーティに加入してからずっとスタメン入りだったサラ教官は一番のお気に入りです。
中の人もファンという事もありますが……そもそも戦闘面強すぎなので、リィンと二人で無双してましたね。
そんなサラ教官の気持ちをふんだんに書いたつもりですが、キャラ崩壊をしている気もして、ちょっと後悔。
戦闘描写よりもこういう恋愛チックな描写の方が苦手かもしれません。
原作ファンの方、不快でしたら申し訳ございません!
という訳で、今回もお読み頂きありがとうございました。