英雄伝説 魔の軌跡   作:閃の細道

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申し訳ございません、今回は箸休み程度の文章になってしまいました。

テーマパークで占い師をしてい辺り、なんかこういう出会いも彼女ならやりそうだなーなんて思って書いてみました。
だいぶ丸くなった気がしますが、『空』から考えると、多分こんな女性なんだろうと想像してみました。

それでは、第15話、始まります。


偶然と必然

 

 

「あの……スレインさん。この状況、大丈夫なんでしょうか?」

 

 5月29日。

 二回目の特別実習日の朝、先程まで酒盛りを続けて眠気に襲われているスレインは、リィンと共に予定の時間よりも早く一階に向かうと、既に皆を待っていたⅦ組のクラス委員長エマにそう問いかけられた。

 

「まぁ、今さらどうしようもねぇだろ」

 

 重苦しい雰囲気はいざしらず、とにかく早く列車で寝たいスレインはそう言いながら欠伸をする。今回の特別実習には犬猿の仲であるマキアスとユーシスの両方がいる事もそうだが、先日からマキアスの敵対心はリィンに対しても向けられている。

 どうやら、オリエンテーリングの時に自己紹介をしたリィンは、その場の空気を読んでどちらとも言えない回答をしたらしい。しかし、前回の実習から帰ってきたその夜に、リィンが貴族である事を皆に告げたのであったが、その事実を知ったマキアスは「裏切り」と言ってリィンまでも敬遠する様になったのだった。

 

「リィン、悪いんだが、今回は関係の修復を第一にしてくれ。これ以上この状態が続くとクラス自体が崩壊しかねない。いくら周りが気を遣っても、これ以上は限界だぞ」

 

 リィンにも罪悪感はある様で、苦渋の表情をしている。

 

「あぁ、分かった。スレインには迷惑をかけるかもしれないが、よろしく頼むよ」

 

「勘違いするな、頼まれる様な事は何もないさ。そもそも、あいつらは気が合うから、キッカケさえあれば修復可能だと思うぞ?」

 

「え、そうなのか? 俺にはそんな風に見えないけど……」

 

「あれだけ口が止まらずにいがみ合ってるんだぜ? どう考えても気が合う証拠じゃねぇか。気が合わないならどっちかが無視するだろ、普通」

 

「朝からつまらぬ事を話すな、阿呆が」

 

 どうやらスレインの言葉は聞かれていたらしい。階段を下りながら現れたユーシスが否定の言葉を口にする。

 

「僕が最後か。帝国の大貴族様は早起きなんだな」

 

 その後ろからマキアスが嫌味を言いながら現れた。いや、まだ来ていない人物がいるので、マキアスの発言は間違っているのだが、それを口にするのは藪蛇である。

 

「あ、フィーちゃんがまだなので様子見てきますね」

 

 そう言い残してエマは戦線離脱。行動自体は正しいのだが、この状況から逃げ出したと捉える事も出来る。冷戦で収まっている間に帰ってくる事を願いながら、その後ろ姿を目で追う。

 

「(ったく、めんどくさっ……)」

 

 その後すぐにフィーを連れてエマが戻ってきたので、冷戦が続く中そのまま駅に向うA班。列車が動き出した事を確認してから、スレインは現実逃避を兼ねて睡魔に身を委ねるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 ≪翡翠の都≫バリアハート

 帝国東部クロイツェン州の州都であり、『四大名門』の一角である『アルバレア公爵家』が直々に治める人口30万人程の都市。

 周辺に広がる丘陵地帯では毛皮となるミンクが多く生息し、領内にある七曜石の鉱山からは良質な宝石が採れる。その多種多様な工芸品は有名で、街の南部には“職人通り”と呼ばれる職人街がある程だ。

 人口に占める貴族の割合は多い訳でもないのだが、やはりその在り方は貴族の街そのものである。職人街から領邦軍の詰所、大聖堂のある中央広場から大規模な空港まで。その全てが侯爵家を中心とした貴族のために造られたと言っても過言ではない。

 

 しかし、その言葉を返すと、貴族たちはこのバリアハートを『翡翠の都』と言わせる程の発展に貢献してきた事も事実なのである。そういった統治体制をその根本から見ると、貴族が話す『古き良き貴族制度』というのも、あながち間違っていない様にも聞こえる。

 だからと言って現帝国政府が掲げる、平民が国家運営を行う『革新派』を根本から否定する事にはならないのである。徴税という一方的な搾取があったからこそ、バリアハートはこの様に繁栄したのだろう。だが、別の都市では一方的な徴税のみを行い、土地の繁栄を放棄する貴族がいるのもまた事実。そういった、平等とは言い難い制度を覆そうとする『革新派』の言い分もまた、この帝国にとっては必要なものである。

 

 そして、そんな貴族の都市バリアハートで特別実習をさせる理由は概ね一つ。まだ学院に入ったばかりの少年少女に、この『エレボニア帝国の現状』を、その身をもって体感させる。恐らくはそんな理由だと思う。駅に着いた途端に、わざわざこの人物が出迎えてくる時点で、その理由に確信が持てたのであった。

 

「あ、兄上!?」

 

 珍しく動揺全開の声を上げるユーシス。そして、その周りには驚きの表情で呆然としている一同。それもそのはず、目の前にはアルバレア家の長男にしてユーシスの兄。貴族派きっての貴公子、ルーファス・アルバレアがいるのである。しかし、その中でただ一人、緊張する様子もなく一歩前に進み、その人物相手に口を開く少年がいた。

 

「これはルーファス卿。ご無沙汰しております。帝都での晩餐会以来ですね」

 

「スレイン君、久しぶりだね。学院にいるとは聞いていたが、弟の級友だったとはな。あの時は世話になった。今度また手合わせをお願いしたいのだが……その前に、普段通りで構わないよ」

 

「あ、そう? そりゃ助かります。流石に手合わせはパスでお願いしますわ。あの時は偶然だったんですから。てか、弟君の顔見たさで来た訳じゃないですよね?」

 

「(スレイン、何であんなにフランクなんだ……?)」

 

「(知らん。兄上と面識があるようだが……アイツは本当に学生か?)」

 

 一同がそのやり取りに困惑を見せる中、リィンとユーシスは小声でそんな疑問を共有していた。

 そして、ルーファスは今回の課題と宿泊先を用意している事と、そこまで車で送る事を告げて、一同を外に停めてある車まで案内した。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、君、ルーファス・アルバレアと面識があるのか?」

 

 宿泊先まで向かう車内で、マキアスはこちらにそう問いかけた。その顔には「お前も貴族なのか?」とでかでかと書いてあり、怪訝そうな表情でこちらを見る。

 

「ん? あぁ、皇族主催の晩餐会で何回かな。手合わせもしてるけどプライベートな仲ではない。言っておくが、晩餐会の方は護衛兼給仕役でいただけで、招待者ではないからな。その意味、分かるだろ?」

 

「あ、あぁ、そうなのか……すまない。というより、護衛って君は一体何者なんだ?」

 

 詮索するマキアスに「まぁ、そこは秘密で」と一言だけ告げると、それと同時に車の揺れが止まる。どうやらタイミング良く目的地に到着したみたいだ。

 その後、宿泊先のホテル前でルーファスと別れると、中に入るとこれまた一悶着(ホテル側がスイートルームを用意した事でユーシスが怒り、一般客室に変更させた)があった。ユーシスの優遇に一同は苦笑しか出なかったが、部屋に荷物を置いてエントランスに集まり、やっと実習課題に目を通すのであった。

 

「貴族の方に職人の方……様々な依頼が来ていますね」

 

「ああ、バランスよく用意してもらった感じだな」

 

 実習内容をひと通り見終えると、エマとリィンの言っている通り、バランス配分が完璧な内容である。流石ルーファス卿という事だろう。

 

「そしたら、前みたく手分けするか、リィン」

 

「あぁ、そうだな。手配魔獣は最後にするとして他を分担……だな。B班に負けないように、各自全力を尽くそう」

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「……あった。フィー、採取出来たから帰るぞー」

 

「おっけー」

 

 分担の結果、スレインとフィー・その他四名という構成になった。自分達が担当する依頼は、ピンクソルトという貴重な塩の採取。ユーシスに確認すると、オーロックス渓谷道の奥部でそれなりに距離があると忠告を受けたのだが、このコンビの前では多少の距離は関係ない。遭遇した魔獣を難なく殲滅していき、すぐに対象は見つかった。

 

「そういえばさ、スレイン。聞きたい事があるんだけど」

 

「ん? どした?」

 

 ピンクソルトの回収が済み、帰路についている二人。Ⅶ組の中でも無口な少女、フィーが突然問いかけてきた。

 

「団の皆の事……知らない?」

 

 フィーが言う『団』とは、『西風の旅団』の事である。

 フィーがかつていた大陸二強の猟兵団である『西風の旅団』は、昨年『赤い星座』と団長同士の一騎打ちがあった。三日三晩の死闘の末に相打ちとなり、団長亡き後、『西風の旅団』は散り散りになってしまった。10歳の頃から猟兵として戦場にいた彼女からすると、そこは家族も同然。そのメンバーをフィーは探しているのであった。

 

「残念ながら知らないんだよな。あの時別の仕事してたしさ」

 

 目の前の少女にそう話しながら自身にもそう言い聞かせる。これは半分本当で半分嘘の言葉。

 本当は何人かの居場所を知っている。否、殆どのメンバーの現在を知っている。しかし、それは生前の『猟兵王』こと『西風の旅団』団長ルトガーとの約束で、この少女には時が来るまで黙秘を続ける事になっている。だからこそこの言葉は、自分に言い聞かせる為の言葉でもあるのだ。

 

「そっか。内偵やってたスレインなら知ってると思ったんだけど……」

 

「んぁ!? お前、何でそれ知ってんだ!? まだⅦ組には言ってないぞ!?」

 

 Ⅶ組には元遊撃士である事は告げていたが、直前まで行っていた仕事(皇族直属の内偵)の事は話していない。元々、フィーとも西風時代に何回か会っているだけであって、仕事の内容まで話していた訳ではない。

 

「サラから聞いた。酔っ払ってたから本人は覚えてないと思う」

 

「んな!? 余計な事を話しやがって……フィー、それまだ内緒な? こっちも何か分かったら教えるから」

 

「ん、了解」

 

 フィーが納得してくれた所でこの会話は終わる。二人共仕事中にはあまり喋らない質なので、採取に向かう時も殆ど無言であったのだ。

 そしてバリアハートに向けて歩を進めるスピードを早めた時、一瞬だけ肌に纏わり付く不快感が感じ取れた。

 

「……フィー、悪いんだがコレ持って先に行ってくれ」

 

 スレインは手に持っている依頼の品を渡すと、真剣な面持ちでフィーに話す。その表情で状況を理解した彼女は、無言で頷きながら荷物を受け取ると、更にスピード上げて街に戻っていった。

 

「……さて、いるんだろ? 気配隠してない時点で用があるんじゃないか?」

 

 そう言いながら足を止めて、気配が出ている方向に顔を向ける。殺意や敵意のない気配に対して、こちらもそういった気配は出さないでいるが、警戒心を緩める事はしない。

 

「……久しぶりの再会なのだ。そこまで警戒しなくてもいいのではないかね?」

 

 そう言って岩陰から出てきた人物は、貴族風の装いをした男性。青紫色の長髪を靡かせながら近づいてくる。

 

「お前か、『怪盗紳士』。何でこんな所にいるんだよ? さっきまではリィン達にちょっかい出してたのに、今度は俺かよ」

 

「相変わらず君の風は分からないものだな。いつ見ていたのかも気付かない。フフ、本当に素晴らしいものを持っている」

 

「……そりゃ、こっちが指定した人間以外は感知出来ないからな。で、本題は何だよ。わざわざそんな褒め言葉を言いに来た訳じゃないんだろ?」

 

 そう言ってスレインは、目の前にいる男性に対峙する。

 

「そんなに警戒しないでくれたまえ。私では役不足だと承知している」

 

「……だからまた結社への勧誘をしに来たってか?」

 

「盟主が君を欲しているものでね。君が執行者になるまで諦めるつもりはないとの事だよ。それに君のおかげで戦力も落ちているからね」

 

「あぁそうかい。だから要件は何だよ? 俺が短気な事は知ってるだろ?」

 

 無表情のまま目の前の男性を睨みつける。

 

「いや、今回は君の級友達を見に来ただけさ。そして、君にも挨拶をしようと思ったのだよ」

 

「おい、ブルブラン。それ、まさかとは思うが、人質のつもりか?」

 

 男性のその一言を聞き、今まで内に秘めていた敵意と殺気を開放して視線に乗せる。

 

「い、いや、それはない。ただ興味を持っただけさ。花を咲かす前の蕾を刈り取る様な真似はしない。そんな事をしたら、君を完全に敵に回すようなものだ」

 

 その視線と共にかかるプレッシャーに押し負けたブルブランは、一瞬この少年の背後に鬼の様な黒い闘気が見えた。

 

「確かにそうだな。しかし、俺の周りに危害が及んだ場合……分かってるんだろうな?」

 

「無論だ。我が美徳に反する行為はしない。しかし、それは別として、お誘いの方はまたさせてもらうよ。ではまた会おう」

 

 そう言うと同時に、虹色の閃光を放ちながらブルブランは姿を消した。

 

 結社『身喰らう蛇』

 その存在自体が謎に包まれた、その名の通りの秘密結社。『盟主』と言われる主君を中心に柱となる幹部『使徒』が存在し、規格外の戦闘力を保有する執行者という人間もいる。

 数年前に起きたリベールの異変で暗躍していたのだが、古代遺物(アーティファクト)絡みで動いているという点以外、その真意を知る者は誰もいない。

 

 そして先程までいた男。

 執行者№Ⅹ『怪盗紳士』ブルブラン。

 ゼムリア大陸でも有名な怪盗『怪盗B』を名乗る、自称『美の追求者』。はっきり言って、その存在や行動意義はよく分からない。奇術という摩訶不思議な術を使う戦闘力は、執行者という事もあり折り紙つきである。

 

 そんな彼が言う言葉、特に自身の美徳に関しての発言には二言はない。美徳に反すると言った時点で、彼はⅦ組に対して実力行使はしてこないだろう。

 しかし、自身の存在のせいかは分からないが、とにかくⅦ組に結社が絡んできたという結果は事実ある。いくらブルブランであっても、理由もなく一介の学生を目にかけたりはしない。

 

「(ったく、こっちは二度と会いたくねぇよ)」

 

 自身の経験上、結社が接触する理由は二つ。先程ブルブランが言った通り、自身を執行者にする為の勧誘。そしてもう一つは何かの行動を起こす場合。

 

 ブルブランの接触がどちらの意味であれ、Ⅶ組に属している以上は彼らを巻き込む可能性もある。今後暫くは警戒し続ける必要があると感じると同時に、今まで感じた事のない妙な胸騒ぎもするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「あれか……」

 

 リィンがそう呟いた先には、手配魔獣『フェイトスピナー』が静かに佇んでいる。

 

 現在時刻は昼過ぎ。一同はそれぞれの依頼を終えて合流し昼食を食べてから、オーロックス峡谷道へ手配魔獣の討伐へと向かったのだ。

 

「悪いが僕ら二人はアタッカーに回らせてもらうぞ」

 

 マキアスがそう言いながら戦闘準備を整える。それに続いてユーシスも小言を呟きながら準備を始める。

 

「リィン、陣形はどうする? あいつら突っ込むなら俺とフィーが援護に回るか?」

 

「……あぁ、そうだな。その方が安心して戦えるよ。周囲の警戒は頼む」

 

 実質リーダーであるリィンの発言を聞いて、それぞれが武器を構え隊列を整える。一呼吸置いた後、一同は犬猿の仲がどうなるのかという一抹の不安を抱えたまま、手配魔獣との戦闘が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうつもりだ……ユーシス・アルバレア。どうしてあんなタイミングで戦術リンクが途切れる!?」

 

「こちらのセリフだ、マキアス・レーグニッツ。戦術リンクの断絶、明らかに貴様の側からだろうが!」

 

 マキアスとユーシスは、互いに殺気立って睨み合う。

 手配魔獣との戦闘が始まってすぐ、この二人の戦術リンクはどちらからでもなく途切れた。リィンとエマの機転と立ち回りのおかげで何とか退けたものの、その結果は一言で言うとギリギリの戦いであった。

 

「(フィー、なんか湧き(・・)が落ち着かなくねえか?)」

 

「(ん、ちょっと変、かも)」

 

 周辺の警戒と小型魔獣の掃討を行っていた二人は、親玉が倒れたハズなのに湧いて出てくる魔獣の数に不可解な問いが現れていた。そんな中、あの二人は更にヒートアップしていて、最早それは一触即発なんてレベルではなく、互いに得物を構えようとしていた。

 

 その瞬間。退けたはずの魔獣がいがみ合う二人に向けて突進し、死を前にした玉砕覚悟の攻撃を繰り出す。

 

「!」

 

「リィン、右に20リジュ寄れ!」

 

 

―――ザン―――ザシュ―――ザン!

 

 

 敵の行動を察知したリィンが二人を庇おうと走りだすが、それを遠巻きに察知したスレインの大声でリィンが指示通り動く。それと同時に数本の剣を魔獣の頭上に精製し、その全てが突き刺さると、標的は行動を停止させた。

 

「な……!」

 

「……!?」

 

魔獣に狙われたにも関わらず、その行動に気づかず立ち尽くし、更にはリィンに庇われ一番遠くにいたスレインに助けられた二人。もはや言葉も出ず、今起こった現状を処理するだけで手一杯である様だった。

 

「……リィン、大丈夫か? 軌道は逸らしたが当たってないよな?」

 

 周囲にいた魔獣を数秒で一掃(・・・・・)し、一同の元へ戻りながらリィンに声をかける。その言葉とは裏腹に、冷酷なまでの無表情に一同は思考の思考は停止する。

 

「あ、あぁ、俺は大丈夫だ…… 二人共、怪我はないか?」

 

 リィンはスレインの表情が異常事態であると察知し、マキアスとユーシスに問いかける。彼らも無言で頷く事しか出来ないでいる。

 

「なぁ、お前らさ、俺とリィンがいなかったらどうなってた?」

 

「「……」」

 

 リィンの隣に立ちマキアスとユーシスに目を向けて、冷たい声で淡々と告げる。既にいつもの明るさ等はなく怒気を醸し出している少年に、言葉が出てこない二人。

 

「ちょっと来い」

 

 その一言だけを二人に告げて、一同から一旦離れる三人。有無を言わさない雰囲気と言葉に、他のメンバーは無言で立ち竦むしかなかった。

 

 

 

「すまない……その……」

 

「……不覚だった。完全に俺たちのミスだ」

 

 一同から見ない場所で足を止めると、二人が謝罪の言葉を述べる。

 

「いやさ、すまないとか不覚とかミスとかな、実戦じゃ何の意味もないから。いがみ合うのは結構なんだが、人様まで巻き込んでまで面子に拘りたいのか? 仲間の命を引き換えにしてまでいがみ合いたいのか、お前ら」

 

「「……!」」

 

 自身らの行動が、どれだけ危険な事態を招いたのか。それを改めて気づいた二人は言葉に詰まる。

 

「別に仲良くやれって言ってる訳じゃないんだよ。10人もいれば、合う合わないは必ず出てくる。平等に接しろって訳でもない。だけどな、戦闘中は互いに命を預けてんだよ。それがどういう事か説明しなくても分かるだろ? はっきり言う。いい加減にしろ」

 

 そう言い放つと、二人を残して先程の場所で待っている一同の元へ戻っていった。

 

「リィン、後の事は頼むわ。エマ、フィー、リィンのフォローだけ頼む。俺がいるとこの空気は変わらないと思うから、悪いけど先帰ってるわ」

 

 三人にその一言だけを伝えてその場を後にする。

 場の空気を凍りつかせ、容赦無い言葉を口にした以上、全体の雰囲気までもが悪くなっている。A班が壊滅状態となる前に一端自身が離れる事で、修復を試みる為であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「(少し言い過ぎたかな……)」

 

 心の中でそう呟いたスレインは、広場のベンチに腰をかけて空を見上げている。勢いで一同の元を離れたものの、マキアスとユーシスに有無を言わさず表情で冷徹な言葉をかけてしまった事。そして、A班としての集団行動を乱してしまった事への罪悪感もある。夕食には合流して謝罪の言葉をすると決め、一旦この件を忘れる為に目を瞑った。

 

「―――隣、宜しいですか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

 突然の相席の申し出に特に気にかける事もなく瞼を開かず返答する。公共の場でもありベンチに相席する事は普通であるからだ。

 

「……大丈夫ですよ。貴方が考えている程事態は悪くない。明朝には解決します。ただ……別の問題が発生しますけれど」

 

「え?」

 

 自分が考えている事に対する適切な回答、もとい予言の様な言葉を聞いて、霧散していた意識が回帰する。驚いた表情で隣に目を向けると、そこにはあり得ない人物が座っていた。

 

「な!? ルシオラ!? どうしてここに!?」

 

「お久しぶりね、スレイン。ここで会ったのは偶然よ」

 

 ルシオラと呼ばれた女性は、「これ飲む?」と言いながら缶ジュースを差し出してくる。

 この目の前の人物は、そんな事をする性格でも立場でもなかったハズなのだが、このあり得ない状況を瞬時に理解する事が出来ず、渡された缶ジュースを開け一口飲む。その冷涼さが喉を潤すと同時に、この状況を理解する為に脳内がやっと動き出した。

 

「……結社にはあれから戻ってないんだろ?」

 

「ええ、今の所ね。クロスベルの方で占い師をしているわ」

 

 ルシオラは、結社の執行者№Ⅵ『幻惑の鈴』と呼ばれ、かのリベール異変の際に自身の意思で結社に戻らずに放浪している女性である。遊撃士『銀閃』のシェラザードとは、過去にいた旅一座で姉妹の様な関係であったらしいが、詳しくは知らない。

 ちなみに、ルシオラとは何回か出会っているが、全てが敵対していた為に、こんな話をする仲ではない。

 

「占い師ね……天職じゃねぇか。それで何の用だ?」

 

「偶然よ。休暇をもらったから観光に来ただけ。貴方に会ったのは本当に偶然」

 

 ルシオラはそう言って鉄道の乗車券を差し出した。信用していない顔つきだったからであろうか、恐らくこれが証拠だと言いたいのであろう。しかし、そんな事はどうでもいい話だ。

 それを受け取らず再び空を見上げる。

 

「そう言う事にしといてやるよ。一日に二回も勧誘されんのはまっぴらだ」

 

「フフ、怪盗紳士も来たのね。でも、それも大丈夫よ。まだ深入りするつもりはないみたい」

 

「あーそうかい。“まだ”って事はこれから深入りするんだろ? 面倒くせぇな。で、いい加減、本題入れよ。こんな井戸端話をしに来た訳じゃないんだろ?」

 

 目線を戻して手に持った缶ジュースを飲み干し、女性の方を見据える。この女性の偶然は偶然ではない。予知、ないし予言レベルで物事を当てる人物だ。何かを伝えに来たに違いないのである。

 

「そうね。ここに来るまでに貴方の事について一つ見えたのよ。貴方、直近で転機を迎える。でも、直進し過ぎると修羅の道を辿るわ。しかし、少し回り道をすると陽光が入る。まぁ、勿論、回り道の方が苦難な道ですけれど」

 

 女性はそう言って僅かに微笑むと、先程の自分と同じように空を見上げた。

 

「……分かりやすい解説どうも。生憎、順調に苦難な方を辿ってるよ」

 

 ため息を一つしてそう答える。転機を迎えるという事がどういう意味であれ、Ⅶ組にいる以上はそちらが優先である。それに今するべき事と、解決しないといけない問題があるい以上、その件は深く考える必要がない。

 

「では、私は観光に戻るわ。他愛も無いお喋りに付き合ってくれてありがとう」

 

「やめてくれ、お前さんにお礼を言われると悪意を感じる。 ……そういえば、明日別の問題が起きるって何の事だ?」

 

 立ち上がってここから立ち去ろうとするルシオラに、完全に記憶から飛んでいた最初の話を思い出して問いかける。

 

「それは内緒よ。言ってしまったらつまらないですもの」

 

 彼女は微笑しながら言葉を告げると同時に、形式的な別れの挨拶だけして去っていった。

 

「(ま、とりあえず関係が修復するならいっか…… さて、この後はどうしますかね)」

 

 こうして、自称『とある占い師』との奇縁とも言える出会いは、世間話と未来予想図の会話で終わり、A班の帰りを待つスレインであった。

 

 

 




リィン君の身体を張ったシーンは少しばかり感情が入った覚えがあります。しかし、リィン抜きの戦闘がキツかった記憶の方が鮮明です(笑)

次回はちょっと破天荒なスレイン君になります。


それでは、今回もお読み頂きありがとうございました。
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