ユーシスとマキアスの確執をどうやって取り去るべきか迷いました。
原作通りだとスレイン君一人で瞬殺出来そうなので犬っころを増やしてみました(笑)
という訳で、第16話、始まります。
PS
またまた感想を頂きました!
本当にありがとうございます。
感想って頂くととっても励みになるんですね。
ご期待に答えられる様に頑張ります!
「(こんな時間に青春話かよ…ったく)」
時刻は夜もふけて日付が変わった頃。場所はA班が滞在するホテルの一室。
話し声と上体だけ起き上がる気配を感じて意識が覚醒したスレインは、起きている事を悟らせない様に身体は動かさず瞼を閉じたまま心の中でそう呟いた。
過去に野宿の経験が多かった為、少しでも物音や気配が感じると意識が早急に覚醒する様な体質になっている。聞くつもりがなくてもこの会話が終わるまでは眠れないので、暫くは気づかなかったフリをしていた。のだが。
「―――!!」
「む?」「え?」
空調が当たる場所のベッドだったせいか、くしゃみをしてしまった。思いの外早くバレてしまったので、バツの悪そうな表情をして上半身を起こすスレイン。
「わりぃ、わざとではないので許してくれ。邪魔するのも悪いかと思って、寝ようと思ったんだが無理だった」
「こちらこそこんな時間にすまない」
「き、貴様、ちなみにどこから聞いていた?」
律儀に謝るのは勿論リィンである。それに対して話を聞かれた事に対して焦っているのか恥じらいがあるのか、どこか声に動揺の色があるのはユーシスである。
「ん? 『眠れないのか?』からだな」
「貴様! それでは最初からではないか!?」
「ははっ、その通りだ。まぁ、そもそも俺は多少の音や気配で起きちゃうからな。内緒話は部屋を出るべきだったな。ま、ユーシスの言動や町中で聞く評判から
このコソコソ話は、夕食時にユーシスの父、ヘルムート公爵が現れたのだがその対応は親子のそれとは明らかに違う違和感を与えるものだった事についての吐露であった。
ざっくり話すと、ユーシスは兄ルーファスと違いヘルムート公爵と妾の間に生まれた子であり、母親が八年前に亡くなった際にアルバレア家に引き取られたとの事だった。つまり、ユーシスの母親は平民であり、ヘルムート公爵からすれば純粋な貴族ではないから存外に扱われている。概ねそのような事を自嘲気味に話していたのである。
「……父上とのやり取りもあったからな。黙ってはいられんだろう」
「ってのが建前で、本音はそこじゃないだろ? 今までアルバレア家として立ち振る舞い隠してきた出自。それをいっその事全部言って蔑まれた方がいいのではないか。概ねそんな所か?」
「…………そうかもしれんな」
「ユーシス……」
ユーシスは否定する事も諦めて俯く。リィンも何も言えず、ただ相手の名を呟くだけだった。
「まぁ、本音はどうあれ、お前さんはお前さんだ。出自に関係なく選ばれたクラスで何出自に拘ってんだよ? 多分他の皆もそんな事は気にしないぜ? リィンに言った所で、こいつの性格なら少なくとも蔑む事はしないぞ?」
「あぁ、そうだな。ユーシスはユーシスだ。こう言っては悪いんだが、俺も養子だからユーシスの事も分かる。だからこそ俺達は分かり合えると思うんだ。それにスレインの言った通り、今更出自なんて誰も気にしない。俺たちは仲間なんだからな」
「お前達……」
リィンの言った言葉に感銘を受けたのか、ユーシスは顔を上げて震えた声でそう呟いた。
ここまで話していたが、妙に気になっていた事があるので、ちょっとばかり悪戯をしてやろうと考えた。
静かに立ち上がり、部屋にある冷蔵庫から缶ジュースを
「マキアス、それ炭酸だからキャッチしないと大変だぞ?」
「な!? 君は炭酸飲料を投げるのか!?―――――――――あ」
怒鳴りながら上手くキャッチした眠っていたはずの少年は、数秒の沈黙の後に自身の言動に対して「やってしまった」という後悔の表情をする。
「マキアス!? 起きてたのか?」
「貴様、盗み聞きとは関心せんな」
スレインは笑いを堪えるの必死であったが、他二名は全くそれに気づいていなかった様で驚いた表情をしていた。
「途中で白状した俺以下だな、マキアス。男同士の友情話ってのはな、タイミングが合わないと置いてきぼりを喰うだけだぞ?」
スレインは尚も必死で笑いを噛み殺している。この少年がこの場でなんと言うのかが非常に気になるので、あえて発言権を渡す。
「い、いや、君たちが話している声が大きかったから……」
「一応、夜中に適した声だったよな? 内容も内容だからトーンも低かったし。だろ? 二人共」
「「ああ」」
追い打ちをかけるスレインに同調する二人。短い言葉だけを残してマキアスの方を見る三人。
「……くっ、僕が悪かったよ!」
「おお、ちゃんと言えるじゃねぇか。お前さんも素直になれよなー。じゃ、これで全員起きてしまったので、夜中の男子会って事でカンパ〜イ!」
やや強引にそう言うと、そのノリと状況に負けて各々が缶を開けて乾杯し、一口飲む。そう、ここからが本当のドッキリなのだ。
「!? これ、アルコールか!?」
「ゲホッ、スレイン!?」
「うっ……き、君! 何故アルコールなんて持っている!?」
三者三様の発言だが、一口飲んだ瞬間に吹き出すまでの過程は同じ動作を寸分違わず行っていた。
「クククッ、いや〜、面白いもん見たわ。 ただのビールだ。お前ら皆共犯な。黙っとけよ」
スレインはそう言って堪え切れず吹き出す笑いを止める事はせず、ただケラケラ笑って持っているビールを一気に飲み干す。
「いやさ、あんな話、酒もないのによく話せるなと思ってさ。いや〜、本当は寝静まった後に屋上で飲もうと思ったんだが、これもまた一興だな」
「スレイン……ラベルを変えて持ってきたのか?」
「ああ、流石に皆にバレると面倒だからな」
夕方頃にそれぞれ購入して、通常のジュースとラベルを張り替えた事を白状する。
「そこまで用意周到だとは……君の事を勘違いしていた様だ」
マキアスは肩を落として何かを悟った表情をしている。
「いやいや、これが俺の素だよ。酒を覚えるのが早かっただけさ」
「貴様……そう言えば元遊撃士であったな。サラ教官とは親しかったのか?」
Ⅶ組の場合、酒=サラなのであろう。ユーシスは手に持つビールを口にすることなく話題を変えた。
「んー、まぁな。同じ支部だったし、それなりに。ま、俺の話を聞きたいなら酒が飲める様になったらな。それと、開けたからにはそれは飲み干せよ? 買ったのは俺なんだぜ?」
そう言ってスレインはそれぞれに無理難題と引き換えに、無理やり飲ませていく。缶ビール一本のこの夜会は、意外と遅くまで続くのであった。
数時間後。二日目の実習を開始する為に一同はホテルのロビーに集まる。
その際、スレイン以外の男子の表情が青ざめている事をエマに指摘されたが「寝不足だろ」と笑いを堪えながら一言だけ告げた。部屋を出る前に全員から口止めされてしまったので、この内容は四人だけの秘密となったのだ。
気を取り直して、二日目の実習内容を確認すると、二日目という事もあって意外と少ない。この程度であれば半日足らずで終わるだろう。確認を終えると、いつものと違い何か決心した様な声でライバルを呼ぶ少年。
「―――ユーシス・アルバレア」
「……なんだ、マキアス・レーグニッツ」
今日も今日とてフルネームを呼び合う二人。
「ARCUSの戦術リンク機能……この実習の間に何としても成功させるぞ! いくら君相手でも、他の皆が出来る事が出来ないのは不本意だ。手配魔獣も出ているし、昨日のリベンジというのはどうだ?」
「フフ……いいだろう。その話、乗ってやる。俺の方が上手く合わせてやるから大船に乗った気でいるがいい」
どうやらいい感じで憑き物が取れたらしい。言葉こそ今までと変わらないものの、歯車が合わさったような会話になっている。
「(あの、スレインさん。昨夜に何かあったんですか?)」
流石にエマはどうやったらこんな急展開になるのかが気になったらしい。しかしそれも「男の秘密」の一言で済ませる。結果的に問題なさそうなんだから、その理由なんてどうでもいいのである。
しかし、今までの中でこの二人の意気が一番合っていた雰囲気もたった数秒の出来事となってしまった。
「―――ユーシス様」
ホテルの扉から現れるのは白髪交じりの執事風の男性。否、ユーシスを呼ぶその感じからして執事なのであろう。
「アルノー? 父上付きのお前が何故こんな所に?」
「昨日はご挨拶も出来ずに申し訳ございませんでした。今朝、参上致しましたのは、ユーシス様をお迎えするためでして」
一同はその言葉に困惑を見せる。そして、アルノーはヘルムート公爵がユーシスを呼んでいる事を丁寧に告げた。ユーシスは頑なに拒もうとしていたが、老執事も公爵閣下の命令には逆らえないので食い下がる。この状態では拉致があかないので、遠慮がちにこちらを見たユーシスに「行って来い」と皆で告げて、その場は取りえず収まった。
―――*―――*―――
「さて、厄介な事になったな……」
ユーシスと別れた後、実習依頼の方は慎ましく終了した。しかし、手配魔獣を討伐しバリアハートに到着したと同時に事件は発生した。
町に到着してすぐに領邦軍の出迎えがあり、マキアスがオーロック砦の侵入の容疑がかけられ、一時身柄を拘束されてしまったのだ。取り付く島もなく半ば強引に連行し、最後には「ユーシス様は実習にお戻りにならないそうだ」と言い残し、領邦軍はそそくさと去っていった。
「ユーシス本人が言った訳ではなさそうな感じ……だよな?」
「うん、ユーシスも実家で動きを封じられてそう」
一旦ホテルに戻ったものの、既に領邦軍が調査の名目で立ち入りを禁止していたので、広場前で話し合う一同。
リィンの言葉に賛同するフィー。今朝の会話を鑑みても、数時間で真逆の言葉が出るはずもない。ましてや、マキアスとの関係が修復寸前の状態だったのである。
「となると、昨日から既に始まってるな。大人の事情が絡んでるのが妥当な筋だな」
「貴族派と革新派の対立……ですか?」
スレインの言葉に反応し、疑問をぶつけるエマ。
「あぁ、革新派の重鎮、帝都知事の息子を拘束する事で、色々な取引材料になるからな。要するに人質って事だろ。どっちにしろ、ほっとく訳にはいかんだろ。ユーシスの方も抑えられてるから、合わせて奪還しねぇとな」
「そうしたらなるべく秘密裏がいいですね」
「あぁ、そうだな。そうするとどう動こう?」
エマの発言にリィンが肯定し、こちらに問いかけてきたタイミングで懐かしい気配を感じ取った。今回の実習は本当に珍客が多い。
「わりぃ、皆。ちょっと調べたい事があるから、作戦会議は職人通りの宿酒場でやろう。後で合流する」
申し訳無さそうな表情をしながら一同にそう言い残して、スレインは足早にその場を離れた。
「おう、スレイン、久しぶりだな。流石に来てたのはバレてたか」
「そりゃぁね。俺を巻こうなんて百年早いわ」
駅前通りからの脇から階段で下った先にあるベンチまで進むと、既にそこにいた金髪の青年が声をかける。
「で、こんなタイミングで来るって事はサラのパシリか?」
「パシリって言うなよ。つうか、お前さんがいるなら俺がフォロー入る必要ないと思うんだが……」
「トヴァル、御託はいいから情報よこせ。どうせその件のフォローだろ?」
「そうだな。まずは領邦軍詰所に囚われている知事さんの息子だが、あっちは地下水路から入れば大丈夫だ。ただ、一点問題がある」
情報を提供している金髪の青年トヴァルは、帝国に残存する数少ない遊撃士である。以前オズボーン宰相の圧力がかかり、帝国内の遊撃士協会は殆どが活動停止に追い込まれた。しかし、その中でも帝都から離れた街では遊撃士を頼る箇所も多く、少数は未だに息を潜めて活動している。その中でも実力者がこの人物である。
「地下水路か?あのくらいの区画ならうちのクラスの人間でも問題ないと思うぞ?」
バリアハートには下水処理の為に、地下に水路を這わせている。そこが様々な建物に繋がっているというのは遊撃士の中では誰もが知る話だ。理由は簡単。その地下水路の魔獣退治はバリアハートで遊撃士に依頼されるケース第一位なのだ。
しかし、元々地下水路なんて街に合わせて設置されている為、入り組んだ設計はされていない。言ってしまえば、オリエンテーリングで利用した旧校舎に毛が生えた程度である。
「いや、そこじゃない。領邦軍が軍用魔獣を調教しているらしい」
軍用魔獣は確かに今のリィン達には強敵かもしれない。軍事利用する為に調教した魔獣をそう呼ぶのだが、魔獣のタフさに加えて思考が通常の魔獣と比べて数倍利口で軍隊そのものになっている。調教練度によるがヘタをすると指揮官クラスの魔獣まで存在するのだ。
「成る程。数は?」
「20〜30ってトコだな。練度はそこそこだが、如何せん中型を使ってるらしい。ぱっと見、お前さんのトコだと2体同時が限界だろ」
「……残りは俺、だな。そしたらトヴァルはアルバレアの方を頼むわ。地下水路に逃せば勝手に合流するハズだ」
有事の際に合流出来る事を踏まえると、軍用魔獣の掃討は自分が担当するのが妥当だろう。それにアーツメインで近接戦闘が平均ちょい上のこの男には数が多すぎる。
「まぁ、妥当な線だな。よし、そしたら三時間でケリ付けるか」
「あいよ。頼むぜ、フォロー役!」
そう言って最上級の卑屈な笑みを見せる。
「チッ、その笑顔は腹立つな。そう言えば、クイックキャリバーなんだが……」
実はこの男もARCUSを改造している。といっても、自分と違ってアーツの駆動時間を早める外部装置、謂わばアクセサリーを利用しているだけなので、会う度に自分に質問をしてくるのだ。
「それ以上早くならねぇよ。本体を弄るなら命捨てる覚悟が必要だ」
先程と一変して真剣な目をしてそう言うと「そうだよな」と一言だけ返された。
半端な覚悟で足を踏み入れると大怪我をする。それくらい代償があるのが戦術オーブメントの改造なのだ。アクセサリーといえど、レベルを超えると命の危険を伴う。この男が半端な気持ちではない事は知っているが、流石に命のやり取りをさせたくなかったのだ。
「と、言う訳なんで、地下水路から詰所まで行ってくれ。魔獣退治は三ヶ月前に行われたらしいから、多少は存在してると思うが」
トヴァルと別れてすぐに一同が待つ職人通りの宿酒場に向かい、作戦会議をしていたリィン達に先程得た情報をかいつまんで説明をしていく。勿論、トヴァルの存在と軍用魔獣、アルバレア家の侵入は隠して。
「なるほど。魔獣に気をつければ大丈夫そうだな」
「そうですね。こっそりとマキアスさんと合流出来そうです」
リィンとエマがそれぞれ光明が見えた様な表情をしている中、もう一人の少女はそこに自身加わらない事を指摘する。
「スレインはどうするの?」
「ん? ああ、俺は別ルートから侵入して陽動だ。ついでにある程度戦力を減らしておく。いざという時に四面楚歌、なんて事だと大変だからな」
「おっけー。念の為、殿は私の方がいいよね?」
「そうだな。地下水路からそのまま上がれる保証はないし、皆のフォローは頼むぜ」
二人で話の結論を付けて、水路内の構図や魔獣についてを覚えている限りでこの少女に教えていく。
それを横目にリィンとエマは、「この二人、こんなに仲良かったっけ?」といった表情でこの二人の会話が終わるまで見ていた。
「さて、そしたら、作戦開始だ。俺と合流しようなんて考えないでいいから、最善を尽くせよ!」
「「「おお」」」
―――*―――*―――
−−−—ドガァァァッァン!!
「何事だ!?」
「はろー、領邦軍の皆さん。ってなんだ、昼間の隊長さんじゃねぇのか。軍用魔獣の実験区画があるっていうから来たんだが……わりいがあんたに要はねぇ」
領邦軍詰所地下二階。軍用魔獣訓練区画。縦横に異常に広いこのスペースは、詰所のサイズを越えて作られている地下室である。軍用魔獣を調教するにはそれなりスペースが必要だが、表立って出来る事ではないので必然的に地下を利用しなければならない。
ここに来る前に近隣住民に聴きこみをした所、夜な夜な謎の音が聞こえるという話があった。更に聞き込みを進めるとどうやらその音は何かの鳴き声の様だという証言が出てきた。
検討は付いたので近場の入口から水路に入ると、そこだけ異常な出っ張りがあったのだ。風を頼りに調べてみると、間違いなく訓練区画に該当するサイズと物音、そして魔獣特有の匂いがしたので予想的中。正攻法を決め込む余裕もないので、アーツをぶち込んで風穴を開けたというのが、今の流れに相当する前説である。
「な!? 貴様は誰だ!?」
隊長格の男は青ざめた表情で声を荒らげている。魔獣訓練用の部屋であるこの壁の厚さは普通の家屋の何倍もある。それを破壊した人間を前にして、驚愕の表情にならない方が無理な話である。
「冤罪をかけられたレーグニッツご子息の学友だ。ま、と言っても、俺はお前らが調教している数十体の軍用魔獣に興味があってね。どうだ? 躾の成果、試す気ないか?」
「くっ! 貴様、早死したいようだな。いいだろう、魔獣の餌にしてくれよう!!」
男がそう言い放つと同時に、奥に見える鉄柵が開き、数十の軍用魔獣が姿を見せる。
「10、20……28か。足りねぇけどいいか。いいぜ、今回は特別に良いもん見せてやるよ」
先程まで何も持っていなかったその手には既に双剣が握られている。
「む!? 貴様、いつの間に! 魔獣共、殺れ!!!」
男がそう叫ぶと同時に縦列した軍用魔獣が一斉に突進を仕掛けてくる。
一方、それに対して微動だにしないスレインは瞬きをするだけ、しかしその目は、今までと黒い瞳ではなく蒼碧の瞳となっていた。
「精霊達よ!」
ただ一言だけを言い放ったスレインは、双剣を前に向ける。それと同時に彼の身体がアーツの駆動時に放たれる術式の光に包まれた。
その刹那、爆発音が幾重にも重なる。大気が揺れて無数の風を呼ぶ嵐が魔獣を切り裂き、潮の如く水流が標的を飲み込む。同時に地表が割れて精製された無数の岩が追い打ちをかけ、割れた地表から現れた活火山から無慈悲にもマグマを飛ばして一方的なダメージを与えていく。
その衝撃で生まれた爆煙が消えた頃には、地に足をつける魔獣は一匹足りともいなかった。
「な、な、何!? 全滅だと!?」
一瞬の出来事で戦慄の表情をする男。勿論それは後方に待機している領邦軍兵士達も同じである。それもそのはず、アーツによる猛襲をたった数秒で行い28にも及ぶ軍用魔獣を一斉に沈黙させたのだ。
「ラグナヴォルテクス、グランシュトローム、エインシェントグリフ、サウザントノヴァ……四属性の最高位アーツだ。これに耐え切れる魔獣なんて見た事ねぇよ」
「そんな馬鹿な!? えぇい! お前たち、仕留めろ! あんなもの人間相手に使える訳がない!」
隊長格の男がそう言うと、身震いしていた兵士達が、自暴自棄とも思える様な動きでこちらに向かって突進してくる。その数は10人。
「それは間違いじゃねぇんだけどよ……あれじゃなくても使えるからな?」
自身を間合いに捉え、剣を振りかざした兵士を弾き返すと同時に、再びアーツの光が発生し、威力の低いルミナスレイが数本放たれる。それと同時に目にも留まらぬ疾さで同じ行為を繰り返すスレイン。
戦闘はものの数秒で終了し、10人の兵士は全て気絶させられていた。
「き、貴様!? その戦い方……まさか!?」
「流石に領邦軍なら知ってんだろ? 最前線で高位アーツを連発する、その異形の姿をさ」
「デ、
相手の言葉が聞こえると同時に瞬時に切り込み、数発のソウルブラーを剣に乗せて打ち込むと、隊長格の男はあっさりと沈黙した。
「正解。ここまでやる必要なかったんだけどな。ヘルムート公もこれで多少なりとも警戒するだろ」
そう言い残して、この部屋の正規の出入口へと向かっていく。ため息を一つ付いた彼の瞳は既に今までと同じ黒に戻っていた。
―――*―――*―――
「士官学院に入る前、わたしは猟兵団にいた。そこで全部教わった。ただそれだけ」
薄々感付いていたが、やはりこの少女はそうだったのか。思い返せばオリエンテーリングの時から頭角を現していた。一人で進み、何事も無く皆と合流していた。
そして彼女の得物である
「猟兵団……そうだったのか」
「信じられん、“死神”と同じ意味だぞ?」
ユーシスの言葉に悪意がある訳ではないが、そういった呼称も確かに存在する。
「私、死神?」
「いや……そうだな。名に囚われる愚は犯すまい」
そうは言っているもののユーシスもやはりどこかぎこちない。この状況で携行型爆弾を利用し、詰所への入口が開いた事は助かったのだが、一同にはやはり一抹の不安がある様だった。
「……フィー。教えてくれてありがとう。それとゴメンな。聞き出すような真似をして」
この不穏な空気を壊すには自分が言うしか無いと思い、状況には不相応な発言をする。これで一旦この話を終わらせないと、単独で行動しているスレインにも害が及ぶ。
幸い、この一言で一同は気を取り直して奥へと向かっていった。
「ここか……」
中に入って数分でマキアスは見つかった。
「君たち、一体どうしてここに? ……まさか、忍び込んできたのか!?」
ここまでの道のりをざっと説明すると、フィーが先程と同様に爆弾で扉を開ける。マキアスは勿論初見なので口をパクパクしているが、今回ばかりは無視。
「話は後だ、とにかく脱出しよう」
そう告げた途端、話声に気づかれ見回りの兵士達と遭遇したのだが、何とか無力化する事に成功し、持っていたカギでマキアスの所持品を回収して侵入した道を戻るのであった。
―――ヴォオオオオオオオッ!!
地下水路を引き返すリィン達の背後から獣の咆哮が聞こえた。あと少しで中間地点を迎える場所から聞こえるという事は、それだけ体格が大きくないと聞こえない。
「なんだ……!?」
「軍用に訓練された魔獣かも」
フィーのその発言で一同は困惑した表情を見せる。
「くっ、冗談じゃないぞ!」
「喚くな! とにかく急いで戻るぞ!」
急いで戻るリィン達だが、軍用魔獣の気配は猛スピードで近寄ってくる。これ以上走っても追いつかれるだけ。覚悟を決めてここで迎撃する方がいい。
「みんな、追いつかれる! ここで撃破するぞ」
そう叫ぶと同時に、軍用魔獣『カザックドーベン』は姿を見せる。分厚い装甲に見を包み凶暴そうなその姿とは打って変わって、こちらの出方を伺う様に警戒している様だった。
「かなり訓練されている……」
「……かなり知恵がある魔獣ですね」
フィーとエマが言ったとおり、ジリジリと近づいてくるその姿は、もはや人間の様にさえ思える。
「「ヴォオオオオオオオッ!!」」
「くっ、やるしかないな!」
「逆にこちらが躾けてやる!」
威嚇する様なその咆哮を聞き、マキアスとユーシスの掛け合いで、一同は決意を固める。
そう、この戦闘で彼らは戦術リンクを物にする。それが見えたからこそ、リィンは戦闘開始の合図を告げた。
「特別実習の総仕上げだ……士官学院特化クラスⅦ組A班、全力で目標を撃破する!」
「「「おおっ!」」」
「各個撃破で行くぞ! フィー! 遊撃は任せる!」
リィンは皆を激励し士気を上げる。
「
フィーが二体纏めて銃撃の嵐を浴びせ、その行動を阻害しカザックドーベンの武器でもあるスピードを殺していく。
「白き刃よ―――『イセリアルエッジ」
そこにエマが魔力で生み出した刃を打ち込み、一体のバランスを崩す。その瞬間、戦術リンクが発動し追撃を仕掛けるリィン。
「そこだ!―――焔よ『焔の太刀』」
焔を宿したリィンの太刀による連撃に耐え切れず、二体のカザックドーベンは身を縮めて、行動に隙が生まれる。
「ここだ! 喰らうがいい―――『クイックスラスト』」
この好機を見逃さなかったユーシスは敵陣に深く入り込み、無数の斬撃を浴びせる。その瞬間、今まで繋がる事のなかった戦術リンクの光が彼を包み込む。
「今だ! レーグニッツ!!」
「ああ! これならどうだ!―――『ブレイクショット』」
ユーシスが声を上げる事を知っていたかの如くタイミングでマキアスが大口径の銃弾を打ち込む。
それでも倒れない二体は賞賛に値すべきタフさである。一同はこれでもまだ倒れない事に動揺の色を見せたが、この戦いがあと一手で終わりを告げる事を悟った少女は既にその時点で動いていた。
「これで終わり!―――『シルフィードダンス』」
先日の実技テストでスレインに向けて放った
「何とか倒せたな……」
二体の軍用魔獣の動きが完全に停止した事を確認して声を出す。
「さっ、さすがにもうダメかと思ったぞ……」
「フン……たかが獣ごときに遅れを取ってたまるか……」
それを聞いて安心したのか、マキアスとユーシスが言葉を続ける。
「ふふっ、二人共見事な戦術リンクでした」
「あぁ、実習の仕上げにしては上々過ぎるくらいだな」
エマとリィンのその言葉を恥ずかしそうに言い訳をする二人。この大型魔獣相手に戦術リンクを完成させて全員で撃破したのだ。これ以上の評価はないだろう。リィンがそんな事を考えていた矢先だった。
―――ピィィィ!!
警笛の様な音が聞こえると、複数と足音と気配を感じる。
「しまった……」
自分達が逃げ出していた事も忘れ、勝利の一時に安心していた事が仇になった。魔獣ではなく、領邦軍兵士の追手がすぐそこまで来ていたのだ。
「呆けている場合ではなかったか……」
「ここまでか……」
ユーシスとマキアスが言葉を出すと同時に、領邦軍は自分達を取り囲んでいく。
「貴様ら、よくも巫山戯た真似を……レーグニッツだけではなく、全員で捕まりたいらしいな!」
昼間マキアスを拘束した隊長格の男はそう言って部下に指示を出し、銃口をこちらに向ける。
「ああ……捕まえてもらおうか」
ここで口を開いたのはユーシスだった。アルバレアの名を使えば逃げられるかもしれないと思ったのだろう。しかし、あれだけ強引にマキアスを連行した彼らだ。それで納得する訳がない。
「ユーシス様!? どうしてここに!? 謹慎されていたのでは!?」
「フン、実習を再開しただけだ。それよりもどうする?こいつらを逮捕するならば、俺も同罪という事になるが……」
男の言葉に聞く耳をもたず冷静に返答するユーシス。その言葉にはいつも以上の威圧感が含まれている。
「……それは……」
「さすがに若様に銃口を向けるわけには……」
「ええい、狼狽えるな! いくらユーシス様でも軍事施設への無断侵入は許されるものではありません! ましてや公爵閣下の命に背き、勝手に容疑者を逃がすなど……」
部下の動揺を一声で制し、さも正論の如く言葉を並べる男。
「いい加減にしろ……そりが合わないとは言え、同じクラスで学ぶ仲間。その者があらぬ容疑を掛けられ、戦争の道具に使われるなど……このユーシス・アルバレア、見過ごせるとでも思ったのか!?」
男の言葉に屈する事なく、マキアスを仲間と言い、更にその身を案じた言葉を紡ぐユーシス。もはや、彼の中ではマキアスをしっかりとⅦ組の一員、仲間として認めている言葉だった。
「よく言った、ユーシス」
その言葉は自分達の前方、領邦軍の後ろから聞こえた。
「スレイン!」
リィンがそう叫ぶと、彼は笑って「わりぃ、少し遅れた」とだけ告げた。
「お前らさ、自分の立場をわきまえた方がいいぞ? 詰所の兵士は全員ノシたし、軍用魔獣は一匹残らずあの世行きだぜ?」
飄々とした姿でそう言った彼に領邦軍は戦慄の表情を浮かべている。その言葉には自分たちも驚愕の表情をせざるを得なかった。
「なっ……」
「それにさ、さっきから聞いてんだけど、お前ら仕える所間違ってねぇか? 領邦軍ってのはアルバレア家に仕えてるんだろ? 何故ユーシスの言葉が聞けない。いつからヘルムート公爵閣下の私兵の様な言い方が出来る様になったんだ?」
その言葉にはさすがに堪える様だった。苦虫を噛み潰した様な表情をして、言葉が出ない領邦軍。確かに傍から見たらその通りである。アルバレア家に仕える身でありながら、末席でありながらもアルバレア家の者の言葉を聞かない。取り付く島もないこの状況は、スレインと同じ様な言葉が出てくるのが普通である。
「くっ、何を言われようと我らにも使命がある! こうなったらユーシス様ごと武装解除を……」
「その必要はないぜ」「その必要はなかろう」
前からはスレインが、そして、後ろからは昨日聞いたばかりの声が聞こえた。
「この声は……」
ユーシスが呟くと同時にその声の持ち主は現れた。
「ルーファス様!?」
「帝都に行かれたのでは……」
領邦軍の兵士がそう声に出す。それは正に代弁であり、この場にいる全員が同じ疑問を持っている。
「士官学院の方から昼過ぎに連絡が入ってね。それで急きょ飛行艇でこちらに戻ってきた訳だ。君たちの教官殿と共に」
「ハイ♪ お疲れ様だったみたいね」
そう言って背後から現れたのはサラだった。
「事情はひと通り聞かせてもらった。この場は私が引き取るが故、卿らは戻るがいい」
「しかし……」
ルーファスの言葉に頑なに拒む男。それはもはや、無理だと分かっていてもプライドが許さない発言の様にも聞こえた。
「父には話しておいた。この上私に余計な恥をかかせるつもりか?」
この言葉がトドメだった。歯を食いしばった男は部下に撤収の命を告げるつ速やかに撤退をしていった。勿論、スレインの前を横切る際には舌打ちをして睨みつけるという、敗者ならではの決まり文句まで披露していた。
「しかし、どうして教官がこちらに?」
マキアスが不自然そうな顔をしてサラに問いかける。
「いや〜、とある筋から情報が入ってね。急いで帝都にいた理事さんに連絡を取って、帝都からの飛行艇に乗せてってもらったのよ」
「まったく用意周到な……ん?」
「今、“理事”とおっしゃいましたか?」
ユーシスとエマが聞きなれない言葉を聞き返す。
「改めて、士官学院の常任理事を務めているルーファス・アルバレアだ。今後ともよろしく願おうか」
この状況で何となく理解していたスレイン以外は全員が茫然自失状態であった。
常任理事。つまりは理事長であるオリヴァルト(これはまだⅦ組は知らない)の代わりに運営する代理的な存在であろう。そして常任理事は3名いるとの事が伝えられた。といっても、その3名も大方検討が付くので、言及する必要はない。
「それと、スレイン・リーヴスくん。改めて御礼を言わせてもらうよ。父の独断行動を止めてくれて助かった。さすが
ルーファスは軽く頭を下げて感謝の意を示す。
「その名は辞めてくださいよ。そんな悪名、学生には似合わないですから」
「それは失礼した。しかし、父があれ程までの事をしていたとは……」
「まぁ、今後はそこの教官殿を頼ってくださいよ。牽制目的と言えど、アレを使うには少々悪目立ちしますから」
「なるほど。では、そう言う事にしておこうか」
一同はその会話の内容が分からなかったが、今回の一件は知らない所でスレインが活躍していたという事だけは分かった。後程、それについて御礼を言っても「大したは事してない。むしろそっちの方が大活躍」と言って逆に賞賛されてしまい、言及する事も出来なかった。
こうして、何はともあれ長かったバリアハートでの特別実習は幕を閉じるのであった。
この時点では名前も出ていなかった改造野郎ことトヴァルさんですが、スレイン君が無視する訳にもいかず、満を持して名前&解説付きで登場してもらいました。
しかし、トヴァルさんとスレイン君が被るので、兄さんには犠牲になってもらいました。
ファンの皆さん、申し訳ありません。
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました。