英雄伝説 魔の軌跡   作:閃の細道

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タイトルでバレてますが、遂にあの方が登場します。
書いていたら2万字を優に超えていたので、二部構成となりました。

他にもやっとあの方たちが登場します。
これから沢山出てくる予定なので、今回はジャブだけにしてあります(笑)


という事で、第17話、始まります。


PS
気づいたらお気に入りが50件を超えていました。
正直お恥ずかしい点もありますが、その倍以上に嬉しい気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございます。

今後も頑張って更新致しますので、ご愛読頂ければ幸いです。


流麗な使用人・前編

 

「疲れた……色々疲れた……」

 

「まぁまぁ、あんたのおかげで万事上手くいったんだからいいじゃないの。シャキッとしなさいよ」

 

「うっせなー、お前さんは何もしてねーだろーが」

 

 二回目の実習から帰宅し、皆が泥のような眠りについたその夜。第三学生寮のスレインの自室に、一人の女性が来訪中である。

 そう、今回実習先まで足を運んでおきながら、全て常任理事のルーファス・アルバレアに任せて隣に突っ立っていた人間、サラ・バレスタインが隣に座っているのだ。

 

「それはだって、逆に言えばあたしよりも発言力ある人がいたら、出ない方がいいじゃない?」

 

「それは違いないんだけどさぁ……トヴァルまで呼んでる時点で、マジで働く気ゼロじゃねぇか。……ま、別にいいけどさ、無理されんのも困るし」

 

「あら、何? 飴と鞭? 心配してくれるなんて嬉しいわ〜♪」

 

 そういう所にだけはしっかり食いついてくる辺りが可愛くないのだが、そんな事を言っても改善される訳ではないので反論はしないでおく。

 

「ま、とりあえず全員無事で帰ってきたし、マキアスとユーシスも戦術リンク使えたし……結果オーライだな」

 

「そうね、今回もまたスレインのおかげよね。ほら、ご褒美」

 

 そう言ってサラは酒瓶のラベルを見せる。確認するとバリアハート産のワインであり、その中でもかなり高級な部類に属するものだった。

 

「どしたんだ、これ? けっこうするヤツじゃん」

 

「常任理事さんがくれたのよ。連絡くれた御礼と、あんたの功績に対しての報酬ってトコね。せっかくだから飲みましょ♪」

 

「サラ……これ飲みたいが為に来ただろ?」

 

「え〜、そんなの当たり前じゃない♪ ほら、カンパーイ♪」

 

 自分が話している間に早々と注がれたワイングラスを鳴らして、諦めた表情で一口飲む。

 

「ん……流石だな。ココ最近で一番美味い」

 

「ん〜! 確かに美味しいわね〜♪」

 

 実際に美味いものを口にすると、それまでの疲れは吹き飛ぶものである。一口飲んだだけで口に広がる芳醇な香りに、今日のあれこれを一瞬全て忘れそうになる。

 

「サラ、肴にするには下世話な話なんだが、一個だけいいか?」

 

 真剣な表情をしてサラを見据える。それだけで感じ取ってくれた様で、小さく頷く彼女の表情も同じく真剣なものへと切り替わった。

 

「帝国に結社が入ってる。今のところ『怪盗紳士』に接触したが、交戦するつもりはないらしい」

 

「……それマジ?」

 

「あぁ、ただ気になる点としてはリィン達にも接触してる。そっちはお遊び程度と言っているが……Ⅶ組に目を付けてるかもしれんな」

 

「今のところはこっちも様子見よね」

 

「だろうな。どちらにしても奴ら相手に先手なんて取れないんだから、暫くは情報収集メインだな。トヴァルに上手く回らせればいいだろ」

 

「あたしも動く?」

 

「いや、今は大丈夫じゃないか? あいつも今回はお誘いだけって言ってたから、直近で何かするつもりではないらしい」

 

「お誘いって……あんたまだ勧誘受けてるわけ?」

 

 僅かに怒気の籠った声がサラの口から飛び出る。この話題は禁句だったのだが、事後報告として手短に済ませようとした事が仇になった。バツの悪い表情をしながら目線を逸らすスレイン。

 

「まぁ、今回は戦闘になってねぇから大丈夫だって。それに、あいつらも勧誘目的だから命までは取らないし」

 

「そういう問題じゃないわよ! まだそんな危ない橋を渡ってるのね……」

 

「あちこちで執行者とやり合ったからねぇ。それにシャロンを完全休業にさせたのだって俺だし。能力的に見ても、喉から手が出る程の人材なんだろ」

 

「だから心配なのよ。いくらあんたでも相手が悪かったら―――」

 

「サラ」

 

 その後の言葉を遮る様に優しく呼びかけて視線を戻す。

 

「今更相手も何もないさ。それにこれは俺の宿命だ。前に言っただろ? 『思っている以上に深い関わりだと思う』って。俺も真相までたどり着いちゃいないが、それでも関わらないと真理は見えない」

 

「…………」

 

 その言葉の意味を理解しているつもりであっても、重みまで理解出来ないサラは沈黙してしまう。

 自分自身が分からない事を他人に分かってもらいたい訳ではない。この言葉は他の誰でもなく、自分自身に言い聞かせた言葉だった。

 

「ヤバイ時は目一杯頼らせてもらうよ。今は頼れる教官殿だしな」

 

 そう言ってサラの空いたグラスにワインを注いでいく。自分で招いたこの雰囲気は、一晩中に酒に付き合う事で彼女の機嫌と共に戻っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 日付は変わって翌朝。学生寮のリビングルームにて。

 

「で、どうしてこうなった?」

 

 スレインは現在非常に困惑中である。明け方までサラの酒盛りに付き合っていた為、殆ど睡眠に時間を当てる事もなくリィンに叩き起こされた。「リビングに来てくれ」の一言だけ残して。

 そこいたのはリィンだけかと思いきや、Ⅶ組一同。まさかの全員集合である。この状態に流石に何事かと思って問いただしたら、全員が深々と頭を下げてこう言ったのだ。

 

「戦いを教えてください」

 

 巻き戻した時間を現在座標に正す。目の前にいるⅦ組一同9名は揃いも揃って真剣な眼差しでこちらの言葉を待っている。それにに対して発言したセリフが先程の言葉であったのだ。

 

「たまたまさっき皆が揃ってさ、今回の実習の件を話していたんだ。A班で今回単独で動いて、俺たちのフォローをしてくれたスレインの話をしたんだが……スレインと俺達には差が有り過ぎる気がすると思って。自分達の力を付けるには、スレインに教えてもらう方が良いというのが全員の意見だった」

 

 代表してリィンがそう答える。まぁ、大方今まで見てきた自分の戦歴さえも考慮してこの結論に至ったのだろう。

 

「……何故差があるのが嫌なんだ? 既にⅦ組は他のクラスよりも戦力は上だと思うぞ?」

 

 特別実習という実戦がある以上、トールズの他のクラスより戦力が上なのは当然である。ましてや、ケルディック・バリアハートと自身が行った実習先では、学生の立場を越えた案件で戦っている。判断力から戦闘力まで、既に学生の域を越えそうになっているのは間違いない。

 

「……守られている気がするんだ。一緒にいる時は勿論、俺たちは知らない所でもスレインに守られている様な気がする。でも、俺たちにはスレインを守れない。その実力がない」

 

 またしてもリィンが回答し、一同は僅かに首を頷きこちらを見ている。どうやら発言権を我らがリーダーに委ねているのだろう。

 

「守られているのは当然だ。それが戦力的な役割分担だろう。戦力の劣る者の特権であって、戦力が優っている者の義務だからな」

 

「では、貴様はその義務とやらであの軍用魔獣を全滅させたのか?」

 

 一瞬の間を起きユーシスが発言した。随分と情報の入りが早いものだ。昨日の今日でその情報があるという事はルーファスから聞いたのだろう。

 

「僕たちは5人掛かりで2体倒すのが限界だった。それでもフィー君がいたから何とかなったものだ。それを28体も相手にして無傷でいる時点で差が有り過ぎる。同じクラスとしてこれを縮めたいと思っても当然だろう?」

 

 お次はマキアス。正直、あの戦いは遠巻きに観戦していたので、その過程は知っている。確かにフィーの援護と必殺技という猟兵としてのスキルがあったから倒せた様なものだ。フィーだけでもレベル差があるというのだから、それを10倍以上相手にした自分と比較してしまえば、その差に愕然とするのも頷ける。

 

「……ああ、2体だけ別の場所に収容されていたみたいだが、同時に出されたらマズイと思ったからな。どんな過程があるにせよ、どんな差があるにせよ、勝ちは勝ちだ。その結論でいいんじゃないか? それともお前さんたちは、自分から人の一線を越えたい(・・・・・・・・・)とでも思ってるのか?」

 

その最後の言葉に全員の表情が固まるが、気付かないフリをしてそのまま言葉を続けていく。

 

「皆も何となく思ってると思うけどな、正直俺も自分が人の道を外している(・・・・・・・・・・・・)と自覚している。だから人の道を歩む者に何かを教えられる様な人間だとは思ってない」

 

 この言葉に対して何かを言える者は誰もいなかった。リビングに広がる沈黙は実際の時間の何倍にも感じる、とても重苦しいものになっていた。

 

「……まぁ、そういう訳で、最初の質問の答えはノーだ。ただし、手合わせや模擬戦の相手なら構わない」

 

 要するに、直接指導するのではなく『肌で感じとれ』という言葉をオブラートに包んでそう話す。一同は瞬時にその意味を理解して、重たい雰囲気が溶けて表情が明るくなっていった。

 

「ま、そういう訳だから、焦らず自分の範疇内で鍛錬するんだな。どっちにしても俺みたいな芸当が身に付くわけじゃねぇんだからさ」

 

 最後に「じゃぁな」と一言だけ告げて第三学生寮を後にするスレインであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちわーっす。ジョルジュ先輩いますー?」

 

「おはよう、スレイン君。もう少しで手が空くからちょっと待っててくれ」

 

 黄銅色のつなぎを着用した膨よかな先輩はこちらを見ずにそう告げるので、言葉に甘えて入り口付近にあるテーブルに付き、朝食を食べながら作業を終えるのを待っていた。

 

 現在の場所は技術棟。と言っても平屋建てで倉庫程度の広さの場所である。一応名目上は士官学院内のオーブメントの調整工房という事になっているが、実際の所は目の前で作業をしている一学年上の先輩、ジョルジュ・ノームの城と言っても過言ではない。

 

「ごめん、お待たせ。いつも悪いね、朝ご飯まで買ってもらって」

 

 ここに来る前にキルシェで買ってきた軽食を渡す。スレインがこの場所を訪れるようになったのは二週間程前の事だ。

 生徒会の手伝いをしているリィンはけっこう技術棟に出入りをしているらしく、ジョルジュとも仲が良い。そして、生徒会長のトワ・ハーシェル、先輩のアンゼリカ・ログナー、クロウ・アームブラストとジョルジュは昨年から共に行動していた仲良しグループという事もあって、皆で仲良くここでお茶をする事もしばしばあったらしい。

 そして、二週間程前についに口を割ってしまったのである。自身のクラスにとてつもなく導力学に詳しい人間がいると。幸い、戦術オーブメントがどうとかの話は隠してくれたらしいのだが、ジョルジュを筆頭に全員に興味を持たれて、半ば強引に自分もその会に飲み込まれていったのだ。

 

 ジョルジュは現在、導力バイクというルーレ工科大学で試作されている導力式の乗り物を組み上げ、アンゼリカ専用のカスタムをしているとの事。アンゼリカが四大名門の一つ『ログナー伯爵家』の息女であり(家庭環境は良くないとの話だ)資金提供をして、全員で製作しているらしい。

 道楽半分で行っている学生の趣味みたいなものであるが、それについての意見だとか手伝いとかの熱弁を受けてついイエスを言ってしまい、受けてしまった以上は腹を括り、それから頻繁に顔を出してはお手伝いをしているというのが、ここまでの経緯である。

 

「もうこれ以上は弄ると所がないんじゃないですか?」

 

 朝食を食べながら質問をしていくスレイン。

 

「動作上は問題がないけど、やっぱり安全面は気になるからね。そういった部分ではまだまだ完成には至らないかな」

 

「安全面って言ってもねぇ……逆にこれ以上の遊びを造ったら、ガチガチで面白みに欠けますよ?」

 

「それもそうなんだよね。アンの意見を取り入れるとそうなってしまうんだけど、それでもやっぱり工夫すべきなんじゃないかな?」

 

 操縦者でもあるアンゼリカは言ってしまえば、安全面よりも快適さ重視の性格である。そして、その快適さというのは、バイクという性質上スピード。スピードを出すとなるとそれだけ安全性が必要になるのだが、過剰に意識をすると最高速度の低下や加速度に影響が出る。上手くバランスを考えていかないと、技術者と操縦者の意見が一致しないという事である。

 

「はっきり言って、ここらが限界ですね。パーツそのものを変えていかないと、両立は厳しいと思いますよ?」

 

 現状から判断した答えを出すが、納得いかない顔を浮かべているジョルジュ。それと同時に扉から二人の先輩が入ってくる。一人は栗色の長髪を一つに束ねた小柄な生徒会長トワ。そしてもう一人は紫色のショートの髪に黒のライダーススーツの様なつなぎを来た先輩アンゼリカだ。

 

「おはよー! 早速二人で会議中?」

 

「おはよう、二人共。何やら難しい顔をしているけど、相棒の話かい?」

 

「おはようございます。トワ会長、アンゼリカ先輩」

 

「おはよう、二人共。そうだね。スレインくんの的確な言葉に負けた所さ」

 

 トワが手に持っている朝食を並べ、アンゼリカが水筒から全員分の紅茶を注いでいく。毎回恒例のお茶会スタイルである。

 

「しかし、ジョルジュの会話についてこれるなんて本当に驚きだよ」

 

 アンゼリカは紅茶を飲みながらそう言ってこちらに目線を向ける。

 

「一から組み上げたジョルジュ先輩程ではないですよ」

 

「謙遜する必要はないよ、スレイン君。ジョルジュ君と同じ会話が出来るなんてとっても凄い事なんだから」

 

 こんな感じの会話をいつもしている。実際の所、導力バイク程度(・・・・・・・)なら簡単な部類だが、そんな事言うと七面倒な事になるので勿論黙っている。

 

「おーす、なんだよ、飯は終わってんのか」

 

 扉が開くと同時にそう言ながら、眠そうな顔で入ってくる銀髪の先輩クロウは既に空っぽのランチボックスを見ながらもの寂しそうな目をしながら空いている椅子に腰掛ける。

 

「クロウ先輩、おはようございます。食べかけで良ければどうぞ」

 

 ほぼ同時に皆で挨拶をして、自分はまだ手付かずだったサンドイッチを渡した。

 

「お、スレイン、サンキュ。気が利くぜ。そう言えば、ジョルジュ。バイクの方はもう完成か?」

 

「うーん、今のところは……かな? スレイン君とも話したんだけど、今の状態ではこれ以上弄れないんだ」

 

 クロウの質問に、またまた納得のいかない表情で答えるジョルジュ。

 これを量産化するつもりなのであれば、既に生産ラインに乗せられる状態なのに何を求めているのだろうか。

 

「そういえば、アレってどうなったの? 前にアンちゃんが言ってたやつ」

 

 全員のカップを見回して空のコップに紅茶を注ぎながら質問するトワ。

 

「あぁ、あれもパーツが足りなくてまだ手付かずなんだよ」

 

「丁度良いサイズが見つからないのもあって、こっちに回ってこないのだよ」

 

 ジョルジュ、アンゼリカの順で質問に回答するが、何一つ明確な単語がないので全く話が分からない。

 

「すみません、あれって何ですか?」

 

「なんだ、お前さんは聞いてないのか? サイドカーってやつだ。バイクの横に設置してもう一人を乗せるパーツらしいぜ?」

 

 自身の質問に、知らなかったのは意外という表情をしてクロウが回答する。

 

「なるほど。てことは、導力系統ではなくて単純に金属系の材料がないって事ですか?」

 

「そうだね。同郷のよしみでラインフォルトに頼んでいるんだけど、元々ログナー家ではなく一学生の依頼として毎回出していてね。そこまで融通が効かないんだ」

 

 確かに学生からの依頼で通していれば、いくらログナー家の息女からの依頼であっても優先事項は落ちるだろう。それに人一人を収容出来るサイズとなると、材料もけっこうな量になる。融通が効かないのも当然だ。

 

「ふむ……分かりました。ちょっと裏ワザ使いますけど、詮索はなしでお願いしますね」

 

 そう言って徐ろにARCUSを取り出し、とあるナンバーにかける。そこにいた先輩方は首を傾げているが、この際気にしない。

 

「……もしもし? あぁ、久しぶりだな。……いや、緊急じゃない。知り合いが導力バイク用のサイドカーを一つ製作するんだけど、材料がないから欲しいんだ。…………あぁ、そうそれ。配送先はトールズ士官学院技術棟で頼む。…………サンキュ。埋め合わせは後でするさ。…………俺の性格知ってんだろ? 礼は必ずする。じゃぁ、またな」

 

 ひと通りの通話を終えてARCUSをしまうと、一同は更に不思議そうな表情をしていた。

 

「とりあえずラインフォルトから一台分の材料を確保しました。来週には届くとの事なんで、それまで気長に待っていてください」

 

「え!? 今の電話ラインフォルトにかけたのかい?」

 

「私でもダメだったんだが……一体君はどんな繋がりがあるというのだ?」

 

 お得意様である自分たちがダメだったのに何故、といった表情でジョルジュとアンゼリカが疑問を投げかける。トワとクロウも同じような顔をしている。

 

「まぁ、正確に言うと本社ではなくて知り合いの所です。以前でかい貸しを作ってあるので、それで優先的に。さっきも言いましたけど、これ以上はなしですよ?」

 

 わざとらしく悪戯そうな笑みをしながら一同の次の言葉を制した。

 ARCUSの開発というラインフォルトの中でも1,2を争う功績に携わっているので、基本的にどんな融通も効いてしまうのがスレインなのである。

 それに、ラインフォルトとはそれ以外にも個人的な繋がりがある為、言ってしまえば第一優先事項にもなるのだ。勿論、通話先もその個人的繋がりの人物である。

 

「スレイン君、すごいね……アンちゃんでもダメなのに、それを覆すなんて」

 

「いや、覆した訳じゃないですよ。単純にどっから話を通すかの違いです。俺に出来る事はこれくらいですから」

 

「とか言っても、しっかりジョルジュにアドバイスしてんだから、本当にすげぇヤツだよな、お前さんは。てか、それはそうとブレードやろうぜ!」

 

 こうしてクロウのこの発言でブレード大会が始まっていく。これも毎回の決まり事の様なものだ。

 

 今まで感じた事のないこの平和的な日常と先輩という縦の繋がりを得たスレインは、こんな面倒な場所に招き入れたリィンに恨みよりも感謝をする事にして、貴重な休日を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 学生の本分は学業である。入学してから既に三ヶ月が経過しようとするこの時期、学生の大半が憂鬱に感じるイベントが存在する。

 

 学力試験。つまるところ、テストだ。このトールズ士官学院での学力試験は、個人成績が張り出される他、クラス全体の平均点という成績も張り出されるらしい。個人成績が張り出される時点で、結果が振るわなかった者からしたら羞恥以外の何ものでもない。しかし、トールズでは貴族・平民といる事から、このクラス成績というものが厄介なのである。毎年貴族クラスの1組がトップらしいのだが、これを貴族・平民の違いという事で、試験後は我が物顔での学院生活に拍車をかけるらしい。

 そしてクラス成績というものは担任教官にも関係するらしく、結果が振るわない場合はお小言(つまりは説教)が入るらしい。特に今年から新設されたⅦ組は、特別実習という課外活動があるので、そもそも学力の部分が懸念対象となっており、今回の試験はそのウェイトがかなり重い。

 しかし、今年度入学生徒の主席・次席がいて、更に成績上位者が多いこのⅦ組には期待しているとの事で、我が担任教官殿は特別何も考えていなかった。

 

 そんな試験が翌日に迫った今日も、皆は必死に詰め込み……もとい、試験対策をしているのであった。

 

「スレインは試験勉強、どうするんだ?」

 

「そうよ、あなたいつも寝てるか物思いに耽ってるかだったじゃない。大丈夫なの?」

 

 試験前日という事もあり昼過ぎには授業が終了し、教室内で試験勉強をしようと皆で話合っているのを横目に絶賛物思い中だったのだが、リィンとアリサの言葉に意識を現実世界に戻していく。

 

「ん? 俺は大丈夫。人生諦めが肝心だからな。それにサラに呼び出し喰らってんだよ、わりぃな。」

 

 ケラケラ笑いながら教室を出て行く。壁際で聞こえる「あの導力学なら成績も……」なんて憶測をしながら自身の成績の予想が始まっていた。

 

「(ま、風でも読みながらテキトーに流す事にしますかね……)」

 

 心の中で堂々とカンニングをする事を決意し、呼び出しの先へ向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

――――――コン、コン

 

「Ⅶ組、スレイン・リーヴスです。失礼します」

 

 形式的な入室前の挨拶をしてから扉を開ける。呼び出し先は学院長室。サラとヴァンダイク学院長に呼ばれていたのだが、何事かと思ったのだが用件を告げた際の表情から問題があった訳ではないと悟ったので、非常に落ち着いた気持ちで入室する。

 

「学院長、お待たせして申し訳ありません」

 

「いや、大丈夫じゃ。といっても、ここにいる以上、待つ事は必然じゃからな」

 

 それは間違いないと思うのだが、何事も形式的というのは重要である。学院長の机の前に立っていたサラにも会釈をして横に並ぶ。軍隊的に言うのであれば、休めの姿勢で学院長の方を向く。

 

「早速ですが、用件をお伺いして宜しいでしょうか? サラ教官も同席されてますので、重要なお話という事でしょうか?」

 

「いや、そういう訳ではないよ。第三学生寮には管理人がいないのは知っておると思うが、明日から管理人が入る事になったのでな。そのご挨拶という訳じゃ。勘違いさせてすまんの」

 

「いえ、問題ありません。しかし、その様な事柄であれば私が同席する必要はないのではないでしょうか? お言葉ですが、他の者と同様挨拶など……」

 

 スレインの言葉が終わる前に、学院長室の扉がノックされる。それと同時に可憐な声で入室の挨拶が響き渡り、丁寧に扉を開け入室してくるメイド姿の女性。

 

「あ〜、そういう事……でしたか」

 

 学院長の前であるにも関わらず、ついつい普段の口調となる事を制してそう呟く。

 目の前に現れた女性は、艶やかかつ品のある笑みを見せてこちらに歩み寄る。薄紫色のショートカットの髪にメイドキャップを付け、髪色と合わせた濃い紫を基調としたエプロンドレスを着ているその姿は、管理人というよりメイドである。

 

「知っている人物だと思うが、ラインフォルト家の秘書でありメイドのシャロン・クルーガー君じゃ。明日から第三学生寮の管理人として寮に住んでもらう。ただ、知っての通り、ラインフォルト社の方をお休みする訳にはいかんので、たまに出向く事もあるので、そこは承知しておいてくれ」

 

「スレイン様、サラ様、お久しぶりですわ。第三学生寮の管理人として、精一杯ご奉仕させて頂きますわ」

 

 そう言ってシャロンはエプロンドレスの裾を持ち深くお辞儀をする、最上級の帝国礼儀の挨拶をした。

 

「久しぶりって言っても、数日前に電話したけどな。まぁ、シャロンがいるなら寮生活は安心だな。……ところで学院長、それでもこの場に私がいる理由が見当たらないのですが……一体どういった理由でしょうか?」

 

「いや、それがの、シャロン君の頼みなのじゃ。顔合わせは私とサラ君と、君もいて欲しいと。いや〜、スレイン君はモテモテじゃな〜」

 

 学院長がこんな人だとは思わなかった。というのが正直な意見。そして横から飛んでくるジト目と後ろから感じる喜びの笑顔。どうしてこんなにもやり辛い雰囲気なのであろうか。

 

「それとスレイン君、私にも砕けてくれて構わんよ。君の事はある程度知っているが、私も軍属は退いておる。この部屋で話す時は、なるべく普段通りで構わないよ」

 

「学院長、ありがとうございます。そう言って頂けると助かります」

 

「そういう訳なので、シャロン君は本日は宿に宿泊する事になっておる。わしはこれから出るので、ひと通り話終わったらトリスタを案内してやってくれ。それではの」

 

 それだけ告げて学院長は部屋を出る。残された人物はサラとシャロンの合わせた三名。両者共に笑顔を振りまいているのだが、心の叫びは全く笑っていない。この状況では流石に胃にダメージを与えるので、キルシェで食事をする事を提案してこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数刻。約束通りキルシェで食事をしているのだが、その雰囲気は数刻前と全くもって変わっていなかった。理由は分かるのであるが、それでももう少し大人の対応をしてもらいたいものである。特にサラの方。

 

「サラ、ちょっと飲み過ぎだ」

 

 食事を初めてまだ間もないのに、グラスに注いだビールを数分で空にしてしまうサラ。これではやけ酒と同じである。

 

「やけ酒よ、やけ酒! なんでこの女が来る訳!?」

 

「そうは言われましても会長の意向ですので、わたくしの意見ではございません」

 

 もうこの押し問答は数回続いている。しかもこのやり取りをしながらもビールを注ぐのはシャロンの方なので、構図としては面白いのだが、それでも如何せん胃に悪い。

 

「とりあえず過去の因縁はいいだろ? あれはあれ、これはこれだ。サラが何と言おうと、シャロンが管理人になった以上は毎日顔を合わせんだからさ」

 

「そうですわ。わたくしはスレイン様と毎日お会い出来る事を大変嬉しく思いますわ」

 

 ちなみにスレインの空いたグラスにもしっかりとビールを注ぐシャロン。この女性はそこらのメイドとはワケが違う。主人に何もやらせないと言ってもいい程の完璧な世話が出来る。家事全般だけではなく、スケジュール管理からこういった際のマナーまで。一言で言うとパーフェクトメイドなのである。

 

「あぁ、もうイライラするわね。スレイン、あんたも飲みなさいよ」

 

「いや、だから飲んでるだろ? てか、俺、明日試験なんですけど」

 

 今更であるが、今日は学力試験前日である。他の学生達は自棄になって最後の悪あがき……もとい、最後まで諦めずに勉強中の日である。

 

「あんたはやらなくてもトップでしょ? いいのいいの!」

 

「スレイン様なら問題ございませんわ。会長も喉から手が出る程の人材と仰ってましたし、学院の試験は一位でない訳がありませんもの」

 

「お前らなぁ……トップになったら悪目立ちするだろうが。Ⅶ組ならともかく、他のクラスからしたらマズイだろ」

 

「いや、あたしは許さないわよ。トップになって見返してやりなさい」

 

「見返すって誰にさ?」

 

「あんた貴族クラスからなんて言われてるか知らないの?」

 

 はて、一体何の事を話しているのか。部活に入っていないし、学校が終わったらすぐに帰宅する日が多いので、貴族クラスには知り合いもいないし噂になる様な事柄もしていないハズなのだが。

 

「ウチの子たちがした実習の話に尾びれが付いてるのよ。あんたが脳筋だとか化け物だとか」

 

 そう言ったサラの顔は悲壮感が漂っていて、酔いのせいもあるのかほんの少し瞳が潤んでいる。

 

「んなもん、言わせとけばいいだろ? あながち間違ってないし、サラが気にする事じゃねぇよ。それに、試験でトップ取ってみろよ? それこそ化け物以上になるぜ?」

 

「気にするわよ。あんたがそう言われるなんて気に食わないの!」

 

「わたくしも同じ意見ですわ。スレイン様をその様に例えるなんて許せません」

 

 何故そういう所で気が合うのに、全く持って仲良く出来ないのだろうか、この二人は。といっても、元々サラが一方的にあの調子でシャロンがあしらうという関係なので、第三者が見れば仲良く見えるのもしれないが。

 

「その言葉だけ受け取っておくよ。主席次席と平民なんだから、ここで俺まで出てきたらそれこそ乱闘騒ぎになっちまう」

 

「いいじゃない、そんなの今更よ。実技テストって事でこてんぱんにしてやるわ! 執事が出てくるならあたしも参加出来るし」

 

「そうなりましたらわたくしも参戦させて頂きますわ。第三学生寮の管理人として謹んでお受けします」

 

 物騒な話をしながらも結託した二人は、この話では休戦を結びお酒を交わしていた。

 

「バカか二人共。戦争する気かよ」

 

 ここだけの話、シャロンは結社『身喰らう蛇』の執行者№Ⅸ『死線』のクルーガーと呼ばれる人物なのである。と言っても、今は休業中となっている。

 執行者とは結社の中でも最高位のエージェントであり、最高幹部である『使徒』の手足となって動く事が多いが、強制力はなく行動の制限もない。かなりの自由度がある立場なので、シャロンはそれを理由に休業としているのだ。

 休業にしたのはスレイン自身のなのであるが、それはまた別の話。

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

「いいじゃない、決定的な絶望と敗北を与えてあげましょ♪」

 

 完全な酔っぱらいとなってきた様で、教官とは思えない発言をさっきからずっとしているサラ。この女性は未来ある若者達を再起不能にしたいのだろうか。

 

「サラ様の仰る通りです。スレイン様に仇なす者がいましたら、わたくしも黙っていられません」

 

 先程からサラがシャロンに酌をしているせいで飲むペースも上がってきているのか、普段は雪のような白い肌のシャロンも頬をほんのりと染めながら過激な発言をしているシャロン。この女性も酔う事を知らない人物なのだが、恐らくはテンションが上がっているんだろう。

 

「分かった分かった。圧倒的な絶望を与えるのは俺一人でやるからさ、二人共落ち着け。これじゃマジで戦争おきるから」

 

 そこでやっと落ち着く二人。結局この人物達を相手にするには、自身が折れない限り話は終わらないのだ。

 スレインがしっかりと真面目に(・・・・)試験を受ける事と、何かあっても対処するという事を聞いて満足したのか、二人はまた本音と建前を使い分けてひたすら飲み続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

「寝たかこいつ……」

 

 店のお客も疎らになってきて、自身の周りに転がる酒瓶も数えるのを諦めたタイミングで、サラが遂に酒に呑まれて眠り始めた。

 

「そうですね。流石に飲み過ぎましたか?」

 

 サラの周りの食器を避けてからこちらを見るシャロン。先程よりも更に赤みがかった頬と、普段の完璧なメイド用語(スレインが勝手にそう言っている)が崩れている事からすると、こちらもだいぶ酔いが回っている様だ。

 

「俺の三倍近いペースだったからな二人共。シャロンもきてるだろ? そろそろ開くか?」

 

「いいえ、せっかくスレイン様とお二人でお話出来るタイミングになりましたから、もう少しだけお付き合い頂けませんか?」

 

「ん? 俺は構わないけど……何かあったのか?」

 

「いえ、そのような訳ではありませんが……わたくしも酔いがきているようです」

 

 本音を隠す様にそう告げると、こちらに向けて微笑みかける。

 

「ま、いいんじゃないか、平和的な日なんて今までなかったろ。俺もここに入学してから、平和ボケしそうなくらい平和な暮らしをしてるしな」

 

 本当であれば、それは素晴らしい事なのである。しかし、平和とは程遠い場所にいた二人は、それを素直に受け取れない。だからこそ苦笑を溢すだけで話を進めていく。

 

「そうですわね……これはこれでいいのかもせれません。本当にスレイン様には感謝してもし足りませんわね」

 

「俺は何もしてねぇよ。本当に感謝すべきなのはイリーナ会長だろ。それにあいつらは悪魔の方が欲しいらしいからな」

 

 自嘲気味にそう言って視線を彼女から虚空へと変える。

 実際の所、シャロンにメイドの道を与えた人物は、ラインフォルト社の会長イリーナ・ラインフォルトである。自分はその後押し(・・・)をしただけ。感謝される様な事は何一つしていない。

 

「スレイン様……」

 

「ま、この話してもお互いしんみりするだけだろ? やめようぜ」

 

 そうして話題を切り替えた後に二人は再び笑顔を取り戻して、互いのグラスを軽く当て鳴らす。

 

 横でぐっすり寝ている女性をそのままにして、この夜会は店の閉店時間まで続くのであった。

 

 

 




Ⅶ組の出番が殆どなくなってしまいました……
でも、それ以上に愉快な年上方が盛り上げてくれたと思いますので、こちらでお許し下さいませ……


それでは、今回もお読み頂き、ありがとうございました。
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