英雄伝説 魔の軌跡   作:閃の細道

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えっとですね……キャラ崩壊があるかもしれません。
ファンの皆様、申し訳ありません。

ただ、今回はどうしても書きたかった内容なので、楽しんで頂ければ幸いです。

それでは、第18話、始まります。


流麗な使用人・後編

 

6月19日

 

「ふぅ……やっと終わったか」

 

 学力試験を終えたスレインのこの一言は、試験自体の事ではなく、この試験中に漂う周囲の重苦しい雰囲気について、である。

 

 試験初日の帰宅後にシャロンが第三学生寮の管理人として正式に着任した時、アリサだけがものすごい反応を示していた。それは、アリサがラインフォルト家でいる事を隠していた事がバレた事(これはそのうちバレる事だから隠す必要がないと思うのだが)や、家を出た意味がないという事で、要は驚愕の反応をしていたのである。

 しかし、シャロンの仕事振りは折り紙つきなので、翌朝には誰にも文句を言わせない働きでⅦ組にすぐ馴染んでいった。しかし、試験期間中という事もあってⅦ組一同に普段以上の配慮をしていたのだが、この雰囲気と張り詰めた緊張感までは取り払う事が出来なかった。だからこそスレインは試験期間中気だるい思いをしていたのだ。

 

「スレインはどうだったんだ?」

 

 そんな気持ちを知らないリィンは、恐らく「終わった」の意味を勘違いしながらそう問いかける。

 

「本気出せって命令があったから本気出した。後のフォローは頼むぞ、少年」

 

「え、それはどういう意味なんだ……?」

 

 言葉の意味を理解出来ないリィンは、思わず不安な表情をしてこちらを見る。それに対して、不敵な笑みだけを返すのであった。

 

「おーい、全員注目ー!」

 

 スレインはこの日の為に数日前から計画していた事を実行する為、一同の目線を自身にをまとめる。

 

「試験終わったら身体動かしたくないか? 今からグラウンドでひと暴れしようと思うんだが……手合わせしたい奴はいないか?」

 

「うむ、確かにそうだな。勉強ばかりだと身体が鈍るのは間違いない。是非、手合わせを願いたいものだな」

 

「俺も手合わせをしてもらいたいな。やっぱり勉強だけで疲れたって本音もあるけど、スレインからだなんて珍しいな」

 

 ラウラとリィンが食いついてくるのは想定済みである。しかし、一同が腹を減らした状態にしなければ意味が無いのだ。

 

「今日で試験終了だから、シャロンに言って夕食は豪華になっているんだ。だからこそ、身体動かした方が良くないか?」

 

「成る程……貴様にしては粋な計らいをしたものだな。良いだろう。俺も参加させてもらおう」

 

 ユーシスの声を筆頭に、食事という餌に食いついた一同は予定通りの満場一致でグラウンドに向かうのであった。ちなみに、グラウンドの使用許可と仕合の申請はサラを通して完了済みである。

 

 

 

 

 

「3日後には実技テストがあるから同じ方式にするか。最初は、そうだな……リィン、ラウラ、ユーシス、エマにするか」

 

「ああ。なんか楽しみだな」

 

「うむ、胸を借りさせて貰おう」

 

「いいだろう、前回の借りを返させてもらう」

 

「なんだか不安ですけど……頑張ります」

 

 四人は各々の気持ちを吐露しながら前に出る。

 

「あと、見学の五名は俺じゃなくて四人の動きをしっかりと見ておけよ。総評は見学者にもしてもらう。基本的に悪い点を中心に見ておけ。良い所ばっかり追ってても意味が無いからな」

 

 スレインのその言葉に残りの五人はしっかりと頷き、四人を視線に入れた。

 自分が言い出した事ではあるが、予想以上に皆が乗り気な事に嬉しく思いながら自身のギアを一段階上げる。

 

「あと、お前さんたちは本気で来いよ。てか、殺す気でこい。じゃないと俺が動けん」

 

 言葉と同時に闘気と殺気を放つスレイン。それを前に一同は気を引き締めるかの如く、それぞれの得物を構え直す。そして、立会人を兼任したガイウスの開始の合図と共に仕合が始まった。

 

 

 

 

 

 

「そこまで」

 

ガイウスの声で仕合が終了すると、四名が膝を付けて肩で息をしていた。

 

「はぁはぁ……これがスレインとの差か……」

 

「うむ……これ程までとは……」

 

 リィンとラウラがそう言いながらスレインの方を見ている。

 

「ま、悪くはねぇな。とりあえず総評は俺以外からだな」

 

 そうして見学組の総評が始まる。結論から言うと、見学組の総評は戦闘という部分では悪い所はあまりなかった、という事。それもそのはず、同レベルの戦闘力で得物や流派が違う場合、立ち回りの良し悪しは付けられないのだ。それを一同に説明した後に総評を始めていくスレイン。

 

「とりあえず、前衛組は踏み込みが浅い。人間相手でも躊躇するな。ある程度だったらアーツで回復するから致命傷でも問題ない。リィンはもっと自分のスピードを活かせ。初伝止まりでも八葉なんだから状況に合わせる事が必要だな。八葉の真意は、その多彩な攻撃スタイルだ。前から突っ込むだけが取り柄じゃない。むしろ、それじゃあ活かしきれないのはリィンも分かるハズだ。今回で言うと、相方がラウラなんだから『紅葉切り』や『疾風』を使って邀撃に回った方がいい」

 

「な……八葉の事もそこまで理解しているのか?」

 

 自身の流派と自身の特性まで活かした総評に驚きを隠せないでいる。

 しかし、今はそんな事を説明する暇はないのでノーコメントを貫く。帰宅時間を告げている以上、早めの行動が肝心なのである。

 

「それなりにはな。次はラウラか。お前さんは逆に出過ぎだな。一撃が重いアルゼイド流には必中である事が重要になってくる。もっと戦況を読んでタイミングを合わせた方がいいな。今回で言えば、攻撃の起点になるんじゃなくて、重点になる事で真価を発揮できる。全体が自分に合わせる様なアピールをしていった方がいい。後は援護という意味合いも込めて、強化アーツを使っていく事も覚えるといいだろう。それくらいであればアーツの能力は関係ない」

 

「ふむ……成る程。しかし、そなた、アルゼイド流も分かるのか?」

 

 リィンと同じように自身の流派を理解しているかの如く話すスレインに驚いた表情をしているが、それもノーコメント。アドバイスも受け入れている様であるし次に進む。

 

「そっちもまぁ、それなりに、だ。次はユーシス。お前さんは器用貧乏って感じだな。宮廷剣術ってのは良くも悪くも型に沿った剣術だから読まれやすい。だからこそ、前後衛のどちらも出来る立ち回り方は正解だ。しかし、それ故に高位アーツや回復を躊躇うのはナンセンスだな。戦況に合わせるのはいいんだが、思い切りも必要だ。今回の場合だと、完全に後衛として立ちまわった方が脅威となる存在になる。しっかりと後衛の負担まで考えろ」

 

「貴様、宮廷剣術まで分かるのか……その総評はしかと受け止めよう」

 

 ユーシスも二人と同様の事を疑問にするが、その反論の余地のない総評に完全に魅了されていた。

 

「最後にエマか。今回は頼りっきりになってたから何とも言えないんだが、人間相手には今のやり方でオーケーだ。しかし、その魔導杖は固い敵なんかには有利だから場合に応じて前線に出る必要がある。後はアーツの種類だな。ARCUSのラインで 偏るのも分かるんだが、駆動時間を意識した配置にした方がいい。チームによってクオーツセットの見直しをしっかりやれよ」

 

「確かにそうかもしれません。しかし、どうやって私のクオーツまで?」

 

 エマはARCUSを見せた事がないのにも関わらず、クオーツの話までしているスレインに驚かない訳がないといった表情でいた。

 しかし、後衛組はアーツがメインになるので、構成と配置は戦い方を見ればある程度予測もできるのだ。

 

 この完璧すぎた総評に疑問点を持つ一同であったが、スレインの指示の元にすぐに二回戦が始まった。しかし、残念な事にスレインだけ二連戦である事に異議を唱える者はいなかった。勿論、そんな事を言われたい訳ではないのだが。

 

 

 

 

 

「そこまで!」

 

 立会人のリィンの言葉で終了の合図を告げられる。二回戦も先程同様、全員肩で息をしていたが、そのまま見学メンバーに総評をして貰ってから自分が行う。

 

「さて、では二回戦の総評だな。最初はガイウスか。お前さんはリーチを活かしきれてない。前衛組として体力のあるガイウスが前に出るのは分かる。ただ、体格と得物によってリーチが長い分、そこまで前に出る必要がない。ましてやチームとしての相方がフィーなんだから、そこを意識しないとフィーが危険だな。後は槍術の威力を上げるには回転を加えるといいぞ」

 

「成る程……心得た。ありがとう」

 

 ガイウスは冷静にその総評を受け入れ、何かを得た様な表情をしていた。

 

「次はフィーな。お前さんは前に出過ぎ。確かにまだフィーの方が個人レベルは高いんだけど、俺みたいなレベル相手だとそこから崩されるから危険だ。昔と違ってチームでの戦い方にはもっと協調性が必要だな。長所であるその危機察知能力をフルに使って回避能力を磨け。その方が周りも安心して戦えるハズだ」

 

「ん、難しいかもだけど、やってみる」

 

フィー自身から歩み寄ればこいつは全く問題ない。それが分かってるからこそ、深く言う必要はないのだ。

 

「で、えっと、次はアリサか。アリサはもう少しアーツ中心にしろ。敵のバランスを崩せる時だけを狙って攻撃してった方が手数は減っても効率よく戦える。あまり攻撃に手数を増やすと、それだけ後衛に負荷がかかって戦闘が長引く場合もあるから、思い切った戦い方が重要だな。チームにいる後衛に合わせたアーツセットをして後衛の中で役割分担すれば、チームの要になるハズだ」

 

「手数を減らすのね……アーツメインに出来るか分からないけどやってみるわ」

 

 ユーシス同様、中衛としての役割はメンバーによって変わる事を意識させる。それだけでもチームバランスは大きく向上するものである。

 

「そしてマキアス。お前さんはもう少し攻撃全体のバランスを考えた方がいいな。アーツは援護重視、攻撃に至ってはそのレンジと範囲をフルに使って状態を崩す攻撃がメインだろ。出し惜しみしないで、最初から全力で打ち込んで、その後からアーツに切り替えて、また全力、って感じのメリハリを見せろ。そうすればチーム全体に抑揚が付くから、場のコントロールが可能になるハズだ」

 

「バランス……か」

 

「最後はエリオットだな。エリオットもエマと同じなんだが、お前さんは回復アーツを中心にしたセットがいいな。そうする事で、チーム全体がガンガン攻撃出来る様になる。今のままだと前衛組に気を遣ってる様にも見えるから、もう少し自分の存在をアピールさせてチームを安心させろ。あと、援護は必ず開幕直後にしろ。それでチームの息をあわせる事が出来る」

 

「アピールか……うん、確かにそうかもしれない。やってみるよ」

 

 マキアス、エリオットと共に、どうしても性格が現れた戦い方になっているので、そこを指摘して全体の練度を上げる様に意識させる。そうすればこの面々でも埋もれる事なく戦闘で真価を発揮できるハズなのだ。

 

「さて、じゃぁ、最後はその総評を踏まえて俺を間に挟んで模擬戦だ。ガイウス達はそのまま前から、リィン達は後ろからだ。時間は15分行くぞ!」

 

 手早く説明して三戦目を開始する。

 このくらいの事をしておけば、Ⅶ組の面々も自身の存在を危ぶむ事も減るだろう。そうすれば、バリアハートの時の様に単独行動になった際でも、チームの練度を崩さず自分たちに集中出来る環境になる。これも狙いの一つであるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそでしょ……全員相手でこれなの?」

 

 アリサが驚愕の表情をしてこちらを見ている。勿論他の面々の表情も同じ。驚愕、もしくは唖然の顔だ。

 九人を相手に一太刀も入ってない。アーツは全て解除され、攻撃は全て弾かれる。何一つ出来ぬ間に、15分の仕合時間が終了した。

 

「ふぅ、やっと動いたって感じだな。ま、これが俺と皆の差だ。これを埋めるには余程の事がない限り無理なんだよ。だから、まずは個人技術の底上げとチームとしての練度を上げろ」

 

 自分に戦いを教えてくれと言った事を卑下にはしたくない。だからこそ明確な差を叩きつけて、自身の能力を見直す機会を作る。そもそも戦いとは、誰かに教わるものではなくて、自身で気付き実戦で覚えていく事なのだ。それを直接悟らせるには、これが一番だと思ったのである。

 

「じゃ、いい汗かいた所で帰るか。飯が待ってるぞー」

 

 その一言を起点にグラウンドにひれ伏していた全員が立ち上がり、各々が憑き物が取れた様な澄んだ表情(恐らくスレインの言葉ではなく『飯』という単語に対してこの後に待つものを思い出したから)をして第三学生寮に帰るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「これは豪華だな……」

 

「さすがシャロンね」

 

 ラウラとアリサの言葉と共に、各々が同じ様な発言をしている。

 それもそのはず、リビングには大皿料理がいくつもあり、どれも高級レストランに存在する様な見栄えも華やかな料理が並んでいる。

 

「今日はスレイン様からのご提案で、試験終了のお祝いという事でお作りさせて頂きましたわ。皆様おかわりもありますので、どうぞ召し上がってください」

 

 シャロンの其の言葉を機に一同は食事にありついた。

 試験で頭脳を酷使し、その後の仕合で体力も使い切った一同は、目の前の料理を今まで見たこともないスピードで平らげていく。

 

「こんな美味しい料理初めて食べたかも……」

 

「うむ、どこの貴族でもこんな味は再現出来ないだろう……」

 

 舌鼓を打ちながらエリオットとユーシスが声を上げる。

 

「ああ……スレインの提案に乗った甲斐があるな」

 

「君にしては素晴らしいアイディアじゃないか」

 

「マキアス、『君にしては』ってどういう意味だ? 俺はそんなに変な事はしてないぞ」

 

「な……あの一件があってもそう言うのか」

 

「確かに……」

 

 リィンとマキアスの言葉に返すと思わぬ飛び火が降りかかる。意味深な発言に聞こえなくもないマキアスの言葉は、幸いな事に誰も聞いていなかった。

 ちなみに、あの一件というのはバリアハートでの一夜の事だろう。

 

「サラ、わりぃ、ちょっとトイレ行ってくるわ」

 

「ええ。早く戻って来なさいよ」

 

 一同の食事スピードが落ち着いた所で、何故か心配した様な表情をしていたサラに一言だけ「当たり前だ」と残して部屋を出る。

 そして、今日の計画のメインディッシュの為に誰にもバレない様に第三学生寮を後にした。

 

 

 

「マスター、どうも。アレ、受け取りに来ました」

 

 向かった先は喫茶キルシェ。このマスターだけがスレインの計画の全貌を知るたった一人の協力者である。本日早朝から、ここにとあるものを預けていたのだ。

 

「おう、スレイン。時間まで予定通りとは恐れ入るぜ。ちょっとまってくれ………ほらよ。ついでにこれはサービスだ」

 

「マスター、いいんですか? これ、前に言ってた最高級の豆じゃないですか」

 

 スレインは自身が保管をお願いしていた両手で抱える程の大きめの箱と、コーヒー豆の入った袋を渡される。

 

「おうよ! ちょっと多めに仕入れ出来たからな。それに、スレインの計画があまりに面白いからな、手助けがてら激励の品って訳だ」

 

「ありがとうございます、マスター。厨房まで使わせて貰って(・・・・・・・・・・・)その上、こんないいものまで。皆で美味しく呑ませてもらいます」

 

「おう! 楽しんでこいよ!」

 

 マスターの言葉に重ね重ね御礼を言って第三学生寮へと戻るスレイン。

 これで計画が全て完遂されるとなると、やはり心は意気揚々である。

 

 

 

 バァンと大きな音を立ててリビングルームの扉を開けるスレイン。一同はその音もさることながら、スレインの手に持つ大きな箱に目を向ける。

 

「さて、一同、お待ちかねの時間ですよー! シャロン、とりあえず立て」

 

「スレイン様? 一体どうされまして?」

 

 ニヤニヤした表情でシャロンの元に歩み寄るスレイン。シャロンを含めた全員が一様に不思議な表情をしてスレインと、その手に持つ大きな箱を交互に目で追っている。

 

「んでもって、メイドキャップ取れ」

 

「え? スレイン様、それは……」

 

「いいから。…………よし、それでいい」

 

 半ば強引にメイドキャップを取られたシャロンは今まで見たこともない様な困惑と疑問を抱いた表情をしている。そして顔色変えず其のやり取りをただただ呆然と見ている一同。それもそのはず、Ⅶ組一同にはkの二人は仲が良い程度だと思っている。そんなやり取りが出来る関係だとは思ってなかったのだ。

 

 そして、一呼吸置いてから言葉を出すスレインは、もはや笑いを堪えられないという表情をしていた。

 

「シャロンが第三学生寮の管理人になったという訳で、サラも含めたⅦ組一同が全員お世話になる訳です。なので、これから宜しくという意味合いも込めて、これ以降の時間はシャロンの歓迎会になります。シャロンが主役なんで、お前さん達はしっかり酌をしろよ。シャロンもメイドキャップ取ってるから何かしたらぶっ飛ばすからな」

 

 そう告げるとスレインは手に持った箱をテーブルの上に置いて箱を開けた。

 

「まぁ! スレイン様、わざわざわたくしの為に?」

 

「そ、お前さんを騙しきれるかヒヤヒヤしたが、俺一人だったから何とかなったぜ」

 

 箱の中身はシンプルではあるが色とりどりのフルーツが飾られた鮮やかなケーキだった。

 

「ス、スレイン、これどうしたんだ?」

 

「うわ、美味しそー♪」

 

「てか、こんな事聞いてないわよ!?」

 

 リィンとアリサの当然の疑問が飛んでくる。Ⅶ組一同も全く同じ表情だが、間に発言したサラだけは見る所も発言対象も異なっていた。

 

「ん? 今朝キルシェの厨房借りて造った。シャロンにドッキリを仕掛けるには綿密な計画と周到な隠密さが重要なんだよ。いやー大変だったんだぜ? 俺の試験時間はほぼこの計画に費やされた」

 

「え、スレインが作ったの!? 凄い!」

 

 エリオットが驚きの表情を上げているのも無理はない。スレインは基本的に外食派で料理を作る姿を見た者は殆どいないのだ。

 

「君、料理が出来るのか? 今までそんな姿見たことないが……」

 

「マキアス、その質問は失礼だぞ? 一応ひと通りは出来る。これでも得意な部類だ。その中でも得意なのはこっち」

 

 目の前にあるケーキを指さしながら話をしていく。

 

「貴様、菓子類まで作れるのか?」

 

「うむ、このレベルを作るには相当な技量が必要なのだろう」

 

 ユーシスとラウラが物珍しそうな表情をしてこちらを見ている。

 

「皆様、スレイン様の腕前は本物ですわ。今日の料理もスレイン様とご一緒に用意させて頂きました。お菓子についてはわたくし以上の腕前でございますわ」

 

 シャロンは当たり前かの様に話しているが、ここ数日でシャロンの腕前を体感している一同は更なる驚きを見せるのであった。

 

「嘘よ……シャロンよりって、あなたどれだけ凄いのよ」

 

「料理までとは凄いな、スレイン」

 

 アリサとガイウスがそれぞれが感嘆の声を上げている。

 

「とりあえず、皿とフォーク持ってくるわ。あと、キルシェのマスターのご好意で最高級のコーヒー豆を貰ったから、食後は美味いコーヒーが待ってるぞ」

 

 その言葉だけを残してキッチンへ向かい、人数分の食器を持ってリビングに戻ると、すでに全員の目はお預けをされた子犬の様な目に変わっていた。

 

「さて、準備も整った事だし、改めて。シャロン、これからよろしくな」

 

「はい、ありがとうございます、スレイン様」

 

 シャロンのその言葉と共に、一同は目の前のデザートにありつくのであった。今宵は無礼講という事で、食事はいつも以上に賑やかで長時間続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、あんな事までするなんて思わなかったわよ」

 

 夜も更けて宴もお開きになり、空腹を予想以上に満たされた一同は既に就寝の準備をして各々の部屋に戻っている。

 ここにいるのはサラとスレイン、そしてシャロンだけである。

 

「ええ、わたくしも全く気づきませんでしたわ」

 

「そりゃぁな。人数が増えれば増える程バレやすくなる。隠密の定石だろ?」

 

「いや、あんたねぇ……じゃぁ、あの仕合の許可申請は全部その布石だったわけ?」

 

 今回の計画を戦術に例えて話す少年の言葉に頭を抱えて質問するサラ。

 

「そりゃな。うまく全員計画に乗ってくれたから良かったわ。空腹時にシャロンの飯があれば、俺がちょっと席を開けても気づかないからな」

 

「あたしも騙されたわよ。あの空気に居心地の悪さを感じたのかも、なんて考えたし」

 

「そういう素振りと表情を作ったからな。ククッ、サラもまだまだだな」

 

 自身の思惑通りに全ての過程が終了し、ご満悦のスレインは少しばかり饒舌になっている。サラも自身まで騙されるとは思ってもいなかったようで、バツの悪い表情で色々と文句を言ってた。

 

「しかし、スレイン様、どうしてわたくしにこの様な事を?」

 

 お開きになった時点でメイドキャップを装着し、いつものスタイルになったシャロンはサラにビールを、スレインと自身に紅茶を注いで不思議そうな表情をして問いかける。

 

「ん? 大した意味はねぇよ。シャロンがこっちに来た初日に『平和的な日もいいだろ』って話をしただろ?」

 

「ええ、していらっしゃいましたわね…………まさか、その為に?」

 

 シャロンは気づいたようだが、数日前にその話をした時はすでに酔いつぶれて寝ていたサラはしきりに「何の話?」と聞いてくるのだが、ここは一旦無視を決め込む。

 

「そ、平和的な日常の証として、だな。理由もなく、ただ日常を楽しむ。特に意味はないのかもしれないけど、あの感じじゃぁⅦ組一同には楽しむ理由になったみたいだしな。俺たちだって、それにあやかってもいいじゃんか。これって平和じゃねぇと出来ないだろ?」

 

 結社を休業してラインフォルト家のメイドとなっても、イリーナ会長の仕事振りは決して平和的な日常とは言いがたい。それは激務に追われる大企業ラインフォルトだから当然と言えば当然だ。

 だからこそ、結社でもなくラインフォルト家でもなく、このⅦ組の住む第三学生寮の管理人としてであれば、より平和な日常になるのではないか。そして、ここでしか出来ない様な日常を作り上げる事が、この仕事で受けるべき対価であり、自身が提供出来る価値なのだ。

 スレインは恥ずかしながらも表情をなるべく変えずにそう告げたのであった。

 

「スレイン様……」

 

 この時、珍しくシャロンの瞳が潤んでいたのだが、それはあえて言及しなかった。そんな事をするのは野暮であり、そもそもしないのが礼儀である。

 

「ま、そういう訳だから、サラもここではいがみ合うなよ? 俺もあんまりそういうの見たくないし」

 

「んな!? わ、分かってるわよ、それくらい。他の子たちもいるんだから、それくらいの節度はわきまえます!」

 

 急に話が振られた事で焦り出すサラは注がれたビールを一気に飲み干す。

 

「で、あんた試験、ちゃんとやったの?」

 

「そうですわ、スレイン様。わたくしの為にこの様な事をしていて良かったのですか?」

 

 二人の顔に「スレインなら問題ないと思うけど」と書いてあるのに何故そんな野暮ったい質問をするのであろうか。

 

「バカか二人共。全教科満点で主席は俺が頂くよ」

 

 一言だけそう告げて、今日の所は自室に戻るスレインであった。

 

 

 




シャロンさんにドッキリ……これをしてみたかったのです。

本当はⅦ組の手合わせシーンを書こうと思ったのですが、あまりにも長くなる+妥協という最悪のコンボが脳裏に過ってしまったので、今回は割愛させて頂きました。

大変申し訳ございません。

学園パートはアイディアが出る時と出ない時があるので……誰かコツを教えて下さい(笑)


それでは、今回もお読み頂き、ありがとうございました。
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