なかなかオリエンテーリングに行けません。
しかし、そこまで奇を狙った訳ではないのであしからず…
※2015.08.08 修正
七耀歴1204年3月31日
エレボニア帝国中央
帝都ヘイムダル近郊都市トリスタ
列車を降りて駅から出ると、白いライノの花が咲き乱れている。遠くには士官学院の本校舎の塔などが見える。学生たちは北にある士官学院へ向かい始め、中には立ち止まって話をしたり、辺りを見回す者もいる。
すっかり春の陽気を感じさせるこの季節、人生の新たな門出を迎えた若々しい少年少女たちは、これからの学院生活を想像し一様に目を輝かせているのが分かる。
周囲を見渡しながら、そんな回想をしていたスレイン・リーヴスは、駅前で立ち止まる。目の前に広がる、懐かしくもありこれから過ごすこの町並みから、遠くに見える士官学院へと目を向ける。
トールズ士官学院
七耀歴950年。エレボニア帝国史上最大の内戦とされた《獅子戦役》にて勝利を掴み取った大帝・ドライケルス・ライゼ・アルノールが設立した由緒正しい士官学院。その歴史は帝都ヘイムダルに存在する名門女子校、『聖アストライア女学院』と並んで長い。
帝国の貴族の嫡子から平民の生徒まで、その在校生の内訳は様々であり、卒業先の進路もかつては軍属が大半を占めていたが、今では士官学院で学んだ知恵と技量を生かして各々が望んだ道に進むことが多い。そんな多様な価値観や柔軟性が生まれた事で、トールズの名は更に有名となった。
と、そんな由緒正しい名門学院に入学する事になった訳だが、その足取りは非常に重い。
寮に入るという事で荷物整理をしている自分に向けてオリヴァルト皇子から、「君の青春ストーリーが聞ける事を楽しみにしているよ♪」なんて言葉で茶化された。正直、俺を放り込んだ理由なんて十中八九そっちがメインなんじゃないだろうかと思ってしまう。
そんな事を思い出してもあの時のにやけ顔しか出てこないので、自身の脳内イメージをリフレッシュする為に、視界の上方に広がるライノの花を見上げる。
「「ライノの花か……」」
「「ん?」」
同じ言葉を紡いだ後、同じような疑問文を投げかけた方向へ目を向ける。
そこには同じ赤い制服を着た黒髪の少年が立っていた。
「奇遇だな。発言も制服も」
緑と白の制服を着ている割合が非常に多い事は感じていたので、同色の制服にはきっと意味があるのだろうと思いスレインは話かける。
「そうだな。もしかしたら同じクラスかもしれないな。俺はリィン。リィン・シュバルツァーだ。よろしく」
「俺はスレイン・リーヴスだ。よろしく頼む」
そんな簡単な自己紹介をして握手を交わした所で、寄るべき場所があった事を思い出す。少年に「また後程」と言い残してその場を後にした。
———カラーン―—
さっさと寄り道を片付けるべく目的地の扉を開ける。
「ちわーす。ミュヒトさんいますー?」
「誰だ? まだ店は開いてな……って、スレインか」
白髪交じりで短髪の店主は、俺の顔を見てつまらなそうな顔をしてそう答える。
質屋のミュヒト。看板と店のなりこそ質屋だが、ミュヒトはエレボニア帝国東部ではけっこう名の知れた情報屋でもある。それと、意外と知らない事実であるが、小説「カーネリア」の執筆者でもあったりする。
「久しぶりに連絡が来たと思ったら、トールズに入学とはな。しかし制服姿のお前さんとはな」
俺の姿を見て笑いを堪えながらそう言うミヒュト。しかし、こちらをジーっと見たその数秒後には堪えきれなかった笑い声をあげる。
「笑わないでくれよ。俺だって困ってるんだぜ?」
「クククッ、すまんな。どうもお前さんが制服着てると笑いが止まらねぇ。馬子にも衣装ってか?」
「いや、年齢的には普通だから、それは流石に失礼だろ」
必死で笑いを堪えている店主に冷ややかな目線を送り、笑いを止める様に促す。それと同時に、後方から扉が開く音が聞こえた。
———カラーン―—
「ミュヒトさん、何でこんな時間に呼び出すのよー」
そんな愚痴とも言えぬ言葉は、聞き覚えのある懐かしい声から発せられていて思わず振り向く。そこには
「……サ、サラ!?」
思わぬ来訪に数秒思考が止まり、ついつい素っ頓狂な声を発していた。
「え、スレイン!?なんであんたがここにいるの!?今までどこに…ってその制服姿は何!?」
驚いたのはこちらの女性も同じらしい。矢継ぎ早に質問を投げかけながらスタスタと歩み寄ってくる。
「久しぶりだな。半年振りか? 上の命令で入学する事になってな。ってか、サラこそなんでこんな所にいるんだよ」
とりあえず一呼吸置いて冷静になり、投げかけられた質問に淡々と答えながら彼女の方に目線を向ける。
「クククッ。お前さん知らないのかよ。こいつ、トールズの教官だぞ?」
またまた笑いを堪えながら話すミュヒト。その言葉に驚き、口をパクパクしながら二人の顔を交互に見る。
「……は!? 教官!? サラが?」
自分が知っている彼女であれば、教官なんてイメージはない。
サラ・バレスタイン。
「そうよ〜。ヤバイ時に学院長に拾われてね。そういえば言ってなかったかしら? ごめーん」
なんて言ってわざとらしく謝罪をしてくる。その言葉の後に「ってか、何? スレイン、本気で学生やるの?」と付け加え、小馬鹿にした笑みをしたまま再びわざとらしく聞いてくる。
「だから上からの命令って言ってんだろ。俺だって好きでこんな事やらねぇっての。で、そこでいつまでも笑ってるミュヒトさん? わざとブッキングさせただろ?」
未だに笑いを堪えているミュヒトに冷ややかな視線を注ぐ。
「まぁな。サラの方にも伏せられてたみたいでな。両方知ってた俺が一肌脱いだって訳だ。何よりお前たちのこのやり取りを久しぶりに見れると思ってよ」
「そういう事かよ。て事は、
何を隠そうスレイン・リーヴスは元遊撃士なのである。サラと同じく、以前は帝国支部に所属していた準遊撃士で、ミュヒトとはその時からの付き合いという訳である。
といっても、とある事件の影響で二年前に辞めてしまったのだが。今はそんな昔の事へと意識を飛ばす様な時間はない。
「てか、スレイン、その制服って事は私のクラスなのね」
「ん?ああ、やっぱこの色関係あるのか?」
行き交う学生が殆ど緑もしくは白の制服に対して、スレインが纏う制服は赤。先程出会ったリィンという少年も赤だったのだが、やはりクラスに関係していたか。
「ま、細かい話は学院でするわ。ここでバラすと面白くないし。じゃ、またね」
そう言ってウィンクをしたサラはスタスタと帰っていく。あの不敵な笑みは間違いなく、面倒事であり厄介事に繋がる笑みである。
まったく、あの皇子といい、サラといい、どうしてこうも前途多難な学院生活にさせるのか。大変遺憾に思うものの、今更恨んだ所で後の祭りというものだ。ため息一つ付いて、こちらの用事を手短に済ませようとする。
「さて、ミュヒトさん。例の物用意してくれてる?」
「あぁ、これでいいんだろ。しかし、まぁ、お前からしたら鈍らじゃないのか?」
そう言ってミュヒトは細長い布袋をカウンターの下から取り出し、こちらに差し出してきた。
「まぁ、そうなんだけどさ。得物を用意しろって言われてるからさ。別に何でもいいかなと」
そう言って差し出された布袋を開けて中身を確認する。そこには何の変哲もない一振りの騎士剣が入っていた。
「そんな事言わないで自分で用意しろっての。うちは便利屋じゃねぇんだぞ」
「はいはい、次はちゃんと情報買うから」
ミュヒトに代金を渡しながらそう言い残し、布袋を片手に店を出る。思いの外時間が掛かってしまったと思い、腕に付けてある機械式時計を見る。予想通り、入学式の時間が目前まで迫っている事に気づく。
「初日から遅刻はまずいな。走るか」
そう呟きながら、今後の学院生活に一抹の不安を抱えながら学院へと向かうのであった。
―――*―――*―――
学院に到着すると、校門の近くには先輩と思しき小柄な女子学生とつなぎを着た男子学生がいた。そこで声をかけられ、事前告知にあった荷物、先程ミュヒトから渡された得物を預ける。
そうして式の会場に足を運ぶと、既にある程度席は埋まっていたので、空いている最後列の席につくと同時に入学式は始まった。
「最後に諸君には、かの大帝が遺したある言葉を伝えたいと思う」
壇上に立って新入生一同に向けて言葉を発しているのは、2アージュ程もあるだろうかという、服の上からでも分かる程の筋骨隆々な老人。その年齢を感じさせない体つきは、誰が見ても只者ではない事がはっきりと分かる。
トールズ士官学院学院長、ヴァンダイク。
学院長でありながら、エレボニア帝国正規軍名誉元帥という肩書も持つその老君は、今でこそすっかり正規軍から離れているものの、現役時代は数々の伝説を持つ人物でもある。そんな名将からの言葉は、静かに語りかけるものも威厳をしっかりと感じさせるそれであった。
「『若者よ、世の礎たれ』――― ”世”という言葉が何を示すのか。何を以て”礎”とするのか。その意味を、考えて欲しい」
学院の創設者でもあり、250年前にあった《獅子戦役》の英雄ドライケルス大帝が遺した言葉。
しかし、今はそんな伝説について思考を飛ばすよりも、ただ目の前の生活を、どのように続けていくかを考える方が大事である。
思考を虚空へと飛ばしていると、気付いたら行事が謹んで終了していた。そうして生徒らはそれぞれに分けられたクラスへと思い思いに散らばっていくのであった。そう、”赤い制服”を着た自分たちだけを除いて。
「んー、どうするべきか……」
なんてポツリと呟いたと同時に、先程聞いた声が自分の名を呼んでいる。
「スレイン、こんな後ろにいたのか」
「あぁ、用事を済ませたら結構ギリギリでな。何か聞いてないか?」
自分が到着する前に何か説明があったのもしれないと思い問いかける。しかし、取り残された赤服の数がそこそこいる事から、説明自体がなかった可能性も考えた。
「それが聞いてないんだ。っと、紹介するよ、こっちはエリオットだ」
そう言うと、リィンは後ろに立っていた小柄な少年を紹介する。
「初めまして。僕はエリオット・クレイグだよ。よろしくね」
そう言った少年に形式的な自己紹介と握手を交わす同時に、ポーカーフェイスを崩さずに
「(赤毛のクレイグの息子……そういえば同い年って言ってたな)」
と心中で呟き、以前世話になった親バカ将校の顔を思い出す。しかし、話通り武人って感じはなく、何処か幼さを残した目の前の少年は、かの名将と似ている点は髪色と顔立ちのみである。
「ん? どうしたの?」
「あぁ、いや、なんでもないさ。よろしくな」
じっと見ていた事に詫びを入れながら周囲を見回す。見覚えのある顔もちらほらあったが、あえて言及する必要もないだろう。そう思っていた時だった。
「はーい、”赤い制服”を着てる子たちはコッチにちゅうもーく」
不穏な空気が漂い始めていた講堂に響く、場違いなほどに明るい声。
恐らくこの場に残っている生徒の大半は初耳である声なのだが、先程も聞いていた馴染みのある女性の声に、スレインは敢えて何も言わなかった。
「(こいつがこんな声を出す時は、ろくな事がないんだよなぁ)」
少し大きめなため息を付くと声の発言元と目が合い、微かに、そして自分にだけ分かる様に微笑んだ。その後すぐさま目線を一同に戻し、一様に怪訝な表情をしている生徒を前にして、女性は努めて明るいままの声で言った。
「君たちにはこれから、”特別オリエンテーリング”に参加してもらいます♪」
―――それみた事か。
クラスの説明なし、制服が違う。そして事前通知で持参する様に言われた得物と、入学通知書と共に送られてきたモノ。それらが何を意味するのか、容易に想像が出来るのであるが、そこから先は敢えて考えない様にしておく事に決めた。とりあえずその“特別オリエンテーリング”なるものが、面倒事ではない様に、
グダグダです。申し訳ありません。
次回はオリエンテーリングとなりますが、
戦闘描写に一抹の不安があります…
暫くは生暖かい目で見守ってやって下さいな。