英雄伝説 魔の軌跡   作:閃の細道

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気付いたら15000字を超えていました……

ですが、この回は分けたくなかったので、そのままにしました。

駄文の上に長文というこの上ないコンボですが、ご了承下さいませ……

それでは、第20話、始まります。


最強への挑戦

 

 クロスベル自治州南西部

 ウルスラ間道外れ、星見の塔入口付近。

 

 DG教団の残党の殲滅作戦を行う為に、帝国遊撃士チームのスレイン・サラ・トヴァルは、残党(ターゲット)がいると予想される、星見の塔に来ている。

 

「ここか……なんか気配感じねぇけど、本当にいるのか?」

 

 周囲には見張り一人立っておらず、建物内部にも人の気配がしない事に、不吉な予感をしながらも確認の言葉を口にするスレイン。

 

「確かに怪しいわね。見張り一人いないなんてどういう事かしら」

 

 現状確認を踏まえてサラも疑問を投げかける。

 

「あくまで残党だから、見張り出す余裕がない……とか?」

 

「アホか、トヴァル。バカなこと言ってねぇで警戒怠るな」

 

 場の空気を読んでいるのか読んでいないのか分からないトヴァルの言葉にツッコミを入れながら索敵を開始する。建物全体にそよ風を吹かせて、ゆっくりと周回させてスレインの元に戻ってくる。

 

「……ダメだな。外からじゃ内部は分からん。密閉されてるな」

 

「あんたの得意技も形無しね」

 

 何故かサラが微笑んでいる。この二人、いくら何でもマイペース過ぎないだろうか。とは思ったものの、勿論そんなツッコミは入れずに周囲の気配を探り続けるスレイン。

 

「一分前だ。準備はいいか」

 

 トヴァルの言葉にサラと共に小さく頷く。

 どうやら無駄話はここまでらしい。全員の顔つきが真剣さを取り戻した所で、突入時刻となる。

 

「さて、風の感じだと本当に気配がないんだが……行くか」

 

 スレインの言葉を合図に、同時に塔への入口に向かって走る三人。索敵同様、入口付近に見張りも立っておらず不審に思うが、警戒心は怠らず内部に侵入していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こりゃ、酷えな」

 

「……一筋縄ではいかなそうね」

 

 内部に入った途端、トヴァルとサラが呟く。

 それもそのはず、入口には教団の残党と思しき人物が数名横たわっている。否、正確には骸と化している。腐敗臭はしないのでまだ時間はそんなに経っていないと思われるが、血生臭い臭いが建物全体に充満している事から、恐らく建物全体がこうなっているのだろう。

 

「先客がいるようだな。スレイン、上はどうだ?」

 

「密閉されてるから無理だな。流石にこの臭いを外に漏らすのも無理だろうし、扉は開けられないだろ」

 

 外から内部が分からなかったと同じで、密閉空間となっている内部からでも索敵は出来ない。どこかの窓や扉が空いていれば別なのだが、全身に不快感を与えるこの臭いを外に撒くのも問題なので、やはり索敵は断念するしかない。

 そして、先程のクロスベル支部で行った会議の情報通り、この建物には空間の揺らぎがあり『時・空・幻』の上位三属性が働いている。理由は分からないのだが、これはこれでスレインの能力を若干低下させる要因でもあるので、結局の所、自分達の警戒心と気配察知だけで進むしか選択肢はない。

 

「そしたらとりあえず殿はあたしが行くわ」

 

 サラが言葉と共に走り出す。その後ろをスレイン・トヴァルの順に走り出して階上を目指していく。気配がないと言っても魔獣が出現する可能性もあるので、一同は警戒心を最大レベルまで引き上げて歩を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「ストップ。この先に一人……いや、二人いるわね」

 

 サラの言葉に足を止めて、気配を感じ取っていく。

 三人は警戒しつつ進んでいき、何事も無く六階まで辿り着いた。城で言い表すと謁見の間に繋がる階の様で、中央に聳える階段の先には異様な雰囲気と確かな気配が感じ取れる。

 

「黒幕にしては少ないな」

 

「気配からすると、結社(やつら)だろう。それなら、少ないのも頷ける」

 

「確かにそうね。でも、理由が分からないわ」

 

 トヴァルの質問に感じ取った気配を正確に伝えると、サラが不可解な表情で口にする。

 確かにそれはごもっともなのであるが、動機という点では心当たりがある。数年前にあった各国の軍・遊撃士・警察の合同作戦『DG教団殲滅作戦』。カシウス・ブライトが指揮を取ったこの事件の裏では結社の援護があったのだ。以前、結社の人間から聞いたので間違いないので、ここに突入して残党狩りをする動機としては十分ではある。

 しかし、本当にそれだけなのだろうか。どうにも嫌な感じがするが、ここで詮索していても意味が無い。

 

「それは行けば教えてくれるだろ」

 

 サラの言葉に短く答えて扉に目を向ける。どちらにしても、結社相手なら一筋縄ではいかないのだ。覚悟を決めた三人は一呼吸置いてから扉を開けて七階へと突入する。

 すると、そこには気配通り二人の人影があった。

 

「お待ちしていました。スレイン・リーヴス」

 

「スレイン・リーヴス! ここで会ったが百年目ですわ!」

 

 静かに指名した声と、対照的に感情を露わにしている声が同時に聞こえる。目の前には白銀の甲冑に身を包んだ二人。前者が滑らかなフォルムの弓を持つ女性で、後者が甲冑と同色に輝く立派な剣を持った少女だった。

 

「誰かと思えば大食い少女(デュバリィ)とエンネアかよ……」

 

 結社『身喰らう蛇』の使徒、第七柱『鋼の聖女』直属の三名の戦乙女『鉄機隊』。

 その筆頭が『神速のデュバリィ』である。執行者最高クラスであった『剣帝レオンハルト』に匹敵する速度の持ち主と言われている。見た目は栗色のショートカットの髪と華奢な体型のおかげで、美少女と言っても問題ないと思うが、生真面目かつエキセントリックな性格で、正直扱いづらい少女だ。そして、普段は超が付く程の大食いである。

 もう一人は同じく鉄騎隊の弓使い『魔弓のエンネア』。やや勝ち気な性格でいる為、挑発的な発言が多いが騎士道精神溢れる女性である。弓の扱いは天下一品で、導力銃の如く狙撃や速射をしていく腕前を持ち、多種多様な技を使う猛者である。

 

「そこ! 大食いと呼ばない! 最後の一行はいりませんわ!」

 

「私にももう少し詳細に解説してくれませんか?」

 

 などと、こちらの解を読んでいるかの発言をしていて茶目っ気満載ではあるが腕前は本物。結社内でも執行者クラスと言われいるのだ。

 トヴァルから「知り合いか?」と聞かれたが、話すのも面倒なので小さく頷くだけにしておく。

 

「とりあえずこの状況を説明してもらえるか?」

 

 この二人を相手にしていると、ついつい茶化して話が進まない事は分かっているので、まずは現状確認をする為に二人の言葉は無視を決め込んだ。

 

「ここに立て籠もっていた残党を始末しました。入口に転がっていたのは見なかったのですか?」

 

 機械的な状況解説をエンネアが行う。

 

「それは既に分かってる。お前らがいる理由の方を聞きたいんだが」

 

 スレインは腰を低くして、臨戦態勢に入りながらも目の前の敵に牽制の一言をかける。

 

「我が(マスター)、『鋼の聖女』がスレイン・リーヴスにお会いしてみたいとの事です」

 

 エンネアのその一言に衝撃が走るスレイン。今まで執行者とはそれなりにやり合ってきたが、その上に位置する使徒には会った事なかったからである。

 

「……何故だ? 使徒自ら勧誘に乗り出したって事はないよな」

 

 そして衝撃を受けるのはサラとトヴァルも同じであった。使徒から直々に指名される事がどんな意味を持つかは、ある程度想像出来るからである。しかし、スレインとこの二人の違いは衝撃の余り言葉が出ないという点。それはどちらかというと「何故スレインが?」という意味合いの方が強い。

 

「理由まではわたくし達も聞かされていませんので、直接お聞き頂けばいいですわ!」

 

 吐き捨てるかの様に声を荒らげるデュバリィ。エンネアの淑やかさを少しは見習って欲しいものだが、その言葉は逆上させるだけなので口には出さない。

 

「なるほど。で、番犬を倒してから来いって事か?」

 

「番犬、ですって……! 貴方はどこまでわたくしをバカにすれば……!」

 

 うっかりデュバリィの性格を忘れて、挑発的な発言をしてしまった。わなわなと震えながら発言している彼女は既に噴火直前の火山の様である。

 

(マスター)からの命は、スレイン・リーヴスのみを通せとの事。そちらの方のお相手がわたくし達という事です」

 

 デュバリィの怒りが臨界点まで到達する前にエンネアが先に説明する。そのおかげでもう少し冷静な話が出来そうだった。

 

「ほう……じゃぁ、お前さんは俺をみすみす上に行かせる事になってもいいのかよ?」

 

「ええ、わたくし達は(マスター)のご命令を遂行するだけです。それ以上でもそれ以下でもありません。ましてや(マスター)が負ける訳ありませんから」

 

「なるほどな……罠と分かっても行くんだろ?」

 

「スレイン……」

 

 ここで無言を決め込んでいた二人が心配そうな表情をして口を開く。

 しかし、鉄騎隊は主に忠誠を誓い騎士道精神に溢れる者達。こう言われたら何を言っても無駄である。自分だけ先に進むしかない。

 

「大丈夫だ、二人が来るまでは踏ん張るさ」

 

 言葉をサラに向かって、トヴァルとは無言で拳をぶつけ合う。

 

「スレイン・リーヴス。行きなさい。最上階に行くまでは手出ししません」

 

 エンネアの言葉を聞くと同時に、彼女らを回り込む様に最上階へと進んでいく。

 あの程度で遅れを取る二人ではないが、相手も執行者クラスである。苦戦必須である事から、暫くは一騎打ちになりそうだ。時間稼ぎが出来る相手ではないだろうから、覚悟を決めてから最上階の扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が『鋼の聖女』か」

 

 最上階にいたのは、鉄機隊と同じ様に全身を中世風で白銀の甲冑に身を通して仮面を付けた人物。体格は細身であるながらも、その手には自身の身の丈を越えた大型の騎兵槍(ランス)を携えている。

 優雅で気品がある上に威風堂々としたその姿は、同時に全身から巨大な威圧感をも放っている。その姿を目にするだけで冷や汗が湧き出る程の緊張感に喉が鳴るスレイン。

 

「ええ、蛇の使徒が第七柱『鋼の聖女』アリアンロードと申します。お久しぶりですね。スレイン・リーヴス」

 

 優雅な口調であり凛々しく透き通った声は淡々とそう告げる。

 初対面であるはずのこの人物の声には聞き覚えがあった。否、一度足りとも忘れた事のない声だ。二年前のあの日(・・・・・・・)に聞こえた声。ずっと探し求めた声の持ち主が目の前にいる。

 

「……お前だったのか」

 

 余計な言葉を削除して言葉を出すスレイン。

 結社の人間である可能性が高い事は分かっていたが、あまりにも唐突なこの再会に思考が正常に働いていないのかもしれない。

 

「覚えていた様で光栄です。随分と使いこなしているようですね」

 

「……規格外過ぎるがな。おかげ様でお前のトコの連中がうるせぇよ」

 

「あなたには執行者になり得る資格も力もありますからね。それに『盟主』直々の命ですから。私は関与していません」

 

 どうやら自分が力を与えた事が関係ないと言いたいらしい。

 

「俺かしたら十分関与してるわ。で、わざわざお喋りをする為に階下の連中を皆殺しにしたのか?」

 

 わざわざ二年越しの再会をする為にこの場をセッティングするのであれば、違和感を感じる。つまらないお喋りをする為だけに、教団の残党を始末して居座るにはどうも納得がいかないのだ。

 

「教団は私達にとっても無視出来ない相手ですからね。それにこの場を邪魔される訳にはいきませんでしたので、早々にご退場頂きました」

 

「随分な言い様だな。で、この場ってのはそんなに重要な事なのか?」

 

 名目上は残党狩りで、本当に自分に会いに来た様な口ぶりである。ここまでを話を続けて冷静さを取り戻したスレインは、本題に迫る事を選択した。

 

「そうですね。しかし、まずは貴方にその資格があるかを確かめさせてもらいます」

 

 徐々に闘気を放ちながら騎兵槍(ランス)を構えて言葉を続ける。

 

「私に膝をつかせる者は大陸中でも幾人かしかいません。貴方にその技量があるか、試させてもらいましょう」

 

 言葉と同時に一気に闘気が放たれる。並の人間であればこれを受けただけで吹き飛ぶであろう濃密なそれは、辺り一面に嵐を呼ぶ。

 それと同時に、結社最強とも言われる威圧感(プレッシャー)を目の当たりにして息を呑むスレイン。

 

「資格……ね。何についてだか知らねぇが、力を与えた事を後悔させてやるよ!」

 

 その言葉と同時にスレインの瞳が蒼碧に変わり、自身の周囲に数多の剣を精製していく。相手の力量からして最初からギアを全開にする必要があるので、両手に持つ双剣を構えて闘気を最大限に高めていく。

 

「素晴らしい闘気です。レーヴェに匹敵しますね」

 

「……一応引き分けた事はあるからな」

 

 それ以上の言葉は必要なかった。先に仕掛けたのはアリアンロード。その場から動かず目にも留まらぬ疾さで繰り出す騎兵槍(ランス)の猛襲は、辺り一面に銃撃の如く鋭い衝撃波『アルティウムセイバー』を放つ。

 それを精製し続ける剣で相殺すると同時に、アリアンロードの足元に火属性アーツ『サウザントノヴァ』の爆発と、風属性アーツ『ラグナヴォルテクス』の烈風が巻き起こる。

 

「面白い技ですね。『アルティウムセイバー』を相殺しながらアーツを併用ですか。同時に使えるとは思いませんでした」

 

 まっすぐ上空に高く飛び上がると同時に、アーツを相殺するかの如く足元に『アルティウムセイバー』を浴びせて、着地すると何事も無かったかの様に口を開く。

 

「嘘つけ。報告くらい上がってるだろうが」

 

 この言葉の真偽を問う暇はないので手短に返す。あれだけ結社とやり合っている以上、情報が上に上がらない訳がない。

 

 互いの攻撃が既に人の域を超えている状態であるにも関わらず、汗一つかかず冷静に話している時点で、お互いまだ小手調べの段階なのは明白である。

 

「それでも高位アーツを同時というのは聞いてませんね。それでは、これはどうですか?」

 

 アリアンロードが言葉と同時に動き出す。

 騎兵槍(ランス)をまっすぐ上空に掲げると同時に一面に雷撃の嵐が落ちてくる。神々の怒りとも言えるその万雷の豪雨『アングリアハンマー』を、周囲に精製した剣で避雷針代わりに受け流す。

 すると、雷の猛襲が終える前に、目にも留まらぬ速さで肉薄していたアリアンロードが刺突の猛襲を繰り出す。

 

「(チッ、全部は見えねぇ……)」

 

 心の中でそう呟くスレインには、その体格からではあり得ない神速の如き槍捌きを捉えきる事が出来ず、幻属性アーツ『ルミナスレイ』の光線で威力を殺しながら 両手に持つ双剣で捌いていくが、瞬く間に無数の裂傷がスレインの身体を紅く染めては回復アーツの光と共に傷が癒やされていく。

 しかし、このまま防戦一方でいては埒が明かない。スレインは回復を諦めて、空属性アーツ『エクスクルセイド』の神々しい十字の光をアリアンロードの足元に二重に出現させて照射する。大地を揺るがす眩き波状攻撃には流石に後退を余儀なくされた様で攻撃の手が止み、二人の距離は再び開いた。

 

「はぁはぁ……クソがっ。人間には出来ない芸当じゃねえか。さすが、結社最強だな……」

 

「お褒め頂き光栄です。私の攻撃を受けて尚、まだそれほど傷を負っていないとは素晴らしいですね」

 

 こちらと違ってまだ息を切らさず冷静に話すアリアンロードは正真正銘化け物だ。自身の体格を優に超える騎兵槍(ランス)の重量は計り知れない。それにも関わらず、それを神速とも言える程のスピードで振るうなど、腕力がどうこうなんてレベルの話ではない。

 もはや、その全てが人間では到達出来ない神業(・・・・・・・・・・・・)である。

 

「(短期決戦……しかねぇよな)」

 

 ここまでの攻撃で速さ、威力共々自身が劣っている事は間違いない。ましてや奇襲とも言える初撃のアーツすら難なく防がれたのだ。出し惜しみせずに全力をぶつけるしかない。しかし、何事も全力というのは代償が付き物である。全力の攻撃を防ぎきられたら、絶好の隙どころか反撃の余力さえも残らない。

 

 そこまで考えた所で後ろ向きな思考を停止させて、覚悟を決めるスレイン。どうせここまで差があるのだ。全力を出さないで負けるのであれば、全力を出して、せめて仮面くらいは引き剥がしたい。

 

「覚悟を決めた様ですね。では、次はもう一段階速いですよ」

 

 スレインの表情から読み取ったのか、アリアンロードも再び攻撃の構えを取る。中段に構えた騎兵槍(ランス)をこちらの心臓に向けると、言葉通り先程よりも速い突撃が繰り出される。

 しかし、スレインはその初撃を完全に防ぎきった。それと同時に再び刺突の猛襲が繰り出されるが、先程の様に目で追いつけずアーツで勢いを殺している訳でもない。手に持つ双剣だけで(・・・・・・・・・)いなしている。

 

「なるほど。風の補助を受けているのですね」

 

 珍しく攻撃中に感嘆の声を溢すアリアンロード。

 

「……ああ、悪いがこれで決めるぜ」

 

 スレインの周囲には剣戟の嵐で巻き起こる風以上の風(・・・・)が吹き荒れている。スレインは風を頼りにアリアンロードの攻撃を読み、向い風の要領で騎兵槍(ランス)の勢いを弱め、追い風の補助で双剣の威力を上げているのだ。通常ではあり得ない方向から吹き荒れる風は、スレインに風の鎧を纏わる様にも見える。

 

「なに?」

 

 アリアンロードから初めて動揺の声を上がった。その言葉と同時にアリアンロードの騎兵槍《ランス》が一瞬だけ停止する。

 騎兵槍《ランス》が分解(・・)出来ない事は先程からの攻撃で分かっていた。だからこそ、双剣で弾く事で動きを止められる重心を探す事に専念したのだ。

 

「―――ここだ!」

 

 周囲に無数の剣を精製すると同時に、周囲に巻き起こる風を、風属性アーツ『ジャッジメントボルト』を周囲に巻き起こる風と同時に打ち込む。通常のアーツと違って自然に発生した嵐の様な烈風を含めたその一撃は、風量も何倍にも膨れ上がっていて、身体能力を低下させる程の勢いである。

 更に、威力が高まった『ジャッジメントボルト』に乗せて無数の剣が通常の倍以上のスピードで瞬く間にアリアンロード目掛けて打ち込まれる。

 

「(……これは……)」

 

 騎兵槍《ランス》の動きを止めていた双剣を弾き、身動きが取りにくい烈風の中で降り注ぐ剣の豪雨を弾き飛ばすアリアンロード。いくら神速であっても、甲冑に身を包んでいればこれ程までの風の影響を受けない訳にはいかない。

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

 普段声を荒げる事をしないスレインが叫ぶ。それと同時にスレインの身体から今まで以上のアーツの光が放たれる。

 

 時属性アーツ『ソウルブラー』の闇に誘う円月輪と、幻属性アーツ『ルミナスレイ』の月の光線が無数にアリアンロード目掛けて打ち込まれる。その数は既に数えきれない程射出されており、飛び交う剣戟と合わせればアリアンロードと言えども苦戦せざる負えまい。

 突撃する剣戟とアーツを巧みに操り連撃の空間を作り出して自身の双剣を十字に振り下ろす。上段、袈裟斬り、下段、袈裟斬り、逆袈裟、中段と、相手が捌ききれなくなるまで執拗に攻撃していく。その剣戟とアーツの嵐に加えたスレインの連撃に対して、完全に相殺する事は出来なくなったアリアンロードの鎧には次々と傷が生まれていく。

 

「くっ……はぁ!」

 

 アリアンロードの掛け声が轟くと同時に万雷が降り注ぎ、全ての攻撃を霧散させる。

 スレインが後方に飛び退くと同時に、アリアンロードが膝を地に付けた(・・・・・・・)

 

 

 

―――ピシッ!

 

 

 

 一瞬の静寂の後に、アリアンロードが再び立ち上がると、素顔を隠す仮面にヒビが入る音が聞こた。

 ヒビはみるみるうちに仮面全体を覆う様に肥大していく。遂には完全に砕け散り、その素顔を見せてアリアンロードは口を開く。

 

「恐れ入りました。私の膝を地につけ、素顔を見た数少ない戦士として讃えましょう」

 

 鋼の聖女のその姿は、ブロンドの長髪を風に靡かせ、神々しさが伺える澄んだ瞳に端正な顔立ち。正に絶世の美女(・・)と言っても過言ではない。

 その凛とした表情をする女性は、帝国史を知るものであれば誰もが知っている面立ちであった。

 

「なっ……リアンヌ・サンドロット……だと?」

 

「その名を知っているのですね」

 

 こちらの問いに正確な答えを示さないアリアンロードのその表情は無表情に近いものであったが、嬉しそうな目をしている事が感じ取れる。

 

「そりゃ、帝国史の有名人だからな……。『槍の聖女』リアンヌ・サンドロット。獅子戦役の折にドライケルス大帝と共に鉄騎隊を率いて活躍したレグラムの英雄。……鉄機隊に鉄騎隊。アリアンロードにリアンヌ・サンドロット。隠す気があるのかないのか分からねぇな」

 

 その姿を見た上で現状を考慮すると、本人であるかの如き情報しか出てこない。レグラムにある石像や帝国史に乗る絵画と同じ素顔。得物である騎兵槍《ランス》や、引き連れている部下の部隊名まで一字違いとなれば、同一人物である事を匂わせるどころの話ではない。

 

「その答えには肯定のみしておきましょう。しかし、まさかここまでとは思いませんでした」

 

「はっ、未だに息を切らしてない化け物(・・・・・・・・・・・・・・)に言われたくないな」

 

 この時点で既にスレインは滝のように汗が湧き出し肩で息をしている。更に言えば、自身の処理能力限界までアーツと剣の精製を行使したせいで、この上ない頭痛に襲われていて、これ以上の戦闘に身体は警鐘を鳴らしている状態である。

 それに対峙するアリアンロードは、甲冑には先程の傷が無数にあるものの、どれもかすり傷程度であるし、先程一瞬見せた焦り等も嘘だったのではないかと思う程の冷静さである。

 

「最後は私も本気を出させて頂きました。しかし、資格を得た貴方との戦いは終わっています。安心なさい」

 

 表情一つ変えずに言葉を紡ぐアリアンロードは、本当に勝ち負けではない試験をしていたかの如く言葉を発していた。

 

「貴方には話すべき事があるのです。二年前の事で決定的な誤解(・・・・・・)をしています」

 

 その言葉を聞いたスレインは一瞬時間が止まった様に思えた。あの日の事は鮮明に覚えている。それこそ毎日の様に思い出すそれは、一字一句とも間違える事のないものだ。それを誤解しているというのはどういう事なのだろうか。言葉が出てこないスレインに向かってアリアンロードは話を続けていく。

 

「貴方は私達が力を与えたと思っていますが、それは断じて違います。あの日行った事は眠っていた力を開放しただけ(・・・・・・・・・・・・・)。『深淵』が呪いと魔術を授けましたが、力は自身の中にあった物です」

 

「な……んだと? それは一体? それに『深淵』って……?」

 

 衝撃的過ぎた内容に絶句し、断続的にしか言葉が出ない。

 自分の中に力があるなんて思った事も感じた事もなかったのに、何故彼女は知っているのか。そして、『深淵』が与えた呪いと魔術。これはあの時に聞こえたもう一人なのだろうが、一体それが誰なのか。疑問点を数え出したら切りがない。

 

「『深淵』にも時が来れば会えるでしょう。呪いや魔術については彼女に聞いてください。私はそれほど詳しくありませんからお答え出来ません」

 

「……」

 

 言葉も出ずに思考をぐるぐると回しているスレインを一瞥し、一瞬だけ哀れんだ様な表情をしてアリアンロードは話を続ける。

 

「話せるのはここまでです。更に聞きたければ然るべき時に再び資格を見せなさい。−−−そして、貴方の力はそのような使い方だけではありません」

 

「使い方?」

 

 予想外の発言に我に返るスレインであったが、その時にはアリアンロードの姿は結社特有の消え去る時に放つ虹色の閃光が身体を包み込んでいた。

 

「私と対等な戦いが出来る可能性を持つ者よ。次回までに力を付けておきなさい」

 

 その言葉を最後に『鋼の聖女』は光と共にその姿を消したのであった。

 

「…………クソッ。訳分かんねぇよ……」

 

 呟く程度の声であったが、その言葉には結社最強と言われる者との実力差と、言葉の意味が完全に理解出来ない不甲斐なさ、そして受けた言葉に対して呆然としていた自分への自己嫌悪の全てが混じっていた。

 

 得た物よりも無力感の方が大きいと見に染みて感じた一戦。

 これは、アリアンロードがスレイン・リーヴスに対して、二年前の真相を伝えようとする為にセッティングされた舞台というのが結果から見た事実であった。

 そして、それを断片的に与えるという事は、再びこの様な死闘が繰り広げられるという事を明確に示しているのであった。

 

 

 

 この後すぐにサラとトヴァル最上階へと上がってきた。

 二人の方は、手加減こそされなかったものの、時間稼ぎの様な戦い方に押し切れずにいたらしいのだが、突然戦いが終了し、「上の用事が済んだ」と告げて早々と撤退していったとの事だった。

 自身の話は、上手くすり替えながら最上階で起きた事をひと通り話していくと、丁度ミシェルから連絡が入り、全箇所無力化、拘束に成功したとの事を告げられたので、手短に報告を済ませた後に三人はクロスベルに戻っていく。

 

 帰路の間も困惑と頭痛を隠しながら、ポーカーフェイスを崩さず普段通りを心がけていたスレインであったが、節々に見えた浮かない顔をサラはしっかりと感じていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 クロスベル支部に戻った遊撃士達は本日の結果を報告していく。ミシェルからの報告通り、帝国チームの所だけに結社が介入しており、他の地点は万事滞りなく教団の残党を捉えていたのであった。

 決定的な一撃を与えられなかったものの、単身で『鋼の聖女』と一戦交えた事でスレインの話題が増えたのだが、結果的に何故結社がそこに介入したかは不明という形で一同は結論付けた。

 

「俺の方で調べてみるが、帝国の方でも警戒する様にしてくれ。いつそちらに現れるか分からんからな」

 

「了解。こっちでも何か分かったらミシェルに連絡を入れておくわ。お互い暫くは気を抜けないわね?」

 

 アリオスとサラがそれぞれの現在を踏まえた上で会話をする。クロスベル自治州というのは宗主国であるカルバートとエレボニアに軍事的圧力がかかっており、遊撃士と言えどもなかなか動けない。ましてや現帝国政府の圧力により遊撃士協会が軒並み閉鎖された帝国内では、いくらA級遊撃士であってもかなり動きが制限されるので、それぞれの住民が動いた方が楽なのだ。

 

「でも、どうしてスレインを狙う様な事をするんだろうね?」

 

 ヨシュアの言葉に一同も頷き、一斉に視線がこちらに注がれる。

 狙われた理由は分かるのだが、明確な意図が分からない今回の一件は、自身の中に閉まっておきたい事柄である。

 

「さぁな……それも含めて要調査だろ。俺だって理由が分かってるならここで話してるさ」

 

 本当に思っている(・・・・・・・・)事を話して一同が納得する事を確認すると、今回の一件の報告は終了した。

 

「しかし『鋼』とやり合って生きて帰ったとなれば、評価は格段に上がるぞ。A級になるのも近いのではないか?」

 

「そうですね。レーヴェでさえ『自分以上だ』って言ってましたし……確実だと思います」

 

「て事は、スレインってレーヴェより上って事? すごいじゃん!」

 

 アリオスの言葉に納得した様子のヨシュアと、少し斜め上の回答をするエステル。

 

「手加減された感じもしますし、評価対象にはならないと思いますよ?」

 

「それでも無傷で生還したなんて前代未聞だ」

 

「S級を断り続けているアリオスさんに言われてもねえ」

 

「む、言うようになったな、スレイン」

 

 スレインの言葉にアリオスが苦笑すると、一同がクスクスと笑い始める。どうやら重苦しい雰囲気も終わりのようだ。

 

「はぁ〜、あたしの記録も越えられちゃうのね〜」

 

「そういえば、今のところはサラさんが最年少記録を持っているんですよね」

 

「凄いわよね〜。アタシなんていつA級になれるか分からないわよ」

 

「ブライトカップルはニコイチだから、二人揃えばA級レベルだろ?」

 

 スレインの言葉に照れる様に目を逸らしてニヤけるエステルと、それを横目に軽く微笑むヨシュア。その光景は本当に仲の良いカップルそのものであるが、それは戦闘面でも同じなのだ。

 エステルの棒術は、かのカシウス・ブライト直伝で、恐らく棒術でエステルの右に出る者は殆どいないだろう。そして、元執行者というだけあって戦闘能力の全てが一般的な遊撃士と段違いなヨシュア。更に隠密行動に関しては大陸一と言っても過言ではない。

 この二人は個々の能力も高いが故に、コンビでの戦闘となると実力が二倍三倍にも膨れ上がる程である。ARCUSを使わせたら戦術リンクだけで、軍隊を相手に出来るのではないだろうか。

 

「ま、スレインの言う通りね。あんた達二人相手ならあたしも勝てないわよ」

 

 二人の微笑ましい光景を見ながら言葉を出すサラは、どこか呆れている様な表情をしている。

 

「まぁ、スレインも復帰した事だし、これで帝国は安泰だな」

 

「んな事言ってないで、あんたもしっかり働きなさいよね!」

 

 トヴァルの一言に笑いながら喝を入れたサラは、そのまま背中をバシバシ叩く。

 

 こうして一頻り雑談で盛り上がった所で、今回の依頼は無事終了を告げ、各々解散していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国チームは列車までの時間が空いているという理由で、一端自由行動となったので、スレインは中央広場に足を運んでいる。

 帝国内ではARCUSが普及しているが、大陸的にみたらENIGMAが普及している為に、多少なりとも情報を仕入れておこうと思い、中央広場に構えるオーパルストアに向かおうと思っていたのだ。

 すると、広場に着いた途端、見覚えのある人物が驚いた表情をしながら歩み寄ってくる。

 

「あ、あなたは!? どうしてここに!?」

 

 目の前まで歩み寄るといきなり声を荒げた女性は、肩にかかる濃紺のミドルヘアーをハーフアップに結い上げ、パステルカラーのスポーツウェアを着ている。しかし、スポーツウェアと言っても上半身はおへそ丸出しで、ジーンズ生地のパンツはローライズ仕様。女性的なラインがしっかりと出ていて、所謂スタイル抜群のこの女性の格好に対して目のやり場に困るのは、男性ならば分かってくれるだろう。

 

「お? アルカンシェルの大スター、リーシャ・マオじゃねぇか。久しぶりだな」

 

 不用意に目線を変えると何かと問題視されそうなので、しっかりと目を見据えてから片手を上げて挨拶をする。その行為はなるべく自然に行ったつもりだったのだが、この女性はとんでもない行動に出た。

 

「ちょっと来てください! ……いいから!」

 

 言葉と共に有無を言わさず腕を掴むと、尋常じゃないスピードで何処かへ連行されていく。勿論、「いいから」の前に色々と疑問をぶつけたのだが、その一言を聞いたら返す言葉を失ったので、大人しく連行される方を選んだのだ。

 列車の時刻までに自身の目的が達成できそうにない事を悟ると同時に、どこかのアパートメントの一室に入っていく。すると、腕を掴んでここまで引っ張り回した女性はそのままくるりと反転してこちらを睨みつける。

 

「なんであなたがクロスベルにいるんですか!?」

 

「なんでって、仕事だよ。遊撃士に電撃復帰しちまったんでな。リーシャの活躍は帝国でも有名だぜ。まさか劇団員になってるなんて思わなかったけどな」

 

「な!? 遊撃士って、あなた、何故!?」

 

「成り行きでな。……それはそうと、とりあえず先に腕に押し付けてるものをどかしてくれないか? これじゃ、あの時の二の舞になる」

 

 自室と思われる部屋に入った事で人気がなくなったものの、先程から腕を掴んでいる状況は変わらない。そして、身体を反転しただけのこの人物は、道端と違って距離を詰めているので、傍から見れば腕に抱きついている様な体勢である。そうすると当たり前であるが、腕に膨よかで柔らかい物体が当たっているのだ。そう、むにゅっとした擬音が出るくらいに。

 

「え? ――――――!!」

 

―――パァン!!!

 

 言わんこっちゃない。予め歯を食いしばっておいて正解だった。女性は素早く腕から離れると同時に、平手打ちがスレインの右頬にクリーンヒットして綺麗な紅葉を染め上げた。

 

「イテテテ……あのさぁ、今回も俺のせいではないと思うんだけど?」

 

「あ……すみません。条件反射で……」

 

 そんな事は分かっているので、特別表情は作らず言葉を漏らすと、目の前の女性はバツの悪そうな表情をしながら俯いて謝罪の言葉を口にしている。

 

「たく……あれから変わってない様で何よりだ」

 

 目の前にいるスタイル抜群の女性の名は、リーシャ・マオ。クロスベルに構える世界屈指の劇団『アルカンシェル』に入団したばかりで準主役の座を射止めた若きスターである。看板女優であり主役の『イリア・プラティエ』に引けを取らないその美貌・演技力で数多の観客を虜にする、『アルカンシェル』の2大女優である。

 そして、そのトランジスタグラマー(誰かが命名したらしく、リーシャの事を密かにそう呼ぶ人がいるらしい)には、裏の顔が存在する。

 東方の裏社会で伝説と呼ばれる暗殺者。《伝説の凶手『(イン)』》。身の丈程もある大剣と複数の暗器・符術・気功術を使う『(イン)』の名は、裏の道を歩む者にとって知らない者はいない。

 しかし、『(イン)』とは歩むべき道であって、先代から受け継がれる暗黒の人生である。なので、その伝説の全てが彼女の事を指しているのではないし、自ら手進んで闇の足を踏み入れた訳でもないだろう。

 ちなみに、『(イン)』とリーシャ・マオが同一人物というのは、状況が変わっていなければスレインしか知らない事実である。

 

「ツァオは俺の事を知ってたみたいだが、お前さんには言わなかったのか?」

 

「ええ、今日は劇団の練習日でしたから。ツァオに会ったんですか?」

 

 先程の恥じらいから一変、真剣な面持ちで淡々と言葉を口にするリーシャ。

 

「遊撃士の仕事で来てるから会ってない。安心しろ。約束は守ってるさ」

 

 言葉の最後に「むしろ会いたくない」と付け加えてからリーシャの顔を見ると、その表情には安堵が混じっている。

 

「そうですか……。それなら安心しました。せっかくなのでお茶でもご用意しますね。座っていて下さい」

 

 やはり自室であった様で、テキパキとティーカップを出しながらお湯を沸かしているリーシャを横目に椅子に腰掛ける。

 

「(しかしまぁ、何で会う度にこうも同じ展開になるのかねぇ……)」

 

 この人物との出会いは一年前の共和国内で起きた『赤い星座』と『黒月(ヘイユエ)』の抗争だった。その時に『黒月(ヘイユエ)』に雇われていた(イン)が、『赤い星座』のメンバーと勘違いしてスレインに襲い掛かってきたのだ。双方から因縁を吹っ掛けられてイライラしていたスレインは、つい本気を出してしまった。ここまではまだ至って普通の話である。

 そして、決め手となった一撃で吹き飛び、仰向けに倒れていた(イン)に近づいた際、『赤い星座』の連隊長で狙撃の名手である『閃撃』のガレスが、近くにあった爆薬を狙撃して大爆発を巻き起こした。

 この爆発が想像以上に大規模であったので、仕方なく助ける為に(イン)を抱えて飛び退いたのだが、自身が与えたダメージと爆風の衝撃で体型や気配を操作していた気功が解除されていた(イン)先程までなかったハズの胸部にある膨らみ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)を揉んでしまったのだ。

 その後は想像通り。先程と似たような展開が繰り広げられ、他言無用を約束する事と引き換えに、(イン)という存在について聞いたのだ。

 

 つまり、数ヶ月前に起きた、とある黒髪の少年と金髪の少女の最初の出会いと似たそれである。スレインがあの時少年にかけた言葉は、紛れも無く経験者からの助言と言う訳である。

 

「で、俺の姿を見るなり引っ張ってきた理由は何だよ?」

 

 出された紅茶を飲みながら、向かいに座るリーシャに視線を合わせて話していく。

 

「いえ……久しぶりに姿を見たので、少し取り乱していました」

 

「どっちかって言ったら貸しの方が多いんだから信用しろよな。俺がアルカンシェルに行く時があったらどうすんだよ」

 

「ふふっ、そうですよね。スレインさんは約束を破る様な人ではないです。それはあの時から分かっているつもりです」

 

 実は一年前に出会った時に、もう一つ約束を交わしている。

 これは不可抗力とは言え、スレインが(イン)の正体を知ってしまった謝罪の意味を込めて、自身が帝国民であり皇族直属の内偵である事を告げたのだ。

 それと同時に、既に戦闘が出来る状態でなかったリーシャの代わりに黒月(ヘイユエ)側に付いて抗争を終結させて、『(イン)』の正体をこれ以上知られない様に工作する事を約束した。

 結論から話すと、抗争はしっかりと自身の手で終結させて、(イン)の代わりにツァオから気に入られるという結果になったので、情報を隠し通す事に成功したのである。

 ちなみに、言葉を変えるとリーシャは帝国外部の人間でただ一人、スレインが内偵をやっていた事を知っているという事にもなる。

 

「しかしまぁ、あのアルカンシェルのスターと一緒にお茶とはな。こんなん文屋からしたら大スクープだろ」

 

 笑いながらそう話して出された紅茶を一口飲む。普段飲んでいる紅茶と味が違うのはクロスベル産なのか、それともリーシャの好みなのか。言及こそしないものの、しっかりと味わう事だけを決める。

 

「確かにそうですね。クロスベルには暫くいるんですか?」

 

 スレインの笑顔に合わせて微笑みながら紅茶を一口飲むリーシャ。こう見ると本当に暗殺者なんて事を感じさせない程の可憐な女性である。

 

「いや、今日の列車で帰るよ。アルカンシェルは一度見てみたかったがけどな」

 

「あら、それならチケットをお渡ししますか?」

 

「是非……と言いたいけど、色々と忙しくてさ。せっかくだけど遠慮しとくわ」

 

「そうですか……言って頂ければすぐに用意しますよ」

 

 今までで一番の笑みを見せるリーシャ。その表情を見てスレインは直感的に一つの結論を付けた。

 この女性に暗殺者の道は歩めない。理由はないが何故かそう感じたのだ。

 

「……アルカンシェルのリーシャ・マオの方がお前さんに似合ってると思うぜ?」

 

「え? それは……?」

 

 突然の言葉に動揺を見せるリーシャ。その頬は少し朱く染まっている様にも見える。

 

「一年前と今日の中で、今の表情が一番生き生きしてるよ。リーシャ・マオに闇の道は向いてない。早くキッカケを手に入れて足を洗う事をオススメするよ」

 

 スレインは口を開きかけたリーシャを制する様に「ごちそうさま」と一言だけ残すと、アパートメントを後にしてクロスベル駅に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「しかし、なんだって『鋼』自ら来たんだろうな」

 

 列車内でトヴァルが片手に持つビールを飲みながら不思議そうな表情をする。

 ちなみに、ビールを持っているのは全員。今回の依頼での労いという事で、サラがミシェルから受け取った酒瓶は既に半分以上が空になっている。

 

「さぁなぁ? デュバリィまではやり合った事があるから、御自ら腕試しって感じじゃね?」

 

 そんな在り来りな発言をしながら窓の外の景色から視線をトヴァルに向けると、小難しそうな表情をしていたサラが疑問を投げかける。

 

「あんた、どんだけの数とやり合ってんのよ?」

 

「ん? 執行者なら7人くらいか? 大陸中回ってたけど、使徒は流石に初めてだったわ。いい経験になったぜ」

 

 ケラケラ笑いながらそう答えると、トヴァルは既に頭を抱えていた。

 

「それ、判明している面子全員じゃない!」

 

「まぁ、今回の件は全員無事だったんだし、それでいいだろ? サラも飲めよ」

 

 何故かご立腹のサラにトヴァルが声を掛けると手に持つ酒瓶を傾け一気に飲み干していく。

 

「そうね。今日は飲むわよー! スレインも飲みなさいよね!」

 

「たく……分かったから列車内であんま騒ぐなよな」

 

 列車内としては多少声量が大きかった事を指摘してやると、バツの悪そうな表情をするが、酒瓶を渡すと共に機嫌が直り宴会が始まっていく。

 

 こうして学院の自由行動日は、学生としてではなく遊撃士として終わっていくのであった。

 ちなみにトリスタに着く頃には貰ったお酒も全て消費していたのは言うまでもない。

 

 

 




スレイン君の過去がほんの一部だけ明かされました。
と言っても、もう一人の名前も出ているので、誰が関わっているかは分かると思います。

一体、どんな真相なのか。楽しみにして頂けると幸いです。

そして!
碧の軌跡より、あのリーシャ様が登場です。
閃の軌跡Ⅱでも登場していたので、どうしても出番が欲しかった為にこういった形で登場してもらいました(笑)
リーシャだったらアリサと同じ反応をするだろうなと思って、初期の頃から考えていた構想でございます。
気に入って頂ければ幸いです。

それでは、今回もお読み頂きありがとうございました。
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