英雄伝説 魔の軌跡   作:閃の細道

24 / 34
さて、ノルドでの実習も佳境に入ります。

新しい人物がどんどん増えていく軌跡シリーズでは、それぞれの物語を考えると頭がパンクしそうです(笑)

スレイン君は、ノルドでの問題にどう介入していくのか。

是非、お楽しみ下さい。

では、第24話、始まります。


巻き起こる戦火

 

 皆が寝静まった深夜。時刻は既に日付も変わり、月が空高くに見える頃。

 ベッドの上に書き置きを残して、宿泊用のゲルから物音を立てずに外へ出る一人の少年がいた。

 

「さて、行きますか」

 

 そう呟くと同時に、少年の足元から上昇気流が生まれると、一気に20アージュ程上空に飛び上がる。

 少年は風を身に纏うと、徒歩の速さから徐々に速度を上げてノルドの集落を後にした。

 

 異変を感じたのはノルドに来た時からだが、表立って動く気配がなかったので、暫くは警戒だけをしていた。

 丁度数時間前、ウォーゼル家で歓迎会をしていた頃から風の動きが変わった。と言っても、この場合の風とは一般的なそれとは違い、スレインだけが感知出来る索敵用の風である。

 怪しい動きをしている者達がいる。高原南西部の監視塔方面、本来であれば人がいる様な場所ではない位置に人影があると風が告げていた。

 更に言えば、共和国方面からも怪しい風が吹いていた。どうやら国境に面したこの場所で戦争規模の何かが起きるのかもしれない。

 

「(んな事になったら実習どころじゃねぇな……)」

 

 しかし、このノルドの地は広い。移動手段に馬や導力戦車の様な乗り物が必須のこの高原では、どうしても各地を飛び回る際に時間が掛かる。

 高原南西部を軍馬以上のスピードで文字通り飛んでいる(・・・・・)スレインでさえ、怪しいとされるポイントに向かうまでに結構な時間がかかるのは同じであった。

 

「(……間に合わねぇな。上空から見るか)」

 

 既に共和国方面から硝煙の匂いが混じった風が吹き荒れている。

 事態が動く前に解決する事は出来ないと判断したスレインは、風の動きを察知して、更に高くに飛び上がる。地上からでは既に人だと確認出来ない程の高度まで上がると、再びポイントの方へ進んでいく。

 

 その時だった。

 

―――――――――ドガァン!

 

「チッ……これはまた厄介だな」

 

 舌打ちと共に声が漏れる。

 爆撃音が聞こえたのは南方。そこから数発の砲弾が高原南西部の監視塔を直撃して、黒煙と共に炎上している。監視塔までの距離は近い訳ではないが、視認出来るという事はそれだけ被害が大きい証拠である。

 更にカルバート方面の軍事基地にも、同じように爆煙と共に炎が上がっている。

 両国の軍事基地が何者かによって爆撃された。これは確実に戦争を起こす為の火種である。監視という緊張の糸は呆気無く切れて、すぐに武力介入が始まる。

 そうなってしまったら目の前に広がるのは戦場。つまり、ノルドの地で戦争が起こるという事だ。

 

「こんな事なら叩き起こせばよかったな……」

 

 思ってもない事を口にしている彼は、早速砲撃があったと思われる監視塔南西部に向かった。

 そこには既に人の気配はなかったが、今回は犯人逮捕が目的ではない。犯人の動向は風が追ってくれているので、砲撃の詳細な情報が欲しかったのだ。

 

「ラインフォルト製……って事は、帝国側の人間か?」

 

 徐ろにARCUSを取り出して、とあるナンバーをコールする。蛇の道は蛇。こういった事は専門家に聞いた方が早い。相手は基本的にどんな時でも出るので時間帯は気にしなかった。

 

「―――わりぃ、こんな時間に。今大丈夫か?」

 

『スレイン様。夜分にどうかされましたか?』

 

 時刻は日付も変わって暫く経つというのに、3コール以内で電話に出た相手は、いつもと同じおっとりとしつつも艶やかな声で話す。

 

「急用だ。ちょいと面倒になってな。ラインフォルトの製造ナンバーの照会をしたい」

 

『承知致しました。どのナンバーでしょう?』

 

 躊躇する事なくこちらに回答を促す相手。こういった時でも不要な詮索もせず、普段と同じように対応してくれるのは有り難い事である。

 

「ちょっと待ってくれ……えっと、『M12-RT-3061』だな」

 

 スレインの言葉に「少々お待ちください」と伝えて、数秒間だけ沈黙をする。

 

『RF製1.2リジュ迫撃砲ですわね。製造年は1200年。旧式の為に今は取扱をしておりません』

 

「さすがシャロンだな。即答かつ言い切れるなんて俺には無理だよ」

 

 製造ナンバーを全て暗記しているかの様な即答には、流石のスレインも笑うしかないのであった。

 

『ラインフォルト家のメイドとして当たり前ですわ。それにスレイン様のお役に立てるのであれば尚の事ですわ』

 

 そこはメイドも何も関係ないと思ったのだが、このパーフェクトメイドの前ではそんな事を考えるのは蛇足である。

 

「サンキュ、助かった。御礼は……そうだな。ノルド産の酒を何本かもらってくるよ」

 

『まぁ。わたくしの為にですか? ありがとうございます。スレイン様のご無事を案じると共に楽しみしておりますわ』

 

 電話口でもとても嬉しそうにしていると分かるワントーン上がった声に少しばかり笑みが溢れるが、自体はそこそこ深刻な状況である。楽しく会話をしたいのも今回ばかりはお預けとして、幾つかの頼み事をして重ねて御礼を言った後に電話を切る。

 

「旧式って事は猟兵だろうな……しかし、何故残したまま去るんだ?」

 

 現場に物証を残すという事は、隠密行動ではあり得ない。つまり、これがバレても問題がないという事になる。

 もしくは、ここが高原の高台になっていて、周りから見れば小さな崖になっている点から、置いて行っても気づかれないと思ったのだろうか。

 一端周囲を見回すと、すぐにその答えが分かった。このポイントから、監視塔は見えない(・・・・・・・・)。死角になっているから見つからないと踏んだのだろう。

 それにしても甘い。猟兵関係であったとしても、こんな足がつく様なヘマは殆どしない。つまりは余程練度の低い猟兵団か、もしくは猟兵経験の浅い者達なのかもしれない。

 

「……と、こっちはとりあえずあいつらに任せるか」

 

 特別実習を行っているⅦ組は、間違いなく自主的にこの状況に介入してくる。過去二回の特別実習において、どちらも学生が介入するには荷が重い様な案件に首を突っ込んでいる彼らは、例え臨戦態勢になろうとも間違いなく真相を解明する為に来るハズだ。

 それを踏まえて幾つかのヒントを残しておく。この場所を見つけやすい様に崖の奥にあったザイルを下ろしておき、先程から風を追っている犯人の居場所をメモした紙を迫撃砲に挟む。

 そして、最後にこの場所をすぐに見つけられる様に、同系統の力を持つ者(・・・・・・・・・)へのマーキングをしておく。

 

「(ちょっとやり過ぎたかな……)」

 

 用意を終えた頃には、監視塔も共和国方面もだいぶ騒がしくなっていた。

 急いでその場を飛び立ち、共和国方面へと飛んで行くスレインであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、こりゃ派手にやられてんなー」

 

 被害状況であれば明らかに監視塔よりも酷い。

 あちこちで空高く爆煙が上がり、建物が炎上して焼け焦げた匂いと硝煙の匂いが辺り一面に広がっている。非常事態警報のサイレンが鳴っている共和国軍基地は、消火活動と人員救助で慌ただしく動いていた。

 

「とりあえず……位置を探すか」

 

 帝国側と同じように、風を操り砲撃場所を特定すると、すぐに見つかったので飛んで行く。

 すると、先程同様の状態で迫撃砲は放置しており、高台に登るザイルも纏め上げているだけでそのままだった。

 

「こっちもラインフォルト製か……」

 

 襲撃に使われたのはこちらも帝国製の迫撃砲。帝国側へ濡衣を着せる為か。しかし、それだけであれば帝国側へ襲撃した理由がない。そうなると帝国側の兵器が入手しやすかったという推論も出来る。

 

 そもそも旧式の兵器という点で怪しい。兵器に詳しい者がいれば、これが軍事系統で採用されている兵器ではないという事は調べればすぐに分かる事だ。

 ましてや榴弾が炸裂した際の破片からも、使用された兵器を調べる事も出来る迫撃砲なら尚更である。つまり、軍からの襲撃に見せかけていない。

 

 そして、旧式兵器の入手経路も怪しい。旧式の兵器は、軍事施設が現行利用している兵器よりも比較的安価で購入出来る。それは軍事施設で利用停止になった際に、裏市場へ大量に流れるという兵器市場のセオリーであり、資金難になっている猟兵にとってはここで得た武装が主軸となるのだ。

 その中でも今回利用された迫撃砲は、至る所に劣化が見られ、可動部や砲塔にはかなりの摩耗が見られた。という事は、旧式の迫撃砲を中古で仕入れた可能性が高い。

 そうなると、ブローカーを介する事が出来ない比較的小規模な猟兵が利用する兵器の裏市場、通称『闇市』から購入したというのが妥当である。

 

 ここまでの憶測を推論として纏め上げていると、今回の砲撃地点の撤収状況の杜撰さも納得がいくし、やはり練度の低い猟兵団という線が色濃くなってくる。

 しかし、ここで一つの疑問点が現れる。

 その程度の猟兵が、何故戦争が起きる様な偽装工作を行ったのだろうか。

 猟兵は戦いが生業なので、確かに戦争を起きれば仕事が入る。しかし、わざわざ自身が戦争の引き金になる様な行為をするにはリスクが高すぎるのだ。更に今回の様な両国の軍事施設の襲撃なんて、どこの猟兵団でも、絶対に行わない禁忌(タブー)に近い。言ってしまえば無謀である。

 

 つまる所、結論としては『帝国に潜む練度の低い猟兵団に仕事を依頼した黒幕がいる』という事だろう。

 

「あれ〜? 誰かいる〜」

 

 ここまでの推論は時間にして一分程であったが、意識を完全に内にしていた為に、近づいてくる気配を察知するのに遅れを生じてしまった。

 しかし、聞いた事にある幼い声で、場違いな様に明るく話すその人物に警戒心を解いていく。

 

「んだよ、ミリアムか。お前さんも命令で調査に来たのか?」

 

 水色の短髪で身体にフィットしたスキニースーツを着るその少女は、実技テストで使用している戦術殻に酷似した銀色の人形兵器に腰掛けている。

 

「あ、スレインだったんだ〜! 久しぶりだね。まぁ、オジサンに言われたからさ」

 

 少女は無邪気にそう話すと、銀色の人形兵器から飛び降りる。その瞬間、人形兵器はその姿を消した。

 

 少女の名はミリアム・オライオン。クレアと同じくオズボーン宰相直属の鉄血の子供たち(アイアンブリード)の一員。帝国軍情報局に所属する軍人であり、白兎(ホワイトラビット)と呼ばれている。

 『アガートラム』という人形兵器の様な傀儡を利用して、各地を飛び回って任務を行っている。

 しかし、年齢もまだ13歳という事で性格は無邪気で人懐っこく、見た目通りの子供である。

 

「で、そっちはどこまで掴んでてどっから介入するつもりなんだ?」

 

「んー。犯人カクホってトコかなぁ。ボクに交渉事は向かないし!」

 

 ケラケラ笑うその少女は、言葉と見た目が全くもって一致していないのだが、それを指摘する必要は皆無である。

 

「成る程。犯人に心当たりはあるのか?」

 

「一応ね。でも機密情報だから言えないんだ。スレインはどうするの?」

 

 年齢や見た目に関わらず、軍人としてしっかりと情報を選択して発言する辺りが、オジサン―――ギリアス・オズボーンの教育の賜物なのだろう。

 なんて意味の分からない想像をして、一瞬だけ苦笑いが漏れる。

 

「とりあえず、お前さんが来るって事はレクター辺りが来るだろ? お前さんが苦手な交渉事の段取りでも一緒に組むさ」

 

 そのまま風を操作して周囲の索敵を開始すると共に、北風を全身に浴びていく。北の方の索敵は一段落した様だ。

 

「そっかー。スレインのお友達は強い?」

 

「ん? ああ、束になればお前さんよりは。同行してもいいなら連れてってやれ。俺の予想だとお前さんを犯人と勘違いして追っかけるから」

 

 Ⅶ組の事を知っている事には介入もしないし、ミリアムの発言が『任務に役立つのか』という事を聞いていると察知して言葉を並べる。

 

「うん、分かった! ウデダメシしてから連れてくよ。ちなみに犯人が何処に居るか知ってる?」

 

「ああ、高原北東部の石切り場らしい。中まで見てないけど、そこに人が集まっているみたいだな」

 

 今しがた北風から得た情報をそのまま伝える。呑気な性格であっても任務中に無謀な事はしないので、細かな情報はいらない。勝手に下見に行って調べてくれるだろう。

 

「結構遠いトコに逃げたね〜。アリガトー!」

 

 再び銀色の人形兵器が現れてミリアムが飛び乗ると、空中に浮遊してそのまま北の方角へと飛び去っていった。

 

「さて……とりあえず朝まで待機だな」

 

 そう呟いて、索敵結果から分かった安全な高台まで飛ぶ。辺りは何もない草むらだったので、横たわって暫し仮眠を取るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 時刻は変わって同日9時。

 朝日はすっかり高い位置まで上がっていて、晴れ渡った青空が眩しいこの時間。集落では朝餉の準備も終えた頃である。

 

―――厄介事に巻き込まれてくる。悪いが実習は皆に任せた―――

 

「スレイン……」

 

「スレインさん、大丈夫なんでしょうか?」

 

 朝餉の用意が出来たとガイウスに起こされたA班一同は、直ぐにスレインがいない事と、ベッドの上にあった置き手紙に気づいた。

 

「Ⅶ組の誰よりも強い奴であれば大丈夫であろう。俺達は実習に専念するしかあるまい」

 

 リィンとエマを中心に一同が心配そうな表情をしていたが、ユーシスの言葉で我に返る一同。

 確かに彼は余程の事がない限り単独で解決出来る力がある。こちらが心配しなくても一人でなんとかしてしまうだろう。

 

「ああ、そうだな。任された以上は期待に答えるだけだ」

 

「ええ、そうね。スレインがいない間に依頼を片付けちゃいましょう」

 

 ガイウスとアリサの言葉にやる気が漲る一同は、朝餉を取りにウォーゼル家へと向かうのであった。

 

「ラカン! ラカンはおるか!」

 

 朝餉を食べ終えラカンから実習依頼を受け取り確認していると、慌てた様子でイヴン長老が入ってくる。

 その後にはグエン、カメラマンのノートンも続けて入室してくる。ファトマの挨拶にも短く返す三人は、何か異変が起きたと言わんばかりの真剣な表情であった。

 

「……どうやら何かあったようですね?」

 

 ラカンもそれを察知した様で、イヴンに詳細な話をする様に促す。

 

「うむ。―――ゼンダー門から先程連絡があった。どうやら帝国の監視塔が何者かに襲撃を受けたらしい」

 

 イヴンの言葉に息を呑む一同。焦りながらも落ち着いた表情で話すイヴンを、グエンがフォローしながら会話を続けていく。

 内容としては、ゼンダー門からの連絡は今日の真夜中に帝国監視塔が襲撃を受けた。

 しかも、共和国軍の基地までも攻撃を受けたらしい。武力衝突の危険もあるから集落は一時退避せよ。という事である。

 

 その話を聞いてⅦ組A班は、実習よりも先に「まずは状況を確かめるべき」と考えを一致させて、一路ゼンダー門へと急行した。

 脇道をせずに馬を飛ばしてゼンダー門付近へと到着すると、既に戦車が展開されており警戒態勢が敷かれている。

 

「エレボニア帝国軍『第三機甲師団』か……」

 

「出撃準備も着々と進んでいる様だな」

 

 リィンとユーシスの言葉通り、兵士たちは緊張した面持ちであり、張り詰めた空気がゼンダー門から伝わってくる。

 事態の状況確認をする為に、指揮官であるゼクス中将を探しながら邪魔にならぬ様に端の方で馬から降りる。

 

「―――おぬしら、きたか」

 

 平原の方から馬に乗って現れたのは、こちらが探していた人物ゼクスであった。

 ゼクスはこちらを確認するすると駆け寄ってきて、目の前で馬を止めさせる。

 

「おぬしら、いい所に戻っていたな。丁度30分後にルーレ行きの貨物列車が出る。今回の実習は切り上げてそれで早めに帰るがいい」

 

「ええっ!?」

 

「それは一体……」

 

 ゼクスから出た思わぬ発言に目を丸くする一同。アリサとエマの返答にも表情を変えず、ゼクスは淡々と言葉を告げる。

 

共和国軍(むこう)の出方次第だが……あと数時間もしないうちに戦端が開かれる可能性は高い。既に集落の方にも伝えていたはずだが?」

 

 ゼクスの言葉は既に軍人として警戒を促す、力のこもった言葉であった。一同はその威圧感に物怖じをし、悔しさで歯を食いしばる。

 ゼクスの言う事は正論だ。いくら今まで色々な実習を受けていても、それは戦場ではなかった。今回は規模が違いすぎる。

 だからこそ、己の無力さと、何も出来ず帰るしかないという現実を突き付けられて、直ぐに結論が出ないでいる。

 

「……ゼクス中将。今回の一件、どちらが先に手を出したのですか?」

 

 そんな中、ガイウスが突然発言した。表情こそ自分達と同じであるが、その瞳には明確な意志が映っている。

 

「調査中だ。もちろん先にも後にも帝国軍が動いた事実はない。にも関わらず、監視塔は破壊され、守備兵からは死傷者が出た。ゼンダー門を任されている者としてこのまま見過ごす訳にはいかん」

 

 その言葉に続けて、共和国側のダメージはこちらよりも遥かに大きいという事も聞かされる。

 ゼクスの顔には自分達と同じく不可解な点が多いという表情をしている。しかし同時に、全面戦争にはならずとも、武力衝突を覚悟しいているからこそ、これ以上調査の必要はない。そんな事を表情で語っていた。

 

「……でしたら中将。どうか今回の事件の調査をオレにお任せ下さい」

 

 再びガイウスが発言すると、ゼクスは沈黙する。

 ノルドの地でガイウスの右に出る者はいない。その自負と、自身が愛するノルドの静けさを乱す今回の不可解な事件。その原因を自身の手で突き止める。それがガイウスの決意であった。

 

「…………及ばずながら俺たちも力になります」

 

「これも“特別実習”の一環と言えるでしょうから」

 

 ガイウスの決意を支持するリィンとアリサ。それを制止するガイウスであったが、エマ、ユーシスも共に行動する事を決意し、仲間として全員で調査をする事を決意したA班を止める者は、もはやこの場にはいなかった。

 

「現在10:05〜12:30までの調査を許可する。それまでは戦端が開かれぬようにこちらも力を尽くしてみよう」

 

 ゼクスの力強い発言と共に、A班一同の瞳に決意の意志が宿る。

 仲間の愛する故郷を戦火の渦に巻き込まない為に。そして戦争という大きな火種を生み出さない為に。

 一同はゼクスに深々と御礼を述べて、調査の為に監視塔へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「おいーす。起きろー」

 

 聞こえた言葉通りに目を覚ますスレイン。

 既に朝日が上っており、快適な気温と心地良く吹く風を感じて二度寝してしまった事を思い出しながら上半身を起こす。目の前には、起こしてくれた人物、貴族風の装いをした赤毛の青年が横に座っていた。

 

「おう、レクターか。遅いぞ。二度寝しちまったよ」

 

「わりいな。ミリアムに頼まれたもんを揃えるのに時間掛かってよ。ほら」

 

 そう言って青年は紙袋を手渡す。その中身は夜のうちにミリアムに頼んで持ってこさせた、潜入用の洋服が入っていた。

 

 この男性の名はレクター・アランドール。22歳という若さで帝国軍情報局の特務大尉で、帝国大使館の二等書記官の肩書も持つ青年。

 正体は鉄血の子飼い(アイアンブリード)の一員で、自身が行う政治的交渉の成功率は100%という交渉のスペシャリストでありかかし男(スケアクロウ)の異名をも持つ。

 また、リベールのジェニス王立学園に通っていたり、エレボニア大使館の書記官をして働いている過去もあるが、その全てがオズボーンの指示であるとの事だ。

 

「助かるわ。先に着替えてくる」

 

 そう言い残して奥の草むらに入り、そそくさと受け取った洋服を着てから制服を紙袋に入れると、木陰に紙袋ごと置いてレクターの元に戻る。

 

「さて、とりあえずそっちの情報をよこせ」

 

「今回の犯人は恐らくおっさんを狙ったテロリスト。正体はまだ不明だが、『帝国開放戦線』と名乗っているらしい」

 

 真剣な表情で、淡々と情報を開示していくレクター。ミリアムと違って情報を全く隠さない辺り、どんな優先順位なのかは知らないが、教えてもらえるからには言及はしない。

 

「帝国開放戦線……宰相を狙う貴族派の指示って線はねぇのか?」

 

「それは目下調査中。ただ、貴族派を指示しているって感じだな」

 

「またデカく出たな。規模もそれなりか?」

 

「いや、規模としては小さい。実働部隊を外部から雇っているし、幹部も三名らしい」

 

 ここまで情報を整理する為に沈黙する。

 今回の実行犯が外部の実働部隊というのは明確である。ミリアムが犯人の確保、レクターが政治交渉。それぞれ単独任務で来ているという点では采配は完璧であるが、どうも納得がいかない。

 そもそも幹部が三名という時点で手練の可能性が高い。実働部隊が外部という事も組織を身軽にする為に行う組織運営の常套手段。

 しかし、それは同時に本体の練度や能力が高い事も示唆している。

 

「で、今回の一件は宰相殿からしたらどうなんだよ?」

 

「武力衝突を避ける様に交渉しろ。任務(オーダー)はそれだけだ」

 

 ミリアムは戦闘のプロフェッショナルではなく、アガートラムを使った諜報寄り。

 元々黒幕まで捕らえる気がないのだろう。そこまでするのであれば、組織を動かせるクレアの方がまだ合理的である。

 

「て事は、泳がせるって訳か……たく、面倒事は勘弁しろよ」

 

「お前さんは学生だろ? 出張る必要ないんじゃねーの?」

 

「目の前で不穏な動きをしているのを、指咥えて傍観する趣味はねぇんだよ」

 

「ははっ、お前さんらしいな。まぁ、俺も暫くはクロスベルの方に目を向ける必要があるからな。それはそれで嬉しいぜ」

 

 ケラケラと笑いながら思ってもない事を言うレクター。

 この男の言葉はどれも本心に聞こえない様な表現なので、どうしても途中からまともに会話をする気を失っていしまう。そう、どっかの皇子(・・)に似ているのだ。

 

「さて……そろそろ迎えのお時間か?」

 

「あぁ、帝国側の入口で待ってる」

 

 言葉が終わると同時に移動を開始する二人。現在の場所は共和国内であるので、大きく迂回してバレない様に帝国側へと向かっていく。

 スレインの空中移動は言わずもがなだが、ゴツゴツした岩肌の崖を難なく飛び乗り進んでいくレクターは、交渉人以外の一面がしっかりと見て取れる身のこなしであった。

 

「あら、お早いのね」

 

 ノルド高原側の入口。共和国軍前線基地の鉄柵の前には、共和国特有の東方系の装いに身を包み、黒の長髪が似合うクールな女性が妖艶な笑みを浮かべて出迎える。

 

「キリカさん、お待たせしました」

 

「キリカさん、お久しぶりです」

 

「レクター君、どうも。スレイン君、お久しぶり。一年振りくらいかしら。あの時はありがとう」

 

 キリカと呼ばれるこの女性は、共和国出身で東方系の女性であり、大統領直属の情報機関『ロックスミス機関』の室長を務めている。

 泰斗流という武術の奥義皆伝の実力者であり、偃月輪を自在に操り飛燕紅児(ひえんこうじ)とも呼ばれている女傑。

 そして、リベール王国遊撃士協会ツァイス支部で受付をしていた経歴もあり、一年前にあった共和国内でのとある抗争の際に一度会っている。謂わば、そこそこ顔見知りの女性だ。

 

「いえいえ、俺は仲介しただけですから」

 

「それでも共和国からしたら英雄よ。さて、早速だけど中にご案内するわ。この状況について交渉(・・)を始めましょう」

 

 そう言ってキリカは二人を基地内部と案内していく。道中、冷たい敵視が多々あったのだが、そんな事で警戒したり萎縮する二人ではないので、無表情を貫いて進んでいく。

 到着した場所は基地内部でも応接室と言った所か。共和国特有の東方系の置物が多数飾られており、テーブルやソファーもどことなく東方の文化が混じっている様な作りである。

 

「……ここは大丈夫なのでしょうか?」

 

 一度退室した後に、人数分のお茶を用意して戻ってきたキリカに発言をする。

 もちろん内容は、盗聴・盗撮についてである。自身も確認していないからこそ、口調もそれに合わせて告げる。

 

「ええ、問題ないわ。ここは独立した場所だから。レクターさんもごゆっくり」

 

 キリカの言葉にレクターが身体の力を抜いてお茶を啜る。完全に寛いでいる様であるが、わざわざそんな事に対して言及をしていると身が持たないので無視を決め込む。

 

「しかしまぁ、八百長なんてレベルじゃないですね。キリカさん、そもそも俺の肩書は何になってるんですか?」

 

 キリカとレクターは同じ諜報機関の人間であり、諸外国で度々会う関係。表立って政治に入る訳でもないので、表面上は仲が悪くない様に見える。

 というより、この二人は表面上しか見えないので、自身が勝手にそう思う事にしているだけであるが。

 

「ふふっ、私達三人からしたらそうね。貴方は『東方人街を救った英雄』だけで通れるわよ。あれだけの抗争を止めたんだもの。共和国側は貴方を敵対視は出来ないわ」

 

 東方人街で起きた、マフィアと猟兵団の抗争を思い出す。確かに、燃え盛る町中で、軍が出てくる前に一人で終結させれば英雄扱いにもなる。

 実際に勲章を貰っている為、言葉通り共和国内ではそこそこ有名になってしまった。もちろん、その際に偽名を使ったり、表に出せない様な出来事を隠蔽したりと根回しを行った張本人がキリカなのである。

 

「それでも、ここに来るまでの目線は痛かったですけどね」

 

「そりゃぁ、今の現状を考えればそうだろ。いくらお前さんでも敵か味方かどっち付かずなんだぜ?」

 

 それはごもっともである。いくら英雄視された人物であっても、この状況下で帝国政府の人間と現れれば敵視されても仕方がない。

 飄々としながらもまともな発言をしたレクターは、真剣な表情に変えてから現状を踏まえた上での言葉を並べていく。

 

「こちらで襲撃犯の情報は抑えています。今回の一件は帝国に潜伏しているテロリストの仕業です。目的は帝国と共和国の武力衝突。実行犯は無名の猟兵団『バグベアー』。現在、帝国側に潜伏しているので本日中にこちらで確保します」

 

「ええ、分かりました。共和国側は国内に通じているテロリストが潜伏していないか調査しましょう。こちらの方が被害は大きいので、身柄の引き渡しを要求します」

 

 同様にキリカが説明をすると最後にこちらに目を向けた。要はそれが自身の仕事らしい。

 

「身柄の引き渡しに私が同行しましょう。帝国側に攻撃意志がない事を告げて、共和国側の為に犯人拘束に尽力した事を説明します」

 

 あくまでこれは政治的交渉なので、自身も周りに合わせた口調で話していく。

 一言で言うなれば、『東方人街を救った英雄』が犯人を捕らえ身柄を引き渡す事で、帝国が共和国側の為にも動いた(・・・・・・・・・・・・・・)というパフォーマンスをしろという事である。

 

「じゃぁ、後はそれなりに時間を潰すだけね。お茶菓子を持ってくるわ」

 

 たった数分で終わった交渉という名の八百長話は、三人が思い描いたシナリオが共通していた事を示唆する内容であった。

 

「さて。で、お前さんはクレアとどうなんだよ? あいつが私服の時に毎日着けてるネックレス、あれはお前さんが渡したんだろ?」

 

 キリカが退室した途端にソファーに深々と座り直してにやけ顔で質問してくる。

 自分がプレゼントした品を愛用してくれている事は素直に嬉しいが、それをレクターから言われると如何せん気に食わない。

 それに、渡した身からすれば本人から聞きたい内容なのは誰でも思う心情だと思う。

 

「そりゃよかった。特に何もねぇよ。クレアにも言われたと思うが、ただの御礼の品だ」

 

「ふーん……そういう風にしとくか。で、あっちの方は?」

 

「そっちは休業。だからノータッチだ」

 

 当然であるが、鉄血の子供たち(アイアンブリード)は、自分が皇族の内偵であった事は知っている。利用し利用される関係であるからだ。

 といっても、皇子と宰相(互いの上司)の関係もあるので、言葉通りの意味合いしか持たない。今回の様に情報交換がメインの関係だから、特別仲良しという訳でもないのだ。

 なので、無用な詮索を控える様に語尾を強調しておく。「つまんねえな」なんて拗ねた声が聞こえたと同時に、部屋の扉が開く。

 

「あと2時間くらいはダメね。上も神経質になってる」

 

 お茶菓子を手に持ち戻ってきたキリカは、ため息を付きながらそう答える。

 しかし、それも無理もない事だ。ここではのんびりとお茶会をしているが、現在は戦争一歩手前の非常事態なのである。

 

「まぁ、ゆっくりしようぜー。ミリアム(こっち)が動く時間もそのくらいだし、丁度いいだろ」

 

「お前さんはただ寛ぎたいだけだろ?」

 

「お、バレたか」

 

 ニヤけながら出されたお茶菓子を頬張りながら話を続ける。若干聞き取りにくいので、どちらかにしてもらいたいものであるが。

 

「そう言えば、スレイン。クロスベルでオルキスタワーが建造されてるの知ってるか?」

 

「あぁ、あの馬鹿みたいなデカさになるビルだろ? あれって建設止まってなかったか?」

 

「そう、大陸最高の高さを誇るビルだそうよ。ディーター・クロイス氏が市長に当選して、建設を再開したらしいわ」

 

 それは確か帝国の情報誌『帝国時報』にも掲載されていた。教団事件があってマクダエル市長が辞任した後の選挙で、クロイス氏が当選したらしい。

 正直そこまで興味はないのだが、諜報戦争をしているこの二人が話す内容という事は、国が関わっている話に違いない。

 

「なるほどね。で、そこで何か起きるのか?」

 

「あぁ、どうやらそこで各国のお偉いさんを集めて会議するらしいぜ?」

 

「また、とんでもない事やるんだな。で、そこに賊が侵入して大騒ぎってか? それだけ面子が揃えば起きるだろうな」

 

 各国のトップを集めるとなれば、間違いなく動く組織が出てくる。

 国を治める者というのは大なり小なり恨みを持たれているので、一堂に会するとなれば大騒ぎが起きる事も簡単に予想出来るのだ。各国の敵対勢力が手を組む可能性だってあるだろう。

 

「ええ、どうやらクロスベルの方はまだまだ落ち着かないみたいね」

 

「まぁ、お二人がいれば問題ないでしょう。こんな成りでも俺は学生なんで、そんな話聞いても動けませんよ。今回みたいに実習先なら別ですけど」

 

「あら。貴方、B級遊撃士でしょ?」

 

 自分でさえ最近知った事を、何故この人が知っているのか。なるべく表情を崩さずに彼女の方に目を向けると、「知っていて当たり前」という様な微笑で返された。

 対するレクターは知らなかった様で、「え、そうなのか?」と言いながら驚いた様な表情でこちらを見ている。

 

「みたいですね。俺も最近知りましたよ」

 

「それもあって今回この場に呼んだのよ。だって、この件が上手くいけばA級ですもの」

 

「キリカさん。そんな事まで知ってるんですか?」

 

「ええ、先日もクロスベルで活躍したそうじゃない」

 

 キリカはこちらに自然な笑顔を向けてそう話す。いくら受付経験があったとしても何故そこまで分かるのか。と考えた瞬間に詮索する事を諦めた。

 この人は敵に回すと恐ろしい程の情報収集・操作が出来るのだ。遊撃士事情を調べる事など朝飯前だろう。

 

「て事は、あの『紫電』の記録を更新するのか。そりゃすげぇ」

 

「そんな事言われても、俺自身実感ねえよ。でも、キリカさん。そこまで情報を仕入れてるって事は、何かしら意図があるんですよね?」

 

 レクターをあしらいながら、キリカに真相を聞こうと問いかける。

 

「そうね。貴方がA級遊撃士として名前が上がると、共和国にとっても嬉しいのよ。東方人街を救った英雄がA級遊撃士になれば、遊撃士は憧れの的になる。そうする事で遊撃士を目指す者が増えてくる」

 

「ほう。共和国は遊撃士を増やしてどうするんだ?」

 

 レクターは面白い話を聞いたと言わんばかりに身を乗り出す。今の情報は簡単には手に入らない一級品だと感じたのだろう。

 

「大統領の意向でね。遊撃士から軍へ引き抜く事で、個の力を高めた軍備が出来る。軍事レベルよりも個人の戦力も重視したいみたい。リベールの異変もあったし、対軍より対人を意識しているの」

 

「なる程。遊撃士は戦闘力、判断力、危機察知能力、情報処理とあらゆる力がつくからな。軍の訓練をするよりも手っ取り早く即戦力が生まれるって訳か」

 

「遊撃士は軍事的な問題には不干渉だし、民間人の保護を優先するから軍人よりも自由度が高い。軍人よりも目指しやすいでしょうね」

 

 二人は共に微笑をしながら、理路整然と言葉を並べていく。

 途端に始まった諜報戦に入り込むつもりもないので、そのまま暫くは二人の会話を聞き流しながら、お茶菓子に舌鼓を打つ事にする。

 

 気づけば諜報戦も終了していて、話題は他愛も無い話へとシフトしていく。

 両国の諜報員との政治的交渉(お茶会)は、キリカの宣言通り、2時間程の時間を費やして無事終了した。

 

 「では、また後程。戦果を期待しているわ」

 

 「じゃ、スレイン。頼んだぜ」

 

 キリカとレクターの挨拶に手短に返して、その場を後にする。

 基地内部から出た時間は既に昼過ぎ。

 スレインはレクターと合流した地点まで飛んで行くと、放置していた制服を拾い上げて手早く着替えを済ませる。

 先程まで着用していた洋服は、火の精霊を使役して焼却処分する。

 

「さて、面倒事になってなきゃいいんだが」

 

 基地内は密閉された空間だったので、風の頼りが無かった。

 そのため、現在の情報をリアルタイムで把握出来なかったので、取り急ぎ情報収集をする様に風を吹かせていく。

 同時に自身も風に乗って空高く駆け上がり、実行犯が潜んでいると思われる石切り場へと向かうのであった。

 

 

 




という訳で、レクターさんが行った交渉側を書いてみました。

個人的にノルド編をプレイしていた時。
「交渉相手はキリカさんだろう」と勝手に思っていたので、登場してもらう事になりました。

さて、次回は、今回のキーワードになった「東方人街の英雄」について書いていこうと思います。

それでは、今回もお読み頂きありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。