ここまで続いているクセに、文章力が向上しないのは如何せんどうしたものか……
はい、勉強不足は自覚しております。
お許し下さいませ……
という訳で、今回は過去編の後半戦です。
第26話、始まります。
「なんだと?
伝令からの報告を受けた隻眼の男は、一瞬だけ同様が走る。
あの男が何故ここにいるのか。そもそも何者かも分かっていないし、以前対峙した時も正体は最後まで明かさなかった。
甥であり、団長の息子であるランドルフが団を抜ける際に手助けをした男が、今回も敵として牙を向けるのか。
しかし、あの時は「ランドルフを気に入ったから」という理由であり、今回の介入に対する理由が不明確だ。
それでも明確な事としては、奴が
再び無用な詮索を始めてしまった思考を現実に戻すと、報告をしてきた部下の方を向く。
「
「ガレス隊長が狙撃した武器庫の爆発に飲まれてからは、行方が分かっていません」
「そうか。ターゲットの本体は?」
「依然、掴んでおりません。突入した場所は空振りでした」
「……ガレスを戻せ。俺が出る」
どうやら早々に始末しないと面倒な事になりそうである。『赤い星座』の名にかけて、依頼を失敗する訳にはいかない。乗り気ではなかった依頼であるが、名を汚す方が問題である。多少強引でも自身が出て殲滅すれば済む話だ。
そこまで考えると、両手に持つ双戦斧を握り締めて戦場へと歩き出した。
―――*―――*―――
隻眼の男が戦場へと向かったその頃。
スレイン・リーヴスは
ビルの前には構成員と思わしき人物が数名いたが、
「お待ちしていました。
奥の部屋に立っていたのは、薄紫のスーツに
「お前さんが『白蘭竜』……ツァオか」
「ええ、お初にお目にかかります。ツァオ・リーと申します。今回は
「ああ。相手も、ちょっとばかりやり過ぎだ。これ以上被害が出るのは些か問題だろう」
「確かにそうですね。平和的であった東方人街が燃え盛るとは……困ったものです」
頬笑みの表情は崩さず肩を竦めるツァオ。その姿には、本心が映ってない様にも思えてしまう。
「その前に一つ教えてくれ。
見た目からして狡猾な男に無用な言葉を省いて問いかける。
せっかくこの男に会ったのだ。自身の都合も片付けておけば、この後も気兼ね無く介入出来る。
「黒月は貿易会社です。マフィアとして動いていますが、クロスベルにいるルバーチェ商会と同じ様な内容しか請け負っていません」
またしても表情は崩さず淡々と告げる。これ以上の会話は無意味だと瞬時に判断した。
腹の探り合いは苦手ではないが、得意でもない。
「そうか……分かった。では、脱出まで援護する。隊長は俺がやるから5名程部下を貸せ。日の出前に終わらせる」
こちらも無表情を貫き通して進言する。
一人でも構わないのだが、後ろから狙われるのも御免なので、保険の意味を兼ねた選択である。
「……分かりました。では、精鋭をご用意しましょう」
そう言うと同時に一人の男が入室する。どうやら見張りを立たせてこの会話も聞いていたらしい。
「私の腹心、ラウです。貴方への信頼の証として連れて行って下さい」
「ラウだ。宜しく頼む」
ラウと名乗る緑髪の男性は軽くお辞儀をした。その目も共闘の意志が偽りなく灯っている。どうやら信頼という言葉は本当らしい。
「レイスだ。雑魚の殲滅と仲間の救出だけ頼む。まずは『血染め』から潰す」
以前から利用している偽名で答える。本名だと何かと面倒な立場であるので、最近は殆どがこの名前の気もする。
形式的な挨拶も済むと、この場にいる必要もない。直ぐに行動に出る事をツァオに告げて、スレインは直ぐにその場を後にした。
「ふふふっ……どうやら私の勝ちの様ですね」
部屋に一人佇むは、先程よりもはっきりと不敵な笑みを浮かべている。
月明かりに照らされ、燃え盛る炎が上がっている町並みを一瞥すると、ゆっくりと部屋から退室していった。
「レイス様、あそこです」
先導していたラウが足を止めて、奥を指指す。
言葉通り、奥には導力車を挟んで対峙している構成員達がいる。
そしてその先には、オルランド家特有の真紅の長髪を一つに纏めた少女、
見る限りではシャーリィは
「俺が先に出る。雑魚の武器を破壊するから、それと同時に飛び出せ」
「そんな事が出来るのですか?」
「ああ、まぁな」
ラウの方を向かずに飛び出す。いちいち説明なんてする気もないし、変に仲間意識を持たれるもの面倒である。
飛び出したスレインに最初に気づいたのは、『赤い星座』の小隊たち。しかし既に遅い。
飛び出した瞬間に両手に精製された導力銃を構えて、対象を分解するオリジナルアーツ『アナリスグラッジ』を猟兵達の得物目掛けて射撃する。すると同時に、猟兵達の持つ大型の銃剣一体型の導力兵器『ブレードライフル』が鉄くずになって砕けていく。
その異様な光景に前後から様々な声が聞こえたが、そんな事に構っている余裕はない。既にこちらが誰か認識した小柄な少女が肉薄している。
「あははっ! 誰かと思えばランディ兄を逃したヤツじゃん!」
自身の身長よりも大きなブレードライフルを横一線する少女。
その衝撃を吸収する様に導力銃で受けて流しながら、少女の腹部に蹴りを入れて後方に吹き飛ばす。
「よう、久しぶりだな」
こちらが戦闘開始したのと同じくして、構成員達も小隊と交戦し始めていた。
頼りの得物が壊された猟兵達は、人数的にも勝ち目はないだろう。
構成員達には雑魚を蹴散らしたら引く様に伝えてある。それを合図に
ここから先は無視してしまって構わない。
「何であんなのと一緒にいるのさ」
見た目は14,5歳でまだ幼さのある顔立ち。身長も低く無邪気な性格で陽気に話すこの少女は、『赤い星座』の副団長シグムントの娘、シャーリィ・オルランド。
だからこそ、無邪気さが全て戦場へと向けられており、命を奪う事に躊躇いもない。その残酷な姿から『
「成り行きだよ。今回もお前さんとやり合う形になったが……別に深い意味はない」
「ふんっ。こっちはお返ししたくてウズウズしてたんだから。……ちょっとは楽しませてよねぇぇぇ!」
狂気の笑みを浮かべながら、ブレードライフルを構えて突進してくるシャーリィ。大型の得物を持っていても、豹の様なスピードで肉薄してくる。
会話の最中に精製した双剣を両手に構えて、アーツを射出しながら迎え撃つ。幻属性アーツ『ルミナスレイ』の光線と双剣で斬撃をさばいているが、隙を見てこちらの急所を的確に狙ってくるのは流石である。
「シャーリィ。少しは腕を上げたみたいだな?」
「あんたを殺したかったからねぇ!」
距離を取ってブレードライフルを掃射してくる。ばら撒かれる弾幕の範囲はさほど広くないので、横飛びで回避する。
すると、それを狙ったかの様にブレードライフルを前方で回転させて突進し、斬撃の嵐『ブラッドストーム』を繰り出すシャーリィ。
既に回避を選択し、身体は宙に浮いている。直撃は避けられないと判断し、前方に風を凝縮させて、風属性アーツ『ジャッジメントボルト』を放つ。
勢いは殺したものの、尚も肉薄するシャーリィは、ブレードライフルを後方に構え直す。それは、十字に交差させて切り込む『ブラッディ・クロス』の構えだ。
「ちっ……面倒な事を」
この連続攻撃は誤算であり、小さく舌打ちをする。
その
地属性防御アーツ『アダマスシールド』を全面に展開し、幾重にも連なる盾で完全に防御する。
それと同時に両手に持つ双剣に白い閃光を纏わせて、攻撃の反動で動きが止まったシャーリィの
連撃の最後の一太刀を浴びせた直後、シャーリィが持っていたブレードライフルが粉々に砕け散った。
「うそ、これもダメなの!?」
驚いた表情をしながらも、楽しそうに笑うシャーリィ。武装が無くなった事で戦意も喪失したのか、先程までの狂気と殺意は消えている。
「お前じゃ役不足なんだよ。さっさと失せな」
コイツとじゃれ合う暇はない。それに、厄介な相手がもう一人、すぐ側まで近づいているのだ。
「まぁいいや。今回は任務失敗かな〜」
無邪気に笑いながら話すシャーリィの後方から、両手に岩の様に巨大な戦斧を持った屈強な男が現れる。
「ヤツがいるなら仕方がない。シャーリィ、ガレスと共に部隊を撤収させろ」
歴戦の勇士の様な重みのある声で男が話すと、シャーリィはつまらなさそうな表情で承諾する。こちらに「次こそは殺すからね〜」と告げて、そのまま宵闇に消えていく。
「何故貴様はそちら側にいる?」
「偶然だよ。厄介事に巻き込まれたんだよ。あの時の様にな」
「ふっ。あれはランドルフが決めた事なのだろう? 何処で知り合ったのかは知らんが、お前の手助けがなくても、ああなっていただろう」
「娘と違って物分かりがいいんだな。
目の前の男は少しばかり口角を吊り上げる。どうやら多少なりとも言葉の意味を理解してくれたらしい。
『赤い星座』の副団長シグムント・オルランド。2アージュ程の身長で筋骨隆々した隻眼の人物。
以前、シグムントの兄で団長『闘神』バルデルの息子、ランドルフが部隊を抜け出す際に手助けをした時に対峙して以来の付き合いである。
と言っても、実力行使でランドルフを引き戻すつもりがなかった様なので、その時もただの手合わせレベルの戦いしかしていない。
「だが、今回は違う。
「そうかい。お互い時間稼ぎってとこか」
ラウ達は既に撤退を開始しているが、全体が撤退するまでもう暫くの時間を稼ぐ必要がある。
覚悟はしていたが、どうやらこの男とも一戦交えなければならない様だ。
「そろそろ、無駄話は終えよう。お前の首ぐらいは取っておかんと示しが付かないのでな」
シグムントの目線には今まで以上の殺意が籠り、赤黒い闘気が徐々に放出される。
「はっ。やってみろよ。舐めてかかると足元掬われるぞ」
スレインも青白い闘気を放出させて徐々に臨戦態勢へと思考を切り替える。
両者が両手に持つ得物を構えると同時に、轟音と共に剣戟の火花が飛び散った。
シグムントの持つ身の丈程もある双戦斧から繰り出される斬撃は、大気を切り裂き大地を揺るがす程の威力。
対してスレインは風の補助を受けて威力を増幅させた双剣で対抗する。前回での戦闘はこれで拮抗していたはずだが、今回は僅かに競り負けている。自身も手加減していたのだが、相手は更に手加減していた事に気付いて、舌打ちをしながらタイミングを見て距離を取る。
「くそが。だいぶ手加減していた様だな」
「ふんっ、お前こそ、まだ力を殆ど出していないではないか。甘く見られたものだな」
互いに口角を吊り上げながらも、冷静に戦力を分析する。
「はっ、よく言うよ。ただの斬り合いしかしてねぇクセに」
言葉と同時にギアを一段階上げて、間合いを詰める為に飛び出す。同時に数多の剣を精製しながら、時属性アーツ『ソウルブラー』の光輪を無数に放つ。
この男相手に「溜め」の長い攻撃は出来ない。威力よりも手数重視の攻撃で攻める為に、剣筋は直線的に、アーツの光輪は曲線的にシグムント目掛けて押し寄せる。
一面に広がる無数の攻撃を相手にシグムントは、鉄塊の様な双戦斧を大きく振り回して、旋風の様な衝撃波を放ってこちらの攻撃を弾き落とす。
しかし、その動きは想定済みである。攻撃の手を緩めず剣の精製とアーツを続けながら、シグムントの足元にアーツの発動起点を定める。
「むっ!?」
シグムントが声を上げたと同時に、足元から地属性アーツ『アースランス』が発動し、地中から土壌の槍が幾重にも突き出る。
それを飛び上がって躱そうとする巨体目掛けて、空間を捻じ曲げ引力を発生させながら周囲の物質をぶつける空属性アーツ『ダークマター』と、風属性アーツ『エアリアル』の竜巻を発生させながら、逃げ場を封じつつ確実にダメージを与えていく。
「ふんっ! くらえ―――『ジオブレイク』!」
空中でアーツの猛襲を受けていたシグムントは、引力に逆らうように急降下すると、地面に双戦斧を叩きつけて衝撃波を放つ。その大気が砕ける程の勢いにこちらの攻撃が全て相殺され、アーツの輝きも霧散していく。
「一つ聞こう。これ程までの力があって、何故あの時は加減をした?」
無数の裂傷はあるものの、依然としてダメージを感じさせないシグムントは冷静に口を開いた。
「ただの時間稼ぎで本気出すバカがいるかよ」
「そもそも、貴様は何故ランドルフに肩入れした?」
「言ったろ? 気に入っただけださ。あいつは猟兵をやるには優し過ぎる」
「それだけで猟兵を相手にするのか」
「『赤い死神』ではなく、ランドルフ・オルランドって一人の人間を気に入ったんだ。相手が『赤い星座』だろうが関係ないさ」
ランディこと、『赤い死神』ランドルフ・オルランドとは、大陸西部のとある村で出会った。まだ放浪中だった自分が偶々立ち寄った村。その酒場で偶然出会って話していたら気が合った。それくらいの関係だった。
後に村が襲撃を受けたとの事で、調査に行った際に再びランディに出会った。その時に事の顛末を聞き出すと共に、心境を吐露されたのだ。
「『赤い星座』が『西風の旅団』の殲滅作戦を行う為に、村を囮に使って親友を殺してしまった」という事。
実際の所、会った時からランディが『赤い星座』の関係者である事は、薄々気付いていたので特別驚く事もなかった。
その一件に対して罪悪感と責任感を感じていたランディに、団を抜け出す選択肢を与えたのだ。
そして、これはランディにも言ってないのだが、実はその件で『闘神』自身とも密会している。「ランディが抜け出す事は構わないが、シグムント相手に本気を出すな」と約束されていたのだ。
どうやら『闘神』には、自身の力をある程度悟られていた様で、
そういった複雑な事情が絡み合って、ランディの脱走を補助する事になったのである。
「そうか。どうやら、『赤い星座』の恐ろしさを知らない様だな」
「知った所で何も変わらねぇよ」
戦いの中での問答と過去への回想が終わり、一瞬の静寂が訪れる。
「本気でいくぞ」
その一言と共に、シグムントは空気が震える程の咆哮を上げる。
猟兵の真骨頂「
どうやら言葉通り、今度は本気で向かい合うらしい。
その重圧にこちらも本気を出す必要があると判断し、目を瞑って瞳の色を蒼碧に変える。
「赤き奥義を喰らうがいい… 喰らえ、『クリムゾンフォール』!」
「
赤い闘気を纏い、燃え盛った双戦斧が投げつけられる。意志を持ったかの様に飛び交いながら重撃の舞が押し寄せる。
精製した剣で弾いて直撃を避けながら、シグムント目掛けて一直線に駆け出す。
しかし、二丁戦斧の縦横無尽の攻撃は、先程よりも一撃が遥かに重い。剣の精製が間に合わず、時属性アーツ『ソウルブラー』も同時に射出していく。
二人の間合いが詰まるタイミングで、シグムントが空高く飛び上がる。すると、持ち主の動きに呼応するかの如く、その手に舞い戻った双戦斧を受け取る。その瞬間、全身の闘気が更に膨れ上がって、身体中から炎が吹き上がる。
「くっ……」
その後の攻撃は瞬時に判断が出来た。このまま一直線に双戦斧を叩きつけてくる。
大地を砕く程の重厚な攻撃を、正面から受けるのは危険である。
しかし、ギリギリまで動かなかったシグムントに対して、こちらは一端ブレーキを掛けているのでこのタイミングでは回避が出来ない。
迎撃する事を瞬時に判断すると、スレインの周囲に時属性特有の漆黒の闇が広がる。
時属性自己強化アーツ『クロノバースト』。膨大な精神力を犠牲に、時を司る時属性クオーツの力を最大限に享受する事で、瞬間移動の様な連続行動を可能にするアーツである。
これは大陸のアーツリストにもまだ載っていない、新種のアーツ。しかし、
「な!?」
双戦斧を振り上げて、一直線に落下するシグムントが驚きの声を上げる。
それもそのはず、先程まで真下にいた標的が消えているのだ。音もなく、土埃も立っていない。文字通り
「わりいな、これが俺の実力だ」
頭上から声が聞こえて振り向くと、眩いアーツの光に紛れた標的の顔を視認出来た。
その姿は彼の異名とは違い、神々しささえも感じられる程の光に包まれていた。直後、光はアーツの発動と共に四属性の攻撃へと具現化していく。
自身に向かって雷光が混じった疾風が直撃し、活火山の噴火の如き豪炎が襲いかかる。
空中かつ、攻撃体勢であった無防備な自身に直撃を受けると同時に、今度は真下の地面に十字の輝きが生まれ、大地が割れて無数の岩が飛び出して来る。
「ぐっ……ぐおおおお!!」
しかし、肉体を強化するだけであって、アーツの様な魔法への体勢は変わらない。攻撃力とスピードで優れば、アーツ等使われる必要がないと思った自身の戦略が仇となった。
彼の異名は、
上空からは火風属性のアーツ。地面からは地属性アーツ。それを無防備な状態で同時に喰らってしまえば、こちらの攻撃など既に意味を持っていない。次なる手を考えなければ。
そう思った矢先に、辺り一面に渦潮が発生して、激流の波が襲いかかる。
「流石にこれなら動けないだろ」
風の『ラグナヴォルテクス』。火の『イグナプロジオン』土の『エインシェントグリフ』水の『グランシュトローム』。
どれも新種であり、現存するアーツの倍以上の威力を持つアーツである。更には精霊の力を直接利用して、魔力を最大限に高めている。いくら
「ぐぅ……こ、これ程とは……」
四属性のアーツの直撃を受けて倒れ込んだシグムントは、ゆっくりと上半身を起こす。
直後に動ける事に多少驚いた表情を見せるが、この男ならそれが当たり前かとも思ってしまう。
「直撃を受けて動ける方が驚きだよ……ったく。さて、軍も動き始めているし、そろそろ退け。それが互いの為だ」
「……そうだな。しかし、これで『赤い星座』は貴様を敵と見なす。再び敵対する際は、猟兵として潰す。覚えておく事だな」
そう言い残してシグムントは後方に大きく飛び退くと同時に闇へと消えていった。
どうやら、完全に「猟兵の敵」として認識されたらしい。今度会う時があったら、今回の様な一対一ではなく、部隊ごとぶつけてくるつもりだろう。
面倒な自体になってしまったと頭を抱えるが、考えていても事態が変わる訳ではない。
「と……現状はどうなってんだ?」
既に眼は普段の黒い瞳に戻っており、索敵用の風を周囲に吹き荒らし、取り急ぎ現状を確認する。
今の自身の実力では、
もう少し鍛錬が必要だ。なんて事を考えていたら、すぐ近くに複数の足音が聞こえる事に気づく。
「何者だ!?」
現れたのは、導力銃を携えて共和国軍の軍服に身を包んだ集団。
つまりは共和国軍兵士の一個小隊。こちらに銃を向けて警戒しながら距離を詰めている。
「ああ、軍人さんですか? ちょっと迷子になってしまって……」
両手を空に掲げて、交戦しない意志を見せる。
しかし、辺りは燃え上がる炎と宵闇を更に漆黒に染める黒煙が上がっている。こんな所に一人佇んでいる時点で、その言葉も態度も意味をなさないのは承知している。
(さて、どうするか……)
元々、軍にはバレない様にする必要があったのだが、思いのほか早く事態の収拾に努めていたらしい。仕事が早いというのも困ったものだ。
そんな事を考えていた所で、自身の周りに不自然さを伺わせない様に風が吹き付ける。
風の情報を受け取ると、既に『赤い星座』と『
そうなると、残る問題は自分だけである。ここで拘束されてしまっては、この抗争に加担した事や、自身の立場すら伝える必要がある。
しかし、抗争を止めたという事実だけを見てくれればいいのだが、それ以外の詮索をされる事は流石に面倒である。どうやって情報操作をするか。
思考をフル回転させて考えていた所で、意外な人物の姿を見えた。どうやらこちらが抱えた問題は、何事も無く済みそうであった。
「あら……貴方、スレイン君?」
軍人たちの奥から、東方風の整った顔立ちをした一人の女性が現れる。
「キリカさん? どうしてここに?」
「それはこちらの台詞よ。ここは共和国内よ?」
女性は驚いた様な
「確かにそうですね。……とりあえず、その銃を下げてくれる様に伝えてくれます?」
スレインの言葉に微笑みで返すと、隊長格の男に小声で何かを伝える。すると、小隊員は銃を下げて、そのまま踵を返して撤退していく。
「さて、何があったか説明してくれるかしら?」
どうやら、こちらの思惑は全て分かっていたらしい。キリカ・ロウラン。頼りにはなるが、敵に回すと恐ろしい人物であると改めて感じる。
元リベール王国遊撃士協会の受付。先のリベール異変の後に立ち上がった、共和国の諜報機関『ロックスミス機関』の初代室長。
その洞察力と問題解決能力は、帝国軍情報局にいる
リベール異変の際に出会ったのだが、キリカと同タイミングで自身も内偵となっているので、時々情報の授受をしている関係であった。
「ええ、ちょっと厄介事に巻き込まれまして……」
抗争の一連の流れを掻い摘んで説明していく。勿論、隠す様に話すとバレてしまうので、言う必要がない事は話さずに飛ばしていく。
それぞれの一派に誤解される様に戦場に巻き込まれてしまい、被害を出さない対策を取っていた方に付いた。大雑把に言えば、そんな説明をした。
「―――て訳なんで、俺が表に出るのは立場上マズイかなと」
「なるほどね。軍の方はこちらで何とかするわ。でも……代わりと言っては何だけど、ちょっと協力してもらえるかしら?」
口角を僅かに上げて、意味深な笑みを見せるキリカ。どうやら、共和国自体に肩入れをする必要がありそうだ。
しかし、元よりこの人とはそういう関係である。どちらか一方だけがメリットのある話になるハズがない。
「分かりました。何をすればいいですか?」
「この抗争を止めた英雄として、表に出てもらえるかしら? 勿論、偽名で。帝国側の人間が共和国内で争いを収めた事で、国民の好戦意識を抑えようと思うの」
つまりは、帝国人であっても、共和国内で起きた抗争は見て見ぬ振りは出来ない。その大義名分のもと、帝国との衝突を先送りにしたいのだろう。
リベールのアリシア女王が提唱した『不戦条約』も、リベール異変の影響で効力が弱まっている。
今、帝国と共和国が衝突するのは、どの国からしても問題があるという訳だ。それに、諜報機関も出来上がったばかり。『ロックスミス機関』の手柄にしてしまえば、共和国内の勢力図にも影響が出るのかもしれない。
「分かりました。俺の
「交渉成立ね」
言葉の意味を含めて握手をすると、キリカと共に共和国軍基地まで向かう。
自身が表立つ事には抵抗があるのだが、今回ばかりは仕方がない。
自身の
勿論、共和国軍人からの目線に精神力を削がれたのは、言わずもがなである。
―――*―――*―――
「ロックスミス大統領、これは流石にやり過ぎでは?」
一夜明けて場所は移動し、共和国内の大統領官邸。
共和国大統領、サミュエル・ロックスミス氏から呼び出されて、今回の一件を収めた謝礼を受けている。
目の前には豪勢な食事が並び、手元には共和国内での最高栄誉とも言える勲章が置かれている。
「いやいや。東方人街の英雄を邪険に扱う事は出来ないよ。相手はかの『赤い星座』だ。その腕前と勇気ある行動を讃えて、勲章を授与したいのだ」
ロックスミス大統領は、庶民派の大統領と言われており、その面立ちから性格まで親しみやすい人物である。勿論、国を治めるに相応しい判断力や決断力も持ちあわせており、発言する言葉からも政界にいる事が頷ける。
しかし、それと同時に飄々とした笑顔の奥には腹黒さが伺える。
「……分かりました。有り難く頂戴します」
「しかし、帝国民である君が、共和国の為に命を掛けてくれるとは驚いたよ」
「人命に国は関係ありませんからね。抗争も戦争も同じ様なものです。無用な争いは止めるべきでしょう」
「帝国民」という所が少々強調されていたのだが、気にせずもっともらしい言葉を並べていく。
「そうか。確かに戦争は無用な血を流しすぎる。誠心誠意対応しよう」
眉を上げたロックスミスは一拍置いて、
オズボーン宰相らが「タヌキ」と呼ぶ理由が分かる。体格も似ているのだが、表裏の温度差が激しい気がする。腹黒さを隠さないのも、パフォーマンスなのかもしれない。
そんな事に思考を任せていたら、話題は変わって日常的なものに変わってった。
こちらも食事をする事で気を紛らわせるの事数時間。結局、食事の後には勲章授与の会見があって、半日近く拘束されてしまった。
「はぁ、疲れた……」
ロックスミスに挨拶をして外に出たら、時刻はもうすぐ夕暮れ。綺麗な夕焼けが町並みを包み込んでいる。
「ふふふ、ごめんなさいね」
駅までの導力車内。見送りという形で同伴したキリカが苦笑している。
「タヌキと言われるのも分かりますね。言葉と思惑が真逆だ」
「あら、そんな事まで気づいたの?」
「ええ、最近はそういう人に良く会いますから」
ため息をついて窓の外を見る。
大陸を旅して、オリヴァルト付きの内偵となり、一般人以外と出会う事が増えた。
そのおかげで、自身の目的にも徐々に近づいている様にも見える。しかし、それと同時に、自身の目的を見失わないか不安になる事もある。
それは今まで以上に、自身の感情を切り離さなければいけない人物が増えたからだ。ロックスミスやキリカなどの人物相手にするには、まだまだ苦手なのである。
「それはそうと、どうして共和国に?」
思考の海に沈んいく直前に、キリカの質問によって現実に戻される。
「……旅行ですよ。東方人街には足を運んだ事がなかったんです」
「そう。申し訳ないわね。せっかくの休暇なのに」
「いえいえ、違う意味で楽しめましたよ」
そんな車内での会話が終わると同時に、駅に到着した。敢えて深く聞かなかったのは、キリカの優しさだと思いたい。
簡単な挨拶だけ済ませて駅に向かうと、予めキリカが用意してくれたチケットを受け取って列車に乗り込む。
「東方人街の英雄……ね」
これで共和国との交渉材料に織り込まれる事は確定だろう。今後何かあった場合、両国の仲裁にも関わる可能性がある。これでまた一つ、確実に面倒事が増えてしまった。
駅全体に発車の汽笛が鳴り響くと同時に、徐々に列車が走り始める。
そのゆっくりとしたスピードと車内の揺れに身を任せて、思考を止めて睡魔に身を委ねるのであった。
―――*―――*―――
号外『東方人街を救った若き英雄は帝国人!』
七曜暦1203年、某日。
カルバード共和国東方人街で起きた、共和国マフィア『
街全体が眠りについた闇夜に紛れて行われたにも関わらず、奇跡的に犠牲者もなく、『
この抗争をたった一人で食い止めたのは、観光に来ていた一人の帝国人レイス・シュナイダー。住民の避難から両者への交渉と、その全てを成し遂げた人物である。
その勇気ある行動と、共和国民を守った事を讃えて、先程ロックスミス大統領から勲章を授与された。
『東方人街の英雄』が帝国人である事は驚きであるが、この一件で帝国への見方が変わる可能性もあるだろう。今後の政府の動きにも注目である。
カルバード共和国
タイレル通信社
「東方人街の英雄」編如何でしたでしょうか?
抗争ってこんな感じの戦いかなーと妄想していたら、前後編になってしまいました。
ランディさんの件は今後語られる事はないかもしれないので、少しばかり無理やりな設定になってしまいました。
申し訳ありません。
次回からは、時間軸を戻して本編が始まりますので、ノルド編もラストスパート!
楽しみにして頂ければ幸いです。
それでは、今回もお読み頂き、ありがとうございました。