英雄伝説 魔の軌跡   作:閃の細道

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ノルド編、最終話です。

あちこち明かされていない動きが多かったので、補完出来る様な形にしてみました。

お気に召して頂けると幸いです。

それでは、第28話、始まります。


取り戻された平穏

 

 ノルド高原北東部にある石切り場内の遺跡の最奥部。

 薄暗い広間には、全身を黒に染め上げプロテクターで身を包みフェイスマスクを着用した四名の人物は、奥にいるローブを着た眼鏡の男性に言葉をかけている。

 

「おい、こままでやればもう十分だろうが……!」

 

「とっとと残りの契約金も渡してくれよ!」

 

 二人がそう詰め寄ると、眼鏡の男性はこちらを振り向き口角を釣り上げる。

 

「ふっ、そうはいかない。契約内容は、帝国軍と共和国軍が戦闘を開始するまでだったはずだ。もし、膠着状態が続くようならもう一押ししてもらう必要がある」

 

 淡々と述べられるその言葉を前に、一同の目には契約金しか見えていない。

 

「チッ、面倒だな……」

 

「だが、もう少し我慢すりゃ莫大なミラが……」

 

「しかし『G』と言ったか。どうしてアンタらはそんなに羽振りがいいんだ?」

 

「前金だけで500万ミラ……どんなスポンサーを味方につけやがったんだ?」

 

 破格の契約金を簡単に提示出来る事がどうしても気になる一同は、『G』と呼ばれる男に質問をぶつけていく。

 

「我々の詮索をしない事も契約条件に入っていたはずだ。何だったらこの場で契約を打ち切っても構わないが……」

 

 あくまで冷静に冷酷に、無表情で言葉を述べる『G』は、既にこの四名の猟兵―――猟兵崩れを手中に収めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 『悪しき精霊(ジン)』が封印されたと言われるこの場所の内部は、やはり並々ならぬ雰囲気が漂っていた。

 更にエマが感じ取った、時・空・幻の上位三属性が働いている異質な魔力。

 それが内部全体に広がっており、遺跡内の魔獣との交戦も、普段よりも苦戦を強いられていた。

 勿論、遺跡という訳であって、内部は多少入り組んでいたり、通路に壁が飛び出て行く手を阻んでいた。

 しかし、それをミリアムがアガートラムを使って粉々に粉砕していく姿には、一同は頭を抱えるしかなかった。

 

「待った」

 

「ど、どうしたの?」

 

「しっ、―――人の気配だ」

 

 警戒しながら進んでいくこと、石切り場最奥部手前。

 少し広い広場に出たリィンは人の気配を感じて一同の動きを制止させる。

 耳を澄ますと、奥から数人の話し声が聞こえる。どうやら犯人の元まで辿り着いたらしい。

 

「ミリアム。スレインはここに来ると言っていたか?」

 

 各自戦闘前の準備をしている時に、小声でミリアムに質問をする。

 今までの経験上、合流する可能性は十分ある。

 しかし、迫撃砲が置いてあった場所で見つけたメモに書かれていた『協力者』がミリアムだった場合、彼は一体何処で何をしているのだろう。

 

「特に何も言ってなかったかな〜。でも来ると思うよ!」

 

 ミリアムの言葉を聞いて、無意味な思考を止めていく。

 彼が来ても来なくても、自分たちがやるべき事は変わらない。

 ましてや、そんな事で自分が浮き足立っていては、チームワークに支障をきたす。

 

「そうか……分かった。皆、突入しよう!」

 

 一息ついてから発したリィンの言葉に、一同は軽く頷く。

 そして、最奥部へと一気に向かっていった。

 

「トールズ士官学院『Ⅶ組』の者だ! 監視塔、共和国軍基地攻撃の疑いでアンタたちを拘束する!」

 

 リィンの大きな宣言と共に対峙する一同。

 そこにいたのは、猟兵崩れと思わしき兵装をした四名とローブを着た眼鏡の男性。

 こちらの登場に完全に意表を突かれている様で、動揺を隠しきれていない。

 そこをユーシスが、即座に言葉で制する。

 

「どうやら、下郎どもを使って大それた事を狙っているらしいが……その薄汚い思惑、叩き潰してやろう」

 

「な、なんだと!?」

 

「下郎って……ブッ殺すぞ、ガキ共が!」

 

 リィンとユーシスの言葉に逆上していく猟兵崩れとは対照的に、眼鏡の男は冷静にこちらを一瞥して口を開く。

 

「お前たちは……フン、そうか。ケルディックでの仕込みを邪魔してくれた学生共だな?」

 

「……まさか……」

 

「あの野盗たちを影で操っていたのは……!?」

 

 ケルディックの実習にいたリィンとアリサが驚愕の表情をして男を見る。

 対して男の表情は変わらず、僅かに嘲笑う程度である。

 

「フフ、領邦軍ではなくこの私だったというわけさ。我が名はギデオン―—それだけ覚えておいてもらおう。もっとも同志からは『G』とだけ呼ばれているがね」

 

 『G』と名乗る男の言葉には、何かの組織に加担しているかの様な発言である。

 しかし、今はその疑問を言及している場合ではない。猟兵崩れ達が、徐ろに武器を取り出し前に出てくる。

 

「……オイ、やっちまってもいいんだろうな」

 

「ああ、学生相手に可哀想だが仕方あるまい」

 

 猟兵崩れの言葉に一言だけ返すと、懐から導力銃を取り出し構えて『G』は言葉続ける。

 

「知られた以上、生かして返す訳にはいかん。遠き異境の地で若き命を散らしてもらおうか」

 

 既に敵は臨戦態勢。元々話合いで解決するなど思っていないので、一同も武器を構えなおして目の前を見据える。

 

「Ⅶ組A班、武装集団の制圧を開始する!」

 

「「「「「おお」」」」」

 

 リィンの宣言と共に、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 時を同じくして、石切り場の入口付近。

 スレインは懐かしい記憶の回想が丁度終わる頃に、目的の場所に到着した。

 

「……とりあえずは、俺がいなくても問題なさそうだな」

 

 風の知らせを聞きながら奥に進んでいくスレインは、そう呟きながら今後の段取りを考えていた。

 

 道中、実働部隊の猟兵がどの程度なのかを知る為に、とある知り合い(・・・・・・・)に連絡を取っていた。

 今回の実行部隊が、様々な猟兵団からのドロップアウト組で知名度も殆どない出来たての猟兵団『バグベアー』である事を教えてもらっている。

 その相手曰く、武装が全て銃であり、対人戦闘スキルも決して高くないとの事であった。蛇の道は蛇。やはり同業(・・)は詳しいものである。

 その程度の連中相手にⅦ組が遅れを取る事はないと考えて、あちこちに根回しをしてからこの場所に訪れたのである。

 

 実働部隊の連行が任務(オーダー)である以上、黒幕は一端置いておくにしても、手荒な真似をされれば厄介である。

 レクターから聞いた情報によると、黒幕の一人は、魔獣を操る事が出来る古代遺物(アーティファクト)『降魔の笛』を持っているとの事だ。

 それを聞いてケルディックの件と、自身が逃したローブの男がようやく繋がったのだ。

 この場所で『降魔の笛』を使われたら、流石に面倒な事この上ない。出てくる魔獣によっては、実働部隊の確保が困難になるケースもある。

 そんな事にならない事を願いながら、最奥部に差し掛かる手前の通路に入った途端、風の流れが変わっていく。

 どこか不吉で邪悪な気を含む風である。

 

「……悪い方に的中かよ。……ったく」

 

 スレインが慌てて奥へと向かうと、予想通り先から笛の音が聞こえる。

 黒幕の方は逃げられたとしても根回し済み(・・・・・)である為に任せるとしても、こっちはA班で処理するしかない。

 リィン(リーダー)がいるから問題ないと思うが、雰囲気と風の流れからすると苦戦必須な相手と言えるだろう。

 ましてや、既に風に乗って血の匂いがする以上、それは紛れもない事実である。

 

『――――――A班、戦闘準備! 巨大蜘蛛の迎撃を開始する!』

 

 遠くからリィンの声が聞こえる。

 どうやら戦闘が開始したらしい。声色から判断しても、風に乗る匂いが仲間の者ではない事が分かる。

 リィンが標的(ターゲット)を蜘蛛と称している事から、群れを従えている可能性もある。

 全体を見渡せる様に天井スレスレまで飛び上がり、最奥部に直行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、気を付けて!―――『ルミナスレイ』!」

 

 前衛組の攻撃に合わせて、タイミング良くアリサが幻属性のアーツ『ルミナスレイ』を打ち込む。

 月光を浴びた大小の蜘蛛は後方へ大きく飛び退き一旦距離をおいた。

 

「回復します―――『レキュリア』!」

 

 エマの風属性アーツ『レキュリア』によって、蜘蛛の攻撃を受けて一同の体内に蓄積された毒が排出される。

 

「くっ、数が多い……」

 

「くそっ、次から次へと……」

 

 リィンとユーシスが言うとおり、大型蜘蛛『ギノシャ・ザナク』は、次から次へと小型の蜘蛛『ゼスウィア』の群れを呼び寄せる。

 そのスピードも以上で、こちらが一層すると同時に既に増援が目の前に現れる。

 

「これでは消耗戦になるな……」

 

 リィン・ミリアムと共に前線を守るガイウスさえも、数の多さと増殖のスピードから、長期戦を覚悟する様な言葉を口に出す。

 

「うーん、これはちょっとマズイかも。これだけバラバラだと、ガーちゃんでも全部は無理だなぁ」

 

 ミリアムが操るアガートラムの広範囲攻撃も、散り散りになって現れる『ゼスウィア』の増援全てを相手には出来ない。

 かと言って、親玉の『ギノシャ・ザナク』にも致命傷を与える事が出来ないこの状況には、流石に弱音を吐露してしまう。

 

「くっ……やはり、これしか! ―――焔よ、我が剣に集え!」

 

 リィンが一呼吸置いて集中すると、太刀に魔力を注ぎ込んで焔を宿らせる。

 一蹴りで間合いを詰めたリィンは、広範囲に『焔ノ太刀』の連撃を放っていく。

 上段、下段、袈裟と瞬時に切り込んだ三連撃で『ゼスウィア』が殲滅させると、『ギノシャ・ザナク』も大きく仰け反る。

 

「まだ現れるの!?」

 

 リィンの刀身から焔が消えて、陣形を崩さない様に元いた位置に飛び退くと、アリサの声が響き渡った。

 先程殲滅したばかりの『ゼスウィア』が先程よりも多く存在している。その数は10体以上。周囲を取り囲まれて、逃げ場を失う一同に焦りと不安が脳裏によぎる。

 その瞬間。別行動をして半日足らずしか経ってないのに、懐かしく感じる頼もしい声が後方から聞こえる。

 

「―――おいおい、これくらいで根を上げるなよ。必殺技ってのは、一気に打ち込む方が楽だぜ?」

 

 その言葉と同時に、周囲に広がる『ゼスウィア』めがけて無数の剣が突き刺さる。

 全ての小蜘蛛が一瞬にして、赤黒い光を帯びて霧散していく。

 

「「「「「スレイン!!」」」」」

 

「待たせたな。ヒーローは遅れて参上する……なんてな」

 

 一同の最前線に着地すると、後ろを向いて意地の悪そうな笑みを浮かべる。

 

「もう、遅いわよ! 一時はどうなるかと……」

 

「貴様、タイミングを見ていたのか!?」

 

「スレイン、助かった」

 

 アリサ、ユーシス、ガイウスとそれぞれの性格が出てくる発言をする。

 それと同時に、ここが戦場である事をしっかり把握していた様で、直ぐに体勢を立て直しているのは流石である。

 

「スレイン、ありがとう。ナイスタイミングだよ」

 

「ま、俺としてはもう少し粘って欲しかったけどな。リィン、雑魚は俺に任せろ。皆もデカイのだけ狙え。アーツ組は幻属性だけ撃ちこめ。回復は俺がやる」

 

 その言葉を聞いた一同は、今まで以上に士気が高まる。

 

「とりあえず、これは遅れて出てきたお詫びだ」

 

 スレインの言葉と同時に、一同の足元から黄金に輝く環が現れ天使の羽が舞い落ちる。

 その瞬間、全ての傷が癒され蓄積された毒も消えていく。

 更には身体を守護するかの如く、黄金色に輝く光が全身を包み込んでいた。

 

「空属性最高位アーツ『セラフィムリング』。全ての傷と異常を癒やす最強の回復アーツだ。ついでにこれもオマケな」

 

 スレインの解説と同時に、今度は一同の身体に地・水・火・風を表す四色に輝く光が、二重の束になって体内に注ぎ込まれる。

 すると、身体機能が向上したかの様な錯覚が生まれる程の、不思議な力が湧いていくる。

 

「幻属性高位アーツ『セイントフォース』。攻防を同時強化し肉体の疲弊を取り除く強化アーツだ。二重発動で最大限に強化してある。さ、お前さん達、そこのデカ蜘蛛を潰してこい!」

 

 スレインは既に上空に無数の剣を精製し、それを惜しみなく『ゼスウィア』に打ち込む。

 倒しては増援が出現を繰り返す相手にも関わらず、異常なスピードで殲滅していく。

 出現と同時に霧散させていくその姿は、冷酷非情そのものであった。

 

「皆、行くぞ!」

 

 『ギノシャ・ザナク』を視界に捉えた一同は、リィンの激励と共に気力を最大限に高める。

 そして、各々の持つ戦技(クラフト)を撃ち放つ。

 

「喰らうがいい―――『クリスタルセイバー』!」

 

 ユーシスは狙いを定めて『ギノシャ・ザナク』を魔力のクリスタルに閉じ込める。

 そして、無数の刺突でクリスタルの内部にある魔力を爆散させてバランスを崩させる。

 それに反応したエマは既に自身の周囲に魔力で刃を形成している。

 

「白き刃よ―――『イセリアルエッジ』!」

 

 体勢を崩した敵に無数の刃が突き刺さる。

 ユーシスの攻撃バランスを崩している為に防御が間に合わず、白い刃が奥深くまで突き刺さていく。

 

「風よ―――『カラミティホーク』!」

 

 更に追い打ちをかける為に高く飛び上がるガイウス。全身に浴びた風を嵐と化して突進し、渾身の一撃を放つ。

 真正面からそれを受けた『ギノシャ・ザナク』は大きく後ろに仰け反ると、腹部が丸見えの状態になっている。

 

「今よ!―――『ロゼッタアロー』」

 

「いっくよー!―――『ギガントブレイク』」

 

 それを見逃さないアリサが、魔力で組み上げた紅く染まる大型の矢を、導力弓から渾身の力で引き放つ。

 同時にアガートラムをハンマーの形に変形させたミリアムは、渾身の一撃を放つ為に『アリサの矢』を追って突進する。

 

「いっけー!」

 

 アリサの矢が『ギノシャ・ザナク』に直撃する瞬間。ミリアムの持つハンマーが矢を打ち込んむ。

 腹部を貫通すると同時にハンマーの衝撃を全体に受けると、巨大な呻き声と共に巨体が一瞬だけ宙に浮く。

 

「「「「「リィン!!」」」」」

 

 一同の呼びかけに答えるべく、リィンは再び刀身に魔力を注ぎこむ。

 

「―――焔よ、我が剣に集え!」

 

 『ギノシャ・ザナク』目掛けて肉薄するリィン。

 『焔のノ太刀』から放たれる三連撃は先程とは違い、その肉体を切断するかの如く、深く切り裂いていく。

 リィンが元の位置に飛び退いた瞬間。大きな音を立てて地にひれ伏す『ギノシャ・ザナク』は、悲鳴の様な雄叫びを上げながら赤黒い光と共に霧散していった。

 

「ぐっ、はぁはぁ……」

 

「ふー、流石にちょっと手こずっちゃったかな〜」

 

「ええ……そうね……」

 

 苦戦を強いられ長期戦へとなった戦いがようやく終わった。

 リィン・ミリアム・アリサの言葉をきっかけに一同は、気が抜けた様にゆらゆらとその場に腰を下ろす。

 それも無理もない。特殊な力が発生しているこの場所で今まで以上の強敵を倒したのだ。

 達成感と共に脱力感が現れるのも今回ばかりは良しとしよう。

 

「お前ら、猟兵団『バグベアー』だな? 両国軍事施設の疑いで同行してもらおうか」

 

 そんな中スレインは普段と同じ飄々とした態度で、隅っこで腰を抜かしていた猟兵崩れに声をかける。

 

「ああ……身の安全の保証を要求する」

 

 観念したかの様に俯きながらか細い声を出す猟兵崩れたち。

 その言葉を聞いてから聞かずか、直様こちらに目を向けて指示していく。

 

「アリサ、グエンさん経由でゼンダー門に連絡してくれ。とりあえずコイツらを入口まで連行しよう。気を緩めるのは全部終わってからだ」

 

 その言葉を聞いて我に返った一同は、指示通り石切り場の入口まで猟兵崩れを連行する。

 すると、入口には既に数台の走行車両と導力戦車が停まっていた。そこには猟兵崩れとミリアム、そしてスレインが乗車して一同より一足先にゼンダー門へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 一同がゼンダー門に着いた時には、警戒態勢は解かれており辺りを見まわる兵士の数も疎らであった。

 

「―――中将、失礼します」

 

「おお、おぬしらか」

 

 ノックをしてからゼクス中将の執務室に入室する。

 そこにはゼクスの他に、ミリアムと赤毛の青年が待っていた。

 

「お前さんたちがトールズ士官学院の特化クラスⅦ組か。このガキンチョが世話になったみただな。感謝するぜぇ」

 

「ぶーぶー、ガキンチョゆうな〜!」

 

 赤毛の少年はヘラヘラ笑いながらミリアムの頭を小突くと、こちらを一瞥する。どうやらミリアムの知り合いらしい。

 しかし、一同はここにミリアムがいるにも関わらず、先程同行していた一人がいない事に気づく。

 

「中将、スレインは……」

 

「彼ならすぐ戻ってくるはずだ。しかし、衝突回避にそのような条件とは……良く共和国も許したな?」

 

 ゼクスはこちらに一言だけ返すと、直ぐに赤毛の少年に目をやり話していく。

 

「ええ、彼は共和国にとっても英雄ですから、パフォーマンスには持ってこいです。更に言えば、今回の襲撃事件の犯人を士官学院の生徒が捕らえたという事で、帝国の教育機関から軍事組織まで一目置かれるでしょう。そして、被害のより大きい共和国側に犯人を引き渡す事で、帝国に威厳と誠意がある事を証明出来る」

 

 会話の内容は何とか理解出来るが、言葉の節々までを捉えきれない一同は不思議そうな顔をしてしまう。

 しかし、この場に横やりは入れてはいけない様な気がしたので、そのまま沈黙を決め込んだ。

 

「ふむ、なるほどな。さすがレクター大尉だ。改めて御礼を言わせてもらおう」

 

「恐縮です。これも任務ですので、当然の事をしたまでです」

 

 何度かやり取りをしていたのであろう形式的な話と同時に、執務室の扉がノックされて扉が開く。

 

「―――中将、失礼します。……って、何だ皆もいるのか」

 

 そこに現れたのはスレイン。

 表情こそ無表情であるが、どこか疲れている様な雰囲気が見て取れた。

 

「スレイン君、ご苦労だった。問題はなさそうかね?」

 

「ええ、大丈夫です。無事身柄の引き渡しも完了し、基地責任者の方もご納得の様子でした。後日、大統領閣下の方から直々に帝国政府へご連絡するそうです」

 

 中将の質問に、丁寧に結果を述べていく。

 

「お疲れさん。やっぱりお前さんの方が、意見が通るみたいだな」

 

「レクターと違って軍人じゃないからな。正体明かしたら警戒されなかったんだよ」

 

 そんな雑談まがいの話をしてから、Ⅶ組面々を置いてきぼりだった事に気付く。

 一同の方を見ると、揃って不思議そうな表情をしている。

 

「みんな悪いな。ちょっと外交の取引材料にされてたんで、席を外してた。紹介はまだしてないのか?」

 

 レクターの方を見ると、にこやかに首を縦に振っている。

 

「こちらは帝国軍情報局のレクター・アランドール特務大尉。ミリアムも所属は同じ。レクター、知ってると思うがこいつらが俺の級友、特化クラスⅦ組の面々」

 

「なっ!?」

 

「ええ!」

 

 説明と同時にユーシスとアリサから言葉が漏れる。どうやら情報局という組織を知っていたらしい。

 形式的な挨拶を済ませる頃には、一応落ち着きを取り戻していたが、それでも表情は険しいままだった。

 

「んじゃ、スレイン。俺らは帰るから、後は頼んだぜ。―――中将、失礼します」

 

「みんな、バイバイ♪ すっごく楽しかったからまた会えると嬉しいな」

 

 レクターの言葉にゼクスtスレインが短く返し、ミリアムの言葉に何も言えない一同。

 二人が退室するその光景すらも、ただ眺めている事しか出来ない様だった。

 

「あれが鉄血の子供たち(アイアンブリード)かかし男(スケアクロウ)……か。あんな少女まで一緒だとはな」

 

「宰相殿が見出した者ですからね。年齢問わず才能で拾ってますから、その名に相応しいと思いますよ」

 

鉄血の子供たち(アイアンブリード)?」

 

 スレインとゼクスの会話に聞きなれない単語があったので、つい声を出してしまうリィン。

 

「ああ、宰相直属の精鋭たちだよ。クレアなんかもそうだな。ミリアムも白兎(ホワイトラビット)と呼ばれているれっきとした一員だ」

 

「あれが宰相直属の……しかし、何故貴様はそれを知っているのだ?」

 

「うーん……まぁ、そのうち教えてやるよ。ここで立ち話するのも中将に失礼だ。とりあえず集落まで戻ろう」

 

 自分達が話している場所が中将の執務室であった事に改めて気付いた一同は、中将に謝罪を述べてからゼンダー門の外へ出る。

 時刻は既に夕暮れ。

 茜色に染まった空には、先程まで巡回していた共和国軍の飛空艇はなく、大地に並んでいた装甲車や戦車も跡形も無く帰投されていた。

 集落へ馬を走らせる一同は、その光景を見ながら、「戦争を回避してノルドの地を戦火の渦から守る事が出来た」と改めて実感する事が出来たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 同日夜19時。高原北部の湖には、ボート小屋があるが明かりは付いてない。

 高原方面から一人の男性が現れると、湖のほとりに停泊する漆黒の飛行艇まで歩み寄る。

 

「同士『G』―――お疲れだったようだな」

 

 そこで待っていたのは黒いマントを纏い仮面を付けた男。

 その仮面の機能なのか、機械的な声でこちらに言葉を送る。

 

「同士『C』……わざわざこちらに来てくれたのか」

 

「まあ、一応リーダーを務めさせてもらっている身だ。なかなかの戦果だったようだな?」

 

「フン……慰めは結構だ。本来なら戦争が始まり“あの男”に隙が作れたはず……それがこの体たらくだ」

 

 事実、ケルディックに続き今回の結果も失敗。

 学生ごときに遅れを取り撤退をしている以上、戦果も何もない状態である。

 

「フッ、しかしこの結果すらも我々にとっては今後有利に動く。あらゆる所で“楔”を打ち込まれていることでな。氷の乙女(アイスメイデン)にもかかし男(スケアクロウ)にも読み切る事は叶うまい」

 

「……違いない。さっそく“次”の一手の仕込みに取り掛かるとしよう。いよいよ我らの存在を世に知らしめるためにもな」

 

 同士の為にも次こそは成功させよう。

 そして我らがリーダー『C』の計画の為にも、抜かり無く進行する為には早々に準備をする必要がある。

 

「フフッ、その調子だ」

 

 その言葉を堺に二人は飛行艇へと消えていく。

 湖畔から飛び立つそれは、静かなエンジン音を鳴らせながら目立たない様に宵闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――やれやれ。何とか大丈夫だったみたいだけど、まさかあんな展開になるとはねぇ」

 

 飛行艇が飛び立った事を確認し、少し離れた岩陰から姿を現して、飛び去る方角を目で追いながら女性は呟く。

 

「漆黒の高速飛行艇……ラインフォルトの最新型か。軍の偵察機か貴族の道楽用で使われるみたいだけど……そこのとこ、心当たりはないのかしら?」

 

 夜空を見上げていた視線を、並行まで落として脇にある木立へと声をかける。

 

「ふふっ……サラ様はお鋭くて困ってしまいます。よくわたくしの気配にお気づきになられましたね?」

 

 木立の影から可憐な声と共に現れたのは、メイド服に身を包むお馴染みの女性である。

 

「よく言うわよ。半分くらいは試してたくせに……まぁ、いいわ。それよりもアレ、知らないの?」

 

 パーフェクトメイド(シャロン)を相手にしていても、話は進まずはぐらかされるだけ。

 私情を挟む事を一端諦めて、自身らが見ていた飛行艇について尋ねる。

 

「残念ながら……RFグループの製造記録には載っていない船の様です。あくまで表面上では、ですが」

 

 現れた時から微笑の表情を崩さずこちらを見ているシャロンは、公式な情報に基いて解説する。

 

「フン……色々あるのね。あたしはこれから集落の方に顔を出すけどアンタの方はどうするの?」

 

「そうでございますわね……。大旦那様への挨拶もありますし、ご一緒させて頂けば。何よりもアリサお嬢様の驚くお顔も見られそうですし♥」

 

「やれやれ、あの子も大変ねぇ」

 

 ため息と共に呟いてから集落へと向かう二人。

 到着した時刻はそれほど襲い時間ではなかったのだが、Ⅶ組の面々は緊張の糸が切れたせいもあって泥のように眠っていた。

 わざわざ起こすの程の事でもないので、サラはラカンとイヴン長老に。シャロンはグエンに、それぞれ挨拶を済ませてゲルの外に出る。

 

「二人共お疲れさん」

 

 すぐ近くの一段下がった草むらに、木々を敷いて晩酌をしている少年が声をかける。

 

「スレイン? あんた起きてたの?」

 

 自分達が到着した時に姿が見えなかったので、てっきり他の皆と一緒に寝ているかと思っていた。

 

「ああ、交易所のキルテさんに三人分の酒とツマミを分けてもらってたんだよ。木材が椅子替わりで申し訳ないが、まぁ座れよ」

 

「まぁ。ご丁寧にありがとうございます。スレイン様。それではわたくしがお酌をさせて頂きますわ」

 

「あら、随分用意がいいのね? てか、あんた実習中は呑まないんじゃないの?」

 

 二人が腰を下ろすと早速シャロンがお酌をして、グラスを軽くぶつけて乾杯をする。

 

「あぁ、今日は特別。キリカさんに子供たち……相手するのに疲れたんだよ」

 

 交易所で頂いた、細くカットされた塩漬け肉をつまみながら愚痴を溢す。

 

「キリカさんって……共和国内で会ったの?」

 

「ああ。共和国(あっち)では遊撃士を募ってるらしくてな。そのピエロになるって段取りの外交だったんだよ」

 

「そうなのですか? 遊撃士を募るなんて珍しい政策ですわね」

 

 スレインの少し減ったグラスに酌をしながらシャロンが声を漏らす。

 

「共和国にはジンさん達もいるのに?」

 

「軍人の育成よりも遊撃士から引き抜いた方がいいんだと。リベールの一件から個の力を優先しているらしい。……て、この話はどうでもいいんだよ。肝心なアレはどうだった?」

 

 この話題は、説明し始めると長話になってしまう。

 一端話を止めて、自身が聞きたかった事を話題にする。

 

「高速飛空艇を利用して逃走したわ。リーダーと思しき人物は全身黒尽くめ。ご丁寧に仮面を付けて声まで変えてたわ」

 

「船の方はRF製ではありましたが、製造記録には記載がないタイプでした」

 

 自身らが先程見た情報を端的に説明する二人。

 せっかくこの二人に頼んで追跡をしてもらったのだが、一言で言うと収穫なし。

 厄介な相手である事を再認識すると同時に、二人に申し訳ないとも思える。

 

「なるほど。俺の方でレクターから聞いた情報は、対象は帝国に潜伏していて宰相を狙うテロリスト『帝国開放戦線』という事。幹部は三名で実働部隊は基本的に外部を雇っている。リィン達によると、ケルディックと今回の件の犯人は同一人物。ギデオン―――『G』と名乗っている」

 

 レクターから聞いた情報と、リィンから聞いた情報を照合して二人に話していく。

 その手には塩漬け肉を持っており、指揮棒の様に振りながら会話を続ける。

 

「情報から察すると、動機は宰相への復讐って所だろう。戦争を仕掛けようとしたり、『帝国開放』を名乗ったり……つまり革新派を潰したいんだろうな」

 

「確かに帝国そのものに対してではなさそうね。でも、ケルディックの件から規模が大きくなりすぎじゃないかしら?」

 

 サラの一言は最もだ。行動倫理の特徴までは推測していないが、行っている規模の差が開きすぎているは事実。

 しかし、それが全てシナリオの本筋とは限らないのもまた事実。

 

「ああ、あの時はただ領邦軍に取り付いて、こそ泥をしていた訳だが……あれは本来の計画ではないんじゃないか? もしくはダミー」

 

「え、どういう事?」

 

 首を傾げるサラは、グビグビとお酒を飲んで回答を待っている。

 もちろん、空いたグラスはシャロンによって瞬時に満たされるので、二人共既に結構な量を呑んでいる。

 

「目的が同一である貴族派との”良好関係”の為。もしくは、資金的部分……でしょうか?」

 

「シャロンの言うとおり、そう考えるのが妥当だろう。バグベアーによると今回の報酬は、前金だけで500万ミラだったらしい。流石にその金額は元々資金が潤沢にあるか、パトロンがいないと無理だろ」

 

「なっ……て事は、手を結んでいるって訳?」

 

 サラが少し神妙な面持ちになって問いかける。

 その言葉の意味する事は、帝国にとってかなり危険とも言えるからである。

 

「いや、それはないらしい。レクターは貴族派さえも手中に入れてるかの様な口ぶりだった。使い捨ての可能性もある」

 

「けっこうきな臭いわね。今回どデカくきたから、次は派手にやるんじゃないかしら」

 

「その可能性もありそうですわね。来月には夏至祭が控えていますし」

 

 そう言いながらシャロンは、二人のグラスに酌をしてから自身のグラスを持ち喉を潤す。

 もちろん、普段と変わらず素敵な微笑をしているが、言っている事はけっこうな爆弾発言である。

 

「あー、確かにそれなら派手にする意味があるな。サラ、来月の実習予定地は?」

 

「…………帝都よ。夏至祭初日に被るわ」

 

 額に手を当て、一般的な「やれやれ」と言うポーズでため息をするサラ。

 間違いなく何かが起きると確定したスレインも、苦笑をせざるを得なかった。

 

「……引き続き警戒、だな。どっちにしても帝都の夏至祭は正規軍か鉄道憲兵隊(TMP)が守備に付く。こっちにも駒がある分まだマシだよ」

 

 スレインの言葉に頷く二人。

 それを合図にこの会議は終わり、話題は日常的なものへと切り替わった。

 既にお酒が心もとない状態であったが、どこからともなくシャロンが持ってきた(もちろん、どこからと聞くのは藪蛇である)事で、3つのグラスは再び満たされる。

 満天の星空の下という珍しいシチュエーションで開かれた飲み会は、明け方まで続くのであった。

 

 こうして、長い様で短かったノルド高原での特別実習は幕を閉じる。

 勿論、帰りの列車内で質問攻めにあった事は言うまでもない。

 

 

 




今回、アリサとミリアムのSクラフトを組み合わせる様な描写に挑戦してみました。

碧であったコンビクラフト的な感じです。
しかし、私はプレイ中、一度も使っていなかったです(笑)

物語もついに中盤に入りますので、そろそろ文章能力を成長させないといけませんね……

東方凹みやすい性分ですが、ご意見・ご感想を頂けると幸いです。

それでは、今回もお読み頂き、ありがとうございました。

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