英雄伝説 魔の軌跡   作:閃の細道

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今回は少し惰性の仕上がりになってしまいました……
申し訳ありません。

字数が少ないかもしれませんが、お読みいただければ幸いです。

それでは、第30話、始まります。


※追記
気付いたらお気に入りが100件を越えておりました。
拙い文章で書き綴られた私の作品をお読み頂いて、誠にありがとうございます。
文章能力がなかなか向上せずに苦戦を強いられておりますが、ご意見ご感想などは随時受け付けております。
引き続きご愛読頂ければ幸いですので、今後とも宜しくお願い申し上げます。


禍々しい鬼気と深夜の密会

 リィンの妹、エリゼが校内で行方不明になったと聞いてから数分。

 スレインは自身が一番探しやすいポイントである屋上に来ている。それに、屋内にいるよりもが見つかった場合に、すぐに動けるからという理由もある。

 

「チッ……旧校舎に行く理由なんてねぇだろ」

 

 全身に風を浴びると、舌打ちと共に独り言が漏れる。

 風が運んできた情報によると、エリゼは旧校舎方面にいるらしい。リィン達が頻繁に探索をしている事で、旧校舎がどういう場所かは聞いている。

 一言で言えば不気味。日に日に迷宮区画が地下へと進んでいる事からして、旧世代の遺跡に近いだろう。自身は何となく敬遠してしまい、今まで足を運ばなかったのである。

 しかし、今はそんな事は言ってられない。リィン達Ⅶ組でも苦戦する場所に、一般人が入る事は危険過ぎる。

 思考をそこで停止させて、屋上のフェンスに足をかけてジャンプする。それをアシストする様に風がスレインの身を包み、旧校舎まで飛んで行くのであった。

 

「……確かに内部は変わってるんだな」

 

 旧校舎入口の扉は開いていたのでそのまま侵入すると、奥の部屋には中世の遺跡にあるような昇降機が鎮座していた。リィンらに聞いていた通り、内部構造が変化しているらしい。

 入学当初にはなかったそれの足場部分は、現在は空洞になっていて何もない。間違いなくこの下に少女は向かっただろう。

 

「―――ぐっ!」

 

 昇降機に向かうと、突然胸に刺す様な痛みが走る。胸を抑えて足を止めると、禍々しくもあり機械的な音声が脳内に直接響き渡る。

 

―――力ヲ示セ―――

 

 一言だけ聞こえると、痛みも直ぐに消えた。

 今まで経験した事のない現象に、自分自身が警鐘を鳴らしているのが分かる。

 しかし、この先に探している人物がいる事は間違いないので、そんな悠長な事は考えてられない。

 胸に当てた手を下ろすと同時に戻ってきた昇降機に乗り込むと、気配を感じる最下層へと進んでいった。

 

「……いたか。おーい! エリゼさん」

 

地下四階に到着すると、大きな赤い扉の前に一人の少女が立っていた。

 

「? あなたは……?」

 

少女は見ず知らずの人に名前を呼ばれた事で、不可解な表情をしてこちらを向いた。

 

「リィンのクラスメイトのスレインです。とりあえずご無事そうですね。話は後にして―――」

 

 少女に歩み寄って声をかけた瞬間、先程感じた胸の痛みに再び襲われて言葉に詰まる。

 

―――《起動者》候補ノ波形ヲ50あーじゅ以内ニ確認―――

 

―――コレヨリ《第一ノ試シ》ヲ展開スル―――

 

 先程と違う言葉が脳内に響き渡る。

 すると同時に、目の前の赤い扉が開いていく。

 しかし、今度は痛みが続いていて、再び言葉が響いている。

 

―――別ノたーげっとヲ確認―――

 

―――殲滅ぷろぐらむ起動―――

 

「くっ……エリゼさん、一端離れてください」

 

「……え……?」

 

 エリゼはこちらの異変にを察したものの、扉が開いた事で完全に意識がそこに集まっている。

 胸の痛みがやっと治まってエリゼの視線の先に目を向けると、そこには巨大な騎士人形が佇んでいる。

 

「……あ……―――」

 

 目の前にいる騎士人形の禍々しさと威圧(プレッシャー)に負けてしまい、エリゼはその場に倒れ込む。

 それも無理もない。スレインでさえも、その異質さに冷や汗が滲んでいる。生身の少女であれば、意識を途切れるのは当たり前である。

 

「……おいおい、まじかよ……」

 

 真横で失神してしまった少女を他所に、目の前の騎士人形が歩を進めると、更にもう一体が後ろに控えている。そして後方上空には魔獣とは違う、怨霊の類いの気配を感じ取っていた。

 正面には騎士人形が二体。扉も180度開閉タイプではないので、退避距離を稼げない。つまり、四方を囲まれていている様な状態である。

 四面楚歌の状態についつい言葉が漏れる、その瞬間。いつの間にか戻っていたエレベーターがこちらに向かって動いている事に気づく。

 その気配と人物は風から受け取っていたので、ここに向かっている3人(・・)が誰かは分かっている。

 唯一の問題点は、この状況で冷静な判断が出来るのか(・・・・・・・・・・・・・・・・)という事。

 しかしその結果は、あまり良くない方向へ向かうのであった。

 

「エリゼええええええ!」

 

 後方から聞き慣れた声が叫び上がる。

 横目で視界に入れると、予想通り兄貴の到着らしいのだが、その目は横で倒れている妹しか見ていない様である。

 

「オオオオオオッッッッ!!」

 

 雄叫びの様な声と同時に、声の主の気配は猛獣の様なそれに変わっていた。

 それと同時にこちらに飛び出してきて、目の前で剣を構えた騎士人形に突撃していった。

 

「(……これは……)」

 

「ひぃ……!?」

 

「こ、こいつは……」

 

 リィンと共に現れたⅠ組のパトリックと2年のクロウ先輩が声を上げる。

 普段の黒髪が灰色に変わり、肉体を制御出来ていないかの様な獰猛な動きで攻撃をしているリィン。

 見覚えのある(・・・・・)気配と力に驚くものの、意識無く攻撃を続けている彼の身に危険を感じる。あれでは先に肉体が壊れてもおかしくない。まずは戦況を有利に変える必要がある。

 

「パトリック、クロウ先輩! とりあえずこのお嬢さんをどけろ!」

 

「「!? ……ああ!」」

 

 スレインの言葉で二人が駆け出す。こうなってしまっては仕方がない。

 双剣を精製してリィンが交戦している騎士人形『オル・ガディア』とは別の一体に向けて突撃する。それと同時に上空に数多の剣を精製し、後方から押し寄せる怨霊系の魔獣を殲滅していく。

 

―――キィン!

 

「なんだよ、こっちが本命か!?」

 

 雑魚の殲滅を確認したタイミングで『オル・ガディア』の動きが早くなり、こちらの斬撃が弾かれる。

 その巨体故に目で追うには遅いと感じられる速度であったが、剣を向けた途端に目でギリギリ追えるくらいの速度になっていた。

 リィンが交戦している方はそのような変化が見られないので、どうやらこちらの方が手子摺りそうである。

 

「(仕方ねぇか……)」

 

 スレインは瞳を閉じて蒼碧の眼(コントラクトアイ)を発動させる。既にアーツの光を纏った身体は強化アーツで最大限までに活性化されてる。

 その刹那、『オル・ガディア』の持つ大剣が振り上げられ、こちらを目掛けて斬撃を浴びせる。

 左に避けると、大剣に向かって双剣の乱舞を叩き込む。

 横から浴びせられた斬撃によって『オル・ガディア』の巨体も少しばかり重心がずれるが、こちらの斬撃を吹き飛ばす勢いで大剣を振り回して立ち直す。

 

「ぐっ……」

 

 その衝撃で身体ごと後方に吹き飛ばされるが、そのまま体勢を立て直し空中で踏み込み(・・・・・)突進していく。

 風のアシストを使って身体ごと右後方まで捻り、双剣を構えて大剣目掛けて切り込んでいく。それと同時にアーツの光が放たれ、『オル・ガディア』を中心に紅蓮の炎と爆撃が広がっていく。

 火属性アーツ『ヴォルカンレイン』と『イグナプロジオン』の連撃に耐え切れず、その巨体を一瞬だけ蹌踉めかせる。

 その隙を見逃さず、魔力で組み上げられた円月輪が『オル・ガディア』目掛けて無数に飛んでいく。

 時属性アーツ『ソウルブラー』の嵐がゆうに50を越えた頃、『オル・ガディア』は横に仰け反る。バランスを保とうと手に持つ大剣を動かせるが、スレインは再び飛び込み、大剣目掛けて双剣の連撃を加える。

 しかし、先程と違ってその双剣にはアーツの光が宿っていた。

 

「な……何が起きているんだ……」

 

「どうなってやがる……」

 

 双剣の乱舞と『ソウルブラー』の嵐によって生まれた土埃と煙のせいで、スレインとリィンの両者は既に視界から消えている。

 パトリックとクロウには、どの様な戦闘が起きているか分からない状態であったのだ。

 

「(そろそろか……)」

 

 未だ倒れぬ様にバランスを取る事で精一杯の『オル・ガディア』に向けて、連撃を加えているスレインの双剣に一層強いアーツの光が宿る。

 その一撃が大剣に当たった瞬間、『オル・ガディア』の持つ大剣は粉々に砕け散った。

 スレインのオリジナルアーツ『アナリスグラッジ』が双剣には込められており、全ての攻撃にアーツの力を乗せていた。

 耐久力や質量、精度の高い武器は、一発で分解が出来ない。そういった場合は、連続で行使する必要があるのだが、剣戟の衝撃と合わせる事で効率良く分解出来るのである。

 大剣がなくなり、一瞬動きが止まったその刹那。『オル・ガディア』を中心に永久の闇が広がっていく。上空からは巨大な剣が数本並んでおり、その周囲には無数の蝶が待っている。

 そして、スレインの周囲にも無数の剣が精製されていた。

 

「終いだ」

 

 短く呟た言葉が起点となり、上空の剣が『オル・ガディア』目掛けて突き刺さり、無数の蝶が慌ただしく動き闇を呼び寄せる。

 時属性最高位アーツ『シャドーアポカリフ』と同じく時属性アーツ『グリムバタフライ』の同時多重発動。

 更に追い打ちを掛ける様に、スレインの周囲から精製された剣が突き刺さった。

 そのあまりにも無慈悲な連撃には『オル・ガディア』も耐え切れる事は出来ず、赤黒い光と共に粉々に砕け霧散していった。

 

「な……」

 

 いつの間にか土埃も煙も晴れている。こちらの戦いをどこから見えていたかは分からないが、後方で絶句する少年がいた。

 彼は既に自身の力の一端を知っているし、今は構っている余裕がないので放置を決める。

 

「グゥアアアアァアァァア!!!」

 

 その時、再びリィンの雄叫びが響き渡る。

 姿を一瞥すると、『オル・ガディア』から受けた外傷はそこまででもないが、内部からのダメージが酷い様にも思える。

 力を制御出来ずに酷使している身体が悲鳴を上げているのか。それとも中で抑えこもうと戦っているのか。その場で胸を抑えて静止しているリィン。

 しかし、その隙を絶好の機会と感じ取った『オル・ガディア』は、大剣を振りかざしてリィンに迫っている。

 

「馬鹿野郎が……俺は真似事しか出来ねぇんだよ!」

 

 リィンと『オル・ガディア』の間に割って入ると、片手を突き出しリィンの胸を掌で抑える。

 後方の『オル・ガディア』には先程同様、無数のアーツと精製した剣の斬撃を無数に浴びせる。

 やはりリィンと対峙していた方が弱い。たった数秒の連撃で沈黙し、その巨体は霧散していった。

 

「空の女神よ。七曜の輝きよ。聖杯の導き手に従い、その力を具現し給え。彼の者に浄化の光を照らせ……」

 

 リィンの胸に当てた手から眩い程の白い光が放たれると、リィンの髪色が灰色から基の黒に戻っていく。

 

「グッ……はぁはぁ……」

 

「大丈夫か? 一応、暴走しない様に楔は入れといたが、数日は安静にしとけよ」

 

 そのまま膝を付いて呼吸を整える事に必死なリィンに、回復アーツを使用しながら言葉を掛ける。

 今の術(・・・)は、自身が使えるものではない。

 先程言った通り、ただの真似事である。そのまま動き続けて再発されると、次こそ手の施しようがない。

 そう言った意味合いも込めて、少し強めに言っておく。

 

「……ああ……助かったよ、スレイン」

 

「たく、焦らせやがって……二人共大丈夫か?」

 

「ええ、何とか。すみません、クロウ先輩」

 

 歩み寄ってくるクロウに言葉を交わすと、落ち着きを取り戻したリィンは立ち上がってエリゼの元へ向かっていった。

 

「エリゼ……」

 

「……にいさま……」

 

 リィンの言葉に意識を取り戻したエリゼは、か細い声でリィンを呼ぶ。

 

「エリゼ、大丈夫か!? どこか痛む所はないか?」

 

「ええ……地鳴りと威圧に負けて倒れてしまったので……それに、にいさまが助けてくれましたから。あの日みたいに」

 

 エリゼの言葉と同時に昇降機が下に降りてくる。

 二人の会話に邪魔をするのも野暮であるので、そちらの方に目を向けると、そこにはⅦ組一同とサラが乗っていた。

 昇降機が止まると、一同が心配そうな表情で声を掛けながら歩み寄ってくる。

 

「たく、マイペースなやつらだぜ」

 

「同感だわ。あと5分は早く来てくれねぇと困るわ」

 

 クロウと共に到着の遅さをわざとらしく非難する。

 

「ゴメンゴメン、でも何とかなったみたいね。どうやらその巨大な扉からデカブツが現れたみたいだけど……」

 

 サラが真剣な表情で現場を観察すると、リィンとエリゼが合わせて事の顛末を報告するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

――――――コン、コン

 

「スレイン、入っていいか?」

 

「ああ、開いてるぞ」

 

 時刻は進み、第三学生寮で夕食を食べ終えた頃。

 ノック音と共に入室の許可を得たリィンが入ってくる。

 

「どうした? 身体に異常があるのか?」

 

「いや、スレインのおかげで異常はない。本当に助かったよ」

 

 どこか浮かない顔をしていて、沈黙しているリィン。

 言いたい事はあるが、それを言っていいいものか。もしくは、どう説明すればいいのか分からない様な表情である。

 何となく何が言いたいのかは予想が出来たので、自身からその話題をする事に決めた。

 

「お前さんは抗っていた。恐らくは俺が何もしなくても打ち勝ってたさ」

 

「スレイン……」

 

「俺がしたのは、お前さんの肉体へのダメージがひどくなる前に一時的に抑えただけ。だから直接的な関与はしていない。次に発動した場合、ある程度肉体がダメージを受けると、強制的に止まる楔を打っただけだ」

 

 スレインが行った行為について、分かりやすく解説していく。

 実際の内容は間違いないのであるが、さすがに「七曜協会所属の『聖杯騎士団』が使う法術を使った」なんて言ったら大変な騒ぎになるのは目に見えているからだ。

 それに、スレイン自身『聖杯騎士団』所属ではない。

 以前、聖杯騎士団の人物に出会った時に、法術を使用している所を見た事がある。結果的に流れ出ているものが魔力(マナ)に近いものであるので、見様見真似でやってみたら使えたのだ。

 そんな所まで出来てしまう自分に嫌気が差したが、ぶっつけ本番で使った事には変わりない。

 そういうレベルの話をすると、余計心配にさせるだけなので、今回ばかりは言葉を濁す事にする。

 

「そうか……」

 

「まぁ、一言で言うなら”まじない”って感じかな。お前さんは次、アレになったら全力で抗え。何かあったら俺が止めるから安心しろ」

 

 真剣な表情でリィンを見ると、彼もその言葉の意味を理解してくれた様で力強く頷いてくれた。

 

「スレイン、ありがとう。時が来たら……俺が打ち勝ったらちゃんと話すよ」

 

 リィンはそう告げると部屋を去っていった。

 言いたくない事は言わないでもいいし、無理強いはしない。

 でも、あの時感じた気配と力。鬼気とも言えるあの力は、アイツ(・・・)に似ていた気がする。

 そこまで考えたスレインはまずは自身のやるべき事をする為に思考を止めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 時刻は深夜。間もなく日付が変わろうとする頃。

 

−−−−−−コン−−−コン

 

「開いてるぞ」

 

 この時間に、この感覚で扉を叩く人間は一人しかいない。

 それは互いに知っているので、入室を促す一言は短くても十分である。

 

「失礼致します」

 

 麗しさが漂うソプラノ声の持ち主は丁寧な言葉遣いで入室し、手に持つトレーとワインを机に並べていく。

 

「いつも悪いな、シャロン」

 

「恐れ入ります。スレイン様の為であれば何でも致しますわ」

 

 すまなそうな表情で発言をしたのだったが、屈託の無い微笑みで返されてしまった。

 シャロンは軽食を並べ二つのグラスにワインを注いでいく。

 

「……何か分かったか?」

 

「いえ、まだ何も。ただ、先の一件には関わりを見せていない様です」

 

 二人はグラスを小さく鳴らして、ワインを一口飲んでから話していく。

 シャロンに頼んだのはノルドの一件の裏。『帝国解放戦線』と結社が関わっているかどうかの事実確認をしてもらっている。

 関係はないのかもしれないが、バリアハートで”怪盗紳士”の”幻惑の鈴”に会っている以上、どうも繋がりそうそな気配がするのだ。

 

「帝国本土ではまだ動かない……って事か?」

 

「ええ、その様ですわね。ただ、クロスベルと繋がっているのは確かですわ」

 

「なるほど……。まぁ、シャロンを当てにしてもしょうがないか……」

 

 ツマミ用に一口サイズにカットされたオードブルを一つ口に運び、考え込む。

 クロスベルと繋がっているという事を現状を踏まえて考察すると、段階的に動く可能性が高い。

 第一段階としてクロスベルの地で暗躍し、第二段階が帝国の地というシナリオも想定出来る。そうなればブルブランがいた事も、帝国内の下見と考えれば妥当な筋だ。

 しかし、そうなってきた場合、タイミング的に『帝国解放戦線』が別枠というのは考えにくい。

 関わりを見せない様に動いているのか、それとも執行者よりも上(・・・・・・・)が絡んでいるのか。

 どうやら、もう暫くは様子を見る必要がありそうだ。

 

「お力に慣れず申し訳ありません……」

 

 シャロンの言葉で霧散させていた思考を現実へと回帰させる。

 どうやら考察をしている間に、満足な情報を得られなかった事に対して自責の念を抱いてしまった様だ。

 

「いや、そういう意味じゃない。シャロンに情報が流れない様にした張本人は俺だからな。因果応報なのかもしれないかなって」

 

 以前、とある事件であれこれ工作したりテコ入れをした事がある。

 そのせいで、シャロンは結社の執行者であるにも関わらず、情報が全くと言っていい程入らなくなってしまった。

 基本的に執行者という立場には、ある程度の『自由』が確約されている。その為、”命令”という概念がない執行者は、上からの情報を聞いて行動に参加するか決める様な形になっている。

 しかし、シャロンの場合は情報が開示されなくなってしまったので、結社の動向が分からない状態である。

 それは、ラインフォルト家に仕える事だけが出来る様になったという意味もあるのだが、本人曰く「それであっても執行者を抜ける事は出来ない」らしい。

 執行者であり執行者ではない存在。つまりは生殺し状態にしてしまったのだ。

 

「そんな事はございません。スレイン様がいなければ、わたくしは決意が出来ませんでした。スレイン様がお気に病まれる必要はありません」

 

 いつも優しい微笑みをしているシャロンが珍しく悲しそうな表情をしていたので、つい目を逸らしてしまう。

 

「そう言ってくれると助かるよ」

 

「むしろ、わたくしの方がスレイン様にご迷惑をおかけしておりますわ。結社を抜けられない身とは言え、その全て(・・)をスレイン様に押し付けてしまっておりますし……」

 

「それこそ気に病む必要はない。その前から誘い(・・)はあったからな。生殺しなのはお互い様……って事か」

 

 詳しい理由は不明だが、以前から結社から執拗な勧誘を受けているのは事実。

 最近では『怪盗紳士』から穏便な話し合いの元で勧誘されたが、あれは序の口である。

 執行者を向けられる事もあれば、結社の人形兵器や強化猟兵などを大量に仕向けられた事もあった。

 その回数が、以前に比べて増えている事を気にして、目の前の女性はそういった表現を使ったのだろう。

 こっちは気にしていないのだが、困ったものだ。

 

「運命共同体……ですわね。それでしたら地獄の果てまで仕えますわ」

 

 大胆な事でもお構いなしに発言するシャロンであっても、これは些か爆弾発言である。

 思わず驚いてしまい、逸らした目線を戻して彼女の方を見る。

 

「イリーナ会長が聞いたら悲しむぜ?」

 

「会長の許可も得ております」

 

 先程までの表情は消えて、普段と同じ微笑みをしている。

 自身よりもポーカーフェイスなシャロンの言葉の真偽が読み取れず、これ以上の反論を諦める。

 

「……どっちかって言ったら俺が死ぬまで仕えるだろうに」

 

 降参と言わんばかりに手を上げてため息混じりに話していく。

 この女性にとって、ラインフォルトは一番の存在である。きっと励ましを込めた冗談なのだろう。

 

「ふふっ。アリサお嬢様には申し訳ありませんが、それはそれでいいかもしれませんわね」

 

「縁起でもない事言うなよ……そういえば、シャロンって『劫炎』について何か知ってるか?」

 

「いえ、存じておりません。『劫炎』が如何されましたか?」

 

「いや、知らないならいいんだ。俺も数回しか会ってないから気になっただけさ」

 

 リィンが発したあの鬼気とも言える力。

 それに近しい気配と力を持ったアイツ(・・・)の事が分かれば、リィンについても何か分かりそうだったのだが、ない所からは何も出ない。

 無用な詮索は控える事にしよう。

 

「スレイン様。あまり一人で抱え込まないで下さい。わたくしもお力添え致しますので……無理だけはなさらないで下さいませ」

 

 突然小さな声で紡ぎだされた言葉には、少しばかり悲壮感が混じっている。表情こそいつもと変わらなかったが、その瞳は少しばかり潤んでいる気がした。

 どうやら再び心配される様な表情でいたらしい。

 何故か自分をある程度知っている相手の前だと、ポーカーフェイスが崩れる様だ。それも女性ばかり。

 あまり巻き添えにしたくないからこそ、最低限しか頼らないのだが、そういう時に限ってバレてしまう。

 まるで、氷の様に冷徹に張り巡らせた思考を、温かい抱擁で溶かしていく様に。

 今宵も思考を停止させられてしまったので、無言で再びグラスを鳴らす。

 シャロンもその意味を感じ取ってくれた様で、グラスに残ったワインを一息で飲み干すと共に、言葉と思いも同時に飲み干していく。

 

 その後、物騒な会話は消えていき、いつしか笑みがこぼれていく。

 深夜の密会で何が話されていたのかは、月明かりだけが知っているのであった。

 

 

 




聖杯騎士団の法術の詠唱は、記憶に残ってない為に曖昧になっております。
大変申し訳ありません。

そして、聖杯騎士団との絡みもあるスレイン君は一体誰と面識があるのでしょうか?
十中八九、関西弁の彼かと思いますが、それはまた後日明らかになりますので、その時をお楽しみに……

勿論、シャロンさんとの関係もです!(笑)


それでは、今回もお読み頂き、ありがとうございました。
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