英雄伝説 魔の軌跡   作:閃の細道

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此度も学院生活編です。

ちょっと前ですが、ストレス発散の為に「魔法科高校の劣等生」を全巻購入しました。

アニメから入った人間ですが、設定が細かく面白いですね。

たまには他の作品でも書いてみようかしら……

なんて思っても、自身のボキャブラリーの無さが邪魔をして、きっとダメになるでしょう(笑)


という訳で、第31話、始まります。


※そう言えば、この作品が20,000UAを超えていました。
沢山の方が読んで頂いている様で、本当に嬉しく思います。
感想や評価も頂けると本当に嬉しいものです。

この場を借りて、御礼申し上げます。
皆様、誠にありがとうございます。
引き続きご愛読頂ければ本望ですので、今後とも宜しくお願い致します。


※2015.08.27 修正


近接魔導士

 7月21日。

 毎月恒例の実技テスト実施日。

 

 朝一のトレーニングを終えて寮に戻り、いつも通り郵便物のチェックをする為にポストを開ける。

 すると、そこには封蝋された一通の手紙が入っていた。封蝋の紋章は『支える籠手』。遊撃士協会からの手紙である。

 まさかと思い手短にシャワーを浴びて自室に戻ると、早速封を切って書面を確認する。

 

 

―――スレイン・リーヴス殿

 

 度重なる功績の結果、貴殿を遊撃士ランク”A級”に任命する。

 最年少で到達した事例として、遊撃士史簿の改定を行う故、今後は貴殿が『最年少A級遊撃士』を名乗るべし。

 

 また、貴殿の二つ名、『悪魔の魔導士(デモンズソーサラー)』は大陸全土に知られているが、遊撃士理念に反するものと認定された。

 特例であるが、今後は二つ名「近接魔導士(ゼロ・ウィザード)」と名乗るべし。

 

 貴殿の遊撃士手帳を新調し同封したので、常時携帯し入出国の際は使用されたし。

 

 以上。

 

レマン自治州

遊撃士協会総本部―――

 

 

「マジだったのかよ……」

 

 ノルドの一件でキリカに言われていたので、近いうちにこの手紙が届く事は分かっていた。

 かと言って、遊撃士の実感すら未だにないにも関わらず、この通知が届いても寝耳に水だ。

 しかも、紛失してから二年近く経っている手帳まで、ご丁寧に新調されている。

 全てを把握した上で最良の手を打ってくるあの人の狡猾さには、流石に寒気を覚えてしまう。

 

「スレイン! 入るわよー」

 

 ノックもなしに扉が開けて入室してくる女性は、珍しく朝から元気がいい。

 普段であれば、二日酔いか寝不足かで大体テンションが低いのだ。

 

「サラ、ノックくらいしろって」

 

「そんな細かい事は気にしないの。……で、届いたんでしょ?」

 

 満面の笑みをしながら、自分が手に持っている手紙を指差す。

 どうやら今日届く事は知っていたらしい。それともポストを見たのだろうか。どちらにしても本人が知らない事を知られているというのは、あまり気持ち良いものではない。

 

「あぁ、記録更新。今度からは『近接魔導士(ゼロ・ウィザード)』だとよ」

 

「私の最年少記録も終わりかぁ……。でも良かったわね、あの異名とおさらば出来て」

 

 先程までの茶化す様な笑みではなく、優しさが溢れる様な微笑するサラ。

 

「まぁ、浸透するまでは一緒だけどな。そんな簡単に名乗れないだろうし」

 

 結局の所、異名なんてものは、変わった所で浸透するのはかなり先である。

 当分の間は今まで通り”悪魔”と呼ばれる日が続くだろう。

 

「意外と直ぐに浸透するんじゃない? あんたが遊撃士になった事が公表されれば、あちこちから引っ張りだこじゃないの?」

 

「どうだかな。身分上はどういう優先順位になるんだ?」

 

「個人の裁量よ。あたしは一応”トールズの教官”を優先しているけど、そっちがお飾りみたいになってるし……。名指しの依頼じゃなければ、基本的には受けなくてもいいんじゃない?」

 

「って言っても、名指しばっかりな気もするけどな」

 

 ため息をついてから、机に手紙を放り投げる。

 あちこちの軍人たち(・・・・)から正式な手合わせに演習。そういった類いの依頼ばかりが来そうな気がするので、正直考えるだけで億劫である。

 

「まぁ、これで正式に決まったんだから素直に喜びなさいな。昇格祝い、楽しみにしておきなさいよ♪」

 

 ウィンクをして颯爽と退室していくサラの背中を見ながら、何かとてつもなく大きな不安が過った。

 しかし、時計を見ると学院に向かう時間も近づいていたので気にしない事にする。

 第三学生寮を出る際には、こちらもどこから情報を得たのか分からないが、シャロンにもお祝いの言葉と共にお弁当を渡された。

 普段は学生会館でランチを食べているので、これではⅦ組一同にジト目で見られる事が確実である。

 

「(まぁ、嬉しいには間違いないんだが…………ん?)」

 

 学院に向かう途中にある川橋の下。

 普段は釣りのポイントとして、釣皇倶楽部のケネスがいる場所に見慣れた人影が見えた。

 年上には思えない程小柄で、小動物的な可愛らしさを備えた少女が、何やら思い込んだ表情で川を見ている。

 まだ予鈴には時間があるので、まで歩み寄って声をかけると、どこか元気のない挨拶で返される。

 

「トワ会長。随分元気が無い様に見ますが……何かあったんですか?」

 

「……うん……ちょっと色々考えちゃって……。あ、ううん! 何でもないの! スレインくんは気にしないで大丈夫だよ!」

 

 物思いに熱中していて、つい本音が出そうになった事を、頭を振りながら否定していく。

 そこまで言ったら誤魔化す必要はないと思うのだが、そんな所を指摘するのは無粋である。

 

「トワ会長。まだ予鈴には時間がありますし、良ければお話聞きますよ」

 

「スレインくん……本当に大丈夫だよ! ちょっと考え事していただけだから」

 

 この優秀かつ頑張り屋の人物は、基本的にその性格も相まって自身で問題を抱え込む習性がある。それが、自身が感じたトワの性格だ。

 しかし、そういう人が表情に出る程というのは、相当の悩みを抱えている可能性があるのだろう。

 

「……会長、俺って独り言の声が大きいみたいなんで、聞こえても気にしないで下さいね」

 

 一言だけ呟いた後に沈黙が流れる。

 鳥の囀りが数回聞こえた所で、視線を川の水面に向けていた少女に合わせて、自身も水面に向かって話していく。

 

「知り合いに、自分に自信がなくて悩んでいた人がいたんです。能力とか資質とか……備わっているか不安だんでしょう。数年単位で悩んでいたらしいんです。しかし、その人は些細な出会いから様々な出来事に巻き込まれていくんです。事件だったり変人に絡まれたり……。ですが、その中で色んな人と出会ってトラブルを解決していく内に、自然と自分と向き合う機会が増えていったみたいです」

 

 視線は動かさず一呼吸置いて更に続けていく。

 

「自分に出来る事と出来ない事。やるべき事とやらざるべき事。その取捨選択を考えている内に、『自分が考えている事は杞憂であり、足を止めているだけ。今の己にないものはない。考えるよりも先に為すべき事を行うべきだ』という結論が出ました。そこから自身の才能が開花したんです」

 

「スレインくん、それって……」

 

 思う所があったのか、水面を見ていたトワの視線を感じた。

 視線を合わせると、自分が考えていた事がバレたかの様な、少しばかり驚いた様な表情をしている。

 

「共感出来る事でもありました?」

 

「う、うん……そうだね。私も似ているのかなって思った」

 

 先日行ったアンゼリカとの仕合後に話していた時。表情には出ていないものの、いつもよりもため息が多かった。

 その時は気にかけていなかったのだが、昨日会ったアンゼリカ曰く、どうやら『自身の力』について何か悩んでいるとの事だった。

 

「今の話で例えるのであれば、トワ会長の才能は戦闘力ではなく、統率力や判断力、情報処理能力でしょう。変に求めないでもいいと思いますよ。適材適所って言葉もありますから」

 

「え!? どうして考えている事が分かったの!?」

 

「すみません、カマをかけました。……やっぱり、昨日の仕合ですか?」

 

 今度は完全に驚いた表情をしているトワ。

 アンゼリカのトワを見る目も的確だと思ったが、それをそのまま言うのは釈然としないので、言葉を濁しておく。

 

「スレインくん、意地悪だなぁ。……うん、そうだね。私もARCUSの試験運用のメンバーになっていたけど上手く戦えなかったから……もっと強くならなきゃって」

 

 四人の先輩達がARCUSのテスターだった事は聞いているが、具体的には聞いていなかったので、そういった内部事情は初耳である。

 しかし、戦闘に関しても適材適所はある。頭脳派はダメだから肉体派に強制する、なんて話はない。

 それにⅦ組でさえも、メンバーに合わせて調整する事なんてしていない。各々の能力を活かして隊列を組むしか選択肢がないのだ。

 その点においては、バランス良く班分けを行っているサラのお陰もあると思うが。

 

「なるほど……トワ会長、恐らく求めるポイントを間違えていますよ」

 

 トワは「え?」と一言だけ口にして、不思議そうな顔をしているが、お構いなしに話を続ける。

 

「トワ会長には、アン先輩みたいな純粋な力を付ける事は困難です。あの人はちゃんと流派の師事を受けてますから。それに、クロウ先輩の様な野性的な勘もないでしょう。だから、自分の長所を伸ばしていくスタイルで強くなればいいと思いますよ。いわゆる頭脳派プレーですね」

 

「頭脳派って程の事は出来ないと思うけど……」

 

「いえ、トワ会長なら出来ます。あの二人を目標にして無理に力を付けるよりも、現在の力を伸ばした方が強力になりますよ。その方が、自分に自信も持てます」

 

「今の力か……。それを理解する事が重要ってことなんだよね」

 

「そうですね。そうしないと自分の長所を見失いますから。出来ない事も出来る事も、全部受け入れてみて下さい」

 

「スレインくん……うん、そうだね。なんかスッキリした気がする。ありがとう」

 

 気持ちが晴れた様な表情で御礼を言うトワには、いつもの元気が戻っていた。

 時計を見るとそろそろ学院に向かわないと間に合わない時刻だったので、二人とも早足で学院へと向かっていった。

 

「ちなみにさっき話した人、実在してる人なんですが……誰だと思います?」

 

「え? うーん……スレインくん自身、とか?」

 

「ははっ、違いますよ。リベール王国のクローディア皇太女です」

 

「ええ!? そうなの!? ……って、スレインくん、何でそんなこと知ってるの?」

 

「それは秘密という事にしておいて下さい。トワ会長、では」

 

 丁度本校舎前に着いた事もあったので、うまくはぐらかしてそれぞれの教室へと向かっていった。

 実際、クローディア皇太女の話は本人(・・)から聞いたので、自身は何とも思わない。

 しかし、今の彼女しか知らない人からすると、そんな悩みがあったとは想像も出来ない話なのだろう。

 その後、無事予鈴前に教室に到着したスレインであったが、”手に持つお弁当について”、Ⅶ組一同から質問攻めにあったのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「ラウラ、フィー。前に出てきなさい」

 

 Ⅶ組の担任教官殿は、どうも問題がある人物同士を組み合わせたいらしい。

 現在、ラウラとフィーは絶賛冷戦中。フィーが元猟兵であった事に対して、ラウラはなかなか納得出来ないらしい。

 ラウラはアルゼイド流を突き進む武の正統派。一方フィーは猟兵という戦場を生きてきた邪の道を進む者。

 どっかの犬猿コンビ(ユーシスとマキアス)と違って相容れないとまではいかないが、どうやらおいそれと互いを認める事が出来ないようである。

 

「リィン。誰か一人指名しなさい。この二人と戦ってもらうわ」

 

 今回のテストはⅦ組内での模擬戦。

 仲間内の方が、味方のクセから欠点までが全て浮き彫りとなるので、そういった意味では効率的な方法だ。

 

「アリサ、いいか?」

 

 リィンがパートナーを選ぶと、それぞれが立ち位置について模擬戦が開始された。

 結果は言わずもがなである。

 ラウラとフィーは一年生の中でも最強と言われる部類であるが、途中で戦術リンクが途切れてしまい、リィンとアリサの息の合った波状攻撃に為す術もなく倒れてしまった。

 ラウラもフィーも互いに原因は承知の上であるので、サラも敗因の追求はしなかった。

 

「さて、じゃぁ、次行くわよ」

 

 その後の組み合わせはサラが行い、模擬戦は特に問題もなく終了した。

 ちなみに、スレインの相手は当然の様にサラ。

 今回はお互い“実技テスト”という範囲を超えない程度に、手加減をして行った。しかし、それが返って仇となってしまい、互いに消化不良気味。

 Ⅶ組一同は、それ分かっていなかった様で、満足してない表情の自分たちを不思議そうに見ている。

 

「んー、今回のテストは、ちょっと物足りないかしら。最後に集団模擬戦でもやりますか♪」

 

 サラのその余計な一声で、一同の表情が青ざめていくのが分かる。

 今回の実技テストこそ、穏便に終了すると思ったのだろう。

 しかし、自身も実技テストレベルでサラと手合わせをした所で、全く持って面白みがなかったのは事実である。

 今回ばかりは、サラの悪巧みに乗った方が楽しめそうなので、敢えて何も言わなかった。

 

「女子はあたしが相手、男子はスレインが相手ね。纏めてかかってらっしゃい」

 

「だそうだ。とりあえず、ちょっと距離を取るか」

 

 目が輝いているサラに何を言っても無駄であると悟った一同は、重い腰を上げて配置に着く。

 しかし、男子一同は何故か、やる気に満ち溢れている表情をしていた。

 

「スレイン、せっかくの機会だ。全力でいかせてもらう!」

 

「そうだな。貴様には色々と借りがある。今日こそ一太刀入れてみせよう」

 

 リィンとユーシスが決意の発言をすると、エリオット・ガイウス・マキアスも、言葉にはしていないが同じ様な表情でいる。

 そう言った成長には反対ではないので、これはこれでいいのだろう。

 視線だけサラ達の方に向けると、女子一同も同じような表情へと変わっていた。サラの遊び心も、たまにはいい方向に向くらしい。

 

「さて……それじゃ、いくぜ。頼むから楽しませてくれよ!」

 

 声を上げると同時に前衛のリィンとガイウスの前に飛び出る。

 まずは司令塔のリィンから狙っていく。ガイウスの巧みな槍捌きから繰り出される刺突を躱しながら、アーツを駆動させているリィンに肉薄する。

 以前の手合わせでした助言を覚えているらしい。

 しかし、開幕序盤に前衛が駆動させるアーツと言えば、強化系アーツと相場は決まっている。

 

「リィン、流石にそれは捻りがないぜ!」

 

 アーツの駆動解除をすべく騎士剣を振り上げた時、両者の間にユーシスが割り込み斬撃からリィンを守る。

 その判断が出来るとは、どうやらユーシスも以前の助言を受け入れた様である。

 この人物たちは、自身が思っている以上に”強さ”というものに貪欲なのかもしれない。

 

「くっ……初撃からこの重さとは!」

 

「―――ここだ!」

 

 剣戟の音が響く瞬間を見逃さなかったマキアスが、こちらに狙いを定めてピンポイントで射撃を行う。弾丸が通常の散弾タイプではない辺り、しっかりと仲間の役目を考えている様だ。

 そして、後方からエリオットが地点指定のアーツを駆動している事が分かったので、防御ではなく回避を選択する。

 大きく後方に飛び退くと同時に、読み通り自身がいた所に風属性アーツ『エアリアル』の竜巻が巻き起こった。

 

「ほう……思いのほか連携が取れる様になったじゃねぇか」

 

 前衛を囮に使ったアーツ重視の戦い。

 それぞれの思い切りがないと出来ない作戦だが、難なくこなしてきた時点で練度が上がっている証拠だろう。

 

「なっ!? 全て読んでいたのか」

 

「しかもアーツの種類も分かっていたみたいだね」

 

 自身が中心となった攻撃展開を防がれた事で、マキアスとエリオットが同時に声を漏らす。

 

「まぁ、リィンが囮とは思わなかったけどな。……さて、じゃぁ、変わったスタイルで戦ってやろう」

 

 そう言うと同時にスレインの手には、先程の騎士剣ではなく二丁の導力銃が握られていた。

 

「導力銃……この人数相手に遠距離戦か?」

 

「いや、相手はスレインだ。慎重にいこう」

 

 ユーシスの言葉を制したガイウスは、殿を務めるべく突進してくる。

 確かに普通であれば、導力銃なんて持てば遠距離攻撃だと判断するだろう。

 しかし、今しがた精製した銃は普通の銃ではない。銃身は縦横、どちらも長く、下部は剣先の様に薄く鋭利な刃になっている。

 フィーの持つ双銃剣(ダブルガンソード)とはまた違う銃。あれはダガーと小型の小型導力銃の一体型である。

 しかしこれは、銃身が長く連射と威力を重視した導力銃と、ダガーよりも分厚いブレードの一体型である。

 この銃は、猟兵団『赤い星座』が好んで利用する『ブレードライフル』の拳銃バージョン。さしずめ『ガンブレード』と言ったところか。

 ガイウスの的確に急所を攻める刺突を回避しながら、導力銃のブレード部分で受け流して間合いを詰める。

 

「なっ!? それは……」

 

 普段動揺を見せないガイウスも、流石にこれは読めなかったのだろう。

 その一瞬の隙を付いて、空いているもう片方の銃で四肢を射撃して動きを止める。

 間合いがゼロになった所で、腕を折りたたみ、身体の加速を利用した肘の打突を繰り出す。技名なんてものはないが、アンゼリカが使う”泰斗流”の応用だ。

 その衝撃は、導力車から体当たりされる程である。屈強なノルドの民と言えど、その衝撃に耐え切れる者などいない。

 くぐもった声を出して、ガイウスは地に倒れた。

 

「くっ! ユーシス、援護を!」

 

 リィンが八葉一刀流『弐の型・疾風』の構えになると同時に、ユーシスが剣を構える。

 次は二人同時に突撃でもするのだろうか。

 しかし、その行動の先が読み取れた。

 マキアスとエリオットがアーツを駆動させている。指定対象は自分。地点指定系を避けられた事で、対象指定に切り替えた様だ。

 どうやらリィンの言葉の『ユーシス』と『援護』は、別々の意味を持つらしい。

 

(味な真似をするねぇ)

 

 心の中で呟くと同時に高く飛び上がる。『弐の型・疾風』の弱点を付いた攻撃だ。

 リィンはその意味が分かり、意表を付かれて体勢が崩れかけている。そして後衛もアーツの起点を追う事で精一杯の状態。

 その一瞬の隙を狙って、躊躇なく銃撃の嵐を4人に斉射していく。

 自身の精製した『ガンブレード』はどちらかというと銃撃がメインの武器。

 速射性を高める為に、銃弾をアーツに変えている。そして、それが意味する事はもう一つ。弾道を捻じ曲げる(・・・・・)事が出来るのだ。

 

「なっ!? 弾道が曲がるだと!?」

 

「うわ!? 避けられない!」

 

 後衛のマキアスとエリオットが同時に声を上げる。

 元々銃撃を防ぐ術がない後衛組は、湾曲した銃撃を避けきれず、無数の着弾から起こる衝撃に意識を刈り取られた。

 

「くっ……『疾風』の弱点、知っていたのか」

 

「おう、上下に弱いんだろ? それくらい知ってないと、『風の剣聖』には勝てんさ」

 

 以前、何度か手合わせした『風の剣聖』ことクロスベル支部所属のA級遊撃士アリオス・マクレインから、その情報は読み取っている(・・・・・・・)

 瞬間的にスピードを上げる必要がある『弐の型』は、上下移動が出来なくなるという代償があるのだ。

 

「なっ!? 貴様、『風の剣聖』に勝ったのか?」

 

「手合わせだけどな。弐の型皆伝なだけあって、相当の使い手だった。……さて、話は終わりだ。残りは二人……いくぜ」

 

 ユーシスがアリオスを知っていた事は驚きだが、(ことわり)に至った八葉の『剣聖』。

 武術を学んでいれば、知らない人間の方が少ないのだから、当たり前なのかもしれない。

 

「リィン、一太刀は入れるぞ!」

 

 ユーシスの言葉に士気が上がったリィンは、自身の最大限の戦技(クラフト)を放つべく、刀身に魔力を開放していく。

 ユーシスも同じく、騎士剣に魔力を注ぎながら飛び出す。

 最大火力で殲滅するのは良い心掛けであるが、相手に隙を作らせる陽動役がいなければ、決定的なダメージにはならない。

 

「甘いな」

 

 それを示すように小声で呟くと、それぞれに銃身を向けて一度ずつトリガーを引く。

 その銃弾は、先程にはなかった白い閃光を伴いながら二人の『武器』に着弾する。

 

「「な!?」」

 

 二人が声を上げたタイミングで、自身が刀身に乗せた魔力が霧散する。

 分解アーツ『アナリスグラッジ』の対象をそれぞれの魔力に指定したので、武器までは破壊していない。わざわざそこまでする必要は皆無だからである。

 その隙を見逃さずに、先程と同じくアーツの銃撃が無数に飛び交う。

 出力は通常のアーツより低いものの、気が動転して防御体勢になっていない状態で無数に着弾すれば、意識を保てるハズもない。

 こうして男子勢の模擬戦は、全員戦闘不能で幕を閉じた。

 

「あんた……やり過ぎじゃない?」

 

「サラも人の事言えないだろ。あれ、肩で息をするなんてレベルじゃねぇぞ?」

 

 女子勢も終わったらしく、詰め寄ってきたサラの言葉に返答する。

 サラの後方には、四つ這いの姿勢で荒々しく息をする女子たち。

 フィーでさえ、他のメンバーと同じ体勢で汗だく状態だ。その戦闘が結構えげつないものだった事が容易に想像出来る光景である。

 

「だからって、全員気絶って……何したのよ?」

 

「新しい戦闘方法の研究だよ。ちょっとばかり、試したい事があってな」

 

 手元には既に『ガンブレード』はないが、『アーツを撃つ導力銃』というのは、自身の研究テーマである。

 今後、利用出来るかもしれないと思ってはいたのだが、思いのほか早く製作する必要(・・・・・・・・・・・・・)があったので、自身の精製した内部機構だけでもデータが欲しかった。

 自分が使うのであれば、内部構造は大雑把でも、魔力(マナ)のアシストでどうにでもなるので問題ない。

 しかし、第三者に使わせるのであれば、そこから内部構造の理論を組む必要があるので、実戦投入で感触を掴んでおきたかったのだ。

 勿論、そんな事をサラに言うと面倒になる事は知っているので、質問を受け流しながら気絶した男子勢に回復アーツをかけて意識を戻していく。

 当たり前ではあるが、男子勢からも同じ様な質問があったが、それも完全に受け流した。

 

「―――さて、実技テストは以上! それじゃぁ、今週末に行ってもらう『実習地』の発表に入るわよ」

 

 Ⅶ組の面々がある程度回復した事を確認してサラが声を上げると、例のごとく“特別実習”の詳細が記された紙を渡される。

 

 

 

 

 

【7月 特別実習】

 

 A班:リィン、ラウラ、フィー、マキアス、エリオット

 (実習地:帝都ヘイムダル)

 

 B班:アリサ、エマ、ユーシス、ガイウス

 (実習地:帝都ヘイムダル)

 

 C班:スレイン

 (実習地:帝都ヘイムダル)

 

 

 

 

 

「おいおい。なんだよ、これ。実習させる気ないのか?」

 

「スレイン一人?」

 

「C班って……」

 

 スレインの言葉を節目にリィン・エリオットが声に上げると、堰を切ったように疑問が行き交う一同。

 それもそのはず、今までとは全く違う班分け。もとい、スレインは単独である。

 しかし、この班分けからは、「単独で動かなければいけない事をさせる」という事が想像が出来る。

 今までの特別実習を鑑みても、ここまであからさまな班分けはなかった。実習地から見ても、前回の実習最終日にした話を警戒をしているのかもしれない。

 

「はいはい、あんまり騒がない。レポートを見ると、どうもスレインに頼ってる感じがするから、今回だけ特別って事。次からはいつも通りになるから、あんた達の力、しっかり見せなさいよ」

 

 サラの言葉に、一同は図星の様で黙り込む。

 一同が自身に頼っている様にレポートを書いていた事にも驚いたが、言ってしまえば確かにその通りの結果にもなっている。

 裏方作業をしているつもりでも、Ⅶ組からしたら表立った行動になっているのだろう。

 サラのもっともらしい言葉が嘘偽りである事を自身は分かっていたが、他のメンバーは気付かず、サラの言葉に頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「で、あれはどういう事だよ?」

 

 その日の夜。日付も替わり、一同が寝静まった頃。

 リビングルームで酒を煽るサラと、当然の様に酌をしているシャロンを横目に問いかける。

 

「依頼よ、依頼。鉄道憲兵隊(TMP)が、スレインとあたしを指名したのよ」

 

「遊撃士としてか? 何の依頼だよ」

 

「演習の相手だそうよ。部隊を相手に出来るテロリストを想定した、模擬戦闘訓練だって」

 

「……クレアか。タイミング的に、何か掴んでるみたいだな」

 

 あの時は半信半疑での発言であったが、どうやら本当に夏至祭を狙って、大規模なテロ行為が行われる可能性がある様だ。

 

「でも、お二人程の実力者を相手に、ちゃんとした演習が出来るのでしょうか?」

 

 会話の論点が物騒な方向にズレてしまって、小難しい表情をしながら思考を飛ばしかけた二人は、シャロンの言葉で現実に引き留まる。

 その表情は先程までと変わらず笑顔のままであるが、現時点での推論は杞憂とでも言いたいのだろう。

 

「あそこもクレア一人飛び抜けてるだけだしなぁ……下が育たねえと、軍としては困りものだよな」

 

「そうね。確かに正規軍と比べたら粒ばっかりだから……演習なんて言っても消化不良になりそうね」

 

「ふふっ。そうですわね。お二人なら正規軍にも領邦軍にも引けをとらないでしょう」

 

「それはどうかね〜。手合わせで“黄金の羅刹”には負けてんだよな、俺」

 

 シャロンの言葉に笑いながら答える。

 黄金の羅刹。ラマール領邦軍総司令のオーレリア・ルグィン将軍。

 女性の身でありながら、帝国2大剣術と言われる「ヴァンダール流」と「アルゼイド流」の双方を修めている帝国屈指の女傑である。

 その若さで2大流派を修める時点で、想像出来る人間には想像出来ると思うが、性格に多少の難がある人物なのだ。

 とにかく野心家で血の気が早い。常に強者を求める、ある意味戦闘狂の女性である。スレインから見れば、領邦軍というより執行者の方が性格に合っているのではないかと思う程である。

 

「え? そうなの?」

 

「御前試合だけどな。手の内を明かさない様にしてたら負けたわ」

 

 オーレリアと手合わせをしたのは、半年程前に帝都で行われた皇族主催の晩餐会の時である。

 皇族と四大名門、そして政府代表としてオズボーン宰相が出席する晩餐会の余興で、各一名ずつ選出して行う御前試合があった。

 皇族からは自分。オズボーン宰相はその場にいた正規軍所属のミュラー少佐。アルバレア家からはルーファス。カイエン家からはオーレリア。ログナー家とハイアームズ家は忘れてしまった。(そもそも眼中になかった)

 御前試合という性質上、剣術のみの手合わせだったのだが、最初に当たったルーファスには剣術だけで何とか勝てた。というより、彼も相当手加減していた様にも見えたので、お互いに実力を隠したまま終わった。

 その次にオーレリアに当ったのだが、剣術だけではどうにもならなかった。その時の言葉や態度で、“戦闘狂”の姿が垣間見えたという訳である。

 そもそも、剣術は『我流』で貫いているスレインにとって、どの流派も使えない(・・・・・・・・・)というハンデもあったのだ。

 勝つつもりもなければ、勝てる要素もない。本当の意味の御前試合であった。

 

「スレイン様、それは『負けた』とは言いません。『負けて差し上げた』の間違いでしょう」

 

 こちらの思考を読み取ったかの如く、適切な言葉と微笑みと共にシャロンはお酒を注いでいく。

 

「そもそも、御前試合なんてあんたの土俵じゃないんだから、それは入らないでしょ。ただの負け戦じゃない」

 

 サラも同じような言葉を口にして、注がれたビールを一気に飲み干す。

 手合わせと御前試合では訳が違う。負けて当然の戦いをカウントするな。そう顔に書いてあったが、言及しないでおく事にした。

 

「まぁ、ちゃんとした手合わせをする機会があったら、しっかりやるさ。遊撃士にもなった手前、おいそれと負ける訳にもいかねぇだろうし」

 

 自身が遊撃士である事が公になれば、間違いなく彼女を含めて多方面からそういった依頼が来るだろう。

 そして、遊撃士という名目がある以上、そう簡単に負ける訳にはいかない。一言で言えば、”面子が立たない”という事だ。

 

「そうですわね。スレイン様。A級への昇格、おめでとうございます」

 

「おう、サンキュ。全く持って実感ないけどな」

 

 お酒を注ぎながら微笑むシャロンに、正直な感想を述べる。

 

「しかしまぁ、本当にここまで来るとはねぇ。あんな悪ガキだったのに」

 

「まぁ。スレイン様の幼少期のお話ですか? ぜひお聞きしたいですわね」

 

 サラがニヤけながら放たれる言葉にシャロンが乗ってくる。

 誰でもそうだと思いたいが、自身の過去を語られるのは、あまり嬉しいものではない。

 そんな話をされると、流石に居心地が悪いので、強引に話を変えていく。

 

「まぁ、ともかくだ。演習相手で実習が終わるなんて事は考えられん。Ⅶ組の方も帝都の方も、警戒だけはしとこうぜ」

 

 

「了解。何もない事を祈りましょ♪」

 

 こうして特例とも言える班分けとなった、帝都ヘイムダルでの特例実習が始まろうとするのであった。

 しかし、この時のスレインは、今まで以上の波乱が巻き起こるなどとは考えてもいなかったのである。

 

 

 




書いていて思ったのですが、サラ教官がA級になったのって何時頃なんでしょうね。

原作の言葉を準拠すると、本編から6年前。
年齢的に19歳前後で遊撃士になったと思いますが、そこから2,3年だとしても22歳前後なんでしょうか。

どちらにしても凄い事ではあるのですが、その辺りの設定は誤魔化せる様に書いたので、皆様のご考察に従えるかなと思います。

それでは、今回もお読み頂き、ありがとうございました。
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