現実世界で色々と忙しい毎日を送っていましたが、やっと落ち着いてきました。
既に虚無の彼方へと忘れ去られているかもしれませんが、帝都編第二話です。
今月まで更新が遅くなるかもしれませんが、引き続きお読み頂ければ光栄です。
それでは、第33話、始まります。
(……2年振り……か)
日付は変わって7月25日。特別実習二日目の朝。
昨日の
その報酬という訳なのか、ヴァンクール通りにある高級レストランでクレアから夕食をご馳走になった。サラとクレアのやり取りを制するというのは些か面倒であったが、普段ではなかなか食べられない料理に舌鼓を打つ事で気を紛らわせていた。
そして、昨晩の宿泊先は、クレアの方で手配してくれたガルニエ地区にあるホテル【デア・ヒンメル】。
しかし、デア・ヒンメルは高級ホテルだ。夏至祭直前という事もあって、予約が取れたのは昨日のみだったらしい。つまり、今日からはⅦ組の面々と同じ
大陸を旅していた時も遊撃士協会には足を運ばなかったので、実に2年振りに扉を開ける事になる。
自分が決めた制約をこの様な形で破るというのは、正直言って複雑な心境なのだ。
「―――こんな所にいたのね。朝から探し回ったじゃない」
少し離れた所にある扉が開く音と同時に、こちらに歩み寄ってくる足音が聞こえた。
現在位置はデア・ヒンメルの屋上。端の方で鉄柵に体重を預けて、ぼんやりと景色を眺めている。
「俺は起こしに行ったぞ。飲み過ぎたサラが悪い」
「何よ、少しくらいはいいじゃない。昼だけならまだしも、何で夜も一緒に食事しないといけないのよ」
(…………)
横で同じように空を見つける女性に違和感を覚える。
昨日サラが飲んだ酒の量は、通常時の2倍。決して“少し”飲み過ぎたというレベルではない。
サラはそういう時、「あれくらいならまだ問題ない」と、もっと飲める事をアピールする。
更に言えば、昨日はクレアの好意で、帝国内でもかなり有名なボトルを開けている。それに対する感想を、開口一番言わないのはおかしい。
つまり、横に現れた女性が
「……喧嘩売ってんのか、『怪盗紳士』」
相手を見ずに言葉をかけると、横から小さな破裂音と共に、人一人隠れる程の白煙が上がる。
どうやら変装を解いたらしい。
「フッ、こちらを見ずに気付かれるとは……流石だよ」
「もう少しもっともらしい言葉を選ぶんだな」
「言葉……か。ふむ、次回は気をつけよう」
「で、何の様だ? 事と場合によってはここで一戦交える事になるぞ?」
鉄柵に預けた体重を戻して、横に佇む男性を見る。白のタキシードに顔の上半分を覆うマスク。
執行者『怪盗紳士』ブルブランは、殺気も敵意もなく、笑みを含んで値踏みしている様な表情だ。
「『怪盗B』として、君のご学友と戯れようと思ってね。それを見逃して欲しい」
ストレートに物言いした彼の言葉に、嘘偽りがない事は分かる。
以前、バリアハートに現れた際に“警告”をしているので、大きく出る事が何を意味するかはしっかり理解しているのだろう。
「そんなに気に入ったのか? それとも俺に対する嫌がらせか?」
そもそも、ブルブランが『怪盗B』の名を使う場合は、執行者としての活動ではない。
個人的な理由で、個人的に気に入った人物に、言葉通り“戯れ”を行う時だ。だからこそ『怪盗B』は手に掛けた品を必ず返すという、理由のない事をするのだ。
「君のご学友が随分と力を付けている様だからね。花咲かせる前の蕾を愛でようよ思ったのだよ。勿論、以前の言葉通り
“今は”という言葉の裏には、“今後はそれ以上の事を行う”という意味が含まれている。
と言うより、不穏な空気が含まれているこの帝都に執行者がいる時点で、何かしらの動きを始めた事は示唆出来る。
この男と無理にやり合うより、泳がせて様子見をする事を選んで、彼の言葉に承諾する。
元より、結社も表立って行動する訳ではない。どこから介入するかも、どの程度の戦力を投入しているかも分からない状態では、こちらの方が危険なのだ。
「そう言ってくれると嬉しいよ。では、また会おう」
一言だけ言い残して、虹色の光が彼を包む。それと同時にブルブランは姿を消した。
レクターが持ってきた情報『帝国解放戦線』が夏至祭に向けてテロを起こすのであれば、タイミング的に結社と裏で繋がっている可能性は高そうだ。
一層警戒する必要があるという結論に至り、索敵用の風を広範囲に広げていく事を決めた。
「―――こんな所にいたのね。朝から探し回ったじゃない」
先程と全く同じ言葉と声が聞こえると、”本物”がこちらに歩み寄ってくる。
「おう、随分ゆっくり寝てたみたいだな」
「ええ、昨日のワインがあまりにも美味しかったから飲み過ぎたわ……。うー、頭痛い」
頭痛を和らげる様に頭を指圧しながら歩み寄るのはサラ。
「しかし、昼だけじゃなく夜まで一緒なんて嫌がらせなのかしら……」
昨夜の夕食の一時を再び思い出して、サラはブツブツと文句を言っている。
宰相の呼び出しから戻るとクレアから、「自身がオズボーン宰相に呼ばれた事で、サラが猛烈に苛立っている」という言葉を耳打ちされていた。
それもあってクレアは食事に誘ったのだと思うが、サラの方はそれすらも不満だったのだろう。
自身も内面を隠し通せる程の器用な性格ではないが、彼女はそんな自分よりも不器用なのだ。
そんな事を考えていたら、心地良いそよ風が辺りを包み込む。常日頃から風を受けているが、天気の良い朝に受ける風はやはり清々しいものである。
「……どうやらA班の問題は解決した様だな。フィーも少しは馴染めてきたんじゃないか?」
「ええ、そうね。あの子にとっても居心地がいい場所になってるといいけど」
「大丈夫だろ。Ⅶ組の前では無防備に寝てるし、多少は考え方も変わって来てると思うぜ」
元猟兵という事もあって、フィーは睡眠中でもある程度の警戒心を持っている。物音や気配で直ぐに起きれる程の浅い睡眠しか取らない事もあって、至る所で寝ているのだろう。
しかし、最近のフィーは、Ⅶ組の前ではその警戒心を解いている。教室内や寮のリビングルームなどで寝ている時は、起こしても起きない程の深い睡眠の時もある。
それが意味するのは、“Ⅶ組は警戒する必要がない”という事。それだけ彼女の中で心境の変化があるのだろう。
「さて、本日の実習は何をさせるんだ?」
風の知らせでB班の方も問題なく今日を迎えた事も確認したので、そろそろ本題に入っていく。
元より聞いていた実習内容は昨日で終了してしまっている。実習は残り2日間。一体何をさせる気なのだろうか。
「今日は帝都内の見回りね。一応、
「確かにそうだな。今しがた『怪盗紳士』も現れた事だし、夏至祭に向けて何かが起きる事は確定だろ」
「はぁ!? ちょっとそれどういう事よ?」
物凄い剣幕でずいっとこちらに歩み寄るサラに、先程の出来事を話す。
“怪盗”としてという部分で少し安心した様だが、自身に変装した事が予想外だったらしく、こちらに対してもブツブツ文句を言っていた。
―――*―――*―――
「で、サラさん? 見回りじゃないのかよ?」
時刻は半刻程過ぎ、徐々に気温が上がり暑さを感じる時刻。
見回りと言われてホテルを出て、何も言わずにサラに着いて行くと、百貨店内の喫茶【ミモザ】に到着。そのまま朝食を取っている時の言葉である。
「ええ、そうよ。帝都内をブラブラしながら怪しい所をないかチェックするだけ」
トーストを噛りながらそう話すサラ。優雅に朝食なんて取ってる時点で、その言葉の本質は“ブラブラしながら”にあるのだろう。
どうやら、見回りはオマケになりそうだ。
「あんた、随分前に
「ARCUSの礼だよ。他意はないし、クソ皇子に呼び出しも喰らったからな……」
数ヶ月前の事を思い出しながら言葉を口にする。
そう言えば、オリビエからサラがどうこう言われていた気がするが、どうやら妄言ではなく事実だったらしい。
確かにサラは遊撃士協会を縮小させたオズボーンに、怒りと憎悪を抱いている。それを、腹心である“子供たち”にも同じように抱いているのは確かだ。
しかし、自身はサラと違って、帝国内部に深く入り込んでしまっている。反発する必要も無ければ、互いに利用し合う関係でもある。変に貸し借りを作る必要はないからこその行動である。一緒にいる事を言及されても、正直言って困ってしまう。
「だからっておかしいじゃない! なんで御礼の為に一日いる訳?
「サラ、それは分かってる。だからと言って、その牙をクレアに向けるのはお門違いだ。あいつもそれは分かっているから、邪険に扱ってないだろ? そもそも、あいつを宰相から遠ざけたのは俺だ。宰相が俺に興味を持つのも、クレアが俺を信用するのも、全て俺に原因がある。色々と複雑なんだよ」
「分かってるわよ……とりあえず、今日は一日、あたしと一緒に見回りだからね!」
頬を少しばかり染めながら、冷めたコーヒーを一気に飲み干すサラ。
なんだかこの人物が、とんでもない方向に思考を飛ばしている様にも見えるが、今は何も言わないでおこう。
それを突付くには如何せん
「はいはい、分かったよ。とりあえずヴァンクール通りからB班方面に向けて見て回るか」
「ええ、そうね。派手に動こうとしない限り様子見でいいわ。
サラの言葉をキッカケに二人は立ち上がって、喫茶店を後にする。勿論、百貨店内も目を光らせたが、特別怪しい事はなかった。
その後、午前中はB班方面を見て回った。怪しい人影がチラホラあったが、本日中に動きそうな気配がなかったので、サラの言葉通り様子見の為に泳がせた。
ちなみに、その殆どがスレインの風を使って得た結果であり、二人は本当にただ“ブラブラ”していただけである。その姿が完全に見回りではないものであった事は、言及するのも面倒であった。
B班方面の見回りを終えた所で午後になり、お次はA班方面のアルト通りに来ている。
サラ曰く、アルト通りの音楽喫茶【エトワール】にて小休止との事だ。
と言っても、先程ドライケルス広場の屋台で昼食を済ませている。この人物は、どれだけ休みたいのだろう。
エトワールに入ると、サラは迷う素振りもなく一人の女性が座っている一番奥の席まで歩を進める。
「フィオナさん。お久しぶりね」
「サラさん、スレインくん。お久しぶりです」
サラが声をかけると、女性は振り返り笑みを零して挨拶をしてくる。
「フィオナさん? お久しぶりです」
意外な人物の遭遇に驚いた表情をする。ここアルト通りにはエリオットの実家、クレイグ家がある。だからこそ目の前の人物がいてもおかしくはないのだが、さも当たり前かの様に挨拶をされると面食らってしまう。
今挨拶をした人物はフィオナ・クレイグ。エリオットの姉にして、帝都でピアノの講師をしている。面立ちはエリオットにも似ていて、クレイグ家特有の赤毛の長髪が似合う可憐な女性である。
ただ、自身の記憶が確かであれば、結構ブラコン気味だった気がする。
「サラさん、エリオットがお世話になっています」
「いえいえ、あたしは殆ど放任ですから」
「それは間違いないな……。フィオナさんの方はお元気ですか?」
サラの言葉に苦笑いをしているフィオナに、形式的な言葉を掛ける。
「ええ、エリオットがいないのは寂しいけれど……音楽の道に進められれば一緒にいられたのに」
「まぁ、お父上の考えもあるでしょうし仕方がありませんよ。ただ、学院生活を有意義に過ごしている様に見えますよ? 吹奏楽部に入っているみたいですし」
エリオットとフィオナの父、オーラフ・クレイグ中将は帝国正規軍“第四機甲師団”に所属している猛将。“赤毛のクレイグ”と呼ばれ、第四機甲師団を正規軍最強とまで押し上げた人物である。
兄妹揃って音楽家の母親似らしいので、中将としては息子を軍に入れたい気持ちも分からなくもない。
結果として父の言葉に従う形で士官学院に入ったのだと思うが、エリオットとしては音楽の道も諦められない様にも見える。
寮の部屋には沢山の楽器が並んでいたり、学院で吹奏楽部の活動をチラッと見ると楽しそうな表情をしているからである。
しかし、それであってもⅦ組という特殊な環境で、クラスメイトとの絆や特別実習から沢山の事を学ぶ一面は、決して後悔している様には思えない。
「それならいいのだけれど……やっぱり不安だわ。私のエリオットは可愛いままでいいのに」
「弟さんも色々考えていると思うわよ? 自分がどうしたいか、しっかりとトールズで見定めていると思うわ」
フィオナの冗談の様で本音で言っている言葉に、サラが大真面目に答えている。
フィオナの発言はいつもの事だが、サラの言葉には正直意外である。担任教官として、見ている所はしっかり見ているという事だろう。少しばかり見直してしまう。
「そう言えば、スレインくん。先日、父が『また演習に呼びたい』と言っていましたよ」
「ナイトハルト少佐にも言っていてますが『今は学生なので遠慮しておきます』って、伝えておいてください」
学院の臨時教官でもあるナイトハルト少佐も、クレイグ中将と同じ第四機甲師団所属であり入学前から面識がある。そして、オリビエの護衛でもあるミュラー少佐とも旧知の仲らしく、手合わせも数回している関係である。
そんな事からクレイグ中将同様、『正規軍の演習』のお誘いをよく受けるのだ。
以前、オリビエとミュラーの頼みで“演習”に参加したのだが、その内容はもはや演習レベルではなかった。
『未確定要素との大規模軍事演習』と称されたそれは、人間一人相手に導力戦車まで持ち出す演習だった。つまり、自身一人に正規軍一個中隊の戦力をぶつける内容。
昨日の
「ふふっ、相変わらず人気者なんですね」
「悪目立ちってやつですけどね。……ところでサラ、このセッティングは何の意味があるんだ?」
軍属でもないのに軍人に好かれ、更には無茶苦茶な演習に付き合わせようとする人物達に人気になっても困り者である。
ただでさえ、あちこち介入しているおかげで、面倒事が増え続ける一方である。これ以上、悩みの種が増えるのは勘弁願いたい。
フィオナの笑顔に苦笑と共にため息で返答すると、一端話題を変える為にサラに話を振る。
「現地住民の聞き込みよ。ついでにA班の様子見ね。すぐそこに寝泊まりしてるから、ここにも厄介になってるでしょ」
確かに目と鼻の先には旧ギルド、つまりA班の宿泊場所がある。一応教官としての仕事もしている、とでも言いたいのだろう。
「この辺は住宅街ですからねぇ。夏至祭もここで屋台を出すくらいしかしないのよ」
「なるほど……フィオナさんはどこかで公演ですか?」
「いいえ、今年はエトワールの屋台の手伝いよ。売り子さんをやる事になったの」
フィオナが売り子という事は、結構な人通りになるかもしれない。なんて事を思っていたら、早々とサラと二人で話が盛り上がっている。
まだ帝都で活動していた頃、ギルドが近くにあった事もあってフィオナは度々依頼を出していた。
それをサラが引き受けており、年齢も近いこの二人は自然と仲良くなったのだ。勿論、スレインもその時からの知り合いである。
「でも、お二人が並ぶ姿をまた見れて嬉しいわ。あなた達、昔からお似合いだったものね」
話が一段落したのか、フィオナが急に話を振る。その発言に、つい飲んでいる紅茶を吹き出しそうになった。
確かに昔は準遊撃士だったので、指導役のサラに同伴していた。
しかし、あれは完全にパシリとしての要素が大きい。どう考えても、その様には見えなかったハズだ。
「いや、フィオナさん? どっからどう見ても、そんな風には見えなかったと思いますが……」
「そ、そうよ! あたしは指導役で、それで連れて行ってただけなんだから!」
その予想の斜め上をいくフィオナの発言に、サラは自身よりも動揺をしている様で声が裏返っている。
「あら、その割には随分と仲良しに見えたけれど……それに、いつも一緒にいたじゃない」
「だから、それは指導役だからなのよ! 準遊撃士に仕事を教えるのも仕事なの!」
何やら凄い剣幕でいるサラは、耳まで紅く染めて反論している。
というか、自身がフィオナに会う頃には、仕事も覚えて教わる事などなかった気がするのだが、そこにツッコミを入れるのは藪蛇だろう。
触らぬ神になんとやらだ。
「確かにフィオナさんの依頼には良く駆り出されてましたが、四六時中いる訳ではなかったですよ。俺も、それなりに一人で依頼受けてましたから」
「そうね。スレインくんの噂も凄かったものね。『遊撃士にチャーミングな子がいる』って。エリオットには負けるけど、あなたも可愛かったわ。勿論、今は格好良くなったけど、しっかり当時の面影も残っているわね」
再び紅茶を噴き出そうとしてしまい、含んだ紅茶を慌てて飲み干す。
いらぬ過去を思い出せないで欲しいものだ。暫く喉を潤す事は止めた方がいいかもしれない。
スレインは、特例として10歳から遊撃士活動をしていた事もあって、帝都の中では比較的名が知れていた。
既に当時からポーカーフェイス気味であったせいか、子供あどけなさと相まって、フィオナの言う様な変な噂をされたのだ。
遊撃士として名が上がるという事で渋々否定しなかったが、それでも恥ずかしい噂である。
「やめてくださいよ。その話は何年も昔の事ですし、可愛がるのはエリオットだけにしてください」
本当に言われる事が恥ずかしいと思わせる苦笑いをしてフィオナを制する。
この女性は昔から思った事をストレートに表現する。このまま話し続けると、話題はあらぬ方向へ何処までも進んでしまうのだ。
「ふふっ、そうね。……あら、もうこんな時間なのね。私は予定があるので、こちらで失礼しますね」
「ええ、わざわざありがとう」
「フィオナさん、お気をつけて下さいね」
形式的な別れの挨拶の後にフィオナが「機会があれば食事にいらして下さい」と告げてから笑顔で店を出ていった。
この流れだと、今夜はA班と同じ寝床を利用する可能性が高そうだ。
時間を忘れる程盛り上がっていた様で、時計を見ると既に夕方へと近づいている。
「もうこんな時間か。今日中に帝都全域は難しそうだな。……ん? サラ、どうかしたか?」
「え? ううん、何でもないわよ。オスト地区を少し見たら終わりにしておきましょ」
視線を虚空に彷徨わせていたサラは、現実に戻ると同時に普段あまり見ない複雑な表情をしている様だった。
サラが上の空なんて珍しいと思ったのだが、その後に「早く終わりにして飲みに行く」と続けた事で、自身の思考が無駄なものであると結論付けた。
エトワールを後にすると、横に流れる川の鉄柵に体重を預けて真面目な話をしていく。
「この辺りは問題なさそうね。クレイグ家もあるし、意外と狙ってくるかと思ったんだけど」
「まぁ、陽動って意味では狙いそうだけどな。本命ではない以上、匂わせる事もしないだろ」
帝都の夏至祭では、帝都ならではの盛大なイベントがある。それは、皇族の行事参加。
バルフレイム宮から各エリアに導力リムジンで移動して、それぞれの行事に参加するというパフォーマンスだ。
テロリストは十中八九それが狙いだろう。
「やっぱり、皇族……よね」
「そりゃそうだろ。夏至祭なんて言ったら皇族が見れるチャンス。ましてやマーテル公園では園遊会もあるし、本命はそこだろう」
マーテル公園で行われるのは、帝都庁主催の園遊会。
以前、アルフィンが言っていたイベントである。
オリヴァルトやセドリックが向かう場所はよりも、大々的に銘打って行われている行事なので、狙う可能性は必然的に高いだろう。
「やっぱりその3箇所が中心よね……。あら? 着信入ったから、ちょっと待ってて」
少し離れてARCUSで通話を始めるサラを横目に、夏至祭のスケジュールを思い出す。
夏至祭には、オリヴァルト・セドリック・アルフィンの三名が導力リムジンに乗り帝都を回りながら行事に参加する。
今年は確か、オリヴァルトが競馬場方面。セドリックが大聖堂方面だった気がする。
アルフィンが向かうマーテル公園を含めて、綺麗に方向がバラバラだ。導力リムジンは防弾仕様だから、移動中は恐らく手が出せない。そう考えると到着した場所で何かが起きる可能性が一番高い。
仮に
そうなると、必然的に自身を含めた3名はバラバラに配置する必要がある。陽動が本命とも言える程の大規模な問題に発展するケースもあるので、こちらの戦力分散は仕方がないだろう。
「スレイン。これからサンクト地区へ行ってちょうだい」
サラの言葉で、彼方まで飛ばしていた思考を回帰させる。いつの間にか通話も終わり、自身の真横に戻っていた。
「サンクト地区? 大聖堂でも拝むのか?」
「いや、聖アストライア女学院ね。理事長さんの命令よ。お茶会を主催してⅦ組にお披露目するそうよ」
淡々と話すサラも半ば呆れ気味な表情をしている。それは自身も同じ。
聖アストライア女学院は、その名の通り女子校。オリヴァルトが呼び出すには些か不自然である。
そして女学院は、アルフィン皇女殿下が通っている学院でもある。つまり、オリヴァルトだけではなく、アルフィンが一枚噛んでいるという事だ。
「……ったく、揃いも揃って何してんだか」
「そりゃ、あんたの方が知ってるでしょ。あたしは引き続き見回りだから、あの子達の事、頼んだわよ」
サラはそう言い残すと、ARCUS片手に他の班に連絡を取りながら去っていく。
確かに常任理事の3名に会ったので、タイミング的には理事長が出てきてもおかしくはない。
しかし、皇族二人を同時に会するなんて、Ⅶ組一同は正気を保っていられるのだろうか。
ましてや、いきなり漫才を始める様な
「何事もないといいんだが……」
信仰心なんてものは存在しないが、無事に時間が過ぎる事を
今回はサラ教官とのデート……にしようと思ったのですが、あまりそんな風に描写をしないでおきました。
これには色々と訳があるのですが、それはまたの機会に……
久しぶり過ぎてレベルが下がっている気がしますが、そこは目を瞑って頂けますと幸いです。
それでは、今回もお読み頂き、ありがとうございました。