申し訳ありません。
ついにⅦ組とオリヴァルト皇子の対面です。
それでは、第34話、始まります。
帝都ヘイムダル、サンクト地区。
帝都の中でも厳粛な雰囲気を醸し出すこの地区は、七耀教会の大聖堂と、乙女の園(巷では女子校の事をこう呼ぶらしい)『聖アストライア女学院』が存在するからである。
導力トラムから降りると、アストライアの制服に身を包む可憐な少女達からの目線が痛々しく感じる。
それもそのはず、現在の場所は導力トラム乗り場『聖アストライア女学院前』。
つまり、少女達からすれば、何故ここで
ましてや背中に、“有角の獅子”を背負うトールズ士官学院の制服となれば、その注目は一際目立つのである。
「おう。皆、揃ってんな」
痛々しい目線を回避しながら、女学院の正門まで到着すると、既にⅦ組一同が揃っていた。
聖アストライア女学院は男子禁制。出迎えがいないと敷地内には入れないからである。
ましてや、皇族連中が出迎える訳ではないと思うので、代理の生徒を待っているのだろう。
「あ、スレイン」
「待ってたよ。これで全員だな」
こちらに気づいたエリオットとリィンが同時に声をかける。二人に返答をすると、両班に労いの言葉をかけていった。
「スレインの方は、今日の実習内容は何だったのだ?」
昨日と違い、清々しい表情をしたラウラが質問を投げかける。フィーとの仲違いが修復出来た事は知っているが、こうやって見ると一皮剥けた様な凛々しさがある。
「サラと帝都の見回りだよ。ま、殆ど俺が仕事してたが」
「な、なんだそれは……。教官は何もしていない様な台詞だな」
マキアスはこちらを疑う様な目で声を出す。それと同時に一部のメンバーは、苦笑いをしてこちらを見ている。
「実際何もしてねぇよ。馴染みの店に顔出して友人とお喋りするか食事か買い物か、だからな」
両手を肩程まで掲げて、ため息をつきながら答える。
事実、今日の内容は“ブラブラする”事。そもそも広大な帝都と言えども、しっかり自身が動いて“風”を使っていれば、見回りをする場所は限定出来るのである。
「あははっ、それって……」
「デート?」
エマが敢えて間を開けたタイミングで、フィーが単刀直入に口にする。
傍から見たら確かにそう見えてもおかしくはない光景ではあったが、肯定するつもりは皆無である。
「勘弁しろって。そういえば、リィン。ここに来る前に厄介事に巻き込まれなかったか?」
「ああ……“怪盗B”に名指しで盗難事件の追跡をさせられたよ。前に会ったブルブラン男爵が、その人物だったみたいだ」
「ん? 今回も姿を見せたのか?」
予想通りの回答であったが、姿を現したのは意外である。あの男が“怪盗B”として行動している時は、人前に決して出てこない。
余程Ⅶ組を気に入ったのだろうか。
「ああ……何だか試されている様な感じだったけど……。まぁ、結果盗まれた品は戻ってきたから問題はなかったよ」
「それなら良いが……他には特に変わった事はなかったか?」
「それだけだったよ。スレインはブルブラン男爵の事を知ってるのか?」
「まぁ、それなりに……な」
はぐらかす様に答えたのは、彼の本当の姿はまだ言うタイミングではないからである。
それと、お迎えの人物がこちらに近づいているからだった。
約束の時間である5時を告げる様に、大聖堂の鐘が鳴り響く。“ヘイムダルの鐘”とも言われるその荘厳な響きは、身も心も清らかにしていく様に、耳から全身へと伝わっていく。
それと同時に重々しい正門が開き、一人の少女が現れた。「兄様?」と不思議そうな表情で一言だけ口にした少女は、先日トールズで会ったエリゼ・シュバルツァー。リィンの妹である。
「エリゼ、どうして……! って、ここに通っているんだし、別におかしくはないか」
驚いた兄は一瞬で自身がいる場所を理解して、冷静さを取り戻す。生徒が在籍している学院にいるのは当たり前だ。一言で言うと、リィンの言葉は愚問である。
しかし、対してエリゼは、不思議そうな表情から変わっていない。
まるで、“何故兄たちⅦ組一同がいるのか分かっていない”という様な顔つきである。
「え、ええ……Ⅶ組の皆さんもお揃いみたいですけど……」
「ふふ、1週間振りかしらね」
「えへへ……ちょっとした事情があるんだけど」
アリサとエリオットが戸惑っているエリゼに声を掛ける。
するとエリゼは、何かに気付いたかの様に目を細めて恐る恐る口を開いていく。
「……ちょっと待ってください。兄様たち、ひょっとして……5時過ぎにいらっしゃるという10名様のお客様……でしょうか?」
「ああ、確かにⅦ組全員で丁度10名になるけど……って、ええ!?」
「あの、それでは……私たちに用事があるというのはエリゼさんなのでしょうか?」
話が噛み合った瞬間に、リィンが声を上げる。きっと、彼女がⅦ組を呼び出したと思っているのだろう。
リィンが聞きたかった“自身らを呼んだ張本人であるか”を、エマが代わりに聞いていく。
「いえ……わたくしの知り合いです」
ポツリとそう告げると、エリゼは背中を向けてしまう。
エリゼが兄に恋心を抱いている様な話は、先週Ⅶ組から聞かされている。
そして、この反応とやり取りから察するに、エリゼも
「―――失礼しました。トールズ士官学院・Ⅶ組の皆様。―――ようこそ。『聖アストライア女学院』へ。それでは、ご案内させていただきます」
エリゼは聖アストライア女学院の一生徒として、丁寧に言葉を口にしてくるりと反転すると、敷地内へと歩を進めた。
その対応に自分たちの現状を理解した様で、やや緊張した面持ちでエリゼに先導されて中に入っていく。
正門から続々と続く乙女たちの目線は、端から端までⅦ組に向けられている。ヒソヒソと話す声には、“男”が敷地に入ってきた事。“トールズ士官学院”の生徒である事。まずはこの辺りが話題の種であった。
しかし、それは序の口。公爵家のユーシス様は格好いい。ラウラ様が綺麗(ラウラはトールズでも女子からの人気が高い)。一番前の黒髪の殿方(リィンの事)も格好いい。そんな会話から始まり、面立ちが整っている面々の多いⅦ組は、ご丁寧に全員の意見を述べられなら歩いていた。
全員が気まずそうな表情をしながら歩いているのが分かる。勿論、自身に対しても何か言われていた気がするが、物珍しさからくる発言である。気にする事もなく一同の一番後ろを歩いていた。
周囲の声に対する歯がゆさに一同が限界を迎えるタイミングで、学園内の奥に佇む屋内庭園に到着した。
「ここは……」
「屋内庭園、みたいですね」
「本学院の薔薇園になります。こちらに、本日皆さんをお招きした方がいらっしゃいます」
ガイウスとエマの発言にエリゼが一度振り向いて回答する。
入口付近まで薔薇の上品な香りが漂うこの場所は、学院の中でも一際神聖さを醸し出している様な印象を受ける。
「そ、それって……」
「どうやら、やんごとなき御身分の方らしいな」
どうやらアリサとユーシスは、この中で待っている人物に予想がついたらしい。
エリゼが扉を開けて中の人物へ入室の声をかけると、透き通る様なソプラノの声から入室の許可が告げられた。
「……!?」
「ま、まさか……」
「エリゼ、もしかして……」
エリゼの言葉からか奥から聞こえる声からか。もしくはその両方から意味を悟ったのか、マキアスは声にならない声を上げ、エリオットとリィンも顔が引きつっている。
エリゼに続いて一同が中へと入ると、そこには予想通りの人物が待っていた。
「あ−−−」
「や、やっぱり……」
それでも普通では間近で拝めない人物の姿を前にして、リィンとアリサは言葉が漏れた。
カールのかかった長い金髪の少女は、スカートの裾を僅かに上げて帝国礼儀のお手本の様に、優雅に一礼して出迎る。
「ようこそ―――トールズ士官学院『Ⅶ組』の皆さん。わたくしはアルフィン。アルフィン・ライゼ・アルノールと申します。どうかよろしくお願いしますね」
“帝国の至宝”とも言われる人物を前に、身動きも出来ず言葉を失っている一同。名だたるⅦ組メンバーでも、皇族から直接呼び出された事はないだろう。この状況は至って普通なのである。
そしてアルフィンの一声でテーブルを囲むと、薔薇の香りが漂う優雅なお茶会が始まった。
しかし、アルフィンの横に座るエリゼは、少し不機嫌そうにそっぽを向いている。
どうやら、自身が出迎える相手を知らされずにいた事が不満だった様である。アルフィンが詫びを入れるものの、一向に動じる気配はない。
「ふう……まぁ、それはともかく。ユーシスさん、ラウラさん。お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
エリゼのご機嫌取りを一度諦めたアルフィンは、面識のある二人に声をかける。
ちなみにスレインは先程から、出された紅茶の香りを楽しみながら沈黙を決め込んでいる。無闇に内偵に関わる様な素振りは控えるべきだと判断しているからだ。
「……殿下こそ。ご無沙汰しておりました」
「ふふ……お美しくなられましたね」
「ふふ、ありがとう。……でも、ラウラさんとはこの学院でご一緒出来ると期待していたのですけれど。やっぱりトールズの方に行ってしまわれたのね?」
「ええ、剣の道に生きると決めた身ですので……ご期待に沿えずに申し訳ありません」
ラウラの言葉にアルフィンが「来年はトールズに編入しようかしら」と返した瞬間にエリゼが声を上げて驚く。
エリゼがやっと自身の方を向いた事でが嬉しかったのか、アルフィンは満面の笑みをしている。
「(なんだか楽しい人だね)」
「(随分軽妙でいらっしゃるな)」
「(まぁ、皇族として気を張ってる姿よりも、こっちの方が見ていて楽しいだろ)」
声を潜めてフィーとガイウスに当たり障り無く返答する。
「(うーん……噂には聞いていたけど、実物はそれ以上というか……)」
「(と、とんでもないな……これが、皇族のオーラか)」
どうやらエリオットとマキアスは、アルフィンの姿に圧倒されているらしい。
正直な話、今までのやり取りで“皇族のオーラ”なんてものは出ていないと思うのだが、そこはツッコまないでおこう。
「リィン・シュバルツァーさん。お噂はかねがね。妹さんからお聞きしていますわ」
「ひ、姫様……」
「はは……恐縮です。自分の方も妹から“大切な友人に恵まれた”と伺っております。兄として御礼を言わせてください」
なるほど。妹の次は“兄”に茶々を入れるのか。
決して悪巧みを表情に出さないアルフィンだが、そんな事は今までの経験で分かりきっている。
それに、先程から不自然にならないタイミングで目線をこちらに送ってきている。
どうやら自身の代わりにリィンが生贄に選ばれた様だ。ご愁傷様と言っておこう。
「―――リィンさん。お願いがあります。今後妹さんに倣って、”リィン兄様”とお呼びしていいですか?」
「い・い・加・減・に・し・て・く・だ・さ・い!」
堪忍袋の緒が切れたエリゼの冷ややかな怒声に、リィンは安堵の表情をする。一方のアルフィンはバツの悪い表情をしてから口を尖らせる。
「……エリゼのケチ。ちょっとくらいいいじゃない。まあ、それはともかく。今日、皆さんをお呼びしたのは他でもありません。ある方と皆さんの会見の場を用意したかったからなのです」
お遊びはここまで。といった様に真面目な表情に戻って発言したアルフィンに、各々が不思議そうな表情をする。
アルフィンがこの場にいる時点で驚いているのに、仲介してまで自分達に会う様な人物がいるのだろうか。
きっと考えているのはそんな事だろう。個人的にはやっと話の本題に入れそうで安心している所である。
すると後方からリュートの音が鳴り響く。それで欠けていた記憶をやっと思い出した。そういえば彼は、この学院の音楽教師でもあった気がする。
「フッ、待たせたようだね」
その言葉に一同が振り向くと、演奏家姿の金髪の男性が立っている。
「ハッハッハッ。久しぶりだね、エリゼ君。まー、ラクにしてくれたまえ」
リュートを持って得意げに歩み寄ってくる彼は、わざとらしい笑みをして話す。
その人物の横に立っているアルフィンもまた、同じ表情をしているに違いない。
スレインは既にこの茶番に付き合いきれなくなってしまって、後方を振り向かずに大きなため息をついた。
「……だれ?」
「えっと、どこかで見た事があるような……」
フィーの率直な質問にエマが答えようとするが、どうやらハッキリと覚えていないらしい。
この人物が公に出る様になって1年程しか経っていない。まだ学生であるし、そういった反応を示すのは仕方がないだろう。
「フッ、ここの音楽教師さ。本当は愛の狩人なんだが、この女学院でそれを言うと洒落になってないからね。穢れ無き乙女の園に迷い込んだ“愛の狩人”―――うーん、ロマンなんだが」
事もあろうに、
皆にバレない様に、アルフィンの手元に大きな“ハリセン”を精製する。いつもアルフィンが使っている物と同じ見た目にしてあるが、それよりも
「えいっ」
「あがっ!!」
感の鋭いユーシスやラウラが、その人物に心当りがある様な言葉を零したタイミングで、アルフィンは後ろ手に持っていた雅なハリセンで青年の頭を叩く。
ハリセンで叩いたとは思えない程の鈍い音が薔薇園に響くと共に、青年はその衝撃に耐え切れず、頭を抑えながら腰をかがめる。
「お兄様、そのくらいで。皆さん引いてらっしゃいますわ」
「痛たたたた……。いつもと違う敵意を感じたと思ったら、そんな風に被せてくるとは。さすが我が妹……という事にしておこう」
「ま、まさか……」
「ひょ、ひょっとして……」
マキアスとエリオットの声と同時に、一同も再び驚きの表情へと変わっている。
「オリヴァルト・ライゼ・アルノール。“放蕩皇子”と呼ばれている、通称“スチャラカ”だ」
「スレイン君。”通称”を付ける所を間違えていると思うよ。そして、『トールズ士官学院』のお飾りの“理事長”を付け足しておいてくれ。―――宜しく頼むよ。Ⅶ組の諸君」
依然として、後方には目線を送らず一同の表情を見ながら話しているのだが、自身の解説に対しての疑問が出てこない程驚いているらしい。
皇族兄妹が席に着いて紅茶に手を付けた所で、一同の意識がやっと現実に回帰していく。
「―――驚きました。学院の理事長をされているのが皇族の方とは聞いていたのですが」
「ハッハッハッ。驚くのも無理はない。今をときめく“放蕩皇子”が、伝統ある士官学院の理事長なんかやっているんだからねぇ。まー、あまり聞こえが宜しくないのは確かだろうね」
「お兄様、ご自分でそれを言ったら身も蓋もありませんわ」
自嘲めいた発言をしながらも堂々としている姿に、アルフィンがツッコミを入れていく。
既に場の空気はオリヴァルト達が掌握した様なものだ。普段なかなか話す事が出来ない皇族相手に皆話したい事もあるだろう。自身は再び沈黙に身を任せる。
「で、ですが本当なのですか? 殿下が“Ⅶ組”の設立をお決めになったというのは……」
「タネを明かせばそういう事さ。元々、トールズの理事長職は皇族の人間が務める慣わしでね。私も名ばかりではあったんだが、一昨年のリベール旅行で心を入れ替えたのさ」
「一昨年のリベール旅行……」
「『リベールの異変』ですね」
アリサの質問に微笑みながらオリヴァルトは答えると、その言葉の意味の真意を掴む様にエリオットとエマが呟く。
「ああ、あの危機における経験が、帰国後の私の行動を決定付けた。そして幾つかの“悪あがき”をさせてもらっているんだが……。そのうちの一つが、士官学院に“新たな風”を巻き起こす事だった」
「新たな風……」
「……すなわち、我々、特科クラス『Ⅶ組』ですか」
「では、身分に関係なく、様々な生徒を集めたのも……?」
今度はフィーとラウラが言葉を漏らすと、マキアスは自身が当初拘っていた疑問をぶつける。
「ああ、元々は私の発案さ。勿論、ARCUSの適性が高いというのも条件だったがね」
オリヴァルトはそう言うと、一端紅茶を飲んで会話を停止させる。既に一同が沈黙していた事もあって、この話題を言及する必要がなくなったからである。
そして、オリヴァルトはこちらの方に目を向けると、小さく微笑む。その顔には“Ⅶ組についての意見を言え”と書いてある。今まで沈黙を通してきた事が許せないのだろう。
口を開いたところでボロを出すつもりはないが、変に皇族との関係性を示唆されると、いつもの様に異常な追求がやってくるはず。
単純にそれが面倒なのだが、目が合ってしまったら仕方がない。観念した様に口を開く。
「ま、今までの実習を踏まえると、まずは“現実を直視する事”が狙いですよね? 帝国内外や身近な問題だけではなく、この時代における全ての事象に対して、自発的に考え行動する若き人材を育成する。そんな所ですかね?」
この場に合わせた言葉で理路整然と話すと、オリヴァルトも深く頷いて満足そうな表情をしていた。
そして自身の言葉の意味を悟った一同は各々合致した様な声を上げて、清々しい表情を見せている。
「スレイン君、その通りだ。僕はそういった資質を持つ若い世代、つまりは君たちに期待したいと思っている。けれど、『Ⅶ組』の発起人は私だが、既に運用からは外れている。それでも一度、君達に会って今の話を伝えたいと思っていた。そこにアルフィンが、今回の席を用意すると申し出てくれてね」
なるほど。あの時言っていた“頼み事”というのは、この会合の事だったのか。
しかし、それはアルフィンから話が上がったもの。つまり、彼女の方の目論見がまだ分かっていない。
一体何を企んでいるんだか。
そんな事を考えていたら、いつの間にか話は常任理事の3名の事へと変わっていた。
「先程も言ったが、既に『Ⅶ組』の運用からは私は離れ、彼ら3名の理事に委ねられている。このうち、知っての通り、ルーファス君とレーグニッツ知事はお互い対立する立場にある。イリーナ会長はARCUSなどの技術的な方面に関係しているが、その思惑は私にもよく分からない。そして―――君たちの“特別実習”の行き先を決めているのも彼らなのさ」
「そ、そうだったんですか……」
「……確かに何か思惑や駆け引きなどがありそうですね」
リィン、ラウラが複雑な表情をして言葉を漏らす。
確かにルーファス卿とレーグニッツ知事は対極の存在。Ⅶ組に対して何らかの思惑があるのは間違いないだろう。
しかし、自分達が考える事はそこではないと思う。思う所があったとしても、Ⅶ組に在籍している以上は従うしかないからである。
「ああ、『Ⅶ組』設立にあたって譲れない条件として彼らから提示されたものでね。正直、躊躇いはしたのだが、それでも我々は君たちに賭けてみた。帝国が抱える様々な“壁”を乗り越える“光”となり得る事を」
オリヴァルトからの激励と期待が込められた言葉を前に、一同は再び沈黙する。
しかし、この男がこの様な真面目な話をする時は最後に必ずオチがある。
それが分かっているからこそ、現在進行形で目線を向けられているアルフィンの笑顔と目線に苦笑いで返すしかいないのである。
「フフ……だが、それも我々の勝手な思惑さ。君たちは君たちで、あくまで士官学院の生徒として青春を謳歌すべきだろう。恋に、部活に、友情に……甘酸っぱい学院生活をさ♥」
「そう言って頂けると少しは気が楽になりました」
オリヴァルトの言葉に全員が肩の荷が下りた様な安堵を示し、リィンの言葉に頷く一同。
聞き慣れてしまったからか、つまらない冗談に感じたのは自分だけだった様である。
「その、先程“我々”と殿下は仰っていましたが……。他にも殿下に賛同されている関係者の方々が?」
「ああ、ヴァンダイク学院長さ。元々、私もトールズの出身で、あの人の教え子でね。『Ⅶ組』を設立するアイディアも全面的に賛同してくれたのさ。それに3人の理事と異なり、直接運営に口を出せないが、理事会での舵取りもしてくれている。何よりも現場の責任者として最高のスタッフを揃えてくれたからね」
アリサの質問に解説付きで答えるオリヴァルトは、いつも以上に得意げに話している様にも見える。
「最高のスタッフ、ですか?」
「もしかして……サラ教官の事でしょうか?」
ユーシスとラウラは自身の答えを確認するかの様に問いかける。言葉の意味から察するに、それ以外には該当する人物はいないのだから、他の者も同じ答えに行き着いているだろう。
「はは、彼女だけではないがね。ただ学院長が彼女を引き抜いたのは非常に大きかっただろう。帝国でも指折りの実力者だし、何よりも『特別実習』の指導には打ってつけの人材だろうからね」
「え……」
「帝国でも指折りの実力者……」
「『特別実習』の指導に打ってつけの人材……?」
アリサ・エリオット・マキアスと、オリヴァルトの言葉にイマイチな反応で言葉を漏らす。
確かに学院で見せるサラの言動からでは、その言葉を肯定する事は難しいだろう。
「ふふっ、わたくしも噂くらいは耳にした事がありますわ。
「
「……やはり……」
アルフィンの発言に反応したのはラウラとリィン。二人共、聞きた事くらいはある様だ。
ノルドの民である事から帝国の情報に疎いガイウスは「武の世界では有名なのか」と自身に言い聞かせる様に呟く。この場でその二つ名を知らないのは、表情から察すると、どうやら彼だけらしい。
「帝国遊撃士協会にその人ありと言われた程の若きエース。最年少でA級遊撃士となった恐るべき実績と功績の持ち主……“紫電のバレスタイン”―――それが君たちの担任教官さ」
オリヴァルトの説明を聞いた全員が表情を強張らせる。
実技テストで何度か手合わせをしているものの、確かに彼女は本気を出していない。否、底知れぬ力がある様にも感じていた一同は、その言葉の意味を真正面から感じ取れたのだろう。
「そういう事か……。ん? ……って事は、スレインも遊撃士だったのか?」
リィンは納得のいった表情をした後に、以前に自身とした話を思い出した様に聞いてくる。
「そういえば、ケルディックの時に“元同僚”って言っていたわよね?」
「まぁ、当時は“準遊撃士”って見習いだったな」
追い打ちをかける様にアリサが質問をしてくるので、当時の立場の説明をする。
「ほう……。スレイン君、その件は話していたのかい?」
「成り行きで、ですね。本人が言ってなかったので濁しましたが……何か?」
質問に端的に答えて、オリヴァルトを一瞥する。
Ⅶ組一同に一通りの話をした事で満足したのか、標的を自身に変えたその顔は、既に悪巧みをしている様なイヤらしい笑みを浮かべている。
「あら。兄様からお聞きしましたけど、スレインさんはもっと凄いのではなくて?」
「え?」
「ど、どういう事?」
どうやらアルフィンまでこちらをターゲットと認識した様である。天使の微笑みには、兄と同様の成分が含まれている。
リィンとエリオットがこちらを見て呟いたのだが、この現状では頭を抱えてため息をつくしか出来ない。
あの二人を相手にすれば、勝ち目がないのは分かっている。何処まで話すのかは知らないが、間違いなく今夜から暫く質問攻めになるだろう。
「……オリヴァルト殿下。この展開にする為に、俺に沈黙を許しましたね?」
「ああ、勿論。一番の楽しみは最後までとっておく方が、効果が倍増するものだよ。ただ、少しばかり話が長くなってしまった事は詫びよう。僕はずっとウズウズしていたんだが……」
「あなた、殿下ともお知り合いなの?」
「まさかとは思うが、関係者とは言うまいな?」
笑みを崩さず誇大なリアクションを取りながら話すオリヴァルトを他所に、アリサとユーシスがこちらを見ながら問いかける。
その表情は疑い半分、呆れ半分だ。勿論、その表情はⅦ組全員とエリゼも同じ。この場で笑っているのは、アルフィンとオリヴァルトのみである。
「そう、彼は僕の元部下なのだよ。皇族直属の内偵。諜報から戦闘まで全てをこなす、謂わば僕の
「「「「なっ、なんだって!?」」」」
反応はいつものと同じ。声が裏返ったのがマキアス。アリサ・リィン・エリオットは、何時もの大声。他の一同は、開いた口が塞がらない状態だ。
「前半は殿下の言った通り。後半は俺も最近になって知った。まぁ、そういう縁もあって、帝国軍や領邦軍、
紅茶を飲みながら、今までの出来事を総評する様な言葉を話していくその姿は、確かに皇族相手に緊張も動揺もしていない。
実習先各地で、普通ではあり得ない人物と親しくしていた事に、やっと一同は納得がいった。
皇族と直接繋がりがあれば、あの様な対応をされるのも分かるし自分たちと違って物怖じする訳がない。
「そして私とセドリックとのお話の相手も、ですわよね?」
「それは仕事ではないですけどね。むしろ、仕事があってもお茶を優先にさせる皇女殿下には頭を抱えましたよ」
「ふふっ、帝国の至宝を独り占め出来るただ一人の人物ですよ?」
「帝国の至宝だからこそ、それは許されないと思いますよ」
アルフィンと対等に話しているせいなのか、それともその内容なのか。どちらが理由にせよ、こちらを見る一同の視線は焦点が合っていない様だ。
「え、えっと……」
「今まで黙っていたのって……」
「話しかけてこない以上は話す必要ないだろ。普段から嫌という程話してるし」
唖然としているエリオットとエマに答える。
ラウラやユーシスでさえ、行事事でないと拝めない人物たちだ。「二人と話せる場を大切にさせたい」と添えて、もっともらしい言葉にしておく。
「何だか今まで騙されていた様な気分だ……」
マキアスはため息をついて頭を抱える。
今日、A班に自身の“貴族嫌い”の話をしたばかりだが、正直彼も貴族ではないかと思って、好意的な印象はなかった。
しかし、彼の正体は、予想の斜め上どころではない。全く考えもしなかった人物であった。貴族ではないが、貴族よりも皇族に近い関係。
貴族かどうか詮索した事もバカバカしく思える。自身の価値観を大きく越えた所にいる彼は、少し見方を変える必要がある。
「しかし、これで辻褄が合ったな。流石に規格外なんて言葉の度が過ぎているが……」
ユーシスは各地の実習を思い出しながらそう呟く。
バリアハートでは何故、兄とあの様に親しく話していたのか。そして、ノルドでのゼクス中将や
その全てに納得のいく答えが出たが、それは常人の域を越えている。自身と同じ年齢で皇族の内偵。それは分かるが、各地の声と不可解な戦闘スタイル。これだけは未だに納得出来る答えがない。
流石に自身の処理能力を越えた推論に、思考を停止するしかなかった。
「やっとスレインの事が少し分かった気がするよ。……でも、一体どうして、皇族の内偵になったんだ?」
リィンの言葉に一同は若干前のめりになる。
確かにスレインの仕事は分かったが、どうしてそんな仕事をしていたのか。
この場にいる誰もが思った疑問だからである。
「スレイン君、言ってもいいではないか。形は違えど、僕と同じようにリベールで活躍した武勇伝を披露しないと、皆納得はしないと思うよ?」
「え!? スレイン、リベールにもいたの!?」
アリサが声を上げると同時に、一同から再び驚きの声が聞こえる。
毎回よくもこんなに同じ反応が出来るものだ。
「おいおい、それも言うのかよ。もみ消した意味がねぇだろうが」
「スレインさん。わたくしももう一度お聞きしたいですわ」
馴れ初めは言わないと思っていたのだが、アルフィンまで追い打ちをかけている以上、どうやら包み隠さず全て言うらしい。
これでは、何の為に事実をもみ消してまで、自身の存在を引っ込めたのか分からない。
しかし、皇族二人の一言がトドメとなっていて、一同は固唾を呑んで自身の言葉を待っている。素直に諦めるしか方法がないようだ。
「……内偵になる前は大陸を放浪してたんだ。それで、たまたまリベールを回っていた時に巻き込まれてな。クーデター事件からリベールの異変まで、各地で裏方作業をしていたんだよ」
「そう、そして王都グランセル襲撃の折りに、手練の多い組織相手にたった一人で王都を守護。更には、王国軍の切り札を女王宮まで無傷で送り届けた張本人が彼さ。僕との出会いもその時だね」
観念した様にあらすじを話すと、オリヴァルトが丁寧に補完していく。その会話の流れが自然な事にもそうだが、その内容に更に驚いた一同。
「うそ……」
「でも、あれって確か……」
アリサとエリオットが言葉にした通り、疑問を抱くのも当然の内容である。
今話した事は、実際に世に広まっている事実ではない。表向きでは脚色が施されて事実をすり替えているが、今の話はその前の段階。つまり、実際に起きた真実である。
「そう、その無傷で送り届けた人物が“アラン・リシャール”。表向きの功績者。リシャールさんに全部功績を被せたから、今のは関係者しか知らない裏話だよ」
「でも、“異変”解決後のアリシア女王主催の晩餐会は楽しかったね。スレイン君もモテモテだったじゃないか」
「遊撃士の勧誘にリベール正規軍の勧誘。そして帝国皇族の内偵……勘弁して欲しかったぜ」
「でも、クローディア姫と一緒に何やら楽しそうにしていたではないか」
「アホか。あんたら突入組じゃない人間は俺くらいだっただろうが。各地の状況の報告と労いの言葉を頂いただけさ」
当時の事を思い出しながら楽しそうに話すオリヴァルトと、それを受け流していくスレイン。その姿は傍から見れば、雇い主と内偵の関係ではなく、兄弟にも見える様な光景である。
流石に驚きの言葉を失った一同は口を開けたままで、その様な事しか考えられなかったのであった。
そうこうしているうちに、皇族主催のお茶会は幕を閉じる。
その会話の殆どが皇族二人とスレインであった事は言うまでもない。
その後一同はオリヴァルトの好意で、聖餐室で夕食を頂く事になったのだが、これまた波乱を呼ぶ会話が飛び交うのであった。
「そうそう、忘れていました。実はリィンさんに一つお願いがあるんです」
豪勢なコース料理もある程度食べ終えた頃、突然アルフィンが口を開く。
その言葉からエリゼとリィンは驚いた様な表情をするが、皇族からの頼みという状況に他の一同は不思議そうな顔をしている。
(まさか……)
「ほほう、例の件かい?」
どうやら、オリヴァルトとは同じ答えに行き着いたらしい。
数日前、皇族専用のサロンで話していた“相手”がリィンという訳か。
「ふふ、そうです。―――わたくし、明日の夏至祭初日、帝都庁主催の園遊会に出席するんです。マキアスさんのお父様に招待されているのですけれど」
「え、ええ……自分もだけは伺っています」
「マーテル公園のクリスタルガーデンで開かれるイベントですよね」
マキアスとエリオットも、その情報は知っているらしい。というより、皇族が参加するイベントは既に告知済み。この場の誰もが知っている内容である。
「ええ……それでお願いなのですが。リィンさんに、ダンスのパートナーを務めて頂きたいんですの」
アルフィンの爆弾発言に一同全員が驚くと、直ぐに小言で会話が始まった。
それもそのはず、ダンスのパートナーともなれば、マスコミ関係者からは取りた出され将来の相手としても見られる可能性が高い。
という、そんな話を繰り広げている。あのユーシスでさえ。
「待ってください! その、自分にはあまりに大役過ぎると言いますか……」
「ふふっ、そんな事はありませんわ。男爵位とはいえ、シュバルツァー家は皇族とも縁のある家柄。こう言っては失礼ですが、ユーシスさんにお願いするよりも角が立たないと思いますし……」
「なるほど……それは確かにそうでしょうね。いや、なかなか面白い選択だと思いますよ」
慌てふためくリィンに理路整然と説明するアルフィン。そして、ユーシスもが同調する。
なかなか見られない構図であるので、つい面白がってみてしまう。
「ユーシス、あのな……。その、不調法者で殿下のダンスのお相手など、とても務められるとは……」
「あら、エリゼに頼まれてダンスの練習を付き合っていると聞いているのですけれど……? 一通りのステップは軽やかにこなせるとか?」
「うっ……」
またしてもアルフィンは、リィンの言葉に華麗に追い打ちを加えていく。
しかし、ここでふと嫌な予感が現れる。アルフィンが誘いたい“本命”というのがリィンであれば、断られた場合の”代役”が必要になるのではないだろうか。
それはそれで些か面倒なので、今回ばかりは申し訳ないがリィンを裏切る事にしよう。
「リィン。お前さん……もしかして、意中の人物でもいるのか?」
自身のストレートな物言いは、女性陣には些か刺激が強かった様で俯いてしまった。
「なっ、スレインまで……。そういう訳ではないけど……逆に言えば、だからこそ、お答えする事は出来ないかなと。流石に会ったばっかりですし、明日までは実習ですし……」
「そうですか……。分かりました。リィンさん、無理なお願いをしてしまってごめんなさい」
何故か急に素直になって、誘いを諦めるアルフィン。リィンは安堵した表情をしているが、一同はどこまでが本気なのか分からない様で不思議そうな顔をしいる。
そして、諦めたという事は、矛先がこちらに向くという事。
せっかくのアシストも無駄になってしまったし、オリヴァルトは既に腹を抱えて笑いを堪える事に必死である。
これぞ四面楚歌。もう逃げ場はない様で、観念してからアルフィンを見る。
「という事です。スレインさん。お相手……して頂けますね?」
「「な!? 君(貴様)がか!?」」
珍しくマキアスとユーシスが同時に声を上げる。その事に対して互いに触れていない時点で、それ程までの驚きの様である。
「はぁ……まさか、あの時言っていたお相手がリィンだったとは、驚きましたよ」
「ええ。しかし、お断りされてしまいました。……あの時の“約束”、果たしていただけますか? 私のお・あ・い・て♪」
「約束?」
「スレイン、あなた……」
「ま、まさか……」
口を開いたのはリィン・アリサ・エリオットの順。
それに、以前の話は約束ではなく、ただの“打診”である。
「勘違いされる様な言い方はしないで下さい。あの時“代役”とおっしゃいましたよね?」
「代役か……って、代役!?」
「マキアスうるさい」
マキアスの叫びにフィーがツッコミを入れる。
Ⅶ組の中で一番過激な反応を示す彼をフィーが黙らせるこの構図は、けっこうお馴染みになってきた。
「言ってしまった手前、避けては通れないのでしょう。それに、この場で二度も断わられるなんて真似はさせられません。ただし、貴族ではないのでオリヴァルト殿下も根回しだけしておいて下さいね」
「勿論だよ。いつも通りで手配しておこう。それと……やっぱりスレイン君は“罪な男”だね」
「これ以上余計な事を言うなら、少佐を呼ぶぞ」
「すみません、それは勘弁して下さい」
これ以上変な発言をされてしまうと、収拾が付かなくなる。オリヴァルトを黙らせるには、この方法が一番手っ取り早いのだ。
「ふふふっ、スレインさん。明日は楽しみにしておりますね」
「そうですね。朝にはバルフレイム宮に伺いますので、段取りはその時にお聞きます」
先程から百面相の様に表情を変える一同を放置して、オリヴァルトとアルフィンと話していく。
今更であるが、この設定も仕組まれたものなのかもしれない。そう思えてきた夕食であった。
そんなドタバタコメディの様な夕食も終わりを告げて、エリゼの見送りと共に女学院を後にする。
「まったく……あの兄妹はこれだから困る」
「いや、俺たちからしたら、スレインに驚きだよ。内偵に遊撃士だなんて」
女学院からの帰り道。
自身の呟きを否定したリィンの言葉に一同は頷く。
「まぁ、自慢気に言う事でもないからな」
「でも、サラ教官の経歴も驚きだよね。遊撃士かぁ……最近は見なくなったけど」
エリオットが自然に話題を変えてくれたおかげで、自身への言及は今のところなさそうだ。
「それにA級遊撃士……実質上の最高ランクであろう。フィーは知っていたのだな?」
「
ラウラの話にフィーが答えた所で、前方から歩み寄ってくる二人の気配を感じる。
噂をすれば何とやら。である。
「―――ふふっ。そんな事もあったわね〜」
「サラ教官……」
「い、いつの間に……」
リィンとアリサが言葉を漏らす。
確かに、今回のサラは気配をギリギリまで消していた。Ⅶ組一同には気づかれない程度にまでしているという事は、何かあったんだろうか。
「やれやれ、あたしの過去もとうとうバレちゃったか〜。ミステリアスなお姉さんの魅力が少し半減しちゃったわねぇ」
「いや、そんな魅力は前からなかったような……」
「フン、まさかスレインまでもが遊撃士だったとは思わなかったがな」
マキアスとユーシスが一応サラを批判する。確かにそんな魅力を感じる人間は、このクラスにはいないだろう。
「あら、皇子殿下はそこまで言ってたの?」
「ああ、全部言われたよ。内偵の事も含めてな」
「これであんたもミステリアスな少年でなくなったわね」
「そんなもん狙ってねぇよ」
自身とサラとの掛け合いも慣れているハズなのに、普段以上に見入ってしまうⅦ組の面々。
何故こうも仲が良いのかと思ったのだが、互いに遊撃士として活動していれば、その信頼関係も頷ける。
「ふふっ。スレインさんの隠し事もなくなっていきますね」
「クレア。あれは隠し事じゃなくて、機密事項だ」
後方から現れた女性にそう告げると、一同は多少驚いた表情を見せる。どうやら、この二人が同時に現れるとは思っていなかったのだろう。
クレアの挨拶に短く返すと、その組み合わせに対して疑問を覚える人物が多かった。
「クレアが来たって事は動くのか?」
「ええ、知事閣下の伝言だけど、明日の実習は一時保留。代わりに、このお姉さんの“悪巧み”に協力する事になったわ」
「サラさん、先入観を与えないで下さい」
サラの棘のある言葉を苦笑しながら否定するクレア。
付き合いもそろそろ長いんだから、いい加減にもう少し丸くなってもいいと思うんだが、それはそれで難しい注文の様である。
「サラ。さっきの話だと、もう少し柔くなった方が魅力は増すんじゃねえか?」
「う、うるさいわね! それはいいの!」
「コホン。その、『Ⅶ組』の皆さんに協力して頂きたい事がありまして、知事閣下に相談したところ、こういった段取りになりました。詳細はヘイムダル中央駅の指令所で説明します」
咳払いをしてから一同に説明するクレア。坂下の道路には鉄道憲兵隊が利用する装甲車両が並んでいる。時間も時間なので手短に済ませたいのだろう。
スレイン以外の全員は詳細を知らぬまま車両に乗り込む。実習を保留にするという時点で、緊急事態というのは分かっている。
しかし、それがどういう意味を指すのかは、検討が付かないといった表情をしていたのであった。
「二人共、先に言っておく。俺はクリスタルガーデンに固定で。皇女殿下のダンスの相手をする事になった」
「え!? スレインさん、それは本当ですか!?」
「あんた、それがどういう事か分かってんの!?」
装甲車両の中。助手席に乗ったクレアと後部座席の横に座るサラが同時に声を上げる。
「あの人の事だから遊び半分だろ。一応、オリヴァルトに根回しは頼んであるから、面倒事にはならないと思う」
「だからと言って、園遊会のお相手だなんて……」
「なんであんたはいつもいつも……」
二人の表情がどことなくおかしい。今の所、問題点はそこではないはずなのだが、それが
誰がどこを警備するかなんて、まだ決まってない。だからこそどうでもいい話だと思ったのだが、どうやら違うらしい。
これ以上は何も言わない方がいいのかもしれないと結論付けて、車両の揺れに身を任せるのであった。
という事で、スレイン君の過去もある程度洗い浚い話されてしまいました。
原作では園遊会のパートナーはなしになっていましたが、せっかくのアルフィン皇女の出番ですので、パートナー決定編にしてみました。
園遊会のシーンも書こうと思うのですが、園遊会ってそもそも何なんだ……(笑)
引き続き安定しない更新となりますが、お読み頂ければ幸いです。
今回もお読み頂きありがとうございました。