英雄伝説 魔の軌跡   作:閃の細道

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いや〜、全員を会話に盛り込むというのは難しいですね。何名かは空気になっております、はい。

スレイン君の実力というか秘密が一つ解き明かされますので、ちょっと小難しい話になってしまいました。

早く特別実習に行きたいのですが、もう暫く学院生活が続きます。

では、第5話、始まります。

※2015.08.10 修正


第1章
驚愕の事実


 

 4月17日。

 

 学院生とは、当たり前であるが学生であり、学生である以上避けて通れない道が学業。そして学院にいる中で、大半の時間を割かなければならないのが授業である。

 知らない知識、知るべき知識というものが面白い事に気づき勉学に勤しむ者もいれば、忌まわしきものと捉え勉学を嫌う者もいる。

 どういう訳か、自身がいるこのクラス―――”特化クラス『Ⅶ組』”には、後者は殆ど存在しない。自身の立場と、勉学に勤しむべき事を理解している者が多いからである。

 

 Ⅶ組に在籍しているスレイン・リーヴスにとって、この授業というもの程つまらないものはない。それは勉学を嫌っているといった理由からではない。知っている事を分かりやすく丁寧に解説する(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)授業という時間程、古代遺跡にある重々しい石蓋の様な睡魔が頭上にのしかかる事はない。

 そう、スレインは普通の学院生が習う知識は既に持っているのだ。帝国史から導力学まであらゆる知識がここ数年で身に付いた。それだけではなく大陸中の知識は殆どコンプリート済み。しかし、それは自身の経験をある程度吐露しないと説明が付かない内容なので、然るべき時が来るまでは伏せておこうと思っている。しかし、隠し事というのは意外とすぐにバレるものである。そのタイミングは意外と早く訪れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 放課後。スレインは本日届くハズの荷物を受取る為、足早に自身のクラスの住居である第三学生寮に向かっていた。

 時刻は黄昏時。この時間であれば、日付が変わる前にすべての作業が終わるだろうと考えながら、寮の目の前に到着すると、予想通り宅配員だと思しき男性がそこに立っていた。

 

「すみません、この寮宛ての荷物ですか?」

 

 男性にそう問いかけると、こちらを振り返り安堵の表情で口を開く。

 

「そうです。えっと、スレイン・リーヴス様宛てですね」

 

「あぁ、やっぱり。私宛てなのでこのまま受け取りますよ」

 

 荷物受けのサインをして宅配員に「ご苦労さまです」と労いの一言を添えて見送る。

 足早に自室に戻ると、備え付けの机の脇にある中型端末のスイッチを入れる。起動するまで数分かかるので、その間に先程受け取った荷物を開封して中身を確認する。

 

「またまた、これは気前がいい。今度礼をしないとダメだな」

 

 そう呟くと同時に、1枚の便箋が入っている事に気づく。読んでもらえる事を期待して中に入れた手紙を読まない様な無粋な人間ではないので、先に手紙を一瞥する事にした。

 

 

 ―――遅くなりましたが、頼まれていた物を集めたのでお送りします。ARCUSは私からの入学祝いです。そちらの方がいいと仰っていたので、私の方で新たに手配しました。また近々お会い出来ると思いますが、ゆっくりお話出来る時間がある事を願います。クレア・リーヴェルト―――

 

 

「……TMP絡みで何かがあるって事か?」

 

 差出人はクレア・リーヴェルトという女性。鉄血宰相ことギリアス・オズボーンが創設した鉄道憲兵隊(TMP)に所属する若き女性将校である。階級は憲兵大尉。更に、若年者で構成された宰相直属の配下、《鉄血の子供たち(アイアンブリード)》のメンバーでもある。 常に冷静沈着で的確な判断を下すその頭脳は、導力演算器並と謳われ《氷の乙女(アイスメイデン)》という異名まで付いている。 オズボーン宰相もその能力には一目置いており、貴族派からも最大限に警戒されている人物。

 

 という、冷静にその女性の紹介をしてみたものの、何を今更と思いながら手紙に記載されている言葉について考えた。近々会えるというのがどういう意味を持つにせよ、入学祝いとして自身の大本命の品を送ってくれたこの女性にはきちんと礼をしないと気が済まない。再会の形式がどうあれ、そちらの方はしっかりと考えておく事にしよう。

 手紙に夢中になっていた時間が数十秒。その間に先程電源を入れた端末は、既にスタンバイモードになっていて静かな駆動音を聞かせている。便箋を綺麗に封筒に戻してから引き出しの中にしまい、端末の前にある小さな椅子に腰掛け、荷物の中身を丁寧に取り出していく。そこにはARCUSが一つと導力器(オーブメント)用のパーツが多数入っていた。

 

「さてと、これで全工程が出来る。早速始めるか」

 

 そう呟き一呼吸した後に、機械の中央に自身のARCUSを置き、細かな工具を巧みに操り解体をしていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

「ふう、今何時だ?」

 

 作業に没頭していて時間を忘れたスレインは、一区切りついた段階で顔を上げる。時刻は21時を回った頃。夕食を食べる事も忘れかれこれ5時間程作業していた計算となる。食欲というのは意地悪なもので、食事をしていなかった事を考えた瞬間に強い空腹感に見舞われた。後片付けよりも先に夕食を取る事を選択しようとしたその時だった。

 

―――コン、コン

 

「スレイン、いるか?」

 

 控えめなドアのノック音と共に少年の声が聞こえたので、条件反射で入室を促す返答をする。

 

「ああ、空いてるぞ。あ…」

 

 しかし、自身が先程の作業の後片付けをしていない事に気づき、慌てて入室を待つよう言葉を出そうとする。

 同年代の少年では理解し難い内容であるのと共に、見られた際の説明が面倒だからという理由で、作業風景だけは見られない様にしたかったのだが、時既に遅し。無情にも部屋の扉が開いて少年が入室をしてくる。

 

「スレイン、渡したいものがあ……ん? それは?」

 

 作業終了から片付けていない状態であり、大々的に広げていた端末やパーツが散らかっているので、それに目を向けるのは当たり前である。普通の部屋にあるはずもない機械。備え付けの机と同じサイズの機械端末は、少年からしたら見た事もないものだ。入室したリィンが第一声を遮る程のインパクトには十分な代物だった。

 

「ああ、これか? オーブメント調整用の端末だよ。特注品だけどな」

 

 隠したい訳でもないが、隠さないといけない訳でもないので、質問にはしっかり回答する。

 しかし、この説明を理解出来る人間など殆どいない事を知っているスレインは、面倒な事になったなと苦笑をこぼすのであった。

 

「こんなサイズの端末は見た事もないな。それだとしてもこれで一体何をしていたんだ?」

 

 リィンも知らない訳ではない。故郷でも同じオーブメント調整端末は置いてある。しかし、それはもっと大きな、言ってしまえば端末というより装置。実際に、故郷では調整用の店にあるので、工房に配置する様な大型の物しか見た事がない。自分の用事も忘れて、初めて見たその端末とそれを使用する人物に興味が向いてしまい、様々な憶測が飛び交い詮索を開始してく。

 

「まぁ、見られたからには話すが、まだ夕食を摂ってないから話ならその後で頼む。で、リィンの用件は何だい?」

 

 絶対に長話になると確信があるし、空腹感を我慢して話すのは少々ストレスが溜まる。そう判断したスレインは先に夕食を優先する事にして、一旦端末の片付けを簡単に済ませて部屋を出る。

 そして、学生手帳を渡しにきた事と、階下のリビングルームで皆で話していたからそれに誘った事を伝えたリィンと共に階下に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、確かに食事の後に話すとは言ったが、何で全員揃っているんだ?」

 

 「食事を先に済ませるから質問はその後受け付ける」とリィンに言い残し、この時間から自炊は面倒だと考えたスレインは喫茶【キルシェ】で軽食を済ませて寮へと戻ってきた。リィンと話す予定だったので、次いでにマスターから貰った高級豆でコーヒーを入れようと思いながらリビングルームに向かうと、そこにはⅦ組全員が揃っていたのだ。

 事の顛末はこう。リィンと談話をしていたのがエリオット・ガイウス・エマの3名。そこでリィンが見事に口を滑らし先程見た光景の話をしたら、隣で話していたアリサ・ラウラが反応。お茶を入れに来たマキアスが反応し大きな声で驚き、ユーシスがわざわざ二階から罵詈雑言を浴びせに来た。そして、気づくとほぼ全員が揃っていたので、サラとフィーを読んでスレインの帰りを待っていた。

 という、ありがちではあるが、そんな偶然をこんな所で利用しないでもいいのではないだろうか、と思いながらもため息をついたスレイン。1週間は美味いコーヒーが飲めると楽しみにしていた小袋をエマとアリサに渡して、全員分のコーヒーを入れる様にお願いをした。

 

「さて、揃った所で言うけど、けっこう長くなるし理解し難い話にはなるから、眠くなったら部屋に戻れよ」

 

 スレインはそう告げると、淹れてもらったコーヒーに口を付ける。この香りとほのかな苦味に感動してせっかく分けてもらったのに。などと思いながら、話が始まる事を楽しみにしている全員の顔を見た。

 

「はいはい、もったいぶってないで早く話しなさいよ。あたしだってそれは知らないし」

 

 そう言って、サラはグラスに入った液体を飲み干す。彼女だけは手元のドリンクがコーヒーではなくビール。頑なにビールを離さないサラに対して、声を掛ける事を諦めた皆が正解である。コイツはアルコール以外を飲まないと言ってもいいほどの酒好きなのだ。

 そしてサラの最後に放った一言に、皆が不思議な顔をしているのは当たり前の事である。俺とサラの関係はフィーを除いたメンバーには知らない話だ。

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

「リィンが見たのはオーブメント調整用の装置である事は間違いない。でも、俺の部屋にあるのは、通常のものよりも遥かに小さいもので実際の調整工房にあるものとは用途が異なる」

 

 話さないと何時まで経っても終わらないこの状況を鑑みて、スレインは口を開いていく。全員の顔が真剣になっているのだが、フィーだけは眠そうにしていた。

 

「スレインさん。そうなると調整をしていた訳ではない、という事ですか?」

 

 そう発言したのは、学年主席で入学した、メガネでおさげという典型的な才女のエマ・ミルスティン。メガネを外せばいい感じなんだけどな、という在り来りの感想は別として、その質問に答える為にスレインは会話を続ける。

 

「そうだ。オーブメントの調整はセピスが必要だからな。それにクオーツの合成や変換もセピスや特殊な素材がないと出来ない。それにそんなものは工房に行けば誰でも出来るから、わざわざプライベート空間で行う必要はない」

 

 ここまで言い切って全員を見ると、お次は次席でエマに対抗心を燃やしている、と思われる緑髪の少年マキアスが口を開く。

 

「それは間違いないんだが、そうなると君の装置は何を行う為の物なんだ? オーブメントに関しては、基本的にクオーツスロットの開放とクオーツそのものの合成。その2点以外に関して出来る事はないハズだ。更に言えば、戦術オーブメント自体が完成されている物であって、それ以外に使用者が行う負担はないだろう」

 

おお、さすがは次席でガリ勉(これはスレインが授業中に見た彼の感想である)。教科書通りの発言に誰もが肯定の頷きを見せる中、スレインは次の発言に備えて沈黙を決め込む。

 

「(まぁ、その理論をひっくり返す必要があるからマキアスでは無理だな。さぁ、誰が最初に根底を覆すか……)」

 

「ま、まさか……」

 

 腕を組み片手を顎に付けるという、在り来りな推論スタイルが様になる金髪の少年が呟く。

 

「ユーシス、何か気づいたのか?」

 

 そう問いかけるのはリィン。彼も必死に思考を巡らせる素振りはあったのだが、授業中の彼を見ると如何せん難しい内容だろう。声を上げたユーシスに発言権を下した様に声をかけた。

 

「いや、まさかとは思うのだが、でも、しかし……」

 

 ユーシスは1つの仮説に到着したが、それを否定したがるかの様に声を出す。

 それはそうだ。自身の行為は、先程マキアスが言った『正論』を覆すもの。否定したがるのはごく自然な事なのだ。他のメンバーにとってはお手上げなのか、ユーシスの発言が気になるのか。既に推論をやめて、ユーシスの方に目を向ける。それは、彼を目の敵にするマキアスも同じであった。

 

「もったいぶってないで言いなさいよ。あたしは早く聞きたいの!」

 

 無言の空間を切り裂いたのはサラだった。スレインの方を見つめ、自分の口から答えを出して皆を驚かせろ、といった表情と僅かな笑みをする。

 どちらにせよ、ユーシスが頑なに推論を否定する以上は話が進まないので、こちらからユーシスに問いかける様に話を進める。

 

「ユーシスが考えている事は、恐らく合ってるよ」

 

 自力で答えに導き出したであろう少年に向けてそう言いながら、続きの言葉をなるべく分かりやすく説明していく。

 

「確かに、マキアスの言う事は正解だ。というより、不変の事実だ。戦術オーブメントは、既に出来上がった代物であって、誰にでも使える様に調整は最低限のものになっている。しかし、そこが盲点なんだよ。誰にでも使えるというのは同時にそれだけ遊びがある(・・・・・・・・・)という事にもなる」

 

 そこまで言い切ると同時に、何人かがその後に続く言葉を見つけ出した。流石にそれは常識を逸脱しているといった驚きの表情で目を見開き口が開いている。

 

「じゃ、じゃぁ、君は本体を調整しているのか!? そんな話は聞いた事がないぞ!」

 

 自分の知る常識と戦うかの様に声を荒らげるマキアス。この反応は無理もない。自分だって自分以外でそんな事をする人間は聞いた事がない。いや、一人だけ似たような事をする人物を知ってるが、今は関係ないので伏せておこう。

 

「そう、正解。誰にでも使える戦術オーブメントは、一見とっても万能な代物だ。しかし、その万能ってのは、一種の問題点を抱えているのさ。万能が故に、その機能に遊びを付ける事で制御されているんだ。個の力を最大限に発揮出来る戦術オーブメントは、その万能のもとで個の力を最大限に平等にしているって訳。しかし、支給されたARCUSを見てみろよ。クオーツラインがそれぞれバラバラになっている時点で平等ではないんだぜ? それなのに、何で戦術オーブメント自体の出力が平等になる様に制御される必要があるんだ? 本体の外部構造が不平等なのに対して、本体の内部構造が平等である時点でお察しだ。わざとこういう造りにしているしか考えられない。そこに俺は目を付けて内部構造の改造をしているって訳」

 

ここまで言って周りを見ると何人かはもうギブアップのようだ。頭上に「?マーク」がいくつも漂っているメンバーがちらほらいる。

 

「平たく言うと、戦術オーブメントにある遊びを削って、効率良く利用出来る様に改造しているって訳。それで、俺の部屋に置いてある端末は、パーツの出力を演算したり内部をいじったり出来る装置ってこと」

 

「貴様、規格外にも程があるぞ。大体、一介の学生がそんな高度なスキルを身に付けるなど……」

 

「そ、そうよ。私もオーブメントにはちょっと理解があるけど、そんな事が出来る人間なんて見たことないわ」

 

 ユーシス、アリサと順に異を唱える。まぁ、当たり前の反応なんだけど、こうなるからなるべく穏便にしたかったのだが。

 

「まぁ、皆がそう言うのも分かるけどコイツは別格なのよ。肝心な事を言ってないから皆そう思うだけ。スレイン、それ言えば納得すると思うわよ?」

 

 手元い置いてある酒瓶が空になって、冷蔵庫から次の酒瓶を取りに行くつもりのサラが発言した。自身が一番言いたくない事を言えと言っている。それは隠さないともっと面倒になるから言わなかっただけであり、そもそも隠す為に偽名を使った内容だ。この女性に言った覚えはないのに、それに気づいていたらしい。

 全員の期待の目が少々痛くなってきたので、ここまで言われたら腹をくくるしかない。ため息を付いてコーヒーを飲むと観念した表情で言葉を開く。

 

「……では一旦話を変えよう。ここで一つ皆に問題だ。戦術オーブメントを開発しているのは何処だか分かるか?」

 

「エプスタイン財団ですよね」

 

 代表してエマが答える。この質問は簡単過ぎた様で、一同が当たり前だという表情でこちらを見ている。

 

「じゃぁ、帝国には新しい戦術オーブメントとしてARCUSがあるから皆は当たり前のように現在所持しているが、現行で主流になっている戦術オーブメントはARCUSではないのは知ってるか?」

 

「確かENIGMA(エニグマ)…だったよな」

 

そう答えるのはリィン。流石にこれも分かってると言った表情は周りも同じである。

 

「その通りだ。今年に入って公表された戦術オーブメントのENIGMAだが、公表時の開発チームの名称は知ってるか?」

 

 暫し無言。まぁ、少年少女には開発チームの名称なんざ知ったこっちゃないってのは分かるんだが、お前らの立場ならニュースは最後まで見るべきだと思うぞ。俗人とは違うんだから。

 

「確か…sir valence……だっけ? あんまりその手のニュース見ないから合っているか自信ないけど……」

 

 次はエリオットが口を開く。見ないと言っていながらも、しっかりとニュース全文を把握していないと出てこない答えを出す所から真面目な性格だと伺える。

 

「そう、正解。んで、皆さん、何でこんな問題を出しているのか、意味がわからないって顔をしてるんだけど……」

 

 そう話したスレインは笑いを堪えながら(といっても誰も気づかないレベルで)一同へ最後となる問題を出す。

 

「その開発チームの名称、sir valence。微妙にスペルが違うんだが、並べ替えるとある人物の名前に近づく」

 

 会話の流れで殆ど答えを言っているようなものなのだが、カップに入った残り僅かなコーヒーを飲み干す。その数秒で答えがが見つかった一同は、ほぼ同時に声を上げた。

 

 

「「「「「「「「Slain Reeves!スレインの事か!」」」」」」」」」

 

「はい、よく出来ました」

 

 そう、スレイン・リーヴスは以前、エプスタイン財団の戦術オーブメント研究チームに属していた。と言っても、研究者の一人と親しかっただけであったが、年齢に不相応な頭脳を持っていた為に、無理やり研究に参加させらたのだ。その際に破格の報酬と引き換えに、ENIGMAの開発プロジェクトに参加し製品化まで付き合ったのだ。

 

 という説明を簡単にして、コーヒーのおかわりを注ぎにキッチンの方へ向かっていく。最後まで話したからもういだろうと思い、そのままコーヒーを一口含むと、クラスメイトの驚きと興奮の会話に参加しなかった1人が話しかける。

 

「やっぱり、あれはアンタの事だったのね」

 

「あぁ、サラは気付いてたんだな」

 

 スレインに話しかけてきたサラは、3本目の酒瓶を冷蔵庫から取り出しグラスに注いでいく。

 

「そりゃね。あたしにENIGMAの試作機を渡したタイミングからして、公表された情報を確認しない訳ないでしょ」

 

「そりゃ違いない。ま、正確に言うと、ARCUSも絡んでるんだけどな」

 

「え、それ本当なの? 流石にそれは知らないわよ?」

 

「シャロンが思いの外早く気付いてな。ENIGMAじゃまだマスタークオーツを使えなかったし、ラインフォルトのハード設計だとENIGMA以上の性能だったんだよ。技術屋じゃねぇけど、見つけたものを使えないってのは面白くないし。ま、それでも最終設計くらいしか絡んでないけど」

 

 あれよあれよと爆弾発言を続けるスレインと対峙するサラは、さすがに驚きを隠せず、ただ呆然と彼を見つめる。

 

「アンタの才能には呆れるわよ。昔から異常だと思ったけど……ねぇ、本当はあの時に何かあったんじゃないの(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 スレインにそう問いかけたサラは、哀愁を漂わせながら心配そうな目で彼を見つめる。

 

「何もなかった。いや、何も覚えていないから分からんさ。頭打って覚醒したのかもな……」

 

 そう笑いながら顔を背ける少年が、どこか寂しげで何かを隠している様な苦笑いをしていた事には気付いてたのだが、それ以上の追求は出来なかった。

 

「ま、俺は万人受けする自分の作品が自分に合わないから改造しているだけであって、何でもかんでも弄る趣味はないぜ?」

 

 一瞬の間を置いてから先程の表情を消した少年はそう言い残して、これから質問攻めに受ける事を覚悟しながら、まだざわついているリビングルームへと戻っていった。

 

「……あんな顔して隠せると思ってんのかしら。心配してるのに何も言わないで……こっちの気持ち考えなさいよね」

 

 そう呟いた女性は少年の表情を思い出しながら、グラスに注いだアルコールを一気に飲み干す。そうする事で、自分の本当に言いたい言葉までを飲み干す事にした。

 

 

 




戦術オーブメントについての資料が少なく悪戦苦闘でした。

スレイン君が言っている改造する人は、ギルドのあの方な訳ですが、その絡みは当分出てこないと思います。

ゲーム上ではENIGMAⅡからマスタークオーツが使用可能になっていますが、時系列を辿るとARCUSの方が先っぽいんですよね。
その辺りは大人の事情かもしれませんが…(笑)

さて、次回も学院生活が続きますので、
特別実習が気になる方はもう少しだけお付き合い下さい。


今回もお読み頂きありがとうございました。
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