今回は実技テストまでとなっております。
中身がスカスカなのはご容赦下さい。
※2015.08.10 修正
4月18日。
「だーかーらー、出来る範囲で言いから教えてってば! 全部は無理かもしれないけど、教えるくらいいいでしょ!!」
半日前に聞いた似たようなセリフを、強要と重複の意を込めて繰り返される。その言葉に、嫌そうな表情は出さないものの、ついため息が出てしまう。
先日の戦術オーブメントの開発・改造をしている事をカミングアウトしたこの少年。スレイン・リーヴスは、学生会館の食堂で昼食を取りながら2度目のお誘いを受けている。
「何度も言ってるが、教えられない。ましてや、基礎技術が半端な学生には尚更だ」
スレインに教えを乞うているのは、金髪ツインテールの少女アリサ。昨日の夜から諦める事をしないで、せっかくの自由行動日という限られた時間を割いてまで勧誘をしている。部活でもあるまいし、諦めずに熱心な勧誘を続けるという点だけは、スレインも尊敬の意を表している(といっても、そんな事は一切口に出していない)。
しかし、スレインも嫌がらせをしている訳ではない。断る理由があるから相手の誘いに乗らないのだ。その理由は大きく分けて二つ。
一つは言葉にもしている通り、いくら導力学が得意で学生から見て背伸びした知識を所有していても、そのレベルで理解出来る程、戦術オーブメントは甘くない。戦術オーブメントは導力学の中でも最難関と言われる程のハードである。基礎から教えていたら、年単位が必要な内容だ。
そしてもう一つの理由が、学ぶ理由を言わない事。これは単純にスレインが引っかかっている点である。教えを乞うのであれば、教わりたい意思表示だけではなく、理由も必要だとスレインは考えている。それを口に出さないという事は、明確な理由がないか、人には言えない理由なのか。アリサを悪く思っている訳ではないが、後者であった場合は問題である。戦術オーブメントは兵器と言っても過言ではない。それを理由もなしに教えるには危険というのが一般的な感情というものだ。しかしスレインの場合は、兵器云々の前に、純粋にこの少女が学びたいと思う理由が知りたいのである。
「アリサ。1つ聞くけど、何故そこまで俺の知識が知りたいんだ? 導力学はこの学院でも高い水準で学べるぞ?」
自分が座っているのに対してこの少女は今まで立ちっぱなし。この構図はギャラリーの目も痛いので、とりあえず椅子を引いて座らせる様に促す。今日のアリサは折れるつもりはないという決意が表情に表れているので、色々考えていた予定を全て後回しにする事を決めて、観念した素振りで話を聞く。
「単純にもっと導力学に対する知識が欲しいの! ……今のままでは嫌なのよ!」
そう言い放つ彼女には、一瞬だけ焦りと不安の表情を浮かべていた。その微妙な表情を察知したスレインは、暫し沈黙を決め込む。
面倒ではあるが、真面目に話す必要があるみたいであるので覚悟を決める。アリサに「続きは校舎の屋上で話そう」だけ伝えて、食器を片付けてから本校舎へと歩みを進めた。
トールズ士官学院の本校舎は、3階建ての構造で北側に向かって凹型になっていてる。屋上からは南側にトリスタの町並みがある程度見え、北側にはベンチも設置されている。しかし、隣合わせに座って和気あいあいと話す内容ではないので、あえて南側のフェンス越しから見える町並みを背景に話す事を決めた。
「なぁ、アリサ。何故そこまでして導力学を学びたいんだ? ましてや俺の知識はかなり特殊だ。流石に理由もなく了承出来るレベルの内容ではないぜ?」
自分から切り出さないと話は進まないと思ったので、フェンスに寄りかかりながら少女に問いかける。
「そ、それは…… 家柄で、導力学に詳しくなりたいから……」
困惑した表情で何とか答えようとするアリサ。しかし、肝心な事を隠そうとしているその回答に、痺れを切らして口を開いていく。
「詳しくなってどうする? 知識を持って何がしたいんだ?」
「え、えっと……」
さすがに踏み込み過ぎた様で、言葉に詰まり困惑の表情をしている。
これでは、完全に弱者を口で言い負かす悪者だ。
「アリサ、はっきり言うが俺はお前さんの出自を知っている。んでもって、どういう悩みを持っているかもある程度予想出来る。その立場から言わせて貰うけど、アリサが本当に得たいモノは技術でも知識でもなく、もっと単純なものだと思うぞ?」
ここまで言い切り、寄りかかったフェンスから重心を戻すと、身体を反転させてトリスタの町並みに目線を変える。
「な、なんでそんな事知ってるの!?」
秘密にしている事を知られていた恥ずかしさなのか、少女の声は若干裏返っていた。
「まぁ、ARCUSの開発に関わってたからな。シャロンやイリーナ会長から、アリサの事はある程度聞いてたんだ。というより、ラインフォルトの事って感じか」
ここで余計な事を話すと面倒になる事は目に見えているので、ラインフォルトとの
「あなた、ARCUSにまで関係しているの!? ていうより、あの二人、そんな話してたの!?」
「そんな詳しくは聞いてないぞ? そういう背景もあって、ある程度の家庭事情は知ってるから話すけど、アリサは何をしたいんだ? 知識を得て技術を身につけて……それでどうするんだ?」
「……」
時間にしては五秒程。しかし、とても長く感じる沈黙が、昼間の屋上に広がっていく。
「今の沈黙が埋まる答えを先に見つけろ。自分のしたい事を決める明確な意志。これが決まれば、本当にすべき事は自ずと見えてくる。焦らないでいいからゆっくり見つけろよ。何と言っても俺達は学生だ。学生らしく悩んでから答えを出してもバチは当たらないぜ?」
再び少女の方を振り向くと、その言葉では満足しなかったのか、まだ何か言いたそうな表情でこちらを見返していた。
しかし、これ以上言った所で彼女自身の答えが見つかる訳ではない。少女に近づき肩を軽く叩く。
「大いに悩め、若者よ! なんてな」
そう言い残して、振り向かずに手を振って階段を降りていく。
「あなただって若者でしょうに」
そう呟いたアリサは、納得こそ出来なかったものの、その表情は少しばかり明るくなっている。
何か手掛かりが見つかった様な気がして、屋上に吹く心地よい風を全身で感じていた。
―――*―――*―――
時を進めること数時間。
スレインは自室に戻り最終調整を終えたARCUSを手に取ると、音声通話機能が問題なく作動するかの確認も含めてとあるナンバーに電話をかけていた。
機械的な呼び出し音が聞こえる。発信機能には問題がなさそうだ。5コール程聞こえた後に、受話音が聞こえる。
「あーもしもし? 今大丈夫か?」
用事があってかけた訳ではないので、相手の状況を先に確認する。
『ええ、大丈夫ですよ。丁度一区切り着いて休んでいる所でしたので。いきなりどうしました?』
通話口から聞こえてくるのは、澄み切ったソプラノに近い声。そして、慌てた後に取り繕った様な声にも聞こえる。
「本当か? あんまりドミニクさんに仕事押し付けるなよ?」
『えっ、な、何で分かったんですか?』
着信が来た途端に慌てて部下に仕事を押し付けたいう事を想像して、それをそのまま口にする。どうやら本当だったらしく電話口で咳き込む声が聞こえた。
『それはそうとクレア。荷物ありがとな。 それにわざわざ入学祝いまでさ。新品用意するの大変だっただろ?』
スレインは昨日受け取った荷物の差出人である、クレア・リーヴェルトにお礼を兼ねて電話をしている。
動作確認の一貫ではあるが、やはり自身の想像を超える品が送られてきたので、お礼を言わないと礼儀に反する。というのも、また1つの本音である。
『いえいえ、スレインさんの頼みですから。それにそちらの方が良いと仰っていたので……それって、私なら用意出来ると思ったのでしょう?』
「まぁな。
鉄道警備隊は軍属。その為、戦術オーブメントを手配する事は至って普通である。しかし、支給されたばかりの品を、新たに1つ支給するにはそれなりの理由も必要なのだ。
しかし、それがどんな理由であれ、結果として受け取っている。わざわざ理由なんて野暮な事は聞かない。
『気にしないでください。本当はもう少しちゃんとしたお祝いをしたかったのですが……』
「いや、あれで十分だよ。おかげ様で最高傑作が出来上がった。こうやって通話機能も問題ない事が分かったしな」
『それなら良かったです。という事は、通話機能の動作確認でお電話を?』
「それもある。でも、どちらかと言うと、やぱり入学祝いのお礼かな? 手紙の内容も気になるし」
流石に男性が女性に電話をかける時に動作確認だけが理由というのは、あまり品が良くない。
それだけで電話を切る事も相手に悪いので、同時に思わせぶりな手紙の事を吐露する。実際の所、これも電話をかけた理由の1つなのだ。
『ええ、最近、領邦軍の動きが変わってきています。こちらでも対処出来る部分はあるのですが、動きが読みにくく狙いがはっきりと分かっていないのが現状です』
今までの穏やかな口調から一変、真剣な声色でそう話す。
「貴族派が動き出した、か。まぁ、狙いが分からん以上は、無闇に詮索しても憶測の領域しか出ない。それまでは現状維持だろうな。……あぁ、それで俺が動くと予想したってことか。しかし、残念な事に俺は休業中だぞ?」
近々会えるという意味がやっと分かった。狙いは分からないが、領邦軍を動かしているのが気になる。その内容としては、貴族派が革新派に何かを仕掛けようとしている可能性が一番高い。その対立に繋がる様な行為を、皇族は黙っている事は出来ないから、直属の自分が動くと考えたのだろう。
しかし、残念ながらトールズに入学する際に、自身の雇い主でもあり学院の理事長でもあるオリヴァルト皇子から直々に休業と言われているのだ。
『そうでしたか……でも、私の予想は当たりますよ?』
恐らく、この手の話題はあまり話す事ではないと踏んだのだろう。笑みを含んだかの様な優しい声に戻っていた。
「それは間違いないな。んじゃぁ、お礼も兼ねて今度ヒマがあったら食事にでも行くか」
『え!? え、ええ。分かりました。楽しみにしていますね』
何故かとんでもなく上ずった声が聞こえたのだが、敢えて何も言わないでおく。
「じゃぁ、また連絡する。 ありがとな」
最後に「お待ちしてます」という彼女の言葉を聞いて俺は電話を切る。
動作確認正常。手元に置いてあるノートにそう書くと、全工程に『正常」の文字がある事を確認して閉じた。後頭部を両手で支えながら椅子の背もたれに重心を捧げ、窓の外を見つめる。
「(とりあえず、大きく動き出すまでは考える必要はないかな……)」
今は学生である自分がヘタに動くと色々な問題が発生する。思考を停止させて目を閉じ、少年は思考を停止して浅い眠りにつくのであった。
―――*―――*―――
「さーて、それじゃあ第一回目の実技テストを始めるわよー」
4月21日。雲一つない晴天の中、士官学院のグラウンドに集められたⅦ組メンバー10名は、サラの軽快な声と共に僅かばかり気を引き締めた。
リィン、アリサ、エリオット、ラウラ、エマ、ユーシス、フィー、ガイウス、マキアス、そしてスレイン。各々が、その手に得物となる武器を携えて、ほぼ全員がやや緊張した面持ちで次の言葉を待っている。
士官学院に入学してから3週間が経過し、レベルが高く進行の早い授業にもようやく慣れてきた(といっても、スレインにとっては全て知っている内容ではあったので慣れるも何もない)頃に、突然担当教官のサラから二つの事柄が伝えられた。そしてそれが、この”特科クラス”という名の通りの特別な事項であった事を悟るスレインとは裏腹に、皆が一様に不思議そうな顔をしたのである。
一つは、定期的に行うという”実技テスト”の告知。戦術リンクが使えるⅦ組ならではのテストを行うとの事だったのだが、入学早々に行ったオリエンテーリングとの事を考えれば、実戦形式である事は明白である。
そしてもう一つは、二つの班に分かれて行うという”特別実習”。各々の班が学院とトリスタを出て、帝国各地に赴き出された課題に取り組むという授業。現時点ではその詳細が明かされておらず、実に曖昧な取り組みである。
そんな回想をしながら担任教官に目を向けると、悪戯っぽい笑みを浮かべて全員の方を見ている。対して一同は、一抹の不安と適度の緊張を持ちながら自分の武器を握りなおしていた。
「そんじゃ、始めるわね~♪」
開始の声と共に、サラの指鳴りの音がグラウンドに響く。すると、それと連動するかのように突如として浮遊する謎の物体が現れた。
「「「「えっ!?」」」」
その目の前で起きた非現実的な現象に、思わず驚愕の声を漏らす一同。それも当然の事だ。一般人では見る事のない摩訶不思議の物体。機械の様な直線的なフォルムではなく、動きも滑らか。かといって、生命体と称するにしては些かニュアンスの違いを指摘出来る程の謎が生まれる。
目の前に現れた紫色の謎の物体。よく見るとボディに『Type-α』と刻まれており、それが名前、いや、正確には型番だろう。それが記述されているのが分かる。
しかし、これが何なのかを知っていても、担任教官殿の事だから曖昧な表現で逃げるだろう。ましてや他の生徒がいる前で、普通だったら知らない内容が飛び交う事も無粋である。スレインは黙ったままサラの説明を待つ。
”実技テスト”の内容はそれほど複雑なものではなく、サラが指定した複数人でチームを組み、この機械(戦術殻と言うらしい)と戦闘をして、その結果で評価を決めるというもの。ただし、チームプレー度外視の個人戦闘では評価は付かず、戦術リンクを駆使して戦い勝利を収める事。つまりは団体戦の試験内容である。
最初に指名されたのは、リィン、ガイウス、エリオットの三人。上手い具合に前衛と後衛に分かれたチームであり、実際、その動きも悪くはなかった。
東方剣術《八葉一刀流》を用いて、行動の妨害や技の阻止をして巧みな技で戦術殻を翻弄するリィン。長槍を巧みに操り、スピードと破壊力を合わせた動きでリィンの作り出した隙を確実に攻めこむガイウス。そこにエリオットがタイミングよくアーツの攻撃を打ち込み、反撃の隙を与えないお手本のような戦闘を披露。特に苦戦する事もなく勝利を収めたのであった。
「(オリエンテーリングの時よりも動きがよくなってるし、戦術リンクも上手く活用されてるな。特訓でもしたのか?)」
とても便利に見えて、誰でも使えそうな戦術リンクでもある程度の相性は存在する。互いの動きを理解するという点では、ある程度の信頼関係がないと成立しない。それはまさに人間関係を示す様なものである。スレインは列に戻ってきた三人に労いと賞賛の言葉を送った。
聞けば三人は昨日、旧校舎の中を探索しており、その際の戦闘で戦術リンクの練度を高めていたとの事。それを踏まえればあの練度の高い戦術リンクや攻撃タイミングは頷ける。いい具合に実戦慣れをしているのだろう。
しかし、順調なのはここまでだった。次に指名されたのは残り全員のラウラ、アリサ、エマ、フィー、ユーシス、マキアスの6名。人数が多い事にマキアスが疑問を述べたものの、勿論サラの前では却下。犬猿の仲である2人を抱えている以上、少人数でチームを組んでも碌な事にならない。それが他チームに分かれてもつべこべ文句を言うというのも合わせて、誰の目から見ても明らかだった。
実際、その戦闘内容はお世辞にも優秀とは言い難いもので終わった。結果こそ女子勢の尽力により勝利したものの、”戦術リンクの活用”というテーマに沿って見てみれば及第点は付けられない。
というより、結果的に勝利した事による及第点は、ほぼ100%女子のおかげ。原因は言わずもがなである。その結果を巡ってまた一悶着が起きそうになったところで、サラが言葉を挟んだ。
「はいはいそこケンカしないの。とりあえず君たちはこの結果を受け止めて充分反省するように」
「うっ……」
「フン」
流石にそれを無視してまでいがみ合いを続行する気はなかったのか、大人しく列に帰っていく二人。それを見て女子勢も、ため息と苦難の表情と共に戻って来る。
「お疲れさん。大変だったな」
俺が女子勢に労いの言葉をかけると、「それぞれが早く修復してくれ」といった様な言葉呟く。確かにこれは異常な程の仲違いだ。確かに生理的に受け付けないヤツってのは存在するが、いちいち口論になる程の状況を毎回作り出している以上、原因は些細な事なのかもしれない。
そして、実戦形式でもあるこの実技テストでこの調子だと、本当の実戦では取り返しの付かない事になり得る。この状況は流石にマズイと考えるのだが、これは本人達の問題。わざわざ自分が手をだす必要なない。そう考えていた。
「さて、最後にスレインね。前、出てきなさい」
そんな思考を遮る様にサラの言葉が聞こえた。そもそも、戦術リンクを利用するテストで何故1人指名なのかが気になる。ニヤついた表情でこちらを見るサラにはどうやら他の企みがある様だ。
「あんたをチームに入れたら正当な評価が出来ないでしょ。とりあえず実戦経験を見せてあげなさい」
サラが指を鳴らすと同時に、目の前にある戦術殻が更に二体纏めて出現した。計三体。どうやらこれを相手にするのがスレインの実技テストらしい。
「あんた達もよーく見ておきなさい。これが実戦経験のある人間の戦い方よ」
サラは皆にそう言って後方に下がる。そして、Ⅶ組一同は固唾を呑んでスレインの方を見ていた。それがどういう事かは分かるのだが、いくらなんでも3体はやり過ぎなのではないか。そんな表情で。
「始めっ!」
サラの開始の声と同時に、三体の戦術殻が独立した動きでスレインに向かってくる。実戦経験があっても、普通の者であれば三体を相手にするには荷が重い。目・耳・四肢と最大でも二つずつしかパーツがない人間では、どう足掻いても対処方法に限界があるからだ。
しかし、その一方でスレインは開始時から微動だにせず、全体を視界に入れる様に前を向いているだけ。その状況が理解出来ないⅦ組メンバーは、ただ黙って前を見ているだけである。
「さて、と……」
そう呟いた彼は、左手に持っていた得物を中段に構えて、切り込みの体勢に移る。一体目が右から接近してその拳を振るう。それと同時に二体目は正面から、三体目は少し迂回してやや後方から迫っていた。
そのタイミングでスレインは動き出す。一体目の拳に剣を突き刺し、その動作を一刹那止める。それを下段に弾くと、戦術殻はバランスが崩れる。その拳に片足を乗せて二体目の、人間で言う脊髄部分に斬撃を浴びせる。それと同時に一体目の拳を起点として、後方にバク宙。三体目の後ろに回り込んで、背後から二体目と同じポイントに斬撃を放つ。そして、拳を抑えるものが無くなり、バランスを取り戻した一体目にも、同じポイントに斬撃を浴びせる。それと同時に三体の戦術殻は沈黙した。
時間にすると5秒にも満たないその刹那で勝敗は決まった。何が起こったのか分からないメンバーもいたが、各々が口をパクパクとして言葉が出てこない。完全に動作を停止した三体の戦術殻の前にして、スレインは「やれやれ」と呟くとサラの方を向いて目線で続きを促した。
「はい、ごくろーさま。あっさりクリアしちゃって面白くないわね。もう少し手加減しなさいよね。じゃ、リィン、感想どうだった?」
サラは本当に苦笑いをしていた。どうやらもう少し苦戦すると踏んでいたらしい。その点ではサラもスレインの実力を見誤っていたという何よりの証拠であった。
「え、えっと……とにかく圧倒されました。目で追う事で精一杯で、これが実戦経験の差という事なんでしょうか?」
いきなり指名されたリィンは、言葉にならない現象を言葉に表す事で精一杯だったようだ。
「まぁ、元々のレベルが高いってのもあるけど、一瞬の判断で動くという点ではやっぱり差があるわね」
「それと、こう言ったら悪いんですが……スレインってアーツがメインなのかと思ってました」
そのリィンの言葉には一同全員が首を縦に振っていた。それもそのはず、スレインは戦術オーブメントを開発するレベルだ。実戦となってもその知識を最大限に発揮するにはアーツの方だと誰もが判断するであろう。
「ま、そう思うのも当たり前だが、実戦はそんなに甘くない。知っている知識だけが全てじゃないって事さ。ちなみに、アーツを使っていいならそれこそ一瞬で終わったぜ」
スレインはリィンにそう告げると、何事もなかったかの様に一同の列に戻っていく。
「そうよ。情報って言うのは、時に先入観として間違う事もあるの。今回の事で分かったと思うから、目の前の情報だけが真実なんて思っちゃダメよー」
サラはそういうと、スレインの方をチラッと見て全員の顔を見渡す。恐らく、先程のリィンの指摘通り、自身がアーツ専門だと思っていた全員の認識を改める結果にしたかったのであろう。「余計なお世話だ」なんて思ったが、口にする事はせず、ただ黙っておく事にした。
そんな事を考えている間に、サラから一枚の紙が配られる。既に話題は、3日後の”特別実習”に移っていたらしい。その班の振り分けの詳細が書かれたそれを一瞥する。
【4月 特別実習】
A班:リィン、アリサ、ラウラ、エリオット、スレイン
(実習地:交易地ケルディック)
B班:エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス
(実習地:紡績町パルム)
スレインが向かう事となったのは、帝国東部・クロイツェン州にある交易が盛んな土地、ケルディック。ユーシスの実家『アルバレア公爵家』が治める土地であり、大市という市場がある活気のある町である。初めての”特別実習”を執り行う場所としては悪くはない場所だ。
問題となったのは実習地ではなく、この班の振り分け方。A班はともかく、B班は狙いすましたかのように最悪だ。
「ど、どうして僕がこの男と……!」
「……あり得んな」
今までの流れで、ある程度鎮火しかかっていた二人の間に再び油が投入される。それだけではなく、彼らと同行する事になった三人もどこか憂鬱そうな表情を浮かべていた。
「(……これはわざとなんだろうな)」
サラの方に顔を向けると目が合い、意地の悪い笑みが浮かんでいる。
まぁ、「班が違うから関係ないか」と思いながらも、それと同時にB班が全員無事で帰ってくる事を願うのであった。
今回は会話パートが多く、スレイン君があんまり行動していない様になってしまいました。
今後は色々な所に巻き込まれていく形になると思いますので、温かく見守っていて下さい。
それでは、お読み頂きありがとうございました。