トカゲ娘が幻想入り   作:ごぼう大臣

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今回は少し視点変更が入っています。◆、◇が目印です。


私に勝てる?ルーミアはどこ?

 

『咲夜さん!大変です!』

 

『何よ。騒々しい。』

 

『ここに来たんですよ、"アレ"が・・・・』

 

その幻想入りの情報は予め受けていた。その危険さも、今の状態も、口伝えではあるが聞いている。しかし、まさかいきなり此方に来るとは思わなかった。

 

『どうしましょう・・』

 

実は、どうするべきかは既に聞いている。曰く、

 

[極力刺激しない。]

 

これが自分達への指令だった。それが危うさを避ける為の最善だと。しかし、いざ目の前に来てしまったとなれば途端に怖くなり、すぐ上の立場の咲夜さんに相談した。今思えば、これが不味かったのかもしれない。

 

『潰しなさい。』

 

『・・え?』

 

きわめて冷静に発せられたその言葉は、事前に示された方針とは対極のものだった。不可解な顔をしている私に、咲夜さんは続ける。

 

『今現在の姿を見ているのでしょう?今が一番のチャンスの筈よ。』

 

『で、でもそれじゃあ・・』

 

煮え切らない私の言葉を、咲夜さんは遮る。

 

『確かに・・"お嬢様"は承知するかは分からない。しかし今手を打たなければゆくゆく大事にもなりかねない。今のうちに・・

 

・・最悪でも、"ルーミアと引き離す"わよ。』

 

『・・・・・・・・』

 

結局、私は咲夜さんに賛同した。館の主人、"お嬢様"と咲夜さんのどちらが信用できるか、という問題ではない。一思いに問題を排除する、自分でそう決めたのだ。それが暴力に訴えられてもやむを得ない、身勝手なことだと知っていても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「らあああぁぁっ!」

 

一足飛びに、大きく振りかぶって殴りかかる。しかし、突き出した拳はひょい、と最小限の動きでかわされる。

 

「っ!」

 

咄嗟に追撃しようとするが、体がついて来ないうちに頬にカウンターをお見舞いされる。

 

「ぐっ・・・・」

 

口の端から血が、つぅっと顎を垂れる。その血を拭う間、美鈴はこちらを余裕をもって見据えていた。

 

「くそっ・・」

 

再度殴りかかる。しかしまた頭を下げて避けられる。もう一発拳を繰り出すが、美鈴は低い姿勢でかわすと下からオレの腕を受け止め、それを滑らせるようにして容易く懐に潜り込んできた。

 

「う――」

 

たじろぐ声は声にならなかった。美鈴の肘が、腹に深く食い込んだのだ。

 

「がはぁっ!!」

 

代わりに吐き出されたのは、奇妙な、ダメージを受けたことを表す悲鳴。

 

前傾してもんどりうった所に、右左の頬へと拳が入る。顔がグラグラと揺れ始めた所で、下からアッパーが顎をしたたかに突き上げた。

 

ごきり、と嫌な音が脳に響く。危うく倒れそうになるが、なんとか粘り、中段にガムシャラに蹴りを出す。

 

「っせ!!」

 

しかし、脚は簡単に美鈴の片腕に抱え込まれる。慌てて上半身だけの拳を振るうが、美鈴はそれも掴んで防いだ。

 

「・・・・ぐっ」

 

身動きが取れなくなり、体を引き剥がそうと力を込めるがこちらは片足で立っている為踏ん張るので精一杯。すると美鈴はその軸足を爪先で崩してきた。

 

「うわっ!」

 

思わずバランスを崩した所で、腹に上向きの打撃。美鈴の膝が入ったのだと辛うじて理解できた。体がフッ、と浮き上がるのを感じた。

背骨が歪むかと思う衝撃に続いて、その裏、背中側からドゴッ、と鈍い音と痛み。微かに伝わる凹凸が、拳骨落としだろうと感じさせる。

 

「うっ・・げぇ」

 

うめき声が漏れる。ぐらりと頭から倒れ込むかというとき、耳に微かに風を感じた。

 

それは美鈴が振るった脚の音だった。足の先がこめかみにヒットし、胴体のエグい痛みを天にも昇るような突き抜けた――感覚とすら認識できないものが塗り替える。

 

「・・・・う・・・・く」

 

意識が飛びそうになりながら、叩きつけられた壁にそのまま寄りかかる。ゆらゆら揺れる視界をかぶりを振って整える。

 

「・・・・」

 

見据えた先で悠然と立つ美鈴。何も言う事が出来ずに唇を噛む。彼女は強い。雑な攻撃は当たらないどころかまんまと利用され、一つ一つのダメージは確実に体を蝕んでいる。

 

「クソッタレ・・」

 

「まだやりますか?」

 

「ったりめぇだ!!」

 

壁を蹴って飛び出す。美鈴はカウンターを狙って突きを出す。

 

そこで間一髪、両手の手のひらで上から美鈴の腕を押さえ、前への力を上に飛ぶ力に変え、跳び箱のように美鈴の眼前で開脚する。

 

そこですかさず足を閉じ、美鈴の顔を挟み込む。そして体を思いっきり捻った。

 

「うわっ――」

 

帽子が吹っ飛んだ刹那、美鈴の体が横に半回転し、後頭部を床に叩き付ける。

 

「ぐっ・・あぁ・・!」

 

床にめり込んだ頭を支点にうつ伏せに倒れる。

流石に一撃で、とはいかなかったが、かなり効いているようだ。呻きながら頭を押さえ、フラフラと立ち上がろうとする。

 

しかしその隙は与えない。ジャンプして思いっきり尻から美鈴の背中に着地する。そしてすかさず後ろから首に手を回し、後方に締め上げた。キャメルクラッチだ。

 

「ぬがあぁ・・・・!」

 

背中と首を痛め付けられ美鈴が呻く。しかし力は緩めない。折角技がかかったのを利用しないバカはいない。

 

「ルーミアはどこだ?いえば解いてやるぞ。」

 

台詞だけみれば完全な悪役だが、知ったことか。条件を出すだけありがたく思え。ところが、美鈴は視線だけ移動させてこちらを睨み付ける。

 

「・・もう・・勝った気・・?」

 

「・・ふん。ここにはロープも審判もいねえ。その気になりゃ幾らでも・・」

 

「く・・るりゃあぁっ!」

 

喋っている途中で、下から揺れ動く気配がした。途端に美鈴が体を捻り、オレを放り出す。

 

「うわっ!」

 

背中から床に打ち付けられる。なんて奴だ。背中に体重をかけられた状態から強引に跳ね起きるなんて、尋常ならざる馬力とバネ。

 

「はああぁっ!」

 

美鈴がこちらに走ってくる。まずい。立ち上がる時間がない。こうなりゃ・・・

 

「ほりゃあ!」

 

駆け出してくる足に向けてローキックを放つ。それは上手く相手のすねに命中する。

 

「あがっ!」

 

美鈴の表情が歪み、走りが止まる。チャンスとばかりにしつこく足を蹴り続ける。

 

「おら、おら、そらぁ!」

 

「のわ、た、たっ!」

 

美鈴は立ち上がる隙を与えたくないのか、付かず離れずピョコピョコと小刻みにステップを踏みながらかわしてくる。

しかし、この体勢は案外便利だ。こうしとけば立ち技はまず食らわないし、ローキックを続ければ容易に攻め入れまい。この状態で出来るだけダメージを与えとこう。

 

 

「つ・・ああ!」

 

美鈴の顔に疲労が出始めた。近寄れない苛立ちもあるだろうが、前に食らったキャメルクラッチが効いたんだろうか、背中からフラフラとよろめく事があった。

「ーっ!」

 

その時、ふとあるものが目に入った。美鈴の腰から垂れる布。その端が忙しく動く足の下に巻き込まれたのだ。

すかさず足の甲で布を踏んだ美鈴の足を掬い上げる。卑怯?知るか、こんな服着ている方が悪いんだ。

 

「ひょわあっ!」

 

布に足をとられ、美鈴はしたたかに転倒する。しめたとばかりに体を滑らせ、美鈴の左足の下に右足を差し込んで膝から下を押さえ込む形でロックし、左足で美鈴の右足を上から押さえつける。四の字固めである。

 

「ぐ・・くっ!」

 

美鈴は自由になろうともがくが、足は完全に固められ、上半身だけでは何もできない。押さえてピクリともしない両足からミシミシと音がするような錯覚。少しばかり、口角が上がっていた。

隙を見て立ち上がり、美鈴の両足首を掴んで×の字に足をクロスさせる。そして組んでいる部分を足で踏みつけ、思いきり体重をかけた。

 

「うあぁ!」

 

美鈴が悲鳴をあげる。ローキックからこっち、膝や足をずっと痛め付けたのだから無理もない。まあ、わざとなのだが。

 

足をそのままに上半身を前傾させ、美鈴の両手を引っ張ってだめ押しする。自然と踏みつける力がまし、それに応じて美鈴の顔も苦しそうに強張る。

 

「ぎ・・きぅ・・」

 

美鈴が漏らす声に呼応するように、骨の軋む感覚が伝わる。膝からすねにかけて、足の骨の形が浮き出る部分。そこのギシギシとした躍動が足裏から感じられる。それはまるで足が苦しみの声をあげているようで、それは強く踏みにじる程に強くなって・・

 

腕をつかむ力を強める。相手の指先が跳ねるのは気にせず、踏みつける足をグリグリと回転させた。

 

「ぐっ・・あっ!」

 

悲鳴が一層跳ね上がる。ついでに掴んでいる腕もドアノブのように捻りあげる。手首からも骨の動きは良く伝わる。それがとうとう限界を訴えるかのように震えだしたのも。

 

「・・・・っ・・・・」

 

ついに美鈴は声もあげずに歯を食いしばった。苦痛のあまりにつぶる両目の端から、つう、と涙が溢れる。

 

「・・・・ふ・・ふふ。」

 

愉快だ。見ろ、あの痛みに耐えかねて崩れた顔。体の方もオレの攻めに反応して小気味良く足掻きを伝えてくれるが、顔は特別だ。目、口、眉、ありとあらゆるパーツが表情となって応えてくれる。崩れる時も、それは然りだ。

 

・・そして、壊すときも・・

 

「・・・・」

 

踏みつける足を取っ掛かりに、もう片方の足を振り上げる。その下には、美鈴の顔。

 

それをためらいなく降り下ろす。その瞬間、無意識に言葉が出た。

 

「死ね!!

 

・・っ」

 

自分の言葉にハッと我に返る。それと同時に、ズダンッ!と音がして足に何かぶつかった気がした。

 

「・・・・っ」

 

「・・・・」

 

恐る恐る見ると、降り下ろした足は美鈴の顔のすぐ横を踏み抜いていた。美鈴はそれを目だけ移動させて見ながらは、は、と息をついている。

 

「・・・・・・」

 

無言で手を離し、美鈴から離れる。目をそらし、伏せた瞬間、自己嫌悪が襲ってくる。

 

『死ね』

 

いつの間にか高揚して、相手を痛め付けるのを楽しんで発した言葉。人として最低な言葉。

 

ルーミアの顔が頭に浮かび、その場に立ち竦んだ。あいつが見たら何て言うだろう。恐ろしがるだろうか。離れていきやしないか。

 

ネガティブな思考が頭を巡り、どうすればいいか分からなくさせる。その気になればあんな言葉も言える自分が、怖くなった。

 

「・・ルーミアなら、たぶん地下です。」

 

「・・!」

 

ふと背後で声がした。振り返ると美鈴がヨロヨロと立ち上がりながらこちらを見ている。

 

「・・そこの階段を上がり、右を曲がってまっすぐ行けば分かります・・。行かないんですか?」

 

「・・・・」

 

ばつの悪さから言葉につまる。なんでこうも体が動かないのか。さっき言ってしまった言葉にルーミアへの感情がセットになったせいか?

 

・・それに、どうして美鈴はルーミアの居場所を・・

 

遠慮がちに目をやると、美鈴はふぅ、と微かにため息をついた。

 

「・・私の敗けです。未だに膝がガクガクしていますし・・。

 

それに、相手に恐怖したら終わりですよ。ましてやキチンと"冗談"で済ませてくれる相手になんて、恥ずかしいです。」

 

美鈴が微笑む。上手く言葉が見つからず、背を向ける。

 

「・・すまん。」

 

それだけ言って、階段をかけ上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――長い。なんだこの廊下。長過ぎる。というか屋敷が広すぎる。どっか歪んでいるんじゃないだろうな。

 

二階に飛び出して十数分。地下らしきものは一向に見えない。息も上がり、同じように続く赤い内装にイライラは募り、いつしか壁に寄りかかる。

 

「・・っくそ!」

 

毒づいて壁を殴りそうになった時、廊下の向こうに人影が見えた。ちょうど良い、地下の案内を頼もう、と思った、その矢先。

 

「・・っ!」

 

跳ね起き、その人影を睨む。

 

白銀の髪、メイド服。

 

十六夜 咲夜だ。




はい、今回でリザさんの戦闘スタイルが決まりました。

『プロレス』です!

自分が書いたら泥臭いというかダサくなっちゃいますが、調べながら頑張ります。もしプロレス知識とか教えて貰えたら嬉しいです。
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