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「夕飯を作るやつが・・いない!」
レミリアお嬢様が急に真っ青になってそう言った。
「どういう事ですか?」
私が首をかしげると、お嬢様はキッとこちらを見据えてくる。
「小悪魔。考えても見なさい。美鈴やパチュリーに料理をやらせた時、どうなったか・・!」
「・・あー。」
思い出した。これまで何度か咲夜さんの事情で代わりを頼んだ事があった。してその結果は・・
パチュリー様は鍋に食材と様々な香辛料や隠し味をぶちこみ、結果、家庭で悪魔召喚が容易く出来る事を証明してくれた。本人はただのシチューだと言ったが、私は食べた瞬間五臓六腑がひっくり返るかと思った。
続いて美鈴さんは、蛙のスープや蛇の姿焼きやイナゴの佃煮やら、ゲテモノを出してきた。美鈴さんは好みらしく、れっきとした文化だと言った。実際に貶すべきじゃないのは分かるし、意外に美味しかったのだが、客人には出せまい。万が一トカゲ料理など出されては粋な振る舞いにも程がある。
「ああどうしよ。夕飯を出さないなんて礼にかけるし、咲夜は謹慎してるし・・」
お嬢様はしゃがんで頭を抱えている。咲夜さんの料理は確かに美味しい。和洋中を味の繊細さ、華やかさ、豪胆さを殺すことなく舌に幸せを運ぶ。お嬢様もこの館の自慢だからついルーミアちゃん達にああ言ってしまったのだろう。
「お嬢様、こうなったら特別に謹慎を解いたらいかがです?」
どうせ相手は咲夜さんの謹慎なんて知らないのだ。どうしようもないなら作ってもらえばいいではないか。
「ダメ!一度命じた事を簡単に曲げたら失礼よ!」
お嬢様は顔だけこちらに向けて言い放つ。そのくらい妥協したらいいのに、お嬢様はそういう所にこだわるのだ。良いところでもあるのだが、皺寄せが他に来る事もままある。
「小悪魔!ついてきなさい!二人で何とかするのよ!」
(やっぱり!)
私の腕を引っ張り、お嬢様は図書館を飛び出した。
度胸があって妥協しない。一見格好よく見えるその性格は時として単なるヤケクソとなる。果たして吉とでるか凶とでるか・・・・
◇
「タオルも貸し出してくれるのか・・至れり尽くせりだな。」
「扇風機だ!あ゛〜・・」
「ルーミア、風情は分かるが行儀悪いぞ。」
今オレ達は美鈴に連れられてきた風呂にいる。そこは無駄に広い館に合わせてか、温泉施設のような大浴場が広がっていた。ご丁寧に脱衣かごからトイレ、ドライヤー付きの洗面所、果ては瓶入り牛乳を冷やした冷蔵庫まであった。
「後であの牛乳飲もうね。」
「・・勝手に飲んで良いのか?あれ。」
「あんな堂々と置いてあるんだもん。きっと良いんだよ。」
ルーミアの理屈になんだかなぁ、と思いつつもポニーテールをほどき、服を脱ぐ。
「・・リザ、こうして見ると本当に腹筋スゴいんだね。」
「いや、これはただの蛇腹・・腹筋、か?コレ。」
露になった上半身を見ながらルーミアが嘆息を漏らす。ルーミアの方はすでに全ての服を脱いでタオルを持って待機していた。
その時、あるものが目に留まる。
「・・ルーミア、そのリボン外さないのか?」
「あ、コレ?」
体の方は生まれたままの姿になりながら、ルーミアは頭にあの目立つ赤いリボンをつけたままだった。
「これね・・」
単に取り忘れたのかと思ったが、ルーミアはリボンに手をかけるとふとこんな事を口にした。
「なんだろ、何故か分かんないけど、取っちゃいけないような気がするんだ。気づいたときから、ずっと・・
だから、ずっとそのままなんだ。」
「ふぅん・・」
取っちゃいけないリボン、一体なんだそりゃ、と思ったが、ルーミアの表情を見るにどうにも本気のようだ。まあ仮におまじないか何かでも無理に取る必要があるわけでもないので、軽く相づちだけ打っておく。
「そんなことより、早くいこうよ!」
「へ?あ、ああ・・」
腰布を未だ履きっぱなしだったオレに、ルーミアが急かしてくる。しかし、今から脱ぐというのにじっと見るのはやめてくれないだろうか。
そっと目で訴えたが、ルーミアは一瞬キョトンとした後ウズウズした表情で見つめてくるばかり。子供だから仕方ないのだろうか。
同性とはいえほんのり抵抗を感じながら下も脱ぐ。その瞬間ルーミアは、オレがタオルで胸と秘所を隠す間に脱衣所から浴場へのドアに手をかけ、一気に開け放つ。
「ひゃあ!」
途端に温かく湿った熱気が流れ込み、ルーミアが声をあげる。
そこには、二人で入るには勿体ないんじゃ無いかと思うくらいの広さの湯殿が白い湯気を湛えていた。
今まで見た館内と同じく風呂の中まで内装が赤く、そのせいで張ったお湯が血の海のように見えるが、それすらも風情で片付けられそうな贅沢な開放感があった。
「わぁい!」
素っ裸で湯船へと走るルーミアを、腕を掴んで止める。
「待て、体洗うのが先だろが。」
「えーめんどくさーい。」
「良いから、行くぞ。」
口ではぶつくさ言いながらも軽い足取りでルーミアは洗い場に歩き出す。
「ほれ座れ。洗ってやるから。」
「はーい。」
ルーミアがストンと椅子に腰を下ろす。こちらはシャワーを手に取り、少し出しては湯加減を確かめる。
「んじゃかけるぞー。」
「んー・・。なんかヌル〜い。」
「えぇ・・じゃ、こんなんでどうだ?」
「あちっ!あっついよ!」
「えー?ワガママだな・・ってぅお熱っつ!?何じゃこりゃ!?」
こんな様子で最初はテンヤワンヤしていたものの、やがて丁度良くなったお湯をルーミアの頭にかけてやる。
「気持ちい〜♪」
ルーミアがホンワカした声をあげる。鏡越しにみるとなんとも気の抜けた表情をしていた。その顔にこちらまで頬が緩むのを感じながら、シャンプーを出そうと傍らの台に手を伸ばす。
「前が見えないー・・」
「あーはいはい。目ぇつぶってろ。そのままな。」
髪の毛がお湯で張り付いて鬼○郎の両目バージョンみたいになっているルーミアを尻目に、手のひらにシャンプーを出してルーミアの頭にワシャワシャとくっつける。
「痒いところないか?」
「んーだいじょーぶー。」
ルーミアは相変わらずノンビリした声で答えた。目に染みないようにと目を閉じているが、もしかするとこのまま眠るんじゃないかなんて阿呆な考えが浮かぶ。
「んじゃ流すぞ〜っと。」
泡が残らないか見ながらなるべく丁寧にシャワーをかけてやる。
「なんか目を瞑ってたら修行してるみたい。ほら、あの滝の。」
「修行なら頭を丸めないとな。洗うのも楽になるぞ。」
「えー、この髪好きなのにー。」
「冗談だよ。可愛いじゃん。この髪型。」
笑いながらシャワーを止め、髪をすく。そしてタオルで拭いてやろうとした時、ルーミアがフルフルと頭を振りだした。
「ふわっ!」
飛び散る水滴に思わず顔をかばう。文句を言おうとした時、ルーミアがこちらを見上げていた。
「さ、交代!今度は私が洗うよ!」
「いや、オレは別に・・」
「いーから!座って!」
手を引っ張られ、強引に座らせられる。やれやれ、という間もなくシャワーを引っかけられる。
「ぷはっ!」
目と口と鼻と耳に一気に水が入る。かぶりを振っている間にも背中にかけての髪にも湯がかけられてゆく。
「リザは髪長いんだから、遠慮する事ないのにー。」
「んー・・・・今まさに少しだけ後悔してんだかなあ・・・・」
自分の声が変に感じる。まだ耳の中に水が残ってやがるんだ。おまけに目にも水滴がついて、しかも前髪まで張りついている為まともに前が見えん。
「キレイにしーましょーぅ」
ルーミアはお構いなしにシャンプーを髪につけて泡立てる。ときどき髪がツンと引っ張られ、少し痛い。
「あはは、オールバックにしたら落武者みたい。」
「止せっての、もう・・・・」
なんだか髪で遊ばれてるような気がして、多少不機嫌になる。その時やっと目の周りがスッキリしたので文句の一つでも言ってやろうと目を開ける。その時。
「・・・・」
「ふーん、ふん、ふふ〜ん♪」
目の前の鏡には、メチャクチャ楽しそうに髪を洗うルーミアが映っていた。髪の先まで愛しそうな表情で撫で付ける姿を見ていると、最初言おうとしていた文句もいつしか引っ込んでいった。
「流すよー。」
「おっと。」
ルーミアの言葉に慌てて目を閉じる。心地いい温度が頭に降り注いだ。
「よーし・・・っと。」
続けてフンワリした感触が頭を包み、重みを伴う鬱陶しいものを拭っていく。ルーミアがタオルで拭いてくれているのだ。
「うん!キレイになったよー!」
ルーミアの言葉にさっぱりした感覚を感じながら再び目を開ける。鏡にはタオルを持ちながら相変わらず楽しそうに笑っているルーミアの姿があった。
「・・なんか、ヤケに上機嫌だな。お前。」
「えー?そう?」
オレがクスクス笑うと、ルーミアは首をかしげながらも微笑んだ。
「なんかねぇー・・こんなの初めてだから。」
「初めて?」
ルーミアの言葉が気になり聞き返す。するとルーミアは手足をブラブラさせながら、どこか寂しげに語りだした。
「・・今まで、チルノとか友達はいても、一緒にお風呂入るような人はいなかったから・・」
「・・あー・・」
初めてみるルーミアの沈んだ表情に、いささか言葉に詰まってしまう。どうやら親とか家族みたいな存在は今までいなかったらしい。オレにもいないのは同じだが、そのまま何年も過ごすのはいくら友人はいるにしても寂しかったのだろう。
「だからね、リザみたいな、お姉ちゃんみたいのが出来て、嬉しい。」
「・・・・お姉ちゃん、ね・・・・」
鏡越しにルーミアが笑いかけてきた。なんだか照れ臭くて目を逸らしてしまう。さっきとは違う意味で言うべき言葉が見つからず、ついついからかってしまう。
「・・なんだ、体洗うのが初めてなのかと思った。」
わざとらしく舌を出して言うと、ルーミアも冗談に乗っかって怒ってくる。
「失礼なー!これでも毎日水浴びしてるのよ!」
「冗談だよ。冗談!怒るなって!」
ルーミアが振り上げた腕をガードするように顔をかばう。しかし。
「・・・・」
いつまでたっても何もない。どうしたんだろう、と少し腕を下げて視界を確保しようとした、その時。
「ひゃあぅ!」
背中、いや、尻の少し上辺りにくすぐったいような変な感触がした。いや、覚えがある。これは確か・・・・
素早く鏡を見る。そこには意地悪い顔で、尻尾の生えていた辺りをまさぐるルーミアの姿があった。
そうだ。この感覚は尻尾を触られた時のそれ。しかも昼間千切れて生えかけのせいか一層生々しく強烈だ。
「あっ・・ちょ、やめ、ひうっ!」
「ふはは、エエのんか?ここがエエのんか?」
どこで覚えたそんなエロ親父みたいなセリフ・・・・!
「のわっ!!」
「あっ・・・・」
オレが椅子からひっくり返り、頭を打ち付ける音が浴場内に響き渡った。