「あ、あがって来たんですね・・こちらへ、どうぞ・・食堂にご案内致します。」
廊下の途中で小悪魔が出迎えてくれた。なんだか表情がぎこちないのが気になったが、ルーミアは小悪魔を追い抜きたいかのようにパタパタと足踏みする。
「場所なら分かるよ!匂いで!」
「あ、あはは、案内する決まりなんですよ〜。」
「こらルーミア。あんまり困らせんなよ。」
小悪魔が苦笑いするのを見てたしなめると、小悪魔がこちらに目を向ける。
「・・・・ん?」
数秒間視線が合い、戸惑ってしまう。しばらくして小悪魔は微笑み、こう言った。
「よくお似合いですよ。」
「う、うっさい!」
オレのチャイナドレス姿を見ての事だろう。こちらが顔をそむけると、視界の端で小悪魔とルーミアがクスクス笑い合うのが見えた。
・・・・ったく、二人して・・・・
――
「こちらです。」
通されたのは、例によって赤い絨毯の敷かれた大部屋の中央に大きな長机がおかれ周囲にぐるりと椅子が並び、四つほど等間隔に置かれた燭台には蝋燭が灯っている。
その机の端、入り口から向こうにはレミリアが座り、入り口から近い方の端の左右には食事が用意されている。
メニューはルーミアの予想通りカレー。大皿にご飯、銀のあの器にルウと別にされている。
「・・・・お?」
その時、妙な事に気づいた。
カレーの周りにもデザートや飲み物は用意されていたが、それはジャム入りのヨーグルトに牛乳。そしてチーズ。
気にしすぎだろうか、乳製品が多くないか?
少し心の中で眉をひそめていた時、レミリアが机の端からでも聞こえるよく通る声でこう言った。
「紅魔館の湯はどうだったかしら?気に入ってくれたら嬉しいわ。
あ、私の事は気にせず、遠慮なく食べなさい。」
「はーい!」
レミリアの言葉に、ルーミアは素早く椅子に座る。・・まあ、メニューなんてあんまし気にする事ないか・・。
ヤレヤレと思いながらも向かいの席に腰を下ろし、二人同時に手を会わせる。
「「いただきます。」」
挨拶が終わるやルーミアはルウを一気にかけ、スプーンで頬張り出した。口にご飯粒をくっつけたまま一生懸命食べる様に笑いながら、こちらも半分ほどルウをかけ、食べようとする。その時、また一つ気づいた。
「なあ、お前たちは食べないのか?」
よく見れば、食事が用意されているのはオレ達二人だけで、レミリアの前にも、傍らに立つ小悪魔にもそれらしきモノは用意されていない。
「え・・あ、ええと。」
レミリアはオレの問いに弱った表情を見せた。なにかまずいことを聞いたのだろうか。
「だ、大丈夫よ!吸血鬼は食事なんていらな」
グゥ
「うぅ・・」
・・・・お腹が鳴るのをみるに、空腹なのだろうか。レミリアは恥ずかしそうに俯く。
つーか、本当に吸血鬼は食事が要らなかったとしても、小悪魔はどうなんだ。
色々と気になる事はあるが、レミリアは俯いたまま答えない。見れば小悪魔も曖昧に目をそらしているし、ルーミアはマイペースにカレーを食している。
・・・・特に詮索する事でも無いか。
そう自分を納得させ、カレーを掬って口に含んだ。
その時。
「――っ!!」
「ひゃあぁっ!!」
舌を強烈な刺激が襲い、声にならない声と共に
口から火が出た。ルーミアが驚きの声をあげる。
――辛い!!"つらい"じゃなくて"からい"!!つうか痛い!!!何だこれ、しかも辛い以外にも色々入っていて、口ん中が熱くて治まらん!
「けほ、かはっ!」
咳き込んで空気を交換しながら急いでコップの牛乳に手を伸ばし、一気に飲み干す。
「・・ふぅっ。」
ほんのり甘い味が広がり、何とか辛さは和らぐ。なるほど、牛乳やらヨーグルトやらはこの為か・・って、元々の味付けはどうにかしないのか?
・・いや、今大事なのはそんな事じゃない。
「ルーミア!」
叫ぶが早いが椅子から跳ね起きる。テーブルの脚に爪先がぶつかるのも構わずルーミアの隣に回り込む。ルーミアは目をぱちくりさせながら髪の焦げた辺りを押さえ、小悪魔がその上からパタパタと払っている。
「大丈夫か!?」
「う、うん。何ともない・・よ・・」
戸惑いながら答えるルーミアの顔を覗き込む。頭頂部付近の髪はパサついているものの、火傷などは見当たらない。炎は幸いにも上に逸れてくれたようだ。
「・・ゴメンなぁ。びっくりさせちまって・・」
大事無いことに安堵し、思わずルーミアの頭を両手で抱き締める。
「リ・・リザ、苦しいよぅ・・」
ルーミアの声が腕の中で響くが、気にしていられなかった。もし痕が残ったりしたらと思うと、堪らず怖くなる。
「いいよ。わざとじゃ無いんでしょ?・・もう、そんな涙まで流して。」
「え、いやこれは・・」
実をいうと辛くて涙が出てきたんだが・・
「それよりどうしたの?急に・・」
ルーミアが首をかしげた。いきなり火を吹いたのが不思議なのだろう。オレは思わず目を逸らした。
「いや、あんまり辛くて・・つい・・」
考えてみれば下らない理由だ。ルーミアはすぐに吹き出し、大笑いした。
「なにそれ!そんなに辛かった?」
「辛いだろ・・お前は平気なのかよ?」
あんまりケラケラと笑われ、つい聞き返した。しかしルーミアは事も無げに答える。
「別に平気じゃない?そりゃちょっとキツいけど。」
「えぇ・・マジか。」
「食べてみる?」
ルーミアが掬ったスプーンを顔の前に突きつけてくる。いや、ちょい待て。
「はい、あーん。」
「おい、ちょ、何して・・」
慌てて周囲に助けを求めて視線を送るが、小悪魔もレミリアも生暖かい目で見るばかり。ルーミアはルーミアで無邪気に薦めてくる。退路はなし。
「・・・・えいやっ!」
照れ臭さを掛け声で誤魔化しパクリと食いつく。モグモグと咀嚼する間、ルーミアはニコニコしながらこちらの様子を窺っている。
「・・・・ぁふっ!」
「あはははは!」
やはり駄目だ。辛い。ヒィヒィと言っているオレの姿にルーミアはさっきにも増して大笑いしている。
「このっ・・笑いすぎだ!」
ルーミアの頭をペシンとはたく。その時、あるものが目に入った。
「・・ん・・あ!リボンが・・」
ルーミアのつけている、外してはいけない気がすると言っていたあのリボンが、オレの火のせいで端っこをほんの少しだけ焦がしている。
「・・ああ、ゴメンなルーミア。このリボン焦げちまった。」
「えー?気にしなくていいんだってば。そんな顔しないで。」
ルーミアは手をヒラヒラさせて笑うが、なにぶん女の子のお洒落だけに申し訳なくなってしまう。何の気なしにそれに手が伸びる。
「今度何かで埋め合わせするよ・・。ちぃと不味い事しちま・・・・」
言いかけた、その時。
「――ッ!?」
突然、胸が軋むような感覚が襲ってきた。息が詰まり、体が硬直して、一秒が数十分にも感じられるような、意識の混濁が襲ってくる。
「―は、―はっ、」
辛うじて息をつく。肺と額の辺りが上下するのに合わせ、いつの間にか出ていた冷や汗が滑り落ちる。
何かに似ている、この感覚。
・・・・そうだ。幻想郷に来たとき、そして初めて飛んだとき、火を吹いた時。あの時感じた違和感にそっくりなんだ。
しかし、今度は何倍も強い。体が引き裂かれそうな、
それこそ、自分が壊れるんじゃ無いかと思うほど・・ー
「リザっ!?」
「・・・・はっ」
ルーミアの声で我に返る。汗を拭ってぼやけていた視界が晴れると、ルーミアが心配そうな表情でこちらを覗き込んでいる。
「・・・・」
まだボンヤリとした頭で周囲を見渡す。どれ程あの感覚の中にいたのだろうか。レミリアも小悪魔も真剣な面持ちでオレを凝視している。
「ルーミア・・オレ・・何してた?」
ぎこちない声で尋ねる。ルーミアは聞かれてからも暫くこちらを見つめていたが、やがて呆れたような表情になり腰に手を当てて言いはなった。
「何・・って、何もしてないよ!急に固まってどうしたのかと思っちゃった。」
ルーミアは口を尖らせる。しかし取り敢えず知らないうちに危害を加えたりはしていないようだ。まずそれは一安心。
「ねえ、どうかしたの?具合悪い?」
「・・ああ、その。」
ルーミアがまた心配そうな表情で見つめてくる。しかしありのままを話す気にはなれなかった。何しろ自分でも何が起こったのかは分からないのだ。子供のルーミアに変な心配はさせたくなかった。
「・・何でもねえよ。平気さ。」
なんとか笑顔をつくり、ルーミアの頭を撫でてやる。暫くは曇った表情だったものの、次第に顔は和らぎ笑顔を見せてくれる。するとルーミアは上目使いでこちらを見て、こう言った。
「でも元気無いときは一杯食べなきゃね。」
「え?」
ニッコリと目を閉じて笑うルーミア。そして前屈みになりオレのカレーの皿を引き寄せる。
おい、待ってくれ。それは一口で火を吹くほど辛い―
抗弁しようとした瞬間、急に体を引っ張られて椅子に座らされる。ぎょっとして背後を振り向くと、いつの間に来たのかレミリアが立ってオレの肩を掴んでいる。
「まさか他人の作ったモノを残すなんて、失礼な真似はしないわよねぇ?」
口は笑っているものの、獲物を狙う蛇のようなどす黒い、怪しい光を湛えた視線がオレを射抜く。こいつ、無理にでも食べさせようってのか。
「・・っ小悪魔!」
最後の希望に助けを求める。しかし。
「あ、冷蔵庫探してきますねー。まだ新しい牛乳が・・」
「テメエェーッ!!」
無念。目の前にはカレーの入ったスプーンを持って微笑むルーミア。しかし今度は恥ずかしさは微塵も感じない。かわりに恐怖が喉元をせり上がり、冷や汗が出る。
「はい、あーん。」
「・・・・イヤアアアァー・・・・」
それから十分あまり、オレは三人にオモチャにされた。火を吹きそうになるのを我慢したかわりに、何度も女みたいな悲鳴をあげたのが余程面白かったのか、レミリアも当主らしからぬ子供みたいな仕草で大笑いしていた。
・・・・オレも、一応女なんだが・・・・
―
「寝る部屋は別?」
夕飯を食べてから小一時間、オレとルーミア、レミリアの三人でババ抜き等をして時間を潰した。
レミリアは「運命を操る」力があるとか言い出し、正直半信半疑だったのだが、いざ始めてみるとレミリア一人が連戦連勝。オレはてっきりハッタリと決めて掛かっていたので見事惨敗。ルーミアはレミリアの能力を前もって知っていたので勝敗よりもむしろオレが悔しがる姿を楽しんでいた。おのれ。
まあそんな風に時間を潰し、そろそろ寝ようと歯を磨いて寝支度をした矢先に言われたのが先程の台詞である。
「ええ。この館では大人用と子供用を分けているの。それぞれ一人でのんびりして欲しいわけ。」
レミリアがそう言うが、ルーミアは不満げに口を尖らせる。
「えー?別にいいじゃん。リザと寝たい!」
ルーミアが腕を絡めてむくれる。それに感化された訳でもないが、オレもやんわりと口を挟む。
「なあ、別に一緒でも良いんじゃないか?こう言ってるんだし。」
しかし、レミリアはルーミアに目を向けると、イタズラっぽく囁いた。
「でもねルーミア。豪華な屋根つきベットに一人よ?そんな王女様みたいな待遇、中々味わえるものじゃないわよ?」
「・・・・む・・・・」
ルーミアが迷うのを見て、自分の顔が曇るのを感じた。というのも、先程ルーミアの肩を持ったのは二人一緒が良かったから・・じゃないと言えば嘘になるが、それだけではない。
紅魔館に来たとき、美鈴と・・とりわけ咲夜が敵意を持って襲ってきた事。『ルーミアに近づくな』と言っていた事。それを思うと引き離される事に不安を感じていたのだ。
しかし。
「・・じゃ、そうする。ごめんねリザ。」
「・・・・」
ルーミアが笑う。こうなるともう無理だった。ルーミアはオレが悪意を持って襲われた事を知らない。こちらも知らせたくはない。
オレの感じている懐疑などは知る由もない故、ルーミア本人が承諾すれば何も言えなくなる。レミリアが一瞬オレに見せた鋭い視線が止めだった。
「・・・・」
心の中で諦めをつけ、笑顔を作る。
「そっか、じゃ、楽しんでこい!寝る前に貴族ばりのワインでも頼んでやれよ。」
「あ、ワイン良いよね〜。美味しい!」
「え?酒飲めるの?」
冗談のつもりが普通に返され、目が丸くなった。
「・・・・小悪魔、ルーミアを寝室に。」
「かしこまりました。」
「おやすみー。」
ルーミアは小悪魔に連れられ、廊下の角に消えていった。それを見送りながら、微かに不安が燻るのを感じる。
「・・・・大丈夫よ。」
「・・・・!」
ふと、レミリアが言った。こちらにツカツカと歩み寄り、目つけるように見上げてくる。
「ルーミアには何もしない。私達はね。」
「・・・・」
オレは何も言えなかった。信用できるとは思えない。しかし、レミリアの瞳は真剣なものだった。
「・・部屋を教えるわ。ついてきて。」
レミリアは踵を返して歩き出す。オレはその背中を慌てて追った。
―
「ふぅ・・・っ!」
通された部屋のベットに倒れ込む。疲れた、というより心の中はいてもたっても居られないが、実際には何も出来ずに不貞腐れた、と言う方が正しい。
「・・・・・・」
グルグルと思考が巡る。レミリアの言葉を信用して良いのか否か。
少なくとも、美鈴や咲夜の行動がレミリアを無視した独断だったことは今なら推測はつく。寝入ってから何か仕掛けるつもりだったとしても、いや、それなら尚更あんな疑念を植え付けかねない強引な手を使うのは意味がないはずだ。
しかし、レミリアの言った事も、強いて信用する根拠を挙げるならあの強い光を湛えた瞳に、あとは遊んだ事ぐらいか。
しかし、それらが演技なら?ルーミアとオレを引き離す為の・・
そもそも、引き離そうとする理由は何だ?二度と会うなと言ったが、会わなければ良いのか?命の危険は?
「・・・・う〜〜・・・・」
唸りながら枕に顔を埋める。判断材料が少なすぎる。つうか異世界に来て二日でこの仕打ちは何だ。
「ええい、くそ!」
電気を消して布団を頭から被る。苛々していた反動か、オレはあっという間に眠りに落ちた。
◆
「・・・・なんとか乗りきったわ。」
「お疲れ様。レミィ。」
地下の図書館。小悪魔の淹れてくれた紅茶が疲れて椅子に沈めた体に染み渡っていく。咲夜のお茶には劣るが、今はパチュリー―パチェの、本に目を落としながらの薄っぺらい労いの言葉と同じように気にはならなかった。彼女と長い付き合いだから分かるが、パチェが言葉少ななのは冷静な、よく言えば穏やかな機嫌の証拠なのだ。
それを良いことに、私は存分に愚痴らせて貰う。
「もう冷や汗ものよ。終始何が起こるか分からないし、かといって取り乱すわけにはいかないし、何も知らないルーミアをカードに使わなきゃならないわで・・・・」
捲し立てる私が可笑しかったのか、パチェはクスリと笑い、こちらをみた。
「関わらずにすんで良かったわ。」
「・・・・アンタね。」
パチェの言葉でなければ首筋から血を残らず吸い出してやるところだが、やめといた。彼女が図書館に籠りっ切りなのはいつもの事だし、出来るだけ関わらせなかったのもある。ため息をついて肩をすくめた。
「・・怒る気も起きないわ。今は少なくとも、この館では平穏無事でありたい。それしか思ってないわ。」
紅茶をまた口に含む。するとパチェはまたうっすら笑顔を作ってこう言った。
「珍しいわね。レミィがそんな弱気になるなんて。」
その口調は意外というより普段偉そうにしている私をからかうような口調だった。しかし私の気分は沈んだままだ。
「・・まあ、ヴラド・ツェペシュの末裔だ何だといっても、結局は子供で、ただの生き残りだからねぇ。
・・格が違うわ。」
疲れとやるせなさを収めようとして、拗ねるような口調になる。しかし今度はパチェのからかいは聞こえてこない。むしろ表情に深刻そうな色を帯び、傍の小悪魔も怖がるように立ち竦んでいる。
「・・そうね。」
パチェはパタンと本を閉じ、傍らの本棚に目を移す。
「"奴"の存在は、ここの文献にも載っているわ。
・・・・読んでみる?」
「遠慮するわ。」
パチェの誘いに首を横に振る。続けて理由を話してやる。
「・・・・もう、運命を"視て"いるから。」
「ああアレか。相変わらず便利ね。」
他人事みたいに・・と一人で呟きながら紅茶を一気に飲み干す。
―私の"運命を操る"能力。それを応用すれば他人の辿ってきた運命も、たとえ当人が記憶を失っていようが丁度ドキュメンタリー映画のように頭に映像が浮かぶのだ。
リザに使ったのも同様。しかし・・・・
「ねえ、どんなのだった?」
「アンタは本で見て知っているでしょうが。わざわざ聞かないでよ面倒臭い。」
つい言葉に棘が混じる。パチェの顔に折角浮かんだ興味が消え失せたのは残念だが、仕方がないのだ。
なにせ、あの映像は・・
あまりに、おぞましかったから・・・・
◇
生臭い。
私の前には、何時も動かない木偶、肉人形の山があった。その肉を飲み込み、血を啜る。端から見たら奇異に見えたろうが、あの甘美な、どす黒く体を内側から腐らせるような匂いと味は悪くは無かった。第一、他人にどう見られようが知ったこっちゃない。
食べるのはそれだけでは無かった。あの堅く巨大な醜い塊。あれには味は無い。香りが良い訳でも、いや、食べたいとすら、それどころか食べ、貪る理由すらも分からない。
私の体を動かすのは、決して満たされない己の心だった。側には淀みきった蛇か蛙の涎と血とハラワタを煮詰めて腐らせたような沼。少し遠くを見れば陽は射さず雪と氷に覆われ、命を拒絶するような世界が広がっている。
美しさなど望んだ事は無かったが、自分を満たしてくれるような存在は其処には欠片ほどにも存在しなかった。
それでも私は其所を出なかった。欲した事も無いのに満たされない衝動を糧に体を引き摺り、貪り、喚き、ありとあらゆる醜いものを撒き散らした。
そんな私にいつしか誰かが名をつけた。芸の無い事に私の様をそのまま表すような名前を。
『ーーー―ッ―・・・・』
―
「・・・・はっ!」
跳ねるように飛び起きる。そこは紅魔館の部屋だった。
また変な夢だ。貰った美鈴の寝巻きはジットリと汗に濡れ、暑さと寒気の入り交じった悪寒を届けてくれる。
「・・・・」
胸がざわついた。部屋を見渡す。誰もいない。当たり前だ。中から鍵を閉めたのだから。
頭では納得しても、胸の感覚は消えない。いや、それどころかはっきりしてくる。ガタついた扉みたいなざわめきに混じってヒュウヒュウとすきま風みたいな冷たさが沸き起こってくる。
ここには誰もいない。
一人。
一人。一人。ひとり、ヒトリ、独り―
「・・・・顔でも洗ってくるか。」
のそりと布団から出る。とにかく気分を変えたかった。
―
「・・・・迷った!」
廊下の真ん中で独り叫ぶ。いくらなんでも広すぎだろここ・・・・しかも窓が少ないので月明かりもろくに入ってきやしない。
途中で『壁に手をついて歩けば迷路は抜けられると聞いたぞ!』と手をついて小走りしたのは良いものの、当の部屋は廊下の壁のドアの一つ、迷路で言えば壁の途中にあるのでそもそも抜けられるとか言う話では無かった。馬鹿馬鹿しい。
「あー、こんな夜中じゃ誰かに聞くなんざできねえしなあ・・・・どうしようか・・・・」
独りごちながらトボトボと歩を進める。現在地すら分からず、まるで吹雪の中の遭難者だ。いざとなったら壁をぶち破って美鈴に助けを求めるか、門番だし夜中も起きてるだろう。
そんな事を考えていた時。
「・・・・!?」
廊下の向こうの暗がりに、光るものが見えた。赤、黄、青などの七色。そいつはユラユラ揺れながら近づいてくる。
「・・・・・・」
次第に姿が見えてきた。
赤い服にスカート、サイドテールに結った金髪に白い帽子を被り、最初に見えた七色は歪な羽についた尖った水晶だった。シルエットはどことなくレミリアに似ている。しかし彼女は赤い靴を履いた脚に合わせ、光る羽がどこかフラフラと不気味に揺れていた。
「お姉さん、だぁれ?」
焦点の合っていない赤い瞳を向け、白い牙の覗く口をにやつかせながら少女が問う。得体の知れない威圧感を感じながら、ポツリと答える。
「リザだ。・・お前は?」
「・・んーとね。」
少女がカクリと首を傾げ、ケタケタと笑い、答えた。
「・・私はフランドール。フランドール・スカーレット。」
ペヤング上陸。割りと美味し。