「まさかお前か?犯人は?」
魔理沙が箒を降りながら尋ねる。ドラゴンはフーフーと震える鼻腔から荒く息を吐きながら、無言で睨んでくる。
「・・・・何者だよ、お前。」
答えないのでオレからも質問してみる。ドラゴンはチラリとこちらを一瞥し、低く濁った声で答えた。
「ファー・・ヴ、ニル・・」
「ファーヴニル?」
「それって動物博士の・・」
「そりゃファーヴルだな。」
魔理沙が訂正するとルーミアは「冗談だよ。」と口を尖らせる。呑気だなコイツら。
「興味深いな。パチュリーの本で一度読んだ。」
魔理沙は目の前の相手を珍しいものでも値踏みするようにジロジロ見つめた。ファーヴニルはうっとおしそうに魔理沙に向けて唸る。
「悪神ロキと父親のイザコザで手にはいった黄金を、兄弟で取り合いした挙げ句に黄金に取りつかれた兄貴の成れの果てだ。もし本当なら結構な大物だぜ。」
「・・!ロキ・・?」
ルーミアが物知りだね、と感心したり魔理沙が他人の本で得た知識にも関わらずどや顔していたりしたが、そんな目の前のアレコレを押し退け、頭の中で反響する名前があった。
悪神ロキ。
何故だか引っ掛かる。今向かい合っているファーヴニルの説明にチラリと出てきただけの筈なのだが、頭の中で小石が転がるような違和感。それは丁度、フランがレーヴァテインを取り出した時に感じた感覚に似ていた気がした。
「・・リザ・・ルーミア・・」
名前を呼ばれ、ハッと我に返る。ファーヴニルは確かに此方を見ながらそう言った。スケルトンを退けた後の嫌な予想が頭をよぎる。
「・・知っているのか?オレ達の事・・」
砂を噛むような嫌な予感を圧し殺しながら聞いてみる。ファーヴニルはふてぶてしい表情と口調のまま答えた。
「・・オマエラ、ツレテカエル。オレ、ホメラレル。」
心の中で舌打ちする。やはり怪物の裏には黒幕がいた。おそらくスケルトン共も同様だろう。なるべく多く情報を引き出さなければ、と黒幕が誰なのか尋ねようとした。その時。
「待て。私もいるんだぜ。興味無さそうにすんなよ。」
「・・・・!」
魔理沙が話に割って入る。ズカズカと小川越しに近寄ろうとすると、ファーヴニルは初めて弾かれたような動きで傍らの岩を抱え込んだ。何だ?と眉を潜めた時、魔理沙が食いつくように質問を浴びせかける。
「何だ?その岩が大事なのか?本のファーヴニルも黄金を守っていたけど、その岩も何かあるのか?」
岩を指差しながらニヤニヤ笑う魔理沙。ファーヴニルはギロリと魔理沙を睨むように、オレとルーミアは抱え込まれた岩を凝視して、それぞれ目を細めた。
「・・・・おっ!?」
よく見ると、なんと抱えた爪の陰から黄金色の部分が見え隠れしているではないか。まさか、もしかして、本当に黄金?
オレ達の視線に気づいたのか、ファーヴニルは自慢気に鼻を鳴らす。
「コレ、オレノオウゴン。オマエラニハアゲナイ。オレダケノタカラモノ。」
物言いは子供の我が儘だが、物がモノだけにファーヴニルを自然に睨み付けてしまう。気づけばルーミアも獲物を狙うような目付きで岩を注視する。やはり財宝にはロマンという全年齢対象の魅力があるようだ。
ところが、打って変わって嘲るような声が響く。
「プッ、ばっかみてえ。」
魔理沙だった。今度は「何笑ってんだゴラア」とでも言いたげに牙を剥くファーヴニルだが、魔理沙は変わらぬ調子でヘラヘラと喋りだした。
「私はこの辺で長いから教えてやる。ソイツは金じゃねえ、"黄鉄鉱"だよ!」
「黄鉄鉱?」
ルーミアが首を傾げると、魔理沙は口の端をつり上げながら説明してくれる。
「鉱物の一種だよ。ちょいとくすんでいるが金に色が似ているのさ。
ついたあだ名が、"愚者の黄金"。」
「・・グシャノ・・オウゴン・・」
ポカンとしたファーヴニルが呟く。魔理沙とルーミアは膝を叩いて笑いまくっていた。いや、おいルーミア。お前はさっきまで興味津々じゃ無かったか?
二人の夢中になってかしましい声をあげる様子をそうして眺めていて、
気づくのが遅れた。
ファーヴニルが、その巨体をものともせず飛び上がり、川を乗り越えて素早く魔理沙達に襲いかかる。オレが一歩踏み出すのと、ファーヴニルが爪を降り下ろすのは、同時だった。
「あぶねえ!」
「っ!?つおっ!!」
魔理沙は間一髪、ルーミアを抱えて一撃を逃れる。一旦フワリと浮かび上がってからオレの傍まで降りてくると、ニカッと歯を出して笑いかけてくる。
「手伝ってくれ。アイツを倒さにゃならんみたいだ。」
・・切り替えの早いやつだ。ため息一つついて笑顔の魔理沙に向き直る。
「簡単に言うな。見てみろアイツの顔。」
オレが指差すと、魔理沙とルーミアはキョトンとした目で振り返る。そこには、鉤爪で苛立たしげに地面を削り、地鳴りのような唸り声をあげながら体を震わせるファーヴニルの姿があった。
「ウソダ・・!オレノタカラホンモノ。オマエラユルサナイ、コロス・・!」
尻尾をヌルリと持て余すように動かす。先程からの彼の仕草は爬虫類(?)であるにも関わらず毛を逆立てた猫を思い出させた。
「すごい怒ってるよ・・」
「逆鱗に触れた、て奴か。」
ルーミアが寄り添ってきたのを片腕で抱き寄せる。今更ながら少しは状況を理解したか、と魔理沙に視線を移す。
しかし。彼女が振り返って見せたのは、例によって笑顔。
「心配すんな、どうせ奴は水飲んでいる隙に不意打ちされる雑魚だ!」
相変わらずの危機感の無さに閉口する。つか、不意打ちって例の本の話か・・?
「その不意打ちで殺れる雑魚を散々煽ったのは何処のドイツナンデスかね・・?」
苛立ちで発音がおかしくなる。ここに来て魔理沙はやっとギョッ、と表情を変え、顔を強張らせながら裏返った声を出す。
「さ、さあ・・・・そんな阿呆は中々オランダろu」
「また来た!」
「!」
ルーミアの声に弾かれ垂直跳びで避ける。その刹那、地が割れるような音がしてファーヴニルの爪が地面に食い込んだ。
「くっ!」
魔理沙が何を言いかけたかはこの際どうでも良い。横目で同じように飛んで避けたルーミアを確認し、声で合図する。
「ルーミア!」
「うん!」
眼科のファーヴニルを睨み、爪を振り上げる。
「らああああっ!」
落下の勢いを利用して二人揃って爪を突き立てる。上方には動かしにくい顔で睨むファーヴニルを乗り越えて、背中に一撃。
命中した筈だった。が。
「ぐあっ!」
「あうっ!」
鈍い反動と悲鳴。前のめりのままルーミア共々地面に転がる。跳ね起きて痺れる腕をみると、長い爪に白い傷が生々しく残っている。
「・・硬ェな。」
鈍く黒光りする鱗。それは想像以上の強度だった。何事もなかったのようにファーヴニルは振り向く。
「ルーミア、怪我は!」
「・・平気!」
服についた泥を払い、立ち上がるルーミア。まだ逃げなくとも済みそうだ。
懐からカードを取り出す。物理がダメなら・・・・!
「炎符『轟龍烈火』!!!」
吐き出した炎は真正面の獲物を丸呑みにし、驚きと熱さに悶える姿を初めて晒させた。
「グオオオオアアア!!」
火だるまになりながらファーヴニルは雷雲の如く重苦しい悲鳴をあげる。ジタバタともがき、炎から逃れようと体をくねらせる。
はっ、サラマンダーでも見習いやがれ。欲望の火に呑まれたお前にはお似合いな最期だ。
さて、もう一つ・・と手を伸ばした時、ファーヴニルは突然体を捩り、高く飛び上がる。
捨て身か、と一瞬身構えたが、向かった先は此方では無かった。ファーヴニルは空中で体を捻り、明後日の方向に着地する。
「な、何だ!?」
「アレ!」
ルーミアが何かに感づいて例の川を指差す。そこにファーヴニルは転がり込んだ。
「しまった!」
駆け出すのも間に合わず、川から蒸気が煙のように立ち上がる。案外深かったようで、ファーヴニルの体はとっぷり沈んだ。炎を消された事に歯噛みしていると、水面に小さく白波が立つ。それに気づいた瞬間、目の前で乱暴な水音と飛沫があがった。
「うわっ!」
思わず顔を覆う。腕を微かに下ろして視界を確保する。その瞬間に大きな影が覆い、同時に体に届く風。
「ぐっ!」
強烈な尻尾打ちが振るわれる。辛うじて腕で防いだものの体は軽々と吹き飛ばされ、腹と背中に重石のように響く衝撃と共に木に激突する。
「リザ!」
「・・っけは・・!」
ズズ、と木を背が滑り尻を打ち付け、喉元が放り投げたみたいな息が飛び出す。ハッキリしない意識にかぶりを振ると、それに丁度ピシャリとひっぱたくような声が飛ぶ。
「リザ!ルーミアも離れろ!」
魔理沙の声だ。此方を向いていたファーヴニルはのそりと振り向く。こっそり舌を出すと某かの力がファーヴニルの後ろに濁流のように流れ、集まっていくのが分かった。ヨロヨロと腰をあげて横に回り込むと、振り向きかけているファーヴニルに向けて、魔理沙が何か六角形の道具を構えているのが見えた。そいつが目映い光を湛えた所で、魔理沙は叫ぶ。
「恋符・・!」
スペルカードの言い回しだ。しかし相手は容易く技を放たせてはくれなかった。ファーヴニルはガバリと大口を開け、ブハア、という下卑た音をたてて紫色の禍々しい瘴気を吐き出す。
「『マスタースパーク』うぎゃあ!」
魔理沙は襲い来る瘴気に間一髪体を仰け反らせて避けるが、発動した技はその為に目標を大きく逸れる。口上に続いて太い、紅魔館の時計くらいの大穴が開きそうなレーザーが景気よく、しかしファーヴニルには掠りもせず木々を焼き払う。
「うひゃっ!」
ルーミアは頭を押さえて地面に伏せる。その頭上スレスレを輝かしい光の矢が駆け抜ける。隕石か何かのような轟音と旋風が空気を震わせ、落ち葉を巻き上げた。
「ルーミア!くそっ・・」
ルーミアも心配だが、まずは魔理沙だ。体を丸めて呻いている。ところが飛び出そうとした瞬間、またファーヴニルが躍り出る。
「っどけえ!」
叫ぶが早いか正面突破しようとするが、その時横から叫ぶ声。
「夜符『ナイトバード』!」
ルーミアのスペカだ。色とりどりの光弾がファーヴニルの横っ腹に食い込む。ファーヴニルはビクリと怯み、ルーミアを睨む。
その隙に地を蹴る。ファーヴニルの背中を踏みつけ、真っ直ぐ魔理沙の元へ。地面に落ちた帽子を何やらまさぐりながら、うずくまっている。
「魔理沙!おい!」
肩を掴んで呼び掛ける。魔理沙はビクリと体を震わせると、恐る恐る、といった様子で振り向く。
「その声、リザ・・・か?」
何故か辿々しい声で、疑問形。眼差しは何処か頼りなく、眉間にシワを寄せ目を細くしながら何度もしばたかせている。
「・・どうした?」
嫌な予感がして肩を揺する。魔理沙は苦しそうに目を掌で覆った。
「・・目をやられた。魚が死んだのもこいつのせいだ。水でも飲んだんだろう。」
魔理沙が忌々しそうに吐き捨てる。肩を掴む手が、スルリと滑り落ちた。
まずい、今の所爪も炎も効いちゃいない。魔理沙は盲目なんて厄介なハンデを食った。かといってルーミアには・・・・
「くあああっ!」
ルーミアが走って、いや、最早頭からオレの隣に滑り込んできた。
「ごめん、リザ、魔理沙。私じゃ足止めにも・・」
上半身だけ懸命に上に向けて泥だらけの顔で訴えるルーミア。背後からはユラユラと近寄るファーヴニル。やはり無理か。と歯噛みする。
「・・魔理沙。」
目が見えないのが心地悪そうに、何度も目を擦る魔理沙に一言呼び掛ける。魔理沙は顔をしかめたまま見つめあう。
「・・さっきの、もう一度撃てないか。」
酷な注文だと思った。つい先程のあれだけの派手な攻撃をしかも視力を失った相手に要求する。
「む・・」
魔理沙は渋い顔で考え込む。今の自分に望みをかけられているのを察したのだろう。
じっと黙り込む事数十秒。その間ルーミアは懸命に弾幕でファーヴニルを近づけまいと奮闘している。額に手を当てていた魔理沙が、ふっと顔を上げる。
「・・時間がかかる。それもあと一発が限界だ。・・それでもか?」
地面に落ちている帽子を、魔理沙に被せてやる。
「・・・・頼む。」
奴を倒す事が出来るのは、恐らくアレだけ。
「きゃああぁ!」
背中に響くルーミアの悲鳴。振り返るとまさに此方に逃げるルーミアにファーヴニルが食らい付かんとする所だった。咄嗟に高くルーミアの頭上に飛び上がると、カードを取り出す。
「焦符『這舌咬獲』!!!」
炎球を続けざまに噴き出す。気づいたファーヴニルは素早く飛び退いてかわそうとしたが、炎はそれに合わせて体を捻らせる。
「グオアッ!」
背中に噛みつく炎。ファーヴニルは転げまわるように川に飛び込んだ。
「はあ、はあ・・・!」
追うことは出来なかった。尻尾打ちが効いたのか腕と肋骨が痛む。俯いて手をつき、咳き込んでいると、ルーミアが横から覗き込んでくる。
「リザ・・・」
眉が下がり、何時もの元気は消えている。頭を一度撫でてやり、ゆっくりと体を起こす。
「ルーミア。・・・魔理沙を頼む。」
向き直って走り出す。既にファーヴニルは水からあがり、此方を睨んでいる。
(・・・・オレ一人で、どこまで時間が稼げるか・・・・!)
―
「グルオアア!」
「うひっ!」
ファーヴニルの爪を転がり回って避ける。何度そうしたか分からない。辺りには木が三本の野太い筋を残して抉られ、中にはポッキリ折れたモノまであり、凄惨な姿を晒している。
「ガアアアァッ!」
「くっ!」
続けざまに振るわれる尻尾を飛んで避けた。まるで鋼で覆った鞭だ。もし当たったらと思うだけでも脇腹に軋むような痛みが走る。
距離を取ろうと後ずさりしかけた。しかし、すんでの所で足を止める。
「・・・・!」
後ろを一瞬だけ振り返る。
膝立ちで道具を構え、無言でエネルギーを溜めている魔理沙、隣ではルーミアが寄り添って支えている。
彼女らに手を出させる訳にはいかない。せっかく『マスタースパーク』を発動させる為に力を充填させているのに、邪魔されれば希望は潰えてしまう。
「こっちだ!」
誘い出すために別方向に走り出す。ファーヴニルはすかさずオレを眼中に捉えたまま平行して走り出す。引き離すことには成功したが、ファーヴニルは素早い動きでピッタリとついてくる。
「この!」
走りながら炎を吹き出す。しかし流石に学習したが、立ち木の陰に巧みに入り込んで防ぐ。木は炭に変わって燃え落ちるものの敵には掠るのが関の山だ。
「オオオアアア!」
ファーヴニルが毒の息を吐く。それを見た瞬間、カエルのように飛び退いて避ける。
「うわわわわっ!」
足先が微かに痺れた気がした。振り返るとシュウシュウ音をたてて木が枯れていく。ヒビの入った粘土細工みたいなそれを哀れに思いながらも冷や汗が出た。このままじゃやられるかもしれない。必死でグルグルと頭と視界を回す。何か使える物が必要だ。
すると、改めて探したせいか、今まで見逃していたあるものが目に入った。イバラに覆われた洋風の一軒家。いや、あばら屋といった方が正しいか。壁は微かにひび割れ、積み木を寄せ集めたようなごちゃごちゃした外観はお化け屋敷のような奇妙な雰囲気を醸し出している。
その家の煙突を見た瞬間、あの光景が蘇った。木の根の隙間に転がった骨を取るのに苦心するルーミアの姿。
(そうだ・・・・!)
望みが見えたお陰か、目の覚めたような身軽さで跳び跳ねる。ファーヴニルは一瞬遅れて追いかけてくる。
(何かアイツが執着するもの・・あれだ!)
走りながら前方を見据える。そこにあるのは川、そしてファーヴニルがムキになって黄金だと喚いた岩がある。
「てりゃっ!」
急ブレーキをかけた反動で鋭く半回転、尻尾打ちを岩の下部に叩きつける。うまい具合に、両手で楽に抱えられる程度の岩が抉り出せた。
「よっ・・と!」
両手を子供を抱くようにキャッチする。そしてすかさず走り出すと、背中に狂ったような怒声が響いた。
「マテエエ゛ェッ!ソレオレノタカラアアァア゛ア゛!」
所々ノイズ混じりのダミ声に卵を奪われた親か、玩具を取り上げられた子供かと哀れに思いかけたが、足を止める訳にはいかない。進む先にはあのあばら屋。
傷んだ屋根に飛び移り、相手を見下ろす。夢中になっていただけあって思ったより速く、今まさに、血相変えて獅子の如く牙を剥き、騎馬の如く跳躍し、しかし猿のように四肢を広げて躍りかかる。いっ、と声を漏らして踵を返し、岩を抱えて煙突に飛び込む。幸いギリギリで詰まることはなく下に向けてまっ逆さま。内臓にGを感じながら上、煙突の出口を注視する。
「ヨコセエエ゛ィアア゛」
切り取られた青い空が、濁った黄金色の眼と黒い影に覆われたのは中々の恐怖感を与えた。すぐさま鉤爪が伸びた手が煙突の中を迫り来る。思わず目を背けそうになるが、恐怖を押さえ、飛ぶ力を使って一旦静止する。
「そらっ!お前のだ!」
持っていた岩を、殆ど押し付けるようにしてファーヴニルの手にねじ込む。手が掴もうとし出すのを一瞬確認し、下へと落ちようとする、しかし。
「・・・・ん!?」
何かに引っ張られるような感覚がしてつんのめる。この感覚、もしや・・・・
狭い煙突の中で首だけ回す。案の定、岩を掴んだ手がオレの尻尾を巻き込んでいた。
ブチィッ!!
手が引き上げられたのと重力のせいで尻尾を残して垂直落下。程なくボフン、バキッ、と雑多な音と共に視界が真っ白になる。
「ぶはっ!げほ、かはっ。」
顔を出すと、自分がいたのは煙突の続きなので当然だが暖炉だった。消し炭や山盛りだった灰がクッションになって怪我は無かったが、身体中、髪まで真っ白になった。掃除しろよ、と言いかけたが最早住人も居ないだろうあばら家に期待しても無駄だろう。部屋もミニチュアビル街の出来損ないのような本やガラクタの山が埋め尽くしている。
「いて、て!」
髪についた灰を払い、小指を本の山にぶつけながら外に出る。そして煙突の方を戸口から睨んだ。
「ウヌ、ヌ、ヌケナイ!」
上手くいった。ファーヴニルは煙突の中で掴んだ岩を引き抜こうと躍起になっていた。しかし岩とオレの体がギリギリで通る細さだ。大きな奴の手でがっしり掴めば引っ掛かって抜けやしなかった。
「金はあの世に持っていけないぜ。」
オレの声も聞こえていない様子だった。まあいい。あとはアイツラに頼むだけだ!
「魔理沙、ルーミア!こっちだ!屋根の上!」
オレが遠くにいた二人に合図した段になって、ようやくファーヴニルはギョッと此方を見つめたが、万事休すだ。すでにルーミアに支えられて魔理沙が照準を会わせていた
「恋符『マスタースパーク』!!!」
虹色の巨大なレーザー。それは今度こそファーヴニルの全身を、あばら家の屋根と煙突を巻き込みながら貫いた。光が止むと、残ったのは屋根が半壊したあばら家と、巨大なプスプス煙をあげるトカゲの黒焼き。手首がぼろりと崩れ地面にドゥと崩れ落ちる。
「・・ふー。」
額の汗を拭う。手こずりはしたが結果オーライだ。ルーミアに手を引かれて魔理沙も駆け寄ってくる。
「やったね、リザ!」
「礼なら魔理沙に言えよ。トドメはそいつだ。」
オレの声を聞いて、魔理沙はフフン、と鼻高々になる。
「ま、これでも妖怪退治は得意だからな。大した手間じゃない。」
胸を張る魔理沙だったが、その拍子に落ちた帽子をまたアタフタと探し始める。不謹慎ながら、少し間抜けだった。
「あ、そういやさ。」
ルーミアが拾った帽子の汚れを手探りで払いながら魔理沙が尋ねてくる。
「さっき屋根の上とか言ったが、何だったんだ?」
「ん?ああ・・・・」
例のあばら家はすぐ近くだが、魔理沙にはまだ見えづらいようだ。魔理沙の手を引いて目の前まで引っ張っていく。
「ほらこれだよ。このあばら家。」
「んー・・・・」
魔理沙は何度も目を凝らす。見事に半壊した家はあばら家と言われてさえピンと来ないのだろうか。
「・・む!?」
「?」
ふと、魔理沙が顔色を変えた。髪を掻き分け目を丸くし、何度もしばたかせている。不思議に思っていると、魔理沙は青い顔で此方を見つめる。
そして、言った。
「・・ここ、私の家だぜ。」
今回の作戦はBJで知った逸話が元になっています。
曰く、猿を捕まえるためにコメを詰めた瓢箪に穴を開け、そこに手を突っ込んだ猿がコメを握ったままなせいで抜けなくなったんだとか。