「・・誰だ?」
身構えて尋ねる。今日で二体も敵に会ったんだ。笑顔を浮かべていても油断は出来ない。ファーヴニルやリトーを見るに連中(兄弟?)は割りと個性的だ。油断を突くタイプかも知れない。
「ふふ、貴女とは初めましてね。」
少女は相変わらずニコニコして話してくる。・・・ん?"貴女とは"・・・?
「何だ。雛(ひな)じゃないか。」
「ひな?」
魔理沙が特に警戒もせずに声をかけている。オレが戸惑いながら交互に二人を見比べていたのに魔理沙が気づき、カラカラ笑いながら教えてくれた。
「コイツ、鍵山 雛(かぎやま ひな)って奴だよ。悪い奴じゃ無い。寧ろ馴れ馴れしい位だぜ。」
「馴れ馴れしい、ってのも酷いわねえ。」
雛とやらは苦笑しながら答える。
雛 「それはそうと、皆が血塗れなのはなんで?」
魔 「このデカイおっさんが命懸けでメイクしてくれたのさ。」
ア 「頼んでもいないってのにねえ。」
雛 「そのおじさんには悪いけど、私のお洒落のセンスを見習えって言いたいわ。」
ア 「それギャグで言ってる?」
さっきまでの警戒心が馬鹿らしく思える程、雛は自分のゴスロリチックな服を引っ張りながら魔理沙やアリスと笑いあっている。
雛 「死んでいる人は伸び白は無いから。ただの悪口。」
意外にブラックな事も言っている。肩透かしを食らってしばらく突っ立っていたが、先程の警戒した態度は失礼だった、と思い出して、謝ろうと駆け寄る。
「あんまり近づかない方がいいわよ。」
雛に向けて歩いてアリスを追い抜いた所、すれ違い様にアリスが言った。思わず端と立ち止まりアリスを見る。
「この子は厄神だからね。触ったり近寄ったりすると良くないものがくっつくわ。」
「厄・・神・・・」
雛の方を見やると、雛は困ったような、バツの悪そうな顔をした。嘘じゃないらしい。そういえばアリスも魔理沙も、さっきから一定の距離を保って話している。
「でも、悪いモノを取る事も出来るんだよ。悪い事ばっかりじゃないよ。」
今度はルーミアだ。目が合うと、キョロキョロした飾り気のない笑顔で見つめ返してくる。恐らくフォローだとかそんな意識もなく、事実を言ったのだろう。すかさず明るい調子で話に乗る。
「へえ、なら何かあったときにお願いしようかな。」
雛に振り向きながら喋りかける。なにも真剣にアテにするでもなく、雛のポジティブ面でなるべく話を繋ぎたかった。雛が得意分野に関しての頼みを快諾してくれるのを期待して。
・・・ところが、そうはいかなかった。視界に入った雛はしかめっ面で、オレとルーミアを額に指を当てて俯いたり向き直ったりしながら見つめてくる。
「どした?」
流石に妙だと思ったのだろう。魔理沙が怪訝な顔で声をかける。雛は困ったように此方の表情を窺ってくる。まさか、と思い返事の催促が口を突いて出る。
「・・・ルーミアと一緒にいたら、まずいのか?」
「・・・・・・」
雛は申し訳なさそうに頷いた。
「・・・何が原因かは見通せない。けど、良くないものが渦巻いているわ。一人一人ではなく、あなた達二人の間に。」
ルーミアと顔を見合わせる。ルーミアは不安な面持ちでオレを見ている。闇を操り、血肉を喰らうなど想像できない、宝石みたいな子供の目。
コイツといて、不幸に?
「・・・紫も同じ事を言った。何でだ?本当に分からないのか?」
雛は頷くばかりだ。魔理沙が会話に割り込む。
「何とか出来ないのか?専門分野だろ。」
しかし雛は今度は首を横に振る。何か言おうとする魔理沙を遮って雛は話しはじめる。
「原因が分からないばかりは、ね・・。それに、感覚で分かるのよ。これは誰もが遭遇する不幸じゃない。
この二人だけの、宿命みたいなもの。」
「・・宿命。」
何の罰だろうか。オレが、ルーミアが何をした?不安そうに手を握って見つめてくるこの少女を、守ってやりたいと思うのはいけない事か?
「・・悪いけど、私も不安になってきたわ。」
怪訝な顔で見つめてくるアリス。思わず睨んでしまった。アリスは一瞬体を竦ませたが、溜め息をついて話し出す。
「・・だって、雛の奴も悪気がある訳じゃないわ。だからこそ勘ぐっちゃう訳で。」
「・・う・・」
確かにそうだ。雛も、アリスも、ありのままを言っているだけだ。
しかし、苛立ちを感じずにはいられない。今まで、一番笑いかけてくれたのは、ルーミアだ。短い間だが、撫でてやった時には胸に温かいものが込み上げてきた。
傍にいたい。理屈の欠片もない、しかし純粋な感情。
「オレは・・・」
「離れたくない。」
ハッとなって声のする方を見やる。ルーミアだ。
「私、リザと一緒にいたいよ。リザ良い奴だし、楽しいし、面白いし・・襲われた時だって、リザがいなきゃやられてた!」
ルーミアの叫びは怒りはなく、寧ろ訴えかけるような、いじらしいものだった。しかし、雛は此方を見て眉をひそめる。
「そうは言うけど・・二人とも、今まで何の異変、違和感も無かったと言い切れる?些細な綻びが、大事に繋がる事もあるのよ。」
雛の声は厳しいものだった。同時に脳裏に今までの事が思い浮かぶ。ルーミアのリボンが焼けたとき、一人で夜中に起きた時の胸の疼き。そして二度にわたる奇妙な夢。
気がかりなのは確かだった。言葉に詰まっていた時、またもやルーミアの毅然とした声が響く。
「無いよ。そんなの、一度も無い!」
ルーミアがキッと見据えると、雛はオレの方に目を向けて来た。なにも言えず、たじろいでしまう。固く拳を握りながら、歯噛みして俯く。それでも、全員の視線が注がれているのが分かる。
「・・ない、よ。」
絞り出すように答えた。はあ、と溜め息をつく音が聞こえて顔をあげると、雛がなにか白い紙を目の前に投げつけてきた。
「む・・?」
額に被さったそれらを拾い上げると、小さな人型の紙だった。何か分からず雛とそれらを見比べていると、雛が腕組みしながら口を開く。
「・・・とうとう危ない、って時にはそれを使いなさい。役に立つかも知れないわ。」
「お、おう・・・」
「厄だけに。」
ルーミアが茶化してくる。どうやら詰問は乗りきったようだ。周りを見ても、表情は幾分か緩んでいる。
「ま、どのみちコイツら地底に行くからな。私達は安全だぜ。」
「あんたね・・」
魔理沙の軽口はアリスにたしなめられるが、雰囲気は明るくなった。
「あ、そういや森の川で毒が流れていたんだった。雛、来てくれよ。」
「あ、魔理沙、ちょっと・・・!」
魔理沙は強引に雛を引っ張っていく。ついていくアリスと共に最初はなすがままについて行ったが、途中で端と立ち止まり、一言だけ、雛は言った。
「・・・気をつけて。」
―
「巨人?」
「ああ、一面血まみれで倒れていたらしい。まだ生きているかも分からんし、皆で調べようと。」
「にわかに信じがたいな・・・」
妖怪の山にこっそり立ち入ってみると、そこの見張り、白い犬と人の合の子のような"白狼天狗"たちは丁度リトーの死体に気を取られていて、そちらにかかりきりだった。お陰で、軽く茂みに隠れる程度で今のところは見つからずに済んでいる。
「あ、良いこと思い付いた!」
ルーミアが振り返る。あまり大きな声を出すな、と手まねで伝えると、ルーミアはへへ、と呟いてから耳打ちしてくる。
「ちょっと手を繋いで。」
ルーミアがオレの手を取る。なんだ、と首を傾げた所で、周囲が暗闇に包まれた。
「な、なんだ?」
「こうすれば見つからないよ。外はもう夜だし。」
ルーミアは得意気にそう言って歩き始める。なるほど、これが本当に闇に紛れる、というやつか。
・・・ん?でも待てよ、こいつ確か・・・
「あいたっ!?」
ごつん、という音がして闇が取り払われる。目の前にはルーミアが額を押さえて倒れていた。ああそうだ。こいつ闇の中じゃ目が見えないんだった・・・
「うーん、いたた・・・」
「大丈夫か?」
ルーミアを助け起こす。仕方ない。やはり隠れながら地道に入り口は探すしか
・・・
「あややや?見たことない方がいますねえー。」
「!?」
頭上からケラケラした声が聞こえる。見上げると、黒い羽を生やし、三角帽を被った黒のショートヘアの少女が、楽しそうにオレ達を見下ろしていた。