トカゲ娘が幻想入り   作:ごぼう大臣

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取材は嫌だ。この記憶って?

 

「およ?」

 

ルーミアが声の方向を見上げて目を凝らす。すると声の主は目の前に降りてきた。その少女が人懐こく微笑みかけると、ルーミアが声をあげる。

 

「文(あや)・・・!」

 

「文?」

 

名前を反復して見返すと、文は「初めまして」と言って、ポケットから名刺を手渡してくる。

 

「私、射命丸 文(しゃめいまる あや)と申します。記者をしている鴉天狗です。以後お見知り置きを。」

 

「あ、ど、どうもご丁寧に。リザだ。」

 

恭しい物言いに合わせて思わず頭を下げた。しかしどうして。その仕草の中にもどこか鼻につくような小賢しい雰囲気が感じ取れた。

 

「もう、リザさん変な顔しないで下さいよ。この幻想郷では皆ズカズカ来るんですからそのつもりで!」

 

「ん、すまん。」

 

違和感が顔に出てしまったようだ。先程の雛みたいな場合も有りうるし、オレも少しは取り繕う技術を・・・

ん?ルーミアが後ろに隠れた。なんだ、一体・・・

 

「では、先ずは一枚!」

 

「え!?」

 

文が懐からカメラを取り出し、素早くレンズを向ける。待て、撮るだなんて聞いていない。被写体の意思は聞かないのか。第一オレ達には撮られたくない事情が・・・

 

「ひゃっ!?」

 

その時、文の姿が墨に塗りつぶされるように消えた。呆気に取られて突っ立っていると手を引かれる感覚がした。ルーミアだ。

 

「ルーミア?あれお前がやったのか?」

 

「うん。」

 

言いながら振り返ると、ルーミアの姿も暗闇の中に見えず、声が聞こえるのみ。やはり能力だ。

 

「あれ、リザさん!?手をどけて下さい!そんな邪険にしないで・・・あれ、いない、これはルーミアさんの仕業ですか!?おのれ、山の妖、天狗を出し抜くとは何という・・・」

 

キョロキョロしている文が即座に想像出来そうなよく回る台詞が、背中に立て続けに届く。内心苦笑しつつもひっそりルーミアに呼び掛けてみた。

 

「なあ、せめてハッキリ断らないか?もしかしたら紫とは関係無いかも知れんし・・・」

 

言いかけた所で、ユラリとルーミアが振り返ったのが腕の感覚で分かった。能力のお陰で顔は見えやしないが、嫌そうなオーラがチラリと走る。続けて少々憮然とした口調でルーミアが話し出した。

 

「あいつ、いつもコソコソしてたり強引だったりで面倒くさいのよ。」

 

「ふむ・・・」

 

ルーミアがここまでつれないのも珍しい。今まで紫と霊夢を除けばこうなるのは初めてだ。

 

「いや、まあ良いか。」

 

一人で納得するように呟く。少し可哀想だが今は構っていられないのも事実。さっさと地底の入り口を見つけてしまおう。

そう気を入れ直して、ルーミアに付いていく歩幅を大きくする。しかしその時、さっきよりも大きく、しかし含みの入った文の声が、背中に纏わりついた。

 

「良いんですか〜!?あなた方がここにいると、皆に伝えますよー!」

 

体がネジが切れたように固まる。ルーミアも手を引く力が引いた。

見つかりたくない此方としては、人数を増やされるのは避けたい。全速力で逃げたら間に合うだろうか。二人で考えている間にも文は言葉を吐くのを止めない。

 

「天狗は素早い種族ですが、私は特に脚に自信があるんですよ。今麓まですっ飛べばすぐに山全体を包囲できます。あやや?行くまでもありませんかね?何人か近くに来ていますね〜これは一声掛けたら来てくれますかね。あの子達なら見えなくても鼻が利きますからね〜。」

 

思わず舌打ちする。よく喋る奴だ。思うに「近くに来ている」というのは限り無く嘘臭いが、確かに他の連中にバレるのは不味い。本当に仲間が来ているなら尚更だ。

 

「行くか?」

 

「・・・うん。」

 

ルーミアが呟いた直後に、周囲を覆っていた闇が晴れる。振り返ると文がニヤニヤと此方を見つめている。辺りにはやはりというか、文以外人っ子一人、影すら見当たらない。畜生、ハッタリだったか。

 

「すいません。仲間の影は見間違いでした。(テヘペロ☆ミ」

 

・・・こいつ。

 

「ともかく、やっと姿を見せてくれましたね。もう、初対面で逃げ出さないで下さいよぉ。」

 

カメラを片手に笑顔を張り付けたまま駆け寄って来る文。その笑いはルーミアが見せるものとは違う。下心を湛えた媚びた笑い。

 

「とりあえず、いきなり写真は撮るな。被写体に許可取るのは常識だろ。」

 

「いやー、スミマセン。メインは隠れながらの撮影でして、今まで断った試しが無いんですよ。あはは。」

 

「それ、意図的な盗撮じゃねえか・・・。」

 

文の悪びれもしない笑いにため息が出る。ルーミアは相変わらず背中に隠れている。オレからして見るからに怪しさを感じているので無理も無いが。

 

「で?文は何がしたい?見たところ捕まえる、て気は無さそうだが。」

 

本当に捕らえる気ならば、わざわざ言うまでもなく仲間を読んでいるはずだ。そう思って尋ねてみると、文は顔を輝かせる。

 

「私は記者だと言ったでしょう?取材ですよ、取材!初めて会う妖怪なんて、格好のネタです!」

 

「やっぱりか・・・」

 

ルーミアがゲンナリした声をあげる。それを全く意に介さず文は何かの新聞を片手に詰め寄って来る。

 

「良かったら貴女も読みませんか!?私の書く"文々。新聞"!1ヶ月だけでも!」

 

「いらねえよ。で、取材もお断り。」

 

ツッケンドンに突き返すと、文は少々がっかりしたようでプクッと頬を膨らませる。しかしすぐにニヤッと笑い、ずい、と顔を近づけてくる。

 

「ふん、貴女に拒否権はありませんよ。私の一声で一網打尽なのをお忘れですか。」

 

「うわ、汚い流石天狗汚い。」

 

ルーミアが嫌そうに舌を出して呟く。すると文は開き直ったように胸を張る。

 

「この位強引じゃなきゃ、皆取材に協力してくれないんですよ!」

 

「卵が先か、鴉が先か・・・いや、鶏か。」

 

後ろで半開きの目をしたルーミアが呟く。このまま言い争っても埒が開かないので、面倒臭いのを我慢して口を開く。

 

「文、ちょっといいか?」

 

「お、受けてくれますか?"ご協力"感謝します!」

 

いやに「ご協力」を強調して文は溌剌とした笑顔を浮かべる。その頬を引っ張ってやりたくなったが、今は自重しよう。

 

「霊夢と紫の話、聞いてるか?」

 

「ほえ?」

 

"何すかそれ"と言いたげな顔を浮かべる文。こればっかりは素の顔みたいだ。ずっとそうしてりゃ良いのに。

 

「リザさん、あの方々に会った事がお有りで?」

 

「ああ会ったよ。頗る不愉快な出会いだったが。」

 

今でも思い出すと眉にシワが寄る。あの二人の不可解且つ理不尽な仕打ちは未だに腹の中でザワザワと騒ぎ、収まらない。どうにも誰でも良いから吐き出したい気分になった。

 

「ちなみに、どういった経緯で?」

 

「どうもこうも、いきなりだよ。スキマだかに呑まれて、目が覚めたら"初めまして"だとさ。」

 

思わず口から悪態が飛び出す。文が何やらフンフンと頷くような声が聞こえるが、イラつきのせいで気にする余裕は頭の中から追い出されている。

 

「その原因に心当たり等は・・・」

 

「ないない、大体こっち来て三日だぞ。訳わかんね・・・」

 

「リザ。」

 

ペラペラと滑るように愚痴を言いそうになった途中で、ルーミアが腰布を引っ張ってきた。その目には呆れの色が浮かんでいる。

 

「・・・あっ!」

 

何だろうと文に向き直って、思わず口に手を当てて声をあげてしまう。文はいつの間にかメモ帳を取り出して熱心に何かを書き込んでいた。恐らくさっきオレが喋った事だろう。まんまと文のペースに乗せられる所だった。

 

「じ、情報抜こうったって、そうは行かねえぞ!これ以上は喋らないからな!」

「そうは言っても、紫さんや霊夢さんに狙われるって興味が尽きないですね。」

「はん、お生憎様。こちとら地底に行って奴等ともオサラバだ・・・ってああ!」

 

「成る程、次の目的地は地底・・・と。」

 

再び文がメモ帳にペンを走らせる。もう嫌だ。ルーミアの方を見れず、情けなさに顔を覆う。いや、いっその事傍らの樹に頭を打ち付けてやりたくなった。すまないルーミア。オレに隠し事は無理だ。

 

「その調子で次の質問に・・・」

 

「やだ!お断りだ!聞こえない!聞こえないぞ!」

 

咄嗟に耳を塞いで言い放つ。理由が分からないにせよ危険視してくる輩がどれだけいるか分からない。新聞で情報をばら蒔かれたらそれこそ"沈静化"の為に闇に葬られるかも分からない。紫のオーラからして有り得ないと思えないのが怖い。それに、第一・・・

 

「すっかり黙りこんじゃって・・・」

 

「失礼な。大事な考え事だ。」

 

「あれ、聞こえてるじゃん。」

 

ルーミアが茶々を入れるのは放っておいて、文に視線を移す。きっと真面目な顔をしていたのだろう。文が少し戸惑っていた。

 

「記事にしたら、お前も危ないかも知れんぞ。」

 

「へ?」

 

文の戸惑いの色が濃くなる。オレも嫌な思いに邪魔されて忘れかけていたが、紫の言ったある台詞が先程脳裏に甦った。

 

「・・・紫の奴が、"噂になったら困る。"とか言っていた・・・。下手にばら蒔けばお前も何されるか分からんぞ。」

 

「え!?」

 

文が顔をしかめる。それに追い討ちをかけるようにルーミアが口を挟む。

 

「あー、そういや言ってた。あなた達の真実は重すぎるとか何とか。」

 

「ふむ・・・」

 

文は難しい顔をして考え込む。やっと思いとどまってくれるかも知れない。オレはすかさず身を乗り出す。

 

「悪いことは言わん。お前も関わらない方が身の為かも知れないぞ。」

 

心配する風で正直な所、関わって欲しくないのは文が信用できないから、という理由が大きいが、心配しているのも本当だ。ほんの微かにだが。

 

「いやしかし・・・三日前・・・重すぎる真実・・・うーん・・・」

 

オレの話を聞いてか聞かずか、文は俯いたまま唸っている。

 

「ねえ、もう良いでしょ。言いたかないけど、煙たく思えてきた。」

 

ルーミアが飽きたとでも言いたげな声をあげた。無理もない。日のすっかり沈んだこの時間にグダグダしたやり取りに付き合わされているのだ。しかし、文はそんなルーミアの神経を見事に逆撫でする。

 

「おや、ならば仰いで差し上げましょう。それー。」

 

気の抜いた掛け声と共に文は紅葉型の団扇でルーミアの顔にバサバサと風を送る。ルーミアが見事にしかめっ面になっても一向にやめない。こいつ先程ああ言われておいて、煙に巻く気か。風通しを良くしても退散の風向きは許さん、と。

 

「おい、止せってもう・・・」

 

しょうもなく感じて止めに入ったとき。

 

文の風が頬を撫で、

 

頭の中に、あの感覚が浮かんだ。

 

「・・・っ!」

 

脳内に小石が転がるような、悪神ロキの名を聞いた時の、あの感覚。

 

文を見据えると、その感覚はますます強くなった。

 

文の起こす風。鴉のような羽根。そして気に障るしたり顔。

 

そんなモノが、何故か目についた。

 

頭の中の小石は今や拳のような石となり、脳髄をガンガンと叩く。思考が邪魔される。こんな事は初めてだ。

 

「・・・リザ?」

 

ルーミアが声をかけてきた、気がした。黙っていてくれ。いや、離れてくれ。

 

思い出しそうなんだ。

 

「フ・・・ヴェ・・・ルク・・・」

 

・・・とびきり、殺しても飽きたらない程憎んでいた、アイツの事を。

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