トカゲ娘が幻想入り   作:ごぼう大臣

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地霊殿て何処?あなたはだぁれ?

 

 

闇。

 

光の指さぬ深海のような、広く深く、心地よい闇。周囲には命の気配はなく、石ころ一つも見当たらない。耳には風の音も入っては来ない。肌に微かに冷たい風のような感触があるだけだ。

 

この空間に来てから、何年の月日が経っただろう。居心地は悪く無かったように思う。何も見えない、何も聞こえない。煩わしいものは無く、夢の中を漂うように安らぎに包まれているのは、時には寧ろ幸福に満ちているようにさえ思えた。

 

あの、私が初めてみた者達の、虫のざわめきのような、五月蝿い有象無象を思い出すと尚更そう感じる。

 

彼等は、私の性から来る業を滑稽な程恐れおののいた。嘆き、絶望し、自分ではどうにも出来ないとあの姿を見せなくなった女に縋った。

 

あの時から悉く拒まれ、挙げ句こんな場所に追いやられたが、それ自体は恨んでいる訳ではない。

 

ただ、やつが来てから・・・

 

異様に、あの時の喧騒がまた欲しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むう・・・」

 

目が覚めた。二、三回目をこすって、目だけで周りを見渡す。もしまだ夜ならこのまま体を動かさないで二度寝しようと思ったけど、眩しい朝日と鳥の声は一日の始まりの証。

 

あれ、ここどこだっけ。リザにオンブされてから記憶がない。知らない木の天井に同じ布団にはヨダレを垂らして寝ている文。そして隣には畳の上で毛布だけを被り眠るリザ。

 

「・・・文。」

 

何時もの小憎らしい高慢ちきな顔を緩め、猫みたいに安らかに眠っているのを見て、少しムッとする。リザは雑魚寝なのに、文だけ呑気に寝ているのが何だか気に入らない。

 

「よっと。」

 

「むーん。」

 

何気無く文の上でワンステップ跳ねてリザの元へ。此方もクテンと大人しく眠っている。

 

「リザ〜、朝だよ〜・・・」

 

「うぅ・・・」

 

リザは嫌そうに寝返りをうってそっぽを向く。リザが寝起きの悪いことは知ってたけど、こうして文と二人で寝転んでいる姿を見せられると一緒に居るものとして少々情けない。それに今は他人の家だし、こんな私にも体面を気にする感性はあるのだ。

 

「尻尾食べるよ。」

 

「起きます。」

 

一日経って再生した尻尾。ソイツを朝イチで取られては堪らないと思ったんだろう。毛布をはね除けて上半身を4/1回転。

 

「もー、大人なのに恥ずかしくないの?」

 

「いや、お前は知らんだろうが・・・オレの場合種族的な理由がだな・・・」

 

寝起きの不明瞭な声で何やら釈明を始めるリザ。一応聞こうとはするけど、正直こっちも眠くて頭に入らない。それに朝の冷え込みのせいで物凄い寒い。

 

その時、スパーン!と良い音を立てて誰かが部屋の襖を開け放つ。二人揃って振り向くと家主のパルスィさんが仁王立ち。

 

「いつまで寝てんの!さっさと起きなさい!」

 

緑のキツイ目を光らせ張りのある声をあげる。噛み殺していたアクビが引っ込んだ。

 

「もう起きてるよ・・・」

 

「寝室から出てこない内は寝ている人扱いよ。」

 

「私、人じゃない。」

 

「うっさい!口答えしない!」

 

耳の中に喧しく響く声に、私の上体はメトロノームを突っつくみたいに萎えていく。私にはいないけど、お母さんに叱られるみたいな気分だ。そう思ってるとパルスィの前で向かい合っていたリザが目に入った。

 

(・・・・・・)

 

何だろう。リザが和んだような目でみるのが何だか気に入らない。この叱る大人に叱られる子供っていう構図にリザが入っていないのが不満だ。モヤモヤする。

 

「おぉっと?」

 

何となくリザにくっついた。リザは少し戸惑ったけど、少しして頭をぽんぽん叩く。

 

「あー・・オレが言うのもなんだけど、お互いしっかりしような。パルスィにはちゃんと謝ろう。」

 

リザに叱られ、モヤモヤはスッと消える。何でだろ、二人とも間違った事は言ってないのに、変なの。

 

「すまんパルスィ。主にオレのせいなんだ。」

 

「・・・はあ。」

 

リザが謝ると、パルスィは呆れたように頭をかく。リザに目を向け、半開きの目で言い放つ。

 

「アンタ、もっとちゃんとしてあげなさいよ。聞き分けってのは相手にも寄るんだから。」

 

「・・・?おう・・」

 

リザは要領を得ない顔で返事をした。私もよく分からない。でももし、リザにもっと頼りがいができたらとても素敵な気がする。

 

「で・・」

 

パルスィがチラリと視線を移す。つられて見ると未だ安らかに寝息を立てる文がいた。今度こそパルスィさんの実力行使か、と内心ワクワクした、けど。

 

「ちっ」

 

舌打ち一つして、ドスドスと立ち去るパルスィ。何かするのかな、と覗こうとしたら、リザが声をかけてくる。

 

「なあ、オレらで起こしちゃった方が良くないか?

 

不安げな顔のリザ。先程のパルスィの怒り顔をみて気まずく感じたのだろう。しかし、私としては事なきを得るのはつまらない。

 

「何で?面白そうじゃん。文が起き抜けで何言われるか。」

 

「んな意地悪言うなよ。オレは起こしてくれたじゃないか。」

 

「だって、文ったら布団独り占めして・・」

 

ノリの悪い事をいうリザについ口を尖らせる。リザは時々お人好しが過ぎるのだ。

 

「・・ん?」

 

その時、相変わらずドスドスと足音を響かせてパルスィが戻ってきた。両手には・・・五寸釘と、ハンマー?

 

「ちょっと退いて。」

 

「お、おい何する気だよ。」

 

怪訝な顔のリザを押し退け、パルスィは文の横に座ると、心臓辺りに釘を構え、突き刺す姿勢になる。

 

「ちょ、おい!」

 

「私こうやって釘を撃ち込むの得意なの。大丈夫。大抵途中で起きるし、最後までいけば眠り放題で万々歳よ。」

 

「いやそれつまり死―ってルーミア!?」

 

私がパルスィの向かいに文を挟んで座ると、リザはますます焦りだした。パルスィはやれやれ、と小さく溜め息をついている。

 

「私は手にやりたいな。お寝坊さんは磔にされました、なんて。」

 

「・・・好きになさい。」

 

「えぇ!?」

 

パルスィが高くハンマーを振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・死ぬかと思いましたよ。」

 

「あはは、ごめんごめん。」

 

数十分後。朝食を囲んでいると文がゲンナリと溜め息をついた。私はけらけらと笑って返し、リザは相変わらず気まずい顔。パルスィは黙って仏頂面。

 

あの時。釘を撃ち込む寸前にリザが文を叩き起こした為、文は今にも釘をぶっ刺そうとする私達を見て悲鳴をあげた。鴉ならぬ鳩が豆鉄砲食ったような顔をしていたものだから、私は思わず大爆笑。パルスィは呆れた表情で部屋を去り、訳も分からず戸惑う文にリザが経緯を話し、急いで支度をして今に至る、という具合だ。

 

ちなみにリザは自分から文に布団を譲ったんだそうだ。文は「ルーミアさんの怒りに関しては誤解です」と私の悪乗りに不満を露にしていた。君が感じる理不尽は私の責任だ。だが私は謝らない。

 

「で、アンタらこれからどうする気?」

 

味噌汁を飲み終えてパルスィはぶっきらぼうに尋ねてくる。答えたのはリザだ。

 

「ふむ・・・出来るだけ長く身を隠して置きたいんだが・・・具体的にはなあ・・・」

 

頬を掻いて弱った顔を見せるリザ。無理もない。地底の事など私と同じくろくに知らないのだ。

 

「・・・」

 

チラリと文に目配せする。文は噛んでいた浅漬けを飲み込み、口を開く。

 

「ならば良い場所がありますよ。地底で大きなコネになる場所が。」

 

「!どこだそりゃ。」

 

リザがハッと顔を向ける。すると文は何時もの調子で得意気に話し出した。

 

「『地霊殿』と言いましてね。地底の数少ない組織だった者達のアジトです。機嫌を損ねなければ長期滞在も可能ですよ。」

 

聞いたことがある。なんか鴉やら猫やらの妖怪に温泉や地獄の釜があってメチャクチャな場所だって。

 

「地霊殿・・・ね。危なくはないのか?」

 

「んーまあ多少は警戒が要るでしょうが・・・」

 

リザの疑問に文は曖昧に答え、フッと目をそらす。

 

「早いとこ居場所を決めないと、更に危ない人に遭遇しかねないので・・・」

 

ああ、と心の中で納得する。魔理沙たちはそこまで話さなかったけど、少しは聞いたことがある。妖怪の山の天狗と地底のあの種族との話。パルスィも半ば呆れた顔で頷いている。なにも知らないリザだけが一人戸惑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの丘の上に屋敷があるでしょう。あれが地霊殿よ。」

 

戸口から出てパルスィの指差す先を見ると、遠くからでも分かるくらいに大きい建物が見えた。周りの長屋とは構造が全然違う。

 

「・・・色々すまんな。何か礼できれば良かったんだが・・・」

 

「要らないわよそんなん。さっさと行きなさい。」

 

つっけんどんに言うパルスィにお礼を言い、三人で地霊殿に向かって飛び立つ。地面の中なので暗いけれど、街の明かりで不自由はない。割りと距離があるので暇になって来たら、リザが文に話しかけている。

 

「そういや文、あの時言ってた怖い人って、誰の事だ?」

 

「え?うん・・・まあ今なら話して大丈夫ですかね・・・?」

 

文は言いにくそうに首を傾げていたけど、目をぱちくりさせるリザを見て苦笑いしながら説明し出す。

 

「それはですね、話せば長くなりますが・・・」

 

私は眼下の街並みに目を向ける。リザからしたら疑問なんだろうけど、私はもう理由を知っている。それも天狗たちの身内の、関係ない話。どうせ上には青空なんて無くて岩の天井があるだけだし、下の景色でも眺めてた方がいくらか・・・

 

「あ!」

 

ボンヤリ街を眺めていると、目を引くものがあった。団子屋さんだ。甘いものは別腹、などというけど、朝ごはんを食べたばかりなのにお店から出た人達が包みを持ってホクホクしているのを見ると、途端にお腹が空いてくる。

 

「ん〜・・・」

 

ついついお店の方にふらふらと降りていってしまう。近づくにつれて甘い香りが強く漂ってくる。大丈夫、遠くまではいかない。この香りを気が済むまで嗅いだら、すぐ戻ろう。そう、気が済むまで・・・

 

ドン

 

「おうゴラァ!」

 

「あ」

 

ボンヤリしながら香りに釣られていたら何かにぶつかった。気がついた時には既に遅し、見るからにヤクっぽい亜人種のオッチャンが四人ほど、私をグルリと取り囲んでいる。

 

「おいガキィ!せっかくの団子が台無しじゃねえか!どうしてくれんだ!」

 

オッチャンの一人が道端に落ちた団子を指差して怒鳴る。その剣幕についポカンとしてると、後ろから二人が追っかけてきた。

 

「ルーミア!」

 

リザが私を庇うように前にたつ。すると男が眉をピクンと上げて、ニタニタしながらリザに詰め寄る。

 

「何だ、三人とも見ない顔だな・・・。お前さんが保護者かい?」

 

「・・・まあ、そんなとこだ。」

 

男から滲み出る嫌らしさに顔をしかめながらもリザは応対する。文は関わりたくないのか遠巻きに突っ立っている。

 

「ルーミアのした事はオレから謝っとく。すまん。・・・まだ子供だし、アイツを許してやってくれ。」

 

リザはそう言って頭を下げる。どう見てもそんな礼儀が通用する相手には思えないけども、リザの性分なんだろうか。しかしやはりというか、男たちの表情は一層醜くなる。

 

「ワリイがそうはいかねえなぁ・・・。ガキだからって見逃すようじゃ、ここじゃあ生きていけんもんでね・・・」

 

「どうしろって?」

 

「例えば・・・体で払う、なんて・・・」

 

リザの眉のシワが濃くなった。文も流石に嫌悪したのか、顔がひきつる。私も同じだ。こんな見た目でも知らない事だらけじゃない。

 

「・・・この辺じゃ、俺と揉めない方が良いぞ。」

 

調子づいた男はリザの耳元まで顔を近づける。その瞬間。

 

「ぬぐぉっ!」

 

微かにしか見えなかった。リザの四本の指が、男の喉元に突き刺さる。男が不意の一撃にくぐもった声をあげて倒れた。

 

「おお、アレは地獄突き!」

 

文が技の名前らしきものを叫び、うって変わってはしゃぎ出す。男たちはと言えば、倒れた奴を見て呆然とした後、同じく態度を一変させて怒りのオーラを放つリザに揃ってたじろぎ出す。

 

「下らねえ・・・さっさと帰れよ。顔も見たくねえ。」

 

ゆらりとリザが男の一人に近寄る。男はヤケになって殴りかかった。

 

「ずりゃあ!」

しかし、その拳は空を切る。リザは男の脇の下に回り込むと、片腕で突き出された男の腕、そして首を抱え込み、もう片方の手で男の腰を掴む。

 

「ふん!」

 

「がはっ!」

 

弾みをつけて腰を持ち上げ、地面に叩きつける。背中を強かに打ち付けた男は変な息を吐いて悶絶し出す。

 

「これはロックボトムですね。相手の動きも上手く利用する・・・」

 

文はもう安心しきったようでら、遠巻きに観察者を決め込んでいる。加勢の必要も無さそうだから良いんだけど。

 

「なろおっ!」

 

三人目の男がまた殴りかかる。リザはそれを高く飛んでかわすと、空中で鋭く体を捻る。

 

「しゃっ!」

 

リザの蹴りが男の首の後ろに突き刺さる。男は呆気なく吹っ飛んだ。

 

「これは延髄斬り!危ないことしますねえ・・・」

 

文は口ではそういうもののどうして、表情は愉快な事この上ない。まあ楽しいのは分かる。私もラフな喧嘩殺法ならともかく、こんな風に鮮やかに体術を繰り出すリザは初めてみた。

 

「ひ、ひいぃ!」

 

残った一人が逃げ出した。リザはその背中をギロリと睨み付ける。

 

「てめえ・・・!」

 

リザがすぐさま追いかける。その足音に恐怖してか、男は一瞬後ろを振り返った。その瞬間、男が盛大につんのめる。

 

「わたあた!!」

 

男が地面をスライディングする。その不自然な事故に私含め三人の視線が集まる。

 

「げ」

 

文がさっきまでの笑顔をひきつらせる。

 

「おいおい、何してんだい?お前さん方・・・」

 

足を引っかけた人物はゆったりと物陰から姿を現す。顔だけ振り返ってその人物をみた男の顔が凍りついた。

 

「面白そうじゃん。事情を聞かせちゃもらえないかい?」

 

長い金髪に鋭い角を額に生やしたその女性は、そう言って手に持った大きな盃の酒を煽った。

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