トカゲ娘が幻想入り   作:ごぼう大臣

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鬼ってなぁに、心が見える?

 

・・・誰だ、コイツは。

 

急に現れた、金髪の女。額から赤い角を生やし、片手には馬鹿でかい盃。ダイナミックな上半身の形に沿う、白い体操服みたいなモノから伸びる二本の腕は女からすれば惚れ惚れするくらいの筋肉を見え隠れさせ、手首にはアクセサリーか知らないが鉄の鎖のついた腕輪が嵌まっている。脚は半透明の布に赤い刺繍の入った奇妙なスカートに覆われ、末端の足まで豪快な下駄を履きこなしている。

 

女は手に持った盃を水平に保ったまましゃがみこみ、倒れて固まった男に目線を合わせると、優しげながら低くドスの利いた、そして艶のある声で話し掛ける。

 

「なあ、途中から見てたけどさ・・・。あんまり褒められたモンじゃ無いよな?他所者に子供相手に粋がるなんて。」

 

「は、はひっ!すんません!」

 

その女が余程恐ろしいのか、男はさっきまでの威勢が嘘のように肩を震わせ、裏返った声で謝罪する。見ると文まで息を飲んで立ち尽くしている。

 

(・・何者だ?一体・・)

 

女は口をパクパクさせる男の首根っこを掴むと、子犬が飛び上がるような悲鳴を洩らす男を無視し、その場に正座させて首を無理矢理此方に向けた。

 

「ほれ、謝るなら私じゃなく本人にしろ。」

 

「さーせんっした!!」

 

男は蒼白の顔面を地面に擦り付ける。その様は此方が引いてしまう程、いや、ルーミアが面白おかしく眺め、文が学芸会の木の役の如く関わり合いを避けている様子を見るに寧ろ憐れにさえ見えた。

そんな風に感じていると、女は此方に歩み寄ってくる。そして男の様子に同情する気持ちを知ってか知らずか、盃を持っていない片腕をズイッ、と差し出して来る。

 

「済まないね。地底には荒くれ者が多くてさ。

 

私は"鬼"の星熊 勇儀(ほしぐま ゆうぎ)。お前さんは?」

 

フレンドリーに微笑みかけてくる。しかしその表情の裏に、そして握り返した手に、鍛えられた者の風格と体の違いが肌に伝わる。男がアレだけ恐れていた理由が少し分かるような気がした。

 

「リザだ。場を収めてくれてありがとう。」

 

「なに、気にすんな。で、そちらが・・」

 

勇儀は道端で眺めていた二人に目を向ける。

 

「ああ、ちっこい方がルーミア。もう一人が文だ。」

 

ルーミアはぺこんと頭を下げるが、文はおずおずと俯く。何かトラウマでもあるんだろうか?

ルーミアはそんな文を気にも留めず、勇儀のもとにトコトコと歩み寄る。

 

「勇儀さん、自己紹介はその位にして、スピニング・トゥ・ホールドのかけ方を教えて下さい。」

 

何やら妙な言い回しの台詞を吐き、ルーミアは道の向こうを指差す。先程頭を下げ、仲間を置いて一人逃げようとしていた男の背中が、ビクリと跳ねた。

 

「んー・・」

 

勇儀は嫌らしい目で男を眺める。男はその場を動かない、いや、動けないのだろう。少し目を凝らせば、脚がガクガクと震えているのがありありと見受けられた。しばらくして、勇儀は首を横に振る。

 

「いやぁ、アレは両足で挟む技だからね。この格好じゃ使えない。」

 

「そうなのかー」

 

勇儀はスカートを掴んで肩を竦める。ルーミアはさほどガッカリとはしていない表情で笑った。因みに男は勇儀が断った瞬間に緊張が解けたのか、火事場の馬鹿力としか言えない様相で三人の仲間を引きずって一目散に消えていった。

 

「ところで・・・」

 

勇儀は文の方をみやる。二、三歩近寄ってジッと見据えられ初めて、文は顔をあげてぎこちない笑顔を作る。

 

「久しぶりだな!文!」

 

勇儀は文の背中をバシンと叩く。文は固い笑顔を張り付けたまま前後にユラユラと揺れた。

 

「あれ、知り合い?」

 

名前まで知っている仲とは聞いていなかった。横からルーミアが説明してくれる。

 

「勇儀は昔、妖怪の山の支配者だったんだよ。昔の上司だから、今でも怖がってんの。」

 

「・・・え、えへへ。」

 

ルーミアは文の方にからかいの目を向けるが、文は愛想笑いするだけだ。勇儀は少々つまらなそうな表情になる。

 

「ったく、しょうのない奴だね。苦手な相手には相変わらずだ。」

 

オレと会った時の態度を思い出して、同じ気持ちになる。その時、今更ながら脳裏に文の言った言葉が蘇る。

 

「あ、そうか。文の言った"更に危ない人"ってもしかして・・・」

 

「わーっ!わーっ!!」

 

文は表情を一変させてオレを止めに入る。・・しまった。今確かめるべきでは無かったと、口にしてから気付く。勇儀、言われた本人は暫しキョトンとした後、呆れたような笑みを浮かべる。

 

「文〜・・・悲しいじゃないか。私はアンタの事嫌いじゃ無いんだよ?」

 

「さ、さーせん・・・」

 

文は泣きそうな顔になっていた。あちゃー、と額に指を当てているとルーミアが半目で見上げてくる。

 

「リザって本当に隠し事出来ないね。」

 

「さ、さーせん・・・」

 

つい文の言った台詞を真似てしまう。呆れと緊張で一杯になった空気を、勇儀の陽気な声が打ち破る。

 

「なあ、ところであんたら、何処に行く気だったんだい?」

 

「あ。」

 

そうだ。地霊殿に行く途中だった。

 

「ああ、地霊殿に行こうとしてたんだ。この辺で・・・」

 

「そうですね!失礼します!」

 

オレが言いきる前に、文は脱兎のごとく飛び上がる。そのスピードは見てきた中で随一であった。本日二度目の火事場の馬鹿力。

 

「あ!おい挨拶くらいちゃんと・・・あーもう!」

 

慌ててルーミアを引っ張り、文の後を追う。飛行能力に置いては埋めがたい差があり、既に文の姿は豆粒程になっていた。

・・・あれ、つーかオレが地霊殿行かないと話が始まらないんじゃ?という事は殊更必死こいて追いかけなくても文の方で待っていてくれるんじゃ・・・

 

まあ良いや。そろそろ地霊殿も近い。文も流石にスピードを出しすぎたか館の扉に手をついてへたり込んでいる。

 

「文、お待たせ。」

 

近くに降り立ち、声をかける。文はゆっくりと疲れた顔を向けた。しかし次の瞬間、文の表情は和らぐどころか恐怖に染まる。

 

「アイエエエェ!ユーギサン!?ユーギサンナンデ!?」

 

「は?勇儀?」

 

文の言葉の意味が分からず、視線の先、背後に目を向ける。

 

「うおっ!?」

 

いつの間にか勇儀が最後尾に悠然と立っていた。面食らっているとルーミアがポカンとして口を開く。

 

「気付いてなかったの?始めっから追いかけて来てたじゃん。」

 

「まじか・・・でも何で?」

 

眉をひそめていると、勇儀はそれを意に介さず扉の前まで歩き出す。

 

「なに、私も用があるんだ。ほら、文も立ちなよ。」

 

文に肩を貸し、勇儀は館の中に足を踏み入れる。その背中に向けて一つ聞いてみた。

 

「なあ、勇儀の用って?」

 

勇儀は僅かだけ振り向くと、クスリと笑ってこう答える。

 

「秘密。」

 

「えぇ・・・」

 

「柄にもないね。鬼が隠し事なんて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・ご主人様の部屋はここだな。」

 

紅魔館以上なんじゃ無いかと思う程の広さを歩き回り、勇儀は一つの部屋の前でやっと立ち止まる。ドアにはハート型のプレートが下がり『さとりの部屋』と書いてあった。ここの主人は精神修行が趣味なんだろうか。精神と時の部屋みたいな?

 

「おーい、もしもーし。」

 

勇儀はドアを乱暴にノックする。そんな気軽に呼び出して良いものなんだろうか。何気無い行動が、ひょっとすると勇儀を鬼どころか、修行を邪魔する部屋の住人にとっての悪魔(マーラ)に変えて・・・

 

・・・いや待て、そもそも、だ。

 

「なあ、誰にも掛け合わないで大丈夫か?」

 

ここに来るまで、どういう訳か対応してくれた者はいなかった。代わりにいたのは沢山の動物たち。犬に猫にカナリヤに、果ては大鷲に熊、ライオンにゴリラ。そして灰色の見たこともない妖精だけだった。紅魔館のように案内がいると思っていたが・・・

 

「まあ、見てなって。」

 

勇儀は自信たっぷりに言う。まあ、他の二人もなにも言わないし信用出来るんだろうが・・・

 

心なしか、二人の居心地が悪そうに見える。

 

その時、部屋のドアが開く。現れたのは紫のショートに子供服のようなものに身を包み、変な管を体に絡ませ、その先に奇妙な目玉を光らせた少女だった。加えて背丈がルーミアと同じくらいに小さかったが、レミリアの前例もあり、それは驚かない。

 

「ようさとり、元気だったか?」

 

「ええ、おかげさまで。」

 

勇儀の言葉に少女はニコリともせずに答える。ってあれ?さとりって名前?

・・・あ、さとり様が笑っていらっしゃいますよ、畜生。そんな間抜けな顔だったか。いかんいかん。

 

「えと、はじめまして・・・」

 

自己紹介しようと一歩進み出る。するとさとりはスッと此方を見据え、言った。

 

「はじめまして、リザさん。」

 

「・・・え?」

 

オレ、名前教えたっけ?考えている間にもさとりはルーミア達にも話し掛ける。

 

「貴女は文さんに・・・ルーミアちゃんですね。」

 

「え、ええ。」

 

「どもー。」

 

二人は普通に対応している。でも何で?思い返して見ても名乗った記憶はない。

 

「驚いたかい?」

 

思考に耽っていると、勇儀が肩を叩く。目をぱちくりさせていると、さとりが振り向き、薄く笑う。

 

「・・・無理もありません。実は私・・・心が読めるんです。」

 

「はえ!?」

 

素っ頓狂な声が飛び出した。心が読める?突拍子が無いにも程がある。しかし・・・確かにそれならつじつまが合う。

 

「いや、いくら何でも・・・」

 

すぐには頷けない。さとりはそんな心情を察したかはたまた読んだのか、こんな事を言い出した。

 

「なら、一つ当てて見せましょう。・・・貴女は、ルーミアちゃんと交流を持ったは良いが、不条理な仕打ちのために地底に逃れた。いかがですか?」

 

「・・・!」

 

つらつらと今までの経緯を言い当てられ、疑いが納得に変わる。同時にさとりはニコリと微笑んだ。

 

「貴女の望みも分かっていますよ。部屋はお貸しします。地上の連中も出来る限りの対応を致します。」

 

「あ、ありがと。」

 

あまりにもトントン拍子に話が進んだので言葉につまる。此方からは殆ど話していないというのに。もし文にこの力が加わればろくでもない、いやとんでもない未来しか想像出来ん。そう考えるとルーミアと文の居心地が悪そうな顔も納得がいった。

 

「・・・」

 

おや、さとりは勇儀を見て何か黙り込んでいる。まさかやましいことがあるんだろうか。勇儀は得意気に笑っているが・・

 

「・・やれやれ、勇儀さん、貴女も好きですねえ・・」

 

「はは、鬼の性さね。」

 

二人が笑い出す。全く話がつかめずにルーミアと文が首を傾げる。

 

「さとりさん・・一体何の話で?」

 

「ああ、私が説明するよ。」

 

文の問いかけに代わりに勇儀がドンと胸を叩く。そしてオレをジッと見据えてきた。

 

「・・?」

 

戸惑っていると、その場に響く大声で、勇儀が言った。

 

「リザ、私と勝負してくれ!」

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