トカゲ娘が幻想入り   作:ごぼう大臣

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今回プロの選手紹介ばりに身長体重を公開する場面がありますが、いかんせん格闘をする輩として体重を重く設定しております。
あらかじめご了承下さいませ。


プロレスしましょ 筋書きなしよ

 

地底に来てから、今日で1週間。

 

日が沈む頃には、街の広場に立派なリングが作られ、周りを大きな篝火が幾つも囲んで周囲を明るく照らしている。

これから始まるリザと勇儀の勝負。それを一目見ようと地底の血に飢えた観客が詰めかけ、始まる前から熱気に包まれている。

 

「本当にすごい人の数・・・」

 

「ふふふ、その大イベントの中でこんな良い場所が取れたのです。記者としても、胸が高鳴ります!」

 

リング沿いの一等地。私が息を呑む横で、文は意気込んでいる。文は私の方を振り向くとニンマリと笑った。

 

「お二人に付いてきて良かったです。関係者としてタダで取れたのですから。」

 

「・・・ふぅん。」

 

会場の準備が進んでいた頃、さとりがこの試合を私と文だけはタダで見られるようにと、この席まで開けて置いてくれたのだ。感謝をしたい所だけど、さとり以下地霊殿の人達はここぞとばかりに観客に高い入場料を取っていたのだ。しかも文はちゃっかり特等席を貰いながら「ヤクザな商売ですよ。」と裏で舌を出していた。さとりに気取られていないか心配だが、それはともかく。文が裏でだけ地底に文句を言う気持ちが分かるような、分かりたくは無いような・・・

 

「うーん・・・」

 

いつしか半目で唸っていた。するとドスン、と何かがぶつかって、尻餅をついてしまう。

 

「ひゃ!」

 

「あ、ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 

差し出された手を掴んで立ち上がる。顔をあげると、そこには黒のローブで顔を覆った二人組がいた。文と同じぐらいの背なので見下ろされる格好になって、顔の見えないその二人に一瞬ギョッとなった。

 

「う、うん。平気。」

 

「そうですか、良かった・・・」

 

 

手前の一人が胸を撫で下ろす。その時もう一人がその肩を叩いた。

 

「・・・・・」

 

「・・・あ。」

 

叩いた奴が無言で顎をしゃくる。もう一人はピクンと肩を震わせて私の脇を駆け抜けていった。それに続いて片方も、私をジッと見た後に追って歩いて行ってしまった。

 

「・・・何あれ。」

 

感じ悪。と胸の中で呟く。ローブなんか着て、変な二人組もあったもんだ。

 

・・・でも、あの声、どこかで・・・

 

「あ、始まりますよ。」

 

文の声で我に返る。リングを指差す文。見ると茶色い服に金髪の人が中央に現れた。確か黒谷 ヤマメ。地底のアイドル、らしい。

 

「皆さん、大変長らくお待たせいたしました。

これより試合を開始したいと思いまーす!」

 

ウオオー、と地鳴りのような歓声が沸く。地底はお祭り事が好きだとは聞いていたが、改めて居合わせて見ると相当だ。

 

「先ずは挑戦者、リザ選手の入場です。」

 

人垣の向こうから、リングに続く通路をリザが歩いてくるのが見える。面持ちは幾らか緊張している。観客の反応は物珍しさからか、余所者にも関わらずそこそこ盛り上がっているようだ。

 

服装はセパレートの黒いユニフォーム。尻尾は借り物のソイツを履くためだろう、千切ったのか無くなっていた。

 

「リザ、ファイト!」

 

傍まで来た所で声をかける。すると幾らか和らいだ表情になり、拳を握って返してくれた。そして決意したように踵を返してトップロープを掴むと、一飛びでリングに舞い降りる。

 

またウオオ、と歓声が鳴った。リザはその大きさと注がれた衆目に少し戸惑っていたみたいで、ストレッチで誤魔化している。

 

「あはは、照れていますね。」

 

文が笑う。そしてリングの中央に再びヤマメが立つ。

この様式美は流石に素人でも分かる。ヤマメはヤケに大袈裟な仕草でいった。

 

「続いて、鬼の四天王の一人にして旧地獄街道の無冠の女帝こと・・・

 

星熊 勇儀選手の、入場です!!」

 

そう宣言した瞬間、リザの数倍は大きい、地鳴りに噴火と雷が合わさったような物凄い歓声が響き渡る。脳が揺れるみたいで思わず耳を塞ぐ。

 

「す、すごい声!」

 

誰に言ったでも無い文句もたちまち掻き消され、声を張らないと自分で言っている気がしない。

 

「あの人は最早畏怖の対象になりかけていますからねえ。山にいた時代から『四天王の中でも最強』と・・・」

 

文の途切れ途切れに聞こえる解説を聞き流しながら、リングより更に奥の方に目を移す。

 

背の高い影が一歩一歩近付いてくる。立派な体躯に羽織を纏い、リザと同じ形のユニフォーム、そのパンツの赤色、シャツの胸に光る星が目立っている。

その星熊勇儀が颯爽と羽織を脱ぎ捨て、空中で一回転してリングに降り立つ。一瞬観客が息を呑む。そして大きな音を立てて足をつけた後、ゆっくりとリザと向かい合った瞬間、一気にどよめいた。

 

二人がジッと見つめあう。二人とも見るからに闘志がみなぎっている。周囲もザワザワと色めいている。早く始めろ、役者は揃った。そんな内心を燻らせているのはあからさまに見て取れたが、ここでまたヤマメが観客を焦らすように二人の間に割り込む。

 

「青コーナー、168㎝、尻尾抜き67㎏、尻尾あり70㎏、リザ選手!」

 

また何度めかの歓声が上がる。リザも黙ったままでは悪いと思ったのか、軽く手を振って応えている。

 

「赤コーナー、172㎝72㎏、星熊勇儀選手!」

 

例によってリザ以上の歓声。当人は両手を広げてアピール。

 

「・・・にしても、二人とも結構重たいね。」

 

文に向けて首を傾げる。いつだったか山の巫女さんが50㎏台がどうとか言って愚痴っていた記憶がある。私はこういうモノには明るくないので、体重を見ている大勢に公開されるのは如何なものかと考えてしまうのだ。

 

「鍛えているんでしょう。時には鎧になる脂肪も必要になりますし。」

 

方々にアピールを続ける勇儀の背中が目に入る。確かに華奢とは言えない別の美しさがあるような気がする。

 

さて、暫くしてヤマメも退場。入れ替わりにレフェリー役らしいお燐がリングに上がる。彼女を中心にして二人が向かい合うと、場内が静まり返る。「始まりますよ。」と文が呟くのが聞こえ、唾を呑んだその直後、カアァン!と甲高いゴングの音が鳴り響いた。

 

「仕掛けた!」

 

文が叫ぶ。勇儀が開始早々突撃し、リザに見事なラリアットを食らわせる。

 

「あっ!」

 

鋭い先制攻撃に場内が沸き立つ。リザは重心を持っていかれて浮き上がった上に背中を強打。勇儀はそのまま首を固めにかかる。

 

「アナコンダバイスですね。流れるようなこの動き、やはりあの方は容赦がない・・・」

 

文は聞かれてもいない解説をツラツラと呟いている。暫くして勇儀はリザを抱えあげ、背中から叩きつけた。

そして今度は片足を持ち上げて両足でそれを挟み込み、クルリと回転する度に持ち上げた足を自分の足に深くフックさせる。

 

「おお!ルーミアさんのお気に入り、スピニング・トゥホールドですよ!」

 

テンションが上がってきた文。しかし私の不満顔に気付くと、、キョトンとして見つめてきた。

 

「リザ大丈夫なの?なんか押されているけど・・」

 

今まで何も反撃できていない。しかし文は気にもしていないような表情で頭を掻いた。

 

「大丈夫と聞かれても・・・」

 

「うぅ・・・」

 

勇儀は既に別の技にかかろうとしていた。リザは仰向けに倒れたまま。

 

このままズルズルやられていったら・・・

 

そう思った瞬間。

 

「・・・むっ!?」

 

リザが前屈みになった勇儀の頭を、両足で挟み込んだ。

 

「見ていなきゃ分かりませんよ。」

 

リザが体を思い切り捻って回転させる。勇儀は顔からグッと引っ張られてリングに投げ出される。

 

「やった!」

 

私が叫ぶと同時に、場内も沸き立つ。思わぬ反撃に向けての声援を受けて、リザが反撃に転じた。起き上がろうとする勇儀に向けて猛然とダッシュ。

 

「おお、起き上がろうとする相手に・・・!」

 

文がワクワクしながらリングを注視する。瞬間、丁度膝立ちだった勇儀の脚を片足で駆け上がり、もう片方で勇儀の顔を横から蹴りつける。

 

「決まったあ!シャイニングウィザード!」

 

「よし行け行け行け!」

 

勇儀の体は端まで押され、ロープに寄りかかって膝をついている。リザはその体を引き上げ、首に逆水平。すかさず勇儀を反対側のロープに放り出す。

 

「来い、大技!」

 

文の期待を知っているかのように、リザがロープを背にしてもたれ掛かり、反動をつけて突進。そのまま行け、と手に汗を握る、が。

 

勇儀が素早く姿勢を低くしてうつ伏せになり、リザに足を引っかけた。リザは勢い余ってロープに突っ込む。

 

「あっ・・」

 

勇儀が立ち上がり、後ろから強襲。リザの背中に腕を回し、抱えあげ、投げる。

 

「うわ、痛そうなバックドロップ・・」

 

仰向けで呻くリザの膝を勇儀が踏みつける。苦しんでいるのを確認すると、勇儀は傍らのコーナーポストに登りだした。

 

「え、まさかあの上から・・」

 

「そのまさかですよ。来ます!」

 

文が叫ぶ瞬間、眼下で倒れているリザに向けて勇儀が体を目一杯広げて飛び降りた。落ちる勢いそのままに、70越えの体躯が一気にリザにのし掛かる。

 

「うわ、苦しそう・・」

 

「重力を利用した体当たりですからね。おっと、押さえにいった。」

 

勇儀がリザの体を押さえつけ、お燐が数を数えはじめる。確かこのまま3までカウントされたらおしまいなんだ。リザ、立って!

 

「らあっ!」

 

すんでの所でリザは勇儀を振り払う。しかしすぐには立ち上がれない。勇儀はリザを引き上げると、背中にあったコーナーポストに放り投げる。

 

リザはコーナーポストにぶつかり、前のめりにもたれ掛かり、勇儀はその隙を狙って迫る。が。

 

「おぉっと!?」

 

文が感嘆の声をあげる。リザは背中を向けたまま、コーナーポストに手を付いて跳び箱のように大開脚。その下を走り抜けた勇儀が振り返る前に、リザは勇儀の後ろに降り立ち、掴みかかる。

 

「やった、後ろを取った!」

 

身を乗り出して歓喜する。しかしそれもつかの間。リザが勇儀を持ち上げようとした瞬間。

 

「な!?」

 

勇儀は体をグルンと捻らせて抜けると、空中で一回転してリザの背中に回る。リザが振り返るよりも早くその腕を掴み、ローブに振る。

 

その後を追うように走り、リザがロープに跳ね返ってきた瞬間、勢いよくドロップキックを食らわせる。

 

「あっつ!」

 

「うひゃ、反動込みでモロに食った!」

 

ウワアア、と場内も盛り上がる。勇儀は倒れているリザの脚を掴むと、踵やくるぶしを中心にして腕を固め、痛め付ける。確かアンクルロックとか言ったか。

リザがロープを掴む。そしてようやく勇儀が離れた。すると、リザは立ち上がらずにリングの外に転がりでた。

 

「何で!?」

 

「あのリングの端っこから建て直すのはキツいと思ったのでしょう。しかし・・」

 

文は難しい顔。一方勇儀はリング外、客席を隔てる柵に寄り掛かるリザを真っ直ぐ追わず、横のコーナーに走る。

 

「な、何!?」

 

勇儀は先ず二段目のロープにジャンプ。そしてその反動でコーナーの向こうに対角線を跨いで飛び、トップロープに足をつけ、そこから高く飛び上がる。

 

「・・・っ!」

 

放物線を描いて勇儀が飛び、宙返り。その先に立っていたリザの、首もとを勇儀の腕が捉えた。

「ぐあぁっ!」

 

客席に雪崩れ込んだ勇儀は柵の向こうのリザの首を締め上げる。先程の鮮やかな動きに気圧されたのか、リザは首を後ろに引っ張られたまま中々反撃できていない。

 

「な、何したの今!?」

 

「ラ・ケブラータ・・ですかね。いざ目の当たりにしてみると強烈だなぁ・・」

 

文がしみじみと言っている間にも試合は続行。勇儀はリング外からリザをコーナーポストに打ち付けると、素早くリングに滑り込んだ。

 

リザも急いで駆け上がろうとするが、勇儀はそんなリザにロープを挟んでエルボー。仰け反りそうになった所でリザがロープを掴んで堪える。

「何あれ、上がらせない気?」

 

「そう簡単には・・ね。意外とサービス精神ありますよ。」

 

勇儀は更に二、三回殴る。リザはロープを放さない。もうそこから叩き落とす勢いで振りかぶった肘が襲いかかる。

 

「っ!」

 

瞬間、リザが両手を横に滑らせて体を横斜めに傾け、上段の肘をかわす。そして掴んだロープを支点にして足を跳ねあげる。

 

「あがっ!」

 

ロープの間から勇儀の腹に、リザの脚が突き刺さる。予測していなかったのか、勇儀は体を前傾してよろめく。

その隙に、リザはまたロープの反動で舞い戻る。背中を上にして手はロープ、脚は俯いていた勇儀の首に絡ませ橋みたいに二ヶ所に体重を預けた。

「くぉっ!」

 

勇儀が振り払おうと後ろに頭を振る。リザはロープを離してしまうが、そのまま後ろに振られるままに体を反らしていった。首に脚を絡ませた状態で肩車のように支えられる訳もなく、棒が倒れる要領で二人は背中をつけた。が、リザは待っていたかのように手をつくと、そのまま脚で絞めにかかる。

 

「逆転した!」

 

「三角絞めに持ち込んだか。粘りますね。」

 

リザの技は振り払われる事は無かった。ひとしきり苦しませると胴体に膝を落とす。そして傍らのコーナーポストに登りだした。

 

「あ、このパターン・・」

 

「いったぁ!」

 

あの時とは少し違い、リザは背中から宙返りし、ピッタリ勇儀の上に落ちる。

ズダンッ!という音と共に歓声が上がった。

 

「っしゃあ!ムーンサルトプレス!」

 

「押さえた!いっちゃえ!」

 

「1、2・・」

 

お燐がリングを叩きながらカウントをはじめる。しかし勇儀の体はすんでの所で大きく跳ねた。

 

「あー・・・」

 

「う、ん・・・立ち上がっちゃいましたね。」

 

二人が立ち上がってにらみ合う。両方ともバテているとは思うけど、悔しいかな勇儀の方に余裕が感じられた。仕切り直しだ、とでもいうように不敵に笑っている。

 

リザが踏み出し、勇儀を殴る。勇儀はガードもせずにまともに食らった。そして殴り返す。また殴り、殴り返される。

 

「・・・あれ、わざとやってんの?」

 

「・・・でしょうね。」

 

文が観客を見渡しながら答える。二人が殴り合う度にワッショイ、ワッショイ、という掛け声で場内が揺れる。

二人とも納得ずくの根気比べ。でも耐えられるんだろうか。いや、その前にどっちかが裏をかいて―

 

「!」

 

その瞬間はすぐに来た。勇儀がリザの腕を掴み、前のめりに崩れた所で腕を両足で挟み、リザの首は両腕で固める。リザの顔が苦しそうに歪んだ。

 

「や、やだ、抜けて!」

 

「うわ、こいつぁクロップラーフェイスロック・・・下手に動くと肩がイカれますよ。多分。」

 

結局、リザはそのまま技に耐え続けていた。同じ技をいつまでもしていてはいけない決まりでもあるのか、勇儀は次の手に移る。立ち上がろうとするリザの腰に、背中から手を回して、逆さまに抱えあげる。そしてそのまま垂直に、足の間に落とす。

 

「パイルドライバー・・・受け身は取れていますね。良かった。」

 

「文・・リザ、勝てるかな・・」

 

「・・・・・・」

 

文は無言だった。自分達だけ別世界にいるみたいに、周囲は喧しく声援を送っている。ぐったりしている相手を、やってしまえと。

 

「ぐぅっ!」

 

「!?」

 

突如、勇儀が怯む声で我に返る。見るとリザは立ち上がり、勇儀を見据えている。

 

「今何したの?」

 

「勇儀さんへのローキックですよ。綺麗に決まりました。」

 

文が話してくれる間に、リザはまた蹴りを入れる。足元、脇腹を執拗なほど攻めていた。素早さのお陰か、勇儀にも幾らか効いているように見える。続けて、一歩踏み込んだ回し蹴りが腹に食い込む。

 

「お、ソバット!そういえばお燐さんが言っていましたね。リザさん、蹴りが得意だと。」

 

「これなら・・いけるかも!」

 

再度リザが放つ蹴りに、淡い望みを懸ける。その刹那。

 

「ただ・・」

 

文の沈んだ声が聞こえた。そして、

 

「当たっ・・て?」

 

勇儀がリザの足を掴む。そしてそのまま飛び上がってきりもみ回転し、リザを床に叩きつけた。

あっという間に形勢が変わる。

 

「な、何今の!」

 

「ドラゴンスクリュー。お手本のような蹴りだけに、見事な返しです。」

 

リザは驚きと疲労ですぐには立てない。勇儀はその隙に自分の脚でリザの脚を絞めにかかる。場内が待ってましたとばかりに揺れる。

 

「そして脚四の字。やっぱりそう来ますよね。流れ的に。」

 

文は半ば勇儀が勝つと確信したのか、ため息をついて頷いている。私が睨んでも肩を竦めるばかりだ。そしてこう言った。

 

「いえ、私も根拠なしに言っている訳ではありませんよ。」

 

「どういう意味?」

 

上目遣いに詰め寄ると、文はおどけるように手を上げて、子供を諭すような口調で続ける。

 

「言いましたよね。リザさん、蹴りが得意だと。」

 

「それが何?」

 

「追い詰められると、誰しも自分の得意な事をしたがるんです。結局一番望みがありますから。」

 

「追い詰め・・・られると・・・」

 

蹴りを見舞う前のリザの様子が甦る。クロップラーなんちゃらを食らったときのリザの表情。パイルドライバーを食らったときの呆気なさ。

もしかしたら、相当辛かったのかも知れない。

 

「おっ!」

 

文が声をあげ、また現実に引き戻される。急いでリングに視線を移すと、勇儀が倒れているリザの前に立ち、大歓声を浴びていた。そして両手両足を大きく横に広げる。

 

と、次の瞬間。

 

「ワアァアァアァア!!」

 

よく通る掛け声をあげると共に、勇儀がバタバタと手を広げたまま足を踏み鳴らす。そして踵を返すと片足立ちになり、真後ろに向けて半円状にケンケンで半周。そして今度はうつ伏せになり、リザに向けて真っ直ぐ尺取り虫のようにバタンッバタンッと近づいていく。

 

私がついていけて無いうちに、勇儀はリザの前に再度来ると観客の声に合わせ、両手を左右に大きく振る。そして眼下のリザに向け、大きく拳を降り下ろした。

ドスッ!という鈍い音がしてリザの体が跳ね、歓声が鳴り響く。勇儀はそれに拳を振るって応えていた。

 

「今の・・・踊り?」

 

「ワームっていうれっきとした技ですよ。客を楽しませる魅せ技ですが。」

 

どうやら、相手を痛め付けるのとは毛色が違うらしい。にも関わらずリザは倒れたまま大きく胸を上下させている。一方の勇儀はそれを引き摺り、コーナーを後ろ向きに登りながら担ぎ上げる。

 

「あー、止めにいく気ですね。これは決まりましたわ。」

 

「ちょっと!文!」

 

わざとらしく首を振る文。リザの方をみると、もう完全に抱えられる寸前まで来ていた。手足はダラリと下がり、顔も俯いている。

「リザ!!」

 

聞こえるかなんて分からない。周囲は勇儀への大声援。簡単に掻き消されるかも知れない。聞こえてどうなるかも知れない。それでも思わず叫んでいた。

 

そして、一瞬。

 

フッ、とリザが視線を移し、私に向けて、瞳を光らせた気がした。

 

「!」

 

トップロープに登った勇儀の肩を、リザの手が掴む。そしてそのまま乗り上げると体を反らして下半身を持ち上げ、勇儀の頭を脚で挟む。

 

「嘘、あの高さから・・・」

 

リザはそのまま回転し、勇儀の頭を叩きつけた。

 

「決まった!フランケンシュタイナー!」

 

「押さえた!行け!三秒・・・」

 

「1、2・・・」

 

お燐がリングを叩く。そして。

 

「「「3!!!」」」

 

スリーカウント。ゴングがけたたましく鳴り響く。

 

 

リザの勝ちだ。

 

「やったあ!!」

 

予想外の結末に観客はどよめき、戦っていた二人さえ半ば呆けているように見える。お燐が駆け寄り、リザの右手を持ち上げる。観客から割れんばかりの歓声と、隣の勇儀からの拍手がリザを包む。

 

「こんな偶然もあるんですねー。」

 

文がパシャパシャとカメラのシャッターを切る。偶然じゃない、と言ってやりたかった。けど。

 

私の声援は、届いただろうか。チラリと、リングを見る。

 

「あ・・・」

 

リザがニッコリ微笑んでいる。私はおめでとうの気持ちを込めて、微笑み返した。

 

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