トカゲ娘が幻想入り   作:ごぼう大臣

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今回場面転換を簡略化。


迷いが消えぬ 時間はないぞ

 

 

「っけほっ・・・」

 

咳き込んだ拍子に、やっと我に返る。頭と体が鉛のように重い。雨はいつの間にか止んでいたが、痛む体の節々がぬかるむ地面に沈みこんで気持ちが悪い。

 

「ルーミア・・・」

 

腕の中の姿に目を移す。先程にもまして息は荒くなり、服の上からも分かるほど胸が上下している。

 

姿は変わっていない。あの時目に写った大人の姿の面影は、今では嘘のように見つけられない。ただひとつ、変わった事と言えば。

 

「リボンが・・・」

 

青娥の言った封印のリボン。その四分の三ほどが、焦げたような跡を残して消えていた。これが完全に消えることが青娥の狙いだったのだろうか。しかし、その結果が青娥の言う通り『紫に匹敵する力を得る』だけとは思えなかった。あの時ルーミアが苦しみ、あまつさえ止めようとするのを無理矢理押さえ込んだのを見るに、まだ何かが隠されていそうだ。

 

「・・・・・・」

 

周囲を見渡すと、竹藪に囲まれていた。ここも幻想郷の中なんだろうか。死に物狂いであそこから飛び出したは良いが、またどちらに行けば良いのか分からなくなった。

・・・オレは何をしているんだろう。また騙されて、ルーミアを苦しめた。何も知らずに不安がって、傍にいたいだけで無用な不幸を招いて、弄ばれる。

 

「・・・っ」

 

立ち上がろうとしてよろめき、目眩がした。一旦息をつき、ルーミアを片手に抱えて隣の竹をつかむ。そして足に力を入れる。が。

 

「うっ!?」

 

地面のぬかるみで足が滑り、そのまま倒れそうになる。

その時、横から誰かが体を支えた。

 

「―え?」

 

ソイツがいる方を振り向く。茶色の長い髪が目に入った。

 

「大丈夫?」

 

聞き覚えのある声だった。狼のような耳に、肩の出そうな独特の服装。

 

「・・・影狼?」

 

「久し振り・・・って言いたい所だけど、何してるの?疲れてるみたいだけど・・・」

 

霧の湖で会ったアイツだ。此方がボンヤリしていると、影狼はルーミアに視線を移し、途端に顔色を変えた。

 

「ルーミア・・・ちゃん?」

 

オレが何かを言う前に、影狼は眉をしかめて食って掛かる。

 

「ねえ!どうしたのこの子、こんな、真っ青に・・・」

 

答える事が出来なかった。彼女が心配してくれているのは知っている。オレに事情を聞いているだけという事も。

しかし、どうしても言葉が詰まり、目を逸らしてしまう。此方も分からない事だらけで、今オレにハッキリ分かる、直接的な原因は・・・

 

オレが、騙されたから。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・っ」

 

俯いているオレに痺れを切らしたのか、影狼はオレの手を掴んで走り出す。つんのめるのを何とか堪え、引っ張られながら後ろ姿に尋ねる。

 

「お、おい!どこいくんだよ!」

 

「何処って、『永遠亭』よ!この竹林の医者!アンタもそこに行くつもりだったんじゃないの!?」

 

影狼は振り返りもせずに声を張り上げる。妖怪の長い爪が手にチクリと食い込んだ。じくり、と胸が痛み、足が止まる。

 

「・・・!?」

 

影狼が怪訝な顔で睨む。

 

「何してるのよ!?」

 

「いや・・オレは・・」

 

「アンタが行かないでどうするの!喧嘩でもしたっての?子供がこんな具合の時に、冗談やめてよ!!」

 

影狼は牙を剥いて畳み掛けるように叫ぶ。確かに今この状況で動くのを躊躇うのは、彼女からすれば意味が分からないだろう。

けど、こんな時に、少しずつ不安が大きくなっていく。

 

オレが不安にかられて迂闊な事をしなければ、

 

ルーミアについて隠された事を、オレが自身の事を、もっと詳しく知ることが出来ていれば、

 

そもそも、オレとルーミアが出会わなければ・・

 

こんな事にはならなかったんじゃないだろうか。

 

唇を噛んだ。影狼もただ事ではないと悟ったのかソワソワしながらも立ち竦むオレをジッと見つめている。

 

その暗く張り詰めた空気をもう一人の声が打ち破る。

「リザさん!影狼さん!」

 

振り向くと、文が走って来るのが見えた。すぐ近くまで来ると竹に手をつき、前屈みにゼイゼイと荒く息をする。

 

「文・・お前・・」

 

「地霊殿で・・目が覚めて、追っかけて来たんです。やっと見つけたら・・ルーミアさんに何かあったのかと・・」

 

文が額の汗を拭い、顔を上げる。そしてオレの抱えているルーミアを見るや、影狼と同じように顔色を変える。しかし、見ていたものと発した言葉は、違っていた。

 

「・・リボンが・・・!」

 

「・・・・・・」

 

「・・?リボン?」

 

 

文もリボンについての何かを知っているのだろうか。ボロボロになったリボンに文は眉をしかめてジリジリと視線を注いでいる。何も知らずにオレと文を交互に見る影狼を取り残して、気まずい沈黙が流れた。

 

「もう、ちょっと二人とも。」

 

戸惑いも限界に来たか、影狼が割って入る。

 

「何だか分からないけど、ここでジッとしている訳にいかないでしょ。ね?」

 

影狼の言う通りだった。けどつい文の方を見てしまう。文も素直に付いていく気にはなれないようで、オレを見ながら眉をひそめる。文がもし一言いって手を差し出せば、ルーミアを押し付けていたかもしれない。少なからず事情を知っているだろう文に甘えそうになる。逃げたくなる。それくらいルーミアの近くにいるのが不安になって来ていた。

 

「・・リザ・・」

 

影狼は落胆した声で呟く。せめて謝ろうと顔をあげた。が、影狼は目が合う直前に、突如宙を仰ぎ見る。

 

「影狼さん?」

 

文が怪訝な顔をした。影狼の視線の先には何もない。しかし、微かにスンスンと息を吸う音がした。

匂い、か。

 

舌を出し、辺りの空気を感知する。確かにいる。目に写らない場所に、嫌なものが潜んでいるのが分かった。ソイツは―

 

「もし。」

 

ふと、若い女の声がした。文の背後、竹藪の中からだ。

 

「はい?」

 

文はフイっ、と警戒心もなく駆け寄る。その先は、葉が生い茂る藪の中だ。

 

「文!」

 

「へ?」

 

文が振り返った、その瞬間。

 

目にも止まらぬ速さで何者かが飛び出し、文に爪を降り下ろした。

 

 

「貴女が再思の道でリザさん達を捕まえたとき、死霊をけしかけたのも私ですよ。いやぁ、あの時はひやひやしました。」

 

霊夢は黙って私を睨んでいる。隅から隅まで聞きたいのだろうか。私も自分のやった事をトコトン話してやりたい気分だ。先程から胸は躍り、足は軽い。今なら悪役としてミュージカルもこなせそうな気がする。

もっとも、私の筋書きは善が勝つとは限らないが。

 

「思えば長かった。偶然彼女を見かけて、寝ている間にルーミアちゃんの近くに移動させたのです。めでたく巡りあって下さいましたよ。」

 

「何故わざわざ・・ハナからさっきみたいに封印を解けば良かったじゃない。」

 

「もう、とぼけないで下さい。」

 

舌打ちが聞こえた。ああ面白い。私を余程見くびってやがる。

 

「あの二人が揃い、共に過ごすのが重要なのですよ。互いの力に呼応して・・

 

結果はさっき思い知りました。最初と比べてユルッユルでしたよ。」

 

「・・・・・・」

 

霊夢がクルリと背を向ける。そしてそのまま出ていこうとするけど、すかさず呼び止める。

 

「何処に行かれるんですの?」

 

「もう十分よ。私も後を追う。」

 

成る程。相棒の緑髪が心配なのか。しかしそうは問屋が下ろさない。

 

「そうねえ、私の子供達が何をするか知れませんものね。」

 

「・・・!?」

 

霊夢が振り返る。この際だ。手短に話してやろう。

 

「私のこの空間・・実は見えないそこかしこにも出口があるのですよ。

何かあったかと察すれば、勝手にあの子達は出ていく。

もっとも、最適解が分かるとは限りませんが・・」

 

ぞくぞくしてくる。手は打ってある。もうすぐだ。もうすぐ望みの光景が見られる・・!

 

「単なる当て馬でも構わない。どんな弾みでも、あのガタガタの檻はぶち壊せる。今なら!」

 

指を掲げ、パチンと鳴らす。こんな時の為の、取って置きだ!

 

「渾沌(こんとん)、饕餮(とうてつ)、窮奇(きゅうき)、檮兀(とうこつ)!出てきなさい!」

 

後ろでズズン、と轟音が響く。振り返ると、巨大な化け物が四体。私の自慢の子供達だ。

 

巨大な犬の渾沌、牛と人の合の子のような饕餮、翼を持った虎の窮奇、虎と人の合の子の檮兀。かつて中国の西方で暴れまわった"四凶"だ。もっとも、これも死体や木偶に死霊を詰め込んだ紛い物だが。

 

霊夢が御札を取り出す。自分の状況を分かってくれたようで、何よりだ。

 

「せいぜい時間を稼がせて貰いますよ。博麗の巫女!」

 

 

 

 

「文、怪我は?」

 

「平気です。天狗が避けられない訳がありますか。」

 

「別の意味の天狗に聞こえるわね。その台詞。」

 

文が先程飛び退いた場所を睨む。襲いかかった輩はオレ達を嫌らしい目付きで睨んでくる。

 

「やるじゃねえか。そう来なくちゃぁ・・」

 

人の顔が醜く歪み、蝙蝠の翼をはためかせ、ライオンの体を震わせ、蠍のようなトゲの生えた尻尾をくねらせる。

 

「お前・・」

 

チグハグで奇怪な見た目。知っている。この気配・・

 

「兄さん!狙いは例の二人だけだと言ったでしょう!」

 

少年のような声と、カポン、カポン、と小気味良い音がする。振り返った影狼が目を丸くする。

 

「・・あなた、馬?」

 

ソイツは確かに馬、のように見えた。金のたてがみに青い瞳、白く精悍な美しい馬の上半身に、しなやかな脚が生えている。

ただし、八本。

 

「今回は中々面白い姿だな。しかも二体か・・」

 

前と後ろ、両方に気が配れるよう半回転した時、丁度目の前に、巨大な何かが姿を現す。

 

「―ん?」

 

竹の間を潜り抜けるソイツは、矢鱈と長く大きい体で白い鱗を持ち、切れ長の目を光らせる。

 

「兄者、弟者。肝心な時に喧嘩はよせ。」

 

「おわ、蛇!?」

 

白い大蛇だった。しかも額には鋭く大きな角が生えている。

 

「もうすぐヘカTを攻略できる。さっさと帰りたいのじゃ。」

 

「・・腕がないのにどうやってゲームしてんです?」

 

文が眉をしかめる。あっという間にオレ達は三匹の化け物に囲まれていた。

 

「何者よ、あなた達!」

 

影狼が吠える。三匹はそれぞれ得意気に、真面目に、面倒臭そうに名乗りをあげた。

 

「俺は"マンティコア"!!」

「僕は"スレイプニール"。」

 

「儂は"夜刀の神"!」

 

 

 

 

「何ですか、あなた方は!」

 

あの空間を出て、最初に見たのは鈴蘭畑だった。恐らく無名の丘だろう。とりあえずは花の中に隠れてやしないかと地道に探そうとした。風祝といえど、地道な努力を欠かしてはいけない。そう神様に教えられた。

 

でもそうもいかなくなっちゃったんだよね。だってさ、

 

いきなり、龍が出てくるなんて想像できる?しかも一体、一種類でも無いよ。三つ首が一体。八つ首が一体。そして九つ首が一体。

 

一応あの人の差し金ってのは分かった。でもやっぱり驚くでしょう。だから聞いちゃった。

 

元気よく答えてくれましたよ。以前は、とてもこの目で見るとは思えなかった名前。

 

「俺様はあァっ!あ、ア、アジ・ダ、ダハーッカァッ!」

 

「・・・ヤマタノオロチだ」

 

「ワイはヒュドラや!九個頭があるんやけど、台詞は何故か一個だけやでぇ!」

 

 

・・・なんか、少しイメージと違ったけど。

 




使い捨てのオリキャラなら、キャラ崩壊ではないのです。
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