「・・・で、聞かせてもらおうかしら。」
机に片手を預けながら、勇儀に文、影狼に向けて問いかける。
「知っての通り、傍に居れば居る程危険なあの子を、連れ戻す気?」
「・・・・・・」
答えは返ってこない。しかしだからといって引き下がる気も無い。周囲に向けて嫌という程気を張っているのがそれを証明していた。
脇に控える優曇華とテイも警戒し始めた。いざとなれば私の盾になってくれるだろう。テイは逃げるかも知れないが。
そうして数分間が経過した。全員が気を張り詰めていたせいか一時間にも感じられ―
「あ、あの」
「ん?」
ふと気弱な声が響く。部屋の空気が急に気の抜けたように軽くなり、声の主に一斉に視線が集まる。ああ、一人だけ小さくなって震えていた子がいた。この中では最年少の、東風谷 早苗だ。
「何?」
「わ、私は、その・・・」
早苗は俯いて肩を竦ませている。無理もない。あからさまな敵意では無いにしろ、大妖怪が二人も三人も同じ部屋にいるのだ。さぞかしプレッシャーが強いだろうな、と心の中で同情しかけた時。
「か、帰らせてもらいます!さよなら!」
弾かれたように顔をあげてそう宣言すると、勇儀の脇をすり抜け脱兎の如く竹林に飛び出して行った。
「あ!待ちなさい!こら!」
文が追いかけようとすると、また勇儀が腕で遮る。
「止めないで下さい!あの人はルーミアさんを連れ出して、あんなにした張本人なんですよ!」
「待てって!そりゃ誤解だ。私も道すがら聞いた!」
憤る文を宥める勇儀。一触即発の雰囲気に影狼が二、三歩後ずさる。背の高い勇儀は若干見下ろす形になりながら、文に向けて語りかける。
「確かに、早苗はルーミアをさらっていった。けど、体がおかしいってのはアイツのせいじゃない。」
「信用するんですか?じゃ、誰が・・・」
尚も噛みつこうとする文。しかし勇儀はじっと文を見据える。まるで「本当だ。」と目で語るように。馬鹿正直な鬼のその目に気圧されたか、文が一瞬押し黙ると同時に、勇儀が答える。
「・・・青娥だとさ。」
「・・・!」
文がピクリと眉をひそめる。影狼も目を見開いて険しい表情を浮かべる。
「青娥って、貴女方が戦った化け物を造ったっていう、あの邪仙?」
「もう本人が手を出してきたっての?」
優曇華と影狼が口を挟む。勇儀は重々しく頷く。
「ああ、あの目は嘘をついちゃいない。」
「そんな・・・」
「大丈夫かい?」
暫し額を押さえ、クシャグシャと頭をかく影狼にテイが声をかける。長いため息をついた後、影狼はいかにも疲れた風な作り笑いを浮かべる。
「ええ、やっと話が見えてきた・・けど、今日この日でアレコレありすぎてね・・」
精神的疲労を紛らわしたいのか、影狼はボンヤリした目でテイの耳を掴んでピコピコと遊びだした。
状況の説明も、自身の理解の補足も省けて何よりだ。しかし此方は大丈夫なんてモノじゃない。何しろ騒動の原因が舞い込んだのだ。しかも二つの内一つは放り出すなどもっての他、あろう事かもう一つを引っ張り戻そうなどと言われる始末。言っては悪いがいつ暴れだすか分からない、ヤクに嵌まった患者みたいなもの。軽々しく言ってくれるものだと、脳味噌がひねくれるような錯覚がした。
「・・・・・!」
そんな鬱々とした気持ちが知らず知らず顔に出ていたのか、文が私を見るなりつかつかと歩み寄ってくる。
「永琳さん。」
「な、何?」
挑むような視線で見上げられ、つい戸惑ってしまう。
「これはわざわざ話す事もない、と黙っていたんですがね。」
文の顔に余裕が混じり、顎に手を当てて勿体ぶった仕草を見せる。嫌な予感がした。これは相手に何か有利な取引を持ちかける時の、あのいけ好かない格好だ。
「地底でルーミアさんがいなくなった時、リザさんはすぐさま暴走したんです。」
「へ・・?」
「その時は強い眠り薬を使ったらしいんですがね・・。用を為さなかったようで。」
「私達はバッチリ効いていたんですがね。」と文が勇儀に向けて確認をとると、勇儀も頷く。こうなると二人の特別な作用もハッキリと浮き彫りになった、という事だ。顔が険しくなるのを自身で感じていると、文が続けて上目使いに口を開く。
「ここで重要なのは・・喪失の感情、とでも言いますか、とにかく色んな要素が絡んで、互いに大きな存在となっている事でしょう。」
否定は出来ない。単なる親愛以外の理由が"ある"にせよ、それだけで仲良くなれる訳もない。そしてその感情が暴走のトリガーになり得たとしても不思議じゃなかった。
「けど、今は離ればなれよ?いずれ縁は薄れるだろうし、それで良いんじゃない。」
胸の内で燻る懸念、焦りを呑み込みながら疑問をぶつけてみる。まだ彼女が何を言いたいのかは掴みきれない。しかしそんな私の気持ちをよそに、文は口に手を当てて大袈裟に驚いて見せた。
「あらら、月の頭脳と名高い貴女が、随分と冷静さを欠いておられるようで。」
「いいから答えなさい。」
こいつ、いつもの調子にいよいよ戻ってきやがった。
「ルーミアさんの体の異常、リザさんが鍵だとしたら、どうなります?」
「・・・!」
私がハッとなった瞬間、文がニヤリと笑う。言われてみれば原因はハッキリとしない。二人を近づかせない事ばかりに目が行っていたが、逆にそうなれば回復しない可能性もある。
「・・永琳さんにも解決できない不調・・。虫歯ですら処置を怠れば死ぬんです。最悪の場合・・」
柄にもなく冷や汗が出てきた。聞いた話ではルーミアは常にリザのアクションの中心になってきた。もし万が一があれば、そしてそれが知られたとしたら・・。
「・・勿論、リザさんには霊夢さんや紫が手を打つやも知れません。しかし、それをアテに出来るほど、看過できるパターンでは無い筈です。」
文の声に凄みが増す。数十秒程、何も言い返せずにいた。文がじっと見つめる目が、段々と静かになっていった頃、観念のため息が出た。
「・・分かったわ。連れてきなさい。紫にも今は秘密にしておく。」
「っしゃあ!流石永琳さん!では取り急ぎ!!」
「おう!」
「行きましょう!」
文は途端に元気になって軽やかに踵を返し、影狼、勇儀と共に飛び出した。「口幅ったい奴」と聞こえないように呟いた。
筈だったが、文が突然、戸口からヒョッコリと顔を出す。
「そういえば・・」
「何よ、早くいけば?」
ぶっきらぼうな返しも何のその、文はヒラヒラと手を振ると、こんなことを言い出した。
「さっきは例えで"万が一"を話しましたが・・
心の中ではどうにも、気分が悪かったですね。正直。」
しみじみと語る文。交渉の為に気を張って作り笑いをしていたのだろう。打って変わって沈んだ顔でそう話した後、ふと照れ臭そうに笑う。
「ま、そういう気持ちは付き合いが浅いだの、短いだの案外関係ないようで・・
だから。」
一旦言葉を切り、表情が引き締まる。
「・・短い付き合いのあの人にも、抱え込んで欲しくは無いんですよ。こればっかりは理屈じゃないです。」
「・・・・・」
それだけ言って、文は今度こそ飛び出して行った。
◇
「はあ・・・」
ため息をつき、傍らの岩に腰を降ろす。暗い気持ちで竹林を歩き回ってどれだけ経っただろう。とうとう日まで沈んできた。
「・・・・・・」
ボンヤリと辺りを見渡す。周囲が暗くなり、周りが見えづらくなってきたせいだろうか。あのチラついていた光景が、ますますハッキリと目に浮かんできた。
ルーミアが、笑っている。
あれが無くなるのが怖くて、あの顔をまた見る資格なんてないと思って、離れた筈だった。けど、相変わらず頭から消えてはくれない。目に映る度に胸が苦しくなる。
「・・・・・・っ!」
突如体の奥をかきむしるような、奇妙な感覚に囚われた。振り払うように腕を払うと、ぶつかった傍らの竹がバキリと折れ、バサバサと倒れた。立ち上がって続けざまに竹を殴り付ける。二本、五本、十本。まだ収まらない。
異様なムシャクシャした衝動が止まらない。オレは何がしたいんだろう。この胸の内で燻る何かの正体が掴めない。幻想郷に来て間もない筈だが、いつからかとても長い時間の中で、それでも見つける事の無かったような気がする。体の中を吹き抜ける冷たい風のような、焦がす熱い火のような、様々な顔をない交ぜにしてその何かはオレをやりきれない苦しみへと駆り立てる。
「ふー・・・ふーっ・・・」
肩をわざと上下させて無理矢理深呼吸する。息をつき、藪から僅かに見える空を仰ぎ見る。いつの間にか出ていた星々が光っていた。
「・・・あの時・・・」
思えば、最初にルーミアと会った日の夜もこんな風だった。今は、隣には居ないけれど。
何だか、妙に肌寒い気がした。あの日からそう変わってはいないだろうに・・・
「・・・・・・」
意味もなく笑って、前に向き直った。その時だ。
「やっと見つけた・・・」
「ん?」
目の前から女の声がした。同時に、目に映ったのは。
暗闇の中で黄金色に光る、獣の眼。
「ひゃああっ!??」
情けない悲鳴をあげて飛び退く。するとさっきの岩が踵にぶつかり、膝から先が後ろに反り返って、背中を岩に打ち付けた後に、ずり落ちた一番先の後頭部が強かに地面に落っこちた。
「いっちちち・・」
椅子ごと後ろにひっくり返ったような格好のまま頭を押さえる。まだボンヤリとする視界の中で、上から二人、誰かが覗き込んできた。
「やっと見つけた・・・。全く、竹林で人探しは骨が折れますね。」
「影狼の目があって助かった。ちょいと怖いけど。」
「影狼・・・?」
二、三度瞬きし、暗い中に目を凝らす。文と勇儀だった。という事は・・・
「怖いとは失礼ね。生まれつきよ。」
腕で上体を持ち上げてさっきの誰かを見る。やっぱり、影狼だ。
「・・・追いかけて来たのか・・・」
「当たり前でしょう。いきなりいなくなって、放っとかないわよ。」
影狼は腰に手を当てて子供を叱るように言った。なんだか恥ずかしくて、何も言えない。
「一体どうしたんですか。まさかルーミアさんがどうでも良くなった訳じゃ無いんでしょう?」
文の問いかけ。それにも答えないでいると、今度は勇儀が口を開く。
「正直に言えよ。私らには嘘は言わなくて良い。」
この上なく堂々とした口調。それでも、いやむしろ話すのが辛くなって、持ち上げていた体をまた地面に投げ出した。
「・・・・・・」
三人はじっとオレを見つめている。最早両手まで広げて見せても、それを咎めはしなかった。いたたまれなくなって目をフッとそらし、冷たい地面に頬をつける。そのひんやりした感覚が弾みになったか、ようやく細々と話し出せた。
「・・・ルーミアを見つけたのは、森の中だった。ぐったりして、今にもどうなるか分からなかった。」
三人の表情は見えない。そのお蔭だろうか。懺悔というにもおこがましい、胸の内に押し込めた出来事を垂れ流すように話すことが出来た。
「そこで青蛾が現れた。藁をも掴む気持ちだったオレは、まんまと奴の口車に乗っちまった。けど・・・」
聞いている側の空気が少し変わったのを感じた。予感、だろうか。ネガティブな行く末に唇を噛むような。それでも口を出しては来ない。「分かっている」とでも言われているようで、話す口が強ばる。
「・・・それが失敗だった。アイツは妙な術を使って、ルーミアを・・おかしくしやがった・・!その結果が・・・っ」
喉に引っ掛かりを感じる。目から生暖かい涙が伝う。横向きなので鼻を横切って地面に落ちていく。少しばかり耳にまで流れ込んできてむず痒い。
「・・霊夢達がきてくれなきゃ・・どうなってたか・・」
どうなってたか、それが自分でも随分と呑気な言い方に思えた。巫女達が乱入して中断した。だから何だ。その結果は既に見ているじゃないか。その様子を、その先を見ていたくなくて離れたんじゃないか。
「・・・・・・っ」
自分が情けなくて、不甲斐なくて、相変わらずの格好で、手だけ動かし、意味もなく土を握っていた。せめてもの八つ当たりだ。込み上げてくるしゃくりが、一回りして弾みで吹き出しそうになった。
「・・そんなの、自分を責めなくても良いじゃないか。」
「そうよ。貴女は永琳の事も知らなかったし、そんな状況なら誰だって・・・」
「うるさいっ!!」
反射的に振り向いて怒鳴り声をあげていた。視界に映った瞬間に、勇儀はむ、と短く唸り、影狼は肩を跳ねあげて息を飲む。気に留める余裕もない。ただハアハアと荒い息を交換し、見下ろす三人を睨み付ける。その間にも目尻の筋肉が煩わしくひきつる。さぞかしみっともない顔をしているだろう。そう思うと勝手に怒鳴り声が口から滑り出ていた。
「お前は、お前らは知らねえんだ!オレが、アイツに何をしようとしたか・・・!
戻ってなんかいられるか!これからどうせ分かるさ、後悔する!いっそ巡り会うのが間違いだったってなあ!!」
恥も外聞も捨ててわめき散らす。手の中では土が握り潰されて、とうに掌の形に固まっている。目一杯開いた口の中には涙が流れ込み、塩辛さが喉にひりつく。
まるで駄々っ子だ。我が事ながら心の片隅でそう呆れた。いや、実際駄々っ子なのかもしれない。こんな体躯をしていながら、体の中を駆け巡るこの感情が何なのかも、どう向き合うべきものなのかも分からない。それらが重くなって締め付けられるようで苦しくて、好き勝手に叫んで誤魔化している。
「もう行ってくれ!放って置いてくれよ!第一今までだって何度も厄介ごとに・・・」
目をつぶって、口だけは言い放題、もしかして既に呆れられているのかも知れない。ああ、それでもいいか。こんな甘ったれたバカを、誰が・・・
「リザさん。」
「・・・?」
静かな、微かに怒気を孕んだ声。おそるおそる目を開ける・・・その途中で、誰かに顔を掴まれた。
「・・・っ!?むぐぐ・・・」
指が頬をギリギリと締め付ける。慌てて目の前を捉えようとすると、見た事もないような真剣な表情で文がオレを見つめていた。
「・・・っ、?」
目を逸らす事も、話す事も出来ない。ただただ文と混乱しながら見つめあっていると、やっと文が口を開く。
「・・私の目を、見て下さい。」
「・・ふぇ・・?」
見るも何も、視線はとっくに文へと強制的に固定されている。だのに、何故だかその光を見ると視線を"逸らせない"と改めて感じさせられた。
目の前に月でもあるかのような、強い光。
「・・貴女を蔑んだり、疎ましく思っているように、見えますか?」
そっと手を外される。弱々しく首を横に振った。言葉は出てこない。
「・・・私が地底に行った時、ルーミアさんと二人きりだった時がありますよね・・・」
覚えている。お燐やお空とトレーニングしていた間だ。
「あの時、よく言っていたんですよ。リザさんは何度も自分を助けてくれたって。
一人で何でも出来た訳じゃないけど、頑張っていたって。」
「・・・・・・」
アイツの中ではそうだったんだろう。けど、オレの中ではとうに帳消しだ、そんなモノ。その原因を未だに隠していながら、知らねえ癖に、と自分勝手に心の中で毒づいた。それを知ってか知らずか、文は続ける。
「・・・無理に話せとは言いません。けど、逃げないで下さい。」
「・・・・・・今さらおめおめ戻れねえよ。それこそ恥知らずだ。お前らもオレなんかに構わず・・・」
「リザさん!」
文のぴしゃりとした声がオレの台詞を遮る。言葉に詰まるとまた幾らか静かな声で語り出す。
「・・・想いを伝える方法なら、幾らでもあります。その気になれば写真を贈るなり手紙の推敲なり、千羽鶴でも鴉でも作りますよ!
・・・けど。」
段々と上がり調子になってきた言葉を一旦切り、一際強い眼光を向けてくる。何を言いたいのか、と数回瞬きがでた。
「まず自分の気持ちに嘘をついてたら、何しても無駄です。
本当は今すぐ行ってあげたいんじゃ無いんですか?傍にいて、見守りたいんじゃ無いんですか!?」
「・・・!」
体の奥、何処ともつかない場所を叩かれたような感覚がした。さっきまで一人で抱えていた苛立ち、それを言い当てられた、頭で考えるよりも早く、ストン、とそう思った。
文のがまた見つめ直してくる。
「・・・当たりでしょう?」
「なんで・・・そこまで。」
小さな、やっと聞こえるような声で尋ねた。文は思い詰めた表情から、フッと柔らかい笑顔に変わる。
「さっきと、同じですよ。」
「・・・へ?」
怪訝な顔をすると、文は自身の顔を指差した。
「目を見れば分かります。貴女の優しさは、ハナから光っていますよ。どんな形であれ。」
文と、他の二人が微笑む。オレを、真っ直ぐ見つめたまま。
・・・なんだ。
見たくないと思っていたのは、オレだけか。
「・・・すまん。」
「良いんですよ。もう。」
恥ずかしくて、一言だけ言った謝罪。それに一つ頷いて、文が屈んで手を差し出す。
「ほら、急ぎましょう。いつまでもそんな格好していないで。」
「・・・ん?」
そんな格好、と言われてふと我に返る。改めて自身を見てみると、座っていた椅子から後ろにずり落ちたこの格好、天へと、そして見下ろす文達に向けて大開脚しているではないか。
ヤバイ、さっきまでこの姿勢のまま話し続けて・・・
「ふひゃあっ!!?」
「へぶしっ!」
反射的に、文の顎を尻尾でひっぱたいていた。あ、と口から出た時には既に遅し。口元を押さえて涙目の文が怒りの目を向けてくる。
「す、すまん!ほら、こんな格好だから頭に血が昇って・・・」
「どんな言い訳ですか!?」
「まあまあ、とにかく立ちなさいよ。」
「とりあえず一件落着、と。」
夜も深まった頃にようやく、飾り気もない顔で触れ合えるように、わだかまりが消えた気がした。
◆
「・・・師匠、良いんですか?あんな奴の言う事を聞いて。」
尋ねる優曇華の顔は不満げだ。まあ、一つ屋根の下にいるんだし、心配して当然か。
「・・・それなりに筋の通った理由がある。あの時言ってたじゃない。」
「あれは結論ありきで丸め込んだだけじゃないですか!そりゃあの子は心配ですけど、二人が揃ってどうにかなる保障も・・・」
「優曇華。」
興奮しだすのを一瞥して止める。あの天狗に厄介者を押し付けられた。と感じて苛立っているのだろう。しかしこうなった以上は私が説得せねば。
「・・・私も、馬鹿みたいだと思うけどね・・・」
「へ?」
眉をひそめる優曇華。机に一度目を移してから、口を開く。
「・・・効く薬が無い時、極端に言ったら医学もへったくれもない時代なんか、みんな病気をどうしていたでしょうね。」
優曇華に向けて首を傾げてみると、怪訝な顔で、いかにもおざなりに答えてくる。
「・・・さあ、私は月で生まれて今まで、医学には恵まれていますし。」
訳の分からない質問に思われたのだろう。それは最もだが、未だに時々素直じゃない時があるのは、この子の気質だろうか。
「・・・そうだったわね。」
「何なんです、一体。」
「・・・たぶんね。愛情、よ。」
「は?」
「昔の、薬の代わり。」
優曇華は私の答えに目をぱちくりして、暫くポカンとした後にピクリと眉をしかめる。
「・・・で、効いたんですか、その愛情は。」
「効いたんじゃない?多少は。知らないけどさ。
私も生まれて今まで、医学には明るいしね。」
とぼけた答えに優曇華は、私を見る眼に不審の色を浮かべた。赤い眼で睨まれると、少し怖い。
「本気で言ってます?」
「・・・さあね。」
あの三人の表情を思い出す。彼女を連れ戻すと言って、止めても聞く耳は持ってないだろう彼女ら。
「・・・確かに、アイツラの言い分は取ってつけたようなモノ。実際はその愛を信じている。」
「師匠はどうなんです?」
優曇華はブレザーのポケットに手を突っ込んでいた。口調も少し尖って来ている。
「・・・信じるしかない、かな。実際薬も効かないし、ルーミアには死なれたら困る。」
「・・・・・・」
観念したように頷く優曇華。その肩を叩いて、自身にも言い聞かせた気休めを口にする。
「・・非現実も力になるわ。幻想郷だもの。」