トカゲ娘が幻想入り   作:ごぼう大臣

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ずっと小説内で言おう言おうと思っていて忘れていました。

評価が黄色くなりました。読んで頂きありがとうございます!


この火はなぁに おかえりなさい

 

 

どうしよう。

 

あれからもう二週間が経つ。私は人里の団子屋で一人悶々としていた。

 

―あの日、永遠亭から逃げ帰る途中、服や皮膚が少しばかり擦りむけ、「〆てきた」感丸出しの霊夢さんと遭遇した。

 

『・・・何があったんですか?』

 

『別に、早苗こそ。』

 

『あ・・・この怪我はその、ちょっと妖怪に。』

 

『ふぅん・・・』

 

私が大事ない事を知ると、霊夢さんはそれ以上は興味無さげだった。一応、という様子で尋ねてくる。

 

『追いかけていった時、いきなり覚えのない場所に出たでしょ?大丈夫だった?』

 

『は、はい。何とか。』

 

確かにいつの間にか鈴蘭畑に飛び出していたのだった。よく分かんないけどどうやら捕まえられなくとも無理からぬ事、とあの霊夢さんの中でも思われているらしい。

今では冷静な分尚更そう思える。だというのに、何故・・・

 

『・・・駄目元で聞くんだけどさ。』

 

『は、はいっ。』

 

『ルーミアかリザ、どっちかでも、居場所を知らない?』

 

さほど緊迫した口調でもないのに、背筋にピリリと緊張が走る。なんせ私はルーミアちゃんを連れ出す事も出来ず、リザさんも捕まえられなかったのだ。いや、だって無理じゃない。勇儀さんに文さんが近くにいたし、リザさんは竹林の何処かに行っちゃったし、探しようが・・・

 

『早苗?』

 

『はっ。』

 

頭の中で言い訳を繰り返していると、霊夢さんが怪訝な顔で睨んでいる。不味い。答えなきゃ。えーと、ルーミアちゃんに、リザさんは・・・

 

『し、知りませんっ!』

 

『・・・そう。』

 

素っ頓狂に飛び出た答え。それを聞いた霊夢さんは、くるりと踵を返す。

 

『見つけたら知らせて頂戴。紫達と連携して手を打つから。』

 

私の返事も聞かずに霊夢さんは去っていった。取り残されて暫くして、何であんな事を言ったのかと不思議に思った。

直接手は出せなかったにしても、少なくともルーミアちゃんの行方は掴んでいる。暫くは嫌でも動けまい。情報を伝えるだけでも随分対応の幅は違った筈だ。

霊夢さんの言う所の、"異変の種"への対応は。

 

『・・・・・・』

 

―私の二人への印象は、ルーミアちゃんのあどけない寝顔と、リザさんの仙界での死に物狂いの顔くらいしか浮かばない。出会った数の少なさ故か、それとも、目にした数少ない"それ"を気に留めているせいなのか・・・

 

「・・・うー、モヤモヤする。」

 

最後の団子を口に運び、席を立つ。休憩もこれで終わりだ。結局こんな調子で二週間、意味もなくブラブラする日々が続いた。永遠亭には行ってない。行く気になれない。霊夢さんは居場所に感付いているんだろうか。

 

 

 

 

「・・・リザさん、お昼が出来ましたよ。」

 

「・・・すまん。後で行く。」

 

あれから二週間、オレは殆どの時間をルーミアの病室で、横たわるルーミアの傍に座って過ごしていた。永琳達がしきりに検査をしたが相変わらず眠っている原因は分からず、変化もないままだと言う。

文や勇儀は一旦妖怪の山、地底にそれぞれ帰り、あれからは日を置いて様子を見に来た程度であった。影狼も近場な為に毎日来てはいるが、精々一、二時間。あまり一ヶ所に何人も集まれば怪しまれるだろう、という事である。

皆決まって、ずっと意識が回復しないルーミアを見守るオレを気遣ってくれていたが、オレは別の意味で辛かった。三人とも時間を開けて見に来る度に、決まって顔に期待の色を浮かべているのだ。ルーミアが、今度こそ起きてはいないか、元気になってはいないかと。そして実態を目にしては悲しい表情へと変わる。その度に落ち込んでいるオレを励ましてくれるのだ。"貴女が悪いんじゃない"と。

 

「・・・・・・」

 

ルーミアの手をそっと握る。願いを込めるように、目をつぶってその手を額に導く。頼む。目を覚ましてくれ。オレも、他の皆も待っているんだ。

暫く心の中で祈り続け、おそるおそる目を開ける。ルーミアの目は相変わらず閉じられている。まるでお前の声など聞こえないとでも言うように。

 

「くっ・・・」

 

「おーい、飯が冷めるよー!」

 

廊下の向こうからテイが呼んでいる。とても食事などする気分では無いが、待たせる訳にも行かない。

 

「・・・・・・」

 

部屋を出て食堂へ。廊下の途中の大きな扉を開ける。

「やっと来たのね。」

 

「・・・せめて食べて元気だして下さいよ。」

 

既に席についていた永琳と優曇華が声をかけてくる。生返事をして二、三歩踏み込んだ所で、ある事に気づいた。

 

「・・・ん?」

 

そういえば、一人足りないような気がする。確か・・・

 

「てぇーいっ!!」

 

考えていると、いきなり腰布がフワリと舞い上がった。太ももにひゅうっ、と風が吹き抜ける感触がし、思わず小さく飛び上がってしまう。

 

「ひゃあっ!」

 

「あはははっ!びっくりした?」

 

声のした方を振り向くと、スカートめくりの犯人、テイが笑っていた。いないと思ったら、この為に隠れていたのか。

 

「リザって不思議だねー。尻尾が自然に出せるパンツってどんなのよ。」

 

「さっき見やがっただろ!つか聞かれて答えるか!」

 

「もっとよく見せてよ。確かめて見たい。」

 

「ちょ、よさねーか、馬鹿!」

 

「よいではないか、よいではないか。」

 

腰布を引っ張るテイと押さえるオレとですったもんだしていると、優曇華がテイの背後に回り、ゴチンとゲンコツを食らわした。

 

「あいたっ!」

 

「お客さんに何してんのよ、アンタは!」

 

「ち〜・・・、いや、元気出してくれるかなって。ちょいとしたお茶目じゃん・・・」

 

テイの叱られる様子を見て、またルーミアを思い出してしまう。沈んだ表情を悟られまいと、思わず俯いた所で、ふと腰布がずれたままなのに気づいた。

 

「おっと・・・」

 

慌てて調整する。言い合う優曇華とテイはともかく、心なしか永琳が一瞬見てきたような気がする。ったく恥ずかしい・・・ん?

 

微かに、腰布に違和感を感じる。動かして見なければ分からないが、カサカサと何かが擦れるような音がする。

 

「・・・なんだ?」

 

音がする辺りを探ってみる。布のもたつきの奥に隠されていた為、もどかしい思いだ。

 

「ふん!」

 

やっと何かを掴み、引っ張り出す。手の中にあったのは、白い小さな紙だった。

 

「・・・何だこれ?」

 

「なにそれ、ティッシュ?」

 

テイが不思議そうに見上げてくる。違う、ちり紙じゃなく、もっと固い半紙のような手触り、そしてよく見れば人のような形をしている。

 

「こいつは・・・」

 

「何ですか?」

 

覚えがある。確か・・・

 

『とうとう危ないって時には、それを使いなさい。何かの役に立つかも知れないわ。』

 

「そうだ!」

 

思い出した。いつか雛がくれたあの変な紙だ。もしかしたら使えるかもしれない!

 

「ちょっと、どうしたの・・・ってリザ!?」

 

永琳が呼び止めるのも構わず、取って返して病室に向かう。そして飛び込むなり寝ているルーミアの額に、例の紙を張り付けた。

 

「南無三!」

 

祈りを込めて叫んだ、その瞬間・・・

 

「うわっ!?」

 

バシンッ!と激しい電撃の音がし、手が弾かれる。焼け焦げたかと思うほどに熱い手のひら。そこから視線を移してルーミアの額を見ると、まるであの時の青蛾の術のように相変わらずの音を発し、紙が端から黒ずんで削られていくのが目に入った。

 

 

 

 

「ねえ、いい加減出してよ。」

 

「・・・駄目だ。」

 

一面が暗闇のこの空間。地面もなく、海の中を漂うような奇妙な心地よさがある。あれからどの位経っただろう。私はずっとこの空間で、飲まず食わず眠らず、そして出ることも出来ずにいる。ここにくる前、紫達に捕まって、変な声が聞こえて、それで・・・

 

記憶が曖昧だ。最後に見たのは、リザの顔。なんだか知らないけれど、変な顔をしていたのだけ覚えている。

 

「・・・アンタは、誰なの?」

 

「以前も言ったろう。私はお前だと。」

 

暗闇の中で誰かの重々しい声がこだまする。何度聞いても答えは同じ、そして訳が分からない。それでも話しかけるのには抵抗が無かった。この空間での唯一の話し相手だし、ここに来てから何か危害を加えた訳でもない。

それに、悪いやつには思えなかった。あの捕まっていた時、"力を貸す"と言ったあの声と同じなのだ。

 

「ここは・・・」

 

「お前の心の中だ。ルーミア。」

 

「・・・うーん。」

 

遮られて以前と同じ答え。私の精神世界とでもいうんだろうか。突拍子のない話だけど、何処にせよ外に出ないと埒が開かない。こんな二人きりの世界で遊んでいられる程私は暇ではないのだ。

 

「・・・何度でもいうが、出しはしないぞ。」

 

「うー、いけずぅ。」

 

流石に思考が読まれている。まさか本当に私自身だから・・・いや、その前に同じことばかり考えているのだ。あなたは誰、ここは何処、出してよ、と。それにいちいち同じ答えを出すこの人(?)の頑固さ足るや相当なものだ。私の本性も融通が効かないんだろうか。覚えは全く無いけど。

 

「・・・リザ、心配してるだろうな・・・」

 

口を尖らせてポツンと呟く。すると聞かせるつもりもなかったその言葉に、例の奴が急に反応する。

 

「・・・あの女か?」

 

「へ?」

 

「あの蜥蜴に似せた姿の、奴か?」

 

「・・・似せた?」

 

ちょっと引っ掛かるけど、多分合っているだろう。私はコクリと頷く。

 

「心配・・・心配か。」

 

声はなにやら意味深な呟きを発する。一番気にかかる相手の話に乗りかけたというのに、一人でブツブツと言うのはご遠慮願いたい。私は少しばかり尖った声で叫んだ。

 

「ねえ、あなたは外の様子は分かるの!?分かるんだったら教えてよ!」

 

「・・・・・・」

 

無言でも、思案しているのが雰囲気で分かる。暫く真っ暗な前方をじっと見つめていると、やがて声が語り出す。

 

「奴は、お前に目を向けている。意識を失った状態のお前に・・・」

 

「な!?」

 

意識を失った?そんなの初耳だ。私がこっちにいる間中、現実ではそんな事になっていたのか。

 

「目を向けている・・・って、そんな程度なの?私はそんな大ゴト・・・」

 

「いや・・・」

 

焦る私の声を遮られる。そして続けて沈んだ声が返ってくる。

 

「分からんのだ。」

 

「え?」

 

「お前のいう"心配"が、実際どう言い表せば良いのか、私には分からん。」

 

声の言う意味がよく分からなかった。言葉通りに受け取って良いのだろうか。浮世離れした意味に感じられるが、口調は皮肉や比喩には到底聞こえない、素朴なものだった。

 

「・・・奴の心には火が燃えている。明るく、熱い火が。」

 

「・・・火?」

 

声なりの表現の仕方なのだろうか。一体何の事だろうと首を傾げていると、声が続ける。

 

「・・・お前にも幾つも宿っているよ。生まれた時から、長い時間をかけて。」

 

「生まれた時から?」

 

「ああ、この奥底から少し出れば見えてくるさ。」

 

どうやらリザだけのモノではないらしい。けどこの声が言う限り、昔から幾つもあるその何物かがそんなに危険なのだろうか。

 

「その火は様々な影響を受けて、蝋燭の火のように揺らめき、時にはにわかに膨れたり、縮んだりとままならないものだ。

それは、時に自身や周りを焼いてしまう事もある。」

 

・・・長く、抽象的な喩え。何とか分かってもらおうとする声の意思は感じられた。

 

「奴はお前と接している間中、その火を忙しなく変化させていた。時に燃え上がり、身をくねらせた。」

 

「・・・・・・」

 

・・・他人と接して変化する、ままならないもの・・・

 

「そしてお前が意識を失ってからは、一際不安定になった。

小さくなったかと思えば見苦しく火を悶えさせ、他人まで巻き込み苦しみだしたのだ。」

 

・・・なんとなく分かってきた。私の言った"心配"を言い表しているのなら、だけど。

 

「だから私はお前を閉じ込めた。その火は私にとって得体が知れぬのだ。

矛盾した、理に敵わぬ行動をも、その火は自身を焼かれるままに引き起こす。ともすれば他人をも呑み込んでしまう。」

 

詩でも読むかのように声はその"火"への怯えを口にする。私はじっと聞いていた。

 

「・・・特に、奴は危ない。扱い方を知らぬ!いつかお前は身を滅ぼす事になるぞ!」

 

・・・リザの事だろうか。この声には相当危ないものが見えているらしい。

・・・けれど、そうは思えない。コイツのいう"火"はきっと、誰もが持っているものだから。

 

「・・・大丈夫。」

 

「・・・?」

 

私が言うと、声はふと鼻白んだ。コイツは知らないだけなんだ。きっと。

 

「見てくれていれば分かるよ。その"火"は、危なっかしいモノじゃない。」

 

私の言葉に、相手は納得いかなさそうな態度を覗かせる。信じられない、そう言いたげだ。私は、そんなアイツのいるであろう場所へと近づいてゆく。心なしか、たじろぐようなオーラが漂った。

 

何も見えない闇の中に手を差し出しながら、なるべく優しく語りかける。

 

「・・・教えてあげる。貴方の言う"火"は、きっと・・・」

 

そこまで、言いかけた時。

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!」

 

突如小さな稲妻のようなモノが走り、バチバチと耳を千切りそうな音と眩い閃光が視界を白くする。何が起きたのか分からず、ただ辛うじて何かが逃げ去ったのが肌で感じられた瞬間、ふっ、と意識が軽くなった。

 

 

「・・・ァ!」

 

「ん・・・ん?」

 

今までとは違った声が聞こえる。

 

「ルーミア!」

 

ああ、この声・・・

 

久し振りに瞼を"開く"感覚。射し込んでくる光が眩しい。

 

「・・・リザ。」

 

ああ、やっぱり、なんだかまた変な顔になっているけど。ボンヤリしている頭が覚めやらない内に、私はベッドから半身を抱き絞められる。く、苦しい。

 

「・・・良かった・・・心配かけさせやがって・・・」

 

涙ぐんだ声でそう言われる。状況が分からずにとりあえず何かいっておこうとすると、まつ毛の上に痒いような違和感があった。数度瞬きすると黒い灰か紙の破りカスみたいのが落ちていった。・・・なんだろうアレ。

 

「ねえ、ここは・・・」

 

「永遠亭だよ。お前、二週間も倒れていたんだぞ。」

 

「二週間!?」

 

ようやく離してくれたリザの答えに、流石に驚いた。精々三日位かと思っていたのに。

 

「そりゃびっくりするか・・・。お前、体は何ともないのか?」

 

「へ?うーん。」

 

言われてみて初めて気づいた。確かに二週間起きなければ心配されて当然か。だけど幸いというか、さっきまで思いもよらなかっただけに何の不調もない。

 

「大丈夫。」

 

「そっか・・・まあ永琳に後で見てもらうけどさ。また同じ事になったりしないでくれよ。こっちも大変だったんだから。」

 

リザの安堵した顔。けれどふと寂しくなる。さっきまで話していたアイツ。単なる夢なのかもしれない。けど・・・もう会えないんだろうか。

 

「・・・・・・」

 

「・・・?お、おい何だ?」

 

リザの胸に、そっと触れてみる。心臓が動き、生きているというのを実感させる。他人のそれが肌で分かるのが、嬉しいような、切ないような、堪らない気持ちになった。

 

もし、また会う事があったら言ってあげよう。こんな風に触れた事がないであろう、アイツに。

 

(・・・貴方の言う"火"は、温かいよ。)

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