トカゲ娘が幻想入り   作:ごぼう大臣

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冬眠てなぁに、それでもいいの?

 

 

―『いいか、立ち上がるのは許さんぞ。奴が戻るまでここに居るんだ。良いな、ルーミア!?』

 

(あのさ・・・)

 

冷え込んだ和室、障子の貼り紙の部分から漏れる月明かりに照らされながら、私は布団にくるまっている。

夜にお喋りでもしているのかって?いいえ、私は一人きり。信じられないだろうけど脳内に聞こえる謎の声と会話しています。いつだったか眠りっぱなしだった頃に聞いた気がする。

本当は部屋にもう一人いたんだけど、その人は・・・

 

―『奴はまたフラフラと出歩きおった。お前まで何処かに行かれては離れ離れになりかねん。』

 

「・・・・・・」

 

何故か私とあの人が物理的に離れるのを異様に恐れている。何をそんなに必死になる事があるんだか、と内心は毎度呆れるのだけれど、思考が筒抜けなのかその度に声の奴は口を出してくる。

 

―『忘れたのか、お前は・・・』

 

(何をさ?)

 

―『あの女の事。』

 

思い当たるのは一人。さっきまで隣で寝ていた人だ。どっか行っちゃったんだけどさ。

 

(・・・忘れてやしないよ。思い出そうとすれば思い出せる。)

 

―『・・・貴様、そんな素っ気なく・・・』

 

(何よ。今までだって貴方が煩く教えてくれたじゃない。あんなんで忘れないって。)

 

少しだけ苛々してきた。名前も姿も記憶している。それ以外に何が不満なんだろう。現に私は特別な思い出はない。少なくとも必死になっている声との温度差を感じる位には、ない筈だ。

 

―『この、馬鹿者が・・・世代を跨いでまで巫女達に良いようにされるとは、なんという屈辱・・・!』

 

(・・・?)

 

世代?また勝手に熱くなりだした。どうやらこの声だけが知っているドラマは思っていたより壮大みたいだ。

でもまあ、私にとってはそんな事どうでも良いんだ。重要な事じゃない。それより・・・

 

(あの私・・・トイレ行きたいだけなんだけど。)

 

―『・・・とか言って何処かに去って行ってしまう訳ではあるまいな?』

 

(ないってば!早く行かせてよ!)

 

―『嘘や誤魔化しは効かんぞ。私はお前をずっと見ている。それこそ・・・』

 

「いい加減にしろ、変態っ!!!」

 

つい声に出して怒鳴ってしまった。布団から跳ね起きて部屋の出口に向かう。その瞬間隣の、もぬけの殻になった布団が目に入った。

 

「・・・・・・」

 

さっきまで誰かが寝ていたのに、いない。

 

そんな当たり前の事が、ふと気になった。並んで敷かれているのは、明日もそうだろうか。

 

 

 

 

「・・・おはよ。」

 

「いつもにまして遅い目覚めね。」

 

「・・・おそよう。」

 

「言い直さなくて良い。小学生かアンタは。」

 

8時を回ろうという頃になってやっとリザが起きてきた。もう食卓にはリザと私を除いて、誰もいない。

 

「・・・永琳。」

 

「何?」

 

「生卵ってさ、丸呑みしたくなるのはオレだけかな?」

 

「爬虫類の性と言いたいけど、目の前ではやめてほしいかな。」

 

まだ寝ぼけているのだろうか。そんな私の心配をよそにリザは卵を割って醤油にラー油を混ぜて御飯にかける。誰も使わないラー油を最後まで出しておいて良かった。コイツだけは好きなのだ。変わった奴。

 

「そういえば・・・」

 

「ん?」

 

「ルーミア、ね。今日は何だか眠たそうだったんだけど、すぐ元気になって、今影狼とテイと遊んでいるわ。」

 

「・・・そっか。」

 

例によって興味の無さそうな返事。他人の私が気遣うのも変な図式に思えるが、ルーミアもリザも一つ屋根の下で過ごす意味が最早あるのかと、端から見て思わざるを得なかった。もっとも、何だかんだでリザは舞い戻って来るし、心の内も分からないので結論は保留している。

まあ、リザの方はルーミアと違い普通に食事をしているので、比較的心配は・・・

 

「すまん、おかわり貰えるか?」

 

「え?」

 

目の前に差し出された茶碗を見て、一瞬戸惑った。

 

「え、ええ。分かったわ。」

 

「ありがと。」

 

リザは若干恥ずかしそうに笑う。女性はあまり大量に食べない、等と古臭いイメージを語るつもりは毛頭無い。第一、彼女自身体重はかなり重い・・・いや、それより意外だったのが、変温動物が故か食事量の少なかったリザが初めて追加を願った事だ。

 

「珍しいわね。お腹空いてたの?」

 

「いや・・・」

 

リザは自身も不思議そうに宙を見上げ、箸を置いた。

 

「よくわかんねーけど、最近食欲が増した・・・気がする。何だろうな。偶然か。」

 

リザは腕組みをして眉をひそめた。本人が意図していないとなると、本能的な何かか。思い当たるのは無いかと、私も首を傾げ、辺りを見渡す。

 

「・・・あ。」

 

「ん?」

 

ふと、部屋のカレンダーが目に入った。リザのキョトンとした顔とは裏腹に、私はある確信に至る。

 

酷くなって来た寝起き、いや、鈍くなって来た活動。そして増大して来た食欲。

 

そうか、そういう事か・・・。

 

 

 

 

「冬眠?」

 

リザ、ルーミア、影狼、うどんげにテイを一ヶ所に集めてした提案に、一番に眉をしかめたのは影狼だった。

 

「師匠、いきなり何を言い出すんです?」

 

 

うどんげも怪訝な顔で尋ねてくる。私は一つ咳払いし、全員を見渡してから、言った。

 

「リザ、貴女、最近食欲が増えたと言ったわね。」

 

「・・・ああ。」

 

「怠さを感じたりは?」

 

「してる、かもな。」

 

「・・・やっぱりね。」

 

一人で合点した私を見て、口を開いたのはルーミアとテイの二人。

 

「そういえば、今日も寝坊してたね。」

 

「でもソイツが何で冬眠に繋がるのさ?」

 

テイが見上げてくる。私は一度頷いてから、全員に聞こえるように言う。

 

「寒いとトカゲなんかは動けなくなるからね。冬の入り口あたり、エネルギーを貯めて眠ってやり過ごすのよ。つまり今は眠る準備の段階。」

 

「・・・そっか。ヤケに最近、目が覚めないと・・・」

 

「・・・・・・」

 

リザが自身をしげしげ眺めているのを、ルーミアは一瞥する。

 

「・・・ルーミア、貴女から見ても、以前より酷いと思わない?」

 

「ん?分かんない。そんな細かく覚えてないや。」

 

・・・素っ気ない返事は変わらず。少しばかり落胆した私に、今度は影狼が尋ねてくる。

 

「でも冬眠て、いつ頃からやるものなのよ。」

 

「もう直ぐにでもして良いんじゃない?本格的に冬に入ればもう遅いんだし。」

 

私はサラリとそう答え、リザとルーミアに向き直ろうとした。しかしそこでうどんげが横槍を入れてくる。

 

「でも師匠、その冬眠をしている最中は、やっぱり・・・」

 

うどんげは言いにくそうにしながらリザ達の方を一瞥する。

 

「離れ離れになりますよね。その間、会うことも・・・」

 

うどんげも、影狼やテイも沈みがちな表情を見せる。対して当の二人は、一度顔を見合わせ、私に向き直る。客観的な提案が欲しいのだろう。とりあえずそう解釈しておこう。私は敢えて二人だけを見据えながら言った。

 

「・・・確かに、そうなるわ。

けど、邪魔者の目を眩ます事も出来るわよ。何せ相手が片方地中の何処にいるかなんて分からないでしょうし。」

 

全員の視線がリザとルーミアに集まる。二人はさして考え込むでもなく、一つ頷いて軽い口調で答える。

 

「別に気にする事もねえやな。体の都合だし。」

 

「理にもかなってるし、ね。」

 

「ち、ちょっと!?」

 

影狼とうどんげが眉をしかめた。テイはやや怪訝な顔で肩を竦める。彼女らの大して悩みもしない態度はある意味予想通りだったが、いざその通りに答えられると他人事のようで口を挟みたくもなるのだろう。

 

「リザ、貴女良いの!?意識を失ったまま土の中よ?そんなすんなり・・・」

 

「いや、良いんだ。」

 

影狼の言葉を遮り、リザは首を横に振って、薄く笑う。

 

「お前らにも、迷惑かけたく無いしな・・・」

 

「迷惑って・・・」

 

「決まりね。」

 

影狼が尚も抗弁しようとした所で、私はパチンと手を合わせ、大袈裟な音を鳴らしてから踵を返して出口に向かう。

 

「早い内に埋めてしまいましょう。終わったら文や勇儀に伝えましょうか。」

 

「師匠!」

 

「良いんですか?」

 

うどんげとテイが詰め寄って来る。しかし私は目も合わす事なく言った。

 

「・・・本人の意思が優先よ。」

 

嘘、とは言わない。しかし私が口実にした"意思"はおそらく霊夢が手を入れたモノだ。それでも事態が好都合になってくると、案外簡単に身を任せてしまえるものだ。

 

そう我ながら呆れていると、丁度リザとルーミアは脇をすり抜けて先を歩いている所だった。

 

 

 

 

「・・・まだ手掛かりは掴めないの?」

 

「はい、どうにも・・・」

 

早苗はわざとらしく宙に視線を泳がせる。私を見ろ、とは敢えて何度も言わずにおいた。

 

「こうなったらもう土の中にでも埋まってるんじゃ無いですかねぇ。あは、あはは。」

 

芝居がかった口調にため息が出た。コイツとて必死なのは分かっている。しかししょうもない。

 

「・・・分かったわ。また次会った時教えてちょうだい。」

 

「は、はいっ!」

 

早苗は上ずった声で叫んで一目散に飛んでいった。隠し事をする子供そのものだ。もっとも、もうバレているが。

 

「霊夢。」

 

背後から紫が歩いて来た。

 

「・・・もう後を追いかけて行く?早い方が良いでしょう。」

 

「ええ、龍神も、あの二人の気配はまだ離れていないと言ったし。けど・・・」

 

紫は、一旦言葉を切って灰色の空を見上げる。

 

「もう一日待ってみましょう。もしかしたらあの足で"伝えて"くれるかも知れないわ。」

 

「悠長ねえ。」

 

私のぼやきに、紫は肩を竦める。

 

「そう言わないでよ。私だって心苦しいのに。」

 

「あの二人が望んでいた事でしょ?遠慮する事無いわよ。」

 

「・・・ふん。」

 

ぶっきらぼうに良い放つと、紫は自嘲気味に俯き、呟く。

 

「それをした後に、都合よく事が運ぶよう細工したんだけど、ね。」

 

紫の顔を見て、私も若干胸が痛んだ。まあ良い。明日には、全てが終わる。

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