「うーんと・・」
オレは戸惑いながら目の前の二人を見つめていた。ルーミアは気付いて説明してくれる。
「あ、あのね、私の友達。鳥みたいのがミスティアで、男の子みたいのがリグル。」
「私は女の子だってば!」
短パンとマントのリグルと呼ばれた子がすかさず突っ込む。正直ちょっと男の子かと思ってた。すまん。
「・・改めて、リグル・ナイトバグです。リグルって呼んでください。」
「ミスティア・ローレライ。みすちーって呼んで。」
リグルとピンク髪のみすちーが歩み寄ってペコンとお辞儀した。こちらといえば肉を片手に座り込んだ状態だったので、慌てて立ち上がる。
「リザだ。よろしく。」
頭を下げ、顔を上げると握手を求められた。腰布で手を拭ってから応じると、周りの三人は揃って吹き出した。脂でベタベタだったんだから仕方ないじゃねえか。
「ねえ。リザさんは、なんでルーミアと一緒に?」
「へ?ああ・・」
みすちーの質問で我に変える。何でと言われても、大した事ないが・・
「昨日こっちに"幻想入り"して・・まあ、成りゆきで。」
「へぇー!襲われたりしませんでした?」
リグルが目をぱちくりしている。いや、襲われたよバッチリ。しかしいま現に一緒なのに何で聞くかねそんな・・
「尻尾だけ食べさせてくれたんだ!今では友達!」
傍らのルーミアが元気に答えた。少しは悪びれても良い気がするんだが。というか、食わせてはいねーっつーの。
「じゃ、いまは何を?」
「ん、いやあ、ただの朝飯・・」
答えながら少し考える。これからどうしたら良いものか。出来ることなら何かしらルーミアの負担が減るように・・
「そうだ!」
突然ルーミアが手を打った。オレ含め三人の視線が集まる。
「二人とも、リザに妖力の使い方教えるの手伝ってよ。来たばっかりで分かんないみたい。」
「え?」
オレは少し戸惑ってしまった。教えるって、妖力を使うのは前提なのか。リグルとみすちーに目を移すが、顔つきからしてさほど嫌がってはいない。
「そうなんですか?」
「苦労しちゃいますよ!危ない人達多いんですから。」
リグルとみすちーは口々にそう言う。どうやら妖力は幻想郷では必須のようだ。オレも腹を決めよう。
「じゃあ・・お願いします。」
「うん!任しといて!」
ルーミアと二人が快諾してくれる。ああ、純粋な奴等だなあ。有り難い。
「んじゃリザ、ちょっとその場で気合い入れてみて。」
「わ、わかった。」
ルーミアに言われて全身に力を込めてみる。イノキがやったような状況が一瞬脳裏に浮かんだが、それらしい感覚はしない。周囲の三人の表情も芳しくはない。三分ほど続けただろうか。見かねたらしいルーミアが声をかけてきた。
「もっとこう、リラックスして!解き放つように、ブァーッと!パーッと!」
「そんな事言われても・・」
アドバイスが抽象的すぎてどうにもならん。思い付きで深呼吸してみたり、変なポーズをしてみたが、結果は同じだった。
「うーん(´・ω・`)」
「どうにもパッとしないねぇ・・」
「別な方法やってみようか?」
オレが座禅を組み始めたのを尻目に、ルーミア達は顔を見合わせる。もどかしくなって、つい彼女らに聞いてしまった。
「なあ、お前らはどうやって妖力が使えるようになったんだ?」
何かしら参考になれば、と思ったが、三人は再び顔を見合わせると、キョトンとした顔で振り返った。
「どうやってって・・自然に?」
「私も習ったりしなかったなあ。」
「私も昔の事なんて、記憶にございません。」
ルーミアが最後に肩を竦めると、三人は大笑いした。ええい、オレには才能が無いのか、結構へこむぞ。この状況。
「あ、じゃあさ!」
リグルが手を打つ。オレが目をやると、彼女は得意気に話し出した。
「"せいぞんほんのう"を刺激してみるのは?ほら、追い詰められたとき、何かが目覚めるとかあるじゃん。」
"生存本能"・・何気に物騒な言葉が聞こえてきた。オレの心配をよそにルーミアとみすちーはリグルの話に聞き入っていた。
「つまり、火事場の馬鹿力みたいな?」
「なんかいじめるみたいでやだなー。」
ある程度信頼関係があるお陰か、ルーミアだけは難色を示していた。まあそうだよな。生存本能って、要するに死に直結するもので・・
「リザさん妖怪だし、手加減すればへーきへーき。リザさんの為だよ。」
「それもそーだね。」
おい、あっさり覆るなよ。もし万が一昨日追いかけてきたのが三人分になったりしたら、正直オレ泣くぞ。冗談抜きで。
「さ、リザ。」
ルーミアが振り返った。三人ともすごく良い笑顔だった。あ、コレあかんやつや。
「というわけで、頑張ってね。」
「えと・・具体的には?」
オレは顔を引きつらせながら尋ねる。それに対する答えは、とんでもないものだった。
「私達三人が弾幕を撃ちまくるから、出来るだけ避けて。」
「ちょ、おま」
抗弁する間もなく三人は空へと浮かび上がる。ちょっと待て。スタート時点からオレ思いっ切り不利じゃないのか。
「三人に勝てる訳ないだろ!」
「そう思える状況が力を引き出すんですよ!その崖っぷちが、最高のチャンスなんだよ!」
逃げ出した矢先でリグルが笑いながら光の弾を飛ばしてくる。この短パン小僧・・じゃない少女め。言い出しっぺだけに良い笑顔してやがる。
あ、余談だけど三人が飛んだものだからまたもやパンツ見えるはめに。いやオレが見たい訳じゃねーぞ。にしてもみすちーは水色のシマシマか。ルーミアは昨日も白だったが替えて・・ゲフンゲフン。
よしリグル。火種撒いた上にいまだノリノリなお前は後でズボンずり下げてじっくり拝んでやる。見たい訳じゃねーぞ。一人だけ見ないの不公平だかんな。
とまあこんな事考えながらも逃げ続けていた訳だが、三人が不意に何かカードを取り出した。
「・・!」
嫌な予感がする。まだおぼろ気に察知できる程度だが、カードには力が込められている。それは、聞き覚えのあるような宣言と共に一気に開放された。
「闇符『ディマーケイション』!!」
「灯符『ファイアフライフェノメン』!!」
「蛾符『天蛾の蠱道』!!」
やっぱり。宣言と共に弾幕が一層激しくなって降りかかった。詳しくは知らんがあのカードで「技」が発動する、ってとこか。
「ちっ!」
流石に舌打ちしてしまった。こちらは元から打つ手なしだ。大体、地面から離れられない奴が空を飛べて飛び道具使う輩三人にどう対抗しろってんだ。
「『~♪♪~♪ー♪♪!!♪』」
気が付けばみすちーは何かの歌を熱唱していた。あれが力の源なのだろうか。ボルテージが上がるにつれて心なしか弾幕の勢いも増してる気がする。リグルはといえばいつの間につれて来たのか大きな蟲を従えて攻撃してくる。
妖力と一口にいっても、妖怪によってやり方は違うらしい。
「・・・・」
三人は三者三様に弾幕を放っていた。皆特別な事はしてないと言ったが、やはり一人一人スタイルをつくるモノは存在しただろう。
「ちょいと・・情けなかったかね。」
段々、何も考えず逃げ回るのが馬鹿に思えてきた。同じ力は使えずとも、何か方法はあるはずだ。
「っのあっと!」
頬を弾幕が掠める。ふと顔を上げると、ルーミアがこちらを見ながら笑っている。やれやれ、彼女らにとってはコミュニケーションの一つなんだろうか。
まあ、いいさ。始めて、撃ってきた奴に微笑み返してやった。
――さて、どうしたものか。
俺が得意な事といえば木登りと格闘戦辺りだろうが、どちらも使えるとは言えない。木を登ったとしたら動きは制限され、振り向いて動くこともできない。格闘に持ち込むのも難しいだろう。何しろ相手は遠くから狙いを定めたまま自由に動き回れる訳で・・・・
「・・・・ん?」
脳裏に閃くものがあった。狙いを・・定めたまま・・・・
咄嗟に三人を見比べる。誰が一番弾幕が弱いか、直感的に判断する。
「・・リグル!」
オレはサッと立ち上がるやリグルを見据える。狙いはアイツにしよう。出来ればルーミアじゃ無い方がいい。
真っ正面からリグルに向けて走り出す。
「おっと、距離を詰めようってんですか!?」
オレは答えない。全速力でリグルへと走り続ける。リグルは後ろに下がりながらまたカードを取り出した。
「蠢符『リトルバグストーム』!」
光弾が渦を巻いて襲いかかる。他の二人と比べても今度は頭一つ抜けた激しさだった。
「・・甘く見すぎたか。」
しかし今さら引き下がる訳にはいかない。今度は姿勢を低くし、手を使って走り出す。ルーミア以外には始めて見せる四つ足フォームだ。実際に弾に当たりづらく、スピードも上がるので馬鹿にできない。
「素早いけど、どこまで持ちますかね!?」
リグルが技を続けながら言う。実際、距離は全く縮まってはいなかった。リグルが後退して上手く距離をとっていたのである。
だが、それで良い。願わくば・・
(リグルがルーミアと同じくらいのアホウ・・いや違う。天然なら・・!)
そして、その願いは見事狙いを現実のものとした。
「あでゅあっ!?」
リグルが変な声をあげて、鈍い音と共に落下する。後頭部の位置にあったのは、木の枝。
何があったか、説明すればなんて事はない。リグルは素早く走り迫ってくるオレに合わせて、徐々にスピードをつけながら後退していた。常にオレに狙いをつけながら、である。
その為背後への注意がおろそかになり、頭を木にぶつけた、という順番だ。
「しめた!」
落下するリグルに向けて飛び上がる。まず一人捕まえてしまおう。三人から二人なら大分楽になるはずだ。そう、思った矢先。
「卵が!」
「!?」
みすちーの叫びに眉をしかめる。直後にそれの意味を理解した。
リグルがぶつかった枝に、鳥の巣が一つ。そこから衝撃で卵が一つこぼれ落ちていた。
「くっ!」
咄嗟に手を卵へと伸ばす。リグルは飛べるはずだし、悪いが一旦無視だ。蟲使い(?)だけに。それより今は卵だ。
割れないよう、両手でそっと包み込むように・・
(っしゃ!)
よし、掴んだ!後は着地するだけ・・!
自分でも顔が緩んだのが分かった。その時。
「っうお!?」
急に尻尾に変な感覚がした。下に向かって引っ張られるような・・クソ、誰だこの緊迫した時に・・・!
(・・!そうか、リグルだ!)
焦る頭で一瞬で察知する。落っこちる途中で垂れ下がる尻尾を見て、咄嗟に掴んでしまったのだろう。
しかし不味い。尻尾は千切れるだろうがそれでも引っ張られてバランスを崩して落ちれば卵は無事じゃすまない。しかし飛べない自分は、空中でそう自由に体勢を建て直せない。
ブチン、という音が鳴る瞬間、オレは思わず目を閉じた。
――
ドスン、と下から音がした。
「・・・・?」
いつまでもオレには衝撃は来ない。恐る恐る目を開けてみると、大事に持っている卵が見えた。目を移すと、眼下に突っ伏している小さなリグルが見えた。
「・・・・」
え、つまりオレは地面に倒れているリグルを見下ろしているのか?でもこんなに背高かったっけ?第一、地に足ついている感覚がない・・・・
まさか。
「リザ・・!う、浮いてる・・!?」
「まじか!?」
ルーミアの声に、全身を見渡してみる。縮こまっていた体を広げ、しばらく体をリラックスさせる。確かに、オレの体はずっと宙に浮いていた。
「す・・すげえ!!」
慣れない感覚についはしゃいでしまう。上下左右、縦横無尽に飛び回ってみても、違和感はない。ルーミア達の言ったことも今なら分かる。出来てしまえばなんて事無いのだ。
「あの、リザさん。」
みすちーがそばに飛んできた。その視線を見ると、言いたい事はすぐ分かる。
「おう、こいつな。」
きびすを返して卵を巣に戻す。背中にみすちーの声が届く。
「ありがとうございます・・・それと、おめでとうございます!」
「おう!こちらこそありがと!」
振り返って礼を言う。見ると下ではルーミアがリグルを起こしていた。どうやら大事ないらしく、リグルはすぐに立ち上がった。
「リグル!怪我ないか?」
降りて念のため尋ねてみる。リグルは歯を見せて笑った。
「平気です。でも驚きましたよ。尻尾が切れるなんて・・・・」
「はは、ルーミアも言ってたよ。」
オレが笑うと、誰かが背中を叩いた。相手は分かってる。
「リザ、おめでとう!」
ルーミアがニッコリと笑う。オレはそいつの頭を撫でてやった。
「おう。感謝するぜ。・・二人もな。こんな感覚初めてだ。」
フワリと浮かんで見せると、三人の目線が少しだけ上に向く。何だか面白くてどんどん上に上がると、頭が木の枝にぶつかった。
「あはははは!」
「笑うな!この!」
空を飛び回っておいかけっこをした。まだ不馴れなせいで到底追い付けなかったが、いつか捕まえられるようになってやる。