◇
―・・・
なんだ、ここ。確かオレは・・・。
頭がズキズキと痛む。目を閉じていたので周囲の様子は見えないが、体は何処かに横たわっている、ように感じる。というのは、地面に接する筈の肩や腕、脚には地面や床のような感触はなく、冷たく冷え冷えとした風の中をフワフワと浮かぶような、頼りない感覚のみがあったのだ。
手探りで回りを叩いてみる。ぶつかる手応えはあった。しかし突き破ろうとすれば途端にズブリと沈んでいく。奇妙な触り心地。
そういえばさっきから物音がしない。神経を耳に集中させてみるが、静かすぎて耳鳴りがしただけだった。
「ん・・・」
意を決して目蓋を開けてみる。
「・・・んん?」
上体を起こして二、三回、思わず瞬きを繰り返した。
見える光景は変わらない、いや、目蓋を閉じた時に見えるのと同じ。
真っ暗だ。
「おい、冗談だろ?」
立ち上がって足元、さっきまで寝そべっていた場所に目を落とす。変わらず、黒。暗闇の中に沈んでいる、とでも言えばいいのか、どだい夢の中でもなければあり得ないような状況だ。
「なんだってんだ、オレは確か・・・」
今までの事を順番に思い出してみる。紫に起こされて、封印を解いて、空亡・・・ルーミアと戦って・・・
―『落ち着いたか?』
「わあっ!?」
静寂に耳が痛くなるかという所で、頭に響いた低い声に、思わず蛙みたいに飛び退いてしまった。反射的に辺りを見渡すが、誰もいない。
―『みっともない声を出すな。私だ。』
「ああ、ニーズヘッグ・・・。なあまさか、オレ死んだのか?」
とりあえず話し相手が居た事に安心しつつ、状況を掴む為に質問する。何せ体はコイツに明け渡して、直接には何が起こったのか分からない。
―『そうさな、ある意味・・・死んだとも言える。』
「マジかよ!?じゃあここはあの世とか・・・」
―『違う。そうじゃない。』
ニーズヘッグは一つ咳払いすると、神妙な口調で語りだした。
―『私は負けた・・・。そして奴の、空亡の体に取り込まれてしまった。』
「取り込まれた?」
―『ああ、今私達がいるのは、空亡の体の中だ。』
「・・・・」
―『ただ、心象風景・・とでもいうか、心の中が見える場所に居座っているような状態だが。』
「ま、待て待て。ちょいとタンマ。」
スラスラと喋りだした辺りで待ったをかける。食われたのとは違うのだろうか。どうにも言っている事の理解が追い付くかない。
ニーズヘッグがため息をつく。
―『・・・お前、何度か夢で私の記憶を見ただろう。』
「・・・ああ、あの地獄みたいな。何度もうなされたぞ。」
―『アレは私の心象風景だ。生い立ちや経験が作る、自分を取り巻く世界への
印象。
お前は私を体内に封じた、別人とは言えん存在。だから、夢を通してソレを共有出来たのだ。』
「ふむ・・・」
あの凄惨な夢は、コイツの心の中を覗き見したみたいなモンか。んでこの、周囲の真っ暗闇に天も地も分かりゃしないこの空間は、ルーミアの心の中だと。しかし、だとしたら・・・
「・・・で?」
―『・・・・・・』
続く説明を促してみると、無言、もとい呆れたような沈黙が返ってきた。バカにされたように感じて、つい誰もいない虚空に肩を怒らせて叫んでしまう。
「なんだよ!いよいよ大事な所じゃ無いのかよ!?
」
―『察しが悪いな。ここまで言って分からんか?』
「わかんねーよ!早よ教えろ!!」
地団駄を踏んで暫く、はーはーという自分の荒い呼吸だけが聞こえる。だめ押しで尻尾を地面にピシリと打ち付けると、押し出されたような鼻息が「ふうー」と聞こえ、観念したような口調でニーズヘッグが話し出す。
―『お前と私は互いに心の中に踏み込める。そして今は空亡と私達の間で、同じような事が出来ている。
・・・つまり、私達は空亡の一部になりかけている、という事だ。』
「一部に・・・」
という事は何か、オレはルーミアとは、これから頭の中だけで会話するようになるのか。ここから一生出られずに・・・
―『暢気な想像だな。』
なんとも退屈そうな未来に思いを馳せていると、また横からニーズヘッグが口を挟んでくる。
「何だよ、イチイチうるせーなぁ。」
―『考えてもみろ。私が戦っていた間、お前の意識はあったか?』
「・・・ないけど?どうだったんだ。」
此方から聞き返すと、ニーズヘッグは「ふむ」と一つ呟き、冗談めかしてこう言った。
―『題するならこうだな。"二人っきりの最終戦争[ラグナログ]"。』
「何に題するんだよ。怪獣映画でもつくるか?」
妙に緊迫感のないタイトルに暢気なのはどっちだ。と脱力してしまう。
―『つまりだ。空亡に呑まれれば、すぐにでも私達は無にされておかしくない、という事だ。手を貸した私に感謝するんだな。』
「そりゃどうも。提案だが、サブタイトルは"邪龍、死す"で良いか?」
何故だか自慢気のニーズヘッグに舌打ち一発、だがここでふと疑問が浮かんだ。
「ちょっと待てよ。
じゃあ何で、呑み込まれたオレ達は、まだ無事なんだ?」
ニーズヘッグのいう通りなら、オレ達はどうなってもおかしくない。こんな風に話している余裕などない筈だ。ここに来てニーズヘッグも「むう」と唸りだした。
―『そこはよく分からぬ。さっさと力を奪わず、更にお前の人格のお前まで御丁寧に生かして置くのは、メリットでもあるのか・・・』
ニーズヘッグの方まで押し黙り、歯痒い沈黙が場を包む。相変わらず相手の手中、今にも殺されかねない状況の中で、考えも纏まらず苛々だけが募る。
そんな時。
[邪魔して良いかの?]
「うひゃっ!?」
また頭に声が響いてきた。しかし今度はニーズヘッグよりも低くしゃがれた、老人のような声だった。だが、不思議と地の底から響くような威厳がある。
「・・・こ、今度は誰?」
[うむ、お前さんとは初めてかの、儂は・・・]
―『久しぶりだな、龍神、だったか?』
「・・・龍神?」
オレが戸惑っている横で、勝手に会話が成立する。ニーズヘッグの方は知り合いなのだろうか、随分気安い口調だ。龍神は怒る事もなく、苦笑、という表現がピッタリ似合う口調で言った。
[・・・"様"をつけてはくれぬかの。とにかく先に挨拶して置こう。
儂は龍神。幻想郷の守り神じゃ。今はお主の意識に直接語りかけておる。]
「守り神・・・?」
いきなり凄い偉そうな肩書きが登場した。今までの事を考えるに、幻想郷に仇なす存在として処分されてしまうんだろうか。嗚呼、苦節半年未満、とうとう一番の大物に蹴散らされてしまうのか。無念。
―『ふん、何が偉いものか。私をこんな女の中に封印しおって。』
「お、おい。こんな時に喧嘩腰になるなって。」
―『はっ!空亡の中にまで手を出せるものか!何の用だ!』
その空亡の中は何時でもオレ達を殺せるんじゃなかったか。内にも外にも逃げ場が無くなっただけじゃないか。威勢の良いニーズヘッグに呆れていると、返ってきた言葉はしかし、至極穏やかなものだった。
[いや・・・状況を説明せねばと思ってな。]
「は?」
以外な言葉に間の抜けた声が出る。ニーズヘッグがふてくさたように言った。
―『説明なんぞされるまでも無いわ。遅かれ早かれ呑み込まれて終わりだ。最後に聞くのが爺の戯言とは残念だな。』
突っぱねるような態度のニーズヘッグ。対して、少しだけ真面目な声で、龍神が言った。
[いや、お主達は聞かねばならん。命を、存在を勝ち取る最後のチャンスなのだ。]
―『・・・!?』
「な、なんだそりゃ?」
[ほっほ。]
ぶっきらぼうのニーズヘッグに、呆れていたオレも揃って龍神の言葉にハッとなる。それに満足げに笑い、龍神は穏やかな声に戻って語り始める。
[では話そうか。お主らのいう通り、空亡はお主らを閉じ込め、何時でも命を奪い取れる。]
―『ああ、それで?』
[だが、こうして話している間も、とんと襲ってくる気配がない。それには理由がある。]
「理由って?」
尋ねてみると、言い聞かせるような口調で、龍神は答える。
[・・・奴、空亡だって悩んで居るのじゃよ。お主らを喰う事に。]
―『なんだって、そんな・・・』
[お主らが一番分かる筈じゃ。逆の立場で、空亡、ルーミアを殺せるか?]
龍神の問いかけは何かを確かめるかのような響きがあった。もしかしたら、とある考えが過る。
「空亡も・・・ニーズヘッグと同じように?」
[・・・ああ。封印を解き、力を振るい、その先に何があるかを知っておるからな。]
―『・・・・・・』
ニーズヘッグが黙りこんだ。夢の中で見たあの光景、苦しみと孤独はもう思い出したくないのだろう。
―『じゃ、どうすりゃ良いってんだよ。』
トゲがありながら、何処か甘えるような口調。龍神はその問いにまたも静かに答える。
[それもお主ならば分かるはず。同じ立場にいるのだから。]
―『・・・・・・』
信用の現れ、なのだろうか。突き放すようで、優しい響きだった。黙っているニーズヘッグの代わりに、返事を返す。
「・・・話を出来ないか?ルーミア、空亡と。」
―『・・・おい。』
[ふむ。]
ニーズヘッグが拗ねる横で、龍神は一つ咳払い。
[・・・ここから真っ直ぐ、真っ直ぐ歩いてゆけ。その内空亡の方から引き合わせてくれる筈じゃ。
・・・ただ。]
「ただ?」
意味ありげな前置き。首を傾げていると、龍神は一拍置き、幾分沈んだ声でこう言った。
[そう長くは、紫達が待ってはくれん。そんなに時間は無いじゃろう。]
―『なんだ。融通の聞かないやつらだな。』
[本格的に力を取り込み出せば、最早躊躇はせん。そもそも融合の隙を狙うのは織り込み済みだったのだからな。]
龍神の声がまた少し厳しくなる。どうやら"最後のチャンス"というのは本当のようだ。幻想郷に仇なす可能性が少しでも増えれば容赦はしない。紫や霊夢とスタンスはあまり変わらないらしい。記憶が戻って幾ばくもしない内の対話がこんな状況下でとは悲しい。
「分かったよ。要するに行くしか無いんだな。」
[すまぬな。今まで振り回してしまった。]
―『ふん。今更しおらしい事をぬかすな。』
ニーズヘッグは尚も吐き捨てるように文句をいうが、努めて軽い口調で諌める。
「まあまあ、これから先返して貰えば良いさ。タップリとな。」
―『先って、お前・・・』
ニーズヘッグはまだ抗弁しようとする。実の所、オレも言いたい事はあった。言い出せば長くなったかもしれない。しかし、駄目なのだ。
「ルーミアには、笑って会いたいだろ?」
―『・・・ぐぅ・・・』
変な声を出して押し黙るニーズヘッグ。思えば生まれてから今まで、ルーミアと過ごした時間が一番長く、心の中を大きく占めている。地獄の内にもがいていたニーズヘッグも、初めて抱く感情を、なんだかんだ言って大切にしている。オレには分かるのだ。
「じゃ、もう行くよ。色々とサンキューな。」
―『生きて帰ったら、覚えていろ爺め。』
[爺に記憶力を期待せんでおくれ。]
最後にぼやいて、龍神の気配が消え去る。いよいよ正念場だ。光も見えない闇の中を、ゆっくりと歩き出した。
―
「・・・・・・」
どの位歩いただろうか。視線の先にボンヤリと、金髪の小さな女の子が見えてきた。
そう、ルーミアだ。
「ルーミアッ!!」
思わず叫んで走り出す。近づくにつれて段々と姿がハッキリしてきた。両手を広げて宙ぶらりんになったような姿で突っ立っており、その四肢を周囲の闇が絡み付いたかのような黒い泥々したモノが縛り付けている。暫くしてオレに気づいたのか、首だけがユラリと動き、此方を見たルーミアと目があった。その目は生気が感じられず、瞳の光は鈍く疲れきっていた。
その目が、微かに驚き見開かれる。
「り・・ざ・・?」
「しっかりしろ!今助けてやる!」
駆け寄り、黒い何かをほどこうと手を伸ばす。しかし、触れようかというその瞬間、ぞわり、と熱風のような、それでいて悪寒を掻き立てる見えない力が押し戻した。
「うっ!?」
反射的に飛び退く。ふと気づくと一瞬でじっとりした汗を首筋にかいていた。
「・・・!?」
顔を上げる。今までルーミアばかりに気を取られて気づかなかったが、背後には何かがいる。巨大な恐ろしいモノが、闇に潜んで、此方を睨んでいた。
・・・コイツは・・・
―『また妙な会い方をしたものだな。空亡。』
―『ニーズヘッグか。先程の戦いは中々だったぞ。』
初めて聞く空亡の声は、空間全体から響いた。姿が見えず声だけ聞こえる状況にも慣れ、どうでもよくなってきた。
―『早速だが本題だ。・・・そのガキを渡せ。』
―『つれない奴だ。話す事は無しか。』
ニーズヘッグはオレを放っておいて交渉を始めた。しかし待ってほしい。此方は聞きたい事がある。
「なあ、空亡。」
―『なんだ。女。』
「聞いたぞ。オレ達を取り込むのを、悩んでいるって。」
「・・・・・・」
気配が変わる。渋面がうっすらと想像できた。暫く空亡は無言でいたが、やがて嘲るような口調で答える。
―『・・・ルーミアに免じて、だ。それはもう喚きおったからな。』
空亡が鼻を鳴らすと、ルーミアがキッと目を向き、首だけが肩越しに後ろを睨んでよく響く声で言った。
「・・・気持ちは変わってないよ。もうやめて。元通りに戻して!」
―『・・・・・・』
空亡の威圧がフッと削がれる。するとニーズヘッグが口を挟む。
―『と、言っているが・・・どうする?その気になれば幻想郷を無に出来るぞ。』
「お前な・・・」
微妙に唆そうとするニーズヘッグを制し、ルーミア、否、頭上の空亡へと向き直る。するとまた「ふん」と空亡は鼻を鳴らす。
―『都合の良い事を。私が封印を破らなければ、すぐにお互いの事など忘れただろうに。』
恐らく、紫達が仕組んだあの事だろう。しかし、この言い方はまるで・・・
―『空亡、要するに思い出す切欠をくれた訳か?』
―『な、何故そうなる?』
―『いや、お前の行動からはそう読み取れるが。』
―『むむ・・・』
空亡が戸惑った唸り声をあげる。案外本当に気遣ってくれていたんだろうか。ルーミアも半目で呆れたような苦笑いを浮かべている。
―『・・・ふぅー・・・』
暫くして空亡は長い溜め息をついた。吐き出された空気が場を冷やしたかのように、シュンと冷たい空気が辺りを包む。一拍置き、空亡はぽつぽつと語りだした。
―『・・・確かに、惜しかったよ。お前達が離れていってしまうのは。』
ニーズヘッグと同じ様に穏やかな生を送れなかった空亡。オレ達が何気無く過ごしていた日々は、羨ましく見えていたんだろう。
―『最初は、お互いの力を狙っていた筈なのにな。』
―『お前も・・・分かるか?』
―『ああ。』
ニーズヘッグが相づちを打つ。二人に通じるものを感じ取ってか、空亡の言葉から悲壮感が薄れる。
―『なあ、ルーミア。』
「なに?」
―『お前が永遠亭で目を覚ました時、奴は泣いて喜んでいたっけな。』
―『そうそう、その前にはコイツ子供みたいに・・・』
「おい止めろバカ。」
一瞬だけ、気安いお喋り。しかし、それもすぐに終わる。
―『・・・私の役目は、終わりか。』
「空亡。」
ルーミアが口を挟むが、空亡はそのまま語り出す。
―『思えば、ルーミアには不幸しか与えられなかった。』
「待って。私は別に・・・」
―『いや、私は元々そういう存在なんだ。だから封印された。
・・・こうして似合わぬ事をして、漸く自覚出来たんだ。』
―『・・・・私も、可笑しな奴等を引き寄せたっけな。』
ニーズヘッグが自嘲気味に呟く。身に積まされる話なのだろう。空亡が一拍置き、こう言った。
―『私が皆を解放した後、紫達に頼むと良い。今度こそ私もニーズヘッグも消えるだろう。』
もう未練はない。そう言いたげだった。ニーズヘッグも黙っている。納得しているのか。
―『さあ、時間がない。光を再び・・・』
「待って。」
ルーミアが張りのある声で言った。空亡の言葉がピタリと遮られる。空亡は邪魔されたからか若干気だるそうに尋ねた。
―『・・・何だ?』
「一緒に帰ろう。」
―『何を言い出す。』
空亡の言葉に、ルーミアは強く言い返す。
「だって・・・悪い奴じゃ無さそうなんだもん。」
―『バカをいうな。』
空亡は焦ったように捲し立てる。
―『私は空亡。かつて世界を闇に包んだ怪物だ。怖くは無いのか。大体、周りがなんと言うか・・・』
「リザと会った時も、そうだったよ。」
ルーミアの声は対称的に静かに響いた。空亡が黙ってから一瞬して、少しずつ語りかける。
「お互いどんな奴かなんてよく分からなかった。ただ、仲良くやれるかもって、最初はそれだけだった。」
―『・・・・・・』
「紫や霊夢に色々言われたけど、結局どんな奴かお互い、自分で確かめたんだ。」
そうだ。そういやオレも最初は食われそうになったっけ。でも、今では大事な仲間だ。不思議なもんだな
「なあ、これからもそうしようぜ。こうして話が出来るんだ。皆だって分かってくれるさ。」
周りに向けて話しかけた。無言が暫く続いた後、空亡が気まずそうに言う。
―『傍にいて、構わんか?』
「おう。」
「いいよー。」
―『・・・正直リベンジしたいからな。』
ボソリと呟くニーズヘッグ。空亡きはからかうような口調で返す。
―『なんかお前が言うと気に食わんな。』
―『なんだと!?』
「よさねえか、おい。」
言い争いが始まりそうな所を慌てて制す。ルーミアがクスクス笑い、空亡きが小さく咳払いした。
―『では改めて・・・』
「頼む」
「やっとかぁ・・・」
―『かったるかった・・・』
目の前で、闇に穴が開いて光が射し込む。その光が段々と大きくなり、やがて視界を包むと、空を浮かぶような解放感に包まれながら、オレは意識を手放した。
―
「・・・きて。」
「ん・・・」
「おきて。」
「・・・なにー?」
少女の声に誘われて目を開ける。そこにはルーミアが呆れた顔で覗き込んでいた。
「え・・・ルーミア?」
「相変わらずのお寝坊さんだね。リザ。」
「・・・え、ええ!?」
「あだっ!」
思わず跳ね起き、ルーミアに頭突きをかましてしまった。あ、と洩らした時には既に遅し。しゃがみこんで頭を押さえ、涙目で此方を睨むルーミア。
「何すんのよー・・・」
「す、すまん、でも、あれ?」
動揺しながら自身の姿を確かめる。鱗に包まれ、四本の手足と尻尾。
「元に戻ってる・・・」
何処かの和室の布団に寝かされていたようだ。隣にはもう一人分、ルーミアが寝ていたであろう布団。
「一体、だれが・・・」
寝起きのボンヤリとした頭で考えていると、目の前の襖がガラリと開いた。
「あ、起きた?」
紫だった。扇子を口に当てたヘラヘラしたその表情にゲッとなったが、その後に続けてドヤドヤと見知った人が入ってきた。
「あー、やっと起きたのね。」
「暢気な顔だ。」
「え、えー、はじめまして?」
霊夢となんだか狐みたいな女に、オドオドした猫みたいな奴。誰?と顔をしかめているとダダッ!と足音を立てて誰かが抱きついてきた。
「わっは!?」
「起きたんですね!良かった。私、私・・・!」
なんだなんだ。知らない声だ。視界にはチラチラ緑の髪が見え、胸元に柔らかい何かがムニュムニュと当たる。
「早苗。落ち着きなって。」
「へ、あ、はいすみません・・・」
ルーミアが止めて、早苗とやらが漸くはなれる。緑のロングヘアに脇の出た変な服。
「・・・確か、霊夢と一緒にいた・・・」
「はい、東風谷 早苗です。この度は大変ご迷惑を・・・」
早苗はストンと正座して三つ指をつく。何が何だか分からず戸惑っていると、後ろから文が肩を叩いた。
「早苗さん、気持ちは分かりましたから、その話は後。」
「よお、心配かけやがって!」
「目覚めないかとヒヤヒヤしたわ・・・」
勇儀が大股で上がり込んでオレの背中を叩く。影狼もルーミアを抱っこしながら長い息をつく。心配って、どの位だろう。
「リザさん、貴女、三日も眠っていたんですよ。」
「は?三日!?」
アレからそんなに・・・そうだ、ニーズヘッグはどうなったんだろう。すかさず件のピアスに手をかける。・・・が、痕の感触があるばかりだった。
「・・・封印は、もう必要ないわ。」
「え?」
紫はルーミアを指差した。微笑むソイツの頭に、あのリボンは無くなっていた。紫はしみじみといった様子で説明してくれた。
「驚いたわよ。いきなり空亡がグニャグニャ歪んだかと思うと、ルーミアとアンタの形に吸い込まれて、フワフワ地面に落ちたんだから。」
「じゃあ・・・アイツら・・・」
消えちまったのか、という不安が過る。帰ろうと約束したのに、そうするしか無かったのか。
「ったく。面倒って中々消えてくれないわね。」
「え?」
霊夢が一人ごちたのが、妙に引っ掛かった。オレの視線に気づき、霊夢がぶっきらぼうに言う。
「アイツラ、まだアンタラの中にいるのよ。封印無しに、自分から引っ込んだの。」
「じゃあ、ニーズヘッグや空亡は・・・」
「生きてるよ。ちゃんと。」
ルーミアが胸に手を当てて笑う。瞬きをした直後に、ポロポロと涙が溢れた。
「そうか・・・」
「私達も付き合いを考えなきゃいけないって事ね。」
紫がパチンと手を打つ。そして周りを見渡し、言った。
「この中にお互い知らない子もいるし、自己紹介といきましょうか。」
「ああ、けど・・・くしゅっ!」
寒い。まだ冬は終わっていないのか。
「春までもう一寝入り・・・」
「だめー!」
「わ、尻尾喰うなって!」
布団の中でドタバタ暴れるオレとルーミアを見ながら、皆は笑っていた。
何となくだけど、和やかに皆といる時間が、嬉しくて、これからもっとこんな時間を増やしていきたい。そう思った。
今度は、新たな二人を加えて。
読んでくれて有難うございました。
あるかないか分からない次回作にご期待ください!