チルノとオレは、空中で30メートル程の距離で対峙する。チルノの後ろには弱った顔で見つめる大妖精、オレの後ろには面白半分な様子で見つめるルーミア、リグル、みすちーの三人が遠巻きに見守っている。
「じゃ、いくわよ!アタイの使うカードは三枚!かわしてみなさい!」
「おうよ!」
チルノは威勢よく手を振りかざす。とはいえいきなりカードは使わない。先ずは弾幕を放つつもりだろう。手元が光る瞬間、身構える。
「そらあっ!!」
途端に放たれる氷の塊。予想以上の勢いと大きさ、そして数。まるで石のツブテをばら蒔かれたみたいで、一つでも当たれば頭の一つや二つ簡単にカチ割れそうだ。
「ッ!うおっと!」
「まだまだぁ!!」
仰け反りながらもギリギリで避ける。チルノはそんなオレに容赦なく弾幕を放ち、たちまち周囲を煌めく氷の弾で埋め尽くす。なんだこの威力、これが一人の力か!?
「リザ〜!」
右斜め遠くからルーミアが叫んでいる。周囲の弾幕に注意しながら、目線をそちらに移す。
「チルノって、妖精じゃかなり強いんだよ!油断したら負けちゃうよ!?」
「・・マジか!?」
顔スレスレで避けながら、冷や汗を払う。ちょいと不味かったかもしれない。チルノの力はルーミア達三人分・・とまではいかなくとも、それぞれの力量は見たところ軽く凌駕している。加えて・・
「・・ヘッキシッ!」
くしゃみが出た。その一瞬で近づいた攻撃を、体を翻してかわす。
さっきから寒さがどんどん増している。氷の妖精であるチルノが力を振るっているせいだろう。突き刺すような冷たい風。それにつれてオレの身体は怠さを増していく。チルノは今は気づいていないようだが、それでも不利なことは感覚で思い知らされる。
「参ったね、こりゃ・・」
薄ら笑いが漏れる。この攻めが勢いをつければ危ないかもな、と思った矢先、チルノがカードをかざした。案の定だ。チクショウが。
「氷符『アイシクルフォールeasy』!!」
チルノの両手から何本も鋭いツララが現れ、それが左右から挟み込むように迫ってきた。
「くっ!」
傍に来たツララをなんとかかわし続けるが、ツララは相変わらずの調子で飛んでくる。こちらは一発当たれば敗けだ。どうにもヤバイ。
「・・ぬおりゃっ!」
一か八か、前へと飛び出す。ツララの隙間を潜り抜け、視線の先には、同じように弾を撃ち続けているチルノ。
「ふふ、早くもヤケになったの!?ショボいわね!」
チルノが一層ツララを沢山放ちながら言い放つ。半分は正解だ。だが両手を広げて放つその姿からの判断が、正しければ・・!
「・・っとお!」
滑り込んだ場所は、チルノの目の前。チルノは眉をしかめて弾幕を撃ち続けているが、何故か当たらない。
「なんでー!?」
悔しがるチルノを見ながら、オレは一息つく。
チルノの"アイシクルフォールeasy"とかいう技は、まず左右に広がって飛んでいったツララが、途中で方向転換して挟み込むように飛んでくる、というものだ。至近距離なら、広がって方角を変えるまでの隙間が出来る。半ば勘での判断だったが、幸い正解だったようだ。
(さて・・)
改めて前方を見据える。チルノはムッとしながらも同じ技を続けている。制限時間があるといったが、逆に言えばそれまでは技を止められないのだろう。
(・・退屈だ。)
戦いの途中にあるまじき考えが浮かんだ。安全地帯、といえばそうだが、何もしないで向かい合っているのも味気ない。
こちらを膨れっ面で睨むチルノ。デコピンでもしてやろうか、いや、攻撃はしない約束だし・・
「・・・・」
おもむろに右手の人差し指を立てる。チルノが眉をひそめる。
その指を目元にもっていく。チルノの眉のシワが深まる。
そして、口を開き・・・・
「・・あっかんべー・・」
わざとらしい擬音と共に舌を出す。場の空気が一瞬凍った気がした、が。
「・・!」
チルノは本気で馬鹿にされたと思ったらしく、眉をつり上げる。それで締まった顔になれば良いが、その顔は悲しいかな『子供が一生懸命仁王さんの顔真似をする』みたいな表現がピッタリ似合っていた。
(・・ふふ。)
ルーミアにしろチルノにしろ、ガキんちょの表情はコロコロ変わって面白い。やり過ぎてはいけないが、からかってみたくもなるというものだ。
そう思いながら、舌を収めようとした、その時。
(・・・・!?)
舌先に妙な感覚があった。
上手く言えないが、ざわつくような・・チルノから盛れ出ているであろう冷気とは別に、なんとも言えない不快感のようなモノが引っ掛かった。
「・・・・おっと!」
気づけば技は止んでいた。オレが急いで距離をとると、チルノはさっきの事を根に持ってか、ムキになって攻撃を仕掛けてきた。
「コンニャロー!」
「のわあっ!」
今度はばら蒔かれたアラレに混じってレーザーが放たれる。最初こそビビったが、それが自分を狙うがゆえ、少しだけズレれば避けられる事に気づく。
(・・避けるのには慣れてきた・・しかし・・)
気になるのはあの舌の感覚だ。また何度か舌を出し入れするが、あの不快感は消えない。それどころか益々確かな感触になっていく。
「さっきから何度もベーってしおってー!食らえ!」
どうやらチルノには馬鹿にしているように見えたらしい。確かに端から見りゃ意味不明だよな。
「凍符『パーフェクトフリーズ』!!」
チルノが叫ぶ、その瞬間。
「っぐぬ!?」
不快感が一気に増す。どうやら力を振るう量に応じて舌の感覚が強烈になるようだ。しかし頭でそう理解しないうちに、弾幕が襲いかかる。
今度は数の多いバラ弾だった。近くに来たのを難なく避ける。しかしその時。
「・・!?」
その弾が、いや、見れば周囲の弾幕が全て動きを止めていた。そのさまは、空間全体が"凍った"かのようだった。
「・・くっ!」
急いで振り返ると、チルノが素早い弾を放つ。それをかわそうとし、一瞬ギクリと躊躇する。
先程動きを止めた弾。それら一発一発がどれ程邪魔な存在か、避ける段になって思い知らされる。
「ちっ!」
舌打ちと共に体を折り曲げる。弾は頭上を飛び去るが、腰布が焼け擦れるような感覚がした。だが今は気にしちゃいられない。
また弾幕がばら蒔かれる。同時に止まっていた弾が一斉に動き出した。
「・・くぁ!」
手足を折り畳んで縮こまり、ギリギリで回避した。チルノを見ると、勝ち誇ったような笑みをこちらに向けている。
「これは流石にキツいでしょ!?今のうちに降参したら!?」
チルノの声が聞こえる。確かにコイツは強力だ。だが潔く敗けを・・なんてのも腹が立つ。
「・・へっ!」
再び舌を出して挑発する。なんら事態は好転しないが、こういう性分なんだろう。
「むっ・・!これならどうよ!雪符『ダイヤモンドブリザード』!!」
途端に吹雪のような密度の濃い弾幕が迫る。同時にまた舌に不快感が襲った。
「ぐああっ!」
今度は二度目にも増して鮮烈だった。舌先のみならず、体全体に電流のようなモノが走り、ザワザワと身体中を駆け巡る。それはまるで、舌先で感じたチルノの力に反発しているかのように感じられた。
「・・!」
その感覚に気をとられた一瞬、弾幕が目の前まで迫っていた。
その時、体が勝手に動いた。理屈でどうしてそうしたかは分からない。
深く息を吸い、体の中で暴れるざわつきを吐き出すように、
大きく、大きく息をはいた。
「・・!」
その瞬間、自分で目を見開いてしまった。
口から、大きな炎、爆炎と言っても良いような化け物みたいな火が、一瞬で目の前に広がる弾幕を呑み込んだ。