加賀岬の小さな鎮守府   作:まめ輔

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突如この国を襲った正体不明の敵。周囲の光を全て呑み込むかのような漆黒の身体を持ち、生物なのかどうかさえ判別のつかない『それ』は、口と思しき場所から砲撃を放ち、多くの海沿いの街を破壊した。
しばらくして、『それ』は去って行ったが、これは終わりを意味するのではない。恐らくは補給をし、しばらくの後、またどこかの街を破壊する為に襲い来るだろう。何の為に_と考える余裕は、この時には無かった。次の襲撃はいつ来るのか、この町が狙われるのか。そのような事を頭に巡らせながら、ただ怯えるしか無かった_。


第1話 『おかえり』 後編

「爺ちゃん、大丈夫かな…。」

夕方、漁に出かけた祖父はまだ帰って来ていない。この異変に気付いたのなら、船を飛ばして、港に戻ってくるはずだ。

「砲撃も落ち着いたみたいだし、港へ行って爺ちゃんを探そう、婆ちゃん。」

「そうやな…。」

俺と婆ちゃんは、爺ちゃんの無事を祈りながら、港へ歩き出した。

「…父さんと母さんにも、連絡取らなきゃな…。」

父と母は、ここから数十キロ離れたかほく市の実家にいる。スマートフォンを手に取り、実家へ電話をかけるが…

「…繋がらないか。」

全国各地でこのような混乱が起こっていては、混線で繋がるはずがなかった。港へ着くまで、何度も電話をかけたが、とうとう繋がらなかった。

 

港へ着くと、ちょうど見覚えのある船が入ってきた。

「爺ちゃんの船だ!」

「おーい!爺さんやー!」

するとこちらに気付いた祖父が手を振る。

「おー!無事やったかー!」

祖父が船から降りると、まずは3人が無事に揃った事に安心した。

「町は無事か?」

「ここはなんとか…。でも、向こうの、金沢の方はやられちまったみたいだ…。」

「そうか…海の上からでも、真っ赤に燃えとるのが見えた。そこに砲弾(タマ)撃ちこんどる不気味なやつも…。」

「爺ちゃんも見たのか!?」

「あぁ、えらいデカくて、10mかそこらはありそうやったな。初めはクジラかなんかでも来たんかと思ったんやがな、砲弾(タマ)撃ち出すもんやから。んで今度は『どっか敵国の軍艦か!?』と思ったんやが、それにしては小さ過ぎる。ありゃ一体何なんか、見当つかん。」

 

家に戻りテレビをつけると、どの局も、この正体不明の敵の襲撃のニュースを報じていた。いつ、何が起こるか分からないので、3人で夜通しニュースを見続けていた。夜朝になると、内閣総理大臣の緊急記者会見が始まった。『我が国は、正体不明の敵との交戦状態に突入した。』『日本海・太平洋の各地に護衛艦隊を配置し、今後はこれらと正体不明の敵との交戦をもって、緊急警戒情報を発令、文化遺産として登録されている防空壕等の利用も可能とし、身の安全を確保すること。』と発表された。夜が明けたその日の昼下がり、変わらずそのニュースが流れ続ける中、その時が来た。

 

けたたましいサイレンの音。テレビに流れる緊急警戒情報のテロップ。それを報じるキャスターの声。『日本海・太平洋の護衛艦隊が正体不明の敵との交戦状態に突入…』その全てを読み切る前に、私の意識は近くで起きた爆発音に奪われた。この町が、襲われている…!?もう、護衛艦隊は突破されたのか…?先に外に飛び出した祖父母を追って外に出ると、その疑問は確信に変わった。ジェットともプロペラともつかないような不気味な音を立てる奇妙な飛行物体が複数、町の上空を飛んでいた。それらは下部に爆弾のようなものを抱えており、町の至るところにそれを投下していった。

「爆撃機…なのか…!?」

「爺さん、コウ!早く逃げるよ!」

そう言われて3人で逃げようとしたが、耳をつんざく音を立てるその飛行物体が、真上にいた。その機首がこちらを据え、今にも爆弾を投下しようとする。

「伏せて!」

投下される爆弾がずれる事を祈り、祖父と祖母を抱え、地面に伏せる。その飛行物体が爆弾を切り離す直前。風を切る音と共に何かがこの空に割って入り、真上の飛行物体を撃墜した。振り返り、空を仰ぐ。そこを飛んでいたのは…。

「零…戦…?」

スケールは明らかに小さいが、正体不明の飛行物体を撃墜した機体は、零式艦上戦闘機のそれだった。護衛艦隊以外の何かが、何かが正体不明の敵と戦っている。その零戦の編隊が向かって来ている方角を確認すると、岬の方の海上から向かって来ているようであった。

「何かが俺たちを守るために戦っている…。爺ちゃん…婆ちゃん…岬の方に向かおう。助かるかもしれない…!」

爺ちゃんと婆ちゃんを両肩で支え、上空の零戦の支援を借りて、岬の方へ向かう。炎に包まれる町を抜ける。岬は、もう目の前だった。

岬に着く頃には、正体不明の飛行物体は消え、零戦の編隊だけが整然と、空を漂っていた。その編隊の後を追い、岬の先端へ向かう。そこから海を見ると、海上に浮かぶ、一つの人影があった。

「…人…?」

「人が海の上に立っとる…。」

その『人』の腕には何やら板のようなものが付いていた。すると、さっきの零戦が、その板に『着艦』して行く。

「『飛行甲板』…。」

空母等の艦艇が、航空機の発着艦に用いるそれが、人の腕に付いている…あり得ない事だったが、この時、不思議と疑問は抱かなかった。むしろ、希望めいたものを感じていた…。こちらに気付いたのか、その『人』がこちらを向く。横で髪を束ねたサイドテール、鋭い眼差しとどこか柔らかさを感じる顔、胸の膨らみ、その『人』は女性だった。

「女の人だ…。」

軍艦は女性である、という話を思い出した。そしてその『人』の腰に付けられた巨大な煙突、前垂れに描かれた模様と『カ』の文字には、見覚えがあった。私が軍艦に興味を持ち始め、図鑑で初めてその姿を見た時から、片時も忘れたことは無い。この地方の、旧国名をその名の由来とする艦。運命の荒波に呑まれ、戦艦として産まれながら航空母艦へと改装された数奇な艦。私が、一番愛してやまない艦。その『(ふね)』の名は_。

 

 

「『加賀』…!」

 

 

その名で彼女を呼ぶ。こちらに向かってくる『加賀』。私は、かつて鋼鉄の塊であった頃の『加賀』が海上を征く姿を()た。

「爺ちゃん、婆ちゃん…この世界はまだ、助かるかもしれないよ…。」

「あれは…?」

「分かるのかい?コウ。」

 

「『加賀』だよ。航空母艦『加賀』…!」

そして私は、こちらに向かって来る彼女に向かって、こう言った。

 

 

「おかえり。」

 




第1話、完結です!読んで頂きありがとうございました!

登場人物 追加分
・岡田 ジュン
主人公の祖父。漁業を営んでおり、家に居る時間は少ないが、誰よりも孫の事を考えている。

・『加賀』
加賀型戦艦の1番艦として建造された後、航空母艦へと改装された数奇な艦。かのミッドウェー海戦での沈没から長い時を経て、現世へ再び現れた。それは人なのか、艦そのものなのか_。

第2話もご期待下さい!
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