来ヶ谷乃愛は自室のパソコンでメールボックスを睨み付けていた。
″照由先生の記事は裏付けもしっかりとしており、情報の信憑性は高いと言えますが、○○衆議院議員の汚職問題に関しましては本誌、″週刊福音″の編成上組み込むことができないことが決定いたしましたので報告させていただきます。今後とも照由先生の書く記事を編集部一同心待にしております。そして、今回の記事に関しましては、本誌に掲載されることはありませんが、先生の手間賃として二万円を指定の口座に振り込みます。ご確認のほどよろしくお願いいたします。″
要約すれば、件の議員が金を使って編集部に圧をかけた。手切れ金は払ってやるから、二度と記事を書くな……とのことである。
「世知辛い世の中ですね……」
御伽は呟きながらタバコに火を着けた。
政治家に圧をかけられたのであれば週刊誌の一ジャーナリストでしかない御伽にはどうすることもできない。
「さて、どうしたものか……」
他の雑誌に移るか?
恐らく既に手回しされている。何処で書こうとしても差押えられるだろう。
ライターを辞める?
それだけはあり得ない。御伽の目的のためにこの職だけは失うわけにはいかなかった。
自費出版か?
それは無理だ。経費もかかるし、もし相手に名誉毀損で訴えられたら逃れようがない。あいつらは金で何でもしてくるようなやつらだ。
ふと、テレビに目をやると最近、巷で噂になっている「圧倒的な力を持つがために苦悩するヒーロー」のコマーシャルがあっていた。
「スーパーヒーローか……私のところにも来てくれないかしら……」
昔は憧れていた。悪を滅ぼすヒーローに、決して自分の素顔を晒すことなく淡々と悪を成敗するヒーローに、悪しきを挫き、正義を愛するヒーローに……
小さい頃、母親の「暴力的な描写が教育に悪い」という一言から見ることが許されず、母親の目を盗んでは頼んで録画してもらっていたヒーローものの番組を見ていた。
「ヒーロー……仮面……覆面……」
御伽はそこまで言うとなにかを思い付いたようでクスクスと笑い始めた。
「そうよ。ヒーローがいるのはTVの中だけ……、ならば私がヒーローになればいいじゃない。本名も年齢も一切不明のフリーライター……、世界のおかしいところ悪いやつらを徹底的に懲らしめる……格好いいじゃない」
そう言い終わるが早いか、御伽は再び机に向かった。
匿名投稿じゃ意味がない。私が、照由御伽が、正義のフリーライターが悪いやつを懲らしめている証拠が必要だ。
来ヶ谷乃愛
嘘つきで狡猾、本名を隠しながらも悪い人間に罰を与える。素晴らしい名前じゃないか。
……しかし、問題がある。無名のフリーライターといっても、今回のように内容によっては記事を止められるかもしれない。
ならば、誰も信じないような内容にすればいい。
適当な証拠、適当な文章……それでも心当たりがある人間からすれば驚異になるだろう。そして誰も信じないような内容ならば、雑誌も恐れずに載せることができるかもしれない。
ここまで決まれば実践あるのみだ。
手始めに、最近怪しい金が入っていると耳にした旭日重工を相手にしてみよう。