Taler   作:まっまっマグロ!

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寝台列車リンダ号


Blue Train-RINDA

「何しているんですか?」

 

『ジャック』が尋ねる。

 

ロックは振り向けない。振り向いたら『ジャック』の正体が判明してしまう。

 

……シュレディンガーの猫

……ブラックボックス

 

「ジャックの正体はわかりませんでした。尻尾の毛すら掴めませんでした」

 

バラライカにこう報告すれば全てが丸く収まる。被害者は全員悪人だけだ。悪いやつが死んで困る人間がどれだけいる?

 

いない。

 

考えが纏まり、ロックは立ち上がった。

 

ボリスが止めようとする。

 

ロックはボリスの制止を無視し、ジャックの方へ体を向けた。

 

「タイラーじゃないか。こんなところで何をしてるんだ?」

 

平然と話しかける。しかし、ロック以外は気づいていた。脚がすくんでいる。

 

なにかを恐れていた。

 

なにかが現実になることを恐れている。

 

「何って、趣味ですよ。趣味のお仕事」

 

「誰かに依頼されたのか?」

 

「あぁ~、ロックさん、何か勘違いしていませんか?」

 

月光が『ジャック』を照らす。

 

顔が見える。

 

見間違えるはずがない。

 

 

照由御伽であった。

 

「私は私の目的があって、私のために、私がしたいたからしてるんですよ。脅されたり、ルーマニアの双子みたくイカれた信心を持っているわけでもありません」

 

ロックはその言葉を聞き、安心してしまった。

 

一歩近寄る。

 

「そうだよな。タイラーがこんなことするはずがない。人殺しな……」

 

「人は殺してますよ」

 

飄々としている。

 

普段と変わらない。

 

物腰の柔らかい言葉遣い、人畜無害な小動物のような笑顔。

 

全てがいつも通りであった。

 

長い沈黙。

 

静寂……

 

「嘘だろ?」

 

声が僅かに裏返る。

 

めまいがする。

 

「信じてくれないんですか?」

 

御伽は持っていた鞄を漁る。

中から真空パックが出てくる。

 

何故か真空パックはドス黒い赤色で染められ、中に何が入っているのかわからない。

 

「な、何が入ってるんだ?」

 

額から流れ落ちる汗が頬をつたい、顎から落ちるのがわかる。

 

「そうですよね。これじゃあわからないですよね」

 

御伽がジッパーを開け、手をいれる。固体とは思えないような、液体でもないような不可解な音を立て中を漁る。

 

真空パックが流体のように波打つ。

 

ところどころ固体のようなイボが見受けられる。

 

「これなんかどうですか?」

 

御伽が手を出す。真空パックと同じようなドス黒い赤色に染まった左手には同じ色の固体が握られていた。

 

「これは、カッターロッカーと呼ばれた連続バラバラ殺人の犯人、ディビット・ルートの肺です。刺し加減を間違えて斜めに刃が入ってしまったんですけど、意外と綺麗に残ってくれました。それとですね……」

 

小学生が庭で拾ったおもしろいかたちの石を担任に見せている、そのような雰囲気すらある。猫がスズメをくわえて主に見せるような、ギザ十のコレクションを友人に見せているような……

 

そのような軽いノリでこれまで殺してきた悪漢の身体の一部を殺したときの印象やちょっとした蘊蓄を混ぜながら嬉々とした表情で語る。

 

「ロック!」

 

後ろから声がし、ロックは慌てて振り返る。

 

ボリスが目の前の現実を受け入れられず、困惑した表情を見せる。

 

幸い、御伽は手元の玩具に頭が一杯でこちらに気を懸けていない。一旦引くべきである。ロックはそう考え、ボリスに伝える。

 

そして、ボリスも目の前の現実を受け入れるには時間が必要である、そして、実質戦えるのがボリス一人であることを怖れ、引くことに同意した。

 

しかし、ここはビルの屋上。

 

「ボリスさん」

 

「ん?」

 

ロックが策を講じる。

 

内容は単純、威嚇射撃をし、ビルから飛び降りるというものである。

 

ボリスはロックの算段にのった。

 

わずかな空白。

 

ロックの携帯のバイブレーションと共にロックが合図を出す。

 

ボリスが構え、御伽に向かって発砲する。

 

御伽が舞った。

 

足元を狙った威嚇射撃とはいえ。焦りを見せることもなく、美しいバク宙を御伽は披露した。

着地と同時に振り返った御伽の視界にはロックとボリスの姿はなかった。

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