ショッキングピンクの『プリムス・ロードランナー』はロアナプラの大通を駆け抜けていた。
「ところで」
ベニーが振り向き、ロックの方を向く。危険ではあるが、今は土曜日の深夜、誰しもが『切り裂きジャック』を怖れ、外出しないため道路はクリスマスのごとく、一台の車も走っていなかった。
ロックが顔をあげ、ベニーの方を向く。
「どうして警察署なんかに向かうんだい?あそこにいるのは肥えた豚と犬だけだと思うんだけど?」
ベニーは不思議に思っていた。
ここロアナプラでは警察は役に立たない。銅色の紙袋をちらつかせるだけでこの町で起きた犯罪の幾つもが迷宮入りしている。
退職金と、ドーナツと、ゴルフ、そしてマフィアから集めた紙袋のコレクションにしか興味を示さない彼らが役に立つとは思えなかった。
「ベニー、あんたは勘違いしている。いくら無能でも肩書は警察だ。何かしらの情報は必ずある。今はタイラーを追うための情報が僅かでも欲しい」
無能には無能なりの使い方がある。
戦場では笛吹にも弾除や、鉄砲弾など何かしらの活用法方がある。
「ロック、自分はどうしたらいい?」
ボリスがその大きな体を縮ませながら尋ねる。
警察にとってボリスは招きたくない客である。バラライカの右腕という肩書きが、彼を多くの人々から警戒させていた。
「ボリスさんは……」
ロックが口を開こうとするが、それを助手席に座るレヴィが遮る。
「あんたはホテルモスクワの近くで降ろす。で、姉御に狐の尻尾が掴めなかったことを報告すればいい」
「そうだ。いくらバラライカさんが最も信頼を置くボリスさんであったとしてもいつも通りの時刻に報告もなければ違和感を覚える。だから、いつもホテルモスクワと合流する時間に自然に混ざり込み、いつも通りの報告をしてください」
ボリスは納得したようで、ただ頭を縦に振った。
「俺についてはベニーと一緒に来たレヴィに無理矢理飲みに拐われたとでも報告してください」
ロックが軽く笑みを浮かべながら言う。
これならばバラライカも納得するであろう。
そして、一行をのせた車はホテルモスクワの集合場所であるメインストリートの一角の空き家の近くへと向かった。
「ここらでよろしいですかな?軍曹殿」
ゆっくりと車が停まる。ホテルモスクワの集合場所から歩いていくことができる場所、人目に着かない暗い路地裏。
「あぁ、問題ない。助かった」
相も変わらず、無愛想で無口、無表情な男である。
そう思いながらロックは息抜きがてらタバコに火を点けようとした。
「さぁ、情報集めに行こうか」
そう言おうとした。
しかし、その口は開くことがなかった。
「ハーイ、禄郎。……あら、今日はレベッカも一緒なの?」
今一番、会いたくなかった。
ロックは心の中で今目の前にいるブロンドの髪をし、顔面に大きな傷を持ち、鋭く輝く青い瞳の女がロックの考える最悪の相手ではないことを祈った。
「どうしたのかしら?そんなに驚いて……。もしかしてネズミを逃がす算段でもしていたのかしら?」
ロックは最悪の相手が最悪のタイミングで最悪な感情を持ち合わせていることへの怒りを天にぶつけた。
「どうして、こうなっちまったんだ」
文の量としては2、3話分をまとめた方がいいんでしょうかね?