ショッキングピンクのスポーツカーは静まり返った悪漢の町を騒音を上げながら警察署へと向かっていた。
ボリスを降ろし、残されたロック、レヴィ、ベニーの三人はこれからについて騒々しく相談していた。
「ロック、さすがにそろそろヤバい気がするんだが?」
とベニーが尋ねれば、
「来ちまったのはしょうがねぇだろ、腹括りやがれ」
とレヴィが噛みつく。
同じようなやり取りを何回と繰り返している。ロックはタバコをくわえながら自分の膝を見つめていた。
「何辛気臭いことしてんだ。あたしらがちびっ子ジャーナリスト取っ捕まえて、こめかみにカトラスを当ててお話しすれば全部終わるんだよ」
助手席に座るレヴィは声を荒げ、ダッシュボードに足を載せた。
ロックは注意しようと助手席のシートに左手を掛けたが
「レヴィ、今からロアナプラ周辺では比較的まともな連中の巣に行くんだから、マナーは心掛けるべきだと僕とロックは思ってるよ」
ベニーの忠告を素直にレヴィが聞き足を下ろすのを見てシートにかけた手を離した。
「レヴィ」
ロックが呟く。
両手で両膝を握り、前腕に筋を立てて、小さくも力強い声で呟いた。
「ここからは今まで以上にオフザケはなしだ。彼女はどこにいるのか、何を狙っているのか一切わからない。常にスコープが俺たちの眉間を見ていると思ってくれ」
その一言で車内の空気が変わった。
レヴィはカトラスを取りだしグリップの具合を確かめ、見てわかる範囲で調子を見始めた。
ベニーはハンドルを強く握りしめ、皮膚とハンドルの皮が音を立てた。
静かに時が流れ、一行は警察署に辿り着いていた。
車を降り、署内へと入っていく。警察の厄介になることが多いレベッカ・リーが自ら警察署に来るとあっては署内はちょっとした騒動になっていた。
窓口へと向かいレヴィが啖呵を切る。
「御宅のボスはどこだ?」
足をデスクに乗せ、受付嬢に顔を寄せる。
詰め寄るレヴィを突然の力が後へと引っ張る。
「レヴィ、ここはギャングでもなければラグーン商会のオフィスでもないんだ。クールになれ」
ロックはラグーン号に初めて乗せられたその日のことを懐かしみながらレヴィを羽交い締めにした。
「OK、今日のボスはテメェだ。私はクールだ。少なくともチックの店の麻婆豆腐よりかはクールだ」
「それはクールと言わない。あそこの麻婆豆腐で俺は三度は口の中を火傷している」
落ち着いて辺りを見回すと警官が数名、三人を取り囲んでいた 。
「こんなことになるんなら事務所で静かにビールを飲んでいれば良かった」
ベニーが両手を挙げながら天へと呟いた。
廻の様子に気がついたロックはレヴィをゆっくりと離し、ベニーに従って両手を挙げた。
「えっと……」
言葉に詰まる。
喉から声がでない。
「ワトサップ署長に用件があって伺ったのですが。ワトサップ氏はこちらにおりますか?」
四方を警官に囲まれているなか、背後から見知った声が聞こえた。
「ん?バラライカの運び屋のところのガキじゃねぇか。何してんだ?」
ロックはすぐさま振り向きエントランスの方を向く。
濃い褐色の肌に丸渕のサングラス。ここまで聞けばダッチのようであるが、ダッチよりはタッパはなく腹も出ている。ワトサップ署長であった。
パターの技術にパター・ウェッジってのがあるらしいですね