」つ、俺は神だ
一つ、俺以外に神はいない
一つ、俺の名前を呼ぶときは覚悟しろ
一つ、パーティは土曜日にすること
一つ、親父さんは大切にしろ
一つ、殺すときはバレないように
一つ、バレるような嘘はつくな
一つ、人のものは盗むならば持ち主も殺せばバレない
一つ、レイプはするな
一つ、浮気はするな
「何のことかわかるか?ロック」
事務所の壁に貼り付けられた項目を見ながらダッチはロックに尋ねた。
「モーセスの十戒だろ?えらくロアナプラ風にアレンジされてるけどね」
ダッチは頭を掻きながら再び尋ねた。
「そうじゃねぇよロック。どうしてこんなもんがうちの事務所に貼られてるのかって話だ」
「いいんじゃないかな?正宗派以外なら基本的に僕は賛成だよ」
事務所の奥からノートパソコンと資料を持ってきたベニーが横槍を入れる。
「ベニー、俺が言いたいのはそういうことでもねぇんだよ。誰が何のためにこんなものを貼っているのかって言うことだ。ベニーボーイ、お前さんの見解を聞きたい」
ダッチはそういうとソファーに深々と腰かけた。
「5W1Hに則って答えるなら、タイラーが昨日、ダッチが帰った後に『集団生活を行う上では規則が必要です』と言いながら皆の目につくであろうコルクボードに貼り付けていたよ」
「ロック、タイラーは?」
「昨日の夜僕の部屋に来て、晩酌してたよ。そろそろ起きて来る頃だと思うけど」
ロックがそう言い終わるが早いか、事務所の扉がゆっくりと開いた。
「おはようございます……」
タイラーこと照由御伽が現れた。
「タイラー、この貼り紙はなんだ?うちは慈善団体でも偽善団体でもねぇんだが?」
ダッチが御伽の顔に件の貼り紙を押し付けた。
「タイラーは止めてください。私は御伽って言う可愛らしくてファンタジー溢れる素晴らしい名前があるんです」
御伽も負けじとダッチの方へ顔を寄せた。
「諦めなよタイラー、人にあだ名をつけるのはその変人の数少ない趣味なんだ。それに今日は十戒にある通り安息日の前日だ、冷えたビールでも飲みながら頭を冷やしな」
ベニーが冷蔵庫から缶ビールを3つ取りだし二人に一本ずつ渡した。そしてビールを飲みながら続けた
「tinyとtellerとwriterがちゃんと掛かってて彼にしてはなかなかいいできだと思うよ」
それでもにらみ合いを止めない二人にを見限りロックが間に割って入った。
「もうこの話題は終わりだ。タイラーはちゃんと貼り紙を剥がしてくれ、ここに迷える子羊はいないからね」
ロックは言い終わると冷蔵庫までビールを取りに行った。
「OK、tinywriter。クールにいこうか。物事を進める上で大切なのはクールなこととそれが面白いかだ。わかるだろ?」
ダッチはタイラーの顔に押し付けていた貼り紙を離し、破り捨てた。
「わかってますよ。私も一切話を通さずに貼り出したのは悪いと思っていますし……」
御伽が僅に頭を下げる。
その様子を見てベニーとロックは満足そうに口角を上げた。
「ダッチ、今日はもう事務仕事も終わったんだし飲みに行こうよ」
「そうだな」
ベニーがダッチの背中を押しながら事務所を出ていく。
部屋にはロックとタイラーが残された。窓から沈みかけの太陽橙の光が差し込み、二人の影を長く伸ばしている。
「タイラー、君も行こうか」
「ロックさんもタイラーって呼ぶんですか?」
御伽がロックの顔を覗き込む。下から覗き込む彼女はジャーナリストとして掴み所のない様子とはことなり、儚く弱々しく美しかった。
ショートボブの黒髪が風に揺れる。黒髪が夕日に当たり黒く妖しく美しく輝いている。
ロックは大きく息を飲み込み、喉をならした。
「残念ながらダッチが決めたことだからね。彼のつけたあだ名で呼ぶことに決まってるんだよ」
「わかりました。諦めることにします」
タイラーは頬を膨らませ、そっぽを向いた。
「さ…さぁ、タイラーも飲みに行こうか」
「私も飲みたいのでもちろん行きますよ」
「ほら、ベニー達がしたに車を出して待ってるだろうから急ごうか」
「はいっ」
二人は事務所の扉を閉め、階段を駈け降りていった。
~~翌日~~
「何でテメェはまた同じもんを同じところにはっつけてんだよ」
ダッチが静かにタイラーに問い詰める。大柄のダッチと小柄なタイラーとではまるでダッチがタイラーに覆い被さるかのように見える。
「モーセスさんも一回目は破り捨てたけど二回目には受け入れたのでもしかしたら二回目なら許可してもらえるかと思いまして……」
オマケ「イエローフラッグにて」(ベニーとロック)
「はぁ……」
「どうしたんだいロック?えらく疲れてるみたいだけど」
「あの後二人でタイラーと話してたんだ」
「何か楽しそうなお話ができていたみたいで何よりだよ」
「からかわないでくれ。本当に疲れた」
「何があったんだい?」
「……いや、何でもないよ。恐らくあれは見間違いだ」
「それならいいんだけど……。何より三人目の常識人の加入を喜ぼうじゃないか」
「そうだな」
「「乾杯」」