GOD EATER〜Dual sniper〜 作:CiAn.
「ねえ、クノー」
「ん、何?」
狩り終わった小型アラガミを一瞥してから、私はブラッドの副隊長に声をかけた。少し気になっていたことがあったから。
「あなたとこうして任務をこなしていくことでブラッド・バレットも使えるようになって、感応種とも渡り合えるようになれて感謝してるわ。でも、あなたは何を思ってここまでするの?」
いくら同じゴッドイーターだからとはいえここまで1人の人間に対して最善を尽くそうとするなど中々ないことだ。まして顔も知らない他人なら。
「大した理由じゃないの。私にはフェンリルに恩があるだけ」
「恩……?」
「ええ。と言っても子供の頃にアラガミに襲われていたところを助けてもらっただけだから気にすることないっていつも言われるんだけどね。……でも私はそうやって誰かを救えるなら自分にできることは一つ残さずやりきりたいんだ」
そこからゴッドイーターになろうと言うのだから大した度胸だ。アラガミに襲われた者は大抵心にトラウマを抱えることが多い。そこからまたアラガミと対峙しようとすることがどれだけ勇気がいることか。
「食えない人ね、あなたも」
「これでもブラッドの副隊長だからね〜。普通じゃやってけないって」
そんなおどけた風な様子ではあったが、彼女のゴッドイーターとしての覚悟は先の戦闘で容易に計り知れた。自らの命を危険に晒し人類の守護者として戦う者の自尊心と責任感が感じられた。
(だからこそ、『喚起』なんて力を宿すことができたのかしら)
「ねえジーナ、早く行きましょ。討伐対象はまだ残ってるし」
「そうね。残りはたしか……ウロヴォロスね」
あまり選り好みは良くないが私はウロヴォロスはあまり好きではない。強いからとか大きいからとかではなくて、あのアラガミからは自分がやられるという危機感が全くない。そのため他のアラガミ間にある交流がないのだ。スコープ越しに見てもそこにあるのは弱者を蹂躙せんとする巨大な力のみ。
ゆえに私はウロヴォロスに対してだけは撃ちたいという気持ちが普段より小さい。
(仕事には変わりないし、文句も言ってられないか……)
『アラガミだー!』
『何であんなデカいやつがこんな所に⁉︎』
『くそっ!何だってんただよ!』
人々の悲鳴が響き渡る中、黒い影が舞い降りた。あばらから生えた6本の腕は鎌のように鋭利で、薄気味悪く蠢いていた。
「……ウロヴォロス」
影は目の前で暴れるアラガミを一瞥すると憎々しげに呟いた。
天輪をかざしウロヴォロスに向ける。中央に光が集まったかと思うとそれは直線のように放たれた。光線がウロヴォロスの複眼を穿ちその巨体の進攻を妨げた。
『……神だ!あの噂は本当だったんだ!』
『俺たちの所にも来てくれたのか!これで安心だ……!』
『今だ!そいつを早くやっちまってくれ!!』
そんな非戦闘員の野次が癇に障ったのか、ウロヴォロスは地を揺るがすような咆哮をあげた。草木が悲鳴にも似た軋みを立て、地に降り立った破壊者の怒りを人々に伝えた。
しかしそれに臆する事なく黒い異形は素早い動きでウロヴォロスに接近した。その動きはステップを踏んでいるかのごとく俊敏だった。
黒い6本の腕を左右から交互に薙ぎウロヴォロスの触手を斬り裂いていく。あまりに手慣れた、相手を知り尽くしたような動きはアラガミという単細胞生物の群衆に知性を感じさせる。それが純粋なアラガミであれば。
「……」
黒いアラガミ、山吹蒼葉は無造作に振るわれるウロヴォロスの触手を跳躍してかわし、真上から光線を浴びせていく。負けじと複眼から放たれる光線さえも蒼葉には当たらなかった。当たったところで彼の神機を持たぬアラガミには倒す事は出来ないのだが。
「……グァァァァ」
低い唸り声を上げながら蒼葉の腹部が避けるように開き、化け物の口のようなものが吐出された。それはウロヴォロスに自らの鋭利な牙を立て血肉を食いちぎっていく。堪らず暴れ始めたその巨体を意に介せず食らい続け、絶命させた。一方的な攻防に見ているものは先ほどの歓喜など忘れただただ畏怖していた。
そんな彼らを責めるわけでもなく、蒼葉はそこから離れ始めた。ゆったりとした動きだった。
「探したわ、蒼葉」
その足を止めたのはただその一言。だがしかし蒼葉が足を止めるには十分な人物であった。
ジーナ・ディキンソン。彼が憧れ、敬い、慕ったゴッドイーターが今道を塞ぐように目の前に立っている。
「……」
彼は理解した。自分がこの後どうなるかを悟り動きを止めた。戦意は微塵も見せなかった。
「死に急ぐ事ないのに……。大丈夫よ、私たちはあなたに危害を加える気はないわ」
ジーナはそう言うと神機の銃口を下げて蒼葉に近付いた。ずっとアラガミと『交流』してきた彼女にとって今の状況に恐怖心を抱く要素など存在しなかった。銀色の髪が風に吹かれては湿っぽいこの地にわずかに注ぐ光を受けて輝いた。
「まだ理性が残ってるのでしょうね。……流石、私が見込んだ新人だわ」
「……」
「今はまだあなたを助ける方法が見つかってないの。だから待っててくれるかしら、どれくらいかかるか分からないけど」
蒼葉が小さく頷いたのを確認してからジーナは去っていった。アラガミに追われていた人たちはいつの間にかどこかに避難していたらしく、この場には蒼葉しかいなかった。途端に彼は寂寥感に囚われた。
彼が何を思っているのかそれは誰にも分からなかったが、それはアラガミだからなのか複雑な人間感情ゆえの不透明性なのか…。
『随分悩んでいますね』
「……」
突然響いた声に蒼葉はゆっくりと振り返った。その胸に紅蓮の杭が突き刺さり鮮花が煌めき花弁が開く如く鮮やかな血が大量に流れ出た。
蒼葉は膝から崩れ落ち地に伏した。そしてアラガミであったはずの肉体が徐々に人へと戻っていく。
『……あなたも特異点に選ばれた人間だったのですね。ジュリウスに手を出すのはさすがに躊躇いもありましたから』
そんな彼女の声も蒼葉にはどこか遠く聞こえた。知らない女性が血を流す自分を見下ろして話しかける状況に彼もまた困惑していた。
『ですが、あなた達よりも適した素材が見つかった今では関係のないことですね。ああ、あなたの中で構成されたコアはたった今この子に食べさせましたから無駄ではありませんよ』
「あんた……、誰だ?」
やっと声を出せるようになった蒼葉はわずかに残った体力で上半身を起こして声の主を見上げた。そして見てしまった。
「嘘、だろ……」
「何せ異界から来た神だそうで。それなら新世界を創生する存在にピッタリだと思いませんか?」
覚醒した彼の意識は初めてその声をはっきりと聞いた。落ち着いた態度の中に狂気を感じるが、蒼葉にとって今はそんなことは思考の外にあった。
「憩、どうして……!」
「素敵な姿だと思いませんか?骸のままの体に生命の息吹を吹き込んであげたのですから、感謝してくださいね」
真紅の体には無数の棘と、対となるように左右に浮く杭。片方は蒼葉を貫いたはずだが元からの色が血よりも濃くどちらが血に濡れたのか知ることはできない。
怒り。蒼葉の感情が一色に染まる。守りたいと思っていた女性を目の前で傀儡のように扱われていると理解したからだ。でなければ彼女が蒼葉に危害を加えることなどない。それが彼の怒りの理由だった。
だからと言って現状を打破することもできないことを自分も、おそらく目の前の女性も知っていた。
「……それでは、ごきげんよう」
上品な微笑を残し、女性と憩だったものはその場を後にする。再び訪れた寂寥の念は人へと戻った蒼葉にはより大きく感じられた。
「畜生……!」
無念と同時に喉から血がせり上がり吐き出された。傷口を濡らすように降り出す雨は珍しく赤くなく、しかし彼の鮮血を薄めるように強く降り続けた。
スマホだと3000文字程度でも疲れますね。次回も予定通りなら2週間後に、遅くても1ヶ月以上は空けないようにします。それではまた!