GOD EATER〜Dual sniper〜   作:CiAn.

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喝采

「ジーナ、そっちは見つかった?」

『いいえ、残念ながら対象になっている猛威を振るっているウロヴォロスは見つからないわ』

別行動をとっているジーナに無線で聞いてみるが向こうもまだ見つかってないみたいだ。こんな時にシエルがいれば簡単に敵の位置が分かるんだけど、あいにく別任務に出ている。

(副隊長だからこうやってブラッドのみんなと違う任務に行くのも難しいし、他の子を連れてくるのなんて出来っこないから仕方ないか……)

無駄なことは考えながらもちゃんと注意を払うのは忘れない。いつアラガミに襲われるか分からないから。

『クノーさん!ジーナさん!未確認のアラガミの生命反応があります!すでに現地点から離れつつあります、急いで追ってください!』

ヒバリさんのオペレーションでアラガミの座標地点が伝えられる。距離はあまりないので急げば間に合う。

「ジーナ、どのくらいで着く?」

『今すぐにでも行けるわ。偶然近くにいたから』

「そう、私も急いで向かうから出来るだけ注意をひいておいて」

『ええ、任せて』

返事を聞いてから通信を切り全力で走る。雨が降ってきて服が肌に張り付いて気持ちが悪い。水分を吸収した服が重くて鬱陶しい。それでも走らなければならない。

ほどなくして合流ポイントであるアラガミがいる地点に到着する。長物1つでアラガミと戦うジーナの姿がそこにあった。

そして敵対するのは見たことのない真紅のアラガミ。その姿を例えるなら薔薇だろうか?

(今はそんなこと考えてる暇ないけどっ!)

あの時、感応種のマルドゥークとの戦いで強く念じた《思い》。あの逆境を覆すために用いたのはたったそれだけ。だから今回もそれを思う。

「ハァッ!!」

鎌状の武器ヴァリアントサイズの刃の周囲にいくつもの実体を持った斬撃が現れる。渾身の力で放ったブラッド・アーツがアラガミを捉える。

しかし無慈悲にも私の攻撃は通らなかった。硬い。まるで岩でも殴ったように手が痺れる。

「意外と頑丈ね……」

「ふふっ、怖いですね……。私に当たるかと思いました」

その声を聞いた瞬間、私は動きを止めてしまった。本当に僅かな隙ではあったが相手はそれを見逃さない。

鞭のようにしなった荊が私の体に打ち付けられる。流血と痣ができるほど強く打たれた脚は力が入らず震え始めた。

「ラケル博士……、なんであなたが?」

「……決まっているではありませんか。この星の意思に従う、それが私がここにいる理由です」

何を言っているのか微塵も分からない。星の意思?一体どういうことだ。

「……赤い雨。黒蛛病の原因としか発表されていませんが他にも意味があります。それが特異点の作成なんですよ」

「特異点……」

訝しげな表情でジーナが呟くとラケル博士は快活に話を続けた。

「極東支部の方達なら縁があるでしょう。特異点が何を引き起こすのかも、理解していますよね?」

「ええ。なら俄然ここで仕留めなきゃいけなくなったわね……」

ジーナの射撃が勢いを増すが1つとしてそのアラガミに傷をつけることはできない。まさに堅牢。だが、打つ手がないやけじゃない。

〈血塗れのツァンナ〉。自分の生力と引き換えに高い威力の斬撃を放つことができるブラッド・アーツ。残念ながら今はできないが。

ブラッド・アーツは1度の戦闘で一種類しか使えない。ブラッドの能力である血の力を戦闘用にシフトしたのがブラッド・アーツなのだから、使うのにもかなり体力を磨耗するし、練度を上げるのも苦労する。そういった条件を緩和するための措置としてブラッド・アーツは基本的に一種類までと決められている。偏食因子で体を強化されているといっても限界はあるのでこれは当然の措置と言えた。

(でも、今回はそうも言ってられないよね……!)

気合を入れ直すために身体中の空気を外にだす。心臓の動きが次第に緩やかになりやがて止まる。

そこからもう一度酸素を取り込み身体中に循環させる。その一連の流れが終わる頃には私の精神は研ぎ澄まされていて、いつも以上に自分と向かい合えた。

「いける」

神機を構えて相手を見やる。余裕の表れか何も警戒していない相手に向けて私は全身全霊の一撃を放つ。やはり2つのブラッド・アーツを使うのは無理があったのか、土を踏みしめる足や神機を支える腕が悲鳴を上げていた。それでも決して手は離さない。起死回生のこのチャンスをやすやす逃せるほど私も余裕はないのだから、今決めなければ勝機はない。

「くたばれぇっ!」

アラガミの荊が3本宙に舞った。その切り口からその身より赤い血が吹き出る。ここしかない、アドレナリンが作用しているのか痛みを忘れた脚がいつも通り動く。地を蹴るたびに水が飛び散り泥がふくらはぎに付くが気にしない。

(この一撃で倒す!)

アラガミの頭上へと跳躍して神機を上段に構える。重力も位置エネルギーもゴッドイーターの全力も使って振り下ろした。

その切っ先がアラガミに触れる前に真紅の針が両側から私を捉えていた。だが私は逃げない。全人類を救えるならゴッドイーターとして本望だ。あの時救ってくれたゴッドイーターへの恩返しになればそれでいい。

「あまり無茶しないでくれるか」

そんな声とともに右から来ていた針の軌道が逸れる。

「そうね。1人で突っ込むのはよくないわ」

続いて銃声が聞こえて左の針が弾かれる。邪魔するものはもうない。なら私は思いっきりやれることをやるだけだ!

「アアアアアアアアアアッ!!」

左肩から右脇腹までに深く斬りつける。返り血が私の服を赤く染め上げた。

1度後ろに下がって体勢を立て直す。辺りを見回すとジーナと今回の捜索対象である山吹蒼葉がいた。

 

 

 

 

貫かれた胴を冷たい空気が通り抜ける。死の淵にいる実感はなかなか耐え難い。

苦痛。ただその一言で全て説明できる。その理由はきっと外傷だけのせいではない。

(憩……。お前は本当に世界を破壊する存在に成り果てたのか?俺もその対象でしかないのか……?)

俺とあいつは一心同体で俺はあいつの生のために生きて、あいつはそのために俺を信じた。ほどなくして死別して俺は黒蛛病になりアラガミへと変わり果てて、でもそれはこの星のリセットを施す特異点として選ばれたことでもあった。だがそれを捻じ曲げてあのイカれた女が神であった憩を使って特異点を作った……

(ああ……、面倒だ)

意識が朦朧とする中で立ち上がる。視界は未だ不鮮明で今にも転びそうだ。そんな状態で俺は呟いた。

「……何が怠惰な人間のいない世界だ。クソったれが、面倒だと思ったから憩なんかを特異点として受け入れようとしてんだろ?」

目一杯空気を吸って空を見上げる。

「ふざけてんのかこの世界は!なんなら特異点にでもなってやる!死人使うようなアホな真似するくらいなら俺をまた化け物にでもしてみろッ!!」

一息で言い切ったことで気持ちが清々した。まだ脚に力が入らないがさっきよりはマシな気がした。

(人間の体も頑丈なもんだな……)

そう思いながら先ほど毒づいた空を見上げた。するとほんの少し赤く染まった雲が見えた。

「なんだよ、捨てたもんじゃないな。神ってやつも」

落ちてきた数滴の雨粒を俺は掴み取った。

 

 

 

「同業者に死なれるのはどうも慣れてなくてね。あんたもゴッドイーターだってならアラガミを倒してナンボだろ?」

「ということは山吹さんもまだ現役のゴッドイーターってことでいいんですか?」

「辞める気なんてない。それに別部隊の人間の間に上下関係なんてないだろ。猫被ってないで自然体でいい」

「なんだ、バレてたんだ」

危なっかしいことをしてくれたやつに対しての皮肉のつもりだったが懲りてないようだ。

そして俺の後ろに視線を送る。

「おかえり、蒼葉」

「変な気分ですね。さっきも会ったのに久しぶりのように感じますよ」

「本当ね」

クスリ、と微笑んでからジーナさんは神機を構えた。続いて女性、腕輪の色からおそらく以前エリナがお世話になったブラッドの隊員だろうか?

「その腕輪の色、普通のゴッドイーターじゃないんだろ?さっきも使ってた必殺技みたいなのないのか?」

「そんなに安売りしてないわ。それにさっき無茶して疲れてるし……」

どうりで顔色が悪いわけだ。女性なんだからもう少し体には気を配った方がいいだろうに。

「でも、あるにはあるわ。だけどそれはあなたに秘められた力がないと無理。神機もないあなたに効果があるとは思えないし今は無意味だけど」

「そいつはいい。なら、その力を使って欲しい。頼む」

秘められた力かどうかは分からないが、俺にも隠し玉がある。

「じゃあ、強く望んで。本当なら私と一緒に戦う中で《喚起》の力で呼び覚すことができるけど、今は時間がないから。だから誰よりも強く望んで、あなたが描く結末を」

目を閉じて自分に語りかける。俺が望むこの物語の終わり、そんなもの簡単だ。

「みんな元気に元どおり。子どもみてえな願いだが俺はそれを望む!」

途端に右腕が熱を放つように熱くなる。火の粉を振り払うように腕を振ると腕部だけアラガミ化していた。

「あら、素敵ね」

「ジーナがああ言ってるし、それで良いんじゃない?じゃあ頑張ってね」

丸投げか。いや、ここまでお膳立てしてもらったんだ。むしろ感謝するべきだろう。

「……ああ、こんなに血を流してしまって。可哀想に」

「アアッ、アァァァ……」

憩の傷口から禍々しい黒い波が流れ、見知らぬ女性を呑み込んだ。そんな時でさえ笑顔だったのだからやはり彼女はイカれている。

「ラケル博士……」

ラケル。あの女性はそんな名前だったのか。

「アァ……、アア!」

「苦しかっただろうな。今、楽にしてやるよ憩」

「援護するわ、蒼葉」

神機を使っていた頃を思い出して走る。自分に向かってくる荊を手で払いのける。2撃目をジーナさんが撃ち抜き、千切れた荊が落ちてくる。それをステップでかわして距離を詰める。

まるで初陣の時と変わらない愚直な肉薄。速さを最大限に活かしたい俺のスタンス。それは俺がこの世界に来て初めて決めた自分の生き抜き方だ。今更曲げられない。

「憩、悪いが役割交代だ。お前はいつも通り怠けてろ。汗水流してあくせく働くのは俺の仕事だ!」

一思いに、躊躇う前に己の腕で深く刻まれたその傷の上から憩の体を貫いた。断末魔の叫びでも上がるかと思ったがそうでもないようだ。

「蒼葉!」

ジーナさんの声で視線を上げる。その瞬間、憩の腕が俺の頭を両手で掴んだ。頭部が潰される最悪のビジョンが浮かぶ。

『ばーか、そんな面倒なことするわけないだろ。私にそんな握力はない』

「い、こい……?」

『さっきから自分でそう言ってたくせに、察しが悪いなー』

その気怠げな喋り方は間違いない、憩だ。嬉しくて涙が出た。死に際を看取れなかった無念がやっと晴れる。

『なんだ?泣いてるのか、バカだなー。涙を流したら疲れるだろう』

「うるさい、嬉しいんだから仕方ねぇだろ」

『気持ち悪いくらい素直だなー』

憩はそう言うと俺を抱きしめた。体が触れ合ったところが元の美しい姿に戻っていく。もう一度こうして会えたのに加え、粋な演出をしてくれるものだ。

『お前は私には荷が重いと思っているだろうが、特異点くらいやってやるさ』

「何言ってるんだよ!世界を破壊するんだぞ、そんな汚れ仕事なんかさせられるか!」

『誰がそんな面倒なことするか。私はな、特異点になることで赤い雨がやんで、世界中の人間から感謝される裏でぐぅたら過ごすだけだー』

そう言うと憩は俺から離れて最後に額を小突いた。

『だからお前は前みたいにこっちで働け。バカみたいに忙しくなー』

後ろにはジーナさんが、極東にはエリナやアリサさんもいる。俺は知らぬ間に帰る場所を作っていたみたいだ。

『だからこれは貰っていくぞ』

いつの間にか俺の腕が戻っていた。あの抱擁の時にコアを抜き取っていたのだろう。

『じゃあな、私はここでお前の行く末を見守ることにする』

「勝手なやつだよ、本当にな……」

別れの言葉は言えなかった。それを感じ取ったのか憩は俺から離れて、近くで1番高い廃ビルに飛び移った。そこは俺たちの始まりの場所、この世界に降り立った場所でジーナさんに出会った場所で……。

その廃ビルは綺麗な白い光に包まれて高くそびえる大樹に変わった。もう錆の臭いもしない。

「終わったわね……」

「……そうですね」

ジーナさんの落ち着いた声が心地よかった。俺の心はこんなに滅茶苦茶だから。

「ジーナさん……、俺駄目でした。また自分の思った通りいきませんでした……」

「当たり前じゃない。だってあなたは世界の運命と対峙したんですもの。ちょっとくらい理想と違ったって仕方ないわ」

でも、それじゃあ憩は戻ってこれない。1番叶えたかった願いが叶っていない。

「でもね、蒼葉。人同士なら変えられる運命もあるわ」

「それって--」

何ですか?と聞く前にジーナさんは俺の手に自分の手を重ねた。

「私はこの結末の中に蒼葉が無事でいてくれた、それだけでも大きな価値があると思うのだけれど、違うかしら?」

「分かりませんよ、自分のことなんて」

「そう。私は特別なことだって思ってるわ。大切な人にこうしてまた会えること」

大切な人、その言葉が指すのは俺の場合誰だろうか?

きっと多すぎたのだ。誰か1人でも欠けるのが嫌で、それは人として当たり前で、運命の前では強欲だった。

「ジーナさん」

「なに?」

俺はしっかりと相手に聞こえるように頼んだ。

「また、俺に教えてくれませんか?ゴッドイーターとしての戦い方を。今度は運命に抗いきってみせたいんです」

「ええ、いいわよ」

空が晴れていき太陽が俺たちを照らした。新しい人生の船出に相応しい空だ。

 

 

 

 

「ショートブレードは流れが命だ。自分の動きの中に回避を含むことを忘れるな。攻撃だけで押し切ろうとするなよ!」

「はい!」

「休日くらいゆっくりすればいいのに。忙しい人ね」

後輩に技術指南をしていると訓練室にジーナが入ってきた。手にはスポーツドリンクを持っている。俺はそれを汗を流しながら話を聞いている後輩に投げ渡した。

「俺も今じゃ先輩になるし、これくらいはしてやらないと不安で休めないさ」

「本当によく働くわね」

「約束だからな、あいつとの」

「そうね……」

あれから2年、早いものだ。まだまだ現役でゴッドイーターをやっている。その傍らで新人教育も受け持っていた。

「なぁ、ジーナ」

「どうしたの?悪いけど飲み物はさっきので最後よ」

「そうだな。喉が渇いてきたし、何か買いに行こうか」

そう言って俺が立ち上がると後輩は頭を下げて礼を言った。なかなか筋が良くて伸び代があり教えがいのあるやつだ。

廊下に出て自販機に向かう途中で俺は足を止めた。殺風景な廊下の途中、こんなところで立ち止まる理由なんて普通はないだろう。

「ジーナ。好きだ」

ロマンチックな言葉とかは思い浮かばない。でもこの一言さえ伝えることができればそれでいい。

返事がなかなか返ってこずに俺の心臓が忙しなく脈打っている。

「ふふっ」

「な、なんだよ……」

「知ってたわ。ずっと前から」

一気に緊張感が抜けた。本当に昔からこの人には敵わない。

「だから、好きの次を教えてくれるかしら?」

もう一度勇気を出そう。それこそ人生最後くらいに飛びっきり大きな勇気を。

「結婚しないか?こんな仕事の虫みたいな人間だが、俺で良ければ」

「気が早いけど、そういうの嫌いじゃないわ」

これも誰かが決めた運命なのだろうか?それだとしたら及第点だ。これくらいの恥なら甘んじて受け入れよう。

 




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